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【解説記事】変わる学校の性教育。「はどめ規定」論争はもう古い?

  • メガホン編集部

「性教育」はいつ、どのくらい、どうやって行うべきなのか? 悩んでいる先生も多いことと思います。日本の学校での性教育は、中学校の1年間で平均3時間を切るなど、ほとんど行われていないといっても良いほど。内容に関しても、体の発達や性感染症などに限定する傾向にあります。

しかし現在、世界の性教育は身体的なものを超えて「人権や多様性理解」を根底に、人間関係やジェンダー、暴力と安全確保などを幅広く学ぶ「包括的性教育」へと向かっています。

この記事では日本の性教育の課題や最新事例、遅れの一因といわれる「はどめ規定」とそれに関する詳しい情報、ユネスコの提唱する「包括的性教育」などについて紹介します。

性教育とは?小学校から高校まで教えるとされていること

そもそも性教育は、それぞれの学校種においてどの程度、何を教えるべきとされているのでしょうか。体育科・保健体育科の学習指導要領には、主に下記について指導することと記述されています。

現行の学習指導要領と、そのポイントを解説した記事はこちらをご覧ください。

小学校

  • 思春期における体や声の変化、また発毛や異性への関心の芽生えなどに加え、初経や精通が起こること

中学校

  • 内分泌の働きによる生殖機能の成熟と、それに伴う適切な行動(射精、月経、性衝動、異性の尊重、性情報への対処など、性に関する適切な態度や行動の選択の必要性)
  • 受精・妊娠および後天性免疫不全症候群(エイズ)を含む性感染症に関する知識

高校

  • 生涯を通じた健康の保持増進や回復のための、各段階の健康課題に応じた自己の健康管理および環境づくり(受精、妊娠、出産とそれに伴う健康課題、また、家族計画の意義や人工妊娠中絶の心身への影響など)
  • 感染症予防のための個人の取組み、および社会的な対策の必要性

参考「学校における性に関する指導について」(文部科学省,2022年12月25日参照)

日本の性教育の課題

自己決定や人権に関わる重大な問題でありながらも、日本における性教育の扱いには、量・質共に現場によってばらつきがあります。

また、その取り扱う内容についても、「はどめ規定」の存在がネックになると言われています。

性交の取り扱いは?「はどめ規定」は“禁止”ではない…?

子どもたちは性暴力や性感染症、望まない妊娠などのリスクにさらされています。これらを回避するために、性交に関する正しい知識や考え方を学ぶことは男女ともに欠かせません。しかし、性交に関する教育は、満足に行えているとは言い難い現状があります。その原因として、よく指摘されるのが「はどめ規定」の存在です。

中学1年生の保健体育科の学習指導要領には、性に関する指導に関して下記のような記載があります。

「妊娠や出産が可能となるような成熟が始まるという観点から、受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする。」

この文言により「性教育では『性交』を扱えない」と現場では捉えられがちですが、学習指導要領は最低限指導すべきものを記載したもので、現状に合わせて発展的内容を教えることは問題ないとされています。

文科省初等中等教育局長は、2020年11年17日の参院文教科学委員会において以下のように発言しています。

「歯止め規定そのものは、決して教えてはならないというものではなくて、全ての子供に共通に指導するべき事項ではない、ただし、学校において必要があると判断する場合に指導したり、あるいは個々の生徒に対応して教えるということはできるものでございます。」

引用「令和2年臨時国会質疑から」(日本教育新聞電子版,2021年1月3日公開,2022年12月25日参照)

その上で文科省は、以下のような点について考慮すべきと述べています。

  • 児童生徒の発達段階を考慮すること
  • 学校全体で共通理解を図ること
  • 保護者や地域の理解を得ること
  • 集団指導と個別指導の内容の区別を明確にすること

ただ、「教えてはならない」ものではないとしつつも、実現のために考慮すべきことは多く、現場のハードルがとても高くなっているのも事実です。

目の前の生徒の状況を考えた時に、性教育で性交を扱いたいが、具体的にどうしていいか分からない場合や不安な場合は、例えば、学校の性教育を支援するNPO法人や医療関係者に協力を仰ぐ選択肢もあります。

その他、メディアでもたびたび取り上げられる、性教育を含め心と体・大切な人とのつながり方を学ぶ6年間のカリキュラム『生きる教育』を作った大阪市立生野南小学校は、その指導案などを学校ホームページで公開しています。

参考「本校の研究(がんばる先生等)」(大阪市立生野南小学校,2022年12月25日参照)

性教育の内容に関して話題になった事例

過去には、発展的な性教育の内容を扱った学校が批判され、話題になりました。ここでは、東京都立七生養護学校と足立区立中学の事例を紹介します。

東京都立七生養護学校

2003年、東京都立七生養護学校(当時)が取り組んでいた障害児への性教育を「世間の常識とかけ離れている」と都議会議員らが非難。都教委が教材を没収、校長の降格処分などの処分を下しました。その後、教員が訴えた裁判で、最高裁は都議会議員らの行為を教育基本法で禁じる「不当な支配」に当たると認めました。

七生養護学校には知的障害のある小学生から高校生までが通っており、思春期を迎えて体や心の変化に戸惑う子や、生徒同士での性的関係や性的ないたずらといったトラブルが起きており、保護者も交え、当時の教員によって性器の洗い方や月経、精通、避妊方法、気持ちの変化など、主に成長の過程を伝える教材や授業が開発されていました。

足立区立中学校

2018年、足立区の中学校3年生を対象に行われた総合学習の授業が、東京都議会から学習指導要領を逸脱した不適切な性教育であると批判を浴びました。

当該の授業は、若年層の望まない妊娠や高校1年生の中絶件数の増加を受け、生徒に性の正しい知識を身につけるために行われたもの。学習指導要領では避妊や人工中絶は高校で扱う内容ですが、子どもたちが誤った情報に振り回されているという現場の思いから、踏み込んだ内容まで扱われていました。

しかし、これらの授業は事前に管理職の協力や区の教育委員会の理解を得て行われたものであり、区教委は「内容に問題はない」と見解を発表。テレビの視聴者投票でも、早期での詳しい性教育を求める声が圧倒的に多数を占めるなど、世論も味方しました。

参考「いのちを学ぶ<「七生事件」の日暮かをるさんインタビュー>」(神戸新聞NEXT,2022年1月6日公開,2022年12月25日参照)

参考「学校の性教育で“性交”を教えられない 「はどめ規定」ってなに?」(NHK 首都圏ナビ,2021年8月26日公開,2022年12月25日参照)

つまり、2つのケースはともに、一部議員や世間から批判や非難を浴びたものの、その後正当性が認められているということができます。

いま求められつつある「包括的性教育」とは?

日本の性教育は、主に体育や保健体育の授業内で「体と発達」を中心に学ばれることが多くあります。

しかし、2009年にユネスコは「包括的性教育(Comprehensive Sexuality Education)」という概念を掲げ、ジェンダー平等や性の多様性を含む人権尊重を基盤とした、8つのキーコンセプトに基づく性教育を提唱しています。

日本におけるLGBTQの割合は約3%〜10%とも言われており、また若い世代ほど性自認が多様であるという調査もあります。多感な時期の児童生徒にとっても、体の発達に限定されない、多面的な性教育が求められています。

包括的性教育の目的

 自らの健康・幸福・尊厳への気づき、尊厳の上に成り立つ社会的・性的関係の構築、個々人の選択が自己や他者に与える影響への気づき、生涯を通して自らの権利を守ることへの理解を具体化できるための知識や態度等を身につけさせること。

8つのキーコンセプト
  • 人間関係
    家族や友情・恋愛関係、またその土台となる尊重や寛容といったコンセプトについて
  • 価値観、人権、文化、セクシュアリティ
    価値観や人権、文化や社会といった要素と、セクシュアリティの関係について
  • ジェンダーの理解
    ジェンダー規範の社会構築性や、ジェンダーバイアスやジェンダーに基づく暴力が及ぼす影響について
  • 暴力と安全確保
    暴力への対処や報通信技術の安全な使い方、また同意の重要性について
  • 健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル
    意思決定の重要性と影響を与える様々な要素、またコミュニケーションスキルや支援を見つける方法について
  • 人間のからだと発達
    人間の生殖の仕組みや前記思春期、ボディイメージについて
  • セクシュアリティと性的行動
    生涯にわたる性との向き合い方や、的行動・性的反応とそれに伴う責任について
  • 性と生殖に関する健康
    妊娠と避妊、また性感染症に関する知識やリスクの理解について

参考「国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】――科学的根拠に基づいたアプローチ」(UNESCO Digital Library,2022年12月25日参照)

参考「LGBTQとは」(東京レインボープライド2023,2022年12月25日参照)

日本と世界の性教育の事例

ここまで、日本の性教育をとりまく状況と、世界標準で求められる性教育のコンセプトについて説明しました。

それでは、国内外の現場では、実際にどのような性教育が行われているのでしょうか。

海外の性教育事例

海外では、日本では驚かれるような性教育が行われていることがあります。ここでは、オランダとフィンランドで実際に行われている性教育の事例を紹介します。

オランダの性教育

オランダは憲法で教育の自由が保障されており、初等教育でセクシャリティと性的多様性を学ぶ義務はあるが、いつ、どのような性教育を行うかについては、学校単位で異なります。

早ければ、子どもは4歳ごろから「愛情の大切さ」や「他人の気持ちの尊重」といったコンセプトについて学びます。オランダの初期性教育は、意思決定・意思表示の大事さを説く人権教育でもあるのです。一方では、10歳ごろに生殖の仕組みという具体的な内容から始める学校もあります。

このような性教育の実践により、オランダの子どもたちは早熟になっているのかというと、そうではありません。WHOによる欧州および北米の40地域の15歳を対象とした2016年の調査によると、全体平均で女子17%、男子24%が性交渉を済ませている一方、オランダは女子16%、男子15%と、いずれも平均を下回っています。避妊についての知識も十分に保障されているためか、10代の望まない妊娠も、他のEU諸国と比べ少ない結果となっています。

参考「小学生がコンドーム装着実習…オランダの性教育がすごい!」(FRaU,2017年11月.21日公開,2022年12月25日参照)

フィンランドの性教育

フィンランドは1970年に法律性教育が必修となり、性の多様性に加え、シングルマザーや男性同士のカップルといった家族の多様さ、家庭内の男女平等などについて未就学児の段階から学びます。

未就学児といっても、いきなり性行為自体を直接的にフォーカスして教えるのではなく、あくまで自分の気持ちに向き合い気付くことや、それを他者に表現することの重要性について学んでいきます。生殖のしくみや性交については主に中学校段階で教わりますが、何歳まで何を教えてはいけない、といった決まりはありません。

フィンランドでは、性教育が選択科目になり下火になった時期に、それまで減少していた10代の人工中絶数と性感染症の感染者数が上昇、再必修化を機に再び減少しました。正しい知識がなければ、子どもたちは性暴力や性感染症、望まない妊娠などから自分を守れないということが、データにも表れた形と言えるでしょう。

参考「性教育を「必修」にしたフィンランドはどうなった? 日本との大きな差」(東京新聞,2018年6月23日公開,2022年12月25日参照)

24歳大学院生が驚愕したフィンランド「5歳からの性教育」の中身」(FRaU,2019年10月29日公開,2022年12月25日参照)

日本の性教育事例

日本国内では、どのような発展的な性教育が行われているのでしょうか。ここでは、先に挙げた足立区の中学校の事例と、高校で行われた生徒主体の取組みについて紹介します。

足立区の中学校での包括的セクシュアリティ教育の実践

 足立区の中学校では、1年生の「生命の誕生」「女らしさ・男らしさを考える」から、2年生の「多様な性」、3年生の「自分の性行動を考える~避妊と中絶~」「恋愛とデートDV」まで、段階を踏んで教える授業が行われました。LGBTQの講師を招くなど、生徒に当事者意識を持たせることに重きが置かれています。

参考「「きちんと教えてこなかった大人の責任」ーー性を教え続けた公立中教諭の抱く危機感」(Yahoo!ニュース,2021年12月6日公開,2022年12月25日参照)

生理用ナプキンを使った生徒主催セミナー

神奈川県藤沢市の湘南学園では、高校2年生の有志生徒による「男子生徒向けの生理セミナー」が企画・実施されました。

授業ではあまり扱われない生理中の具体的な身体症状やPMS(月経前症候群:月経前に起こる、精神的あるいは身体的な症状)に関する説明だけでなく、実際に生理用品に触れる・身に付けるといった活動も行われました。

プロジェクトは、LGBTQへの偏見やジェンダーギャップに対する問題意識から、当事者が生きやすい社会になるきっかけを作りたいという思いから立ち上げられました。

上記のようなセミナーやセクシャルマイノリティの方による講演の企画、男性のメイクアップといったジェンダーに関する事柄の紹介が、生徒主導で行われているそうです。

参考「男子高校生もナプキンを着用。校内の「生理セミナー」で彼らが学んだこと」(集英社オンライン,2022年7月30日公開,2022年12月25日参照)

まとめ

日本の性教育の課題や国内外の事例、そして包括的性教育について説明をしました。

「はどめ規定」の不透明性や批判事例の存在により、踏み込んだ性教育の実現は、長らくハードルの高いものになっていました。

しかし、既に日本各地の学校の内外で、発展的な性教育の取組みが行われつつあります。

国際機関や保護者からも、単に体や妊娠の仕組み、リスク等を教えるためではなく、自己決定や他者との関係構築の土台となる包括的性教育を求める声が強まっています。

今後ますますその必要性が高まっていく、個人の権利や尊厳を守るための取組みについて、School Voice Projectはこれからも情報提供を続けていきます。

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メガホンの記事は、教職員の方からの声をもとに制作しています。
教職員の方は、ぜひ声を聞かせてください。
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