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宿泊研修前の保健指導に疑問。初めての宿泊研修を心地よく過ごすための「包括的性教育」の実践

  • 建石尚子

多くの学校では、「性教育」の一環として、保健や理科の授業で生殖器官や妊娠について学んだり、宿泊研修前に女子児童に生理についての話をしたりします。

この位置付けに疑問を抱き、宿泊研修と関連させながら、授業の中で「包括的性教育」の実践をされたのは、島根県益田市にある公立小学校で5年生の担任を務める塚田大樹さん。大学時代の同期であり、高校教員の武田健太郎さんが伴走者となり、2人で授業づくりを進めてこられました。

そんなお2人に、授業づくりの目的と具体的な実践内容、子どもたちの様子について伺いました。

※包括的性教育:セクシュアリティを身体的、精神的、社会的側面から学ぶプロセスであり、生涯を通して自らの権利を守り続けるための知識、技能、態度、価値観を習得することを目的としている。(参考:国際セクシュアリティ教育ガイダンス

※本記事内では「男子」「女子」という書き分けをしている箇所が複数あります。性別は男女2つに分けられるものではなく、見た目だけでその人の性を決めつけるべきではありませんが、本記事では、実践内容の性質上、書き分けないと文脈が伝わらない部分があるため、そのように記載しています

宿泊研修をきっかけに、広い枠組みで「性」を学ぶ

ーーどのような経緯で、2人で授業づくりをすることになったのでしょうか。

(当時5年生を担任していた、塚田大樹さん)

塚田:私が宿泊研修で5年生の児童を引率することになり、「自分の体や性に関して不安に思う子どもは多いのではないかな」と思ったんです。それで、宿泊研修につながるような授業づくりに協力してくれないかと武田に相談しました。それ以前にも、2人で人権教育について話す機会は多くありました。

武田:そうですね。性教育に関心を持ったのは、ジェンダーに関する勉強会をしていたとき、ユネスコの『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』を知ったことがきっかけです。その中に、包括的性教育についての記述がありました。

その後、宿泊研修の前で行う保健指導に対して、疑問を抱くようになったんです。

多くの学校では男女を別々の教室に分けて、女子には生理の話をします。男子がその時間をどう過ごすかは学校によってさまざまですが、多くは行儀指導だと思います。

宿泊研修をする目的から考え直して、もっと広い視点で性教育を扱っていく必要があるのではないかと考えるようになりました。

(高校教員の武田健太郎さん。塚田さんとは大学の同期。)

ーーどのように授業づくりを進めていったのでしょうか。

武田:各教科の学習指導要領と『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』を読み比べて、授業に取り入れられそうな内容を探していきました。私はその作業を手伝ったような感じです。

塚田:授業づくりはかなり手伝ってもらいましたね。私には思いつかなかったようなアイデアをもらえたことも大きかったです。

これまで保健や理科の授業で行われてきた性教育は、知識の伝達のみだったと思います。それに対して、「宿泊研修を“性教育の知識を活かす場”として位置付けて、包括的性教育の一部にする」というアイデアを武田から聞いたときは鳥肌が立ちました。

武田:性に関する知識を増やすだけではなくて、最終的に実際の生活の場でどう行動できるかが重要だと思っていたんです。

学んだことから「自分はどう振る舞うか?」を考え、実践する

ーー授業では具体的にどのようなことを行ったのでしょうか。

塚田:まずはアンケートをとって、宿泊研修を迎えるにあたって不安に感じていることはないかをクラス全員の児童に聞きました。回答の中にあったのは、「お風呂で自分の体を見られたくない」「宿泊研修中に初潮が来たらどうしよう」など、体に関することが多かったですね。

そこから、宿泊研修の中で相手にどんな配慮ができるかをみんなで考えていきました。出てきた意見としては、「お風呂は1人で入りたい子もいるけど、みんな一緒に入らなきゃという空気があると断りづらいと思う」「女の子の中には、もしかしたら生理の子もいるかもしれない」「男の子だって体を見られたくない子もいるかもしれない」など。出てきた意見を元に、それぞれが「自分はどう振る舞うか?」を考えていきました。

ーー宿泊研修の前は、女子児童に生理用品を配ったそうですね。その際は、どのように渡していったのでしょうか。

塚田:生理用品を手渡されるときに異性に見られることは、やはり抵抗感があるのではないかと思ったので、渡すときは女子のみを集めました。

その間で、男子には私から「女子にどんなものを渡しているのか」「どんな風に使うのか」を、生理用品を見せながら話しました。「生理用品が落ちていたときに、みんなの前で『これ誰のー?』なんて聞いたら嫌な子もいるかもしれないよ」とか、そんな話もしました。

自分の言動によって他の人を傷つけてしまう可能性があることも、理解してくれたのではないかなと思います。

また、生理用品を家庭で用意してもらえる女子たちは、学校で配られた分の生理用品を、家庭で用意してもらいにくい子にあげたみたいです。そんな配慮をしてくれたと聞いて、何かしら伝わるものがあったのかなと感じました。

目的は、宿泊研修でみんなが心地よく過ごすこと

ーー実際の宿泊研修では、子どもたちはどのように過ごしていましたか?

塚田:男子の中に「個室シャワーに入らせてほしい」と言ってきた子がいました。男子でそれを言ってきたのは今回が初めてでしたが、周りの子はすごく自然に受け入れていましたね。

あとは、脱衣所でみんなから少し離れたところで着替えている子に対しても、「見ないから大丈夫だよ」と声をかける様子もありました。

ーー包括的性教育を進めていくにあたり、他の先生とはどのようなやり取りをしましたか?

塚田:隣りのクラスの先生は協力的な方で、指導案を共有したら同じように実践してくれました。同僚の先生たちから理解を得るところは、やはり気を遣いましたね。性に関して積極的に触れることは、これまでずっとタブー視されてきたので。

ーー実践を振り返ってみて、どのように感じますか?

武田:そうですね。特に、「性について指導すること」を目的にしなかったのがよかったんだと思います。「宿泊研修でみんなが心地よく過ごすこと」を目的にして授業をつくっていったので、その中で性に関することが組み込まれるのは自然な流れだったと思います。

塚田:まだ学校全体で包括的性教育を取り入れていくところまではいっていませんが、まずは学年の取り組みから広げていきたいですね。

ーー塚田さん、武田さん、ありがとうございました。

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建石尚子

1988年生まれ。中高一貫校で5年間の教員生活を経て、株式会社LITALICOに入社。発達支援に携わった後、2021年1月に独立。現在は教育に関わる人や場を中心に取材や執筆をしている。「メガホン」の運営団体であるNPO法人School Voice Project 理事でもある。

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