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【前編】生徒の多様性を受けとめる学校のあり方とは?オールマイノリティの学校、京都府立清明高校の挑戦

  • 建石尚子

京都市北区にある北大路駅を下車して約7分ほど歩くと、設立からそう年月が経っていないであろう新しい校舎が見えてきます。ここは2015年4月に昼間定時制の普通科、単位制の学校として開校した京都府立清明高等学校。

小学校や中学校で不登校を経験した生徒や、学校生活に違和感を抱いていた生徒も在籍しています。そんなマイノリティ(少数派)と呼ばれる生徒たちも含め、多くの生徒が清明高校では安心して過ごしているのだそう。

生徒たちがこれまで過ごしてきた学校と、一体何が違うのか。校長である越野泰徳さんと生徒支援部の山下大輔さん、そして生徒会の生徒たちへのインタビューを通して、清明高校の魅力を深掘りします。

※ 本記事は取材を行った2024年3月時点の内容を記載しています。また、取材時に校長を務めていた越野泰徳さんは現在退任されています。


教職員研修で生徒が自身の「困りごと」をスピーチ

「もう本当に、生徒たちが素晴らしくて。生徒の声を聞くことが先生にとって1番の学びになるし、自己変容につながるんです」

2023年10月に清明高校で開かれた教職員研修会「清明ダイバーシティピッチ」をそう振り返るのは、生徒支援部の山下大輔さん。研修会に集まった教職員や保護者、生徒に向けてスピーチをしたのは、同校に在籍する5人の生徒たちでした。

読み書きに困難がある学習障害の一種であるディスレクシアや感覚過敏、HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)、化学物質過敏症、性的マイノリティの当事者である5人が、学校生活の中での困りごとについて具体的なエピソードを交えながら話し、「困りごとに対して一緒に考えていきたい」と訴えました。その結果、教職員からは大きな反響があり「生徒について知っているつもりになっているだけで、知らないことが多かった」という声もあったと言います。

大勢の前で自身の困りごとを話した生徒たち。抵抗感はなかったのでしょうか?その疑問に答えるように、山下さんは研修前のやり取りをこう話します。

「自己開示をすることで、もしかしたら心ない言葉を耳にするかもしれません。生徒たちには『それでも大丈夫か?』と何度も確認しました。けれど、生徒たちは『やります』と言って、やり切ったんです」

そもそも先生への信頼や自分たちのアクションによって学校が変わる可能性への期待がないと、生徒たちが「先生たちに話してみよう」と思い、それを行動に移すことはないのではないでしょうか。一体何が、生徒たちの行動を後押ししたのでしょう。

その理由を、校長の越野泰徳さんは「生徒と先生が同じ方向を向いているからではないか」と言います。

「教職員が生徒から学ぶ清明ダイバーシティピッチには、教職員だけではなく他の生徒も聞きに来ていました。あれがすごいなと。興味津々で聞いているわけです。特定の生徒がカミングアウトするだけの場ではないし、先生と生徒が対峙しているわけでもない。みんなが同じ方向を向いて、学校を過ごしやすい場所にしていこうとする雰囲気があるんです」

障害は社会側が生み出している。社会モデルで当たり前を見直す

今でこそ「つまずきのある人もない人も共に安心していきいきと学ぶ学校」として知られるようになった同校ですが、4年前は学校の方針や教育活動のアップデートが必要なタイミングでもありました。

2015年の開校当初から勤める山下さんはこう振り返ります。

「開校時から『学びアンダンテ(自分のペースで、歩くような速さで学ぶ)』という学校の基本コンセプトはありましたが、教職員全員で目指すべき方向性が定まっていなかったんです。『進路実績を出さないといけない』『いや、それよりもまずは学校に来ることが大事なんじゃないか?』など、意見はバラバラで。私自身もどこに向かっていったらいいのかわからなくなっていました。それが、校長の越野先生が来てから徐々にいろんなことが変わっていきました。『目指すのはここだ』と示してくれたんです」

越野さんが清明高校の校長に就任したのは、2020年4月。授業内容や学校行事、校内のルールなどを生徒の実態に合わせて次々に変えていきました。例えば、生徒が欠席した際には必ず担任がその家庭に電話連絡をするルールがありましたが、現在は、その頻度を減らすようにしていると言います。それによって、生徒にとっては「毎日学校に行かなければいけない」というプレッシャーが減り、教員にとっては余裕を持って日常の業務にあたれることにつながりました。

また、以前あった「職員室では入り口から大きな声で先生を呼ぶ」というルールもなくなり、現在は職員室の入り口に置いてあるタブレット端末を操作して先生を呼べるシステムになっています。

「先生は、『職員室では大きな声で先生を呼ぶ力を身につけさせたい』と思ってしまうんです。でも、ちょっと待てと。『全員がハキハキとしゃべれなければいけない』という圧力が、生徒たちへのストレスになっているのではないかと考えなくてはいけない。それが原因で不登校になることだってあるんです。『これが普通』『これがいい』と思われていたことが、案外そうではなかったということは、学校だけではなく世の中でも多いと思いますよ」と越野さん。

土台となっているのは、「社会モデル」の考え方。障害は個人が抱えている問題であり、治療や個人の努力によって社会に適応すべきものだという考え方の「医学モデル」に対し、「社会モデル」は障害は社会側が生み出しているものだと考えます。

「職員室で大きな声を出して先生を呼ばなければいけない」という考え方は、まさに医学モデルがベースとなっています。その状況に苦しさを感じている生徒がいるのであれば、社会モデルをベースとした考え方でルールや仕組みを変えていくことで、生徒が居心地よく過ごせる学校づくりにつながっていくのではないでしょうか。

まずやってみる。生徒の笑顔で、教員は変わる

越野さんは学校の中にある「普通」や「当たり前」のおかしさにいち早く気づき、学校改革を進めていきました。

「今まで問題とされていなかったことを問題として見える化して、『こうやってみたらどうだろう?』と試していくのが好きなんです。ひねくれ者なんで、今まで通りの学校は嫌なんですよ(笑)」

穏やかな口調でそう話す越野さんですが、教職員が一丸となって学校を変えていくために必要なことを見抜く鋭い視点も持っています。

「立場が上の人であればあるほど、正しいことを言っちゃだめなんです。校長が正論を言うと、先生たちはそれに従うしかない。野球部の顧問が怖いから部員がいうことを聞いているのと同じです。表面的に変わったとしても、それでは意味がないんです。先生たちだって、ちゃんと自分の中で腹落ちしないと納得して動くことはできません」

先生たちが納得して動いていくために、越野さんがよく口にするのは「すぐやる、まずやる、ざっくりとやる」という言葉。完成度が低くても、失敗しながらでも、何度も繰り返しやってみて少しずつ前進していけばいい。そんな思いが込められています。

例えば、2023年度から行われている制服の見直しでは、2ヶ月間限定で校則を緩和する案が生徒会から出されました。その案に対して、「勉強をしなくなるのではないか」「生活習慣が乱れるのではないか」と不安を感じる教員もいたそうです。

「校則を緩和しても、絶対に大丈夫だという確信はありました。けれど、それを私が押し付けてはいけないと思っています。先生たちの不安も聞きつつ、『まずやってみよう』と言う。実際にやってみると、表情が明るくなり生き生きと過ごす生徒たちの姿を目にするんです。最初は不安を感じていた先生であっても、生徒のそんな姿を見ると、校則を緩和することに納得してくれます」

ここまでに紹介した越野さんの価値観や教職員全員で目指すべき学校像は、58ページにも及ぶ資料「ティーチャーズバイブル(理論編)」に示されています。令和5年度当初に越野さんが作成し、HPから誰でも内容を見ることができます。そこには、学校のミッション、ビジョン、バリューをはじめ、支援の方針や具体的なアクションプランが書かれています。

後編へ続きます。

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建石尚子

1988年生まれ。中高一貫校で5年間の教員生活を経て、株式会社LITALICOに入社。発達支援に携わった後、2021年1月に独立。現在は教育に関わる人や場を中心に取材や執筆をしている。「メガホン」の運営団体であるNPO法人School Voice Project 理事でもある。

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