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小学校に入学した直後から学校への行き渋りがあり、徐々に登校日数が少なくなっていったエリさん。昨年春に3年生になってからは「学校が楽しい」と言うようになり、ほとんど休まずに通うようになりました。

エリさんの保護者であり、スクールソーシャルワーカーでもある小谷綾子さんは、担任教員の伊東裕子さん(仮名)がエリさんの個性を理解して関わってくれたおかげだと話します。伊東さんが大切にしている学級運営や授業づくりについて、保護者である小谷さんとの対談形式でお届けします。

勉強についていくことが難しく、登校を渋るように

—— 小学校3年生になるまでのエリさんは、どんな様子だったのでしょうか?

小谷:エリは幼稚園に通っていた頃から、なかなか集団生活に馴染めないような子どもでした。小学校に入学してからの先生方もエリのことを気にかけてくれていたのですが、やはり勉強に対する関心は向かなかったようで…。授業中に鉛筆を折ったり、消しゴムを粉々にして帰ってくることもありました。

写真:小谷さん提供

それから段々と「学校に行きたくない」と言う日が増えていったんです。2年生になり勉強の難易度が上がると、さらに授業についていくのが難しくなっていきました。家で勉強させようとしても抵抗する感じで。3年生になる前は、週2回くらい登校するような感じでした。

ただ、エリは家で大人しくしているよりも友達と遊ぶことの方が好きだったので、勉強がネックになって学校に行けなくなってしまうことは、本人にとってもしんどかったと思います。3年生に上がるときには、親としても「もう行けなくてもいいか…」という少し諦めのような気持ちにもなっていました。なので、担任の伊東先生には特にエリの様子をお伝えしていなかったんです。

「勉強よりも、まずは遊びを優先しませんか?」

—— 3年生になってからは、どのような様子でしたか?

小谷:4月末頃にエリを教室まで送ったとき、ちょうど伊東先生とお話しする機会がありました。そこで、「エリちゃんは友達と遊ぶのがとても好きな子だと思います。勉強のことは気になりますが、友達と遊ぶ経験が学習につながっていきます。なので、勉強のことは一旦置いておいて、まずは友達と遊ぶことを中心に学校生活を送らせてもらってもいいですか?」というようなことを言ってくださったんです。

その言葉を聞いて、本当に感謝の気持ちでいっぱいでした。エリにも「遊びに行くような気持ちで学校に行ったらきっと楽しいよ」と言えるようになりました。そんな経緯があり、年度当初から嫌がらずに学校に行くようになりました。

伊東:クラスを受け持つことになったときに、不登校傾向の児童がいることは聞いていたんです。それで、エリちゃんをよく見ていたら、声をかけてくれた子についていって休み時間に楽しそうに遊ぶ様子がありました。「とにかく勉強を頑張らせたい」と仰る保護者の方もおられるのですが、つい小谷さんとお会いしたときに「宿題もしてこなくていいから、とりあえず学校に来ることを優先しませんか?」と言ってしまったんだと思います。それが4月の出会いだったんじゃないですかね。

小谷:そうでしたね。「宿題もしなくていいですよ」と言ってくださったんです。それを聞いたエリも、「宿題しなくていいの?!」と驚いていました(笑)

個に合わせた学習で、徐々に自信をつける

小谷:あるとき、エリがいい点数がついたテストを持って帰ってきたんです。どうやら先生がテスト中に補足説明をしたり、読み上げたりしてくださったようで。そうすると解きやすくなりいい点数がついたようです。それがエリにとってはすごく嬉しかったみたいで、自慢げにテストを見せに来るようになりました。

夏休みに入る前、伊東先生がみんなとは別にエリ用に宿題を作ってくれたんです。エリが簡単にできる内容や少し頑張ったらできそうな内容の宿題を提案してくださいました。そのご配慮にはとても感動しました。これまでにも同じようなことをされてきているのでしょうか?

伊東:そうですね。今までもそのようにしてきているので、そんなに大したことではないんです。宿題の内容が違っても表紙がみんなと同じであれば、提出するときにも困らないと思うので、そこは統一しました。他の児童も、勉強が苦手な子がいることはみんなわかっています。

写真:小谷さん提供。エリさんが解きやすいように宿題の内容を変更している

小谷:実は、3年生に上がる前には特別支援学級に在籍することも検討していました。けれど、本人が嫌だと言って。今では勉強したい気持ちが芽生えて、宿題も自分からするようになりました。以前は「私はバカだから勉強ができないんだ」と言って、家でよく泣いていたんです。伊東先生に出会ったことで、「自分に合った勉強の仕方があるんだ」とわかったみたいです。

困っている子の背景に目を向けるようになった

小谷:伊東先生がエリの居場所をつくってくれたから、学校が楽しいと言い始めたと思うんです。子ども一人ひとりに合った関わりを大切にされるようになったのは、なぜなのでしょうか?

伊東:20年以上前に、ダウン症のBさんを4年生から3年間担任したことがきっかけになったんだと思います。特別支援学級ではなく普通級に在籍すると決まってからは、繰り返し職員会議で話し合いを重ねました。

保護者の方は、勉強ができるようになることよりも、クラスの子たちとともに生きることを望んでおられました。最初の頃はお母さんが送り迎えをしてくれていたのですが、少しずつ手を離していくことを目標にしました。6年生の途中からは友達と一緒に家まで帰る練習までできるようになったんです。

その頃から特別支援教育の勉強会や研修会にも参加するようになりました。特別支援教育に知見のある先生との出会いもあり、徐々に児童を見る目が変わってきたような気がします。以前は気になる子どもがいると、「落ち着かない子」「勉強ができない子」という見方をしてしまうことが多かったのですが、「こだわりが強いのかもしれない」「この環境に苦しさがあるのかもしれない」「口頭よりも紙に書いた方が伝わりやすいかもしれない」と考えるようになりました。

小谷:その子がなぜその行動を取らなければいけなかったのか。その背景にフォーカスを当てるようになったのですね。

教員は、子ども同士をつなぐアプローチを

伊東:それと同時に、子どもたちが持っている力の大きさを実感する場面も多くありました。ダウン症のBさんとは、担任である私が向き合っているのだと思っていました。けれど振り返ってみると、クラスの子どもたちがBさんと向き合っていることが多かったなと。

小谷:子どもたち同士の関わりが大切だったと。

伊東:そうです。担任である私は、子ども同士がうまく関係性を築けるようなサポートをする役割だと思うようになりました。それからは、子ども同士の関わりをよく見るようになりましたね。

例えば、転入してきた子が1人で休み時間に座っていたら、1番最初にその子に声をかけたのは誰なのか、そして、次の日に声をかけたのは誰なのかをしばらく観察しています。声をかけていた子には、後から「最初に声をかけてくれたけど、どうだった?」と話を聞きます。1番しんどいのは転入してきた子自身なので、その子に変わることを求めるのは酷だと思うんです。

ただ、転入生を気にかけることを1人の子どもに押し付けてはいけないと思っています。1人だと周りからの目が気になったり、負担に感じてしまったりすることもあるからです。なので、まずは周りを気にかけてあげられる子が3人いるといいなと思っています。3人いると、そこから5人、6人と増えていくんです。

小谷:子どもが教室の中で浮かないことは、安心してその場にいるためには必要なことですね。伊東先生のような方が近くにいてくれる安心感はきっとあると思います。

伊東:それはわかりませんよ(笑) もっとのびのびと過ごしたい子もいるかもしれません。でも、小学校生活の中でいろんな先生に出会うことも大切だろうなとも思います。

一人ひとりに違った伸び代がある

小谷:以前授業を見せていただいたときに、あまり黒板を書き写す場面がなかったことが印象的でした。子どもたちはそれぞれが自分なりの表現でその日に学んだことをまとめていましたね。何か意図があるのでしょうか?

伊東:どの授業でも「板書を写しなさい」とは言いません。どの子にも個性があって、それぞれが持っている課題や伸ばしていけるところが違うからです。子どもたちに伝えているのは、「今日の授業で面白かったことや分かったこと、次にやってみたいことを自分にも相手にもわかるように書いてね」ということです。

小谷:黒板を書き写すだけでも、しんどさを感じる子もいますよね。エリもそうです。授業中にあまり集中できていないときもあったと思うのですが、伊東先生はその状態を注意せずに見守ってくれる感じがありました。先生のそんな関わりを見て、周りの子もエリの自然な姿をそのまま受け入れてくれたような気がします。

伊東:結局、私が子どもたちと関わるのは1年間や長くても数年です。大人になるまで一緒にいることはないけれど、今目の前にいる子どもたちが社会でどう生きていくかはやはりいつも考えていることです。

1+1の計算ができることよりも、いろんな人とコミュニケーションをとっていくことの方がこの社会で生きていくには大事なんじゃないかなと最近は思うようになりました。もちろん勉強も大切ですけどね。

—— 最後に学級担任をされている先生に向けて、子どもたちとの関わりについてアドバイスをいただけますか?

伊東:大したことは言えないのですが、「正しく知ること」は大切だと思っています。今の学校現場では、発達に遅れや偏りのある子どもの特性について、教職員の中である程度の知識が共有された上で動いている感じはありますが、実際はまだまだ勉強が足りていないと思います。それは、私も含めて。

ご自身が「この方の話を聞いてみたい」と思うような方の研修会や講演会に参加して、話を聞きに行ってほしいですね。やはり自分から行かないと得られない情報や知識はたくさんあると思っています。

MLB(メジャーリーグベースボール)のロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷翔平選手が、2023年12月から2024年3月頃までに日本全国の小学校へ3つのジュニア用野球グローブを寄贈しました。対象となったのは、国公私立の小学校や義務教育学校、特別支援学校。

大谷選手からは、以下のようなメッセージも添えられました。

参考:PR TIMES

それぞれの学校では、大谷選手から届いたグローブがどのように使われているのでしょうか。全国の小学校の教職員に聞きました。

※このアンケートは、WEBアンケートサイト「フキダシ」内にある『みんなに聞きたいこと』に寄せられた投稿から作成されました。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2024年4月12日(金)〜2024年5月20日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :30件
※グローブの寄贈対象となった学校(国公私立の小学校、義務教育学校、特別支援学校)の教職員の回答数は28件でした。

アンケート結果

設問1 大谷選手から届いたグローブの使い方は?

Q1. 大谷翔平選手から届いたグローブの使い方を教えてください。

誰でも自由に使えるようにしている

「お互い譲り合って使いましょう」と掲示し、子どもたちで自由に使えるようにしている。【小学校・教員】

当初は珍しさもあり、クラスの使用権を掛けてイベントを行ったりした。現在は普通に外遊びで使えるようにしている。【小学校・事務職員】

児童玄関に机を出して、置いてあります。誰でも使ってよいことになっています。【小学校・教員】

全校集会で大谷選手のメッセージとグローブを紹介した後、子どもたちに自由に使ってもらっています。授業参観の際には、児童玄関に大谷選手のメッセージとグローブを展示し、お家の方にも手に取って見て頂きました。【小学校・教員】

ルールを設けて使っている

学級ごとに1日交代で回す。職員室で貸し出し簿をつけて、使いたい子どもが借りに来て返却する。【小学校・教員】

職員室にて保管。休み時間に児童が借りにやってきて遊んでいる。野球やキャッチボールして遊んでいる。【特別支援学校・教員】

校長が使い方を子どもに書かせて、そのアイデアを採用した。校長がグローブ来た日に門でハイタッチ→順番にクラスで日替わり使用→休み時間に日替わり使用→職員室保管で休み時間に使いたい人が使う。上記のような流れ【小学校・教頭】

児童に紹介した後、定位置で保管。貸出の要求があった時に、貸し出す。【小学校・教頭】

前任校は、全校児童数が48名の小さな学校だったので、曜日で使用できる学年を決めて、使って貰っていました。「野球やろうぜ」の文も学校だよりで、保護者に紹介しました。【小学校・教頭】

臨時の児童会が開かれ、子どもたちの意見により各学年で使える時間を決めて使うことになりました。【小学校・教員】

始めに校長から全児童に大谷さんの思いと使い方ルールを説明。職員室入ってすぐの棚に置き、休み時間や放課後、使いたい児童が「大谷グローブ貸してください」と職員に言って借りていくシステム。【小学校・職員】

全て子どもに委ねました。子どもたちがルール等を決め、活用しています。【小学校・校長】

保管、もしくは展示されている

展示されています。【特別支援学校・教員】

全校で贈呈式をして以降は、倉庫に入ったままです。誰も触れることがありません。【小学校・教員】

各学級での鑑賞、全校集会でのキャッチボールパフォーマンス。その後、玄関のガラスケース等で展示。【特別支援学校・教員】

職員室隣の会議室にしまわれています。【小学校・教員】

クラブ活動で使っている

一度全校児童が触る機会をつくってからは、クラブ活動のソフトボールクラブで活用している。【小学校・教員】

使い方は検討中

各クラスに回して全校児童が見た。その後は、まだ検討中。【小学校・教員】

使い道については校内でも迷っています。まずは全クラスに回覧しました。その後は授業で活用できるよう、以前からあったグローブと一緒にしまうことになると思います。【小学校・教員】

設問2 あなたが思っていることや考えていることは?

Q2. 上記の内容に関連して、あなたが思っていることや考えていることを教えてください。

寄贈してもらえてよかった

子どもたちが工夫して使っているので問題ない。野球人気が復活し、競技人口も増えたと思う。【小学校・教員】

遊び道具として学校は助かっている。どんどん遊んでくれたらよい。【特別支援学校・教員】

少しオモチャっぽいグローブでしたが、北海道少年野球協会から、このグローブにあったボールが寄贈されて、楽しく遊べるようになり、とても良かったです。【小学校・教頭】

教師が使い方等を決めるのではなく、子どもたちがルール等を自分で決める。だから、子どもたちなりに様々な配慮をして、納得して使っています。【小学校・校長】

子どもへの贈り物なので、子どもが使い方を考えるのは必須だと思う。クラスで考えても担任の話し方によって、想いや受け取り方はバラバラになる。だから、校長が子どもに聞くのはベストなやり方だと思った。【小学校・教頭】

使いたい児童が使いたいタイミングで使い、喜んでいるので、うまく活用できていると思う。【小学校・職員】

今まで野球道具を触ったことがなかった子たちにも触れてもらえる機会になったので、グローブをいただけたことはよかったと思っています。【小学校・教員】

使い方に悩んでいる

決して悪い取り組みではないが、数が少ないため、どういう使い方をすればよいか悩む。【小学校・教員】

大谷選手が望むような野球に触れたことのない子どもには野球の楽しさが届いていないが、大規模校で休み時間に運動場でのキャッチボールは危険が伴うため判断が難しい。【小学校・教員】

趣旨はありがたいですが、特別支援学校での活用は難しいなと思っています。【特別支援学校・教員】

規模が大きければ大きいほど、活用が難しい。大谷選手からもらった!とその時はみんな喜んでいましたが、扱いにくいのが現状です。【小学校・教員】

グローブの数が足りない

数が少ないから遊びに使うには足りない。いっそのこと1つにして、学校で飾る方がこちらの負担が少なくて良かった。【小学校・教員】

学校にグローブの絶対数が少なく、届いたグローブもサイズが違うこともあり、あまり活用されるシーンが少ない。グローブを追加で買う予算がなく、悩むところではある。野球は身近になったかもしれない。【小学校・事務職員】

小学校では35人で1クラスなので、4チーム18個のグローブがなければできない。だけど、1校に3個だけ配られても正直扱いに困る。また、グローブの質も3年持つの?程度のひどいもの。【小学校・教員】

広報活動の一つだと感じている

大きな広報活動に学校が巻き込まれたなと感じています。相手が「大谷選手」ということで、大きな声で不満を挙げる人は少ないかもしれませんが、学校現場を広告活動の場にすることには疑問があります。【小学校・教員】

まとめ

グローブの使い方として最も多かったのは、「休み時間に子どもたちが自由に使えるようにしている」という回答でした。貸し出しの際のルールを設けている学校もあるようです。グローブの使い方については、児童同士で話し合って決めている学校もあり、教育的活動にもつなげている様子が伺えました。また、少数ではありましたが、普段は使わず展示したり保管したりしている学校もあるようです。

大谷選手からのグローブ寄贈を通して、児童が野球に関心を持つきっかけになったことや遊びの幅が広がったことについては肯定的な意見が多く集まりました。一方で、学校規模が大きいほど使い方に悩んだり、特別支援学校では活用が難しいという声も寄せられました。

【このようなアンケートを作成したいと思った方へ】
「フキダシ」は、現役の教職員の方が無料で登録できるWEBアンケートサイトです。このアンケートは、WEBアンケートサイト「フキダシ」内にあるみんなに聞きたいことに寄せられた投稿から作成されました。投稿内容をもとに定期的にアンケートを作成しますので、フキダシでアンケート化してほしい話題がありましたら、ぜひユーザー登録をして投稿してください!


▼ 自由記述の回答一覧は、以下よりダウンロードしてご覧ください。 ▼

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社会科教員と総合支援コーディネーターを兼務するのは、兵庫県立明石西高校の東耕三(ひがし・こうぞう)さん。東さんは、特別支援学校での勤務の他、兵庫県在日外国人教育研究協議会で事務局を勤めてきました。それらの経験を活かし、同校にて、障害や疾患のある生徒のみが対象であった支援体制から、外国につながりのある生徒やさまざまな困難を抱える生徒も支援の対象となるよう、仕組みを大きく変えていきました。具体的にどのように仕組みを変えていったのでしょうか。東さんに聞きました。

※本記事は取材を行った2023年12月時点の内容を記載しています。

※兵庫県在日外国人教育研究協議会:真に国際的に開かれた多文化共生社会になるよう、保育所・幼稚園・学校での在日外国人教育と多文化共生教育を推進するネットワーク作りを目指す団体(参考:同協議会HP

障害や疾患のある生徒に限らず支援する仕組みへ

—— 総合支援コーディネーターとして、東さんはどのようなことをされているのでしょうか?

私が明石西高校に着任した当初の名称は「総合支援コーディネーター」ではなく、「特別支援教育コーディネーター」でした。主な役割は障害や疾患のある生徒のサポートです。もともと教職員間で行う会議も特別支援教育推進委員会だったのですが、総合支援委員会へと改称してからはコーディネーターの名称も変更することになりました。「総合支援コーディネーター」に変わってからは、障害や疾患のある生徒だけではなく、外国につながりのある生徒やさまざまな困難を抱える生徒などのサポートをするようになりました。

—— なぜ特別支援教育推進委員会から総合支援委員会に改称したのでしょう?

私は以前から外国につながりのある生徒をエンパワメントする団体「兵庫県在日外国人教育研究協議会」の事務局をしていて、障害や疾患がある生徒以外にも困難を抱えている生徒がいる現状を見てきました。それもあって、「高校では外国につながりのある生徒や家庭へのサポートはされているのだろうか?」という意識があったんです。

また、教員と生徒の偶然の巡り合わせによって、生徒にとってはサポートされたりされなかったりする現状があるのではないかと感じていました。例えば、あるクラスに外国につながりのある生徒がいた場合、担任や学年の教員に適切な知識や経験があればサポートができますが、それがない場合は双方がしんどい思いをします。専門的な知識や経験が必要な領域だからこそ、学校としてのノウハウを蓄積していって、チームでサポートしていくことが必要だと思いました。

そんな思いがあり、障害や疾患にかかわらず困難を抱える生徒や家庭をサポートできるよう、総合支援委員会へと変えていきました。

まずは、特別支援の認知拡大を目指した

—— どのようにサポート体制を変えていったのでしょうか?

私が特別支援教育コーディネーターの役割を担うことになった5年前は、高校の中で特別支援という考え方さえそこまで認知されていませんでした。それは、私が勤めていた高校に限ったことではないと思います。当時は障害や疾患のある生徒をサポートするための話し合いをする特別支援教育推進委員会が年1回開催されていたのですが、それもあまり機能していない状態でした。なので、まずは特別支援教育推進委員会を年4回に増やしたり、特別支援についてのお便りを年4回発行したりしながら、特別支援の認知を広げることからスタートしました。

それから2年後の年度末に、支援の対象となる生徒の拡大とともに、名称も変える提案をしました。無事に提案は承認され、2022年度から「特別支援教育推進委員会」は「総合支援委員会」に、「特別支援教育コーディネーター」は「総合支援コーディネーター」に改称しました。

—— 東さんの役割としてはどのような変化がありましたか?

それまではあくまで障害や疾患のある生徒にのみアプローチするかたちでしたが、名称が変わってからは、気になる生徒について障害や疾患の有無に関係なく担任の先生から話を聞けるようになりました。外国につながりのある生徒は学校の中ではマイノリティなので、なかなか自分の悩みを共有する場がありません。そのような生徒を在日外国人交流会に引率することもできるようになりました。

入学前から相談できる場所をつくる

—— 生徒だけではなく、保護者のサポートをすることもあるのでしょうか?

はい、ありますね。生徒が入学する前には「高校生活サポートカード」というアンケートを配布しています。これは、大阪府が発行している「高校生活支援カード」をアレンジしたもので、高校生活がスタートするにあたり、不安なことやサポートが必要なことを聞く内容になっています。その中には、国籍や在留資格についての質問も含まれています。

このアンケートの回答と、学年の先生がそれぞれの生徒の出身中学校を訪問して聞いた情報をもとに、要支援の生徒についての情報交換会をします。支援が必要な生徒については、要支援生徒情報ファイルを作って学校の教職員全員が誰でもすぐに見れる状態にしています。さらに、必要があれば個別の教育支援計画を作っていきます。

希望するご家庭とは入学前に面談もしますね。そうすることで、障害や疾患のある生徒だけではなく、外国とつながりのある生徒や登校に対する不安感がある生徒へのサポートもしやすくなると感じています。

※ 高校生活支援カード:高校が生徒の状況や保護者のニーズを把握し、中学校、保護者、生徒の想いを受け止め、高校卒業後の社会的自立に向けて学校生活を送れるよう適切な指導・支援の充実につなげるためのカード(参考:大阪府HP資料

※大阪府のHPより借用

—— 具体的に、どのようなサポートをしていくのでしょうか?

例えば、外国につながりのある生徒の家庭が、経済的に厳しい状況であるとわかったことがあります。一定の条件を満たせば高校の学費が実質無料になる就学支援金を受け取れるのですが、その家庭では受け取っていなかったんです。理由は、生徒の保護者が日本語がわからず、就学支援金を受け取るための書類を出せていなかったからでした。それがわかってから、一緒に書類を作って、無事に就学支援金を受け取れたことがあります。その過程で通訳の方に来てもらうこともしました。

担任の先生を支え、チームで生徒の支援を

—— 先生方との関わりで意識していることはありますか?

担任の先生に動いてもらおうとするのではなく、こちらが動くことは大切にしています。この仕組みをつくった動機の一つは、たまたまサポートが必要な生徒を受け持った担任や学年の先生に負担が偏ってしまうことに対してなんとかしないといけないという気持ちからだったので。「こういう風にしてください」ではなく、「こういうサポートができますが、どうしましょうか?」と、下から支えるような気持ちでやっています。そうすると、自然と先生方も必要なときに相談してくださいます。

—— 今後、力を入れていきたいことはありますか?

さまざまな困難を抱える生徒がいる中で、時には専門的なサポートが必要なこともあります。その中で、学校ができることは本当に限られています。ただ、そうだとしても学校で支援の仕組みをつくっていくことは、障害や疾患、さまざまなバックグラウンドがある人が生きやすい社会につながっていくと思っています。

今は、私自身が特別支援学校での勤務経験があるからできる部分もあるので、次の方に引き継いだとしても、学校がチームとして生徒や保護者を支援できるような仕組みをつくっていきたいと思っています。

昨年、NPO法人School Voice Projectでスタートした「#学校の居心地プロジェクト」。

きっかけとなったのは、WEBアンケートサイト「フキダシ」に集まった、学校の居心地についての教職員の皆さんからの声でした。

「とても居心地がよいと思う」「まあ居心地がよいと思う」という肯定的な選択肢を選んだ人は約半数。職員室など、教職員が仕事をするための空間については、肯定的な回答は約3割。少なくない子どもたちや先生たちが、心地よいとは言えない環境で学んだり働いたりしている実態が見えてきました。(アンケート結果詳細はこちら

「#学校の居心地プロジェクト」での取り組みの一つとなる「学校にYogiboを置いたら」実証実験では、全国から公募した5つの学校のさまざまな場所にYogibo(ヨギボー)を設置し、子どもたちや先生たちの心や学び、関係性にどのような影響を与えるのかを探っていきました。

今回は、「学校にYogiboを置いたら」の実証実験への応募を決めた埼玉県立所沢おおぞら特別支援学校の小山優樹さんと、肢体不自由教育部門を担当する中島達彦さんと川上優希さん、知的障害教育部門を担当する西本さんにお話を伺いました。


まずは、教職員の休憩室にYogiboを設置

「Yogiboを使うことで子どもたちの緊張緩和ができれば、それぞれが表現方法を増やすことにつながるのではないかなと思い応募しました。また、教職員の休憩室にYogiboを置くことで、子どもたちだけではなく教職員のリラックス効果も期待していました」

学校の居心地プロジェクトに参加した動機をそう振り返るのは、知的障害教育部門高等部の3年生を担当する小山さん。

同校は知的障害教育部門と肢体不自由部門が併置されている特別支援学校で、小学部、中学部、高等部で構成されています。特に肢体不自由部門では重度重複障害の児童生徒が在籍しています。

Yogiboを最初に設置したのは、教職員が利用する休憩室。寝転んで仮眠を取ったり、座って軽食を取ったりする先生の姿があったそう。「実は自宅にもYogiboがあって…」と親しみを持つ先生も。一方で、人目につくところでリラックスすることへの抵抗感があることから、休憩室ではYogiboに座ることを躊躇する先生もいました。

「夏休み中は、休憩室に置いてあるYogiboがいつの間にかなくなっていることがありました。どこに行ったんだろう?と思って校内を探してみると、別の教室でYogiboに座ってリラックスしている先生の姿を見かけることもありました(笑)皆さん人前だとなかなか使いづらいのかもしれませんが、プライベート空間に持っていて使う方は結構いましたね」

Yogiboに座り、教員の補助なしで座位を保てるように

2学期からは、生徒の学校生活の中でYogiboが使われました。同校には身体の緊張が強かったり、座位を保てない生徒も多く在籍しています。そのような生徒にとっては、Yogiboの大きさや柔らかさがちょうどよく、自立的な活動にもつながりました。

Yogiboを上手く活用できた生徒について、肢体不自由教育部門高等部の生徒を担当する川上さんはこう振り返ります。

「私の教室には、自分の意思とは関係なく常に手足や顔が動いてしまう不随意運動が起こる生徒がいます。自立して歩いたり、椅子や床に座ったりすることは難しいので、日常生活では基本的に車椅子に座っています。ただ、登校してから下校するまでの間、ずっと車椅子に座ってベルトを閉められた状態でいるのはとてもつらいことです。なので、一定時間は教員が生徒の体を支えながら、歩いたり座ったりして活動をしています」

「この生徒の自立活動に、Yogiboが使えるのではないか」そう思い、壁に立てかけるようにして置いて、その上に生徒に座ってもらったそうです。

「Yogiboが生徒の体にフィットするように変形して体を支えてくれるので、教員の補助なしで自立して座ることができたんです。後頭部や体の両側もYogiboに支えられている状態なので、安定感もありました。Yogiboに座ることで、その生徒は手元で作業をしたり足湯をしたりすることもできるようになりました。また、生徒自身もYogiboに座るよさを感じたのか、『Yogiboあるよ。どうする?』と聞くと、指差しをして座りたい意思を伝えてくれていましたね」

生徒が自立的な活動ができるようになったことは、他の生徒にも影響があったと言います。

「Yogiboがあることで、教員の手を借りなくても生徒は自分で座位を保つことができるようになりました。そのため、教員1人の手が空くわけです。その分、教員は他の生徒とより多く関わることができるようにため、どの生徒も平等に支援を受けられることにもつながっていると感じます」

身体の緊張を緩める効果も

同じく肢体不自由教育部門高等部の生徒を担当する中島さんは、Yogiboがあることで生徒の身体の緊張を緩めることにつながったと言います。

「私が担当している生徒の中には、筋緊張が強くて体の力を抜くことが難しい生徒がいます。緊張状態が続くと、疲労感がたまったり集中力の低下にもつながります。普段はマットの上に横になって教員が体を伸ばしてあげることで緊張を取るようなサポートをしており、この活動の中でYogiboを上手く活用できないかと考えました。Yogiboの上に寝転がってもらうと、気持ちがよかったのか生徒には笑顔が見られましたね。楽しみながら身体の緊張を緩めることができたと思います」

(※知的障害教育部門中学部の生徒さんが身体の緊張を緩める様子)

一方で、生徒によっては使いづらいのではないかと感じることもあるようです。中島さんはYogiboの価値を実感しつつも、「生徒の身長によっては難しさもある」と言います。

「私が現在担当しているクラスの生徒にとっては、大きめのYogiboがちょうどいいサイズでしたが、体の小さい生徒にとっては大きすぎて体が埋まってしまいます。そうすると、Yogiboを使うことへの怖さを感じる生徒もいるのではないかなと思います。生徒の身長に合わせたサイズのYogiboがあるといいと思います」

川上さんからは、「生徒の用途に合わせたYogiboがあるといい」という提案もありました。

「筋緊張が強い生徒や手術をした後の生徒の場合、足がクロスしてしまったり腕が内側に入ったりしてしまうことがあります。そういうときは、柔らかいクッションを足の間に挟んだり抱いたりします。抱き枕のような形のYogiboがあると、ちょうど良さそうだなと思います」

「寝転びたい」生徒に働きかけるYogiboの価値

知的障害のある生徒の場合、Yogiboはどのように活用したのでしょうか。知的障害教育部門高等部で重度重複障害の生徒を担当する西本さんは、Yogiboをスヌーズレン・ルームに置くことで、生徒がリラックスして過ごす様子が見られたと言います。

スヌーズレンとは、オランダ語の「スヌッフレン(くんくん匂いを嗅ぐ)」と「ドゥーズレン(くつろぐ、うとうとする)」の2つの言葉からつくられた造語。スヌーズレン・ルームは、重度の知的障害のある方が過ごすオランダの施設で生まれ、探索とリラクゼーションの両方の活動を提供する実践として世界に広がっています。

参考:日本スヌーズレン協会

「校内にスヌーズレン専用の部屋があるわけではないのですが、1つの教室を暗くして光るボールや弱めの光を発するライトなどを置いてくつろげる空間をつくっています。そこにYogiboも置いておくと、ある生徒は自然に近づいてきて横になっていましたね。こちらが使い方を説明しなくても、生徒が自らYogiboを使おうとしてくれていました」

(この写真はイメージです)

さらに、Yogiboの効果についてこう続けます。

「実は、スヌーズレン・ルームをつくったとしても、置いてあるものによってはリラックスできないことも結構あるんです。けれど、Yogiboが置いてあると、生徒が自ら上に乗って寝転んでいました。教員が意図的に寝転ばせたわけではありません。Yogiboの色や形、柔らかさによって、生徒の『寝転がりたい』という気持ちに働きかけているのかもしれません。Yogiboには生徒の主体的な行動を促す効果があるのではないかなと思います」

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最後に

これまで取材してきた小学校や中学校、高等学校では、Yogiboがあることでくつろげたり、友達との交流が生まれたりするきっかけになっていることが見えてきました。一方で、今回取材させてもらった特別支援学校では、生徒の自立活動にもつながることがわかり、Yogiboを活用する幅がぐっと広がったように感じます。児童生徒の身体の大きさやそれぞれの特性に合った活用の仕方は、まだまだあるのではないでしょうか。

教職員の方からは、「小さめのYogiboがあるといい」「Yogiboだけの部屋をつくってみたい」などの声もありました。Yogiboをきっかけに、児童生徒や教職員にとっての居心地の良い空間づくりについての議論がさらに深まっていくことを期待しています。

京都市北区にある北大路駅を下車して約7分ほど歩くと、設立からそう年月が経っていないであろう新しい校舎が見えてきます。ここは2015年4月に昼間定時制の普通科、単位制の学校として開校した京都府立清明高等学校。

小学校や中学校で不登校を経験した生徒や、学校生活に違和感を抱いていた生徒も在籍しています。そんなマイノリティ(少数派)と呼ばれる生徒たちも含め、多くの生徒が清明高校では安心して過ごしているのだそう。

生徒たちがこれまで過ごしてきた学校と、一体何が違うのか。校長である越野泰徳さんと生徒支援部の山下大輔さん、そして生徒会の生徒たちへのインタビューを通して、清明高校の魅力を深掘りします。前編はこちら。

※ 本記事は取材を行った2024年3月時点の内容を記載しています。また、取材時に校長を務めていた越野泰徳さんは現在退任されています。

前編はこちら


小さな成功体験を重ね、生徒に「自信を返す」

清明高校で大切にされている支援の心得には、『「自信を与える」から「自信を返す」へ』という考え方があります。

自信を返す。

聞き慣れない表現ですが、ここには校長である越野さんの強い思いが込められていました。

「生徒たちは、小学校や中学校で自信を奪われてきたんです。なので、“与える”ことよりも、これ以上“奪わず”、自信を“返して”あげることの方が大切です。例えば、弊校では自由参加のサマーキャンプがあります。先生たちは、たくさんの生徒に参加してほしいと思ってしまうんですよね。だから、いろんな生徒に『行こう!』と声をかける。けれど、中には『先生に強く言われたから参加した』という生徒もいるわけです。そんな生徒がサマーキャンプで嫌な思いをすることだってあります。自信を与えようとしたけれど、結果として自信をなくしてしまうこともあるんです」

生徒たちに自信を返すための取り組みとして、同校では小さな成功体験を積めるチャンスが散りばめられています。

毎月行われているリフレッシュデーは、普段の授業から離れて心身をリフレッシュさせる日。学校でも家からでも参加することができます。

「パソコンに詳しい生徒がキーボードを改造してライトを付けたり、研究好きな生徒がさば缶からアニキサス(寄生虫の一種)を見つけようとしたり、体育館でひたすらシャトルランをする生徒がいたり…。もう意味がわからないでしょ(笑)それをきっかけに、オタ活も広がりました。この学校には、これまで型にはめられてしんどい思いをしてきた生徒が多く在籍しています。なので、『自分の好きなことを前面に出していいんだ』と思ってもらえることは、自信を返すことにもつながっているのではないかなと思います」とリフレッシュデーの価値を語る山下さん。

(リフレッシュでーで披露された「キーボード改造」「アニサキス探し」。看板はリフレッシュデーの看板)

話したい先生と1対1で話せるオフィスアワーや自分の好きなことに挑戦してみんなに共有するチャレンジデーなどもリフレッシュデーに含まれています。広報ボランティアや清掃ボランティア、オープンキャンパス運営ボランティアなど、さまざまな校内ボランティアに参加する機会も。このボランティア活動も、生徒たちが自信を回復する場になっていると越野さんは言います。

「清掃ボランティアは毎回15人くらい集まります。掃除が終わったら、みんなで輪になって『お疲れ様でした!』と拍手をする。中にはそれにしか参加できない生徒もいます。でも、それでいいんです。掃除をしてみんなで拍手をして終えると気持ちがいいし、その体験を通して少しずつ自信を取り戻していく。いろんな機会を学校の中に置いているので、なるべくたくさんの生徒がどれか1つでもいいから、そういう体験をしてもらえたらと思っています」

宿題、定期テストは廃止。それぞれのペースで、学ぶ楽しさを

国語や数学、英語などの教科学習では、どのような取り組みがなされているのでしょうか。

同校の教科学習は、習熟度に合わせて生徒自身がクラスを選ぶことができ、それに加えてAI学習アプリを使って自学自習できるフレックススタディ(以下、フレスタ)の時間も設けられています。

フレスタの時間は、「自分で黙々と学習する教室」「先生からのサポートを受けながら学習する教室」「仲間と学び合う教室」の3教室が用意されており、それぞれが自分に合った教室を選んで学習します。ここでの教員は“教える人”ではなく、“助言をする人”として生徒たちの学習をサポートしています。

また、宿題や定期テストはありません。その根底にあるのは、「学ぶ楽しさを提供する」という学校のミッション。山下さんは、宿題や定期テストがないことのメリットをこう話します。

「小学校や中学校の学習でつまずいてしまっている生徒にとっては、一夜漬け勉強しても何の意味もありません。そもそもテストがあることで学校に来なくなってしまう生徒もいるんです。宿題も同じで、学習の遅れを取り戻すためにやったとしても結局できなくて、しんどくなってしまう。それではいい循環は生まれませんよね。結局、宿題もテストも成績をつけるためのものになってしまっている。そもそも宿題やテストだけで生徒を評価することはできません。うちでは国立教育政策研究所が発行している学習評価に関する参考資料(※)の内容をベースにして、授業への取り組みや成果物を見て評価するようにしています」

※参考:「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(高等学校編)

自分が居心地よくいられる場所を、一人ひとりがつくっていく

取材に訪れたこの日、放課後には生徒会の生徒が中心となって運営する「清明ワーキンググループ」が行われることが決まっていました。この日は、年度当初から話し合いを重ねてきた校則について議論することが主な内容。約35人の生徒や教職員が集まりました。「自分を大切に 人に親切に」というグラウンドルールが共有されてから、6、7人のグループで校則やルールについての意見交換が行われました。

「授業中にイヤホンをつけることで集中できる人がいるので、イヤホンは使用してもいいのでは?」「でも、音漏れが気になる人もいるよね」

「自分の匂いが気になって香水をつけたい人はいるけど、他人の香水の匂いによって体調が悪くなる人もいる」「香水をつけたい人は、香水以外の選択肢も知ってもらうといいかも」

立場や年齢に関係なく、どのグループでもさまざまな意見が飛び交っていました。ただ校則やルールを緩和しようとするのではなく、個人の自由な選択を尊重しつつも、それによって苦しい思いをする人がいないかどうかを全員が意識しているようにも見えました。

「清明ワーキンググループ」を運営している生徒会の生徒たちは、清明高校についてどのように感じているのでしょうか?

「自分が居心地よくいられる場所を、一人ひとりが学校の中につくろうとしているんじゃないかな。みんなで理想の学校をつくろうとする風土は、清明高校の中で少しずつできていっている感じがします。きっとそれは、生徒会以外の人たちもそうだと思います」そう話すのは、生徒会長を務める畠中さん。

(ワーキンググループのミーティングで前に立つ、生徒会長の畠中さん)

ある生徒は、教員から「無理に友達をつくろうとしなくていいよ」と入学した年度の当初に言われたと言います。

「他の学校みたいに、誰かと一緒に何かをすることや集団行動を強いられないんだなと思いました。自分らしくいていい学校なんだなって。自分のペースを尊重してくれるところは、他の場面でも感じました。私は中学校にはあまり行けていなくて、休むたびに先生から家に電話がかかってくることが実は負担になっていました。けれど、清明高校は少し距離を保ってくれるところがあります。それが逆に安心感につながっている感じがします」

最後に

「これまでの指導に対して、本当は教員も『なんか違う』と思っているじゃないかな」

清明高校のこれまでの軌跡を振り返る中で、山下さんがそう話してくれる場面がありました。

「以前、服装や生活に関してビシッと指導する先生がおられました。この数年間の学校の変化とともに、その先生も柔軟な指導をされるようになったなと感じます。昨年、制服着用に関する規定の見直しを行ったとき、『実は、前からうちの学校に制服はいらないと思っていた』と話してくれました。そう感じていたものの、きっと『厳しくしなければいけない』という思いで指導していたんだと思います。肩の荷が降りたことで、少しずつ生徒との関わりが変化していったのかもしれません」

そんな風に同僚の先生とのエピソードを話す山下さんですが、実は自身も、ある卒業生からの指摘で自身の変容を自覚したと言います。

「先日学校にきた卒業生に、『雰囲気が前と全然違う。今の方がなんか楽しそう』と言われました(笑)自分では変わっていないと思っていたのですが、以前はきっと私もビシッとした指導をしていたんでしょうね」

全国の多くの先生も、もしかしたら本心とは違う「鎧」を着ているだけなのかもしれません。何か違うと思いながらも、これまで守ってきたものを手放していくのは容易なことではないと思います。それでも、なぜ清明高校はここまで変化することができたのか。

「生徒の声を聞く」「社会モデルで考える」「ざっくりやってみる」「理想の学校を、生徒と先生が一緒につくっていく」…など、清明高校には変化していくためのヒントがたくさん詰まっていました。それができたのは、校長である越野さんのリーダーシップがあったことはもちろん、教職員がこれまでの当たり前を手放し、対話を重ねてきたからではないでしょうか。

昨今、「教員不足」「講師不足」が深刻になり、子どもたちにも影響が出る大きな問題となっています。今回の調査では、教員不足の実態を把握するため、現職教職員の皆さんから情報・意見を集めました。なお、教員不足が現在起きていない学校も調査対象としています。

協力:末冨芳さん(日本大学教授)、妹尾昌俊さん(学校業務改善アドバイザー)

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2023年12月25日(月)〜2024年2月26日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :1325件

アンケート結果

設問1 2023年度、教員不足は起きていた?

Q1-1. あなたの勤務校では、2023年度の4月1日、9月1日、12月1日の時点において、「教員不足」は起きていますか。

Q1-2. 「教員不足が起きている」と回答した方にお聞きします。教員不足によって起こったことや、大変だったこと、エピソードを教えてください。(教職員・職場組織への影響、児童生徒への影響など)

業務負担の増加

途中で退職したり、休職したりする先生の後補充が来ないため、現在いる先生で授業を持つため、時間割の組み直し作業も複数回にわたって行う必要がある。【中学校】

空き時間がないこと。小学校高学年ですが専科の授業もほぼなくなり、毎日フル稼働でした。若い育休代替講師の学級が荒れ、わずかな空き時間もそこへのフォローです。助けてあげたい気持ちはあるのでそれは かまいませんが、2ヶ月近く空き時間がないなんてことは教員になって初めてでした。【小学校】

契約上担任になれない非常勤講師が4月頭から特別支援級の担任になっていた。最初から人手不足でフォ ローも足りず今年度異動してきたての中堅の方が10月にメンタル病欠、昨年度から医者にフルタイム業務をとめられていた病欠の方が無理くり教務として復帰。現状、皆倒れそう。【小学校】

不足している教科の先生の授業時数が多くなり、負担が増える。特別支援学級の教員が不足しているため、 本来別々に授業すべきクラスが一緒に授業している。【中学校】

授業のコマ数が倍になった。【中学校】

4月の時点で高齢の講師が多い教科です。近隣の他校でも同教科の教員が次々と休職・退職をされ、代替 講師は見つからず。現場の中で授業を割り振りますが、少人数の学校で教員数も少ないため、3学年の試験と評価物があり、残業時間は月100〜170時間程度になってます。教える学年が増えると対応する生徒も 一気に増えるので、生徒対応だけで定時内の時間は終わり、担任業務などもおざなりになってしまっていま す。【中学校】

教員不足を補うために、時間講師が採用されることが多く、6時間勤務のため放課後業務には携わっていた だけなかったり、時短勤務をする教員の放課後業務に人がいなかったり、病休はもう日常茶飯事で今居る教員で回さなければならない状態です。4月の時点で、こちらが必要と提示している教員数に足りない割り当てでスタートし、講師も無く、生活介助員をあてに、もう、校務分掌や行事関係は破綻しています。障害の軽重などによるシーリングなんて意味がありません。それに加えて、保護者からの要望は、日に日に、高く、 細かく、丁寧な対応を求められ、もう、保護者も教育ではなく、学校に求めているものは保育や介助という福祉機能です。教育はもうありません。できません。【特別支援学校】

担任や教科担当者の不足

教室ではなく、武道場に2クラスの生徒を集めて、同時に教科の授業を行う予定。講師の先生1名が主担当 し、他教科の先生1名がサポートにつく。環境づくり、時間割など大変。【東京・中学校】

病休に入るまでの年休期間は変わりが見つからず、その教科の授業ができなかった。他教科の教員が無 免許で授業を実施せざるを得ない期間があった。定期テストもその教科は実施できず延期となった。現在も 積み残しが発生することが確実な状況。【千葉・中学校】

担当学年ではない学年の授業を、2クラス同時でやらざるをえない状況があった。その単元 の理解度はやはり低かった。 【福岡・中学校】

コロナ等で休んだ教員がいた際、補充に入れる教員がおらず終日自習となる。【岐阜・中学校】

前年度、特別支援学級で、常に大変な状況なのに、初任者が出勤しなくなり、主任が出勤しなくなり、その多忙さからバタバタと病休者が増え、5人担任のところが、最後は担任一人になった。【東京・小学校】

特別支援が必要な児童生徒への対応不足

支援学級の児童が交流学級で過ごす際の支援が十分に行われなくなり、放置される時間が増えました。【大阪・小学校】

特別支援学級の授業がなくなり、その生徒が交流学級で授業を受け ることになった。支援学級生徒が、軽視されてると感じた。【岡山・中学校】

教室で入りづらいADHDや愛着障害の児童に対応できず、放任してしまう時間が発生している。この事で児 童と信頼関係を構築できず、悪循環が生まれ、生徒指導の時間が大幅に増えている。【高知・小学校】

海外ルーツのこどもで成績が下位のグループへの取り出し授業が行われない期間があった。日本語入門レ ベルのこどもへの対応が適切に行われず、レベルがそのままにとどまっている。【兵庫・中学校】

教職員の関係性の悪化

職員の数が足りなくなったとしても、学校内全体の公務の量が減るわけではない。そのため、一人当たりの 授業数や校務分掌の量が増える。 特に無理を押しての日々となり当然教員の関係性についても悪影響が起きている。割り切って帰る人は5時 に帰るし、今までと同じようにやらなければならないと感じる人は残り続けてやる。結果として、無理を押して やってる人が倒れた。また、やっている人たちは、さっさと帰る人たちを敵対視して、職員室が大きく2分化し ている。【神奈川・小学校】

一つ目、担任が年度途中で不在になったことにより学級が荒れてしまい、他のクラスの教員が空きコマを 使って見守りを行った。それによって連鎖的に他のクラスも荒れていった。二つ目、学校全体の治安が低下 している状態で、管理職がどのような手立てをとろうとするのか見ていた。教員不足によって残った教員の 業務は増えたが、依然として仕事を削減する提案については反対し続けられた。管理職への不信感によっ て、管理職と教諭との溝ができてしまったため、組織としての力は大幅に低下してしまった。【広島・小学校】

教員の健康面への影響

産休代替の代理がいない、パワハラで病休により退職に追い込まれた。【東京・小学校】

自分自身が医師から休職を勧められているが、それ以前に欠員の代替業務を担っている為、休みづらい。 周囲もいっぱいいっぱいの現状を知っている為、その負担がいくかと思うととてもその選択をできない。また、 初任者に担任を持たせることがここ数年多いがそのフォローも含めた研修に対する余裕がない。【東京・高等学校】

2023年4月時点で1人の教員不足が起きていたのは、全体の約37%。その後、9月時点では約55%、12月時点では約61%と、徐々に教員不足が起きている学校が増えていることがわかりました。不足している人数を見ていくと、年間を通して1名不足している学校は約30%前後と大きな変動はありませんでしたが、2人以上不足している学校は4月時点では約10%だったのに対して、12月時点では約30%に増えていました。

教員不足によって起こっていることとして多くあがっていたのは、教職員の業務負担の増加。年度途中に休職者や退職者がいた場合でもそれまでの教職員数で業務に当たるため、「空き時間がなくなった」「授業時数が増えた」「残業時間が増えた」などの現状があり、大きな負担になっていることが伺えます。それによって、教職員の健康や関係性の悪化にもつながっている現状があるようです。

また、教員が不足している教科や特別支援学級を担当する教員が不足していることによって、児童生徒への学習保障や心身のケアにも実害が出ているという声も寄せられました。

設問2 教員不足解消に有効だと思う施策は?

Q2. 教員不足解消のための教員確保策として、それぞれの取組やアイデアはどのくらい有効だと思いますか。 

教員不足解消のための施策として、「とても有効だと思う」「有効だと思う」と回答した人が比較的多かったのは、「育短制度利用者の定数外措置(時短勤務者の人数に応じて教員が増やせる制度)(93%)」「初任者には学級担任として配置しない(副担任からスタート)など、初任者の負担軽減(88%)」「教員の日本学生支援機構による奨学金の返済免除(71%)」でした。

一方で、「大学3年生から1次試験を受けられる採用試験の実施(12%)」「免許保有者(いわゆるペーパーティーチャー)を発掘し、研修を行う取組(15%)」「学生や社会人向けに教員の仕事の価値や魅力を発信する取組(21%)」は、有効だと思う人が比較的少ない結果となりました。

設問3 重要・実現してほしい業務負担軽減策は?

Q3. 学校、教員の負担軽減策として、特に「重要だ」「実現してほしい」と思う取り組みやアイデアを3つまで選択してください。

教職員の負担軽減策として「重要だ」「実現してほしい」という回答が比較的多かったのは、「教員定数の改善による持ち授業時間数(持ちコマ数)の軽減(67%)」「学級規模の改善(30人以下学級など)(62%)」でした。校種別に見ると、高校に所属する教職員からは「観点別評価の廃止(18%)」を求める声が他の校種よりも多く集まりました。

また、「勤務時間外における保護者対応、児童生徒対応の原則禁止(いじめ対応など緊急性が非常に高いものを除く)(37%)」「給食、掃除、休み時間の見守り、ICT機器のトラブル対応など、教員免許を要しない業務について、教員以外のスタッフに任せられるようにすること(36%)」「保護者等からの過度な要求に対する第三者による介入支援(弁護士、心理士等)(33%)」など、教員が保護者や児童生徒に対応できる時間を制限したり、教員以外のスタッフや専門家が担う業務を増やしていく施策については、3割から4割程度の人が「重要だ」「実現してほしい」と回答しました。

設問4 定年延長を利用する予定は?

Q4. 2023年から定年延長がスタートしています。あなたは61歳以降も継続して働くご予定ですか?現時点での意向を教えてください。

定年を延長し61歳以降も働く予定の人は28%だったのに対して、働かない予定の人は30%であり、ほぼ同数となりました。「未定(38%)」と回答した人が最も多く、定年延長を利用するかどうかは、迷っている人が多い傾向が見られました。

設問5 転職・離職を考えることはある?

Q5. あなたは離職・転職を考えることがありますか?

「当面離職・転職は考えていないが、今後も続けられるかは自信がない(3年内に離職・転職する可能性がある)」と回答した人は、回答者全体の62%でした。「現在、離職・転職を考えている(1年内に離職・転職する可能性がある)」と回答した人においては、14%にのぼりました。「いまのところ、離職・転職するつもりはない」と回答した人は38%と半数に満たず、過半数の人が転職・離職を考えていることがわかりました。

まとめ

今回は約2ヶ月間かけてアンケートを実施し、1325件もの回答が集まりました。

昨年度12月の時点では回答者全体の約6割の学校で教員不足が起こっていることが明らかになり、その結果、教職員への負担が増えているだけではなく、児童生徒の学習保障や心身のケアにまで影響が及んでいることがわかりました。

実際に教員不足が起こっている学校の教職員や問題意識の強い人が回答しやすい傾向はあり、調査の結果が課題に出ている可能性はありますが、児童生徒に対して質の高い授業ができない状況やきめ細かいサポートができない状況であることは、重く受け止める必要があります。

2024年4月9日(火)には、本アンケートに協力いただいた末冨芳さん(日本大学教授)と妹尾昌俊さん(学校業務改善アドバイザー)とともに、文部科学省で記者会見を実施しました。その様子や会見の内容については、多くのメディアでも取り上げていただきました。

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京都市北区にある北大路駅を下車して約7分ほど歩くと、設立からそう年月が経っていないであろう新しい校舎が見えてきます。ここは2015年4月に昼間定時制の普通科、単位制の学校として開校した京都府立清明高等学校。

小学校や中学校で不登校を経験した生徒や、学校生活に違和感を抱いていた生徒も在籍しています。そんなマイノリティ(少数派)と呼ばれる生徒たちも含め、多くの生徒が清明高校では安心して過ごしているのだそう。

生徒たちがこれまで過ごしてきた学校と、一体何が違うのか。校長である越野泰徳さんと生徒支援部の山下大輔さん、そして生徒会の生徒たちへのインタビューを通して、清明高校の魅力を深掘りします。

※ 本記事は取材を行った2024年3月時点の内容を記載しています。また、取材時に校長を務めていた越野泰徳さんは現在退任されています。


教職員研修で生徒が自身の「困りごと」をスピーチ

「もう本当に、生徒たちが素晴らしくて。生徒の声を聞くことが先生にとって1番の学びになるし、自己変容につながるんです」

2023年10月に清明高校で開かれた教職員研修会「清明ダイバーシティピッチ」をそう振り返るのは、生徒支援部の山下大輔さん。研修会に集まった教職員や保護者、生徒に向けてスピーチをしたのは、同校に在籍する5人の生徒たちでした。

読み書きに困難がある学習障害の一種であるディスレクシアや感覚過敏、HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)、化学物質過敏症、性的マイノリティの当事者である5人が、学校生活の中での困りごとについて具体的なエピソードを交えながら話し、「困りごとに対して一緒に考えていきたい」と訴えました。その結果、教職員からは大きな反響があり「生徒について知っているつもりになっているだけで、知らないことが多かった」という声もあったと言います。

大勢の前で自身の困りごとを話した生徒たち。抵抗感はなかったのでしょうか?その疑問に答えるように、山下さんは研修前のやり取りをこう話します。

「自己開示をすることで、もしかしたら心ない言葉を耳にするかもしれません。生徒たちには『それでも大丈夫か?』と何度も確認しました。けれど、生徒たちは『やります』と言って、やり切ったんです」

そもそも先生への信頼や自分たちのアクションによって学校が変わる可能性への期待がないと、生徒たちが「先生たちに話してみよう」と思い、それを行動に移すことはないのではないでしょうか。一体何が、生徒たちの行動を後押ししたのでしょう。

その理由を、校長の越野泰徳さんは「生徒と先生が同じ方向を向いているからではないか」と言います。

「教職員が生徒から学ぶ清明ダイバーシティピッチには、教職員だけではなく他の生徒も聞きに来ていました。あれがすごいなと。興味津々で聞いているわけです。特定の生徒がカミングアウトするだけの場ではないし、先生と生徒が対峙しているわけでもない。みんなが同じ方向を向いて、学校を過ごしやすい場所にしていこうとする雰囲気があるんです」

障害は社会側が生み出している。社会モデルで当たり前を見直す

今でこそ「つまずきのある人もない人も共に安心していきいきと学ぶ学校」として知られるようになった同校ですが、4年前は学校の方針や教育活動のアップデートが必要なタイミングでもありました。

2015年の開校当初から勤める山下さんはこう振り返ります。

「開校時から『学びアンダンテ(自分のペースで、歩くような速さで学ぶ)』という学校の基本コンセプトはありましたが、教職員全員で目指すべき方向性が定まっていなかったんです。『進路実績を出さないといけない』『いや、それよりもまずは学校に来ることが大事なんじゃないか?』など、意見はバラバラで。私自身もどこに向かっていったらいいのかわからなくなっていました。それが、校長の越野先生が来てから徐々にいろんなことが変わっていきました。『目指すのはここだ』と示してくれたんです」

越野さんが清明高校の校長に就任したのは、2020年4月。授業内容や学校行事、校内のルールなどを生徒の実態に合わせて次々に変えていきました。例えば、生徒が欠席した際には必ず担任がその家庭に電話連絡をするルールがありましたが、現在は、その頻度を減らすようにしていると言います。それによって、生徒にとっては「毎日学校に行かなければいけない」というプレッシャーが減り、教員にとっては余裕を持って日常の業務にあたれることにつながりました。

また、以前あった「職員室では入り口から大きな声で先生を呼ぶ」というルールもなくなり、現在は職員室の入り口に置いてあるタブレット端末を操作して先生を呼べるシステムになっています。

「先生は、『職員室では大きな声で先生を呼ぶ力を身につけさせたい』と思ってしまうんです。でも、ちょっと待てと。『全員がハキハキとしゃべれなければいけない』という圧力が、生徒たちへのストレスになっているのではないかと考えなくてはいけない。それが原因で不登校になることだってあるんです。『これが普通』『これがいい』と思われていたことが、案外そうではなかったということは、学校だけではなく世の中でも多いと思いますよ」と越野さん。

土台となっているのは、「社会モデル」の考え方。障害は個人が抱えている問題であり、治療や個人の努力によって社会に適応すべきものだという考え方の「医学モデル」に対し、「社会モデル」は障害は社会側が生み出しているものだと考えます。

「職員室で大きな声を出して先生を呼ばなければいけない」という考え方は、まさに医学モデルがベースとなっています。その状況に苦しさを感じている生徒がいるのであれば、社会モデルをベースとした考え方でルールや仕組みを変えていくことで、生徒が居心地よく過ごせる学校づくりにつながっていくのではないでしょうか。

まずやってみる。生徒の笑顔で、教員は変わる

越野さんは学校の中にある「普通」や「当たり前」のおかしさにいち早く気づき、学校改革を進めていきました。

「今まで問題とされていなかったことを問題として見える化して、『こうやってみたらどうだろう?』と試していくのが好きなんです。ひねくれ者なんで、今まで通りの学校は嫌なんですよ(笑)」

穏やかな口調でそう話す越野さんですが、教職員が一丸となって学校を変えていくために必要なことを見抜く鋭い視点も持っています。

「立場が上の人であればあるほど、正しいことを言っちゃだめなんです。校長が正論を言うと、先生たちはそれに従うしかない。野球部の顧問が怖いから部員がいうことを聞いているのと同じです。表面的に変わったとしても、それでは意味がないんです。先生たちだって、ちゃんと自分の中で腹落ちしないと納得して動くことはできません」

先生たちが納得して動いていくために、越野さんがよく口にするのは「すぐやる、まずやる、ざっくりとやる」という言葉。完成度が低くても、失敗しながらでも、何度も繰り返しやってみて少しずつ前進していけばいい。そんな思いが込められています。

例えば、2023年度から行われている制服の見直しでは、2ヶ月間限定で校則を緩和する案が生徒会から出されました。その案に対して、「勉強をしなくなるのではないか」「生活習慣が乱れるのではないか」と不安を感じる教員もいたそうです。

「校則を緩和しても、絶対に大丈夫だという確信はありました。けれど、それを私が押し付けてはいけないと思っています。先生たちの不安も聞きつつ、『まずやってみよう』と言う。実際にやってみると、表情が明るくなり生き生きと過ごす生徒たちの姿を目にするんです。最初は不安を感じていた先生であっても、生徒のそんな姿を見ると、校則を緩和することに納得してくれます」

ここまでに紹介した越野さんの価値観や教職員全員で目指すべき学校像は、58ページにも及ぶ資料「ティーチャーズバイブル(理論編)」に示されています。令和5年度当初に越野さんが作成し、HPから誰でも内容を見ることができます。そこには、学校のミッション、ビジョン、バリューをはじめ、支援の方針や具体的なアクションプランが書かれています。

後編へ続きます。

「ふつうの相談」ができる職員室へ

フジテレビ木曜ドラマ「いちばんすきな花」(2023年)は、僕が担任していたHさんとの共通言語でした。このドラマは多部未華子さん、松下洸平さん、今田美桜さん、神尾楓珠さんの4人が主演を務め、日常的で誰しもが考えたことのある永遠のテーマを扱っていたことで注目を集めていました。毎週金曜日にHさんと「今週はどのシーンが良かった?」「あなたは夜々ちゃんみたく考えたことある?」とよく話をしていました。僕は特に第5話が好きで、椿さんの次の台詞がとても印象に残っています。

1人で傷つき苦しみを抱えていた紅葉さんに、椿さんがこんな話をしている。

「うん。よかった。話す人いて。お腹痛いとき、お腹痛いって言っても治んないけど、痛いのは変わんないけど、紅葉くんは今お腹痛いんだってわかってたい人はいて、わかってる人がいると、ちょっとだけマシみたいなことは、あるから。」(フジテレビ「いちばんすきな花」第5話より。文字起こしは筆者)

「ふつうの相談」1が学校でできるかどうかは、仕事を安定して行っていく上で非常に重要です。「ふつうの相談」は東畑開人氏の言葉で、いわゆるカウンセリングのように個室で二人きりでなされるものだけを言うのではなく、廊下での立ち話や、用具庫での片隅でのひそひそ話、詰め所や職員室で交わされる職員同士の愚痴や世間話も含むものです。ふつうに相談することが、そしてふつうに相談に乗ることが、心にとっていかなる治療的意味をもつ、と東畑氏は述べています。

本当は同僚に相談してみたかったけれど、心配や躊躇があってなかなか相談できないことは、僕は一度や二度ではありませんでした。当時の自分を振り返ると、こんな違和感について本当は同僚に相談してみたかったのです。

  • 〈起立→気をつけ→「これから2時間目の授業をはじめます」〉という日直の号令で授業を開始するとき、「気をつけ」の後に教師からの「どうぞ」があるまで号令を続けてはならないという先生ルールがありました。これは本当に必要なのかな。
  • 特別支援学級で生徒1人、教師1人で授業しているのに、1対30人で一斉授業するように生徒と黒板の間に教師が立って授業している人がいました。これだと教師も子どもも授業しにくくないのかな。

「ふつうの相談」ができる職員室であれば、全国で苦しんでいる先生たちの大半の悩みはなくなるのではないでしょうか? そういう職員室を目指し、僕が研究主任という立場で実践してきたことをいくつか紹介します。

1. 職員室ラジオ

職員室ラジオは、公立小学校教諭にょんさんの実践です(カタリストfor eduのホームページに、にょんさんへのインタビュー2がありますので、ぜひご参照ください)。僕は“Spotify「ミチクサRADIO〜とある先生たちの日常〜」#9 3”で、その実践を知りました。にょんさんの「職員室全体での対話の場を作る前に、もっとつぶさに、一人ひとりとの関係性をつくることができないだろうか」という問題意識に共感し、僕も「職員室ラジオ」を始めることにしました。

職員室ラジオは、次の3つのステップでできます。

① 放課後の時間等を活用し、同僚と1対1で対話する。
② その様子をスマホで録音する。
③ 収録データを職員室で共有する。

空き時間に事務作業などの仕事をしながら聞いてもらったり、通勤途中で聞いてもらったりすることを考えて、ラジオ1本分の時間は最大15分を目安にしました。トーク内容は、対話型のカードゲーム「センセイトーク」4を使って決めました。ある同僚にお願いし、その人が聞いてみたいトークテーマのカードを何枚か選んでもらっていました。

「自分にとって一番お気に入りの場所は?」「自分にとってのストレス解消法は?」などライトな質問から「先生になろうと思った理由」「先生以外になろうと思っていた職業の話」「子どもの頃は学校が好きだったか?」など、その人のパーソナルな部分の話や「学校祭はどうしたらもっと楽しくなるのか」など実務的なことも話題になりました。

また、ある同僚はこんなエピソードを語ってくれました。
「実は前任校での苦労や失敗があったからこそ、今は笑顔いっぱいで周囲に元気を与えながら仕事している」
笑顔の裏にはそのような背景があったのかと初めて知り、とても印象的でした。

現代の職員室は「ちょっとお時間もらえませんか?」と同僚に話しかけることすら、躊躇してしまいませんか? 職員室ラジオが「ちょっといいですか?」と気兼ねなく発せられる雰囲気づくりに、少しでも貢献できればと思っています。そして、足湯に浸かると次第に身体が温まっていくような速度で、「考えること」「疑問をもつこと」「誰かの意見を聞こうとすること」を職員室からじわじわと広めていけたら嬉しいです。

2. MM法(みんなでつくるミーティング法)

MM法とはみんなでつくるミーティング法で、ファシリテーターの青木将幸氏が考えた会議手法5です。MM法の特徴は、一人ひとりに持ち時間があって「全員が、ひとつずつ、議題を持ち寄る」という構造にあります。「今、このメンバーで、本当に話し合いたいこと」を持ち寄って話し合いますが、時間を厳密に区切って進行するため、時間内に結論が出ないこともあります。ただ、結論が出なくても、誰かに受け止めてもらえた事実が話し合いの場にはあり、メンバーの表情を見るとみんなすがすがしい顔になる、と青木氏は説明しています。

校内研修では、「困り事相談会」という名称でMM法を実施しました。この時間のねらいは、次の3つでした。

① 「目の前にいる子どもの誰を見て、どんなことを考えているか」について、同僚の声をゆっくり聞く時間をつくること。
② 悩みや困っていることを相談することで、心のエネルギーを回復してもらうこと。そして、MM法を通じて「ふつうの相談」ができる職員室の雰囲気をつくること。
③ 教室の様々な状況を「問い」や「悩み」として持ち寄ることで、教師の子どもを見取る力を高め、教師のアンラーン(学びほぐし)を促進すること。

僕のグループでは、次の4つのテーマについて議論しました。
● 話しやすい事務とは?(こんな事務となら仕事をしやすい、コミュニケーションをとりやすいか)
● ありきたりな授業から脱却するにはどうすればいいですか?
● 生徒達はなぜ失敗をうまく経験値につなげられないのだろうか?
● 多様性を気にするあまり本音を話さず、相手と距離をとって人それぞれだから…と片付けてしまうのはなぜだろう? 個を尊重するとはどういうことだろうか?

MM法を終えて、ある同僚からこんなフィードバックをもらいました。

「職員室で周囲を見ると、みんな忙しそうにしている。話しかけるタイミングを見計らっていたら、今日が終わってしまったこともしばしばありました。また、こんなこと言っても受け止めてくれるだろうかという不安があったので、こうやって悩みを相談できる場があるのは嬉しいです」

実は、僕はこのフィードバックをくれた同僚にとって「ふつうの相談」ができる職員室になることを願って、今回校内研修の時間を使ってMM法を実施しました。だから、このフィードバックをもらえて、素直に嬉しかったです。フィードバックをくれた彼女とよく話していたことは「人が変わろうと思うのは、自分の感情を誰かに拾ってもらえたときだ」ということでした。

「プリントを使って授業すると、毎日授業準備が大変ですよね」
「必死に授業しながら同時に評料し、それを記録していくのは至難の業ですよね」
などと僕が声をかけ、彼女が時折弱音を吐ける場を用意してあげることを日々心がけていました。

うまく受け止めてあげられたときは、元気を取り戻し、少しずつ授業づくりを楽しんでいってくれました。変わろうとする気持ちが湧いてこないのは、心のエネルギーが不足しているからだ、と僕は考えています。

3. 学びカフェ

「学びカフェ」6は、佐藤由佳さんの実践です。校内研究のように公的に位置付けられたフォーマルな場ではなく、まじめに雑談する時間を設け、定期的にみんなで話し合うインフォーマルな学びの場が「学びカフェ」です。その理念をベースにして、僕は特にテーマを設定せずに、2. で紹介したMM法のように「最近考えていること」「悩んでいること」「話を聞いてもらいたいこと」をただ話すだけの会にしました。ただし、それだけでは人は集まらないので、道の駅に売られている美味しそうなお菓子を用意し、それに釣られてやってくる人たちと対話しました。

4. 図書コーナー

勤務校の職員室には収納棚があり、一人ひとつ割り当てられていました。ある日、その収納棚の扉を外して、図書コーナーを設置しました。教室環境を整える際には「教師の学びの過程をオープンソース化」7をしていて、学級経営や教科指導など関連する多くの書籍を教室に置いていました。この図書コーナーは、教室での取り組みを職員室でも同じように行ったものです。 

4月は協同学習に関する本、5月はインクルーシブ教育についての本、8月は合唱指導や行事指導に関する本、9月は探究や教室ファシリテーションについての本、11月はいじめや不登校に関連する本など、仕事のサイクルに応じて本を並べました。

図書コーナーは、足を止めたり視線を向けたりしている人々の興味や関心を知るしかけとして活用していました。また、積読のままの本を同僚と持ち寄って、みんなで平積みする活動はとても楽しく、お互いの理解を深める機会にもつながりました。さらに、クリスマスに関連する絵本や可愛らしい猫が表紙の絵本を置くことで、無機質な職員室が華やかになったことは良い思い出です。

5. 持っている情報量を揃えること

「校内研究」「校内研修」と聞くだけで「ああ…」とため息をついてしまう人はまだまだたくさんいるのに、「私たちはどんな職員室をつくりたいのか」「私たちはどのように学び、成長したいのか」「そのために私たちはどのような研修にしたいのか」について職員室で議論されることは、僕の経験上ほとんどありませんでした。

そこで、年度末に実施した校内研修の時間では、オンライン掲示板アプリ「Padlet」8使って「校内研究」「校内研修」に関する様々な情報を共有し、みんなで見ながら次年度の校内研修について意見交換をしました。

その結果、次年度は“プロジェクト型の校内研修”に挑戦することが決まりました。僕には、自分の声を大切に発信し、他者の声も尊重しながら変化を生み出す職員室に少し近づけた瞬間に感じました。残念ながら僕は4月に異動となりましたが、校内研修を通して「変えていける実感」を教師が取り戻すことにつながり、子どもたちが民主的なコミュニティのつくり手としての感性や力を育んでいける学校に、さらに近づいていってくれることを期待しています。

参考
  1. 東畑開人『ふつうの相談』(2023年,金剛出版) ↩︎
  2. 職員室の土壌づくりー『職員室ラジオ』で、今まで見えていなかった先生たちの思いを知るー」(カタリスト,2022年4月15日公開) ↩︎
  3. にょんさんの「職員室ラジオ」実践についてきいてみた」(Spotify for Podcasters / ミチクサRADIO~とある先生たちの日常~,2022年2月) ↩︎
  4. センセイトーク ~学校関係者の「チームづくり」を促進するカードゲーム~(https://weschool.jp/↩︎
  5. 青木将幸『ミーティング・ファシリテーション入門―市民の会議術』(2012年,ハンズオン!埼玉出版部) ↩︎
  6. 伊藤大介、佐藤由佳、山本由紀、三石初雄『校内研究を育てる―その学校ならではの学びを求めて―』(創風社,2022年) ↩︎
  7. 石川晋『「対話」がクラスにあふれる! 国語授業・言語活動アイデア42』(2012年,明治図書) ↩︎
  8. 藤倉稔「校内研修についての資料箱↩︎

3月〜4月のこの時期は、異動する、退職する人、立場が変わる、受け持ちの変更、同僚の入れ変わりetc…多かれ少なかれ、何らかの変化がある時期です。その変化に伴う、さまざまな感情・気持ちが一人ひとりの教職員の中にきっとあるはず。今の教職員の気持ちを聞きました。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2024年3月11日(月)〜2024年4月11日(木)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :45件

アンケート結果

設問1 年度切替えの今、抱いている感情は?

Q1. 年度切り替えの変化の時期、今抱いている感情を以下のリストから選んでお書きください。
※いくつでも結構です。
※相応しいものがなければリストに載っていないものを書いていただいても構いません。

※出典:https://nvc-u.jp/
回答のテキストマイニング結果

新年度を迎える時期の気持ちとしては、「不安」「心配」「疲れる」「へとへと」など、気がかりな気持ちや心身の疲労を感じさせるワードが多く選ばれる傾向がありました。同時に、「あたたかい」「寂しい」「ドキドキ」などのワードを選んでいる人もおり、別れの寂しさと新年度への期待が入り混じっていることが伺えます。

設問2 今の感情はどこから来ている?

Q2. 年度切り替えの変化の時期、今抱いている感情とその感情がどこから来ているのかを教えてください。(過去や現在の状況・環境・出来事、願いやニーズなど)

異動や人事に関する不満と不安

修了式から年度はじめまでの間は、来年度の配置がまだ分からないため、宙ぶらりんな気持ちになります。同僚との腹の探り合いも、落ち着きのなさの原因です。もっと管理職と話をする機会があって、どんなことがやりたいのかを聞いてくれるなら、こういう気持ちにならないのかもしれないですが、基本的に管理職はあまり話は聞いてくれません。何がやりたいのかなどは、時間をかけて聞かないと出てこないものだと思うのですが……。個人の希望をしっかり聞いた上で、来年度の組織編成をやって欲しいなと毎年思います。【小学校・教員】

来年度の校内人事がどうなるのかわからないと、自分の立ち位置が分からず不安になる。
部活動の顧問をもちたくないと希望しているが、毎年職員が減り、部活数は変わらない。来年度もこの生活が続く、もしくは今以上に厳しい状態になるのかと思うと気が重い。【中学校・教員】

ミッションをこなしてきて、成果も出したつもりが、希望も聞かれず望まない所へ異動にされた。大声で希望を述べその希望が叶えられた人がいる傍らで、希望を言うことも許されない人がいるのは公平じゃない。今日の新聞発表を見て、また落ち込んだ。悔しい。【小学校/中学校・校長】

特別支援学級の担任です。在籍する子どもの数が増えるのに、担当する先生が決まっていない。今年度担任だった先生は、私以外は異動してしまう。さらに、新入生が手のかかる子どもだとわかり、クラス分けも一から考え直さなくてはならない。子どもの様子も完全に把握しきれていないのに、4月2週目から学校生活や様々な行事が始まってしまうことに不安しかない。【中学校・教員】

業務負荷とストレス

年度末に向けて、通知表の作成、要録の作成、諸々に必要な所見の嵐……とにかく圧倒的に業務量が多くてへとへと。【小学校・教員】

なんとかギリギリにやらなければならないことを年度末までに仕上げたが、通勤時間も長く、仕事もなかなか終わらないので、疲労感が半端ではなかった。また、本来やりたい事ができないところで、周りにもなかなか理解者がいないので、無力感が大きい。【小学校・教員】

新年度準備期間が、短いため引き継ぎが十分にできない。書類完成後にいじめが発覚、同じクラスに当事者がいることから、クラス編成のやり直しを検討することに、これも、準備期間が十分取れてないことの弊害、新年度の準備には、丁寧に引き継げる時間が必要、十分な準備期間の確保を是非進めて欲しい。
とにかく今、置かれている教職員の環境は、地獄そのもの、真面目に取り組んでるものが心身ともに壊れていく。適当、要領良くできない教職員を救って欲しい。【小学校・教員】

新年度への期待と不安

初めて3年間担任した生徒たちの卒業式を終えて、次の年度に向けて気持ちが切り替わっている。次がこの学校で働くのが5年目かつ1年生の担任をするのも2回目ということで、なんとなく見通しが持てているし、自分が学年や学校の中で中心としてがんばっていくのだという気持ちも強い。学年主任の先生が尊敬と信頼できる人で、また同じ学年で働けるというのも自分にとって大きな安心材料。一方で、初めて同じ学年で働く先生や異動されてくる先生も多いので、どんな学年教師集団になるのか、チームワークがうまくいくだろうかという点においては少し不安と緊張がある。【中学校・教員】

昨年度全校1000人いた子どもたちが学校が分離したことで半分以下に減りました。また、職員数は昨年度の半分以下になりました。そのため、5つあったクラスは2つに減り、一人当たりの分掌や学年作業が増えました。周りから「大変そう」と言われますが、自分はやりがいを感じています。大変なクラスの担任に加え、体育主任も任されたため、この一年を走り抜ければ大きな達成感を感じるのではないかとワクワクしています。【小学校・教員】

現在の職場は3年目で、良い意味で慣れている。前例踏襲主義に陥らず、その場で判断しながら変えたいところは周りに相談しながら変えていきたい。【高等学校・教員】

4月から新設校に異動する。通勤時間がかなり短縮されることで楽になる。その意味では明るい気持ちで、新年度に臨めるが、新しい環境がどのようなものか見えてこないため不安もある。また当然ながら、以前の職場を離れる寂しさもある。【特別支援学校・教員】

学校や教職員の関係に対する不満や懸念

職員が入れ替わったのに、その忙しさから十分に知り合う時間もとれず、毎年お互いのことがよくわからないまま始業式を迎えます。また、管理職との面談も十分に行われず、自分が組織でどのような役目を期待されているのかなどもわかりません。そういう状況だと、発言力のある先生だけが目立って、そうじゃない先生が何も言えなくなるんですよね。学級とおなじように、最初の1週間は教職員同士が出会う期間にしてくれたら本当にいいのですが……。【小学校・教員】

教職員の年齢層が高くなりすぎているので、是正してほしいと毎年願いますが、年齢層の高い先生のほうが圧倒的に多いため、難しいようです。年齢層の高い先生からはたくさんハラスメントを受けまして、一緒に働きたくないです。【高等学校・教員】

教育委員会や学校の方針に対する疑問や不満

「誰も取り残さない」「先生が働きたいと思う」自治体を謳っているが、何やかんやとこじつけてのビルドアンドビルドにこれらのキーワードと現場が早速取り残されており、年度末から絶望的な気分になっている。【小学校・教員】

大人にとっても子どもにとってもwell-beingな学校を目指したいが、変えることを拒むベテランが多く、、意見を無視されることで無力感を感じる。誰のため、何のためが抜けていて、大人のための学校になっている気がして仕方ない。校内人事も声の大きい人が優先される傾向にあり、大変なことは何も言わない人や若手に押し付けるような人事になりがち。そこに不安や絶望感がある。【小学校・教員】

まとめ

疲労や不安、ストレスを感じている言葉が多く集まりました。その理由としては、「希望した人事が通らなかった」「新年度の人事がわからず準備ができない」「年度末の業務が多く、新年度に向けた準備ができていない」など、人事や業務量についての内容が多くあがっていました。また、教職員間の関係構築が十分にできていないことや学校の運営方針が、ストレスの原因になっていることが伺える回答もありました。一方で、1年間を終えた達成感や新年度に向けた期待など、前向きな気持ちを表す回答も多く集まりました。


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※対象は教職員の方のみです。
■メガホンの運営団体School Voice Project への寄付に興味がある

さまざまなメディアでも取り上げられている通り、現在、日本の学校では「教員不足」が大きな課題の一つとなっています。

NPO法人School Voice Project では「#教員不足をなくそう!緊急アクション」というキャンペーンを立ち上げ、学校現場の厳しい実態の見える化・記者会見を通した問題提起を行ってきました。さらに問題を深く理解するため、教員を志望していたがやめた方々・現在、教壇に立っている方々の生の声を聞きました。
(協力:Teacher Aide / 株式会社トモノカイ)

アンケートの概要

■対象  :若手教員、教員志望の大学生、大学の一時期まで教員を志望していたがやめた若手社会人・大学生 ※ここでいう「若手」とは、大学卒業後5年以内の人を指す。
■実施期間:2024年2月8日(木)〜2024年3月11日(月)
■実施方法:学校現場の声を見える化するWEBアンケートサイト「フキダシ」及び大学生×教育バイトメディア「t-news」にてWEBアンケートを実施
■回答数 :598件

アンケート結果

教員志望をやめた理由は?/教員を目指す上での懸念点は?

【若手教員・教員志望の学生の方向けの設問】
教員を目指すにあたっての懸念点について、以下のことはどの程度当てはまりますか。
【元教員志望の若手社会人・元教員志望の学生の方向けの設問】
教員を志すのをやめた理由について、以下のことはどの程度当てはまりますか。

若手教員・教員志望の学生(教員・教員志望グループ)と、元教員志望の若手社会人・元教員志望の学生(元教員志望グループ)間で、教員になる上での懸念点にどのような共通点・違いがあるのかを比較しました。

その結果、両グループで70%以上が、給料の低さ・業務量の多さ・自分が力を入れたい業務への時間の足りなさ・初任時の責任の大きさ・多様化する子どもや保護者のニーズへの不安に対して「とてもそう思う」「そう思う」と回答しました。また、元教員志望グループでは、教員・教員志望グループに比べ、給料・閉塞的な組織文化・教育実践の硬直性・サポートのなさへの懸念が大きい傾向が見られました。

回答者からの声

給料への懸念

クラスのことを任せられてしまう仕事の責任の大きさももちろんですが、そもそも教員免許を取る時間と努力、そして教員採用試験に合格する努力も教師になるには必要です。その時間と手間と努力、そして実際勤務する責任、これらに見合ったお給料が新卒からもらえているとは思えません。 教師になってから給与に不満を覚えて転職した知り合いがいるのですが、その方はベンチャー企業でいきいきと働いていました。その姿を見て、教師になる勉強をしたって絶対教師になる必要はないと感じさせられました。【教員志望・学部2年】

部活動顧問がほぼ無給なのは、教員養成課程を履修して初めて知りました。労働に対する対価が支払われないのは納得できませんでした。【元教員志望・博士3年】

職場に1人クセの強い先生(40代のベテラン)がおり、教員・子ども・保護者全てからクレームが出るくらいの人でした。(中略)どんなにクレームが出たとしても、教員は続けられるものなんだと知った時は、「私がやらなくてもいい仕事かもしれない」と察しました。どんなに仕事ができなくても、クビにはできない。年功序列で順番に上に上がって行かなくてはならない。しかし、なるべきではない人が校長になったら、その学校はどうなるのか。若手がいくらSOSを出したとしても、年功序列の制度は変わりません。またどんなに仕事ができなくても、税金で給料が安定的に上がっていく、ボーナスももらえる。仕事ができない人の代わりに、できる人が倍働く。なのに給料は同じ。そんな世界で働きたいと思える人がどのくらいいるのでしょうか。【元教員志望※教員経験2年あり・若手社会人】

働き方への懸念

教員という仕事は、子どもたちにこれから必要な知識教養を身に付けてもらうために教えると同時に、人として成長してもらうためにクラス担任を担うなど社会的意義のある仕事であると考え、志望しておりました。しかし、実際に教育現場で働く先輩からのリアルな現場の話や公務員としての給料面や休日日数、部活の顧問など必要な業務量がとても多い一方で、いきなり現場に投げ出され、教鞭、事務、保護者対応、部活などを兼務するのは自分には荷が重すぎると感じました。また、子供の未来を担う教師の未来は暗い労働環境というのが個人的には良くないとも思えたため、教員志望を辞めることにしました。【元教員志望・学部4年】

子どもの居場所作りや、個別支援が必要な子に対してじっくりと向き合う働き方をしたいと考えていたが、実習を通して教員の忙しさを目の当たりにした際に、先生になったら勉強を教えることしか(教えることすら?)できないように感じてしまった。【元教員志望・若手社会人】

結婚をして子どもを産みたいと昔から考えているため、教員になったら自分の子と関わる時間が生徒と関わる時間より少なくなってしまう可能性があることを考えると「他の子どもを教育している場合ではないのに」と心の余裕が無くなりそうだと考えました。【元教員志望・修士1年】

初任時の責任の重さ・多様化するニーズに対する不安

現在塾講師として働いているのですが、保護者様からの厳しいお言葉や要求がかなりある現状と知り、より多くの生徒、保護者と関わる必要のある学校の先生は私には向いていない、耐えられないと思いました。【元教員志望・学部3年】

近年の保護者の過干渉や、生徒の多様化のニュースなどを見ていて、自分にはそれに対応しきれる精神力が足らず、自分を壊してしまうのではないかという懸念が強かった。【元教員志望・若手社会人】

小学校の場合は確実に初任で担任を持たされるし、今は中学でも初任で担任を持たされる人も中にはいる。大学で授業のことだけ多くは学んできて、学級経営など学んできていなかったり、また教育実習でも20人規模の生徒の前でしか授業していない人もいるのに、教員になって1年目で30人規模の学級の担任をして、生徒指導、学級事務をしたり、保護者との関係づくりをしなければならなかったりすると、授業どころではなくなってしまう。誰しも、大学で学んできたことを活かして、よりよい授業を作っていきたいと思っているが、それが実際に現場では達成されず、心身の不調にも繋がると思うから。【教員志望・学部4年】

閉塞的な組織文化への懸念

小学校の時の憧れだった先生が、当時は生徒のことを第一に考えてくださっていましたが、今は学校のルールに縛られて考え方が変わってしまったと伺って、やはり自分らしくを貫くのは難しい環境なのかなと残念な気持ちになったのも理由の一つです。【元教員志望・学部4年】

国全体が教育をサービス業とみている節があったり,教育の改善が一向に期待できない点が大きいですが,教育実習に行った際に現場の意識も文句ばかりで行動が伴っていなかったのを見て,教員になるのをやめました。【元教員志望・修士1年】

授業に集中して取り組みたいが、分掌や事務作業に追われる日々。その業務も前例主義で去年やっていたから、、いきなりやめられない。と、もちろんメリットもあるのだろうが効果に見合った時間になってない業務が多い。なくすと責任を負うのが嫌で、なくせない主任。管理職。若手がスクラップを提案すると、「経験が大事」「何事も学ぶことがある」と若いからと言った理由で意味を感じない仕事をしていると感じることが多い。【若手教員】

コロナ禍での文化祭開催の議論や、理系の共通テストの社会科受験科目の選択肢の幅など、伝統保守的な立場の先生方が多く、挑戦的な姿勢や新たな可能性を探ろうとする姿勢を感じられない事が多かった。【元教員志望・学部2年】

サポートの無さへの懸念

教職インターンシップにてお世話になった際、心身共に参っている新人の先生を多く見かけた。子どもたちがクラスという空間での習慣や、学校環境の変化、学年の変化、学級の変化に対応できないと教員としてもキツいと言っていた。また、中には、昔のやり方をそのままに、それはよくないと思うと、自由なやり方を制限するベテランも見かけた。サポートに入っていても連携が取れない、とる時間すらない、もはや、連携をとるためにコンタクトをとる時間でさえ勿体ないと感じる先生が多いように感じる。
結局、その学校の職員の組み合わせによって変わるところもあったり、管理職や教頭、校長が、言い方を悪くすると、どれだけ使えるか、他の職員に、自分に寄り添って考えているかによって変わったりもする。私の伺った学校では、残念ながら教頭が1人で慌ててしまって、インターン生の私はもちろん、その他の職員への対応も疎かで、連携が取れない環境であればどうしようかと考えることもある。【教員志望・学部2年】

教員志望をやめたタイミング

【元教員志望の若手社会人・元教員志望の学生の方向けの設問】
いつ頃まで教員を志望されていましたか?

元教員志望グループに教員志望をやめたタイミングを尋ねたところ、62%が学部1年生時点でやめていたことがわかりました。学部2年生まで含めると80%以上にのぼり、大学生の比較的早い段階で教員志望をやめている学生が多いことがわかります。なお、この傾向は小学校・特別支援学校と、中学校・高等学校で比較しても大きく変わりませんでした。しかし、今回の調査では、早く教員志望をやめたグループと、遅くやめたグループで懸念点に違いは見つかりませんでした。

まとめ

若手教員・教員志望の学生(教員・教員志望グループ)と元教員志望の若手社会人・元教員志望の学生(元教員志望グループ)間、両グループで、70%以上が、給料の低さ・業務量の多さ・自分が力を入れたい業務への時間の足りなさ・初任時の責任の大きさ・多様化する子どもや保護者のニーズへの不安に対して懸念があることがわかりました。特に、元教員志望グループでは、教員・教員志望グループに比べ、給料・閉塞的な組織文化・教育実践の硬直性・サポートのなさへの懸念が大きい傾向が見られました。

アンケートの結果から、給料や働き方の改善、精神的プレッシャーに対する支援、閉塞的な文化の改革などさまざまな観点での改善の必要性が再認識されました。これらの課題を解決していくことは、少なくとも「教員志望をやめる学生」の減少につながるのではないでしょうか。

※上記はあくまでアンケートの結果から導かれた仮説となります。例えば、「閉塞的な組織文化」に触れることによって教員志望でなくなるのではなく、何かしらの理由で教員志望でなくなった学生の方が「閉塞的な組織文化」へのアンテナが高くなるため懸念度が高くなったことも考えられます。今回のアンケートでは、あくまで「閉塞的な組織文化」への懸念度と教員志望度との相関関係が観察されたというだけで、因果関係を説明できるわけではない点にご注意ください。

※また、短い期間でパイロット的に行ったアンケートであるため、アンケート回答者は便宜的なサンプルであり、若手教員・教員志望の学生・教員元志望の若手社会人や学生を代表するものではありません。


▼ 本アンケート結果を踏まえた提言書は、以下よりダウンロードしてご覧ください。 ▼

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※対象は教職員の方のみです。
■メガホンの運営団体School Voice Project への寄付に興味がある

2023年、NPO法人School Voice Projectでスタートした「#学校の居心地プロジェクト」。

きっかけとなったのは、WEBアンケートサイト「フキダシ」に集まった、学校の居心地についての教職員の皆さんからの声でした。
「とても居心地がよいと思う」「まあ居心地がよいと思う」という肯定的な選択肢を選んだ人は約半数。職員室など、教職員が仕事をするための空間については、肯定的な回答は約3割。少なくない子どもたちや先生たちが、心地よいとは言えない環境で学んだり働いたりしている実態が見えてきました。(アンケート結果詳細はこちら

「#学校の居心地プロジェクト」での取り組みの一つとなる「学校にYogiboを置いたら」実証実験では、全国から公募した5つの学校のさまざまな場所にYogibo(ヨギボー)を設置し、子どもたちや先生たちの心や学び、関係性にどのような影響を与えるのかを探っていきました。

今回は、「学校にYogiboを置いたら」の実証実験への応募を決めた福岡県飯塚市立飯塚小学校の長﨑裕也さんと、実際に教室内にYogiboを置いて子どもたちの様子を見ていた特別支援学級の坂口由美さんにお話を伺いました。

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学校の居心地を考えるきっかけにしたい

 「#学校にYogiboを置いたら」の実証実験に応募しようと思った経緯について、「教職員の間で学校の居心地を考えるきっかけにしたいと思った」と振り返る長崎さん。そう思ったのは、大学時代にフィンランドの学校で3ヶ月間アシスタントをしていた経験も影響していると言います。

「フィンランドの学校では、教室にクッションやソファが置いてあり、自分で勉強する場所を選べる環境が整っていました。それを見て、日本の学校ももっとリラックスできる空間になるといいなと思ったんです」

今回の実証実験の協力校に決まった際には、教職員に「Yogiboの設置をきっかけに、教職員やすべての子どもたちにとっての居心地のよい環境について考えていきたい」という思いを伝えました。しかし、長崎さんの本意を伝えることへの難しさもあったと言います。

「学校にYogiboを置くこと自体には面白さを感じてもらえて、多くの教職員が好意的に受け止めてくれました。ただ、学校全体の居心地について考えるきっかけというよりも、あくまで特別支援学級の児童にとってのリラックスのための道具と捉えられてしまった感じがありました。通常学級にYogiboを置くことで規律が乱れたり、姿勢が崩れたりすることを懸念する声もありましたね」

イライラしたとき、Yogiboは気持ちを落ち着ける場に

実際にYogiboが届いてからは一定期間図書室に置き、その後は特別支援学級の教室に置くことになりました。図書室はどの学年も週1回の利用時間があり、その他にも中休み(2時間目と3時間目の間に設けられている10分間の休み時間)や昼休みには自由に利用することができます。

「Yogiboは子どもたちの人気スペースになっていましたね。子どもだと4、5人くらいが座れるので、みんなでぎゅっと集まって座って、一緒に本を読んでいる様子も目にしました。なんだかほっこりしますよ(笑)ただ、案の定Yogiboに飛び込む子もいたので、そのような様子を見かけた際には司書の先生が声をかけてくれていました」

図書館の次は、特別支援学級の教室に設置。担任の坂口さんは「Yogiboがあることで、子どもたちがリラックスして過ごす様子があった」と言います。

「クラスには落ち込んだりイライラしたりと、感情の浮き沈みが大きい子が在籍しています。気持ちが不安定になったときに、その状況を言葉にして伝えることが難しい子もいるので、そのときにはYogiboが役に立っているなと感じます」

ある授業では、イライラしたときの対処法についてそれぞれの児童が考える場面がありました。そのときに、「Yogiboでリラックスする」と書いている児童もいたようです。

「実際に、その子がイライラしていたときに『教室の後ろで、少し気持ちを落ち着けてきたら』と声をかけると、自分からYogiboが置いてあるところに行って、しばらく顔を埋めていましたね。しばらくしたらスッと戻ってきて、また勉強を再開していました」

さらに、特別支援学級にYogiboを置くことの良さを坂口さんはこう話します。

「子どもたちの様子を見ていると、『Yogiboに乗りたい』『Yogiboで遊びたい』という欲求があるだけではないように思います。柔らかいものに触れていたり、狭い空間にいたりすると安心すると自覚している子もいます。そういう子にとっては、Yogiboはリラックスできる場所にもなっているのではないかなと思います」

Yogiboをどう活用する?さまざまな意見がある

特別支援学級にYogiboを置くことを肯定的に受け止めている坂口さんですが、通常学級に置くことに関しては心配な点もあると言います。

「通常学級の場合は1つの教室に30人以上の児童がいるので、Yogiboを置くとなると空間の狭さが気になってしまいます。また、使う人数も増えるので、Yogiboの使い方についてルールを徹底することにも難しさがあるのではないかなと思います」

一方で、Yogiboの導入を後押しした長崎さんは「通常学級にもYogiboを置くことで、子どもたちがリラックスできる環境を学校内につくっていきたい」としつつ、教職員によってさまざまな意見があることにも理解を示します。

「教職員によって、これまで関わってきた子どもたちの実態が違うので、それによってYogiboの使い方について考え方の違いが生まれているのかもしれません。私が見てきたのは比較的落ち着いているクラスだったので、教室にYogiboを置いても問題ないなと想像できます。ですが、坂口先生のようにいろんなクラスを担当してきている先生にとっては、Yogiboを置くことに対しては慎重になると思います」

子どもたちにも「くつろげる空間」の選択肢を

最後に、「休み時間の休憩スペースとしてYogiboを使ってほしい」と話す長崎さんに、理想としているYogiboの活用方法について伺いました。

「休み時間も含めて、学校にはずっと緊張感があるなと感じています。休み時間に外に出て思いっきり遊びたいときはあると思いますが、ただ体を休めたいときだってあると思います。そういうときに、椅子に座っているだけではなかなかくつろげないと思うんですよね。大人であれば、コーヒーを飲んだり自分で場所を選んだりできますが、子どもにはそういう選択肢も与えられていない。なので、もっと学校の中でリラックスできる空間をつくりたいと思ったんです。

ゆくゆくは、Yogiboを置くことをきっかけに学校の中にお昼寝スペースのような空間がつくれたらいいなと思っています。Yogiboを置くことを考えたときに最初に出てきた課題が、靴を脱いで過ごせるスペースが学校内にないことでした。靴を履いたままYogiboに乗るのは衛生的によくないと思っているので、まずは靴を脱げるスペースが必要だなと。そういう空間があるだけで、学校の居心地は変わってくるのではないかなと思います」

最後に

これまで多くの学校に存在していなかった、柔らかいクッションやソファなどが置かれた空間。少しずつではありますが、Yogiboをはじめ、子どもたちや教職員の居心地を考えた空間をつくっていく学校は増えてきています。

今回のインタビューからは、Yogiboを置くことが児童のリラックスできる時間に繋がっていることが伺えました。一方で、「どのようにYogiboを活用していくのか」「子どもたちの安全面や衛生面をどう守っていくのか」などについては、教職員間で対話を重ねていくことが不可欠ではないでしょうか。

実証実験に伴って贈られたYogiboは、今後も同校での使用が可能です。Yogiboを置くことをきっかけに、子どもたちや教職員によってのより良い空間づくりに繋がっていくことを願います。

文部科学省の調査によると、令和7年度から全国の多くの自治体でGIGA端末の更新が始まります。それに向け、現時点のICT環境の課題について、全国の教職員に聞きました。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2023年11月29日(水)〜2024年2月19日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :195件

アンケート結果

設問1 授業や校務のICT活用は推進されている?

Q1. 現任校で授業や校務におけるICT活用はどの程度、推進されていると思いますか?

小学校では24%が「強く推進されている」と回答し、62%が「推進されている」と評価。中学校と高等学校も相対的に高い割合でICTを推進しており、それぞれ34%と39%が「強く推進されている」と回答しています。その他の校種でも62%が「強く推進されている」と答え、全体的にはICTの導入が進んでいることがわかります。

設問2 自身はICT活用を推進したい?

Q2. ご自身として、ICT活用をどの程度、推進していきたいと思いますか?

全体的にICT活用を推進する意欲が高い傾向が見られます。小学校では39%、中学校や高等学校も、36%と50%が「強く推進していきたい」と回答し、ICTの積極的な導入に前向きな姿勢が見受けられます。全体的に「推進していきたい」割合も高く、ICTを教育現場で有効に活用したいという共通の意欲が示されています。また、全く推進したくないと回答した割合は低く、教職員全体がICTの導入に肯定的な態度を持っていることが伺えます。

設問3 GIGA端末活用の課題は?

Q. 次の課題は、現任校でどの程度当てはまりますか?

Q3-1. 「転出入や故障に対応するための【生徒用】GIGA端末が足りない」に関して、どのようなシーンで困ったか・どのように対処したか、具体的なエピソードを教えてください。

年度当初など、新1年生端末の数がすぐにそろわない。故障者には代替えで対応するが、それも足りない時がある。【小学校・教員】

破損が多いが替えの端末がないので、破損しても我慢して使ってもらっています。【中学校・教員】

同一市内で転出入の場合は端末は市教委を通してのやりとりになるが、県外を含む市外からだと申請から届くまでに時間が1ヶ月以上かかり、教師用の端末を貸し出したことが何度もあった。教師用の端末を貸し出すときは付きっきりの時のみ。【小学校・教員】

日頃足りていないので、長期欠席の生徒分をほかの生徒が使っているため、久しぶりに来た生徒に本人の端末を渡せず、予備として教室にある常時充電を繋いでいないと使えない端末を使ってもらっている。【中学校・学習支援員】

Q3-2. 「学校事務職員や講師分を含めると【教職員用】GIGA端末が足りない」に関して、どのようなシーンで困ったか・どのように対処したか、具体的なエピソードを教えてください。

予備機は、学年に1〜2台足りないことがある。講師にあてがわれていることはほぼなく、使うときは、子どものものを借りたりしている。事務職員にタブレットは無い。【小学校・教員】

端末配布は学年担任プラス3台と決められているため、管理職や養護教諭、会計職員などは端末がないことになる。校務がクラウド化しているが、上記の方々に端末がないために、思うように進められない現状がある。【小学校・教員】

全員に端末が行き届いていないので、ペーパーレス会議の時は画面を隣の人とシェアしている時がある。【小学校・教員】

Q3-3. 「学校内で使用する際にGIGA端末の通信速度が遅くなることがある」に関して、どのようなシーンで困ったか・どのように対処したか、具体的なエピソードを教えてください。

文科省や市のアンケートを一斉に実施するのが困難。【中学校・教員】

複数のクラスが調べ物したり、全校でフォームスを使ったりすると一定数回線の影響でできなくなる。時差でやらせたり、再起動したりしてなんとかやった。【中学校・教員】

通信速度が遅くなってしまい、デジタル教科書に不具合が出て、授業が中断することがよくある。その都度、インターネットブラウザを再起動している。【小学校・教員】

学習者用デジタル教科書を開こうとしても、1クラスに2桁近く開かない生徒がいる。どうしても繋がらない時は、紙の教科書に切り替える。【小学校・ICT支援員】

Q3-4. 「学校Wifi(無線LAN)に繋がないと使用できず、 GIGA端末を校外学習や家庭学習で使用できない」に関して、どのようなシーンで困ったか・どのように対処したか、具体的なエピソードを教えてください。

無線LAN及び有線LAN環境が整っていない家庭もあり、無償貸与などのサービスを確保することも一苦労。【中学校・教員】

町探検や校庭の草花を写真でとりロイロノートでまとめていく学習だったが、Wi-Fiに繋がらないため、低学年に写真の入れ方を説明するのに手間取った。【小学校・教員】

生徒端末、教員が使用できる端末ともに基本的に校外学習時などでは使用できない。モバイルルータも使用できるものがあるが、人数に制限がある。【高等学校・教員】

校外学習に端末を持ち出しても、検索など行えないため、オフラインで使える地図を使用した。カメラとして使用する程度で持ち出すメリットが少ない。【中学校・主任/主事】

Q3-5. 「教育委員会や学校で設定されたルールにより、GIGA端末上で学習で使いたいアプリやWebサイトを使用できない」に関して、どのようなシーンで困ったか・どのように対処したか、具体的なエピソードを教えてください。

歴史学習の検索で武器の写真がフィルターにかかって、検索ができずお手上げだった。【小学校・主任/主事】

例えば、タイピングの練習等ができるアプリやサイトがあったとしても、ゲームとしてアクセス制限されることがある。【中学校・教員】

理科などではアプリの方が安価で分かりやすい内容の物があるが、有料アプリという事で使う事ができない。また、CMが入るものもダメだということで無料で良いアプリがあっても入れる事ができない。結局制限されたいいところ、使いやすいデジカメ程度の物になっている。【小学校・教員】

進学に必要な高校のホームページにアクセスできず、確認事項などの作業が進まず、自分のスマホを使うことになってしまった。職場体験で事業者への問い合わせをしないといけないときに受け入れていただく事業所のホームページにアクセスできず、自分のスマホからの対応になった。【中学校・学習支援員】

YouTubeが遮断されているため、見せたい動画がYouTube上にあると児童が好きなときに見るということができない。また、タイピングソフトを使おうとしたとき使えないものがあった。【小学校・教員】

Q3-6. 「計画充電のタイミング等により、授業での使用に合わせてGIGA端末の充電が間に合わないことがある」に関して、どのようなシーンで困ったか・どのように対処したか、具体的なエピソードを教えてください。

夜充電する設定だが、子どもが接続を忘れてしまうと充電できない。個別に、充電器をもっていきその場で充電しながら使用している。【小学校・教員】

毎時間端末を使っていると午後の授業などで充電がたりなくなり、複数の生徒から充電したいと言われる。その場合、コンセント周辺に入れ替わり立ち替わりコードを繋ぎながら、使わせている現状。【中学校・教員】

充電は家でしてくること、としているが実際、1時間目から6時間目まで使おうとすると、3時間連続で使った時点で充電が切れる。【中等教育学校・教員】

Q3-7. 「GIGA端末故障時の対応が煩雑である」に関して、どのようなシーンで困ったか・どのように対処したか、具体的なエピソードを教えてください。

保護者のサインが必要な書類作成の必要があります。故障の経緯などを書く欄もあり、協力が得にくい家庭の場合そのやりとりが大変なときもあります。【小学校・教員】

紛失、パスワードリセットなど市教委と連携しながら探索や再設定をする必要があり、担当や教頭の業務が増えている。【小学校・教員】

故障や破損が起きると、その時の状況を指定の書式に書き込んで校内担当者に提出しなければならない。その上で、管理職・教育委員会に破損状況を認めてもらわないと、破損タブレットを受け取ってももらえない。それだけで1台のタブレットが壊れて教育委員会に送るまで最低3日はかかる、1週間かかることも珍しくない。【小学校・教員】

教科の主任に相談したところ、すぐに対応してもらえた。が、以前勤務していた学校では、IT担当の外部から派遣された方がいる間(10時〜1時)にしか修理してもらえず大変困りました。【中等教育学校・教員】

Q3-8. その他、ICT環境(端末・Wifi・ルール整備)に係る課題として、困っていることを教えてください。

ICTに詳しい専門家の不足

端末管理、整備などを担当する職員が必要。現在の人員では手に負えない。【小学校・教頭】

勤務している市では、ICT専門員がおらず、教員に任されているため、負担が大きい。ICT機器に長けている人がいる学校では、推進が進んでいるようだが、本校は得意な人が少ないため、推進は進んでいない。【小学校・教員】

ICT担当は、所詮教員の中でICTに比較的詳しいに過ぎない。専門の人間の配置がほしい。【中学校・教員】

ICT支援員が週1しか来ないので、困っている。【小学校・教員】

児童生徒への指導が難しい

勝手にパスワードをかけ、それがわかんなくなってしまう児童がいると、解除できず業者に出すしかない。再設定に1ヵ月もかかるので、子どもがパスワードをかけらないような仕様にすべき。【小学校・教員】

授業中に関係のないアプリを開いている生徒も多く、生徒が授業に集中しないきっかけになっている。ゲーム依存のように、気づいたら触っているという生徒もおり、やはり、ある程度の規制をしないと、結果的に生徒の学習機会を奪ってしまっていると思う。生徒が聞こうと思う、興味深い授業をすることが求められ、もちろんそのために自己研鑽しているが、ゲームや、ネットサーフィンには負ける。【小学校・教員】

児童がどのページを覗いているのか、把握しにくいアプリしか入っていないので、抜け道ばかりで指導が大変です。【小学校・教員】

iPad依存症のようになっている生徒もいる。(授業中画面から目が離せない、登下校中も操作してしまう、家でも同様、など。)休み時間のゲームや画像(画像を保存すれば漫画も休み時間に読める)で充電を使い、肝心の授業で十分に使えない生徒もいる。市内のネットパトロールにひっかかった生徒への聞き取りも教員の仕事(家庭にいる時間に「死にたい」などの特定の言葉を検索した生徒の情報が学校に来る。もちろん保護者に連絡するのも教員)。「学習のために使うもの」として貸与しているが、生徒にとっては「おもちゃ」か「重い荷物」でしかない面もある。毎時間授業で活用している身としては、歯がゆい部分です。【中学校・教員】

学校によってルールが異なる

都道府県によりルールがバラバラなので、異動された方への説明が大変。全国でとはいかないまでも最低でも各都道府県レベルでは統一してほしい。現場ごとの情報分掌担当者の負担が大きいです。【特別支援学校・教員】

ルールは管理職の考えによってマチマチである。なので、異動前の学校ではできていたことが異動先の学校ではできないということが生じている。子どもたちに自由に使わせる。トラブルはあって当たり前、それを子どもたち自身に乗り越えさせる。学校や大人の都合で制約をつけない。これらのことは、先進的に端末を使わせているところでは当たり前の考えなのだと理解しているが、後進的なところは制約に走るのだと認識を新たにした。【小学校・教員】

教員の知識が不足している

今年度だいぶ整備されたが、まだWiFiのことや、苦手意識のある先生が使うのが難しい仕組み(そのため何度も研修を行っている)、そして進級処理の煩雑さが感じられる。一教師が情報担当としてするにはなかなか重たい役だと感じている。【小学校・教員】

環境を整備するリーダーがおらず、リーダーを育てる手法もない。情報も共有されておらず、一元化もできていない。各校のリーダーも必要だし、教育委員会内の部署もマンパワー不足。【小学校・教員】

まとめ

校種を問わず、全体的にICTの導入が進んでいることがわかりました。ICT活用を推進する意欲も高い傾向が見られました。一方で、具体的な課題については、GIGA端末の不足や通信速度制限、アプリの利用制限、故障、充電などさまざまな視点での声が寄せられました。

課題として最も多く上がっていたのは、小学校では「ルールにより、使いたいアプリやサイトを使用できない(66%)」、中学校では「生徒用のGIGA端末が足りない(66%)」、高等学校では「校内でGIGA端末の通信速度が遅くなることがある(54%)」「ルールにより、使いたいアプリやサイトを使用できない(54%)」でした。自由記述の回答では、ICTに詳しい専門家の不足やGIGA端末を学習に活かすことの難しさ、学校によるルールの違いを訴える声もありました。


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