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【#学校の居心地プロジェクト】Yogiboの設置で学校はどう変わった?三ツ星小学校での2ヶ月間の変化を取材

  • メガホン編集部

子どもも大人も居心地のよい学校をつくっていくために始まった「#学校の居心地プロジェクト」。その一環として、NPO法人 School Voice Project は2023年春から「#学校にYogiboを置いたら」という実証実験の実施を進めてきました。全国5つの協力校のうちの1つである静岡県の川根本町立三ツ星小学校では、GW明けから学校の図書室にYogibo(ヨギボー)を設置。

本記事では、Yogiboを設置してから2ヶ月がたった三ツ星小学校の様子をご紹介していきます。取材当日は上智大学教授で教育学者の澤田稔さんにもお越しいただき、Yogiboを設置した際の学習効果についてご意見をいただきました。

上智大学総合人間科学部教授、同教職・学芸員課程センター長。専門は、批判的教育学、カリキュラム・教育方法論。日本の学校現場だけでなく、米国の公立デモクラティック・スクールでのフィールドワークに携わってきた。最近は、「社会的に公正な教育」及び「学校教育における緩さの意味論」を鍵概念として研究を重ねている。関連訳書に『デモクラティック・スクール』(ぎょうせい、2013年)。その他の業績は https://researchmap.jp/minorusawada を参照。

全校生徒が使えるよう、図書室に設置

「Yogiboを置くことで場が柔らかくなって、自由の範囲が広くなることを期待していました。実際に、そうなったと思います」

そう話すのは、プロジェクトへの応募を提案した2年生担任の濵大輔さん。校長に相談すると、通常は置いていないものを学校に置くことに対して「面白い!」と思ってもらえたそう。話し合いの結果、Yogiboは図書室に置くことに。学校には共同のスペースが多くある中、なぜ図書室を選んだのでしょうか。

「どの学年の児童も使えるようにしたかったので、特定のクラスに置くことは考えていませんでした。さらに、ケアやリラックスというより、学習や創造的な活動につながるような使い方をしていきたいと思っていたんです。本校は図書室が2階の階段の目の前にあったので、学年を問わず多くの児童が使いやすいのではないかなと思い、図書室に置くことを決めました」

対話を重ね、図書室のあり方を考え直した

図書室は2教室に分かれており、Yogiboが置いてある教室には絨毯(じゅうたん)が敷かれ、もう一つの教室には畳やソファ、円卓が置かれています。並んでいるのは本だけではなく、ボードゲームも。このような環境が整ったのは6月頃でした。きっかけは以前から図書室を居心地のよい空間にしたいと思っていた濵さんの“ひらめき”だったと言います。

「休みの日に『あ、これだ!』ってひらめいてしまって、図書室のレイアウトを変えたんです。でも、月曜日にいきなり変わっていたら先生たちは動揺するだろうと思って、事前に変更の意図をお伝えしました。ただ、やはり少し抵抗感もあるようだったので、それをきっかけに『そもそも図書室ってどういう場所だろうか?』という問いについて、校長も交えて教職員3人で話をしたんです」

積極的に学校の改革を進めようとする校長の渡邉さんの姿勢も、学ぶ環境を見直す動きを後押ししました。

「新しい提案に対して、すぐにNGを出す教員はいないですね。本校は今年4月に川根本町の3つの小学校を再編して始まった小学校なのですが、それぞれの学校から来る教員で丁寧にコミュニケーションを取ってきたこともよかったのではないかと思っています。校長としても、新しい取り組みをする教員をサポートするような働きかけはしていきたいですね」

中には「図書室は、本を借りて読む場所ではないのか?」という意見もあったそうですが、話し合いを重ねていくと「子ども同士の関係をつくる場や、学習をしたり遊んだりできる場として使うのも良いのではないか」と意見が一致していきました。ただ、当然何をしてもOKというわけではありません。ブックセンター(図書委員)の子どもたちとも話し合いを重ね、図書室の使い方のルールについて全校児童に伝えていきました。

自然と子ども同士の交わりが生まれる空間に

それから1ヶ月がたった今、“本を借りる”という目的に限らず、さまざまな用途で子どもたちが図書室を活用するようになったと言います。

「ある朝2階に上がると、始業前の図書室の廊下に上履きが2足置かれていました。誰が使っているのかと覗いてみると、4年生の子たちが2人、仲良く並んで本を読んでいました。体を深くYogiboに埋めて、満足げな表情でしたね」

また、1、2年生の生活科の授業や5年生の「作家の時間※」、自律的な学習をする授業の中で、異学年が同時に図書室を利用することもあります。時に、子ども同士のちょっとした交わりもあるのだとか。

※作家の時間:児童一人ひとりが“作家”として文章を書き、1つの物語を仕上げていく時間。国語の授業内で実施している。

「5年生が図書室を出ようとしたとき、算数の問題に頭を悩ませる2年生の子の様子を覗き込み『あぁ、それやったことある』と言いながら、少しだけ助言をしていくこともありました。図書室という共用学習スペースと、自律的な学習をメインとした授業スタイルが掛け合わさると、異学年の子ども同士の関わりが自然と生じることは興味深いです。Yogiboの存在は、このような関わり合いの心理的なハードルを下げているのではないでしょうか」

さらに、澤田稔さんからは、Yogiboが子どもたちのストレス軽減にもつながっているのではないかというお話がありました。

「私が調査に通ったアメリカの学校には、各教室にピース・コーナーと呼ばれる教室内シェルターが設置されていました。小さいソファと砂時計、ストレス解消用にぬいぐるみやお手玉のようなボールなどが置いてあります。授業が嫌になったら、いつでも好きなときに学習から離脱して、そこに行って休んだり気持ちを落ち着けたりして、砂時計が最後まで落ちたら再び戻ってくるんです。これがスタティック(静的)なピース・コーナーだとすると、Yogiboは、ダイナミック(動的)なピース・コーナーになっているようにも見えました」

学習に向かう姿勢を、子どもたち一人ひとりが考える

休み時間や授業の中で活用されるようになったYogiboですが、設置直後からそうだったわけではありません。ある子が独り占めしてしまったり、学習に向かいながらもくつろぐことを目的にした使い方をしてしまったり。その度に、教員から児童にYogiboの使い方について問いかけてきたと言います。

あるとき、自律的な学習の時間に2年生の児童がYogiboにもたれ掛かりながら漢字ドリルに取り組んでいたそう。

「自律的な学習の時間は、基本的にどこで勉強をしてもいいんです。大切なのは、『自分にとってどこでどう取り組むのがより良い状態で学習に向かえるか』をそれぞれが考えることだと思っています。なので、Yogiboを使うことを一律に禁止しているわけではありません。ただ、Yogiboの気持ちよさに溺れて学習が疎かになっているのであれば、それは自分にとってよい選択とは言えません」

「どこで勉強するのが、自分にとって一番いいと思う?」そう問いかけられた子どもたちは、自分自身が集中して学習に向かえる環境を考えるようになります。時には、自律的な学習の時間に、Yogiboが全く使われていない場面もあるのだとか。

互いを大事にしながら、Yogiboを介してじゃれ合う子どもたち

取材の日も、自律的な学習の時間に図書室を利用する子どもがいました。Yogiboを椅子代わりにして机に向かう場面もあれば、Yogiboの上でちょっとしたじゃれ合いが始まることも。

その場面を、澤田さんはこんなふうに見ていました。

「ここに集っていた4人の子どもたちは、じゃれ合いながらもお互いをどこか大事にしている。お互いを粗末に扱わない。それは、周りのモノに対してもそうでした。ちゃんと一線を敷いて、適切な距離を取りながら言葉や行動を選んでいる。リーゾナブルなラインを定めて、リーゾナブルな言動に終始している。これはなかなかすごいことのように思えます」

さらに、Yogiboの効果について、「アフォーダンス(affordance)」という言葉を使って説明してくれました。

「Yogiboと人間の間には、アフォーダンスが存在していると言えます。アフォーダンス(affordance)というのは、「物と人の間に存在する関係性」のことです。米国の心理学者ジェームズ.J.ギブソンによる造語で、affordという動詞から来ています。affordは「〜の余地/余裕を与える」とか「…に〜を(自然に)提供する・醸し出す」という意味があります。

ギブソンは知覚心理学者なので、あるモノが私たちに何かの知覚を与えると、それによってある種の人間の行動を引き起こす余地を与えるとか、行動を引き出す機会を提供する、つまりは、あるもののあり方が人のある種の行動を誘発するというようなことを考えて、それをアフォーダンスと呼びました。例えば、体育館で子どもの手の届く範囲にロープを吊るしておくとします。まず間違いなく、子どもはぶら下がるわけです。

図書室の中では、Yogiboが子どもの動きを誘っています。まずはソファのように座りたくなる。しかし、それだけではないですね。飛び込む余地も与えています。Yogiboがなければ、図書室で『飛び込む』という動作はあり得ません。楽しそうですよね。ある子どもにとっては、学習に向かう・復帰するための精神的な安定を支える機能、ストレス軽減機能を持つかもしれません。

それに加えて、『ひきずる』という行動もありました。Yogiboはひきずれるというところが面白いですね。簡単に移動できる。さらにTくんは、Yogiboを(横長にですが)立てて、盾みたいにしている、ちょっとしたサンドバッグですね。Rくんも、ところどころで殴っている。あれを殴るのはいいですよね。安全だし、ストレス軽減になる。もちろん、寝そべる、下に埋まるなど、他にもいろいろ見つかるわけですが」

子どもたちの学ぶ環境を、問い続ける

三ツ星小学校では、Yogiboの設置によって学校の中にくつろぎの空間が生まれたとともに、子どもたちの自律的な学習にもつながっていきました。その状態に至るまでには、「Yogiboをどう使っていくのが良いのか?」「どんな環境が子どもたちにとっての最適な学習環境なのか?」を教職員同士で話し合い、子どもたちにも問いかけ続ける姿勢が不可欠だったのではないでしょうか。

最後に、濵さんは今後の活用についてこう話してくれました。

「自律的な学習の時間を設けている学年の先生と連絡を取り合い、Yogiboの使い方に関して『自由と責任』『集中とリラックス』の観点で議論していければいいなと思っています。そして、異学年が混ざって学んでいる時間であっても、一人ひとりの子どもがよい状態で学びに向かえる環境をつくっていけるといいですね」

学校にYogiboを置くことで、「学習が疎かになるのではないか?」「生活が乱れるのではないか?」そんな心配をされる方も恐らくおられるでしょう。確かに、今までになかった物を持ち込むことで「場の文化」が揺らぐことはその通りでしょう。ですが、それは場の雰囲気がやわらいだり、学習への向かい方に多様性を持たせる効果が生まれることでもあります。特に、濵さんが取り組まれているような自律的な学習や、子どもたちが学び方を選択できるような授業形態とYogiboというツールは親和性が高く、馴染みが早いことも今回の取材を通じて感じられました。

今後、同様にYogibo導入の実証実験を行なっている他の4つの学校についてもレポートやインタビューを掲載していく予定です。ぜひご期待ください。

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メガホンの記事は、教職員の方からの声をもとに制作しています。
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メガホン編集部

NPO法人School Voice Project のメンバーが、プロやアマチュアのライターの方の力を借りながら、学校をもっとよくするためのさまざまな情報をお届けしていきます。 目指しているのは、「教職員が共感でき、元気になれるメディア」「学校の外の人が学校を応援したくなるメディア」です。

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