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【解説記事】「教員不足」の実態と原因は? 解決の道筋を包括的に探る

  • 久保拓

子どもを指導する教員が足りず、時には学校がハローワークで求人も――。全国の公立小中高校で、教育現場に計画通りの教員数を配置できない「教員不足」問題が深刻化しています。

文部科学省が2022年1月に公表した実態調査では、全国の小・中学校で合わせて約2000人の教員が足りない厳しい現実が浮き彫りになりました。なぜ、少子化が進み児童・生徒が減っている日本で教員が足りないのでしょうか?また、解決する方策はあるのでしょうか?この記事では、「教員不足」問題の実態と原因を解説し、解決するためにSchool Voice Projectなどが提言する対応策をご紹介します。

教員不足の現状

最初に、どのような学校・地域で、教員がどのくらい不足しているかを見てみましょう。

文部科学省は2022年1月、全国の公立小学校・中学校・高等学校・特別支援学校(計3万2903校)を対象にした実態調査の結果を公表しました。その調査によると、教育現場に本来配置されるはずだった教員人数から、実際の配置人数を引いた欠員数は、小学校979人、中学校722人、高校159人、特別支援学校205人で、合わせて2065人にのぼります(2021年5月時点)。

欠員のあった学校の割合を見ると、小学校4.2%、中学校6.0%、高校3.5%、特別支援学校11.0%で、特に特別支援学校での不足が目立ちます。そして、特別支援学校の欠員率を自治体別に見ると、熊本県(3.52%)、秋田県(1.57%)、新潟市(1.42%)、千葉市(1.25%)、鳥取県(1.18%)などが上位に並び、特定の地方への偏りは見られません。また、欠員率が高い自治体が全国に点在する現状は、他の校種でも同様です。例えば小学校の場合、欠員率が最も高いのは島根県(1.46%)で、熊本県(0.88%)、福島県(0.85%)、長崎県(0.78%)、茨城県・千葉県(0.64%)が続きました。

また、School Voice Projectが全国の教職員を対象に行なったアンケート調査結果でも、多くの教育現場で欠員が生じている現状が垣間見えます。授業の質の低下などを懸念する声も多く寄せられており、詳しくは下記の記事をご覧ください。

参考「『教師不足』に関する実態調査」(文部科学省,2022年12月30日参照)より

なぜ教員が足りないのか

文部科学省が実施した実態調査によって、2021年5月時点で教員約2000人が足りない現状が明らかになりました。実際の教育現場では、年度の途中で教員の病欠や育児休業取得などがあり、現実はさらに厳しくなっています。例えば読売新聞によると、東京都内の公立小学校では2022年、欠員が同年度当初の約50人から夏休み明けには約130人に増えました。校長ら管理職が教壇に立ち、板橋区教育委員会ではハローワークに求人を出すなどして欠員補充に努めています。

また、欠員補充が難しいという問題については、School Voice Projectでも独自に教職員アンケート調査を実施しまとめているのでご参照ください。

では、全国的に教員が不足している根本的な原因は、いったい何なのでしょうか。

NHKによると、そもそも文科省による実態調査は、2021年度から公立小学校に「35人学級」が導入され、新たに大量の教員が必要となったことが背景となっています。つまり、教員不足の原因として真っ先に挙げられるのは、①「35人学級」です。また、実態調査において全国の各教育委員会は、他の原因として多い順に、②産休・育休取得者数の増加、③特別支援学級数の増加、④病休者数の増加、を挙げています。

ただ、もちろん、「35人学級」の推進を今から取りやめるわけにはいきません。35人学級は、児童の個性に応じたきめ細かな教育を実現するために重要で、「誰一人取り残すことなく、全ての子供たちの可能性を引き出す」とうたった文科省の「令和の日本型学校教育」の中核をなす制度です。また、教育の質を高めるには、教員が仕事と家庭を両立させ、安心して働ける環境作りが必要ですし、特別支援学級の整備もまた、個に応じた教育に不可欠といえます。次に、これら①〜④の事情について個別にみてみましょう。

参考「都内公立小の教員不足が拡大、夏休み明け130人欠員…ハローワークに求人出す区教委も」(読売新聞オンライン、2022年11月22日公開,2022年12月30日参照)より
参考「教員不足の実態を全国調査へ『35人学級化』実現に向け」(NHK,2021年4月6日公開,2022年12月30日参照)より
参考「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)(文科省,2023年2月25日参照)より

① 産休・育休取得者数の増加

かつて教育現場を支えた教員が次々に定年退職し、世代交代によって若手教員が増えたため、教育現場で産休・育休を取得する教員が増えています。

日本経済新聞によれば、1970年代の第2次ベビーブームへの対応で大量採用された教員の多くが定年退職の時期を迎え、若手教員の採用が増えています。例えば、文科省の資料からも、公立小学校教員の平均年齢は2007年度の44.5歳から一貫して下がり続け、2019年度には42.6歳に達したことが分かります。同じように、公立中学校も44.2歳(2010年度)から43.6歳(2019年度)に下がりました。ただし、高校は45.3歳(2007年度)から46.1歳(2019年度)に上昇していますが、そもそも教員数が小中学校(全国で計約60万人)よりも少ない(同約16万人)ため、小中高全体としては若年化の傾向が続いています。

また、育児休業は仕事と家庭を両立させるうえで非常に大切な制度ですが、多忙のためか、男性教員の育休取得率は他の職種の地方公務員より低迷しているのが現状です。総務省のまとめによると、全国の教育委員会に所属する男性職員の育児取得率は8.1%で、地方公務員男性全体の13.2%を大幅に下回っています。国は、数値目標として2025年までに30%の取得率を掲げているため、今後、育休を取得する男性教員の増加が予想されます。

※なお、女性職員の取得率は教育委員会99.6%、全体99.7%でほぼ同じです。

参考「小中教員『若返り』続く 大量採用世代が退職、文科省」(日本経済新聞,2017年9月14日公開,2022年12月30日参照)より
参考「令和元年度学校教員統計調査」(2022年12月30日参照)より
参考「令和2年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果」(2023年2月25日参照)より

② 特別支援学級数の増加

少子化で児童・生徒が減り続ける一方で、特別支援教育を受ける子どもが増え、その対応を担う教員が足りなくなっています。

文科省によると、特別支援学校に通う児童・生徒数は、2009年度の約6万2000人から2019年度には約7万5000人に増加しました。小中学校の特別支援学級に通う児童・生徒数も、同じ期間中に約13万5000人から約27万8000人へと倍増しています。特別支援学校や特別支援学級は、1学級6〜8人、あるいは1学級3人が定数の場合もあるため、教員の確保はより喫緊の課題になっています。

特別支援教育の拡充は、文科省が「令和の日本型学校教育」として新たな教育体系を目指す中で、「個に応じた指導」にかなうものとして重視されています。特別支援学校や特別支援学級は増え続けていますが、各国に目を向けると、決して日本だけが特別支援教育に手厚いというわけではないことが分かります。

例えば、日本の義務教育において特別支援教育を受ける児童・生徒は、2019年度時点で全体の5.0%(約48万6000人)です。しかし、アメリカでは全公立学校在学者の13.0%(2010年度)が連邦の特別教育支援プログラムを受け、フィンランドでは就学年齢人口の7.3%(2013年)の児童・生徒が特別支援教育を受けています。教育制度は国によって異なるため、単純な比較はできませんが、特別支援教育を重視する姿勢は各国とも共通しているようです。

参考「特別支援教育の現状」(文科省,2022年12月30日参照)より
参考「諸外国の特別支援教育の状況」(文科省,2023年2月27日参照)より

③ 病休者数の増加

文部科学省によると、教員の病気休職者数は高止まりが続いています。例えば、精神疾患による病気休職者の推移を2016年度から2020年度にかけてみてみると、4891人、5077人、 5212人、5478人、5203人と5000人前後を保っています。

また、うつ病など精神的な病気が原因で休職する教員も増え、大きな問題となっています。NHKによると、精神的な病気で休職した教員は昨年度5897人に達し、過去最多となりました。文科省はその背景について、「コロナ禍での行事など、難しい判断が必要な業務が増えている影響も考えられる」と分析しています。実際、その影響もあってか、日本教職員組合が2022年に行なった調査によれば、一日の休憩時間が「0分」と回答した公立学校教職員は40.6%に上り、2021年の32.5%、2020年32.0%から大幅に増えたことが分かります。

なお、School Voice Projectでは教員の過酷な労働環境の一因とも言われる「給特法」についても記事をまとめています。

参考「令和2年度 公立学校教職員の人事行政状況調査について(概要)」(文科省,2022年12月30日参照)より
参考「精神的な病気で休職した公立学校教員 昨年度5897人 過去最多に」(NHK,2022年12月26日公開,2022年12月30日参照)より
参考「2022年 学校現場の働き方改革に関する意識調査」(日本教職員組合,2022年12月22日公開,2022年12月30日参照)より

④ 35人学級の導入

公立学校の学級編成などを定める義務標準法が2021年に改正され、同年4月から、公立小学校の全学年について学級人数の上限が40人から35人に引き下げられました。既に小学1年では35人学級が導入されていましたが、同年から段階的に、5年がかりで35人学級が全学年に導入されます。これに伴い、全国で新たに大量の教員を確保する必要が生じました。読売新聞によると、35人学級を実現するためには、少子化を考慮してもなお5年間で1万3500人以上の教員が必要とされています。

日本の教育現場では長年にわたり、他の先進国と比べて1学級あたりの児童生徒数が多く、35人学級の実現が大きな目標とされてきました。例えば2008年のOECD調査をみると、日本の国公立学校の学級平均児童生徒数は、初等教育28.0人(OECD平均21.6人)、前期中等教育33.0人(同23.7人)で、各国より際立って多い水準でした。日本より学級規模が大きい国は韓国、チリなどごく一部の国にとどまり、改善が急務だったことがわかります。

2021年3月に法改正が行われ、小学校の全学年について35人学級の導入が決められる際、当時の萩生田光一文科大臣は「少人数学級にしたほうが子供たちの学びはよくなるよね、学校が楽しくなるよね、子どもたちが明るくなったよね、多様な評価を皆さんでしていただいて、その成果を中学校、高校へとつなげていくことが必要だ」と国会で意義を強調しています。

少人数学級は学校現場の教職員が長年訴え続けてきたことでもあり、その実現は喜ばしい一方で、必要な教員数が増える=教員不足が発生する、というジレンマも生まれているということです。

参考「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律の一部を改正する法律の概要」(文科省,2022年12月30日参照)より
参考「小学校全学年を5年かけ『35人学級』に…改正法成立、上限引き下げは41年ぶり」(読売新聞オンライン,2021年3月31日公開,2022年12月30日参照)より
参考「一学級当たり児童生徒数 [国際比較]」(文科省,2023年2月25日参照)より
参考「小学校における35人学級の実現/約40年ぶりの学級編制の標準の一律引下げ」(文科省,2023年2月25日参照)より

教員不足の解決策は?

慢性的な教員不足は、授業の質の低下や、教育現場で活躍する教員の更なる負担増加を引き起こし、そして例えば「学級担任がいない」「教科担任がすぐ交代してしまう」などといった子どもたちの不利益につながりかねません。それでは、現状を改善するにはどうすればよいのでしょうか?

School Voice Project では、学校業務改善アドバイザーの妹尾昌俊さん、研究者の末冨芳さん(教育政策)と協力して「#教員不足をなくそう!緊急アクション」と題したキャンペーンを展開し、2022年に政策提言書を取りまとめました。この項では、その提言の概略をご紹介します。

① 【教員免許制度】【採用のあり方】に関すること(応急処置)

教員になる可能性がある学生や社会人に積極的に働きかけ、採用試験を受けるよう背中を押す必要があります。具体的には、教員免許を保有または取得見込みの学生に対し、教員採用試験の実施時期を前倒ししたり、教員になった場合に奨学金(日本学生支援機構)が返還免除となる仕組みの復活などが想定されます。また、教員免許を持つ社会人に対し、中学校免許があれば小学校での勤務を可能としたり、講師登録や採用前研修などを担う全国的な講師人材バンクを整備したりすることも有効かもしれません。

② 体質改善 【働き続けられる環境づくり】【働き方改革】に関すること

教育現場で激務が常態化していては、新たな人材が飛び込んできてくれることを期待することはできません。教育現場への就職を促し、そして離職を防ぐためには、教員が安心して働き続けられる環境作りが必要です。

施策としては、教員以外の専門職・支援員の増員や、育児や介護をしながら働く時短勤務・フレックス勤務の制度整備などが必要でしょう。保護者等とのトラブルや訴訟・紛争リスクを軽減するための相談制度や、使い勝手のよいICT環境の整備など、細かな改善の余地はたくさんあります。

③ 根本治療【教員定数】や【国庫負担(予算)】に関すること

安定した学校運営を確立させるには正規採用教員を増やす必要があり、そのためには結局のところ、十分な予算配分が必要です。現在、少子化がさらに進むという前提のもと、都道府県では教員の正規採用を抑えて非正規雇用を拡充させる傾向があります。都道府県に正規採用教員を増やすよう促すには、国が予算面で支えることが避けられません。

具体的には、教員の人件費について、国の負担割合を現在の3分の1(都道府県は3分の2)から2分の1に戻す必要があります。安定した財源のもとで少人数学級化を推進し、正規教員の人員を増やしながら、非正規教員の人数に上限を設定するなど、抜本的な施策が今こそ必要です。

※「#教員不足をなくそう!緊急アクション」の詳細については、School Voice Projectの特集ページもご参照ください。

全国の各教委や文科省の努力も

 もちろん、全国の教育委員会や文科省も、教員不足の現状にただ手をこまねいているわけではありません。文科省によると、例えば神戸市では35人学級による教員定数の増加や、特別支援学級数の増減等の予測を反映させた5か年の採用計画を作成し、長期的視点から教員の採用活動を進めています。また、福岡市では協定を結んだ大学の現役学生について、大学からの推薦に基づく特別選考を導入していますし、文科省による人材バンク「学校・子供応援サポーター人材バンク」を代替教員の採用に活用している自治体も34自治体に上っています。

さらに2022年11月、文科省は「年度途中での欠員補充が難しい」という教育現場からの声に応え、23年度から一定の条件の下、年度当初から代替教員を配置できるように運用を改めることを決め、全国の教育委員会に通知しました。

引用「『教師不足』に関する実態調査」(文部科学省,2022年12月30日参照)より
引用「産休・育休代替教員を事前配置しやすく 文科省、加配活用で」(教育新聞,2022年11月2日公開,2022年12月30日参照)より

まとめ

全国における教員不足問題は深刻化しています。文部科学省が2022年1月に公表した実態調査によって、公立小学校・中学校・高校・特別支援学校で合わせて2065人(2021年5月現在)の教員が不足していることが分かりました。

その原因は様々ですが、

  1. 第2次ベビーブーム世代の教員が大量に定年退職し、教員の若返りが進んだ結果として産休・育休取得者が増えたこと
  2. 特別支援教育を受ける子どもが増え、特別支援学校・学級への手厚い人員配置が必要になったこと
  3. 病気休職者が増えたこと
  4. 2021年から公立小学校の全学年で35人学級が段階的に導入され、その後の5年間で1万3500人以上の教員が必要になったこと

などが考えられています。

そして文科省は、今の時代にふさわしい教育体制として「個に応じた指導」を目指していますから、今さら時計の針を逆に戻すことは適切ではありません。教育現場で児童・生徒の個性に合ったきめ細かな指導をするためには、35人学級を大人数学級に戻すことはできませんし、特別支援教育をおそろかにすることもできません。ましてや産休・育休取得者の抑制は、教員が安心して働けない環境に直結してしまいます。ですから、教員不足問題を改善するためには、まず現状をしっかりと把握したうえで、抜本的な対策に至る道筋を見つけなければなりません。

School Voice Project では、「#教員不足をなくそう!緊急アクション」として政策提言書を取りまとめており、例えば学生が教員採用試験を受けやすくしたり、激務が続く教育現場の労働環境を改善したり、正規採用教員を増やすべく国が予算配分を改善したり、といった施策の導入を全国に訴えています。

もちろん、一部で明るい兆しもあります。

文科省は2022年11月、文科省は「年度途中での欠員補充が難しい」という教育現場からの声に応え、23年度から一定の条件の下、年度当初から代替教員を配置できるように運用を改めることを決め、全国の教育委員会に通知しました。また、全国の教育委員会では、正規教員の中長期的な採用計画を立てる動きが広がっています。

とはいえ、もちろん抜本的解決にはまだまだ至りません。安定した教育環境のもとで、全国の子どもたちが安心して学べる未来を築くために、School Voice Projectのアンケートや広報、PR活動へのご協力をお願いいたします。

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久保拓

1984年生まれ。2010年に全国紙の新聞社に入社し、地方支局・社会部・文化部などに所属。記者として各事件・事故や民事・刑事訴訟、国政選挙、教科書検定などの取材を経て2022年に退社し、現在はフランスに在住。

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