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「生徒指導部」から「生徒支援部」へ。生徒にも先生にも、“ぬくもり”のある関わりを大切にする

  • 建石尚子

「生徒指導」は、これまで学校で当たり前のように使われてきた言葉です。多くの学校の校務分掌の中には生徒指導部があり、児童生徒の不適切な言動に対応したり、児童生徒同士のトラブルに対応したりすることも、「生徒指導」と言われています。

児童生徒の自立に向けた指導がなされている一方で、教員からの一方的な指導によって結果として児童生徒を苦しめることにつながる事例も耳にします。そんな中、2022年12月に「生徒指導提要」の改定が行われたことも影響し、児童生徒への関わり方を見直す動きが全国の学校で広がっています。

埼玉県立新座高等学校は、2023年4月に校務分掌の「生徒指導部」を「生徒支援部」へと改称しました。中心となって改革を進めたのは、昨年4月に生徒指導部長に着任した社会科教員の逸見峻介さん。「生徒指導部」の改称に踏み切った理由とこれまでの経緯について聞きました。

先生は、生徒を支える立場である

—— どのような思いから、「生徒指導部」から「生徒支援部」に名称を変えようと思ったのでしょうか。

元々「生徒が持っている力を大事にする組織にしたい」という思いがありました。生徒たちはそもそも「成長する力」を持っています。生徒たちの力を尊重して、先生が適宜サポートしながら、一緒に成長していくことが重要であると考えていました。

また、ニュースでは一方的な指導や体罰、問題校則※など、生徒指導のマイナス面が問題視されてきていますが、そんな生徒指導の在り方を見直すきっかけをつくりたいとも思っていました。

※本メディアでの「問題校則(ブラック校則)」の呼称について
行き過ぎた校則を「ブラック校則」と呼称することが一般的となっていますが、「ブラック〇〇」という表現が黒色へのネガティブイメージを固定し、人種差別や偏見助長へつながる恐れがあることから、本記事では基本的に「問題校則」の表記で統一しています。

先生が怒鳴ることで生徒が言うことを聞くこともあると思いますが、そのような関わりは生徒との対話を重視していないと思います。時にはそういった指導が必要なこともあるかもしれません。ですが、怒鳴ることで問題が改善したように見えても、本質的な改善にはつながりません。「先生が怖いから」という理由で改善するのは、生徒の自主・自律につながっていないと思うので。

大事なのは、生徒の実情に寄り添いながら、丁寧に対話をして共通理解を目指すことだと思います。生徒指導提要の改定や子どもの権利条約の重要性が改めて認識されてきている現在、生徒を丁寧に支援していくことが大切だと思います。

埼玉県内では、埼玉県立志木(しき)高校が組織の再編をして、「生徒指導部」から「生徒支援部」に変更したという事例を耳にしました。調べてみると、全国でも名称変更をしている学校の事例がいくつかありました。このようなことを踏まえると、「生徒支援部」の方が勤務校の教育活動にフィットするのではないかと思いました。

—— 名称を変更する前は、先生方はどのように生徒と関わっていましたか?

勤務校の先生は、すでに生徒の自主・自律に向けて支援するような関わり方をしていました。生徒を大切にするあたたかい雰囲気があったと感じています。

例えば、遅刻をしてきた生徒がいたときは「こら!遅せえじゃねえか!」と叱るより、「おはよう。どうしたの?」と聞くような先生が多いですね。先生たちはまず生徒の話を聞くことを大切にしていました。

とは言え、生徒”指導”という言葉を使う限り、一方的な指導をするような印象は残ってしまいます。昨今の社会情勢や生徒指導の在り方が問われている中で、名称の変更で勤務校をより良い方向に進めることができると思いました。

名称の変更をすれば、勤務校の強みである対話を大事にする文化をさらに活かすことにもつながるし、先生と生徒の関わり方を改めて問い直すことができたら良いなと思いました。

多くの先生が改称に賛成。校則やルールの見直しも

—— 具体的には、どのように名称を変えていったのでしょうか。

私が生徒指導部長になったのは昨年(2022年)4月で、そのタイミングで生徒指導部の5つの柱を先生方全員に提示しました。5つの柱は元々あったのですが、一部を改変しました。大事にしたのは「みんなで協力をすること」です。先生たちはこれまで多くの生徒を見てきていますし、それぞれの想いがあります。そんな先生たちの力を借りたいと思い、民主的で風通しの良い組織運営をしたいと考えていました。

(逸見さんが年度当初に配布した「生徒指導部の5つの柱」※2023年4月より「生徒支援部」に変更)

同年の秋頃には、生徒指導部の名称を変えられないかと管理職に相談しました。管理職も名称を変える必要性を感じてくれて、具体的にどうすれば変えられるのか相談に乗ってくれました。その後、まずは生徒指導部の会議で提案して具体的な案を固め、名称を変更する案を職員会議で先生方全員に提案しました。管理職が前向きに受け止めてくれたこともありがたかったなと思います。

—— 名称の変更を提案した際、先生方からはどのような反応がありましたか?

皆さん前向きに受け入れてくれました。元々、学校全体で対話を重視し、生徒を支援するような関わり方をしている人が多かったことも大きな要因だと思います。

名称を変更したのは今年4月なのですが、実は、前年12月に先生方全員に校則やルールについてのアンケートを取っていました。それを元に校則やルールの改定をしていたので、多くの先生が生徒との関わり方について見直すことに意識が向いているタイミングだったのではないかなと思います。

—— アンケートを取ることで、感じたことはありますか?

中には、以前から「この校則は必要だろうか?」と疑問があってもなかなか言う機会がなかったり、言いにくかったりする人もいたようです。アンケートを取ることで、先生が感じていることを出し合い、見直していくことの重要性を感じました。

回答の中には、具体的な変更のアイディアだけでなく、「粘り強くやりましょう」「教育相談の分野ともっと連携して情報共有しましょう」などの意見もありました。さらに、生徒ときちんと向き合うことの意義を書いてくれる方がいるなど、素晴らしい意見に溢れていました。

皆さんに意見を聞けたことはとても良かったですし、私自身にとっても勉強になることが多くありました。アンケートはこれまで年度末に取っていたのですが、意見が出ても時間が足りずになかなか変更まで進まないことが多くありました。今回それを改善するために12月に取ったことで、1〜3月に具体的な議論を時間をかけて進めることができました。

—— 校則やルールについては、どのような改定をしたのでしょうか。

例えば、生まれつき髪の毛の色が黒ではない生徒は地毛申請をする必要があったのですが、生徒の人権を尊重することを重視して、廃止することを決めました。髪型についても、以前は校則違反をした場合は短い部分に合わせて髪を切るように指導していましたが、これもなくしました。なので、今は生徒としっかり対話をしながら、経過観察などを基本として丁寧に指導することになっています。

また、遅刻を4回以上した生徒は廊下の雑巾掛けをする指導があったのですが、これも話し合いの末、廃止しました。雑巾掛けは生徒にも懲罰的に捉えられてしまっていたので、遅刻の指導として時代にそぐわないと判断しました。

これらの校則の変更については、教員からの意見だけでなく、生徒の意見から変更まで進んだものもあります。生徒が目安箱に入れた意見を生徒会が丁寧に議論をして、生徒指導部(現在は生徒支援部)に提案をしてくれました。生徒会もとても頑張ってくれたので、感謝しています。

2022年3月からはホームページですべての校則を公開することも決定しました。生徒や保護者などからの共通理解を今まで以上に図ること、今後の校則の見直しがスムーズに進むようになることを目指して、いち早く公開に踏み切りました。誰もが校則についてホームページで確認できるようにすることは、生徒指導を見直し、より良いものを目指していくという学校の決意表明であると思います。

(新座高校HPより。誰でも「生徒心得(校則)を見ることができる)

“ぬくもり”のある職場づくりにもつなげたい

—— 生徒指導部の名称を変更するにあたり、特に大切にしたポイントはありますか?

先生方に提案するときは、どのような思いがあって「生徒指導部」から「生徒支援部」に変更するのかを丁寧に説明しました。背景にある思いは、「ぬくもりを中心に置くこと」です。これは私が最初の職場でお世話になった先輩教員が言っていたことに影響を受けています。

「効率化や合理化が進み、成果主義が中心となった現代、さらに人とのつながりも希薄になりつつある。このような社会の変化の中で、公立高校で一番大切なことは”ぬくもり”だ」と。その言葉が印象に残っていて、「生徒指導においても“ぬくもり”が大切なんじゃないか」と思ったんです。ちなみに、“ぬくもり”には「あたたかさ」「人と人との関わり」などの意味があるそうです。

“ぬくもり”があれば、生徒たちの持つ力を信じたり、厳しく指導しても一方的で終わらずに、生徒へのフォローに入る先生がいたりすると思います。また、この”ぬくもり”は、先生たちの間にも必要なものだと思います。管理職や教員、事務の方はもちろんですが、臨任、非常勤の方などを含めて職場全体に必要なんです。

教育現場は、多忙化や教員不足など多くの課題があります。ですが、そんな中でも生徒と丁寧に向き合っている先生や、若手の先生に寄り添って職場を良くしている方がたくさんいます。

そんな”ぬくもり”がもっと広がっていき、ハッピーな職場になったら、生徒も先生ももっと自分らしく過ごしていけると思います。その点、私の勤務校は良い環境だと思います。あたたかい雰囲気の先生が多く、生徒も元気なので日々楽しく過ごさせてもらっています。

“ぬくもり”を大切にしたいという思いは、生徒支援部の5つの柱にも込められています「職員全員と協力し、チームとして統一した指導を行う」「教員間のフォローアップを忘れない」など、先生にとって働きやすい職場をつくっていくことも意識しました。

—— 名称を変えたことで、どのような変化がありましたか?

4月に変更したばかりなので、変化を感じる場面はまだそこまで多くはないのですが、勤務校では肯定的に捉えてもらっています。「生徒支援部になったんだし、こうやって関わっていけたらいいよね」という会話も増えてきています。他校からは「自校でも生徒支援部に名称を変更したい」という声を聞くこともあり、とても励みになっています。

今後も生徒を中心においた支援ができるように、学校で働く職員同士が協力し合えるような雰囲気をつくっていきたいと思います。

—— 逸見さん、ありがとうございました!

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建石尚子

1988年生まれ。中高一貫校で5年間の教員生活を経て、株式会社LITALICOに入社。発達支援に携わった後、2021年1月に独立。現在は教育に関わる人や場を中心に取材や執筆をしている。「メガホン」の運営団体であるNPO法人School Voice Project 理事でもある。

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