学校をもっとよくするWebメディア

メガホン – School Voice Project

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学校では毎年4月1日から新年度がスタートし、非常に短い期間で新年度準備を行っています。この期間には、本来であれば教職員がしっかりとコミュニケーションをとりながら学校のビジョンや目標を話し合ったり、新年度の体制やカリキュラムを作っていくための時間を取りたいところですが、実際はそのような時間を取るのは難しいと言えます。

新年度準備期間が短いと、さまざまな準備に十分な検討を行うことが難しく、ひとまず前年通りで進めるしかなかったり、超過勤務や休日出勤が状態化しているという現状があります。

そこで今回のアンケートでは、現職の教職員のみなさんに、新年度準備期間についての困り感や、望ましい新年度準備期間の長さを伺いました。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2023年1月20日(金)〜2023年3月13日(月)
■実施方法:インターネット調査
■回答数 :179件

アンケート結果

設問1 2023年度の始業式は4月何日?

Q1. 令和5(2023)年度の始業式は4月何日の予定ですか。(必須)

始業式が行われる日は、4月5日から4月17日まで地域や学校によってばらつきがありました。傾向としては、始業式の日程が遅い学校は近畿地方と中国・四国地方、始業式の日程が早い学校は北海道・東北地方と関東地方に比較的多くあることがわかりました。

設問2 2022年度の始業式は4月何日?

Q2. 令和4(2022)年度の始業式は4月何日でしたか。(任意)

2023年度と同様に、始業式が行われる日は、4月5日から4月17日まで地域や学校によってばらつきがありました。傾向としては、始業式の日程が遅い学校は近畿地方と中国・四国地方、始業式の日程が早い学校は北海道・東北地方と関東地方、九州・沖縄地方で比較的多いことがわかりました。

設問3 準備期間が短いことの影響は?

Q3. あなたがこれまで経験してきた職場で、新年度準備期間が不十分なことによって起こってきた現象について教えてください。(必須)

校種別に見ると、小学校では全ての項目において「非常に当てはまる」「当てはまる」と回答した人は90%を超えていました。特に多かったのは、「異動者が必要な情報を得られない(99%)」「教科や学級の準備が不十分になる(96%)」「校務分掌の準備が不十分になる( 96%)」 でした。

中学校では、全ての項目において「非常に当てはまる」「当てはまる」と回答した人は80%を超えていました。「初任者の支援が十分にできない」 「異動者が必要な情報を得られない」「休日出勤や残業が増える」は、中学校に所属する回答者全員が「非常に当てはまる」もしくは「当てはまる」と回答しました。

高校では、「心身のコンディションが良好な状態で始業式を迎えられない(64%)」「休日出勤や残業が増える(73%)」の2項目は他の項目と比べて、「非常に当てはまる」もしくは「当てはまる」と回答した人が少ない傾向がありました。その他の項目は80%以上の人が「非常に当てはまる」もしくは「当てはまる」と回答しました。

設問4 “最低限”必要な準備期間は?

Q4. トラブル回避などのため、“最低限必要”な新年度準備期間は、4/1から何日間だと思いますか。(土日を除いて)(必須)

全体の約8割の人が、最低限必要な準備期間について「5〜7日」と回答しました。校種による大きな違いは見られませんでしたが、高校では準備期間に「10日間」必要だと回答した人は3割以上となりました。

設問5 “万全の状態”に必要な準備期間は?

Q5. “万全の状態で新年度をスタートするため”に必要な新年度準備期間は、4/1から何日間だと思いますか。(土日を除いて)(必須)

全体の約8割の人が、万全の状態にするために必要な準備期間について「7〜10日」と回答しました。校種による大きな違いは見られませんでしたが、高校では準備期間に「10日間」必要だと回答した人は3割以上となりました。

設問6 トラブルや困った経験は?

Q6. 新年度準備期間が短いことが原因で引き起こされたトラブルや困った経験を教えてください。(具体的なエピソードでぜひ)(任意)

教科や学級、校務分掌の準備が不十分

校務分掌の仕事が中途半端なままスタートしてしまった。【神奈川・小学校・教員】

主任・主事、部活動顧問がなかなか決定できず、スケジュールがずれ込んだ。【福岡・小学校・教頭/副校長】

入学式の準備が不十分(前年度の反省などの引き継ぎがされてなかった)。入学式の裏で、まだ教室準備をやっていた。【佐賀・中学校・事務職員】

新年度スタートからの準備期間が土日を除いて3日間しかなく、コロナ対応、タブレットの準備もあり、入学式の準備に不備が出た。タブレットの引き継ぎが教育委員会の準備が足りず、新学期のスタートに間に合わなかった。【新潟・中学校・教員】

児童生徒の情報共有や引継ぎが不十分

特別な支援の必要な生徒について情報提供がなされるも、顔と名前が一致しない状態で聞かされるため配慮の必要性について忘れてしまう。【島根・高校・教員】

子どもの顔と特徴は暗記した状態で望みたかったが、それをやる時間はとれず。春休み中に誕生日だった子の誕生日を把握もできない状況でした。【千葉・小学校・教員】

配慮の必要な子を間違えて覚えてしまう。保護者に全担任から聞いていませんか?と言われて何も言えない。【神奈川・小学校・教員】

クラスの児童に関する引き継ぎができず、対応の仕方がうまくいかず児童が不登校になった。【石川・小学校・教員】

児童の引き継ぎがあまりなされないまま新年度が始まって、保護者から新年度始まって1ヶ月後にその児童の重要なことを初めて聞かされ、きちんと引き継ぎをしてほしいとのクレームが来た。【大阪・小学校・教員】

教職員間で会議が不十分

スタートカリキュラムなど、新しく取り組みたい内容も準備が間に合わず、結局例年通りの内容をなぞるだけで4月が終わりました。【大阪・小学校・教員】

様々なことを「とりあえず決める」ということになり、後から変更することになったり、良くない方向でやらざるを得ないことになった。【東京・小学校・非常勤教員】

特に異動した場合、始業式入学式の流れをしっかり把握できないままスタートする。いつ何の会議があるのか、準備・心構えがしっかり出来ないまま参加することになり、内容も頭の中にキチンと入らない。【長野・小学校・臨時的雇用教員】

心身のコンディションが不良好

寝不足続きで会議に集中できなかったり、作成した文書にミスがあったり…。【北海道・中学校・教員】

休日出勤や大幅な時間外労働で体調を崩し、始業式・入学式は最悪の体調で過ごした。その後、1ヶ月は体調不良に悩まされた。【東京・小学校・教員】

始業式前に疲弊し、最初の1週間で笑顔が枯れた。回収する物のチェックが曖昧になり、出したか出していないかの行き違いが発生したことがあった。【香川・小学校・教員】

教職員同士のコミュニケーション不足

合意形成が全くできてないので、担任がそれぞれやりたいようにやり、仲が悪くなる。または、形式だけを合わせ、中身がないまま1年間取り組む。【愛知・中学校・教員】

クラス間での意思疎通の時間が取れずに、各々が思い思いに準備を進めた。結果として、職員間のトラブルが起き、人間関係が取れない1年となった。【神奈川・小学校・教員】

新任者・転任者との交流が十分にできないまま新年度が始まってしまい、毎年組織がチームになりきれない。校内研究の研究テーマやカリキュラムなどを十分に練る時間がないので、結局前年度の踏襲になる。【大阪・小学校・教員】

初任者への支援が不十分

拠点校の指導教員をしていますが、右も左も分からない初任者に、3日間で担任業務を準備させるのは物理的に無理です。【北海道・中学校・教員】

他の自治体から異動してきた若手が多すぎて、まずは指導方針についてのコンセンサスが取れない。新しい職員により改善点があれば検討する事はやぶさかではないが、そこまで辿り着けずに見切り発車することもしばしばである。【埼玉・中学校・教員】

異動者への情報共有が不十分

その学校のシステム(給食準備など)がわからず、子どもたちにも先生方にも迷惑をかけてしまった。【広島・小学校・教員】

県を越えての異動を経験しました。やり方や考え方もガラッと違うので、新しい職場のやり方を理解するのに時間がかかりました。【茨城・中学校・教員】

異動されて来られた先生方が、職員の名前や学校の雰囲気などをほぼ何もわからないままスタートし、手探りで1ヶ月を過ごすことになり、心身ともに疲弊していた。周りの先生方もその状況をフォローしようとして、自分の仕事を後回しにしてしまうことがある。【北海道・中学校・教員】

休日出勤や残業時間の増加

新1年生の担任のときは、春季休業中は土日も深夜0時を超えても職員室で準備の作業をしていました。【神奈川・小学校・教員】

会議で勤務時間はほぼすべて埋まり、教室の環境整備や教科指導の準備は夜間や土日に行っていた。(今年度は土日もないので準備が終わるイメージが持てない)【北海道・中学校・教員】

4月1日から育休復帰したが、(自分の子どもの)保育園の慣らし保育期間とかぶってしまった。担任だったので新学期準備などで、慣らし期間中ほとんど保育園の送迎に関われず、母や夫まかせになってしまい、子どもが不安定な状態になった。【兵庫・小学校・教員】

自分が初任だったときに、教室の装飾(最低限の時程表やラシャ紙と呼ばれる背景紙)に時間がかかり、始業式前日は20時、入学式の前日は21時まで残った。周りの教員も疲れていて、初任ながら気を遣った。朝から会議続きでくたくたで、入学式に不安が残った。【千葉・中学校・教員】

新学期の準備は、残業必須です。それが、初任者や異動者であれば夜遅くまで、休日も出勤しないと間に合いません。初任者や異動者は、4月1日にならないと勤務校に行けず、学校の情報もないため3月下旬から準備することができないからです。【滋賀・小学校・教員】

最も多く上がっていたのは、「教科や学級の準備が不十分になること」「休日出勤や残業が増えること」に関する内容でした。準備する時間が十分に取れないことで、やむを得ずそのまま授業をすることもあるようです。

また休日出勤や残業が増えることで、教職員の心身の疲労が溜まり、結果として教職員間や児童生徒との関わりに影響が出ていることが伺えました。

設問7 教育委員会や学校管理職等へ伝えたいことは?

Q7. 新年度準備期間について、教育委員会や学校管理職等へ伝えたいこと、あなたの考えや改善策などを自由にお書きください。(任意)

新年度の準備期間を伸ばしてほしい

新年度準備が間に合わなくて退勤が深夜になることや、連日の持ち帰り残業が続くので、せめて2週間は準備期間が取れるように行事予定を組んで欲しい。【北海道・中学校・教員】

準備期間が短いことで、「とりあえず前年と同じように」となっていることは課題だと思う。校務分掌で担当が変わっても、これまでの経緯や留意点などの共有ができないと、やはり「とりあえずそのままでやってみて、また考えよう(その「また」はやって来ない)となってしまう。【愛知・小学校・教員】

年度が変わって3日で入学式、翌日始業式というのはあまりにも日程に余裕がないです。学級びらきまでに十分な準備時間がないことで、学級経営に悪い影響があるとも感じています。現在、教室に冷房がついているため、夏季休業を数日短くし、その分を年度はじめにもってきてはどうでしょうか。【愛知・小学校・教員】

人事や異動の内示時期を早めてほしい

他県では異動の新聞発表なども4月にならないと発表できないみたいなので、3月上旬内示発表→4/1辞令交付→4/10入学式のように、辞令から出勤7日を空けないと入学式には間に合わないと思います。【北海道・特別支援学校・教員】

春休み期間中は比較的時間に余裕があるので、決まっているのであれば、管理職人事の前に校内人事を発表して、十分な準備期間を確保してほしい。実際、そのように運用している自治体、学校もあるので、揃えてほしい。【福岡・特別支援学校・教員】

業務内容の見直しや削減をしてほしい

提出資料を始業式前に要望しないでほしい。【埼玉・小学校・校長】

新1年生(の担当教員)のみ、負担が大きすぎる。1年生の準備は全体で分担して行うべき。【神奈川・小学校・教員】

報告、提出、作成の書類や帳簿、調査等は教員でなくてもできる内容です。教員は授業準備と教材研究に専念できるようにする必要がある。【茨城・小学校・教員】

新学期が始まるまでに、必要な会議、研修、教室準備等の設定以外に、フリーに使える時間を2〜3日は確保してほしい。学期当初の短縮授業期間を1〜2週間設定して、子どものことを学年で共有したり、年間カリキュラムをじっくり練る時間を確保してほしい。【大阪・小学校・教員】

働き方改革、業務効率化のための各種書類のデジタル化はトップダウンで行ってほしい。また、同期や近い年代で育休明け復帰からの退職者は私を含め3人いる。年度途中で辞めてしまった心苦しさからトラウマを抱える人もいる。慣らし保育期間は業務に入らなくても回るような、または早く帰れるような配慮や、子育て世帯が働きやすいようなサポート体制を確認し合う余裕があれば、育休明けの離職者が減らせるのではないかと思う。【東京・小学校・非常勤講師】

初任者への配慮をしてほしい

最低でも初任者には担任を持たせない配慮が必要です。【北海道・中学校・教員】

初任者の初日に行う初任研を春休み等の別の日に持ってきたら、もう少しゆとりをもって仕事か始められると思う。【静岡・小学校・教員】

年間授業時数の見直しをしてほしい

中学校の場合、この時期から授業時数を確保しておかないと、年間授業時数を確保できないという問題も大きいと思います。新年度の開始時期を遅らせる議論とあわせて、
①標準の年間授業時数そのものの削減
②45分授業・40分授業などを柔軟に認め放課後の時間の確保
③インフルエンザなどの学級閉鎖で時数が標準よりも一定少なくなっても柔軟に認めていき、年度当初から授業時数確保に追われなくていいようにする
などの対策がとられれば、新年度のスタートを遅らせる議論もすすんでいくのではと思います。【大阪・中学校・教員】

最も多く集まったのは「新年度の準備期間を伸ばしてほしい」という訴えでした。「春休みを伸ばしてほしい」という声のほか、「校内人事の発表時期を早めてほしい」「3月上旬に異動の内示をしてほしい」などの声もありました。また、業務内容の削減や効率化を求める声も目立ちました。

まとめ

始業式が行われる日は、2022年度、2023年度ともに地域や学校によってばらつきがありました。傾向としては、始業式の日程が遅い学校は近畿地方と中国・四国地方、始業式の日程が早い学校は北海道・東北地方と関東地方に比較的多くあることがわかりました。

最低限必要な準備期間は、全体の約8割の人が「5〜7日」と回答。万全の状態にするために必要な準備期間は、全体の約8割の人が「7〜10日」と回答しました。

新年度準備期間が不十分なことによって起こってきた現象については、全ての項目において8〜9割の人が「非常に当てはまる」もしくは「当てはまる」と回答しました。最も多く上がっていたのは、「教科や学級の準備が不十分になること」「休日出勤や残業が増えること」に関する内容でした。

具体的には「クラス間での意思疎通の時間が取れず、各教員が思い思いに準備を進めた」「児童の引き継ぎが不十分なまま新年度が始まり、1ヶ月後に保護者から重要なことを初めて聞いた」「異動して来た先生方が手探りで1ヶ月を過ごすことになり、心身ともに疲弊していた」などの声がありました。

教育委員会や学校管理職等へ伝えたいこととして最も多く集まったのは「新年度の準備期間を伸ばしてほしい」という訴えでした。その他、異動者や初任者への配慮、業務内容の削減や効率化を求める声も目立ちました。

 NPO法人School Voice Projectは、「教職員向けアンケート」に寄せられた学校現場の声と、「議員×教職員の対話会」で交わされた意見をもとに、以下の提言を作成しました。学校現場から大阪府議会議員選挙および大阪府下の市町村議員選挙の立候補者の方の皆さん、そして大阪府民の皆さんに向けて発信します!
 よりよい大阪の教育を共につくっていくため、教職員の声や学校の実情を、知っていただければ嬉しいです。そして、この提言を”対話の材料”としながら、今後も政治や行政の皆さんとの対話を重ねていけることを願っています。

▼アンケート結果の詳細と、対話会の様子はこちら


まずは提言のみPICK UP(詳細は後述)

部活動

①部活動の大阪モデルについて  
大阪モデルの具体的な制度設計や運用を考えるうえで、現場の不安や懸念を聞いてください。

②部活動の地域移行/外部委託について
児童生徒が安心して、安全に活動できるために、外部指導員の採用時の性犯罪歴等のチェックや誓約書の提出、研修や定期的な面接等の充実、待遇向上を進めてください。

特別支援教育

①特別支援学級及び通級による指導の運用について
大阪で行われてきた「原学級保障」を今後も維持すると共に、通常学級がインクルーシブになるための措置として十分な人員配置や少人数学級化を進めてください。

②特別支援学校について
特別支援学校については、環境改善のため、教員数と教室数、予算の確保をしてください。

統廃合

大阪府立高校の再編整備計画における、3年連続して定員に満たない学校は再編整備の対象とするという基準を見直し、生徒の家庭環境、学校の特色や地域性、交通の便や地理的要件など多面的な条件を考慮した新たな基準をつくってください。

校則

「子どもの権利」を中心に置いた校則の見直しができるよう、子どもの権利条約やこども基本法の理念を学校現場にも市民にも、積極的に発信してください。 
(学校現場での自治的な取り組みを通して、校則見直しを進めていけるように応援してください)

児童生徒の評価

①チャレンジテストについて
評定範囲の調整に活用されるチャレンジテストは、廃止の方向で見直しをしてください。

②観点別評価について
観点別評価における大阪府独自のルールについて「進路」「学力」「授業のあり方」「学校生活の送り方」「教員の負担度」の5つの面への影響を検証して公表し、このまま続けるかどうかの判断をしてください。

大阪の教育(全体を通して)

教職員が児童生徒にしっかり向き合うために、また心身ともに健康に働き続けられる環境づくりのために、大阪府独自の予算で正規の教員を雇用し、学校現場の人員を増やしてください。

2023年3月26日公開
作成主体:NPO法人School Voice Project
賛同者:大阪大学教授・佐藤功 / 大阪公立大学教授・辻野けんま /
近畿大学教授・冨岡勝 / 近畿大学特任教授・吉岡宏 /


はじめに

 NPO法人School Voice Project では、2023年の1月〜2月にかけて、大阪府下の現職教職員と元教職員を対象に、「議員さんに伝えたい!大阪の学校教育の実情​​」と題したアンケート調査を実施。1月29日と2月19日には、大阪府下の府議会議員の方、各市町村議会議員の方、また4月の統一地方選挙に出馬される候補者の方に呼びかけをして、直接対面での対話会を企画・開催しました。これは、大阪維新の会が主導して制定した「教育基本条例」ができて10年という節目も意識した取り組みでした。この間、大阪ではどんなことを目指して教育改革が進められ、その成果はどうだったのか。条例ができて、学校現場はどのように変わったのか、変わらなかったのか。これまで行われた施策を振り返り、学校現場の現状を把握し、今後の大阪の教育を考える必要があると考えています。

 私たちは、アンケートに寄せられた学校現場の声と、対話会で交わされた意見をもとにして、今回、この選挙前のタイミングで、直接的には大阪府議会議員選挙および大阪府下の市町村議員選挙に出馬される方々に、また間接的には広く大阪府民の皆さんに向けた提言を現職教職員メンバーで議論しながら作成しました。今回は、大阪の教育現場で関心が高いと思われる「部活動」「特別支援教育」「校則」「学校統廃合」「児童生徒評価」という5つのトピックと「大阪の教育(全体を通して)」についての提言です。ぜひ学校現場発の提言に目を通し、耳を傾けていただければ幸いです。

 この提言は、地方議員選挙に合わせ、議員候補者の皆さんに向けて現場の声を届けると同時に、大阪府民の皆さんにも現状を知っていただきたいとの思いで、公開します。学校現場と政策現場(議会と行政)と市民が一緒になって対話・議論を重ね、本音で語り合うことで、引き続き、子どもも大人も幸せな、よりよい大阪の学校教育を共に目指していきたいと思います。

※School Voice Projectは大阪だけの活動ではなく、全国ネットワークです。今回の提言は大阪の学校教育に関するものですが、これは大阪エリアのメンバーの自主的・主体的な動きによって作成されたものです。このような動きが、他地域でもできるように、今後も活動を広げていきたいと考えています。


部活動

学校の現状と施策状況

①部活動による教員の超過勤務が問題になっており、今回弊団体で実施した大阪の教職員向けアンケートでも現場からも部活動に関わる教員の働き方改革が必要だとの声が多数あがっています。国では中学校の部活動を地域の指導員やスポーツクラブなどに段階的に移行する方針を示しています。

②また大阪府教育委員会は、2022年11月、大阪府立高校の部活動について、近隣の複数の高校でペアをつくり合同運営する案「部活動大阪モデル」を発表し、来年度からすべての府立高校で導入を検討していくとしました。少子化の影響による生徒数減少、教員の負担軽減を背景にしているとのことです。
(参考:https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/25821/00000000/03_R4_2_bukatsudou.pdf

SVPに届いている現場の声

  • 現在、中学校の多くでは、全員顧問制(お願いという名の強制)である。顧問を希望する・しないを選べるようにしてほしい。【中学校・現職教員】
  • 土日放課後と時間外勤務になり、子育て世帯の父親への配慮もないため、とても負担です。【高等学校・現職教員】
  • しんどい、待遇がひどい、交通費もでない【中学校・現職教員】
  • 部活動は子どもにとっては学校生活の大切な一部分である。【小学校・現職教員】
  • 現職の教員の思いはさまざまだと思います。また各学校の実態もさまざまだと思います。是非、現場の意見を実際の目で見て耳で聞いて心で感じてご判断していただきたい。【小学校・現職教員】

①外部委託について

  • (安全面等)外部委託した場合の生徒たちの身体的心理的安全も確保することが重要と考える(パワハラ指導、性的な問題にならないなど)。【小学校・現職教員】
  • 部活がやりたい教員は引き続きやれるということを担保した上で、基本的に学校の仕事ではないという整理はよいと思います。ただ、家庭の費用負担が発生することで経験格差が生まれかねないことや、地域によっては担い手が見つからないこと、責任の所在が不明瞭になり生徒に不利益が生まれたり、結局学校負担が減らないことなどは起こりかねないので、その辺りの丁寧な制度設計が重要ではないかと思います。【小学校・元教員】

②大阪モデルについて

  • 「部活動大阪モデル」は、生徒に事故が起こったときに誰が責任をとるのか等考えると、結局付き添い教員・指導をする教員の数を減らすことができず、教員の負担軽減につながるとは思えません。【高等学校・現職教員】
  • ペアを組むことで労働時間は減りますが、心理的負担は増えると思います。【高等学校・現職教員】
  • 現場は混乱し、生徒にも皺寄せが起きる。またペアリングできない学校もあり不公平。【高等学校・現職教員】

提言

提言①:部活動の地域移行/外部委託について
児童生徒の安心・安全の担保のために、外部指導員の採用時の性犯罪歴等のチェックや誓約書の提出、研修や定期的な面接等の充実、待遇向上を進めてください。

 児童生徒に直接関わることになる外部指導員の質の担保は必須です。体罰やセクハラ、勝利至上主義による苛烈な指導など、部活動の中で起こりやすい被害やマルトリートメント(不適切な指導・扱い)を避けるために、外部指導員登録の際の面接だけでなく、定期的な面接や研修(内容例:体罰をしないことの徹底、怒鳴らない指導の仕方、アンガーマネジメント、カウンセリングマインド、民主的な部活動運営など)を充実させてください。

 これは今後、希望する教員が兼業で部活動を指導する際にも必要なことです。教員であれ、外部指導員であれ、部活指導者への学習機会を保障し、不適切指導を防ぐための体制を確立してください。また、これらのことを部活指導者に求めるうえでは、その労働や研修等の負荷に見合った給与もしくは手当を出したり、待遇を向上させたりする必要もあります。そうでなければ、必要人数を確保することは困難だと思われます。このことも合わせて進めてください。

提言②:部活動の大阪モデルについて
大阪モデルの具体的な制度設計や運用を考えるうえで、現場の不安や懸念を聞いてください。

部活動に関する働き方改革の必要性は、多くの教職員が感じているものの、大阪モデルについては、現場で実際にその運用を担うことになる教員から、具体的な懸念や不安がたくさん集まりました。そこには、実際の運用が成功するためのヒントがたくさん詰まっています。丁寧に汲み上げ、具体的な制度設計に生かしてください。

◎具体的には・・・

  • 部活動を担当したい/できる教員がどれくらいいるのか調査し、明らかにしてください。
  • すでに近隣校と連携している部活についてはそれを活かせないかどうか、マッチングを再検討してください。
  • 2校の部活を担当する顧問の負担増加が予想されるので、負担軽減策を検討するとともに、今まで以上の手当てをつけるなどの配慮をしてください。
  • 2校の部活動を担当する場合業務量が増えるので、業務を効率化して超過勤務が増えないようにしてください。(ex,提出書類が2枚になるところを、1枚にまとめることを認めるなど)移動中の事故等の責任の所在を明確にし、生徒に不利益にならず、教員の負担増大にもならない方法を検討してください。

特別支援教育

学校の現状と施策状況

①通常学校においては、​​2022年4月に文科省から「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について」という通知が出され、特別支援学級に在籍している児童生徒については、原則として週の授業時数の半分以上を目安として特別支援学級において授業を行うことが求められることになりました。大阪では長年、特別支援学級在籍であっても多くの時間を通常学級で共に学ぶ「原学級保障」の取り組みが行われてきたことから、特に大きな影響が出ています。

②大阪では、特別支援学校において、2021年10月の時点で528室(文科省「2021年度 公立特別支援学校における教室不足調査」)という、全国ワースト1位の教室不足が発生しています。1学級の定員以上に児童生徒を学級に詰め込む「圧縮学級」も行われており、特別支援学校設置基準で定められている、小学校・中学校の1学級の児童生徒数は6人以下、高等部では8人以下という数字を大きく上回って、1クラス10人以上の学級で運営されている学校もあります。教員不足も深刻で、児童一人当たりの予算も年々減少しています。予算についても、増え続ける児童生徒に対し、十分に確保されておらず、児童生徒1人あたりの教材費の平均予算は、2008年度時点で6000円を超えていたものが、2016年度は4000円を下回ってしまっています。
(参考:http://fc06331220171211.web2.blks.jp/pdffiles/kokusyo.pdf

SVPに届いている現場の声

  • 支援学校では、子どもは増えているが、逆に予算はどんどん減っている。教員配置が厳しくなっている仕組みの存在がある。小中学校では、ふつう子供が増えれば教員も増えるが、支援学校はそうではない。寝屋川市では、 枚方市に支援学校ができたことで、子どもの数が一時的に減ったが、数年で以前を超える子どもの数となった。しかし教員は増えない。どの支援学校も教員、教室、予算不足の三つ巴が実態だ。ようやく支援学校の劣悪な状況が、明るみに出てきた状況。ひどいところでは、職員室に机がなかったり、玄関で授業していたりしている。【特別支援学校・現職教員】
  • 通常学級在籍であっても、十分な支援や配慮が得られるなら、支援学級籍でなくてもかまわないと考える保護者は多いと思うが、突然通知のように時間数で区切ってしまうなら、支援学級から追い出されて通常学級で、人的配置などの支援のない中に突然入れられる、という不安が大きいと思う。通常学級籍へというのなら、今までしてきたサポートが維持できるよう、人的配置や環境整備を整えるべきだと思う。【中学校・現職教員】
  • 大阪はともに学び、ともに育つ教育をすすめてきたと思う。課題がないわけではなかったと思うが、今回の通知によってこれまでのとりくみが潰れることのないように、インクルーシブ教育を発展させていくようにしてほしい。【中学校・現職教員】
  • 他県から大阪にきたときに、子どもたちの距離感の近さに驚くとともに、互いのあるがままを認め合っているさまに感動しました。教員の質を上げていけば、大阪スタイルこそが世界に通ずる形です。【中学校・元教員】
  • 日本のクラス規模は先進国に比べると圧倒的に大きく、40人規模のクラスでは、子どもたち1人1人に合わせて対応することは難しい。また学習指導要領の内容事項も非常に多いため、一斉授業形式で授業するしか仕方ない状況にあると思います。そのような状況の中で、支援学級の子どもが通常学級の学習に参加すれば、そ
  • 子どもたちのつながりを大切にしてほしい。通常の学級にいる子どもたちにとっても、学校は共に学ぶ、共に生きることを実感できる場であると考える。隣に座っているクラスメイトを、その人をその人としてお互いに認めることができる環境が学校であると思う。通常の学級の定数を減らして、少人数環境の中で、教師もゆったり構えられると子どもも大人も過ごしやすくなるのではないか。少人数学級もしくは、複数担任制ができるといい。【小学校・現職教員】

 弊団体の行ったアンケートでは、「他の多くの都道府県と同様に、通常学級在籍で担任のできる範囲の支援を行うか、特別支援学級に在籍して基本的に支援学級で学ぶか、選ぶようにすべき」という回答を選んだ教職員は13.4%で、7割以上の教職員が、今までの大阪の原学級保障の取り組みを今後も維持していくべきだと考えています

提言

提言①:特別支援学級及び通級による指導の運用について
大阪で行われてきた「原学級保障」を今後も維持すると共に、通常学級がインクルーシブになるための措置として十分な人員配置や少人数学級化を進めてください。

 障害のある子どももない子どもも、共に学び共に過ごすことを実現する大阪のインクルーシブ教育は先進的で価値のあるものです。今後も「原学級保障」の取り組みを維持してください。
 現在大阪のみならず全国的に、支援学校や支援学級に在籍する児童生徒数や通級を利用する児童生徒数が増加しています。結果として学ぶ場が分離されていくこの問題を解決するには学習が昔に比べて複雑化・高度化していることや、よりきめ細やかな指導が求められていることなどがその背景にあるとされていますが、そういった問題を解決するためには、通常学校・通常学級が多くの子どもたちにとって、よりインクルーシブで学びやすい環境になっていく必要があります。そのために、専門性の高い教職員や支援員を配置し、府独自での少人数学級を実現してください。

提言②:特別支援学校について
特別支援学校については、環境改善のため、教員数と教室数確保、予算の確保をしてください。
 現在、府下の特別支援学校では、教室不足を補うために、図書室や図工室、教材室などを普通教室に転用しているところもありますが、それでも追いつかない状態です。学級定員についても、小学部で11人学級、中学部では13人学級、高等部では12人学級で運営されている学校があることが明らかにされています(大阪の障害児教育をよくする会『障害のある子どもたちに当たり前の学習環境を:府立支援学校の実態』)。
 特別支援学校で現在起こっている「過大・過密」「教員不足」「予算不足」の問題を放置することは、児童生徒の安心安全や学習権・発達権の保障の観点から、大きな問題です。また、勤務する教職員の負担も非常に大きく、持続可能な就労状況ではありません。これらの問題の解決のために、教員確保・教室数確保・予算確保を進めてください。

統廃合

学校の現状と施策状況

 少子化を背景に、大阪府下において学校統廃合が進んでいます。府立高校については、2012年に制定された「大阪府立学校条例」で「入学を志願する者の数が三年連続して定員に満たない高等学校で、その後も改善する見込みがないと認められるものは、再編整備の対象とする」とされ、「再編整備計画」に基づき、2023年度発表された3校を含めて、この10年間で府立高校と大阪市立高校、合わせて17校の「廃校」が決定しています。

SVPに届いている現場の声

  • 府立高校が一校もない市がある。子どもが家を出る時間が30分早くなると、どれほどの影響がその家庭に及ぶのか、政治家は考えたことがあるだろうか。共働き、一人親世帯の朝から晩までの生活の何を知っているのか?統廃合を進めるのなら、学校の始業時間を遅らせ、終業時間も早めるべき。【高等学校・現職教員】
  • 私立高校は、すべての生徒が選べるわけではない。授業料は無償化でも高額な入学金や諸費用、修学旅行費が払えない生徒は私学へ行けないし、障がいのある生徒も、公立高校はすべて受け入れるが私立高校は「○○が自分で(自費で)できない場合は入学ができない」ということがある。格差がどんどんと広がっていき、手がつけられない状況になりつつある。こんな不公平をほおっておいてはだめだと思う。【中学校・現職教員】
  • 本校では100人近くの生徒が入試で落ちています。その100人は私立に流れます。 一方、その100人が別の府立高校を受験していれば統廃合にならなかった学校もあるでしょう。政治決定で府立高校が競争をさせられ、定員割れをした学校は「頑張っていない学校」という烙印を押される。もやもやが止まりません。【高等学校・現職教員】
  • 学区撤廃とセットで、定員割れの高校の統廃合を進めたことで高校の二極化がより進んだように思います。市場原理的に不人気な学校から潰していこうという考えでは、どうしてもしんどい子どもの受け皿となっていた学校から統廃合の対象となってしまいます。一方、文理学科などの人気校は倍率が上がり年々競争が激化しています。そうなると、学校だけの授業では勝ち抜けないため、経済力のある生徒はお金をかけて塾にいきます。そう考えると、結局は経済力のある生徒は人気校にいけるけれども、社会経済的に厳しい子どもは行き場がないということになります。【中学校・現職教員】
  • 現在統廃合対象普通科の高校に勤務しています。(中略)本校最後の入学生は、半数が中学校まで不登校を経験した子どもでした。高校から心機一転学校には行きたいが、積み重ねがないので学力的に進級が難しい、登校のリズムも整わない、人間関係には課題を抱えがちと、問題はかなり多い(エンパワメントスクールも見学しましたが、学力は本校の生徒の方が厳しいものがある)。工業高校にも 支援学校にも希望が合致しない、普通科で学びたいこういった子どもたちは、これからどこに行くんだろうと、とても心配です。【高等学校・現職教員】

提言 

大阪府立高校の再編整備計画における、3年連続して定員に満たない学校は再編整備の対象とするという基準を見直し、生徒の家庭環境、学校の特色や地域性、交通の便や地理的要件など多面的な条件を考慮した新たな基準をつくってください。

 少子化が進む現在、子どもの数に見合った学校数にしていく必要があることは理解しますが、「3年連続定員割れで統廃合の対象とする」という一つの基準のみで統廃合を進めた結果、大学進学を特色とする学校は残り、地域や教育の課題と向き合ってきた学校から廃校になっていくような状況が生まれています。

 定員割れをおこしている学校には、不登校やヤングケアラーと呼ばれるような家庭の事情で学べる環境にないなど様々な課題を抱えた子どもたちが多く通っている実態があるという声が、弊団体が実施したアンケートでは多く集まっています。日本の高校進学・卒業率の高さや、支援が必要な子が全日制高校を卒業することの意義を考えると、貧困の連鎖を断ち切る役割を担っている、このような学校がどんどん廃校になることは、支援を要する子どもたちから学びの場を奪うことにつながり、公教育として問題です。

 現在の3年連続して定員に満たない学校を廃校にする条例を見直し、「生徒の家庭環境や置かれている状況」、「学校の特色や地域性」、「交通の便や地理的要件」など多面的な条件を考慮した新たな基準をつくるべきではないでしょうか。単に学校数を減らすことを目的とするのではなく、子どもの学びを保障するという観点から、府立高校の再編整備計画を見直してください。

校則

学校の現状と施策状況

 2017年に、大阪の府立高校での頭髪指導に関して、「頭髪が生まれつき茶色いのに、学校から黒く染めるよう強要され精神的苦痛を受けた」との訴訟が起こりました。それを発端に、問題のある校則をなくそうという動きが全国的に広まり、校則の見直しの動きが進んでいます。今年度(2022年)には、“生徒指導のガイドブック“として位置付けられる「生徒指導提要」が12年ぶりに一新され、「校則について確認したり議論したりする機会を設けることの必要性」が明記されました。
(参考:https://megaphone.school-voice-pj.org/2022/12/post-2366/
    https://mainichi.jp/maisho15/articles/20230114/dbg/048/040/009000c

SVPに届いている現場の声

  • 不要な校則や、子どもの人権を侵害する校則がたくさんあり、変えていくべきだと思います。【中学校・現職教員】
  • 子どもの権利条約を大人も子どももしっかりと知ることが重要。【小学校・元教員】
  • 制服のあり方について生徒議会を中心に議論を重ねました。想像をはるかに超えて生徒たちはしっかりと考え、相手の意見を受け止め、議論を行いました。その姿に本当に感動し、今まで生徒抜きで決めていたことを反省しています。〜中略〜 生徒抜きで生徒たちのことを決めてはいけないのです。【中学校・現職教員】
  • 生徒や教職員の意見が尊重される文化が広がってほしいと思う。課題のある校則を変えていくことも大切だが、生徒が疑問をなげかけても「きまりだから」と聞いてもらえないとか、提案し多くの賛同が得られても、管理職の意見一つで却下となる実例が実際にあり、こうしたことが見直されるようになってほしい。【中学校・現職教員】
  • 学校は生徒を守る場所のはずが、生徒を苦しめる場所になってしまっている場面はないだろうかと考えることがある。また、過ごしやすさが軽視されているように感じる場面もある。もちろん、集団生活の中で過ごすことを学ぶことも大切だが、必要以上に大人の当たり前を押し付けてはいないだろうかとも考える。【高等学校・現職教員】
  • トラブルや地域からのクレームを恐れて厳しくなる一方だと思いますが、生徒たちとじっくり校則について話す機会もなかなか取れません。【高等学校・現職教員】
  • 毛を染めている。服装が乱れている。このことが「指導できていない学校」「勉強できない子だ」という周りの市民からの目がある限り、校則を変えるのは厳しいなと思う。【高等学校・現職教員】
  • 日本の社会として、「きちんとした服装」「黒髪がノーマル」というように考えられているのは否定できないかと思います。学校だけが理不尽な指導をしているわけではなく、社会の要請を受けている部分もあり、「学校だけが変だというような」論調には疑問を感じます。個人的には、小学生から、自らのことにかかわる事項についてきちんと議論して、それに対するコストも払うこと自体を体験し、学んでいくことが必要だと思いますが、この点をするのであれば、その時間をきちんと確保する必要がある。つまり教員の働き方などを考えれば、教科の時間を減らすようなことも併せてしなけば、教員の負担増となってしまうのではないでしょうか…【高等学校・元教員】

提言

「子どもの権利」を中心に置いた校則の見直しができるよう、子どもの権利条約やこども基本法の理念を学校現場にも市民にも、積極的に発信してください。
(学校現場での自治的な取り組みを通して、校則見直しを進めていけるように応援してください)

 アンケートでは、「問題のある校則がある」と感じ、積極的に見直すべきと答えた教職員が90%以上でした。しかし実際には、持ち物から靴下、防寒着にいたるまで、非常に細かく決められていることが多々あります。2022年に改訂された「生徒指導提要」には、「子どもの権利条約」の内容が示されましたが、条約の認知度は学校現場において高いとはいえず、校則の検討にあたっても「子どもの権利」がまだまだ議論の中心にならない状況があります。校則の緩和によって「保護者や地域の目が厳しくなるのではないか」「企業の心象が悪くなり就職に悪影響が出るのでは」という懸念も教職員にはあり、その意味で、条約を知り、理解する必要があるのは現場の教職員だけではありません。政治や行政の現場から、子どもの権利条約やこども基本法の理念と内容を積極的に発信し、ボトムアップでの校則見直しを後押ししてください。

<補足>
 子どもの権利条約では子どもの育つ場で、子どもの権利が守られるようにすることも、国や行政の責任に求められています。校則について教職員の間で話し合う時間をとれない学校の多忙な状況も、見直しに着手するうえでの大きなハードルになっています。子どもの権利が守られるルールづくりを進めるため、子どもや大人が十分に議論する時間や機会を確保できるよう、現場への人員配置や働き方改革の推進などの手立ても同時に進めてください。みんなで議論して、子どもも大人も納得して決めたルールを、みんなで尊重する学校をつくっていけるように応援してください。

児童生徒の評価

学校の現状と施策状況

①大阪府下の中学校では、独自のチャレンジテストが実施され、高校入試の際の「調査書」の評定の調整に活用されています。評定の数字の持つ意味が学校ごとに違うのは不公平という賛成意見もある一方、この仕組みが学校間の過度な競争や学力偏重の学校文化が強化されるという批判もあります。
(参考:https://www.pref.osaka.lg.jp/shochugakko/challenge/r04jissiyouryou.html

②大阪府立高校では、2022年度から全国の高校で始まった観点別評価を運用するにあたり、3観点(「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」)をすべて同じ割合(1:1:1)にして評定を算出することが独自に決められました。※文科省の指針では、評定は「観点別学習状況の評価の結果を総括するもの」とされており、他の地域ではこういった運用はされていません。

SVPに届いている現場の声

①チャレンジテストについて

  • チャレンジテストは「団体戦」だが、高校入試は個人が受けるもの。子どもの学力の背景に家庭環境や地域格差がある中で、学校規模で評定の範囲が定められるのは、子どもたちにとって本当に公平なのか疑問が残る。【中学校・現職教員】
  • このテストにより「あいつこなかったらいいのにな」というような学力が低い子どもへの排除の感情がこどもの中で生まれている。学校教育は勉強だけができればいいわけではない。公教育のあり方を根本から崩してしまう。【小学校・現職学校職員】
  • 学校ごとの生徒数、学力分布、保護者の経済的状況などによって結果は大きく左右され、住んでいる地域によって不公平が生じているし、学力のしんどい生徒に自信を失わせ、教員を疲弊させている。教員を信頼し評価を任せてもらいたい。【中学校・現職教員】
  • なんのための評価か本末転倒になっていることが多い。中学校は、チャレンジテスト対策に追われている。公立学校が塾化している。【中学校・現職教員】

②観点別評価について

  • 3観点を1:1:1にするのは本来の趣旨から外れてしまっていると思う。理想の姿を絵に描いた餅にしないように苦心の末の案だとは思うが、現場では採点や成績評価に関わる業務が何倍にもなったため、観点別評価へのアレルギー的反応が強く出てしまっていることが残念極まりない。【高等学校・現職教員】
  • 観点別評価自体の目指すところは良いと思うが、これを1クラス40人学級、現在の大学入試のあり方が続いているままで有効に実施していくことは無理だ。観点別評価になり、評価物が増え、評価の仕方も煩雑になっているにも関わらず何も負担が減らされず、現場は非常に苦しんでいる。表面的な観点別評価をやるための課題が課されるなど、生徒にとってもプラスになっているとは思えない。【高等学校・現職教員】
  • 観点別1:1:1では生徒の力を正確に評価することは不可能。大学受験の時などは他府県の受験生と比較して大阪の生徒は損である。【高等学校・現職教員】

提言

提言①:チャレンジテストについて
評定範囲の調整に活用されるチャレンジテストは、廃止の方向で見直しをしてください。

 アンケートでは、チャレンジテストで評定範囲が決められるというシステムには、大多数の教員が反対の意見を示していました。なかでも多かった意見は、チャレンジテストは団体戦であり、「生徒個人個人の評価の公平性が保てていない」「低学力の生徒への排除的感情が引き起こされている」という点です。学校単位で比較しても、特に社会経済的背景が厳しい地域の学校では、評定を低くつけなければならず、チャレンジテストによって不利な立場においやられている生徒が多く出ており、大阪全体で進学先の二極化が起こってる可能性があります。
 また、教員にとっては、チャレンジテスト対策のための授業をやらざるを得ないという本末転倒のようなことも起こっています。日々生徒と向き合うなかで出した評価が、チャレンジテストの結果で定められる評定範囲によって変えられることも職業的専門性を信用されていないと感じられ、納得しづらいものとなっています。
 チャレンジテストについては、評定を調整する材料にするという点において、公平性の担保や教育格差是正、子どもたちにとって安心安全な学校文化の担保の観点から、問題があると言わざるを得ないと考えています。廃止に向けた見直しをしてください。

提言②:観点別評価について
観点別評価における大阪府独自のルールについて「進路」「学力」「授業のあり方」「学校生活の送り方」「教員の負担度」の5つの面への影響を検証して公表し、このまま続けるかどうかの判断をしてください。

 アンケートでは、この大阪府独自のルールについては、「賛成」(「どちらかというと賛成」を含む)は約18%であり、「反対」(「どちらかというと反対」を含む)は約66%であることから、教育現場では支持されているとは言えない状況があります。自由記述では、「偏りがない」「観点が広い」として賛同する声がある一方で、「柔軟性がない」や「教科や学校ごとの違いを反映できない」「大学入試で不利益が出る可能性がある」として見直しを求める声も多数見られます。私たちは、以下の5つの面について、このルールの影響の検証が必要だと考えました。

●進路・・・学力上位層の評定が他府県と比べて低くつくなど受験の際に生徒への不利益が出ないか、奨学金の貸与・給付基準を満たせない生徒が増えないか、など。
●学力・・・基礎学力やいわゆるテストで測られる力が下がっていないか、逆にプレゼン力や問題解決力などが向上しているかどうか、など。
●授業のあり方・・・反復学習やインプットの時間が減っていないか、協働学習やプロジェクト学習が増えているかなど。
●学校生活の送り方・・・パフォーマンス課題の振り返りや予習復習が直接点数化されることで授業外学習(家庭学習)の負荷が増えていないか、など。
●教員の負担・・・単に観点別評価が入った他の自治体の教員と比べて、1:1:1になっていることで負担がより大きくなっていないか、など。

 生徒にとって、それぞれの面でどんなメリットがあり、デメリットがあるのか。そして、トータルで見た時に、1:1:1にすることが、生徒にとってプラスなのか、マイナスなのか。丁寧に検証をしてそれを公表し、その上で今後も続けるかどうかを判断してください。

大阪の教育(全体を通して)

学校の現状と施策状況

 全国的な現象ではありますが、大阪でも、学校現場の多忙化と教員不足が起こっています。
新学習指導要領への対応、GIGAスクール構想への対応、探究的な学びへの転換、福祉的ニーズの増大etc・・・学校や教職員に求められることは増え続けていますが、人員は増えておらず、学校は非常に疲弊した状況にあります。育休・産休・病休も増えていますが、これらの教職員が安心して休めるようにするためにも、現場にはゆとりのある人員配置が必要です。しかし現状は真逆で、定数に対して欠員が出ている学校が少なくありません。

SVPに届いている現場の声

  • 3日勤務の教職員が多数いる学校に対し、2〜3名につき加配1、5名いれば加配2、などの増員をすべき。権利保障は重要、しかし3日勤務や時短が集中しすぎて、担任、行事などの学校運営がまったくまわっていない。過大なしわ寄せが他の教職員にいっている現状があります【高等学校・現職教員】
  • 教員を増員することにもっと必死にならないと、欠員が出る、残っている先生の仕事が増える、それに耐えれなくて、体を壊す、また欠員になる、その状況では新規採用も増えない、という悪循環が止まらないと思います。【中学校・現職教員】
  • (ヤングケアラーやひとり親家庭など、)子どもたちの家庭環境は複雑で多様化しているため、家庭も子どもたちも行政や学校に過剰に依存するしかない状況にあります。(勤務時間外に電話がつながらず残業になったり、授業の空き時間にスクールカウンセラーとの打ち合わせが入ったりで、)教員の業務量自体が増えています。【高等学校・現職教員】
  • 子どもの数が減ると教員数も減らされていますが、現場はICT導入、なかなか外部委託にならない部活など仕事は山積みです。もう少し余裕をもった人員配置をしていただけるだけで我々は教材研究に力を入れることができると思います。【中学校・現職教員】
  • 教師は疲弊しています。意味のない校則のせいで保護者対応、生徒指導。ICTの急速な導入による混乱。仕事の増加。本来一番教師がしなくては行けない子どもとのコミュニケーション、教材研究に時間が割けないのが現状です。お願いです。仕事をこれ以上増やさないでください。増やすのは教員です。やる気と学力のある教員。近年の教師の魅力の無さから、実力のある人が教師を続けないというのも現状です。子どものことを思うなら、教師の質と量を上げてください。それが一番の教育改革です。【中学校・現職教員】
  • 退職しないで、復活できる制度の充実が大切だと思います。子育てに直面して退職してしまう女性教諭がたくさんいます。退職しなくてもパート勤務など(例:10時~14時などで小学校の副担任として入る。週3回などで中学校の教科担当。など)で教諭という立場を辞めないで続けられる制度があれば、子育ては十数年の話です。子どもが成長した後、フルタイムの教諭として働くことができます。【中学校・現職学校職員】

提言

 教職員が児童生徒にしっかり向き合うために、また心身ともに健康に働き続けられる環境づくりのために、大阪府独自の予算で正規の教員を雇用し、学校現場の人員を増やしてください。

 児童生徒にしっかり向き合うために、大阪府独自予算で正規の教員を雇って、学校現場の人を増やしてください。
 育休産休や特別支援学級の増加により教員を増やす場合、基本的には講師(臨時的任用教員、以下臨任)が当てられます。常勤講師(フルタイム)が見つからないことも多く、非常勤講師を複数人雇用するになります。しかし、週3日勤務の臨任が2人入っても実際には現場は回りません(担任が持てない、校務分掌の長をお願いできないなど)。
 また、再任用の教員も増えていますが、こちらもフルタイムではなかったり、正規教員と比べて低い賃金で雇われていたりするため、遠慮して仕事を頼めないといった現状があります。
 育児短時間勤務も制度はあれど、実際には代替教員が見つからずに利用を諦めるケースが非常に多いです。子育て世代の、特に女性の教員が正規のまま勤務を続けることは簡単ではなく、退職する教員も少なくありません。正規教員でも、フレックスや週3日勤務のような多様な働き方が可能となれば、辞めなくてよくなり、育児が落ち着けばフルタイム復帰ができます。教員不足の中で、意欲も能力もある脂の乗った世代の先生が現場を離れざるを得ないのは損失です。そして、多様な働き方が可能になるためにも、正規教員が増える必要があります。

※School Voice Projectでは、文科省や与野党に対しても、定数改善計画の公表や国庫負担を1/2に戻すことなどを要望しています。しかし、大阪の学校現場は待ったなしの危機的状況です。自治体としてもできることを考えていただきたいという思いで、こちらの提言をしています。

さいごに

 今回は、「部活動」「特別支援教育」「校則」「統廃合」「児童生徒の評価」「大阪の教育」という、合わせて6つのトピックで、提言をまとめました。それぞれのトピックはバラバラのように見えて、実はつながっていたり、別のテーマなのに眺めていると共通の課題が浮かび上がってきたりします。

 例えば、少人数学級や人員増加を求める声がほぼ全てのトピックで上がりました。しかし実際には、現場では欠員=教員不足が起こっている学校も少なくなく、「探しても探してもなり手がいない」状況があります。最低限、現場を回すためにも、ひいては教育の質を担保するためにも、意欲と力のある人若い人たちに「大阪で先生をやりたい!」と思ってもらう必要があります。そういう人を増やしていくことが、大阪の教育の質を担保することにつながります。

 そのためには、大阪の教育の魅力が向上する必要があり、それには現状の大阪の教育の魅力と特色、大事にしてきたことを見つめ直すことも大切です。その1つがインクルーシブ教育なのかもしれません。また、まずは安心して働けるように、何よりもまず働き方改革や待遇改善を進める必要があるという声が多く聞かれました。働き方改革を実行するには、予算の増額と制度づくりが必要です。これは、現場の教員には直接的にはどうにもできないことです。

 大阪の教育政策には独自政策も多いですが、良かれと思って導入しても、教員が「やる意味がわからないままやらされている」と感じて働いていては、現場は疲弊していきます。「なんか上から降ってくる」ということではなく、学校現場と政策現場(議会と行政)の応答的なコミュニケーションがもっと必要なのではないでしょうか。そのことが、大阪の教育が魅力的かつ持続可能になるために必要な、大きな要素なのではないでしょうか。

 また自分たちの声が大事にされるという実感は、教職員をエンパワーします。教職員の元気は、大阪の子どもたちの学び育ちに直結します。その意味でも、現場の声を政策現場が受けとめてくれるということには大きな意味があります。

  School Voice Project では、今後も現場の声を議員さんに届け、今回実施したような対話会を開くなど、一緒に『めっちゃおもろい大阪の教育、未来』をつくっていきたいと思います。


※本提言は、以下の2つの方法で集まった「現場の教職員の声」を踏まえて作成しました

1.【教職員アンケート】議員さんに伝えたい大阪の学校教育の実情(2023年ver)に集まった回答
【大阪府下の現職教職員/元教職員の方を対象】にアンケートを実施しました。この記事ではそちらの結果を紹介します。今回は、「部活動」「特別支援教育」「校則」「学校統廃合」「児童生徒評価」の5つのトピック+自由テーマで、大阪の府議会議員・市町村議会議員の方にに伝えたい/議会で取り上げてほしい「”大阪の”学校現場の実情」を聞きました。

■対象:大阪府下の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員及び元教職員
■実施期間:2023年1月9日(月)〜2023年2月12日(日)
■実施方法:インターネット調査
■回答数:351件

▼結果はこちらからご覧いただけます。


2.【イベント】教職員×議員 学校の現実を本音で語る会in大阪(2023年1月29日 / 2月19日)で交わされた意見

「教職員×議員 学校の現実を本音で語る会」をたかつガーデン(大阪府教育会館)で、2023年1月29日、2月19日の2日間にわたり開催しました。NPO法人School Voice Projectと大阪大学人間科学研究科佐藤功研究室が共同で主催。延べ87人の教職員と議員(立候補予定者含む)が参加し、大阪の教育について意見を交わしました。当日の様子は、産経新聞、朝日新聞、大阪日日新聞、関西テレビで報道されました。

▼イベントの模様はこちらからご覧いただけます。


※本提言を作成したNPO法人 School Voice Projectについて

日本の学校には現場だけで解決できない、さまざまな課題が山積しています。「子どもたちのために、自分ができることをしたい」「学校をもっと、楽しくて居心地のいい空間にしたい」。そのような教職員一人ひとりの内にある「見えない思い」を「届く声」へと変換し、現場から学校を変えるために私たちは活動をしています。

School Voice Projectでは教職員の声を集めるWEBアンケートサイト「フキダシ」と、現場の生の声を発信するWEBメディア「メガホン」の2つのプロジェクトを軸に活動しています。また、メディア発信・政策提言活動を通して、学校が抱える「現場だけでは解決できない課題」の解決を推進しています。

●団体公式WEBサイト|https://school-voice-pj.org
●教職員WEBアンケートサイト「フキダシ」|https://fukidashi.school-voice-pj.org
●学校をもっとよくするWEBメディア「メガホン」|https://megaphone.school-voice-pj.org

[  F B  ]https://www.facebook.com/schoolvoice.project
[ Twitter ]https://twitter.com/schoolvoice_pj
[ Instagram ]https://www.instagram.com/schoolvoice.project/

本サイトを運営するNPO法人School Voice Project では2022年度、大阪府議会議員と現場教職員の対話の場をオンラインで実施し、好評を得ました。3月に統一地方選挙を控える今年(2023年)は、現職の府議会議員の方に加え、府議会議員選挙に立候補予定の方、さらに府下の市町村議会議員の方および立候補予定の方にも呼びかけを行い、対面での対話の場=議員×教職員「学校の現実を本音で語る会」を企画しました。(こちらのイベントについては別途レポートしています。)

イベントに先立ち、【大阪府下の現職教職員/元教職員の方を対象】にアンケートを実施しました。この記事ではそちらの結果を紹介します。今回は、「部活動」「特別支援教育」「校則」「学校統廃合」「児童生徒評価」の5つのトピック+自由テーマで、大阪の府議会議員・市町村議会議員の方にに伝えたい/議会で取り上げてほしい「”大阪の”学校現場の実情」を聞きました。

アンケートの概要

■対象:大阪府下の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員及び元教職員
■実施期間:2023年1月9日(月)〜2023年2月12日(日)
■実施方法:インターネット調査
■回答数:351件

アンケート結果

設問1 部活動のあり方について

●2022年11月、大阪府立高校の部活動について、近隣の複数の高校でペアをつくり合同運営する案「部活動大阪モデル」を発表し、来年度からすべての府立高校で導入を検討していくとされました。少子化の影響による生徒数減少、教員の負担軽減を背景にしているとのことです。
(参考:https://www.nippon.com/ja/news/fnn20221113442817/

●国は中学校の部活動を地域の指導員やスポーツクラブなどに段階的に移行する方針を示しています。(来年度から開始予定でしたが、地域によっては指導者や施設の確保が難しいという指摘や、新たに発生する費用など保護者の経済的負担が重くなるのではないかという懸念を受けて対応を見直し、2023年度は地域の実情を詳しく把握するため調査や研究を行うことになっています。)


【設問1-a】上記の状況を踏まえて、大阪府下の学校における部活動の今後のあり方について、あなたの意見を教えてください。

「部活動大阪モデル」には回答者の51%が賛成もしくはどちらかというと賛成と回答しています。一方で明確に反対の立場の人が明確に賛成の立場の人よりも若干多いという結果になっています。後述する自由記述の内容を見ると、多くの教職員が部活顧問の働き方改革や生徒の選択肢確保は必要性は感じつつ、この大阪モデルの具体的な運用には懸念や不安を感じていることが読み取れます。

地域移行には78%が肯定的な意見でした。利点としてあがっていたのは、「専門的な指導を受けられるので生徒にとって良い」「外部コーチとの会話は教員にとっても新鮮」など。一方で、懸念点としては、「パワハラ、モラハラが横行する可能性がある」「経済格差が拡大する可能性がある」「地域によっては担い手が見つからない可能性がある」などの意見が寄せられました。

【設問1-b】 今後の、大阪における「部活動」のあり方について、自由に意見をお書きください。(任意)

1.部活動の教育的意義

部活動は、各クラブ毎に特徴はありますが、対人関係や目標に向かって努力する(継続する)過程などを含めて、”人間形成の場”として重要な役割を担うことが可能だと思います。【高等学校・現職教員】

部活動は子どもにとっては学校生活の大切な一部分である。【小学校・現職教員】

クラブ活動は、生徒の最も成長する活動。【高等学校・現職教員】

日頃から教員と子どもたちのコミュニケーションが取れますし、学校生活と部活動の両方をみてその子にとっていい教育がわかる。【中学校・元教員】

2.現状の部活動の限界

主顧問になると負担が大きすぎる。吹奏楽部の顧問だったが年間で17日しか休めなかった。【中学校・現職教員】

現在、中学校の多くでは、全員顧問制(お願いという名の強制)である。顧問を希望する・しないを選べるようにしてほしい。【中学校・現職教員】

教職員のサービス残業(無償)を前提に成り立っているのがおかしい。クラブ指導員を導入し、まっとうな報酬を支払うべき。教職員とクラブ指導員の兼務も認めればよい。【高等学校・現職教員】

しんどい、待遇がひどい、バイト以下、交通費もでない。【中学校・現職教員】

顧問がいないと生徒が活動できないので、無理に顧問を引き受け、その結果休日出勤を余儀なくされ、月80時間オーバー勤務が常態化している。【高等学校・現職教員】

3.安全担保や責任体制の懸念(大阪モデルについて)

「部活動大阪モデル」は、生徒に事故が起こったときに誰が責任をとるのか、等考えると、結局付き添い教員・指導をする教員の数を減らすことができず、教員の負担軽減につながるとは思えません。【高等学校・現職教員】

実際に生徒を他校に移動させるとなると、安全面から教員の付き添いは必要で、どちらかの学校の顧問1人では無理。顧問同士で練習計画を立てることになるが、他校との練習計画を勤務時間内にすることは容易でない。(連絡をとろうにも、授業で席を外していたり、授業時間外には分掌業務もあったりと忙しい。)練習計画、移動計画などの書面を作る手間がかかり、仕事が増える(ただでさえ時間がない)そもそも、学校によって授業時間が違い、練習の開始時間がそろわない【高等学校・現職教員】

4.現場の意見を聞かずに方針が降りてくることへの戸惑い(大阪モデルについて)

教育庁が「勝手」にペアリングをし、現場の声を無視しているように感じます。(略)既に部活動で協力関係にある学校のことは無視しています。(略)本当にこの取り組みが課題解決になるのか甚だ疑問です。【高等学校・現職教員】

現職の教員の思いはさまざまだと思います。また各学校の実態もさまざまだと思います。是非、現場の意見を実際の目で見て耳で聞いて心で感じてご判断していただきたいです。【小学校・現職教員】

5.実現性への疑問(外部委託について)

(安全面等)外部委託した場合の生徒たちの身体的心理的安全も確保することが重要と考える。(パワハラ指導、性的な問題にならないなど)【小学校・現職教員】

現実的にはそれを支える人材不足だと思います。退職後の教員の活用もあると思いますが、生徒にとっては、若い先生の方が親しみがあると思います。【特別支援学校・現職教員】

地域移行については指導者が教育関係者でなくなることで部活内のトラブルをどうするのかが疑問。【中学校・現職教員】

6.その他

クラブ指導がしたいために教員になる、またはなった教師がどれぐらいいるか調査してほしい。【中学校・現職教員】

設問2 特別支援教育について

​​2022年4月に文科省から「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について」という通知が出され、特別支援学級に在籍している児童生徒については、原則として週の授業時数の半分以上を目安として特別支援学級において授業を行うことが求められています。大阪では長年、特別支援学級在籍であっても多くの時間を通常学級で共に学ぶ取り組みが行われてきたことから、特に大きな影響が出ることになります。

この点について、あなたの意見を教えてください。

【設問2-a】上記の件について、あなたの意見にもっとも近いものを選んでください

設問の文科省通知に関して、「(大阪独自の)現在のかたちを維持すべき」と回答したのは全体の42%。「通常学級在籍でも個別に必要な支援が受けられるように」と回答したのは36%でした。この70%強の回答は、障害のある子が、通常学級で他の子どもたちと共に学び、共に育つ大阪のインクルーシブ教育を引き続き大切にしたいと言う意見と見ることができます。インクルーシブな教育環境を整備するために、「少人数学級化を進めてほしい」「特別支援学級に在籍する児童生徒の学び方を柔軟にしてほしい」などの意見も寄せられました。

【設問2-b】 今後の大阪における「特別支援教育」のあり方について、自由に意見をお書きください。(任意)

1.カウント数問題(1クラスで過ごす児童生徒の数が定数を超えることを解消してほしい)

大阪では通常学級在籍が基本としながらも、特別支援学級に在籍すると、通常学級のカウントには、入らなくなる。低学年は35人学級といいながら、支援学級在籍の子が多い学年は38人在籍しているクラスもある。発達に課題のある子が増えている中、学級で担任が支援の子もフォローしながら学級経営をするのに、なぜ、カウントされないのかが、どうしても納得できない。【小学校・現職教員】

通常学級で、支援を受けながら学ぶことが必要な児童も多くいます。合理的配慮のもとにその子どもたちに合わせた学びのあり方を選べるようにする必要があると思います。私は障がいの有無に関わらず同じ教室で学ぶことに賛成しています。ただ、学習内容によっては個別で学習することの良さについてもわかっています。そのためにも、通常学級在籍人数と特別支援学級在籍人数ではなく、○年○組在籍人数として35人、できれば30人以下の学級とすることを求めたいです。そこに必要に応じて支援者が入り込み、みんなで学ぶ。場合よっては同じ空間で別の学習をするというあり方も子どもたちにとって良い空間になると思います。【小学校・現職教員】

2.大阪が独自に続けてきた取り組みを継続してほしい​​

今まで人権教育の文脈で、「共に学ぶ」を府下全域で進めてきたのに、突然(の通達で)それを変更されて、いったい今までの取り組みは何だったのかという思いです。大阪府の特別支援教育がどれだけ先進的な取り組みをやってきたのか、学んでもらいたいです。【小学校・現職教員】

他県から大阪にきたときに、子どもたちの距離感(近さ)に驚くほどとともに、互いのあるがままを認め合っているさまに感動しました。教員の質を上げていけば、大阪スタイルこそが世界に通ずる形です。【中学校・元教員】

なぜ地域の学校で学ぶのか。社会は多様です。障害のある子どもがいない教室で生徒たちは何を学ぶのでしょうか?障害のある子どもたちは一生分けられて過ごしていくのでしょうか。一緒にいることが当たり前ではないでしょうか。そこでトラブルや困ったことが起こる、だから考え工夫するのです。今まで大阪がやってきたことに誇りを持って進めていきたいです!【中学校・現職教員】

3.一律の規定でなく、個々に応じた支援が必要

どれだけの支援が必要かは生徒一人一人のニーズによるため、支援学級で過ごす時間を一律に決定するのは適切ではない。通常の学級に滞在する時間、特別支援学級のクラスに滞在する時間は生徒本人の発達段階や心理状況によって変化するものと捉え、本人の希望に合わせて柔軟に対応すべきである。【特別支援学校・現職教員】

特別支援教育は基本的に、その生徒の個別の指導計画に沿って進めていくものだと思います。授業も生徒によって理解の偏りがあるものなので、どの授業を支援級で受けるかなど、担任、教科担当、保護者と話しながら進めていければいいと思います。【特別支援学校・現職教員】

特別支援に在籍してない児童の中にも、たくさんの学習困難な子や、知的にボーダーラインであろう子もいるため、本気で学力をあげようと国が考えるなら教員をもっと配置してほしい。せめて、25人学級を徹底してほしい。細やかに支援してあげたくとも、今のままではこぼれていく子を見ながら、手のうちようがない。【小学校・現職教員】

まず、支援在籍生徒数を抜きにしてクラス編成を行って、それで40人学級を見ている教員もいて、とても無理があると思います。それなら支援在籍をとっぱらって、支援が必要な生徒や、普段そうでない生徒が支援を必要としたときに個別にサポートをしてあげることができる体制を整える(中略)などしてほしいです。【中学校・現職教員】

4.人員不足、専門知識不足

発達障害児童増加の傾向。今までの障害を持つ児童と一緒に支援するには人員不足。居場所不足。【小学校・現職教員】

基本は、同一時間、同一空間、同一教材で、それぞれの単元での個別目標を設定し、仮説を立て、実践、評価を積み重ねて支援は必要に応じて体制を作る。支援担当は支援を通して子どもや支援対象の子どもにとって教科書はじめ指導内容を問題提起していく役割を担うことなどが考えられる。そのためにも教員の増員が早急に必要で教特法の改善が必要です。【小学校・現職教員】

高等学校では支援教育の専門家がいないし、人手も少ないため個別のサポートができない。【高等学校・現職教員】

1対1対応での支援が必要な児童(離席や飛び出し、教室に入れない児童)が多くいても、特別支援の学級数の教諭しかいないため、特別支援サポーターさんがいないとき、学級担任が1人で対応していて、支援も充分にできず、他のクラスの児童の学習も充分にできない状況が多々見られる。学級数以上の人員がほしい。【小学校・現職教員】

5.インクルーシブの理念と実態を広げたい

地域の学校は、インクルーシブであるべきですが、環境が整っていないので、マイノリティは、排除されている様に感じます。支援についても理解ない方が多いと感じます。地域の学校で支援の理解を求めても、受け入れてもらえない。現実を訴えても、少数派になるため、聞き入れられにくい。もっと余裕が必要。支援学校の専門性は高いし、そこを求める人がある限り必要だと思う。教師は支援学校で学ぶことがたくさんある。【高等学校・現職教員】

国連が定める「インクルーシブ教育」と日本の解釈が異なりすぎている。「包括的に」実施されるべきである。【中学校・現職教員】

設問3 校則について

2017年に、大阪の府立高校での頭髪指導に関して、「頭髪が生まれつき茶色いのに、学校から黒く染めるよう強要され精神的苦痛を受けた」との訴訟が起こりました。

それを発端に、問題のある校則をなくそうという動きが全国的に広まり、校則の見直しの動きが進んでいます。今年度(2022年)には、“生徒指導のガイドブック“として位置付けられる「生徒指導提要」が12年ぶりに一新され、そこでは、「校則について確認したり議論したりする機会を設けることの必要性」が明記されました。

校則の見直しについて、あなたの意見を教えてください。

【設問3-a】 上記を踏まえ、校則の見直しについて、あなたの意見を教えてください。

回答者の94%が「校則の見直しを積極的に進めるべき」と回答。子どもの権利や人権の観点から、見直しをしていくことを訴える声が寄せられました。一方で、校則を緩和することだけではなく、慎重に見直す必要があると訴える声も。校則を変えられない現状としては、児童生徒同士のトラブルや地域からのクレームが増加することへの懸念、多忙等により校則について議論のする場の少ないことがあがりました。

【設問3-b】 今後の大阪における「校則」のあり方について自由に意見をお書きください。(任意)

1. 見直さなくてよい

校則を緩めた高校の中では、わがままをより多く通す生徒がヒエラルキーの頂点に立つことが多く、過ごし難い雰囲気になる為、また校則を厳しくして行くところも多い。【中学校・現職教員】

あくまでも学ぶ場であること、共同生活であることを意識する必要はあると思う。なんでもありは違うと思う。【小学校・現職教員】

校則を一律にすることは難しいと思います。それぞれの学校の生徒像が大きく関係し、高校選びもどんな校風や学校生活を求めるか人によって違うものだと思います。ただ、情報化した現代では他の学校とのギャップが目に入りやすく、校則問題が表面化してきたのではないかと思います。そのため各学校が特色を持つために校則の厳しい学校と緩い学校があることは、なにも問題ないことだと思います。【高等学校・現職教員】

2. 校則指導への違和感

必要なルールや規則もあるが、理不尽な校則もたくさんある。納得できずに苦しい思いをしている生徒の生徒だけではなく、指導することにがんじがらめで苦しい思いをしている教師も実は多いと思う。私自身、ツーブロックが駄目だという理由を見い出せず、でも苦し紛れの指導をしてきた。そういう指導で生徒との間に亀裂が生じることは本末転倒。生徒たちが自ら校則を考え作っていける自治の力を育んでいけたらよかったと、反省している。【中学校・元教員】

学校により状況は異なると思いますが、特に問題になっているのは、頭髪指導、スカート丈ではないかと思います。そのような校則に一番しばられているのは教員ではないか、という気がします。私の学校では、頭髪やスカート丈について注意をする教員が、ほとんど指導しない教員に対して不満をぶつけたり、教員が指導方針をめぐって分断されています。指導をしている教員も、ただただ必死に「校則を守らせる」ことを目的にしており、なぜその校則が必要なのかを考えてもいないでしょうし、もちろん生徒は、校則の意味を考えることなく、頭ごなしに注意をされ反発するか、抜け道を見つけてコソコソしているか、です。校則指導は、教育の本質とはかけ離れているなぁとよく感じます。個人的には、校則指導は、教員にとってはストレスと時間の無駄だけなのではないかと思っています。生徒たちにも、自分たちの校則について、嫌なら嫌で、もっとその校則自体や理不尽な指導等について当事者として考えてほしいと思います。【高等学校・現職教員】

校則は要らない。子供をもっと信用すべき。大人になったら、ちゃんとすると信じてあげて。自分達で考えて服装を選ぶなどの自主性を育てるべき。【中学校・現職教員】

3. 変えられない背景

〈時間的制約〉

子どもたちが自らのことにかかわる事項についてきちんと議論し、体験し、学んでいくことが必要だと思いますが、これをするには、その時間をきちんと確保する必要がある。教科の時間を減らすことも併せてしなけば、教員の負担増となってしまうのでは…(一部抜粋)【高等学校・元教員】

〈周囲からの評価〉

子どもたちが自らのことにかかわる事項についてきちんと議論し、体験し、学んでいくことが必要だと思いますが、これをするには、その時間をきちんと確保する必要がある。教科の時間を減らすことも併せてしなけば、教員の負担増となってしまうのでは…(一部抜粋)【高等学校・元教員】

毛を染めていたり服装が乱れていたりすることが「指導できていない学校」「勉強できない子だ」と周りの市民から見られてしまう限り、校則を変えるのは厳しいと思う。【高等学校・現職教員】

校則が厳しいと煙たがられているが、校則に書いていないと何をしてもOKととらえている生徒がいる。生徒、保護者も指導をされたら、「校則に書いていない」「家庭で指導できない」と、「学校で決めて欲しい」と要求される。【高等学校・現職教員】

校則だけ変えるのではなく、世間の「高校生らしさ」感覚や高校生(現在の校則に違反している生徒)を見る目を変える必要があると思う。【高等学校・現職学校職員】

児童が自身で考えて行動できる人になる為には、校則も児童が考えて意見を出すのが望ましいと思う。ただ、小学校だといらないものを持ってきて、なくしたりトラブルになるケースもあり、結果教員が保護者対応などで時間を取られるケースもあったりすると、校則にそういう事を盛り込みたい気持ちも良くわかる。しかし行き過ぎると、山の様な校則を決める事となる。ピアスなども、安全面から言うと小学校低学年ではプールなどで万が一はずれたりするとケガにつながるので、学校には外してきてほしいが、保護者の中には、いちいち指図されたくないと言う方もいる。外国では宗教上の理由から幼児からピアスをつけている人も多いと聞くと、日本で禁止はおかしいのかなぁと考えこむ。髪色も、小学校で金髪にピンクや緑となると、うーんと考える。個人の自由とも考えられるし、難しい問題だと思う。【小学校・現職教員】

〈誰が変えるのか問題〜生徒が主体的に?先生と生徒が?教育委員会が?〜〉

勤務校で制服のあり方について生徒議会を中心に議論を重ねました。想像をはるかに超えて生徒たちはしっかりと考え、相手の意見を受け止め、議論を行いました。その姿に本当に感動し、今まで生徒抜きで決めていたことを反省しています。私たち抜きで現場のことを決めないでほしい。同様に生徒抜きで生徒たちのことを決めてはいけないのです。【中学校・現職教員】

今の社会情勢を踏まえて、生徒、教員、保護者、さらに地域の人も含めて、見直していくべきだと考えます。【高等学校・現職教員】

校則の見直しは必要であるが、様々な意見が出るため、学校に丸投げせずたたき台を提案することや、議論できるだけの時間の余裕(仕事量の見直し)や校則に関する保護者からの問い合わせを受ける機関を設けることなどをしていただきたい。【小学校・現職教員】

人権侵害にあたる校則はトップダウンであっても変えるべきだと思いますし、人権侵害とはいえないけれど説明がつかないような校則は生徒参加の議論を経て、民主的なプロセスで持って変えうる仕組みを整える必要があると思います。ただ、これは基本的には行政や政治というよりは現場教職員の主体性が発揮されるべきところだと思います。(中略)生徒指導提要にもあるように、校則変更の方法の明示化・学校HPでの公表ぐらいは、行政主導で進めてもいいように思います。【小学校・元教員】

4. 変える時の視点

子どもの権利条約に照らして、不合理な校則は抜本的に見直していくべき【高等学校・元教員】

憲法で保障されている「思想表現の自由」に基づき、校則を根本的に見直すべき【中学校・元教員】

学校は生徒を守る場所のはずが、生徒を苦しめる場所になってしまっている場面はないだろうかと考える。また、過ごしやすさが軽視されているように感じる場面もある。もちろん、学校という集団生活の中で過ごすことを学ぶことも大切だが、必要以上に大人の当たり前を押し付けてはいないだろうかとも考える。【高等学校・現職教員】

保護者の立場で…、制服を撤廃して欲しい。小学校・中学校は成長著しく、結局制服の買い直しをしなければいけないので私服購入と差が感じられない。府下は私服の学校がほとんどなので変えてほしい。あと靴下・靴の白がスタンダードだが、新陳代謝の激しい子達の毎日の洗濯が本当に毎日大変です。【中学校・現職教員】

設問4 統廃合について

少子化により「適正な学級規模が維持できなくなる」「学校施設維持が困難になる」等の理由により、大阪府下においても学校統廃合が進んでいます。

●府立高校については、2012年に制定された「大阪府立学校条例」で「入学を志願する者の数が三年連続して定員に満たない高等学校で、その後も改善する見込みがないと認められるものは、再編整備の対象とする」とされ、教育委員会は「再編整備計画」に基づき、今年度発表された3校(平野・かわち野・美原高校​​)を含めて、この10年間で府立高校と大阪市立高校、合わせて17校の「廃校」を決定しました。吉村知事は少子化を背景に今後も統廃合を進める考えを示しています。

●小中学校については、統廃合の方針は自治体によって異なります。大阪市では、2020年に「大阪市立学校活性化条例」が改正され、原則として小学校の学級数は12~24を適正規模として、「教育委員会は適正規模にするよう努めなければならない」と定められました。この規定に基づき、約3割の小学校が統廃合対象となり、すでに10校ほどが廃校となりました。

【設問4-a】上記を踏まえ、以下の選択肢からあなたの意見に最も近いものをお選びください。

積極的に統廃合するべきと、統廃合をある程度やむを得ないとする意見を合わせると全体の77%となりました。一方で19%のかたは進めるべきでないと回答しています。また、自由記述では、現在の統廃合の基準や進め方についての疑問や懸念の声、すでに出ている弊害について多くの声が寄せられました。

【設問4-b】 今後の大阪における「学校統廃合」のあり方について、自由に意見をお書きください。(任意)

1. 「適正規模」の基準

統廃合の基準を見直すべき。(中略)公教育をどこでも誰でも受けられるようにするために、今の学校が設置されているわけだから、地理的な観点からも考慮して、配置するべき。【中学校・現職教員】

統廃合ありきの数字の基準ではなく、いかに子ども、保護者や地域、教職員らの思いや意見を取り入れ考えていくか、議論の進め方等の基準と決め方を示すことが大切だと思う。【小学校・元教員】

統廃合については少子化の社会にあってはある程度はやむを得ないと思うが、統廃合により「適正な」生徒数を維持する以上は学校の規模をなるべく大きく保ち、教職員の数も一定以上の数を維持するようにしてほしい。(略)【高等学校・現職教員】

一クラスの人数を減らしてきめ細かい指導をし、教育の質を向上するなど、別の在り方を探って欲しいと思います。【高等学校・現職教員】

まずは学級の人数を20人を上限にすべき。学校が統廃合されているにも関わらず、学級の人数が変わらなければ、教員の時間外労働時間も減らず、生徒の学力向上にもつながらない。通常学級に在籍しつつ、サポートを必要とする生徒への対応も充分に行えない。【特別支援学校・現職教員】

統廃合は仕方がない部分はある。統廃合されるはずの学校(3年連続以上定員割れ)が残り、後からその基準に達した学校が統廃合されるのはおかしい。【高等学校・現職教員】

3年連続で定員を割ると自動的に統廃合の対象になる、というのはとても暴力的すぎると感じています。定員を割ってしまう学校の多くが、世間で言うところの指導困難校ではないかと思いますが、そのような学校の生徒こそ、生活指導など手厚く指導しなければならないことが多く、そこで勤務している先生方が、多様な問題を抱えた生徒一人ひとりに向き合って、とても丁寧に「社会に出る前になんとか成長をさせてあげたい」というような思いをもって指導されているのを見聞きするたび、頭の下がる思いでいっぱいになります。このような学校は社会には必要だと思いますし、そのような学校でこそ学ぶことができ、成長できる生徒がいます。定員を満たしているかどうかだけで学校の存在意義を判断しないでほしいです。適正な学校規模というのは、学校により違うと思います。単なる数字だけで学校を見たり、切り捨てたりしないでほしいです。【高等学校・現職教員】

2. 地域における公立学校の機能​​

地域に根ざした学校、セーフティネットのような学校まで競争や統廃合の対象となるのは子どもにとってプラスとは思えません。【小学校・現職教員】

「近くに通える学校がある」のが公教育のあるべき姿だと思います。「適正規模」とは何に対して適正なのか?学校がひとつ無くなると地域は空洞化し、経済的にも防災面でも脆弱になっていくと思います。(略)【高等学校・現職教員】

難しい問題ですが、小学校区は特に地域コミュニティの基盤にもなっているので慎重さが必要だと思います。高校については、定員割れ=廃校という今の方法ではどうしても競争原理がベースにある感じがするので、エリアや学校の特色を鑑みて、計画的に統合していくという方法をとれたらよいのではないかと感じます。(略)【小学校・元教員】

財政面がクローズアップされているが、学校は地域とともにあり、地域の学校でもあるので、心のよりどころでもあることを忘れないでほしい。運営するにあたって、統廃合やむをえない場合もあると思うが、校区が広くなるなど、問題点もあるので、慎重に進めてほしい。【小学校・現職教員】

公立学校は国民に、府民に何を担うのかを考え直してみることが必要ではないか?【高等学校・現職教員】

財政ももちろん大事な問題だが、その天秤の片側に公教育の価値や意義などは果たして乗っているのだろうか。【高等学校・現職教員】

地域における学校という感覚で考えると、むやみな統廃合はナンセンスだと感じます。生徒に対する教職員の割合などを鑑みて、教職員数を調整することで学校を維持することができないのかについて探ってみたいです。校舎の空いている教室を、地域に開いたり、地域の方から教育のサポートを募ったり、単に統廃合によるこどもの数の調整ではなく、今後少子化がより一層進んだ時にも生きてくる方策を探りたいです。【高等学校・元教員】

「その後も改善する見込みがないと認められるもの」というのは厳しい言葉ですね。廃校予定の高校に工科高校などが入っているのを報道で見て驚きました。私は八尾市内の勤務ですが、八尾東大阪はものづくりが特徴的な地域。経営者の方で工科高校の出身の方もいます。一概に「定員が割れているから」「改善の見込みがないから」必要がなくなるという訳ではないと思います。【特別支援学校・現職教員】

3. 通学への影響

校区が広くなることで、通学が遠くなるなど危険も多い。災害時の避難場所としても存在意義はあるはず。【小学校・現職教員】

これから子供が減っていくことが統計上わかるので、閉鎖もやむを得ないが、もう少し、地域のこと、通学のことを考えて閉鎖校を検討すべき。閉鎖するなら私立に助成を出すのではなく、通学助成をすべき。【高等学校・現職教員】

登下校にかかる時間や橋や川を渡る等、大阪の地形的にかんがみる事があります。【小学校・現職教員】

最優先は通学の安全確保。学校選択制もこの点を親任せにしており、行政として無責任。【小学校・現職教員】

生徒数が少なすぎて、行事ができないことは問題であるが、校長がすべての生徒を把握できるほど個人を大切にしている学校を統廃合によってなくされつつある。1クラスの子どもの数が10人以下となれば統廃合を検討すべきかもしれない。通学距離も含めて可能かどうか検討し、一律に数字だけで決めるのはよくない。【高等学校・元教員】

​​​​学校がなくなるということは、学校が担う地域の機能も失われることに繋がる。また、通学距離が長くなることや地域で子どもを育てるという感覚が薄くなることも懸念される。【中学校・現職教員】

公立学校というのは、地域に根差した教育で、地域に住んでいる人のために行っているものです。統廃合が進むと、遠距離を通わなくてはならず、児童・生徒・保護者への負担が大きくなります。また、少人数クラスで行き届いた教育を受けられていたのが、大人数クラスでの教育を強いることになり、マイナスでしかないと思います。わたしは京都府南部に住んでいたことがありますが、そこで統廃合があり、山間部地域のこどもたちは市がチャーターしたタクシーで通っていました。が、多少の大雨や強風でタクシーが来られず、学校を休んだり、大幅に遅刻せざるを得なくなったりと、教育格差を広げてしまっていました。【中学校・元学校職員】

高校において統廃合は入試倍率の低下を防ぎ学力の低下を防ぐ意味もあるはず。小中学校においては学校までの距離が遠くなることで不登校になりやすい現状を感じている。現在岡山で勤務している中で感じるのは、サポートスタッフを配置し不登校や特別支援の対応を行うことで教員の負担を減らしていくことなどが盛り込めるのであれば統廃合のデメリットの解消につながる可能性があると考える。【中学校・元教員】

4. 私学との関係

今は私学助成があるから、低所得世帯の子どもたちも私学に進学する選択肢のハードルが低いが、これがなくなったとき、高校に行けない子どもたちが増えていく心配もある。【小学校・現職学校職員】

調整がうまくできていない定員割れは公私の結果。【高等学校・現職教員】

学校によるとは思うが、私立の現状(教室数の不足、教員の質の低下、公立で守っているルールが私立にはない等)を聞くと、公立校の代わりに私立に手当を厚くするというのは再考する必要があると思う。【高等学校・現職教員】

公立だけでなく私立も統廃合を進めるべきで、私立の募集定員はもっと減らすべき。まず、私学助成をすべて廃止すべし。そうすれば公立に生徒は戻ってくる。余裕のある家庭に私学に行ってもらう本来の形にすべきで、その上でなら、今の基準での統廃合は仕方ないと思う。【中学校・現職教員】

諸費用を考えれば、経済的負担からできれば私立に行きたくない家庭の子が私学に流れる現行制度が本当に良いのかという視点を持ってもらいたい。マーケットデザイン研究などの知見を取り入れてより府立学校が府民のニーズを満たすような方法を模索するべきと思います。3年連続定員割れというのは一見分かりやすい基準ですが、現行制度のもとでは本当に必要とされていない学校かどうかの基準としては弱いと思います。【高等学校・現職教員】

(統廃合の)議論は先の何年を見通して考えるのかということでもかなり結論が変わるように思います。少子化が進むのが避けられないのであれば、学校統合は必然的に起こることであり、その際には、どのような統合が望ましいのかということをきちんと議論しておく必要があると思います。ただ、大阪の場合私学の無償化を先駆けて行っており、「税金」をどのように使うのが望ましいのかということについては議論をきちんとする必要があると思います。行政組織として、公立学校のみが対象になるのだと思いますが、行政がきちんと整備してよりよくできる府立学校に予算を投じ、その環境をよくすることのほうが必要なのではないかと思います。(中略)私立の場合それぞれの設置の目的、教育理念があって、公立とは立ち位置が違い、それと競争するということではないのではないかと思うのです。【高等学校・元教員】

5. その他

統廃合は学校選択制にも大きく関係している。格差を更に大きくする危険性をはらんでいることを念頭に考えていく必要がある。【小学校・現職教員】

(入試倍率の高い学校の例として)現在勤務しているところは、生徒数と校舎のキャパシティが全くもって釣り合っていない学校です。(中略)教室が足りていません。HR教室の確保が問題なのではなく、英語や数学などの少人数指導でクラスを分割した際に使用する教室、生徒が委員会活動などで使用する教室など、時間割編成や何か活動をしようとしたときに教室が足りません。また、修学旅行や校外学習、フィールドワークなどを行う時も1学年の人数が多いために選択肢が減ります。これは著しく生徒の不利益になってはいないでしょうか。【高等学校・現職教員】

少子化だから学校を減らさなければならない実情もわかりますが、子どもを望んでいる方たちが、安心して子どもを出産できる環境や制度を整備していくことをもっと進めてほしいです。(略)【中学校・現職教員】

学校統廃合によって、少人数クラスは夢のまた夢、のように思いますし、遠方に通わなくてはいけなくなる生徒も増えますので、反対です。学校はむしろ、分割して、それぞれが小規模校になるべきだと思います。大規模校は、どうしても、教育がいきわたらないように思いますし、先生方の負担も増えます。また、学校図書館司書の負担も大きくなり、今も軽視されている図書館が、もっと低サービスに陥ってしまうこととなります。アクティブラーニングの要は、図書館とパソコンです。それを扱うプロは学校図書館司書なのですが、統廃合をすると、当初は、それまでよりも少ない人数で、本の整理や片づけに追われます。その後は、決められた時間だけに本を貸し借りするだけになり、これは児童生徒が自由に探索の翼を広げて調べものをしたり、いろいろな図書や情報に出会う時間や場所を奪ってしまうことになると思います。【中学校・元学校職員】

設問5 児童生徒の評価について

●大阪府下の中学校では、独自のチャレンジテストが実施され、高校入試の際の「調査書」の評定の調整に活用されています。評定の数字の持つ意味が学校ごとに違うのは不公平という賛成意見もある一方、この仕組みが学校間の過度な競争を招くという批判もあります。

●2022年度から全国の高校で始まった観点別評価を運用するにあたり、大阪府立高校では、3観点をすべて同じ割合(1:1:1)にして評定を算出することが独自に決められました。
※文科省の指針では、評定は「観点別学習状況の評価の結果を総括するもの」とされており、他の地域ではこういった運用はされていません。

【設問5-a】上記の状況を踏まえて、中学校のチャレンジテスト、高校の観点別評価の運用方針について、あなたの意見を教えてください。

チャレンジテストについては反対、どちらかというと反対とする声が全体の73%でした。理由としてあがっていたのは、「学力は地域によって違いがあるものであり、一律のテストの点数で評価するのは公平ではない」、「家庭の経済格差も紐づいている」、「チャレンジテストで点数をとるための授業になってしまう」など。一方で「競争はあってしかるべき」「テスト自体はいいが時期が良くない」という意見も一部ありました。

高校における観点別評価の割合(1:1:1)については、多様な視点で評価できる点を支持する意見がある一方で、「成績をつけることに今まで以上に時間がかかるようになった」「なぜ観点ごとの評価割合が1:1:1なのか疑問」など、反対意見が全体の66%を占めました。

【設問5-b】今後の大阪における「児童生徒評価」のあり方について、自由に意見をお書きください。(任意)

〈高校の観点別評価〉

1. 大阪独自の1:1:1という割合への疑問

いまだに1:1:1にしている理由がよくわからないです。観点別評価自体の目指すところは良いと思うが、これを1クラス40人学級、現在の大学入試のあり方が続いているままで有効に実施していくことは無理だ。観点別評価になり、評価物が増え、評価の仕方も煩雑になっているにも関わらず何も負担が減らされず、現場は非常に苦しんでいる。表面的な観点別評価をやるための課題が課されるなど、生徒にとってもプラスになっているとは思えない。【高等学校・現職教員】

観点別1対1対1では生徒の力を正確に評価することは不可能。大学受験の時などは他府県の受験生と比較して大阪の生徒は損である。【高等学校・現職教員】

観点別評価を「やらされている」という意識を持っている教員と、「うまく活用しよう」としている教員に二分化されているように感じます。そういう意味では、今後、割合をどうしていく必要があるのかを学校に委ね、対話するきっかけとしてほしい。【高等学校・元教員】

2. 効果に見合わない労力がかかっている

児童生徒評価に手間がかかって、忙しい教員をより多忙にしている。授業、生徒、評価に時間をかけるのは教員の本来の仕事であるなら、今の雑多な業務を減らす、または教員を増やしていく。【高等学校・現職教員】

観点別は本来絶対評価であるにも関わらず、相対評価が混じる設定にならざるをえず、到底成立しえない。絶対評価をするなら、一クラス40人は無理。負担が多すぎるため、特に非常勤の先生方(もちろん全教員)に無償労働を強いるシステムなので、遅かれ早かれ、学校の教育活動自体、非常勤をやってくれる人がいなくなり破綻する。【高等学校・現職教員】

学歴や偏差値が評価されるのは、大学でも企業でも変わらないのに、高校の教育で形式のみ変えるのは、現場の混乱、過重労働をまねいている。方法も現場に丸投げ。良心的な(生徒に寄り添う、教科指導に真面目に取り組む)教員を、苦しめ、追い詰めている。【高等学校・現職教員】

成績をつけるための時間が、今までの3倍かかる。(数字ソフトの入力手間、作業が難しく、)全員が成績をつけることに要する時間が、とにかく長くなったと口を揃えて言っている。【高等学校・現職教員】

〈中学校のチャレンジテスト〉

3. 肯定的意見

数値の持つ意味を各学校でできるだけ統一したい、またはするべきだという意見については反対ではありませんが、結局学校をランキング付けすることになっていることが気になります。【中学校・現職教員】

チャレンジテスト自体には、どちらかというと賛成だが、1・2年生の実施時期を検討するべきである。冬休み明けすぐの実施は、生徒の精神的負担が大きい。【中学校・現職教員】

せっかく同じテストを受けているのだから、その点数をそのまま反映させたら良いと思う。欠席者については後日受験も検討。2回のチャンスも受けられない生徒については、点数の反映はさせず受験時の点数を採用。詳細は議論を重ねなければいけないが、チャレンジテストをする以上、このテストを最大限活かすべきだと思う。【中学校・現職教員】

4. 公平性への疑問・地域格差への懸念

欠席者の多い学校の評価が爆上がりするシステムを考え直して欲しい。また、±0.3の幅を学校に持たせるのは広すぎる。学校によって+0.3の学校や−0.2の学校があれば、生徒は公平に評価が受けれるのかか疑問。【中学校・現職教員】

学校間格差を益々広げるのと、現状では不登校の多い学年は不登校生徒が1・2の評価が集中するので、実力が無いのに3以上付く現状がある。【中学校・現職教員】

チャレンジテストを評価の「ものさし」にすることはすぐにやめてほしい。学校ごとの生徒数、学力分布、保護者の経済的状況などによって結果は大きく左右され、住んでいる地域によって不公平が生じているし、学力のしんどい生徒に自信を失わせ、教員を疲弊させている。教員を信頼し評価を任せてもらいたい。【中学校・現職教員】

学校や同じ学校でも学年によってテストが違うのは、高校受験の際の影響する評定の公平さがないと思う。高校入試のための評定の数字の意味を合わすのであれば、全ての実力テストを大阪府同じにするなども1つではないか?教員のテスト作成の時間を短縮でき、採点もチャレンジのように郵送でできれば働き方改革にもなる。【中学校・現職学校職員】

5. “団体戦”になることへの異議・1回のテストの影響力の大きさへの疑問

チャレンジテストは「団体戦」というが、高校入試は個人が受けるもの。子どもの学力の背景に家庭環境や地域格差がある中で、学校規模で評定の範囲が定められるのは、子どもたちにとって本当に公平なのか疑問が残る。また、チャレンジテストの実務そのもの(前日までの準備、当日の試験監督、後日受験対応など)が教職員にとって負担。【中学校・現職教員】

成績の悪い生徒が当日休んだり、特別支援学級の生徒をマニュアルの解釈の仕方で、後日受験扱いにしたり、教師がチャレンジテストの数字に右往左往している部分もある。あくまでテストは個人の頑張りが評価されるものであり、学校の評定の範囲を団体戦で評価するものではないと思う。【中学校・現職教員】

チャレンジテストにおける評定の担保により、授業を真面目にうけてなく、提示物も一切出さない生徒が5の評定をもらった生徒がいるという現実があります。一定の基準というものは必要だと思いますが、今の大阪市の担保には強く疑問を持ちます。【中学校・現職教員】

学校によって生徒への指導の差があるので、今のチャレンジテストは生徒よりも教員が平均点をよくすることが優先され、点数が低い子の欠席(欠試)が喜ばれるような学校現場はどうかと思う。【中学校・現職学校職員】

各中学校で、一生懸命にノートチェックや提出物の点検、教材研究、各授業毎のチェックなど真摯に業務を担っている教員に対する侮辱でしかない。たった1度のテストの点数で、1年間の評定が決まる成績など、信憑性がどこにあるのか。日々の積み重ねがあってこその学力が実力となり、生きる力に繋がっていくのであり、点数のみでの判断に客観性など微塵もないことは明確である。各授業毎のチェック【中学校・現職教員】

6. チャレンジテストのためののための授業なってしまう

生徒の思考力や興味関心を高めようとする学習指導要領とチャレンジテストが合わない。テストのための授業を、1年次からしなければならない。【中学校・現職教員】

真面目に学校で取り組んでいる子どもが、バカを見る制度。もちろんすべてを否定はしないが、このテストによりあいつこなかったらいいのにな。というような学力が低い子どもへの排除の感情がこどもの中で生まれている。学校教育は勉強だけができればいいわけではない。公教育のあり方を根本から崩してしまう。【現職学校職員・小学校】

7. そもそも授業・学校の意義の観点

大阪独自の取り組みが、子どもたちを学力のみで判断するようなものになっていないのか疑問に思う。ただでさえ、子どもたちは、全国学力調査をはじめ、チャレンジテスト、すくすくウォッチ、市町村独自の確認テストなど、数多くの学力のみを測るテストを実施している。コロナ禍で制限の多い生活の中、テストだけは制限なくやっている。子どもたちがやってみたい!学んでみたいと思う環境設定が必要なのではないか。【小学校・現職教員】

点数だけ取れれば進路が拓けるなら、学校に通わずに毎日塾に通えばいい。実際に不登校で点数だけ高い生徒が高評価にせざるを得ない。学校で学ぶ意味を確認したい。【小学校・現職教員】

チャレンジテストの範囲をしなくてはいけないということもあり、本来授業で実施したい調べ学習やプレゼンテーションなどの時間が割けない。そもそもチャレンジテストをするなら、もう実力テストはいらないのではないか。チャレンジテストを年間3回にして、それを実力テスト代わりにすることで、教員の負担軽減にもならないだろうか。【中学校・現職教員】

設問6 その他議員さんに伝えたいこと

【設問6】その他、議員さんに伝えたいことがあれば、自由にお書きください。(任意)

フリーテーマで現場の声を寄せてもらえるこちらの設問には大阪の教育全体を見渡した多様な声が集まりました。それを大きく8つの軸で整理しました。一番多かったのは「働き方改革」、次が「制度」、3番目が「教育予算の増額」についての意見。その他、「教員の質・研修」「教員増員」「給料アップ」「クラスの人数減」「その他(議員さんへのメッセージ)」もぜひお読みください。

1. 働き方改革

学校でも働き方改革を謳われていますが、実際は学校現場にそぐわないかつ、教員の負担になるような業務が増えたり、ICTの導入で新しいことを教員自身が勉強したりと残業をせざるを得ない状況です。子育てで定時に帰りたいけれど、クラス担任をすると時間通りに帰れない、クラス担任外も人数が限られているので必ずなれるとは限らない、最終的に家庭にしわ寄せがきて、自分の子どもに負担をかけてしまっています。【小学校・現職教員】

教育現場は、効率だけで前に進まない。私たち大人がゆったりと時間をかけて子供たちをみてやれる環境をつくってもらいたい。【高等学校・現職教員】

教員として働き始めても学ぶ時間を確保することが難しいといった事も問題だと思います。(略)若手の教員はさまざまな授業を見て、たくさんのことを学ぶことで、目の前の子どもたちにあった指導を考える引き出しをつくる。そんな時間もありません。(略)教員の資質能力の向上のためには、まず、教職員の取り巻く環境の抜本的な改善(働き方、給与、環境整備等)を行って欲しいと思います。【小学校・現職教員】

2. 必要な制度の提案

性犯罪に関わる前科のある者を、教員、学童、放課後デイサービスなど子どもと関わる職業から排除する仕組みを制度化してください。【特別支援学校・現職教員】

教員不足の問題ですが、子育てに直面して退職してしまう女性教諭がたくさんいます。退職しなくてもパート勤務など(例:10時~14時などで小学校の副担任として入る。週3回などで中学校の教科担当。など)で「教諭」という立場を辞めないで続けられる制度があれば、子育ては数十年の話です。子どもが成長した後、「教諭」として働くことができます。【中学校・現職学校職員】

3. 教育予算の増額

日本の教育にかけるお金はOECD加盟国の中で最下位です。今までのように教員のマンパワーだけでは乗り越えられなくなっています。【小学校・現職教員】

国力をあげようと思うなら教育に力を入れて、様々な面で能力のある魅力的な人材を増やす方が結局のところ近道だと思う。(略)そのためにも誰も取り残すことがないように教育に本腰で力を入れて、学力や人間力、生活力そして自己肯定感の高い子ども達をたくさんの人で育むべきだと思う。そのためのお金は、増やそうとしている軍事費よりは、はるかに安いのではないだろうか。【小学校・現職教員】

特別支援学校は各学年にクールダウンできる部屋を必ず確保できるように施設の整備をして下さい。学校からの保護者連絡、遅刻欠席連絡などをインターネットで行える仕組みは公的な予算で執行できるようにしてください。(PTA費で賄われている学校があります)【特別支援学校・現職教員】

4. 教員の質・研修​​について

面白い研修をすることで質も上がるし、それを求めて大阪の教員になりたいという人も増えるのではないか。大阪独自の「おもろい研修」をしたらいい。【高等学校・現職教員】

私の職場には、若い講師の方が3人います。その方たちの教職員としての力量が低いです。講師不足のため誰でも採用されているようですが、これでは子どもたちの学力が低下するのも仕方ないと思います。【小学校・現職教員】

5. 教員の増員について

産休補助講師の数さえ揃わなくて、校長先生や教頭先生も、担任として仕事を兼務しています。そのため、インフルエンザの休業措置も、すぐに対応できない事がありました。(略)こういう小学校は、ひとつだけではありません。【小学校・現職教員】

教育は人です。教諭、事務職など手厚い教育が可能になるよう教育にかかわる人員を増やしてください。特に、養護教諭の各校複数配置は絶対必要であると感じます。【高等学校・現職教員】

6. 待遇向上について

賃金を含む待遇面の悪さで、大阪から優秀な人材が他府県に流れている。やりがいのある職場づくり、職員みんなでつくる学校、ゆとりがあってのびのびとした学校に戻せるように力を貸してください。【小学校・現職教員】

給料面や、休日の少なさでモチベーションが保たれない。【中学校・現職教員】

7. クラスの人数を減らしてほしい

G7の諸外国のように、1クラス当たりの生徒数を20人程度にする道のりを考えてもらえないでしょうか?ただ、教室確保の問題が出てくるかもしれないので、せめて1クラス当たりの教員数が2人というのを4人に引き上げるなど。【高等学校・現職教員】

子どもの教育のために、と考えてくださるなら、1クラスの人数を30人学級としてほしい。また特別支援在籍児童を通常学級でカウントしてほしい。【小学校・現職教員】

8.その他【メッセージ】

メッセージとして、最も多かったのが「お忙しいとは存じますが実際に学校で過ごしてみてください。様々なことを感じることができます。」という声でした。

いわゆる教育推進校みたいなきれいな学校だけでなく、毎日子どもたちと向き合いながら奮闘している現場にも何度も足を運んでみてください。ハード面もソフト面も整っていない現状があり、その中でどう私たちが働いてるのか、肌で感じ取ってください。本当に限界が近いです。【小学校・現職教員】

本当に下の方で明日の生活もわからない子達は、この令和の世の中でもいるということをもっと真摯に見てほしい。子どものせいでも親のせいでもなく苦しんでいる子達はたくさんいる。【小学校・現職学校職員】

子どもたちの家庭境は複雑多様化しており、住民自治、地域のつながりがなくなっている現代社会において、家庭も子どもたちも行政や学校に過剰に依存するしかない状況にあるのではないかと感じています。【小学校・現職教員 】

大阪で育って幸せだった、という大人になって欲しい。そのために今できることをしてほしい。【中学校・元教員】

子どもたちの権利を守り(大人だけで決めるのではなく)、教員が病むことなく働き続けられる、持続可能で大人も子どもも大事にされる環境づくりをお願いします。それこそが、国の未来です。【小学校・元教員】

まとめ

今回は、「部活動」「特別支援教育」「校則」「統廃合」「児童生徒の評価」+フリーテーマという、合わせて6つのトピックで、アンケートを実施しました。それぞれのトピックはバラバラのように見えて、実はつながっていたり、別のテーマなのに眺めていると共通の課題が浮かび上がってきたりします。

例えば、少人数学級や人員増加を求める声がほぼ全てのトピックで上がりました。しかし実際には、現場では欠員=教員不足が起こっている学校も少なくなく、「探しても探してもなり手がいない」状況があります。最低限現場を回すためにも、ひいては教育の質を担保するためにも、意欲と力のある人若い人たちに「大阪で先生をやりたい!」と思ってもらう必要があります。そういう人を増やしていくことが、大阪の教育の質を担保することにつながります。

そのためには、大阪の教育の魅力が向上する必要があり、それには現状の大阪の教育の魅力と特色、大事にしてきたことを見つめ直すことも大切です。その1つがインクルーシブ教育なのかもしれません。また、まずは安心して働けるように、何よりもまず働き方改革や待遇改善を進める必要があるという声が多く聞かれました。働き方改革を実行するには、予算の増額と制度づくりが必要です。これは、現場の教員には直接的にはどうにもできないことです。

大阪の教育政策には独自政策も多いですが、良かれと思って導入しても、教員が「やる意味がわからないままやらされている」と感じて働いていては、現場は疲弊していきます。「なんか上から降ってくる」ということではなく、学校現場と政策現場(議会と行政)の応答的なコミュニケーションがもっと必要なのではないでしょうか。そのことが、大阪の教育が魅力的かつ持続可能になるために必要な、大きな要素なのではないでしょうか。

 School Voice Project では、今後も現場の声を議員さんに届け、一緒にめっちゃおもろい大阪の教育、未来をつくっていきたいと思います。


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「教職員×議員 学校の現実を本音で語る会」をたかつガーデン(大阪府教育会館)で、2023年1月29日、2月19日の2日間にわたり開催しました。NPO法人School Voice Projectと大阪大学人間科学研究科佐藤功研究室が共同で主催。延べ87人の教職員と議員(立候補予定者含む)が参加し、大阪の教育について意見を交わしました。当日の様子は、産経新聞、朝日新聞、大阪日日新聞、関西テレビで報道されました。

大阪の議員に学校の実情を届ける会はこれまでにもオンラインで開催してきましたが、今回は久しぶりに参加者が1つの会場に集まって開催することができました。

2回に分けて実施された本イベントには、主催者の呼びかけや説得に応えるかたちで、府議会議員・市町村議会議員・立候補予定者の方が延べ10人参加。与野党の垣根を越えて、ほぼ全会派の方にお越しいただいたことに大きな意味があったと思います。

本記事では、イベントの様子とともに参加した教職員や議員の声を中心にお伝えします。大人たちが立場を超えて語り合い、よりよい教育を模索していくことの価値を感じていただけると嬉しいです。

1月29日、キックオフ会。参加者が対等な関係で語り合う

大阪府内の公立学校における教育の基本的な方針を定めた「教育基本条例」。2012年に制定されてから、約10年が経ちました。

初日である1月29日は、「教育基本条約」の制定を機に学校現場がどう変わったのかを振り返り、参加者とともに今後の大阪の教育を考えていきました。

第1部はパネルトークとして、大阪府の教育基本条例の草案をつくった立場でもある大阪維新の会の紀田馨議員、大阪市の松井市長に提言書を送ったことでも知られる元大阪市立小学校校長の久保敬さん、府内の現職の中学校教員の川上典子さん、高校教員の榎原佳江さんが登壇。ディスカッションをしました。コーディネーターを務めたのは、大阪大学教授の佐藤功さんとNPO法人School Voice Project理事の武田緑です。第2部ではパネルトークを踏まえ、グループに分かれて教職員と議員で意見を交わしました。

イベント冒頭には司会者から以下のようなアナウンスがあり、参加者全員が対等な関係として対話の場をつくっていくことの大切さを強調しました。

「本会は、今の子どもたちと未来の子どもたちのために、教職員と議員が立場を超えて本音で語り合う会です。さまざまな考えを持ち寄り、対話によってよりよい大阪の教育をつくっていくことを目指しています。『さまざまな考えをもつ方が集まって、みんなでよりよい大阪の教育をつくっていくこと』を趣旨とする会です。特定の政党の良し悪しを判断することや相手を攻撃するような発言はお控えください」

議員、元校長、現役教職員を交えてのパネルトーク

第1部では、それぞれの立場から、大阪の教育への課題意識や、「こうしていきたい」というビジョンが語られました。議論が空中戦・水掛け論にならないように、一人が話した後に、他の登壇者が、その人の語ったことについて、深堀する質問をするというスタイルで全員が話し、その後フリーディスカッションという流れで進行しました。

紀田さんからは、学校統廃合について、今後の少子化を見越して必要だという判断をしたこと、どの学校を廃校にしても反対は出るので「市民、納税者から選ばれているかどうか」という点を判断基準にしたこと、また、納税者の意向を教育に反映させるルートが必要だと考えていること、などが語られました。他の登壇者からは、「いわゆる偏差値が低い学校から廃校になっていて進学先を選べない生徒がいる」という実感や、「通える範囲に行ける公立学校がない」というケースをどう考えるか、という質問が出されました。紀田さんは「通える範囲に公立校2校は残すということにはなっている」「ここまで、偏差値の低い学校から廃校になっていくとは思っておらず、今後検討は必要」との考えを返されました。

久保さんからは、37年間大阪市の小学校で勤務する中で、2000年代以降、教育の結果・成果を問われ、PDCAサイクルで改善が求められ、現場が息苦しくなってきているという実感が語られました。学力など、数値的な結果が求められることでむしろ大事なものが失われているのではないか。一番しんどい子どもが取り残され、しわ寄せがいっている。(上位は)相対評価の教員評価もやる気を削ぎ、分断を生んでいる…といった思いが語られました。

川上さんからは、不登校傾向の生徒や別室登校の生徒もいる中で、個別対応が必要だが、人が足りていないこと。部活動でも家庭の事情等で実質動ける人が少なく、替えがいないギリギリの状況でまわしていること。そんな多忙でゆとりのない状況の中で、教職員のつながりの希薄化していることなどが語られました。

榎原さんは、職員会議のあり方について話されました。自分が入職した頃は、職員会議で挙手をして意見表明をするということが当たり前に行われ、「自分の意見を言いなさい」というふうに育てられたけれど、教育基本条例ができ、職員会議のあり方が大きく変化したという実感があること。職員室でも意見が言いづらくなり、教職員が考えないようになっている。職場の民主主義が崩壊しつつあるという危機感を語られました。

「教員にゆとりがない」学校の現状を伝える。聞く。

パネルトークの後は、参加者を交えて6、7人のグループに分かれ、意見を交わしました。

テーマはフリーですが、机の上には、次回の本番でのディスカッションテーマになる「部活動」「特別支援」「校則」「統廃合」「評価」「大阪の教育(全般)」の6つのトピックを書いたカードと「聞いてほしいこと」「困っていること」「変えたいこと」と書かれたカードが9枚並べられました。何を話せばいいのか迷子にならなくて済むようにするための工夫です。皆さんカードを手に取りながら、お話をされていました。

多くのグループで話題になっていたのは、教員のゆとりについて。業務量が多いことで教員が疲弊している事実や、その状態が児童生徒にも影響を与えていることへの懸念を訴える声がありました。

  • 若い先生が疲弊するのはもったいない。若い先生が頑張れるような環境づくりが必要。(中学校教員)
  • 部活動など負担になることを減らさないと、教員になろうとする人は増えない。(中学校教員)
  • 講師の登録者数を増やさないと、現場は疲弊してしまう。(中学校教員)
  • 1学級に在籍する児童生徒の人数や大阪府で独自に行われているチャレンジテスト、校則やルールについての意見も交わされました。
  • 35人で授業を受けるように設計された教室に、40人の生徒を詰め込んでいる。空間的な余裕があれば、一人ひとりに声を掛けられる。(中学校教員)
  • 支援学級に在籍している生徒を、通常学級の人数に数えないのはおかしい。(中学校教員)
  • 「チャレンジテスト」で競争させることで、教員や子どもは疲弊している。(中学校教員)
  • 髪色が茶色い生徒は、地毛登録をしなければいけない。保護者にも確認が必要。生徒の人権にも関わる問題ではないか?(高校教員)
  • 学校の統廃合については、教員や生徒の意見はなかなか聞き入れてもらえず、決定事項が通達されるような現実があるようです。
  • 高校で定員割れが続いて、教育庁の判断によって統廃合することが決まった。決定までに議論の場はなく、納得できなくても覆ることはない。(元高校教員)
  • 入学者数が減って、今後統廃合につながるかもしれない。保護者のニーズに合わせる学校となり、「勉強(進学)・部活・しつけ」だけになっているように感じる。息苦しいのは公立も私立も同じ。(私立高校教員)
  • 統廃合を止めるために、地域代表になって行政とやり取りした。1番子どものことを思っている当事者なのに、統廃合に関して先生の意見は聞いてもらえない。統廃合によって子どもが不登校になっても、先生はヘルプを出すことができない。(元高校教員)

参加した議員らは、丁寧に教職員からの意見に耳を傾け「日頃からもっと学校の先生と話す機会がほしい」という声も聞かれました。また、「先生に余裕がなく、ゆとりがないことで子どもからのSOSに気づかないことがある。先生の給料を増やし、人数も増やして負担を減らすことが大切」「日本は世界的に見ても教育予算が低すぎる。地域によって、各家庭が子どもにかけられる教育費は違うのに、その中で学力を比べるのはおかしい。しんどい地域の子どもが不利になる制度だと思う」などと教職員からの声に応えました。

「キックオフ会」の感想

3時間かけて意見を交わした本イベントでは、他校の現状を聞いて驚く教職員の姿や、教職員の声に丁寧に耳を傾ける議員の姿が印象的でした。教職員からは、校種の違う人の意見を聞けたことや、政策の意図を知ることができたことへの価値を感じたという感想が寄せられました。

参加者からの感想

  • 「議員の方のお話が聞ける!直接現状を伝えられる!」というのが、今回の参加理由でした。実際、お話を聞いて、統廃合やチャレンジテストについての意図がわかったり、その意図と現状が少しずれていることも分かりました。教職員と議員の方の解決したい課題が一緒だと思うと、少し元気が出ます。(中学校・教職員)
  • 違う校種や職種の方々といろんな意見を言い合えて良かったです。少子化、子育て支援が叫ばれる中、教育にもっと予算がつくようがんばらないとあきません。(高校・教職員)
  • かねてから教育現場の教員は、どのように大阪の教育について考えているのかを直接、お聞きしたかったのでいい機会を得ました。今後の大阪の教育行政の立て直しに向けての取り組みに尽力します。(議員候補者)
  • とても心地よい時間を過ごすことができました。議員が先生の生の声、そしてやる気を目の当たりに出来る素晴らしい企画です。(現職議員)

「校則を変えること」よりも、生徒や教職員同士の対話を通して校則を見直すプロセスを大切にするルールメイキングプロジェクト(以下、ルールメイキング)。

大阪府吹田市立豊津中学校では、2022年1月より校則やルールの見直しに取り組みました。

進行に関わった同校教員の髙山桂さん、濵田淳司さん、髙栁菜摘さんに、具体的な実践と生徒や教職員の変化について聞きました。

教職員への提案を経て、プロジェクトメンバーを募集

ーー まずは、中心となってルールメイキングを進められた髙山さんに、実施までの経緯を伺ってもいいでしょうか。

髙山:以前から、校則や多さや教員でも説明できないようなルールがあることが気になっていました。そんなときに認定NPO法人カタリバさんの『ルールメイキング』の取り組みを知り、さらに興味を持ちました。

カタリバさんが提供している教材や他校の先生方の取り組みを参考にしながら本校でも進めてみようと思い、2021年10月に実施した校内の教職員研修で、「生徒指導マニュアル」の見直しを提案したんです。それがきっかけで、ルールメイキングに取り組むことが決まりました。

豊津中学校のルールメイキングの取り組みを中心となって進めてきた高山さん

ーー ルールメイキングに参加する生徒は、どのように決めていったのでしょうか。

髙山:2学期の終わりに、全校生徒に対してルールメイキングの発足を伝えて、年明けに参加したい生徒を募りました。集まったのは26人で、私を含めて4人の教員が中心となってプロジェクトを進めることになりました。

髙栁:生徒会に所属しているかどうかは関係なく、有志の生徒を集めました。希望したら誰でも参加できるので、ある意味いい加減に参加することもできるんですよね。その点は少し心配でしたが、実際は真剣に議論に参加するような生徒が集まってくれました。

髙山:そうですね。「なんで学校用の靴下をわざわざ買わないと行けないんだろう?と疑問に思ったから参加しました」という子もいましたし、「友達に誘われたから来ました」という子もいました。軽い気持ちで参加した生徒も、議論を進めていく中で自分の意見が形成されていった部分はあったのではないかなと思います。

少数派の意見も聞いて新ルールを検討した

ーー 具体的に、どのようなルールを見直すことにしたのでしょうか。

髙山:何度もミーティングを重ね、最終的に「靴下や髪ゴムの色に関するルール」と「登校時の服装に関するルール」の見直しをすることになりました。

ーー 2つのルールに絞って見直しをしていったのですね。その2つに絞るまでには、どのようなやり取りがありましたか?

校則については「以前から疑問も感じてきた」という濵田さん

濵田:集まった生徒たちは、「少数派の意見も聞き逃したくない」「この場にいない人の意見も大切にしたい」という思いがあったので、全校生徒を対象に、見直したいルールについてのアンケートを取りました。その上で、生徒と教職員の交流会も開きました。2つのルールに絞るまでには2ヶ月間くらいかかりましたね。

登校時の服装に関しては、本校では制服以外は原則として禁止されていて、体操服で登校する場合は個別に許可が必要なんです。それに対して、生徒からは「自分の性に悩んでいる子は、制服を着ることに抵抗感があるかもしれません。先生にカミングアウトして許可をもらえば服装のことは解決するけど、精神的には負担があると思います」という意見が出ました。これには衝撃を受けましたね。ジェンダー平等に関しては授業で扱っていたので、それがちゃんと届いたのかもなと感じました。

髙山:特に、「先生がジェンダーのことを教えているのに、学校ではそれが大切にされていないなんておかしい」という生徒の発言には、説得力がありましたね。教員自身がジェンダーについての理解が深まっていなかったと反省する気持ちもありました。

髙栁:話し合いの雰囲気としては、生徒たちは「そういう意見もいいよね」と相手の意見を受け入れるように聞いていました。髙山先生が、ミーティングの最初に「相手を否定しない」「自分の意見が変わってもいい」など、大切にして欲しいことを丁寧に伝えたこともよかったのではないかなと思います。

ーー ルールに関しては、保護者とのやり取りもあったのでしょうか?

濵田:ありましたね。教職員からは「靴下の色が自由になったら保護者の負担が増えるのではないか?」と懸念する声もありました。ならば直接聞いてみよう、と。

アンケートをとって聞いてみると、意外なことに賛否両論ありました。ルールを変えることへの反対意見としては、「統一感がなくなってしまうのではないか」「自由にさせすぎるのは良くないのではないか」などです。

髙山:アンケートとは別に、生徒も含めてPTA役員の方とルールについて話をする交流会も設けました。PTA役員の方からは、「中には体が器用に動かせなくて、制服を着るのに時間がかかってしまう子もいます。そういう子にとっては、体操服登校はありがたいと思いますよ」という意見をいただきました。私にはない視点だったので、聞けてよかったです。

また、それまであまり自分の意見を言わなかった生徒が、PTA役員の方に対して「もし自分の子どもが性のことで悩んでいたら、体操服登校を認めてほしいって思いますよね…!」と言っていたのには驚きました。後でその生徒に聞いてみると、「みんなが意見を言っているところを見て、自分も言ってみようと思った」「この場なら、聞いてもらえると思った」と言っていました。

単に「自分の意見を言いましょう」と伝えるだけではなく、こちらがちゃんと聞くことや、受け止めることも大切なんだと思います。

校則の見直しを通して、みんなが過ごしやすい学校へ

ーー ルールメイキングを進めていく中で、どのようなところに難しさを感じましたか?

髙山:生徒たちが作成した提案書を教職員に配布したのは9月だったのですが、2学期に入ると行事で忙しくなり、教職員間で話し合う時間がなかなか取れませんでした。なので、教職員向けのアンケートを実施して意見を聞くことにしたんです。その結果、「靴下や髪ゴムの色に関するルール」については、大多数の教職員が見直し案に賛成。「登校時の服装に関するルール」についても、半数以上の教職員が賛成すると回答してくれました。

ただ、その後はスムーズに進まなくて。「校則を見直した後に、何らかの問題が起こったらどうするか?」など、いろんな議論を重ねました。私としては、何十年も前に決まった校則が今もそのままの状態で続いていることには違和感があり、何とか変えたい気持ちはあったのですが…。最終的に、「靴下や髪ゴムの色に関するルール」については試行期間を設けて一時的に緩和することになりました。

教職員全員が納得して意思決定することの難しさは、恐らくどの学校でも共通していることだと思います。工夫したところとしては、生徒同士でミーティングをするときに、必ず教職員にも案内をしたことです。時にはルールを変えることに反対意見を持っている先生が来てくれて、議論に参加してくれたこともあります。

ーー 試行期間中、生徒たちはどのような様子でしたか?

髙栁:私はクラスの生徒たちの様子を少し意識して見ていました。あるとき、ベージュ色の靴下を履いている生徒がいたので、声をかけてみたんです。すると「白、黒、ベージュの3色セットで買ったんですけど、ずっとベージュだけ履く機会がなくて。それがやっと今日、日の目を浴びたんです…!」と言っていました(笑)純粋に可愛いなぁと。

濵田:家庭としても助かりますよね(笑)私はその期間はすごく忙しくて、正直生徒たちの服装を気にしている間もなく終わってしまった感じでした。後から聞いたら、自分のクラスにも靴下や髪ゴムを変えている生徒はいたみたいでしたが、違和感はなかったんです。それくらい、自然なことなのかもしれないなと思いました。

髙山:私もあまり気づかなかったのですが、身につけているものを見せてくれる生徒はいましたね。友達とお揃いのピンクの髪ゴムをしてきたり、キャラクターの靴下を履いてきたり。私の感覚でいうと、多くの先生たちが心配しているようなことは起こらず、変化を楽しむ子もいれば今まで通りの子もいる感じでした。

試行期間は10日間のみだったので、もちろんまだどうなるかわからない部分もあると思います。次は、もう少し期間を延長してやってみてもいいかもしれません。

ーー 特に印象に残っている生徒からの言葉はありますか?

髙山:今年度の取り組みに区切りをつけるために、先日生徒たちと一緒に振り返りをしました。「ルールメイキングはどんなプロジェクトだった?」と聞くと、「みんなの声で社会を変えるプロジェクト」「いろんな意見が否定されないプロジェクト」「一人ひとりの世界が関わり合うプロジェクト」などの声が集まりました。ルールメイキングは、どんな結果になったとしても、意味のある取り組みだなと改めて感じました。

また、ある生徒からはこんな言葉ももらいました。「私たちのこれまでの活動や提案、発言で、先生方の考え方が変わったり、心が動いたとすれば、それはどんな場面ですか?どのように変わりましたか?私はそれが知りたいです」と。

生徒たちは、校則について何度も議論を重ね、提案書を作成し、勇気を出して教職員全員の前でも意見を伝えました。それくらい真剣に向き合ってきたからこそ、私たち教職員に対して、この問いを投げかけてくれたんだと思います。生徒からのこの問いに、きちんと答えられる大人でありたいと強く思います。

ーー これまでの取り組みを振り返って、どのように感じますか。

髙栁:最初は人前で話すことが苦手だった生徒も、言葉にして相手に伝えることがすごく上手くなったんですよね。ルールメイキングを通して、自分の意見を伝えることへの自信もつけてもらえたのではないかなと思います。

濵田:1年間を通して、発表が上手くなった生徒は多いですよね。私は自分自身のことを振り返ると、これまで当たり前にやっていた自分の振る舞いによって、生徒にしんどい思いをさせてしまったことがあったかもしれないなと思うようになりました。やっぱり、一人ひとりが輝ける学校にしていく必要があると思うんです。ルールメイキングを通して、授業や学校行事のあり方も見直していきたいですね。

髙山:「ルールを変えること」が目的ではないですからね。一方で、ルールメイキングに直接関わっている立場だと、どうしても「変えたい思い」が強くなりがちです。全校生徒や教職員、保護者など、いろんな人の意見を聞いていくプロセスこそ、大切だと思います。新しいルールを提案するときにも、ただ内容を伝えるだけではなく、そこに込めた思いや話し合いの過程も伝えられるといいのかなと。

これまで当たり前のように決められていたことを変えようとしているわけですから、時間はかかると思います。それでも、「自分らしく生きること」を認め合える学校をつくるために、来年度以降も地道に校則やルールの見直しをしていきたいと思います。

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多くの人がSNSを通じて情報の発信や受信ができるようになった今、良い側面もあれば事実とは異なる情報が拡散され、さまざまなトラブルを招くことも少なくありません。

杉戸町立西小学校で5年生の担任を務める上山諒さんは、国語の授業で扱う単元「想像力のスイッチを入れよう」で紹介されている「4つのスイッチ」の視点に着目して、メディアリテラシーの大切さを子どもたちに伝えました。

「4つのスイッチ」とは、白鴎大学特任教授の下村健一さんが提唱する、情報を見極める際に重要な4つの視点です。授業づくりの工夫や子どもたちの変化を上山さんに聞きました。

「既読スルー」でトラブル。事実を見極める力をつけてほしい

ーーまずは、「4つのスイッチ」について教えてもらっても良いでしょうか。

「4つのスイッチ」とは、1つの情報に対して「まだ分からないよね」「事実かな、印象かな」「他の見方もないかな」「何が隠れているかな」の4つの視点で見ることです。

例えば、過去に「ライオンが動物園から逃げ出した」という内容がSNSに投稿されたことがあります。実際は事実ではない情報だったのですが、あっという間に拡散され、動物園には問い合わせが殺到しました。

このような情報を見ると、鵜呑みにしてしまいそうになることはあると思います。「4つのスイッチ」は、さまざまな情報に対して“正しく疑う視点”を与えてくれます。

ーーどのような問題意識があって、「4つのスイッチ」について深掘りして授業で扱うことにしたのでしょうか。

子どもたちの中には自分のスマホを持っている子もいますし、日常生活の中でYouTubeやSNSなどから情報に触れる機会が多くあります。よくあるのが、ちょっとした言動がきっかけで、事実とは違う情報が伝わってしまうことや、事実と主観を切り分けられずにトラブルにつながることもあるんです。

例えば、LINEでは相手がメッセージを開いたら「既読」のマークがつきますよね。ある児童が友達にメッセージを送ったところ「既読」がついたけれど、返信がないことがあったようです。それで「無視された」と思って、トラブルに発展してしまった。でも、相手の子は家事の手伝いをしているだけだったんです。他にも、「〇〇ちゃんがこう言っていた」という、事実とは違う噂が広まってしまったこともあります。

受け取った情報をそのまま鵜呑みにするのではなく、「本当にそうなのか?」と疑ったり、他の情報を調べたりすることは、大人になってからも必要なことだと思います。子どもたちの普段のコミュニケーションからも、メディアリテラシーについて学ぶことの必要性を感じ、授業の中で取り入れることにしました。

「4つのスイッチ」で、情報を疑う視点を

ーー具体的に、どのような授業をされましたか?

授業では、毎回4つのスイッチの1つを取り上げて、さまざまな例文を提示しながら子どもたちとその文章について考えていきました。例えば、提示したのは以下のような文章です。

「サッカーの人気チームで監督が辞任することになり、Aさんが新しい監督になるのではないかと注目が集まっている」

この文章を提示した後に、「まだ分からないよね」と思うところに線を引いてもらいました。すると「Aさんが新しい監督になるのかはまだ分からない」という見方ができるわけです。「4つのスイッチ」を提示することで、子どもたちはすぐにこの情報の事実と推測の部分を意識して読むことができました。

比較的難しかったのは、4つ目の「何が隠れているかな」のスイッチです。授業では、以下のような文章を用意しました。

「『GOTOトラベル』がスタートし、町には若者が増えた。家で大人しく自粛せず、外出するとは本当に若者は危機感が薄い。東京では3人死亡。過去最多570人感染確認」

私からは「この情報の暗がりを見つけてみよう」という声かけもしました。すると「家で大人しくしている若者もいるよ。僕たちは学校から帰ったら外出しないようにしている」「感染者は出てるけど、治った人もいるよね」などの意見が出ました。

最後の授業では、長めのニュース記事を提示して、4、5人のグループに分かれてもらいました。これまでに学んだ「4つのスイッチ」を意識しながら気づいたことを付箋に書き出し、話し合ってもらいました。「まだ分からないよね」「事実かな 印象かな」の2つは割とすぐに見つけられるのですが、「他の見方もないかな」「何が隠れているかな」は難しそうでしたね。

ーー全体を通して、工夫したことはありますか?

子どもたちが主体的に学べるように、単元の最後に「下村さんに、メディアとの関わり方について自分の考えを届けよう」というゴールを設定しました。実際に下村さんに連絡してみると、快く承諾してくれた上、授業づくりのアドバイスもしていただきました。

学習計画としては、山に登っていくイメージで9つのステップを用意しました。授業を重ねるごとに「情報初心者」「情報見習い」と進んでいき、最終的に「情報使い」にたどり着きます。視覚的にもレベルアップしていく過程がわかるので、ゲームのような感じで子どもたちも喜んでいました。

授業や家庭の中で、情報の受け取り方に変化が

ーー授業を受けてから、子どもたちの変化を感じる場面はありましたか?

いろんな情報がある中で、何が正しいのかを意識するようにはなったのではないかなと思います。国語で「4つのスイッチ」について学んだ後に、社会の授業の中で、SNSで拡散された情報を見せたことがあります。そのときは、子どもたちから「絶対そんなことないよ」「誰からの情報かわからない」などの声があがりました。

中には、保護者の方から「家でニュースを見ているときに、『4つのスイッチ』の話をしてくれることがありました」と聞くこともあります。全員ではありませんが、何人かは実生活の中で活用してくれているのかなと思います。

ーー最後に、メディアリテラシーの授業を振り返ってみていかがですか。

この授業に限らず、やはり子どもたちは一方的に教えられるだけでは学ぶことを楽しめないですし、自分ごととして捉えることも難しいだろうなと思います。

今回のように考えたり話し合ったりする時間をつくると、子どもたちは真剣に取り組んでくれます。この授業をきっかけに、友達とのコミュニケーションの仕方やメディアとの向き合い方を考えてもらえるといいなと思います。

職場でのパワーハラスメント(パワハラ)に悩みを抱える方が多くいます。実際、フキダシで以前行ったアンケートでは、教職員の退職の理由として、職場内のパワハラについての意見が多く挙げられました。また、毎月行っている【常時アンケート】でも、「聞いてほしい話」として職場内でのパワハラについての悩みが多く投稿されています。

令和2年より、職場のパワハラ防止のために必要な措置を行うことが事業主の義務となりましたが、それらは実際どの程度行われ、どの程度意味のあるものとなっているでしょうか。今回は、全国の学校で働く教職員の方に、職場でのパワハラの実態と望ましい対策を伺いました。

結果を読む際に、ご留意いただきたいこと

本アンケートは、回答者が“パワハラだと感じたこと”について聞いたものです。パワハラに該当するかどうかはさまざまな要素を総合的に考慮して判断されるため、本記事で紹介している事例はパワハラであることを認定するものではありません。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2022年12月27日(火)〜2023年1月30日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :104件

アンケート結果

設問1 パワハラの条件、知っている?

Q1. 法律では、下記の表の「職場におけるパワハラの3要素」のすべてを満たす行為をパワハラと定義しています。あなたはこの3つの要素を知っていましたか。

※詳しい説明や該当例は厚生労働省の資料をご覧ください。

回答者のうち約7割が「知っていた」もしくは「だいたい知っていた」と回答。特に高等学校の教職員はその割合が高く、約8割にのぼりました。

設問2 パワハラの被害経験はある?

Q2-1. 設問1で挙げた「パワハラの3要素」に当てはまる事例に遭遇したことはありますか。

「自身の被害経験がある」と回答したのは、全体の半数を超えました。また、「自身の被害経験がある」と回答した人の中で、「現在自分が被害にあっている」と回答した人は57人中16人でした。「過去に同僚が被害にあったことがある」と回答した人は、半数近くにのぼりました。

具体的な被害内容は、「精神的な攻撃」が最も多く、「過大な要求」「人間関係からの切り離し」「個の侵害」などもありました。一方で、「身体的な攻撃(暴行・傷害)」と「過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)」に該当する被害内容は本アンケートの回答の中にはありませんでした。

設問2-2 パワハラ被害の内容は?

Q2-2. 差し支えのない範囲で、被害の内容を教えてください(相手の職位、相手との関係性、内容など)

精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

全体の目の前で叱責される。【小学校/中学校・教員】

主任教諭に仕事の進め方に関して相違があった際に、管理職へ報告した結果、教室で子どもの前で怒鳴り散らされた。また、校長へ育児休業取得の話をした際に同じ学年を組む人に迷惑であると言われた。【小学校・教員】

現在講師をしていますが、校長や事務職員より「講師はいらん」という話をされたことがあります。人件費が無駄、講師は年度更新のため学校体制がつくりにくい、などの理由でした。【中学校・養護教諭】

開示面談のときに、「あなたはこの学校に要らない、居ても居場所はないから異動願を出しなさい」と数年続けて言われ続けた。同僚はもっと酷くて「貴方には能力がないから、退職願を出しなさい」と迫っていたと後日聴いた。【小学校・教員】

病気休暇を取得した後、「器量も悪くないんだから早く結婚して辞めたら?」と校長に言われた。【小学校・教員】

妊娠中管理職から、「妊娠は病気じゃないから休まず毎日来ること」「休んだら保護者の不信感につながる」と指導を受けた。【小学校・教員】

自分より勤務校での勤務年数が長い同僚(年齢は上)と同じ学年団にいたとき、私のクラスが一時荒れていたときに「すべて担任のあなたのせい」と責められた。【高等学校・教員】

人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

教務主任から執拗なメール攻撃にあい、眠れなくなり、業務にも支障が出た。こちらの意見は聞かず話をすることもできず、日頃の業務でも無視されることも多々あった。【小学校・事務職員】

校長が無視をする。来客の予定を伝えない。有給休暇の理由を聞く。また、職務に差し支えないにもかかわらず、校長の気分で有給休暇をとらせない。【小学校・教員】

管理職が、部下にあたる先生を無視する、付箋だけでやりとりする、という行為を行い、その先生が療休に入ってしまった。【小学校・教員】

過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)

学校外では、部活動絡みで苦しんだ経験が僕も元同期もあります。僕の場合、1年目の頃、飲み会で嫌な出し物をやらされたりしました。【中学校・教員】

初任者の指導として、校長が何度も何度も書き直しを命じ、休日出勤までさせて指導した。私たち同僚の目にも、とうてい納得のいく内容の指導ではなく、本人はショックで教職を続けるかどうか本気で悩んでいた。【小学校・教員】

個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

休み中に単独事故を起こした教員に対し教頭が激しく叱責し、午後6時以降の外出を禁じる旨を事故を起こした教員に伝え、毎夜外出していないかチェックを行い私生活に介入していた。【中学校・教員】

検査の結果、腹部に異常が見つかりすぐに手術が必要だと言われたことを管理職に伝えたら、「普通こういった手術は長期休暇にずらすものだ」と言われた。また、異動後すぐ管理職から、「この1年は妊娠しないように」と言われた。【小学校・教員】

校長と普通の正規教員の間で、不妊治療等を理由に退職を申し出たところ、執拗な呼び出し等で引き留めようとした。呼び出し、面談の中で、妊娠のタイミングや年度途中で退職することについて非難された。【特別支援学校・教員】

設問3 パワハラ対策、行われている?

Q3. 厚労省による「職場で行うべき」とされているパワハラ対策は行われていますか。

※自身も同僚も被害経験があると回答した人は、「自身の被害経験あり」にカウントしています。
※自身の被害経験がなく同僚の被害経験のみあると回答した人は、「同僚の被害経験あり」にカウントしています。

パワハラ対策について「行われている」と回答した人が最も多かったのは、「パワハラを行ってはならないことの周知(63%)」でした。次いで多かったのは、「相談窓口の整備・周知(51%)」でした。また、「行われていない」と回答した人が最も多かったのは、「パワハラ発生時の迅速・適切な対応(49%)」でした。次いで多かったのは、「パワハラへの対処規則等の明確化・周知(48%)」でした。パワハラを防ぐ対策や相談窓口の設置は比較的されているものの、それに比べて、パワハラが起こったとき対処規則の明確化や適切な対応はなされていない傾向があるようです。

被害経験の有無での回答の違いを見ると、「自身の被害経験あり」と答えた人は被害経験のない人に比べて、「相談窓口の整備・設置」「相談したことを理由とした不当な取り扱いの禁止・周知」について「行われていない」と回答した人が多い傾向がありました。

設問4 パワハラ対策、有効だと思う?

Q4. 厚労省によるパワハラ対策は実際に有効だと思いますか。

※自身も同僚も被害経験があると回答した人は、「自身の被害経験あり」にカウントしています。
※自身の被害経験がなく同僚の被害経験のみあると回答した人は、「同僚の被害経験あり」にカウントしています。

パワハラ対策が「有効だと思う」と回答した人が最も多かったのは、「パワハラへの対処規則等の明確化・周知(49%)でした。次いで多かったのは、「パワハラを行ってはならないことの周知(43%)」でした。全ての項目において、「有効だとは思わない」と回答した人は3〜4割程度であり、「分からない」と回答した人は2〜3割程度でした。

被害経験の有無での回答の違いを見ると、「パワハラを行ってはならないことへの周知」と「パワハラへの対処規則等の明確化・周知」は、被害経験のない人の半数以上が「有効だと思う」と回答しましたが、「自身の被害経験がある」と回答した人は3割程度にとどまりました。その他の項目においても、自身の被害経験がない人よりも、被害経験のある人の方が「有効だと思う」と回答する割合が低い結果となりました。

設問5 どのようなパワハラ対策が有効だと思う?

Q5. その他、どのようなパワハラ対策が有効だと思いますか。(任意)

未然防止につながる体制づくり

先生たちにゆとりができれば、少しは減ると思う。職員室がストレスフルすぎる。【小学校・教員】

学校はまだまだ年功序列、経験の有無で日々の仕事や評価が進められているように思う。日々の業務への物理的・精神的な余裕がないと、パワハラに近い言動はなくなっていかないのではないかと思う。【小学校・教員】

各自治体による教職員の職員構成バランスの調整。(中間層が少ない、多様な職員の確保⇒学校現在の人手不足解消への手立て⇒教員一人一人の精神的余裕の確保)【中学校・教員】

それぞれの現場で起きていることが、外部の目にも見えるようにすること。風通しの良さ。【小学校・教員】

パワハラを行ってはならないことの周知

何がパワハラなのか、具体的な例を出すこと。【中学校・教員】

管理職の意識改革、法令遵守についての研修【小学校・教員】

制度だけに頼ることなく、職員全体が認識を正しくすること。お互いに声をかけ合うことで、パワハラに対して職員室全体で抑制力を持てるような職場を私たち自身が作っていくこと。(制度があるからと見て見ぬふりをするような空気を作らない)【小学校・教員】

パワハラへの対処規則等の明確化・周知

パワハラが実際に起こっても、密室や他の人のいないところで行われていることは、本人に確認もなしに通告できないとか、本人が通告を嫌がるかもしれないと考え、動きづらい現状がある。疑わしいことはすべて通告する、とか、過去の事例を職場内で検討する時間を設けるとか、そもそも職員室が心理的に安全な場をつくるとか、「パワハラが起こってからの対応」で歯止めするだけではなく、パワハラが起こりにくい、起こしにくい職場をつくる対策を行う必要があると思います。【中学校・教員】

パワハラに遭った際、被害者は何をすべきか詳細なマニュアルが欲しい。どのようにして言質を取り、弁護士とはどのように繋がってどう言う手順で相手を訴えたら良いのか、ということを被害に遭ってからでは考える気力がない。「教員パワハラマニュアル」が存在すれば、それがあることで加害者にはパワハラ抑止力に繋がるし、被害者には安心材料となる。【中学校・教員】

きちんと罰則を作る。また、パワハラを認定した際の管理職への影響、パワハラを認定された先生への影響、パワハラを受けた先生への影響がどうなるのかをそれぞれ事前に、周知する。パワハラ認定をした際に、それぞれ、どうなるのか分からないからこそ、パワハラを受けた先生は言いにくい。この不安を乗り越えて、告発するときには相当な悪い状況まで言っているといえる。【小学校・教員】

相談窓口の整備・周知

つらい思いをしたときに、相談できる方法がいくつかあること。【小学校・教員】

教育委員会や教育事務所に加えて、第三者から弁護士に繋げていける窓口の設置をしたい。【小学校・校長】

学校カウンセラーの常時在中だけでなく教職員に対応できる相談窓口や、学校内に法律相談に乗ることができる弁護士などの在中が必要だと思う。また、公共団体の教育委員会には、行政側の代表だけでなく、一般の教職員の代表的な人もいるようにしてほしいと思う。【小学校/中学校・職員】

パワハラ発生時の迅速・適切な対応

パワハラを法律違反行為と考えると、職場内の自浄作用に頼る部分ではなく、第3者機関を置く必要がある。【小学校・事務職員】

管理職であってもパワハラがあれば指導してくれる上位機関がほしいです。管理職のパワハラに対抗する術がありません。【小学校・教員】

うちの学校は、ハラスメント対策委員会があるが現職教職員が担っている状況。同僚のおこないを調査したりジャッジをするのは心身ともに疲労度が高い。外部機関にお願いするのも、費用面で難しい部分がある。どこまでが学校内で担われるべきで、どこまでを外部機関が担うべきなのか。その場合の費用補助なのかあるのか。そのあたりかなと思います。【小学校・教員】

関係者のプライバシー保護

通報先が教育委員会で、通報があったことが、速やかかつ秘密裏に管理職に筒抜けだった。これでは全く機能しない。秘匿性の高い第三者によるパワハラ相談窓口の設置と迅速で、公正で、的確で厳格なパワハラ対応が必要。【小学校/中学校・教員】

パワハラを受けたときに、安心して相談できる環境(行政の窓口)の整備。訴えた人が守られる保証。【特別支援学校・教員】

実際にパワハラの被害経験のある人からの回答が目立ちました。最も多かったのはパワハラの被害を未然に防ぐような取り組みや、パワハラを行ってはいけないことの周知に関する内容でした。

例えば、ストレスの多さや余裕のなさからパワハラが起こっているのではないかと推測する人からは、「職員構成バランスの調整」「教職員のゆとりをつくる」などのアイデアが寄せられました。また、自身の経験を元に「プライバシーが守られること」や「第三者の介入」の必要性を訴える声も目立ちました。

まとめ

法律で定められているパワハラの定義については、回答者のうち約7割が「知っていた」もしくは「だいたい知っていた」と回答しました。「自身の被害経験がある」と回答したのは、全体の半数以上。「同僚が被害にあったことがある」と回答した人は、半数近くにのぼりました。具体的な被害内容は、「精神的な攻撃」が最も多く、「過大な要求」「人間関係からの切り離し」「個の侵害」などもありました。

パワハラ対策の6項目のうちの1つである「パワハラを行ってはならないことの周知」については、回答者の63%が「行われている」と回答し、被害経験のない人の半数以上が「有効である」と回答しました。一方で、被害経験のある人が「有効である」と回答した割合は28%にとどまりました。全項目において、自身の被害経験がない人よりも、被害経験のある人の方が「有効だと思う」と回答する割合が低い結果となりました。

その他、有効だと思うパワハラ対策については、「職員構成バランスの調整」「教職員のゆとりをつくる」などのアイデアが寄せられました。また、自身の経験を元に「プライバシーが守られること」や「第三者の介入」の必要性を訴える声も目立ちました。


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この日、大阪の守口にある古民家風の「来迎カレーの店 うペぽ」に集まってきたのは、小学生から大学生までの6人。神戸大学附属中等教育学校の国語教員である中川雅道さんは、休日を利用して毎月子ども哲学のイベントを開催しています。(イベント開催予定はこちらよりご覧いただけます)

子ども哲学とは、p4c(philosophy for children)とも言われ、日常で感じる問いを出し合い、お互いの意見を聞き合いながら考えを深めていく活動です。

対話をするときに使うのは、毛糸でできたコミュニティボール。発言者はボールを持ち、ボールを持っていない人は話を聞きます。安心して話せる場をつくるためには、欠かせない道具です。

中川さんは、大学時代から哲学対話についての研究を重ね、現在は学校の授業でも哲学対話を取り入れています。

人数が多くても、哲学対話は取り入れられる

ーー 授業の中では、哲学対話をどのように取り入れていますか?

現代文の授業だと、4〜6回に1回くらいは哲学対話をしています。本当は、毎回対話の時間にしたいくらいなのですが(笑)私が面白いなと思った文章を持ってきて、生徒たちに読んでもらった上で、問いを出し合って対話することが多いですね。道徳や総合的な探究の時間はもちろん、他の教科でも哲学対話を取り入れることが出来ます。

ーー 学校の授業だと、40人くらいで対話をすることもありますよね。人数が多いことによる、大変さはないのでしょうか?

実際にやってみると、人数が多いことによる大変さは意外とないんですよね。恐らく、先生としては発言していない生徒がいることが気になるんだと思います。

もちろん人数が少ない方が一人ひとりが発言できる時間は長くなりますが、たくさんしゃべっているからと言って、じっくり考えているとは限りません。あまり発言していなくても、もしかしたら深く思考しているかもしれない。なので、「人数が多いと大変で、少ないとやりやすいのか?」と聞かれると、微妙なところだと思います。

先生自身が、哲学対話の場を楽しんで

ーー 授業で哲学対話をするときは、どのようなことを意識していますか?

私の場合は、生徒と一緒に自分が楽しんでしまっているかもしれません(笑)生徒たちから出る問いに、純粋に興味があるんです。問いやそれぞれの意見に集中して耳を傾けています。

ーー 哲学対話の場づくりが成功したと感じるのは、どんなときですか?

終わった後に、生徒から「面白かった」と言ってもらえたときかなと思います。休み時間に生徒同士で哲学的な対話をしているのを見かけたりすると嬉しいですね。話の内容が気になってしまって、私も対話に加わってしまいます(笑)

そもそも哲学対話の場づくりに成功や失敗はないのかもしれないなとも思っています。自分では失敗したと思っても、生徒は楽しんでいたかもしれないですし。

一方で、いわゆる通常の授業は成功や失敗を判断できるように設計してあるような気がします。先生が枠組みをつくって、生徒がこう変化したらいい、みたいな。それがなくなるのが、哲学対話なんだと思います。

ーー 哲学対話の場づくりを続けてきて、ご自身で変化したなと感じることはありますか?

以前、大学院時代の後輩から「どんどん中川さんになっていますね」と言われました(笑)

ーー それは、どういう意味なのでしょう?

人って、言いたいことがあっても、相手を見て発言や行動を躊躇してしまうことってあるじゃないですか。それが段々となくなっていきました。「あ、これ言いたいな」とか「今こう考えてるからこうしたいな」と思ったら、自然に行動に移せるようになりました。「これを言ったら攻撃されるかもしれない」とか、そういう怖さが少しずつ消えていったんです。

対話の場でも「上手く進行しないといけない」とか「先生だからこう言わないと」とか、最初は少し思ってたのですが、今はないですね。思ってもないことは言いません。言ったとしても、誰の心も動かないんですよ。

大切なのは、上手く進めようとするよりも、自分が面白がることなんですよね。先生自身が「面白い!」と思えていると、結果として対話の場が上手く進んでいくような感じがします。

「正解」を問い直せることが、哲学対話の価値

ーー 授業の中で哲学対話を取り入れたいときに、最初にできることは何でしょうか?

学校以外の場でも、近くでやってる人がいないか探してみてください。哲学カフェは、割といろんなところで開催されています。

いきなり授業でやるのは難しさがあると思うので、まずはそこに行って対話の場に参加してみるといいと思います。相談を受けてくれる人も結構いると思いますよ。

ーー 中川さんにとって、学校で哲学対話の場をつくる価値とはなんでしょうか。

それぞれが「学校はこういう場所だ」と思っている“内面化された学校”を変化させていくことだと思っています。「いい行いをしないといけない」「いい成績を取らないといけない」などは、内面化された学校の一つ一つだと思います。

哲学対話には、「正解」がないんです。正解がない中で、相手が考えていることを聞いて、自分が考えていることを話す。先生や子ども、保護者が、学校に対して「これが正しい」と思っていることを考え直す場であるのが、哲学対話の価値なんじゃないかなと思います。

ーー 中川さん、ありがとうございました。

相手との違いを知ることに、意味がある

最後に、在学中に中川さんの授業を受けられた、神戸大学附属中等教育学校卒業生のお2人からのコメントをご紹介します。哲学対話の授業を受けたことで、ご自身にどのような影響があったのかを聞きました。

中村 帝仁 さん

哲学対話って、正解を求める場ではないんですよね。相手の意見を聞いて、いろんなものの見方を知る場だと思います。最初の頃は、正解ばかりを考えていましたが、対話を重ねるたびに「合理的であることに意味はあるのか?」「正しさに意味はあるのか?」と考えるようになりました。

井口 寛太朗 さん

哲学対話をする中で、人の意見を聞くことの大切さを感じるようになりました。例えば、同級生のことはよく知っていると思っていたけれど、意外と知らないことだらけだったり。自分では常識だと思っていたことが、相手にとってはそうではないこともあると思います。それぞれが、いろんな価値観や考え方を持っているんだなと思うようになりました。

編集後記

今回は、インタビューだけではなく、筆者も哲学対話の場に参加させてもらいました。年齢や立場に関係なく、正解や不正解、優劣も存在しない中で発言できる場は、こんなにも安心感で満たされているものかと、その場にいて感じました。空間を共有し、他者とともに学べる場であるのが、学校の価値の一つだと思っています。哲学対話は、学校という場所で、知識を得ること以外の学びを体感できる取り組みではないでしょうか。

「性教育」はいつ、どのくらい、どうやって行うべきなのか? 悩んでいる先生も多いことと思います。日本の学校での性教育は、中学校の1年間で平均3時間を切るなど、ほとんど行われていないといっても良いほど。内容に関しても、体の発達や性感染症などに限定する傾向にあります。

しかし現在、世界の性教育は身体的なものを超えて「人権や多様性理解」を根底に、人間関係やジェンダー、暴力と安全確保などを幅広く学ぶ「包括的性教育」へと向かっています。

この記事では日本の性教育の課題や最新事例、遅れの一因といわれる「はどめ規定」とそれに関する詳しい情報、ユネスコの提唱する「包括的性教育」などについて紹介します。

性教育とは?小学校から高校まで教えるとされていること

そもそも性教育は、それぞれの学校種においてどの程度、何を教えるべきとされているのでしょうか。体育科・保健体育科の学習指導要領には、主に下記について指導することと記述されています。

現行の学習指導要領と、そのポイントを解説した記事はこちらをご覧ください。

小学校

  • 思春期における体や声の変化、また発毛や異性への関心の芽生えなどに加え、初経や精通が起こること

中学校

  • 内分泌の働きによる生殖機能の成熟と、それに伴う適切な行動(射精、月経、性衝動、異性の尊重、性情報への対処など、性に関する適切な態度や行動の選択の必要性)
  • 受精・妊娠および後天性免疫不全症候群(エイズ)を含む性感染症に関する知識

高校

  • 生涯を通じた健康の保持増進や回復のための、各段階の健康課題に応じた自己の健康管理および環境づくり(受精、妊娠、出産とそれに伴う健康課題、また、家族計画の意義や人工妊娠中絶の心身への影響など)
  • 感染症予防のための個人の取組み、および社会的な対策の必要性

参考「学校における性に関する指導について」(文部科学省,2022年12月25日参照)

日本の性教育の課題

自己決定や人権に関わる重大な問題でありながらも、日本における性教育の扱いには、量・質共に現場によってばらつきがあります。

また、その取り扱う内容についても、「はどめ規定」の存在がネックになると言われています。

性交の取り扱いは?「はどめ規定」は“禁止”ではない…?

子どもたちは性暴力や性感染症、望まない妊娠などのリスクにさらされています。これらを回避するために、性交に関する正しい知識や考え方を学ぶことは男女ともに欠かせません。しかし、性交に関する教育は、満足に行えているとは言い難い現状があります。その原因として、よく指摘されるのが「はどめ規定」の存在です。

中学1年生の保健体育科の学習指導要領には、性に関する指導に関して下記のような記載があります。

「妊娠や出産が可能となるような成熟が始まるという観点から、受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする。」

この文言により「性教育では『性交』を扱えない」と現場では捉えられがちですが、学習指導要領は最低限指導すべきものを記載したもので、現状に合わせて発展的内容を教えることは問題ないとされています。

文科省初等中等教育局長は、2020年11年17日の参院文教科学委員会において以下のように発言しています。

「歯止め規定そのものは、決して教えてはならないというものではなくて、全ての子供に共通に指導するべき事項ではない、ただし、学校において必要があると判断する場合に指導したり、あるいは個々の生徒に対応して教えるということはできるものでございます。」

引用「令和2年臨時国会質疑から」(日本教育新聞電子版,2021年1月3日公開,2022年12月25日参照)

その上で文科省は、以下のような点について考慮すべきと述べています。

  • 児童生徒の発達段階を考慮すること
  • 学校全体で共通理解を図ること
  • 保護者や地域の理解を得ること
  • 集団指導と個別指導の内容の区別を明確にすること

ただ、「教えてはならない」ものではないとしつつも、実現のために考慮すべきことは多く、現場のハードルがとても高くなっているのも事実です。

目の前の生徒の状況を考えた時に、性教育で性交を扱いたいが、具体的にどうしていいか分からない場合や不安な場合は、例えば、学校の性教育を支援するNPO法人や医療関係者に協力を仰ぐ選択肢もあります。

その他、メディアでもたびたび取り上げられる、性教育を含め心と体・大切な人とのつながり方を学ぶ6年間のカリキュラム『生きる教育』を作った大阪市立生野南小学校は、その指導案などを学校ホームページで公開しています。

参考「本校の研究(がんばる先生等)」(大阪市立生野南小学校,2022年12月25日参照)

性教育の内容に関して話題になった事例

過去には、発展的な性教育の内容を扱った学校が批判され、話題になりました。ここでは、東京都立七生養護学校と足立区立中学の事例を紹介します。

東京都立七生養護学校

2003年、東京都立七生養護学校(当時)が取り組んでいた障害児への性教育を「世間の常識とかけ離れている」と都議会議員らが非難。都教委が教材を没収、校長の降格処分などの処分を下しました。その後、教員が訴えた裁判で、最高裁は都議会議員らの行為を教育基本法で禁じる「不当な支配」に当たると認めました。

七生養護学校には知的障害のある小学生から高校生までが通っており、思春期を迎えて体や心の変化に戸惑う子や、生徒同士での性的関係や性的ないたずらといったトラブルが起きており、保護者も交え、当時の教員によって性器の洗い方や月経、精通、避妊方法、気持ちの変化など、主に成長の過程を伝える教材や授業が開発されていました。

足立区立中学校

2018年、足立区の中学校3年生を対象に行われた総合学習の授業が、東京都議会から学習指導要領を逸脱した不適切な性教育であると批判を浴びました。

当該の授業は、若年層の望まない妊娠や高校1年生の中絶件数の増加を受け、生徒に性の正しい知識を身につけるために行われたもの。学習指導要領では避妊や人工中絶は高校で扱う内容ですが、子どもたちが誤った情報に振り回されているという現場の思いから、踏み込んだ内容まで扱われていました。

しかし、これらの授業は事前に管理職の協力や区の教育委員会の理解を得て行われたものであり、区教委は「内容に問題はない」と見解を発表。テレビの視聴者投票でも、早期での詳しい性教育を求める声が圧倒的に多数を占めるなど、世論も味方しました。

参考「いのちを学ぶ<「七生事件」の日暮かをるさんインタビュー>」(神戸新聞NEXT,2022年1月6日公開,2022年12月25日参照)

参考「学校の性教育で“性交”を教えられない 「はどめ規定」ってなに?」(NHK 首都圏ナビ,2021年8月26日公開,2022年12月25日参照)

つまり、2つのケースはともに、一部議員や世間から批判や非難を浴びたものの、その後正当性が認められているということができます。

いま求められつつある「包括的性教育」とは?

日本の性教育は、主に体育や保健体育の授業内で「体と発達」を中心に学ばれることが多くあります。

しかし、2009年にユネスコは「包括的性教育(Comprehensive Sexuality Education)」という概念を掲げ、ジェンダー平等や性の多様性を含む人権尊重を基盤とした、8つのキーコンセプトに基づく性教育を提唱しています。

日本におけるLGBTQの割合は約3%〜10%とも言われており、また若い世代ほど性自認が多様であるという調査もあります。多感な時期の児童生徒にとっても、体の発達に限定されない、多面的な性教育が求められています。

包括的性教育の目的

 自らの健康・幸福・尊厳への気づき、尊厳の上に成り立つ社会的・性的関係の構築、個々人の選択が自己や他者に与える影響への気づき、生涯を通して自らの権利を守ることへの理解を具体化できるための知識や態度等を身につけさせること。

8つのキーコンセプト
  • 人間関係
    家族や友情・恋愛関係、またその土台となる尊重や寛容といったコンセプトについて
  • 価値観、人権、文化、セクシュアリティ
    価値観や人権、文化や社会といった要素と、セクシュアリティの関係について
  • ジェンダーの理解
    ジェンダー規範の社会構築性や、ジェンダーバイアスやジェンダーに基づく暴力が及ぼす影響について
  • 暴力と安全確保
    暴力への対処や報通信技術の安全な使い方、また同意の重要性について
  • 健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル
    意思決定の重要性と影響を与える様々な要素、またコミュニケーションスキルや支援を見つける方法について
  • 人間のからだと発達
    人間の生殖の仕組みや前記思春期、ボディイメージについて
  • セクシュアリティと性的行動
    生涯にわたる性との向き合い方や、的行動・性的反応とそれに伴う責任について
  • 性と生殖に関する健康
    妊娠と避妊、また性感染症に関する知識やリスクの理解について

参考「国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】――科学的根拠に基づいたアプローチ」(UNESCO Digital Library,2022年12月25日参照)

参考「LGBTQとは」(東京レインボープライド2023,2022年12月25日参照)

日本と世界の性教育の事例

ここまで、日本の性教育をとりまく状況と、世界標準で求められる性教育のコンセプトについて説明しました。

それでは、国内外の現場では、実際にどのような性教育が行われているのでしょうか。

海外の性教育事例

海外では、日本では驚かれるような性教育が行われていることがあります。ここでは、オランダとフィンランドで実際に行われている性教育の事例を紹介します。

オランダの性教育

オランダは憲法で教育の自由が保障されており、初等教育でセクシャリティと性的多様性を学ぶ義務はあるが、いつ、どのような性教育を行うかについては、学校単位で異なります。

早ければ、子どもは4歳ごろから「愛情の大切さ」や「他人の気持ちの尊重」といったコンセプトについて学びます。オランダの初期性教育は、意思決定・意思表示の大事さを説く人権教育でもあるのです。一方では、10歳ごろに生殖の仕組みという具体的な内容から始める学校もあります。

このような性教育の実践により、オランダの子どもたちは早熟になっているのかというと、そうではありません。WHOによる欧州および北米の40地域の15歳を対象とした2016年の調査によると、全体平均で女子17%、男子24%が性交渉を済ませている一方、オランダは女子16%、男子15%と、いずれも平均を下回っています。避妊についての知識も十分に保障されているためか、10代の望まない妊娠も、他のEU諸国と比べ少ない結果となっています。

参考「小学生がコンドーム装着実習…オランダの性教育がすごい!」(FRaU,2017年11月.21日公開,2022年12月25日参照)

フィンランドの性教育

フィンランドは1970年に法律性教育が必修となり、性の多様性に加え、シングルマザーや男性同士のカップルといった家族の多様さ、家庭内の男女平等などについて未就学児の段階から学びます。

未就学児といっても、いきなり性行為自体を直接的にフォーカスして教えるのではなく、あくまで自分の気持ちに向き合い気付くことや、それを他者に表現することの重要性について学んでいきます。生殖のしくみや性交については主に中学校段階で教わりますが、何歳まで何を教えてはいけない、といった決まりはありません。

フィンランドでは、性教育が選択科目になり下火になった時期に、それまで減少していた10代の人工中絶数と性感染症の感染者数が上昇、再必修化を機に再び減少しました。正しい知識がなければ、子どもたちは性暴力や性感染症、望まない妊娠などから自分を守れないということが、データにも表れた形と言えるでしょう。

参考「性教育を「必修」にしたフィンランドはどうなった? 日本との大きな差」(東京新聞,2018年6月23日公開,2022年12月25日参照)

24歳大学院生が驚愕したフィンランド「5歳からの性教育」の中身」(FRaU,2019年10月29日公開,2022年12月25日参照)

日本の包括的性教育の事例

日本国内では、どのような発展的な性教育が行われているのでしょうか。

島根県益田市の小学校:宿泊研修前の事前指導の工夫

多くの学校では、「性教育」の一環として、保健や理科の授業で生殖器官や妊娠について学んだり、宿泊研修前に女子児童に生理についての話をしたりします。この位置付けに疑問を抱き、宿泊研修と関連させながら、授業の中で「包括的性教育」の実践をされました。詳細はメガホン内で別記事になっていますので、ぜひご覧ください。

また、先に挙げた足立区の中学校の事例と、高校で行われた生徒主体の取組みについても紹介します。

東京都足立区の中学校:包括的セクシュアリティ教育の実践

 足立区の中学校では、1年生の「生命の誕生」「女らしさ・男らしさを考える」から、2年生の「多様な性」、3年生の「自分の性行動を考える~避妊と中絶~」「恋愛とデートDV」まで、段階を踏んで教える授業が行われました。LGBTQの講師を招くなど、生徒に当事者意識を持たせることに重きが置かれています。

参考「「きちんと教えてこなかった大人の責任」ーー性を教え続けた公立中教諭の抱く危機感」(Yahoo!ニュース,2021年12月6日公開,2022年12月25日参照)

神奈川の私立高校:生理用ナプキンを使った生徒主催セミナー

神奈川県藤沢市の湘南学園では、高校2年生の有志生徒による「男子生徒向けの生理セミナー」が企画・実施されました。

授業ではあまり扱われない生理中の具体的な身体症状やPMS(月経前症候群:月経前に起こる、精神的あるいは身体的な症状)に関する説明だけでなく、実際に生理用品に触れる・身に付けるといった活動も行われました。

プロジェクトは、LGBTQへの偏見やジェンダーギャップに対する問題意識から、当事者が生きやすい社会になるきっかけを作りたいという思いから立ち上げられました。

上記のようなセミナーやセクシャルマイノリティの方による講演の企画、男性のメイクアップといったジェンダーに関する事柄の紹介が、生徒主導で行われているそうです。

参考「男子高校生もナプキンを着用。校内の「生理セミナー」で彼らが学んだこと」(集英社オンライン,2022年7月30日公開,2022年12月25日参照)

まとめ

日本の性教育の課題や国内外の事例、そして包括的性教育について説明をしました。

「はどめ規定」の不透明性や批判事例の存在により、踏み込んだ性教育の実現は、長らくハードルの高いものになっていました。

しかし、既に日本各地の学校の内外で、発展的な性教育の取組みが行われつつあります。

国際機関や保護者からも、単に体や妊娠の仕組み、リスク等を教えるためではなく、自己決定や他者との関係構築の土台となる包括的性教育を求める声が強まっています。

今後ますますその必要性が高まっていく、個人の権利や尊厳を守るための取組みについて、School Voice Projectはこれからも情報提供を続けていきます。

子どもたちの健やかな成長を支えるために、保護者と学校はPTAを通して連携しています。しかし、PTAの負担の大きさについての指摘や、そもそもの意義を疑う声があることも事実です。

実際、東洋経済新報社の調査では、保護者の約4割、教員の約半数がPTAが「不必要」だと回答しています。こうした中、PTAのあり方を見直したり、PTA自体を設置しない、廃止する動きもあります。

この記事では、PTAの概要と課題、新たな動きの中から見える学校と保護者の関わり方について解説します。

PTAとは

PTAは、学校ごとに組織される、保護者と教員から成る社会教育関係団体です。「Parents(保護者)」「T=Teacher(教員)」「A=Association(組織)」の頭文字をとってPTAと呼ばれています。英単語の通り、保護者と教員、地域社会が対等に協力し合い、子どもの成長を支えるために活動を行います。

PTAの結成や加入は義務付けられておらず、活動は任意で行われます。2022年6月、当時の文部科学大臣だった末松信介氏は、PTAが任意団体であることを理由に、PTAのあり方は「地域の状況に応じて協議をし、自主的に決めていくのが正しい考え方だ」と述べています。このように、PTAのあり方に関する判断には、文部科学省は関与しない姿勢を示しています。

参考「PTA入会の仕組み「自主的に判断を」 末松文科相、省関与否定の姿勢示す​​」(京都新聞,2023年2月8日参照)より

PTA組織の構造

PTA組織は、「日本PTA全国協議会」「都道府県・市区町村ごとのPTA連絡協議会」「単位PTA(学校ごとのPTA)」に分かれています。通常、PTAと言う場合は「単位PTA」のことを指します。

日本PTA全国協議会は、各公立小・中学校のPTAを束ねており、約800万人の会員がいる大規模組織です。

単位PTAの中にも、様々な役割があります。まず、「PTA役員」と呼ばれる役職とその仕事内容について、その一例をまとめます。

  • PTA会長…PTAのリーダー
  • PTA副会長…会長を支える役割
  • 庶務…会議の議事録作成や、配布物の印刷、配布を行う。
  • 会計…PTA会費の集金などを行う。
  • 会計監査…PTAの会計を監査する。

さらに、PTAの内部には以下の専門委員会が設置される場合もあります。下記はその一例です。

  • 学級委員会…学級・学年単位の行事や保護者懇親会などを企画、開催する。
  • 広報委員会…PTA広報誌の企画や制作、発行を行う。
  • 企画委員会…PTA会員や子どもたちの親睦を深めるための行事を運営する。
  • 教養委員会…保護者向けの講演会や学習会を企画、運営する。
  • 校外委員会…子どもたちの安全な登下校のため、パトロールや通学路の調査などを行う。
  • ベルマーク委員会…児童が持ってきたベルマークを集計、学校に必要な備品を購入する。
  • 選考委員会…次期のPTA役員を選ぶために、推薦やアンケートなどによる選考を行う。

参考「PTAとは?今さら聞けない活動内容・役割、オンライン化実例も紹介」(All About,2023年1月13日参照)より

PTA役員や専門委員の選出方法は、投票制や自薦、他薦制など、学校により様々です。

PTAが生まれた経緯

PTAは、19世紀末に児童愛護と教育環境の整備を目的としたアメリカの運動によって設置されました。PTAの創始者とされるアリス・バーニーは「幼児を健やかに育て、望ましい環境に迎え入れよう」と訴え、多くの母親から賛同を得ました。のちに父親や教師も運動に加わり、世界各地にPTAの活動が波及しました。

日本では、戦後にGHQが、日本の教育の民主的改革を進めるためにPTAの結成を奨励しました。これにより、当時の文部省がPTAの組織を推進し、昭和25年4月までに全国の約98%の小・中・高等学校でPTAが組織されました。

参考「PTA活動のためのハンドブック」(神奈川県教育局, 2023年1月13日参照)より

PTAの功績

PTAは、教育制度を充実させることに貢献してきました。

例えば、PTAは学校給食の制度化を実現しました。戦後日本は、給食の継続が困難となる事態に度々直面していました。このため、学校給食の法制度化による円滑な実施が喫緊の課題であり、PTAが法制度化実現のための活発な運動を行いました。その結果、1954年6月に学校給食法が制定されました。

また、学校保健法の制定にもPTAの運動が影響しています。PTAは、学校における子どもの健康・安全の確保を目指し、児童の災害補償について衆議院文教委員会に要望を行うなどの活発な動きを見せていました。これを受け、1958年4月に学校保健法が制定されました。

以上のように、保護者の要望をまとめて行政に働きかけることで、教育制度を充実させてきたことがPTAの功績であると言えます。

参考「日本PTAのあゆみ」(日本PTA全国協議会, 2023年1月13日参照)より

現在行われているPTAの主な活動

PTAが行う活動は、一例を挙げると以下のようなものがあります。

  • 運動会や展覧会など学校行事の運営のお手伝い
  • バザーや模擬店など、学校や地域のイベントの運営や手伝い
  • 廃品やベルマークを回収して学校に必要な物を購入
  • 子どもの安全や防犯のための地域パトロール
  • 学校やPTAの広報活動

引用「PTAとは?今さら聞けない活動内容・役割、オンライン化実例も紹介」(All About,2023年1月13日参照)より

PTAは児童生徒の健全な成長を支えることを目的としているため、この目的に関わる幅広い活動を行っています。

保護者、教員が感じているPTAのメリット

PTAは大変だというイメージがありますが、東洋経済新報社の調査では、PTAが必要だと感じる保護者・教員も多いとわかっています。

保護者がPTAを必要だと感じる理由には、次のようなことが挙げられます。

  • 知らない情報を教えてもらえる
  • 他学年も含めて親同士の交流が持てる
  • 家庭ではわからない学校での子どもの様子がわかる

特に、「親同士で交流が持てる」という意見が多く、PTAが親同士の情報交換や助け合いのための繋がりをつくる場として捉えられていると言えます。

また、教員はPTAが必要な理由として以下を挙げています。

  • 保護者との関係づくりができる
  • 学校行事で保護者の協力があり、ありがたい
  • 保護者と協力して生徒の指導ができる

引用「保護者と教員1200人調査でわかった「PTAは必要?」の超本音  肯定派が半数超えでも、改革は急務なワケ」(東洋経済ONLINE, 2023年1月13日参照)より

学校行事の運営や生徒指導は教員だけで成り立つものではないため、保護者と協力するためにPTAが求められていると考えられます。

PTAの問題点

PTAにはメリットがある一方で、問題点も多く指摘されています。

例えば、保護者からは仕事との両立が難しい、不要な集まりが多いといった声が挙がっています。PTAの活動が平日昼間に行われていて集まりづらい場合があり、さらに効率的な運営が行われていないと考えられます。

また、本来任意であるPTA活動への参加が、強制的に行われているという問題点もあります。School Voice ProjectがPTAの加入について調査したところ、約6割の保護者が「PTAへの加入を選択できない/選択できると知らされない」と回答しました。

教員からも、PTA活動の負担の大きさが指摘されています。PTAの活動自体には「保護者との関係づくりのため」など必要性を感じる意見がある一方、「労働ではないのに、強制されるのはおかしい」「公務でやっているのに会費を支払うことに疑問」などの意見もあり、必須加入には75%が反対、という結果になっています。

こちらの記事では、教職員へのPTAに関するアンケート結果をまとめています。勤務校のPTA加入義務の有無やそれに対するコメント、PTAの今後のあり方に対する意見などをまとめていますので、ぜひお読みください。

参考「保護者と教員1200人調査でわかった「PTAは必要?」の超本音  肯定派が半数超えでも、改革は急務なワケ」(東洋経済ONLINE, 2023年1月13日参照)より

PTA改革! 変化するPTA

学校教育における功績も大きい反面、問題点もあるPTA。こうした中、活動しやすいよう柔軟に変化しているPTAもあります。

コロナ禍でPTAにIT改革

世田谷区のある公立小学校では、コロナ禍の影響もありPTAのオンライン化が進み、保護者負担の軽減が実現しています。

この学校では、主な連絡手段が紙であることへの負担感が保護者から指摘されていました。そこで、臨時で保護者有志の「IT推進委員会」が立ち上がりました。

8人のメンバーが集まり、PTA業務のオンライン化や保護者間のネットワーク構築のために「BAND」という無料アプリが採用されました。

導入後は、コロナ禍でのオンライン会議や学校行事の中継配信がアプリを通じて行われました。また、コロナの影響で入学式が延期となり、PTAの入会資料を配布できない中でも、BANDの参加者募集機能を利用して委員を募集することができました。

参考「PTAは罰ゲーム!? オンライン化で前例踏襲を改善した世田谷区の事例」(All About, 2023年1月13日参照)より

「やれる人がやれることを」前例にとらわれない運用をしているPTA

名古屋市の陽明小学校では、PTA役員を決めず、活動ごとにやる人を募集し、登録する「エントリー制」(希望参加制)を導入しています。

エントリー制では、PTAの委員会活動を細分化し、活動をやりたい人が自ら立候補します。立候補していないにもかかわらず強制的に役割が回ることはありません。

従来は、陽明小学校では委員への立候補がない場合、投票によって各クラス3名を選出していました。しかし、できる時にできる人が参加する制度に変えた結果、すべてのポストが立候補で埋まりました。

保護者からは、できる時にできる人が参加する形になったことで、「負担が少なそうだから自分にもできるかもしれない」と気軽に参加できるようになったとの声が挙がっています。

参考「変わるPTA活動 「くじ引きで委員選び」から「やりたい人が立候補」のエントリー制導入で成功も」(メーテレ, 2023年1月13日参照)より

PTA自体をなくした学校

PTAという枠組みに捕らわれず、PTAを廃止して別の形で支援を行う事例もあります。

東京都西東京市立けやき小学校は、PTAを強く望む保護者がいなかったため、学校創立時にPTAを組織しないことを決定しました。

しかし、保護者が活動する組織が全くないわけではなく、「保護者の会」が自主的に設立されました。PTAとは異なり保護者だけで運営が行われており、子どもの見守り活動等に取り組んでいます。

参考「PTAをなくした小学校16年目の真実 「いいことづくめ」の美談のはずが…」(J -CASTニュース, 2023年1月13日参照)より

また、東京都大田区立嶺町小学校は、PTAを廃止して代わりに「PTO」を組織しました。「PTO」は「保護者と先生による楽しむ学校応援団」とも呼ばれており、Parent -Teacher Organizationの略です。

PTOは2015年に組織されており、それまでは強制的な役員・委員決め、不要な活動の継続といった問題を抱えていました。そこで、できるときに、できる人が、やりたい活動やできる活動をするPTOのシステムに転換しました。これにより、保護者は無理なく参加でき、活動を楽しめるようになっています。

参考「義務感、強制感ゼロ「PTAをなくした」学校の実際−自由意志のボランティアで子ども支えられるか」(東洋経済ONLINE, 2023年1月13日参照)より

求められるPTAの役割とは

冒頭で、東洋経済新報社の調査で保護者の約4割、教員の約半数がPTAが「不必要」と回答したことを紹介しました。これは、裏を返せば保護者、教員の半数は必要だと思っていると言えます。

PTAを廃止した学校でも、保護者と学校のより本質的な連携を目指して別の組織が生まれています。東洋経済新報社の調査では、PTAの代わりにコミュニティ・スクールを提案した教員もおり、何らかの形で保護者と学校の連携が求められているとわかります。

「コミュニティ・スクール」について詳しくはこちら。イラストや具体例を交えて解説しています。

多忙な教員だけですべての教育を担うことは不可能であり、学校と保護者、地域との連携は必要不可欠です。ただし、その方法や形式は、従来のPTAという枠組みに捕らわれすぎず、柔軟に考えることが重要です。

まとめ

PTAは子どもの健やかな成長を支えることを目指す、保護者と教員による組織です。教育制度の充実に貢献した功績があり、保護者と教員の繋がりを形成するという利点もあります。

しかし、不要な活動の存在や強制的な参加など、保護者の負担が大きいという問題点があります。さらに、保護者が活動に参加しづらいことで、結果的に教員主導となり、教員の負担も大きくなっています。

こうした中で、IT化による負担軽減や、PTAの運用体制の変革、PTAの廃止が進められています。保護者と学校が本質的に連携するために、従来のPTAのあり方を柔軟に見直すことが必要です。

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2023年4月に施行されるこども基本法、2022年12月に改訂された生徒指導提要でも子どもの権利条約の理念が取り入れられています。近年、ようやく注目が高まっている子どもの権利条約について、この記事では一緒に考えていきたいと思います。

子どもの権利条約と日本社会

国際社会の流れ

1945年、第二次世界大戦が終結しました。

大戦中は、特定の人種の迫害/大量虐殺など/人権侵害/人権抑圧が横行し、たくさんの命が奪われました。このような経験を経て、人権問題は国際社会全体にかかわる問題であり、人権の保障が世界平和の基礎になるとの思いから、1948年12月10日、国連第3回総会(パリ)において民とすべての国とが達成すべき共通の基準」として、「世界人権宣言」が採択されました。(世界人権宣言 法務省HPより)

すべての人、宗教、肌の色、言語、住んでいる地域、出自に関わらず、平等であるということが明記され、子どもを含むすべての人の人権が尊重されることが、国際社会の中での共通理解になったのです。

この流れを受けて、日本でも、1951年に児童憲章が出され、そこには「児童は人として尊ばれる/児童は良い環境の中で育てられる、児童は社会の一員として重んじられる」と明記されることとなりました。

しかし、児童憲章は、子どもは「尊ばれる受け身の存在」とされ、保護の対象ではあるものの権利の主体ではありませんでした。

日本国内の法整備

1989年11月に「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」が国連で採択。日本も1994年に批准しました。条約を批准するということは、その条約の精神に則って子どもという存在をとらえ、かつ、国内法との矛盾がないか確認し、必要がある時には整備をするということです。しかし、国内法の必要性が訴えられ、国連の勧告ありましたが、整備されてきませんでした。

ようやく変化があったのは2016年。児童福祉法の一部が改正され、第一条に「すべての児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され保護されること~」第二条で「児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない」となりました。それ以前の児童福祉法では、子どもは福祉の「対象」とされていたのが、2016年の改正では、福祉を受ける「権利の主体」へ、子どもの位置づけが大きく変わりました。
(本来は、1994年に子どもの権利条約に批准した時点で、「子どもは権利の主体」という子ども観を、国内法へ反映させなければならなかったのですが、児童福祉法に盛り込まれるまでに18年もかかりました。)

それ以降、子どもは権利の主体であるという理念の元、そのことに関連する法律(児童福祉法の他の部分や、子どもの貧困対策の推進に関する法律、児童虐待防止法、など)の改正や、こども基本法制定などが進んできています。

子どもの権利条約の内容

子どもの権利条約は、世界中の子どもの権利に関するNGOが参加して作成されました。世界中のすべての国や地域の子どもたち、また、その個々の属性(人種、言語、文化、宗教、障害、社会的養護などがどうであっても、その子たちの権利を守るために大切にすることが書かれています。

条約は、以下の【4つの原則】【4つの柱】から構成されています。

4つの原則

  • 生きる権利と成長する権利(第6条)
    すべての子どもが生きる権利と殺されない権利を持っています。 
    国は、子どもが死なずに生きて、きちんと育っているかどうかを見張らなければなりません。子どもが成長するために、できる限りのことをする義務があります。
  • 差別されない権利(第2条)
    すべての子どもにあてはめられます。誰も差別されることはありません。いろいろな 違い(国、性別、人種、言語、宗教、意見など)をもっていても、それらの違いを大切にしてもらう権利があります。
    国は、すべての子どもの権利を同じように大切にしていかなければなりません。
  • 子どもの最善の利益(第3条)
    子どもに関係のあることを決めるときは、子どもにとってよいことかどうかを考えなければなりません。
    親が子どもを幸せにすることができない場合、国は子どもの幸せを守り保障しなければなりません。
    国は、子どもの幸せを引き受けるすべての施設(学校、警察など)が、きちんと子どもを助け、守っているかどうかを見張らなければいけません。
  • 自由に意見をいう権利(第12条)
    子どもに関係のあることを決めるときはいつでも、自分の意見を持つ年齢になった子どもには、自分の考えを言う権利があります。おとなは子どもの意見を気にかけなければいけません。
    国は、子どもに関係のある重要なことが決められるときはいつでも、子どもの意見が気にかけられているか見張らなければなりません。

引用『子どもの権利宣言』(遠藤ゆかり(訳),2018年,シェーヌ出版社)より 

4つの柱

  • 生きる権利
    人間が生きていく上で奪われてはいけないもの。おなかの中に宿った命が無事にこの世に生まれてきて、その命が継続するために必要なことです。
    育つために必要な栄養ある食事や水が十分にあるか、子育てに必要な社会保障制度が機能しているか、病気やけがをしたときに治療を受けることができるか、そもそも健康に生まれてくることを助けてもらえる、ということです。
  • 育つ権利
    すべての子どもの命と、育つことが尊重され、その成長が保障されること。
    人格を尊重され、可能性を広げる教育を受けることができること、持って生まれた能力を伸ばしながら成長できること、自分の名前や国籍を持ち、家族と一緒に生活できること。家族と一緒に暮らせない時には、国がそれを支える仕組みを作ること。
    そして、子どもは疲れたら、ちゃんと休むことができ、遊びたい時には遊ぶことができる権利もあり、これは子どもの権利特有の物です。きちんとした理由もなく遊ぶことを我慢させられなくてもいいのです。
  • 守られる権利
    子どもに不適切な関わりをするおとなや、子どもにとって害になる行為をするおとな、そのような行為自体からも守られるということ。(暴力やネグレクト、性的搾取、経済的搾取、有害な労働から保護される)
    また、法律上の理由がないのに逮捕されることの禁止、裁判を開く権利も、守られる権利としてあります。
    少数民族・先住民・障害のある子どもがその自己性を保ちながら尊重されるということも大切です。
  • 参加する権利
    子どもは自分に関係あることについて、自由に意見をいうことができて、おとなは子どもが意見を出しやすいように十分に支え、出てきた意見を子どもの発達に応じて十分考慮するということ。今はどんな状況か、あなたにはどんな権利があるか、何ができるのかということを、その年齢に考慮した言い方で、その子がわかる言葉を用いながら、情報を提供し、そのことについて、自分の想いがおとなに聴かれる権利があるということです。

まずは、命があり、子どもに関することを決めるときは、子ども自身の多様な意見が聴かれ、いつも子どもにとって一番いいことを考える。そして、それは、どんな環境にあっても差別されることなくこの条約が適応される、ということなのです。

ひとつずつの権利は、どれが大切というわけではなく、それぞれがお互いに影響し合って“権利”を支え合っています。

また、権利というと義務との関係性を問われることがありますが、子どもの権利は“子ども期における基本的人権”なので、契約上の権利と義務の関係にはなりません。人であれば当然に保障されるものであり、人権が停止されるのは、他の人の人権を侵害する場合のみです。そして、子どもの権利条約が守られる仕組みをつくる義務は国にあり、子どもたちを守るおとなの役割と、それを支えるための国の義務を明確にしています。それらによって、子どもたちの安心安全な生活が続いていくのです。

具体的に考えてみよう!子どもの権利

子どもの権利をまもるってどういうこと?

“権利をまもる”と言われるととても堅苦しく感じてしまいがちですが、おとなも子どもも「今いる場所が安心安全かどうか」「あなたらしくいることができているか?」ということです。ある場所にいて「その場所からいなくなりたい(帰りたい/出ていきたい)とき」は、何かの権利がまもられていない、と考えることができます。

子どもの権利をまもるということは、子ども期における基本的人権の尊重であると言い換えることもできます。子どもは、おとなになるための成長過程の(未熟な)存在ではなく“子ども期”という固有の時期を過ごしている一人のヒトであるということを尊重するということ。子どもの安全安心が保たれるために、おとなが関与して安全を守り、それと同時に子どもが自分の人生を主体的に生きることができるようにサポートするということなのです。

この【まもられる】という視点と【自分で決めていく権利の行使主体】という視点の2つあることが、子どもの権利条約の特徴です。

例えば、生きる権利で保障されている【医療を受ける権利】で考えてみましょう。子どもが病気やけがをしたときには、おとなが関与して手当をします。それは、家で看病する場合もあるし、病院で診てもらうこともあります。子どもが病気やけがをしたときに適切な治療をすることで、子どもは守られます。ただ、できるだけ子どもが安心した状態で治療に向き合うことも大切です。「どこで治療を受ける?」「どんな治療を受けたい?」「どんなお医者さんに診てもらう?」「粉薬と錠剤はどちらが飲みやすい?」ということを、子ども自身がおとなのサポートを受けながら決定していくことで、自分自身に何が起こっているのかがわかり、治療に意欲を持つこともできます。

このように自分に関わることについて、適切な情報を受けながら自分自身で決定していくことを、「権利の行使主体」と言います。

もちろん病気やけがの状態によっては、子どもの想いがそのまま反映されないこともありますが、その決定に子どもが参画するプロセスが子どもの最善の利益につながっていくのです。

参加する権利と子どもの最善の利益

権利を行使するためには【意見表明権】と【子どもの最善の利益】の関係の解釈がとても大切です。

条約第12条意見表明権には「自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について、自由に自己の意見を表明する権利を確保する。その場合において児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるもの」と書かれています。

しかし、英文を見てみると

States Parties shall assure to the child who is capable of forming his or her own views the right to express those views freely in all matters affecting the child, the views of the child being given due weight in accordance with the age and maturity of the child.

とあり、OpinionではなくViewsと書かれています。直訳すると“彼ら彼女らの視点”と書かれているのです。

意見というと、自分の中に確固たる気持ちがあり、そのことを自分の意思で言語的に表出することというOpinionという意味でとらえられますが、ここでは、必ずしも言語的な表出を伴わない、態度やしぐさなども意見の現れとしてとらえます。

国連の子どもの権利委員会のガイドラインには“乳幼児は、話し言葉または書き言葉という通常の手段で意思疎通ができるようになるはるか以前に、様々な方法で選択を行ない、かつ自分の気持ち、考えおよび望みを伝達しているのである”とあります。

赤ちゃんは、生まれたときから「泣く」という手段を用いて訴え、それを見たおとなが「お腹すいたのかな」「おむつが濡れているのかな?」「眠たいのかな?」「抱っこしてほしいのかな?」と子どもの思いを推察するおとな側の態度も、子どもの意見としているということです。泣いている子どもを見て、おとな側が何を求めているのか「赤ちゃんの視点」で考えて、子どもの最善の利益へ近づいていくのです。

音声で言葉を発せられるようになった時には、その言葉がさまざまな関係性から忖度されていないか、十分に意見を言える環境にあったのか、ということも考えなくてはいけません。そして、言語的な表出がなかったとしても、態度、しぐさ、などもすべて意見になるということなのです。

子どもの思い(Views)を形にするためのプロセスに伴走(参加する権利の保障)した結果、出来上がったものが【子どもにとって一番いいこと】であり、おとなだけで決めた最善の利益は、子どもにとっての最善の利益にはなりません。

子どもの権利条約によって、おとなも守られる

生徒指導提要に子どもの権利が明記されました。

子どもを様々な不利益から守るということは、容易に考えやすいのですが、参加する権利の保障をどのようにするか、頭を悩ませる教職員の方も多いのではないでしょうか。意見とは何か?どのように意見を聴くか?意見表明権の正しい理解のもと、教育活動に子どもが参画していくことが大切です。

「子どもの意見を聴いたら、それを全てかなえないといけないの?」という疑問が湧くかもしれません。ですが、それは大きな間違いで「決定のプロセスに参画する」ということが大切なのです。その子どもたちから聞いた意見(態度やしぐさ、後ろ側に広がっている背景も含めて)をもとに、【どうやったら子どもの安心安全につながるか】ということを一緒に考えていくことが、求められているのだと思います。

子どもの権利は、もちろん子どものための権利なのですが、同時に、子どもを養育するおとなも支えるという視点も含まれています。子どもの権利条約第18条では、子どもを養育する第一番の責任は“親”にあるとしていますが、その親が責任を果たすために、“国は親を助ける義務がある”と明記しています。

親が安心して子育てができるように、子どもの成長発達を助ける仕組みを作ること、親が働いている場合には、働いている親を助けるための責任は国にあると言っています。

そういう国からのバックアップのもと、親は安心して子どもを養育し、子どもの権利をまもることができるのです。

“親が安心して子育てができるように”ということは、子どもが通う施設の安全な場づくりという意味もあり、多くの子どもが通う幼稚園、保育所、学校等が安心安全な場になるための責任も国にあるということです。人権は、そこに集う人すべてに平等にあるので、それらの施設で働く職員の人権も保障されなければなりません。

子どもの思い(Views)を受け取り、子どもの最善の利益を一緒に考えていくためには、それを受け取るおとな集団そのもの(学校であれば教職員)が、支え合い助け合える関係性にあるかどうかが大切になります。

子どもの権利条約は、一人一人のおとなが子どもを支えるという視点もありますが、子どもに関わる全てのおとなが安心して子どもの育ちを支えるために、国や地方自治体は、子どもの権利が十分に保障され、その責務をおとなが果たせるように、法律や具体的なサービス基盤を整える責任があるという点が、最も大切なことなのです。

School Voice Projectとして

学校という、多くの子どもが通う場所。その場所に関わるおとなを支えるためにNPO法人 School Voice Project は活動しています。一見すると、教職員を支えるための組織?と捉えられてしましますが、教職員の環境を改善していくための行動は、子どもの権利を支え、子どもの安心・安全をつくるることにつながっていくのです。

だから、私たちはこれからも、学校に関わる大人が元気になれる活動を進めていきます。

絵本で学ぶ、子どもの権利

この文章を書くにあたって、長瀬正子さん(佛教大学社会福祉学科准教授)にご協力いただきました。 

長瀬さんが書かれた絵本『きかせてあなたのきもち 子どもの権利ってしってる?』は、子ども自身の日々変化する気持ちを手がかりに、子どもの権利を分かりやすく学べる構成になっています。

子どもの権利を子どもたちと一緒に考えるとき、教室で子どもと一緒に絵本を読んでみませんか?

 

参考文献

『きかせてあなたのきもち 子どもの権利ってしってる?』 (長瀬正子・momo,2021年,ひだまり舎)
『子どもアドボケイト養成講座 子どもの声を聴き権利を守るために』(堀正嗣,2020年,明石書店)
『ビジュアル版 子どもの権利宣言』(遠藤ゆかり(訳),2018年,シェーヌ出版社)

多くの学校では、「性教育」の一環として、保健や理科の授業で生殖器官や妊娠について学んだり、宿泊研修前に女子児童に生理についての話をしたりします。

この位置付けに疑問を抱き、宿泊研修と関連させながら、授業の中で「包括的性教育」の実践をされたのは、島根県益田市にある公立小学校で5年生の担任を務める塚田大樹さん。大学時代の同期であり、高校教員の武田健太郎さんが伴走者となり、2人で授業づくりを進めてこられました。

そんなお2人に、授業づくりの目的と具体的な実践内容、子どもたちの様子について伺いました。

※包括的性教育:セクシュアリティを身体的、精神的、社会的側面から学ぶプロセスであり、生涯を通して自らの権利を守り続けるための知識、技能、態度、価値観を習得することを目的としている。(参考:国際セクシュアリティ教育ガイダンス

※本記事内では「男子」「女子」という書き分けをしている箇所が複数あります。性別は男女2つに分けられるものではなく、見た目だけでその人の性を決めつけるべきではありませんが、本記事では、実践内容の性質上、書き分けないと文脈が伝わらない部分があるため、そのように記載しています

宿泊研修をきっかけに、広い枠組みで「性」を学ぶ

ーーどのような経緯で、2人で授業づくりをすることになったのでしょうか。

(当時5年生を担任していた、塚田大樹さん)

塚田:私が宿泊研修で5年生の児童を引率することになり、「自分の体や性に関して不安に思う子どもは多いのではないかな」と思ったんです。それで、宿泊研修につながるような授業づくりに協力してくれないかと武田に相談しました。それ以前にも、2人で人権教育について話す機会は多くありました。

武田:そうですね。性教育に関心を持ったのは、ジェンダーに関する勉強会をしていたとき、ユネスコの『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』を知ったことがきっかけです。その中に、包括的性教育についての記述がありました。

その後、宿泊研修の前で行う保健指導に対して、疑問を抱くようになったんです。

多くの学校では男女を別々の教室に分けて、女子には生理の話をします。男子がその時間をどう過ごすかは学校によってさまざまですが、多くは行儀指導だと思います。

宿泊研修をする目的から考え直して、もっと広い視点で性教育を扱っていく必要があるのではないかと考えるようになりました。

(高校教員の武田健太郎さん。塚田さんとは大学の同期。)

ーーどのように授業づくりを進めていったのでしょうか。

武田:各教科の学習指導要領と『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』を読み比べて、授業に取り入れられそうな内容を探していきました。私はその作業を手伝ったような感じです。

塚田:授業づくりはかなり手伝ってもらいましたね。私には思いつかなかったようなアイデアをもらえたことも大きかったです。

これまで保健や理科の授業で行われてきた性教育は、知識の伝達のみだったと思います。それに対して、「宿泊研修を“性教育の知識を活かす場”として位置付けて、包括的性教育の一部にする」というアイデアを武田から聞いたときは鳥肌が立ちました。

武田:性に関する知識を増やすだけではなくて、最終的に実際の生活の場でどう行動できるかが重要だと思っていたんです。

学んだことから「自分はどう振る舞うか?」を考え、実践する

ーー授業では具体的にどのようなことを行ったのでしょうか。

塚田:まずはアンケートをとって、宿泊研修を迎えるにあたって不安に感じていることはないかをクラス全員の児童に聞きました。回答の中にあったのは、「お風呂で自分の体を見られたくない」「宿泊研修中に初潮が来たらどうしよう」など、体に関することが多かったですね。

そこから、宿泊研修の中で相手にどんな配慮ができるかをみんなで考えていきました。出てきた意見としては、「お風呂は1人で入りたい子もいるけど、みんな一緒に入らなきゃという空気があると断りづらいと思う」「女の子の中には、もしかしたら生理の子もいるかもしれない」「男の子だって体を見られたくない子もいるかもしれない」など。出てきた意見を元に、それぞれが「自分はどう振る舞うか?」を考えていきました。

ーー宿泊研修の前は、女子児童に生理用品を配ったそうですね。その際は、どのように渡していったのでしょうか。

塚田:生理用品を手渡されるときに異性に見られることは、やはり抵抗感があるのではないかと思ったので、渡すときは女子のみを集めました。

その間で、男子には私から「女子にどんなものを渡しているのか」「どんな風に使うのか」を、生理用品を見せながら話しました。「生理用品が落ちていたときに、みんなの前で『これ誰のー?』なんて聞いたら嫌な子もいるかもしれないよ」とか、そんな話もしました。

自分の言動によって他の人を傷つけてしまう可能性があることも、理解してくれたのではないかなと思います。

また、生理用品を家庭で用意してもらえる女子たちは、学校で配られた分の生理用品を、家庭で用意してもらいにくい子にあげたみたいです。そんな配慮をしてくれたと聞いて、何かしら伝わるものがあったのかなと感じました。

目的は、宿泊研修でみんなが心地よく過ごすこと

ーー実際の宿泊研修では、子どもたちはどのように過ごしていましたか?

塚田:男子の中に「個室シャワーに入らせてほしい」と言ってきた子がいました。男子でそれを言ってきたのは今回が初めてでしたが、周りの子はすごく自然に受け入れていましたね。

あとは、脱衣所でみんなから少し離れたところで着替えている子に対しても、「見ないから大丈夫だよ」と声をかける様子もありました。

ーー包括的性教育を進めていくにあたり、他の先生とはどのようなやり取りをしましたか?

塚田:隣りのクラスの先生は協力的な方で、指導案を共有したら同じように実践してくれました。同僚の先生たちから理解を得るところは、やはり気を遣いましたね。性に関して積極的に触れることは、これまでずっとタブー視されてきたので。

ーー実践を振り返ってみて、どのように感じますか?

武田:そうですね。特に、「性について指導すること」を目的にしなかったのがよかったんだと思います。「宿泊研修でみんなが心地よく過ごすこと」を目的にして授業をつくっていったので、その中で性に関することが組み込まれるのは自然な流れだったと思います。

塚田:まだ学校全体で包括的性教育を取り入れていくところまではいっていませんが、まずは学年の取り組みから広げていきたいですね。

ーー塚田さん、武田さん、ありがとうございました。