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教員給与特別措置法(給特法)の議論が活発化しています。

自民党の特命委員会は、先に出した提言の中で、「教師は高度な専門性と裁量性を有する専門職」だとし、給特法の教職調整額を現行の4%から、少なくとも10%以上とすることを打ち出しました。まもなく出される予定の政府の「骨太の方針」に反映させ、予算化を進めたい考えです。

一方で、現職教員の西村祐二さんらからなる有志グループや、立憲民主党などは、教職員の働き方を抜本的に変えるために廃止が必要だと主張しています。

給特法に関して、教職員の方の声を聞きました。

※給特法についての解説記事は下記をご参照ください。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2023年6月5日(月)〜2023年7月10日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :111件

アンケート結果

設問1 給特法について、あなたの考えは?

Q1. 給特法について、あなたの考えに最も近いものをお選びください。

「教職調整額を引き上げるのがよい」を選択した方の主な意見

現状は調整額以上に働いていると思うので、10%に引き上げということ自体は歓迎したいと思います。ただ、どの選択肢にすれば良いか大変迷いました。調整額を引き上げたら、その分働けという気運になり、働き方改革の流れが後退するのではないかと強く懸念しているからです。【高等学校・教員】

私の場合、(自分の)子どものこともあるので、残業はほとんどなく休日出勤もしていませんが、家で相当仕事をしています。土日、学校で働くより長時間働くこともあるくらい。毎週ではないものの、土日は3時間くらいは平均で働いてます。残業代を払うということになると、持ち帰りの仕事が本当に無給になり、学校に残れる人だけしか恩恵を受けないことになるので、子育て中で残業できない人は、給料は減る(4%がなくなるとすると)けど仕事は減らないという悪循環が生じると思います。残業代が出るとなると、やはり残業代が欲しくて、今まで以上に残業する人も出ると思います。【小学校・教員】

残業代よりも給特法を上げた方がボーナスによい影響がありそうだからです。能力の高い人は短い時間で成果を出すことができます。残業代は能力がない人に払うことにもなりかねない。でも、10%にするのがもったいない残念な人もいます。メリハリのある給与支払いができるのが理想ですが、そのために管理職が多忙になるのは反対です。【小学校・教頭】

教職調整額の基準が昔の月の超勤が8時間だったころと変わらない点に問題があると感じる。現状の教員の業務量に対する対価として、適切な額が支払われるべきであると考える。ただし、このことと業務量や超勤時間の削減とは別問題なので、そこは別の議論が必要であると考える。【小学校・教員】

学年主任や特別支援コーディネーター、若手の指導者など、役割ごとに調整されるとよいと思う。また、現場は慢性的な人手不足のため、欠員が出ている場合にはその分の負荷がかかっている職員に十分な手当が必要だと感じる。【小学校・教員】

実際には調整額を引き上げても問題は解決しないと思うが、賃金が引き上げられることで教員のイメージは多少上がるのではないかと思う。【中学校/高等学校・教頭】

残業は、やる気のある人ばかりか、効率の悪い人も多くなる。専門性を考えて、教職調整額の引き上げが良いと思う。教職調整額をなくして、残業代を支払うための残業時間をどのように管理するのか想像できない。現状から時間外勤務を20時間にするには、無理がある。時間外勤務上限月45時間、年間360時間を目指していくことを基準に考えると、15%で様子を見たい。100倍近い市役所職員の倍率と2倍を切る教職員の倍率の推移を見ながら、改正を重ねてほしい。子どもたちに直接接していく教員には、より優れた人材を充てていける状況をつくってほしい。【小学校・校長】

「完全に廃止するのがよい」を選択した方の主な意見

調整額を引き上げるのは、「給料上げるから、今後も変わらず働いてくださいね!」としか思えません。完全廃止して時間外勤務分の対価を貰った方がいい。【高等学校・教員】

4%という数値は、昔の状況のもの。完全に廃止し、給料を上げ、労働基準法を適用してほしい。引き上げる=残業ありきになってしまい、健康と安全が守られない。【小学校・教員】

とりあえず「働かせ放題」は廃止し、実態に見合った残業代を支払ってほしいから。給特法ができた頃と今では、学校に求められる理想や教員がする仕事内容が大きく異なっているため、まずは現状を把握してほしい。その上で、適切な人員と賃金を確保してほしい。【高等学校・教員】

結局公立学校教員は定額働かせ放題になることは変わらない。現時点よりも学校が抱える業務が増えることはあっても減ることはなく、時給換算すれば最低賃金を下回る教員もいる現状が変わらないのは明白。また、国立・私立学校教員には時間に応じた残業代があるのに、管轄官庁(都道府県部局)が異なるだけで給与体系が異なるのはいくら現状は特給法があるとはいえ、不平等だと思う。【高等学校/高等専門学校・教員】

教職調整額を引き上げただけでは、長時間労働に歯止めがかからず、教員は疲弊します。労働を労働と認めない給特法は廃止し、教員にも労働基準法を適用してください。このままでは、教員になりたい人がいなくなり、現場で持ちこたえている教員の労働環境は、さらに悪化すると思います。労働環境が改善されれば、一度離職した潜在教員も、また働きたいと思えるようになると思います。1人が抱える業務量を減らすために、人に予算をかけ、全員が残業をしないで業務か遂行できる環境に整えてください。【小学校・職員】

完全に廃止して、民間と同じだけの残業代を時間給で出すべきだ。給特法は時代遅れの法律で、労働基準法に違反している。例えば自分の自治体では休日の部活動手当は6時間で日給4400円と最低賃金以下の時給である。私立校はしっかり残業代が出ているのに、ものすごくおかしく人権侵害であるとすら感じる。【特別支援学校・教員】

給特法の存続自体が定額働かせ放題の容認になる。教職調整額の引き上げは「引き上げたのだから文句を言わずに働け」という風潮を生み、定額働かせ放題の実態は改善しないままになる。抜本的に改善するためには完全廃止しかありえない。部活動の指導などは早急に地域に移行し、指導したい教員は兼業として指導員をすればよい。スポーツ活動や文化活動を社会で維持していくためには地域で運営していく方がより健全で学校に頼るのは間違っている。【高等学校・校長】

10%以上の残業をしている教員が多く、調整額を引き上げても実態にあっていない。調整額が一定のままでは、残業時間を減らそうという意識が生まれてこない。【義務教育学校・教員】

「残業時間の上限を定め、それ以上は残業代を出すのがよい」を選択した方の主な意見

教師の側にも、無駄に仕事をせず、効率よく仕事をして下校する意識改革は必要だと思うから。【中学校・教員】

基本的には、残業代を出すべきです。残業代を出すことになれば、教員の仕事を整理して、勤務時間内に制限するということもようやく真剣に議論されるはずです。勤務時間の管理も含めて、ちゃんと国政で議論されるべきだと思います。【中等教育学校・教員】

現状の教員配置や業務量では残業または持ち帰りがやむおえない場合が多い。現状の教員配置や業務量が変わらないとすると、せめても上限を定めた上で、残業代を支払って欲しい。個人的には家庭の状況で持ち帰り仕事にならざるを得ず、残業にはカウントされない。そのため、合わせて教員配置の見直し(増員)と業務量の削減を行うべきだと考える。【高等学校・教員】

残業の内容を把握するためにも残業申請をし、認められた残業についてはきちんと報酬を支払うことで、どのような業務が残業となってしまっているかを把握し、全体的に勤務環境を整えていくことができるのではないかと思うから。【中学校・職員】

まず残業時間の上限を課すことで、業務の精選を図るという意識を管理職、教職員にも醸成させないと、現状の業務過多は変わらない。業務の申請をして、対価は支払うようにするべきだと思う。【中学校・教員】

残業時間の上限を定めることで、勤務時間外の会議や部活動指導、土日のPTA行事への参加等の時間外労働を見直す動きや、学校行事の縮小等を進める動きが政治家主導で起きることを期待しているため。しかし業務量を減らす改革もセットで進めてくれないと、持ち帰り仕事が増えるだけなので意味がないと思う。ただでさえコロナ禍に縮小した学校行事を完全に元に戻そうとする動きがあるので…。【小学校・教員】

「現状のままでよい」を選択した方の主な意見

義務教育の小さな学校だと、非常勤講師は授業以外の時間勤務は皆無で、教材準備、教材研究はもちろん、評価にかかる時間もボランティアです。その予算をこちらに回して欲しいです。【中学校/高等学校・非常勤講師】

基本給を充実させ、業務時間内に終わるような人員配置をする方が大切と考えるため。【小学校・事務職員】

「その他」を選択した方の主な意見

教職調整額を引き上げても、正当な残業代には届かない教員の方が多い。廃止すると、より一層のやりがい搾取状態となる。残業時間の上限は決められない。部活動ガイドラインと同様、「原則」という言葉が付き、なし崩しになる。とは言え現状のままではいけない。
「児童生徒が教職員管理下の学校敷地内にいていいのは職員の勤務時間内(例外は災害時、指導時のみ)」という決まりさえつくれば、教職調整額が妥当なものに近づく可能性が高い。この決まりを、全国の公立小中学校に徹底させてほしい。願うのはそれだけです。【中学校・教員】

残業は基本的に禁止であることが重要だと思います。また、ヒラの教員の数に対して管理職が少なすぎるため、業務内容を適正に管理することも難しいと思います。高校でいえば停学などで保護者に来てもらう際に18時にしか来れないとなったときなどに、残業代を支給すれば良いと思います。【高等学校・教員】

勤務時間が増えているのは教師がやる内容が増えている、個々の児童への対応が昔と比べより複雑化していることや保護者対応、地域対応が増えているなどが考えられる。ならばそれに見合う対価を出すべき。また、育児や介護で家庭に持ち帰って仕事をしているの方々が多いのだからそれに見合う代価も出すべき。【小学校・副校長】

教員の業務を一律的にとらえると、時間内で雇われている中での業務への対価となるため、根本的に変わらない。授業、教材研究、学級経営、生徒指導、進路指導、校務分掌、試験、評価、指導計画作成、保護者対応、部活動等、それぞれの業務に対して対価を支払うシステムとするべきである。なお、立場によって各業務への責任度は違っているため、学年主任、校務分掌担当、教務主任、など立場による加算が必要である。【特別支援学校・教員】

「わからない」を選択した方の主な意見

教職調整額が今のままでいいか、と聞かれれば「おかしい」と思う。ただ、それが4%から10%に引き上げられたから、現状の業務量をこなし続けるのもおかしいと思う。まずは、教職員の業務量や負担を減らすことを検討するべきであると考える。調整額は、それに応じた金額を検討するべきではないだろうか。【中学校・教員】

残業時間の上限を決めたり、残業代を出したりする動きが強まると、残業代ゆえに「これは教員の仕事ではない」「なぜこんなことに時間を使っているのか」と、それぞれの教員が必要と考えている仕事が強制的に「必要のないもの」と切り捨てられてしまわないか心配です。やはり人を増やし、もっと自由に働ける環境にしてほしいと思っています。とはいえ、給特法があるためにコストなく仕事が増やされ続けている、という指摘はごもっともだとも思います。難しい問題です。【中学校・教員】

今のままでは教員の働きに見合っていないとは思うが、額を上げれば良しとも思わない。そこにお金を使うよりも、現場にもっと人を入れて、一人一人の負担を減らすことが優先されて欲しいと感じる。【小学校・養護教諭】

まとめ

給特法について、「完全に廃止するのがよい」と回答した人は全体の40%と最も多く、次いで「残業時間の上限を定め、それ以上は残業代を出すのがよい(23%)」「教職調整額を引き上げるのがよい(20%)」の順番で多い結果となりました。

年代別に見ると、20代では「完全に廃止するのがよい」と回答した人は約半数にのぼり、50代までは、年代が上がるに連れてその割合が下がっていく傾向が見られました(30代で46%、40代で38%、50代で22%)。また、「完全に廃止するのがよい」と回答したのは男性が52%、女性が28%。「残業時間の上限を定め、それ以上は残業代を出すのがよい」と回答したのは男性が12%、女性が35%と、性別によって回答に差がありました。「残業時間の上限を定め、それ以上は残業代を出すのがよい」もしくは「教職調整額を引き上げるのがよい」と回答した人は全体の約4割にのぼり、さまざまな意見があることもアンケート結果から読み取ることができました。

教職調整額の引き上げを支持する理由は、「現状は教職調整額以上に働いているから」「教員を志望する人が増える可能性があるから」など。教職調整額の引き上げを支持しない理由は、「残業ありきの働き方になりかねないから」「それだけでは長時間労働に歯止めはかからないから」などの意見が上がっていました。

残業代の支給を支持する理由は、「業務の精選を図る意識が管理職や教職員に醸成されるから」「時間外労働を見直す動きや、学校行事の縮小等を進める動きが起こることを期待しているから」など。残業代の支給を支持しない理由は、「持ち帰りの仕事が無給になり、学校に残れる人だけしか恩恵を受けられないから」「残業代が欲しくて今まで以上に残業する人が出る可能性があるから」などの意見が上がっていました。

また、教職調整額の引き上げや残業代の支給以外の案として、「労働基準法の適用」や「役職や業務による給与の調整」などを望む声も。さらに、給与形態の見直しだけではなく、業務量の削減や働き方の改革なども合わせて見直し、一人ひとりの負担を減らすことの重要性を訴える声も多く集まりました。


▼ 自由記述の回答一覧は、以下よりダウンロードしてご覧ください。 ▼

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※メディア関係者の皆様へ
すでに公開されている教職員アンケート結果やWEBメディアの記事の内容等は報道の際に使用いただいて構いません。その際は【出典:NPO法人School Voice Project 】クレジットを入れていただき、事後でも結構ですのでご一報ください。

はじめに

タイトルを読んで驚かれた方もいたと思います。私は数年前まで勤務していたとある高校の授業で、

  • 私語をする
  • 授業内容以外のことを行う(内職)
  • スマホやPCを使用する
  • 音楽を聴く
  • 居眠り
  • 教室外に移動する

など、学校の授業では普通禁止されている事項のほとんどを許可する、という実践を行っていました。まさに“自由な授業”と呼べるものだと思っています。

「そんなことをしたら授業が崩壊してしまうのではないか」
「生徒の成績が下がってしまうのではないか」
「この実践は成績上位層(または下位層)だけで通用するのではないか」
「教員の負担が増えてしまう」
「教員と生徒との関係性が崩れてしまう」

…そんな印象をもつ先生方もいらっしゃると思います。
しかし、私がこの授業実践を何年も実際に行うことで得られた結果はまったく逆のものでした。

具体的には、

  • 授業は決して崩壊せず、協働的かつ効果的な学習集団が構成される
  • 成績は向上する。特に、学習意欲が高い層の成績は大きく向上する
  • 教員の負担は通常の授業とほぼ同様
  • 教員と生徒との関係性が向上する

といった現象が、成績上位層のクラスでも下位層のクラスでも起こっていました。ちなみに当時の勤務校は成績上位層クラスは国公立大学や有名私大への進学を希望する生徒が多く、下位層クラスは就職や専門学校進学を希望する生徒が多い状況でしたので、私はこの実践結果は生徒の学力レベルに関わらず同様の結果となるものだと考えています。

ただもちろん、安易に上のような授業実践を行っても、このような結果になることは難しいとも考えています。最大のポイントは「生徒と教員が“学びの在り方”について意見を出し合い、提案と改善をくり返しながら授業スタイルを共に創っていく」こと。“自由な授業”はその過程を経て生まれたものであったからこそ、上述のような成果が得られたのだと私は考えています。

この記事では、私の数年間の実践をもとに「教室の風景」「大事にしていた考え方」「“自由な授業”の効果」「これから実践する方へ」といった内容を紹介していきます。

※ 似たような授業スタイルで『学び合い』や「単元内自由進度」といった有名な取り組みもありますが、この記事で紹介する実践はあくまで「生徒と教員が一緒になって“自由な授業”を構築していく」ことが主眼となっています。そのことから、この記事ではこの授業スタイルを“自由な授業”と表現し、他のスタイルとは別のものと捉えています。

教室の風景

「はじめに」で挙げたような“自由な授業”を実践すると教室の雰囲気はどのようになるのか、その1コマを見てみましょう。(授業の進行方法は生徒の意見に合わせ少しずつ更新していったため、以下の内容はあくまで授業の一例ですが、実際に同様のことが起こっていました)

当時の授業風景。一見普通の授業風景ですが、イヤホンをしている生徒もいるなど、生徒は自分のペース・方法で学習をしています。写真には写っていませんが後方ではグループ学習が行われています。

授業開始・全体への話

授業開始のあいさつが終わると、その日のプリントを配布します。配布するプリントは後述する「“自己規律化”達成シート」と、前回の授業後に生徒が「ほしい」と言ったプリントです。

何もなければプリント配布後すぐにメインの学習時間へと突入しますが、試験範囲や授業進行方法等についての連絡があるときは、この時間に話をします(生徒からの希望があった場合はこの時間に小テストを行ったこともありました)。話はなるべく短く、5分以内に終わらせます。生徒にも「この最初と最後の話だけはしっかり聞いてね」と念を押します。

学習開始

生徒は自分の行いたい学習方法に合わせて各自場所を移動し、それぞれの学習を開始します。当時は一応の目安として、以下のようなゾーン分けをしていました。

① 教室前方
 教員の講義を聞くことで学習したい人のゾーン(基本的にここにいる生徒に向けて授業を行います)

② 教室後方
 グループワーク・話し合いをすることで学習したい人のゾーン(話し声の大きさは前方の授業の声が聞こえる程度に、としていました)

③ その他の場所
 自習等により学習したい人のゾーン(スマホやパソコンを使って学習する際はイヤホンを付けることを必須としていました)

この配置を一応の前提としますが、例外はもちろん出てくるので、その都度生徒の要望を聞き取りながら判断をしていきます(例えば、授業を聞きたいわけではないが板書を撮影したいので教室の前方に居たい、といった生徒には、場所の移動を認めたりしました)。

教員はこの配置の中で、基本的には①の位置の生徒に向けて通常の一斉講義を行い、問題演習など机間指導をするタイミングで②③の生徒に声をかけます。その意味で、授業中の教員の動きは通常の授業とほとんど変わりません。

また、授業中に①~③を切り替えることも許可していました。そうすると「周りでいろんなことをしていると集中できない生徒も出てくるのでは?」との心配の声も聞こえそうですが、「グループで学習してみたけど分からないから先生の話を聞いてみた」という生徒や「先生の話がすぐに理解できたから自習に移った」という生徒が出てきたり、一斉講義の中で“大事なポイント”を説明しているときには教員に注目する生徒が増えるなど、生徒が自分に必要な内容を自力で取捨選択している様子が見られました。私自身、その点は非常に興味深かったです。

実際、この実践を実施していると外部からの訪問者の方の多くは最初に「これは“崩壊”している授業なのでは?」と驚くのですが、10分も見学していると「これも一種の秩序立った“学習の場”なんですね」と納得してくださいます。生徒たちに「この授業“崩壊”しているように見えるらしいよ」と言ったら、生徒から笑いが起こったこともありました。この授業が“崩壊”とはほど遠いものであったことは、生徒の目にはそれくらい明らかだったのだと思います。

ちなみにタイトルにも書いたように、この授業は居眠りも許可していましたが、その場合は③の場所で寝ることを推奨していました。その際、基本的には寝ている生徒は起こさないのですが、「どうしても起こしてほしい人は事前に伝えてね」と生徒に伝えておきました。意外なことに(?)、毎年数名の生徒が「寝ていたら起こしてください」と私に言いに来ていました。そういったことからも分かるように、この授業スタイルを行うにあたっては「○○を許可すると多くの生徒が~~のような(不適切な)行動をとってしまうのでは…?」という疑いを捨て、「生徒は自分で自分に必要なことを理解しているはず」といった前提で、生徒の判断を信じることが大事なのではないかと考えています。

授業終了

席を最初の場所に再度移動します。

最後の5分ほどを使って、「“自己規律化”達成シート」にその日の授業のふり返りを書いていきます。次の授業の際にこのようなプリントがほしい、授業で○○をしてほしいが可能か、といった授業に関する要望もそこに書いてもらいます。

前者のプリント希望については、学校で導入しているプリント作成ソフトで作成できる範囲のものであればすぐに作成、それ以外のプリントの場合は1週間以内に作成する、というようなルールで要望を受け付けていました(中には志望校の過去問を持ってきて「これと似た問題を5年分つくってください」と言ってくる猛者もいました)。

後者の授業の改善要望については、基本的には認める方向で実施していましたが、「授業の進度をもっと遅くしてほしい」のように他の生徒との調整が必要な件については次の授業開始時にクラスで相談するなどのプロセスを取っていました。


以上が、毎回の授業の流れです。

授業後には次の授業の準備に加え、「“自己規律化”達成シート」にコメントを付けたり、要望されたプリントの作成などを行います。これだけ書くとかなりの業務量に思うかもしれませんが、この授業スタイルでは一斉講義のニーズが限定されるため、実際には講義のための準備時間がかなり短縮されます(具体的には、早く終わった生徒に向けての追加課題などの特殊な教材の作成が不要になります)。私はその余剰時間でコメント付けやプリント作成をしていました。

大事にしていた考え方

自分の“学び”は自分で掴む

この授業のルールや実際の様子を紹介してきましたが、その根本となる考え方を1つ挙げるのであれば「自分の“学び”は自分で掴む必要がある」ということでした。

生徒たちにも、事あるごとに次のようなことを伝えていました。

① 人にはそれぞれの“学ぶ目的”がある
将来の目標や“教科を通じて成し遂げたいこと”は人それぞれである

② 人にはそれぞれ、自分に合った“学び方”がある
目で見たものが記憶に残りやすいタイプ(視覚優位)や音で聞いたことが記憶に残りやすいタイプ(聴覚優位)など、人には特性があり、それに従って学ぶことで効率的に学習することができる。
 ※ 実際にタイプ別の勉強法の本を授業中に紹介していました。

③ 人にはそれぞれ“学びたい”と思うタイミングがある
「毎日コツコツ」は一種の理想的な姿ではあるが、実際には学びのペースを常に一定に保つのは難しい。その上で大事なことは、つまずいたり立ち止まったとしても諦めず、自分が『学びたい』と思ったタイミングで確実に学びを掴んでいくことである。

これらを伝えた上で、私が教室の前で行っている授業はあくまで「学習プロセスの一例」であって、生徒たちはそれを参考に留めた上で、「何のために」「どのように」「いつ」学ぶかを最後は自分で決定してほしい、と話していました。

“学びを掴む力”を高めるための取り組み

上述のように「何のために」「どのように」「いつ」学ぶかを最後は自分で決定してほしい、と口では伝えても、それをすぐに実践できる生徒は多くありません。実際、教員が上述のような“自由な授業”を提案しても、その授業スタイルを最初から有意義に活用できない生徒もいます。“自由な授業”の効果を高めるには、生徒の“学びを掴む力”を高めていく必要があるのです。

生徒の“学びを掴む力”を高めるため、私は以下の2つの取り組みを意識的に行っていました。

“自己規律化”達成シート

1つ目の取り組みは「“自己規律化”達成シート」というものです。

これは、私が「“自由な授業”におけるルールとはなんだろう?」と考えた末に作成したシートです。
授業のルールというと、一般的には「私語をしない」「予習を欠かさない」「当てられたら『はい』と返事をする」といったものを想像することが多いと思いますが、それは“自由な授業”で目指すところとは異なります。

そこで私が設定したルールは以下の2つでした。

  • 自分が“達成したいこと”を実現するために、自分に必要なルールを自分でつくること
  • そのルールを達成できるように毎回の授業でふり返りを行うこと

自分で自分のためのルールをつくり、そのルールを守れるようになること。これを実現させるための補助プリントが「“自己規律化”達成シート」です。

このプリントには、上から

  • 自分がこの授業を通じて達成したいこと
  • そのための自分のルール
  • 毎回の授業のふり返り(自分のルールを達成できたかや、目標達成のために教員に依頼したいことなどを記入)
  • ふり返りに対する教員からのコメント

を書く欄があります。

このシートへの記入とコメントのやり取りを通じて、生徒に「“達成したいこと”を意識して授業時間を過ごすこと」「自分にとってのよりよい“学び方”を模索していくこと」を意識的に行ってもらい、生徒の“学びを掴む力”を高めていきました。

実際、このシートには生徒の成長過程が一目瞭然に現れます。

毎回PDCAをしっかりと回しながら自分の学び方を改善していく生徒、最初は「今日は眠かった」と書いていても「やっぱりちゃんとやらないとダメだ」「教科書を2ページ進めた」「楽しくなってきた」と変化していった生徒など、日々自分の目標に向き合いながら学びを掴んでいく過程が如実に見て取れるのです。

当時使用していた「“自己規律化”達成シート」。生徒や授業の状況に合わせ、様々なバージョンのものを作成しました。

「君たちはどうしたい?」

2つ目の取り組みはずばり、日々の授業中の声がけです。

“自由な授業”を行う中で、私は事あるごとに
「君たちはどうしたい?」
という問いを発していました。

この問いは、1年の最初の授業の日にまず発せられます。
「君たちはどうしたい?」と私が聞くと最初は、多くの生徒たちがあっけにとられたような顔をします(それまでにそういう問いを投げられていなかったのでしょうから、ある意味当然ですが)。多くの場合、そこで生徒たちは恐る恐る「友だちと教え合いながらやってもいいですか?」「毎回小テストをやってもらってもいいですか?」など、“先生に怒られなさそう”で遠慮がちな提案をしてきます。最初にそれらを1つずつ認め、次のタイミングにはまた一歩生徒の提案を取り入れていく、というプロセスを経ながら少しずつ授業の自由度を高めていくのです。

そのプロセスの中で、時には教員側からの問題提起も行います。たとえば「この前の授業形式だと◯◯の人にとってはやりにくいのかなと思ったんだけど、どうすればいいかな?」のように、教員側から「一人ひとりの“学ぶ目的”や“学び方”を尊重している」というメッセージを発信していくことで、次のステップへと進んでいきます。

このようなやりとりを繰り返していくと、生徒から「音楽を聴いた方が集中できるので、イヤホンで音楽を聴きながら自習をしてもいいですか?」「今は小テストの内容が全然分からないので、小テスト中に別の基礎問題を解きたいんですが、問題をつくってもらえますか?」「授業の動画をYouTubeにアップしてほしいです」といった“普通は先生に怒られそう”な提案が増えていくのです。

多少逆説的ですが、“自由な授業”をよりよい形で実現させていくために大切なのは、前述のような“自由な授業”を目指しすぎない、ということなのだと思います。「君たちはどうしたい?」という質問を繰り返し、そこで返ってきた反応をもとに少しずつ“自由な授業”に向かって授業改善をしていくことで、生徒に「自分の“学び”は自分で掴む」という考えを伝えていくことが大事なのだと考えています。

このようにすると、もちろん予想外のパターンのこともあります。ある年は、初回から「外に出て自習をしてもいいですか?」と聞いてきた生徒がいました。これは私から見てもかなりの急アクセルな提案でしたが、それを認めたところ(安全管理上の最低限の条件は付けましたが)、数週間でその生徒は「やっぱ捗らない気がします」と教室に戻ってきました。

ほかにも、「先生の授業を普通にやってもらえれば大丈夫です」と半年以上も大きな提案をしなかったクラスや、「先生は教室をうろうろしていてくれるのがいちばん助かります。最初の連絡もプリントなどで配ってください」とほぼ自習監督状態だったクラスなどがありました。このように、“自由な授業”の形式は基本形こそあるものの、生徒集団の性質によって様々な発展形があって良いと思っています。


次のページでは、生徒の学力・非認知能力の向上を含めた「“自由な授業”の効果」と、実践のためのポイントなどをまとめた「これから実践する方へ」を取り上げます。

近年、児童・生徒が抱える課題の複雑さ・多様性への認知が高まり、法や仕組みの整備が進んでいます。一方で、学校では多忙な教員に仕事の量的にも質的にも多くのことを求めすぎている状態です。

そのような状況を踏まえ、NPO法人School Voice Projectでは、「すべての子どもが安全・安心に生活を送り、学校に通える環境を整える」ためにはスクールソーシャルワーカー(以下、SSW)の配置拡大が効果的であると考えています。学校に配置されるSSWの増加を目指して、SSWの配置・活用状況に関して全国のSSWと教員の声を集めました。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員(SSWを含む)
■実施期間:2023年5月3日(水)〜2023年6月5日(月)
■実施方法:インターネット調査
■回答数 :452件(SSW:207件、SSW以外の教職員:245件)
■協力  :大阪公立大学・山野則子教授 / 一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟

アンケート結果

設問1 教員とSSWが一緒に働く効果は?

Q1. 教員とSSWが一緒に働くことにより、どのような効果が期待できると思いますか。

「視点の多様化による支援の選択肢拡大」「教員の精神的負担の軽減」「外部機関との連携による支援向上」「早期介入による深刻化防止」は9割以上の人が「とてもそう思う」「そう思う」と回答しました。「教員の時間的負担の軽減」については、「あまりそう思わない」「全くそう思わない」と回答した人がSSWで21%、SSW以外の教職員で15%おり、他の項目よりも効果を実感している人が少ないことがわかりました。全体的に、SSWとSSW以外の教職員での大きな回答の違いは見られませんでした。

設問2 教員とSSWが一緒に働く難しさは?

Q2. 教員とスクールソーシャルワーカーが一緒に働く上での難しさについてお聞きします。以下の文章にどの程度同意しますか?

SSWと教員が一緒に働くことの難しさとして、「SSWの勤務日数が少なく協働しにくい」「SSWを活用する状況が不明瞭」「SSWに相談するタイミング・方法が不明瞭」が多く選択されていました。「教員がSSWに相談する必要性を感じていない」については、SSWの68%が「とてもそう思う」「そう思う」と回答していたのに対して、SSW以外の教職員では29%に留まりました。この点は、SSWとSSW以外の教職員で認識の違いがあるようです。

設問3 SSWの学校への適切な配置頻度は?

Q3. ソーシャルワーカーの各校への配置として、適切な頻度はどの程度だと思いますか。

SSWの学校への適切な配置頻度としては、「5日」が46%と最も多い結果となりました。その他は、「1日」「2日」は12%、「3日」は17%、「4日」は7%と、回答のばらつきが見られました。

設問2では、教員とSSWが一緒に働くことへの難しさについて、「SSWの勤務日数が少なく協働しにくい」に「とてもそう思う」「そう思う」と回答したのは、SSWで90%、SSW以外の教職員で82%でした。文科省が発表した令和5年度SSW活用事業では中学校区につき週1回3時間のSSWを配置することを想定して予算配分(※1)をしていますが、学校現場ではSSWの勤務日数が少ないと感じている教職員が多いようです。また、少なくとも11都道府県で週当たりのSSWの勤務時間が1時間未満(※2)であることもわかっています。

※1:「スクールソーシャルワーカー活用事業 令和5年度予算額」より
※2: 「令和3年度 スクールソーシャルワーカー実践活動事例集」をもとにNPO法人School Voice Projectが独自集計。以下のデータを拡大してご覧になりたい方は、画像をクリックしてください。

設問4 SSWの活用について、あなたの意見は?

Q4. スクールソーシャルワーカー活用について、ご意見があればお書きください。

SSWの勤務時間を増やしてほしい

配置1年目、こちらも新任1年目、どのように活用したら良いかお互いに手探りです。 学校で起きる問題も教員間で解決され、SSWにあまり共有されていない面も。共有されたとしても、「今日明日」の緊急案件は週1勤務では関与できない。【SSW・高校・神奈川県】

家庭状況が年々複雑になり、学校だけの支援が難しい状況にもなっている。また、いじめ対策もSSWが必須となっている中、人的な配置は重要度が高い。教職員にとっても頼りたい専門家だが、来校日数が少ないことで情報共有やケース会議が組みにくい状態が続いている。【主幹教諭・中学校・大阪府】

SSWは管理職とのやり取りのみで、かつ月に数回程度しか来校しないため、SSWに相談したいことは全て校長に伝えている状況。(顔も見たことがない)なので、そもそも教員の「SSWとは何か、どんな役割なのか」などの認知度が低いのは、共に働いていないからだと考えている。【教員・小学校・福岡県】

勤務日が少ないため、状況が重篤な場合にのみSSWを活用している現状かと思う。しかし、ほかにもSSWの力を借りたい場面は多い。こちらから相談をして初めて動く…のではなく、常に学校の中にいて、各教室や休み時間の様子も見て、SSWからの視点で話をしていただけるようになると、助かる子が増えると思う。【教員・中学校・福島県】

SSWの勤務・契約形態を見直す必要がある

・教育委員会が単年度雇用をしている非正規雇用なので、雇用関係のある教育委員会の意向に沿わなければ雇用継続維持できず、自然に教育委員会・教員サイドに傾いた対応をせざるを得ない。
・現在の週2.3日&9時〜17時の働き方で生計維持はできず、主たる生計者となりにくい。連続性ある支援、専門性発揮のできる質の高いSSWrが集まりにくい。【SSW・小学校・千葉県】

派遣型のSSWの配置では、教員が気づき、派遣要請を行ったケースにしか対応できない。教員だけでなく、カウンセラーやSSWの多角的な視点でこどものニーズを積極的に発見することが、問題の深刻化、複雑化を防ぐことができる。【SSW・小中学校・福井県】

市によってはSSWはアセスメントをするだけで家庭訪問などの直接的な関わりはできないらしいが、できるようにしてほしい。【副校長・中学校・大阪府】

SSWを育成する仕組みが必要

自治体にSV(スーパーバイザー)が配置されていないため、支援体制において重要な要素が欠けている状況。主任SSWが存在しているものの、学校とSSWの関係や効果的な活用に関心がないとのことであり、相談しても適切な助言やアドバイスが得られることはない。【SSW・中学校・兵庫県】

SSWの活用に関して、そのSSWの質の担保も行わなければ、結局のところ、学校側の負担にも影響すると言える。その人材をどのように確保し、どのような人材へと育成するのか、それを誰がどう担ってくれるのか、その部分をきちんとしなければ、結局学校側にまるなげになったり、学校の活用しやすいようなSSWの動きとなり、本来の意図となるものになっていかないように感じています。【SSW・小中学校・香川】

SSWの介入の仕方へのしっかりしたマニュアルがないため、SSWの力量に頼らざるを得ない。【教員・小学校・東京都】

SSWの活用方法がわからない

教員(管理職含む)とSSWが、お互いの役割やシステム文化を知り合う機会を持つことが難しく、手探り状態になっている。教員の時間的余裕のなさと、SSWの雇用形態が拍車をかけているように思う。【SSW・中学校・三重県】

派遣している教育委員会から、どう活用するのか具体的な指示や教育が足らないために派遣先で孤立したことがあり、 なんのために配置されているのか疑問を抱いたときがあった。 管理職やコーディネーターの理解が足りないと仕事にならず、協働にはつながらない。週1回の勤務では信頼関係を築くこともむずかしい。【SSW・小学校・京都府】

SSWの配置拡充も重要ですが、教員のSSWへの理解がとても不足しています。 SSWが福祉的な立場で関わること、子供を中心に据えること、学校をプラットホームとして協同していくことへの意識がとても低いことを業務内で感じています。 SSWは教員の負担を軽くするためにも動きますが、現在はSSWが介入した時点で教員側が丸投げになっている現状です。 【SSW・小中学校・埼玉県】

教育事務所に所属しているため、会ったこともありません。SSWに相談したいこともありましたが、どのタイミングで来校してくださるのか、対象児童に会ったこともない方にどのように相談したら良いのか、よくわからずそのままになってしまいました。【教員・小学校・群馬県】

教員にSSWを活用する意識が少ない

児童に関わる事の全ては担任が担うべきという文化があり、SSWを活用する事には担任の力不足と見られる向きがある。【教員・小学校・神奈川県】

ほとんどの児童生徒に関する問題対応(メンタルヘルス、非行など)は、担任を中心に解決をするという「担任制度」が根強い気がする。 「SSWに仕事を振る必要は特にない」と感じている教員は少なくない。約束事として「家庭の経済的な問題が深刻な場合はSSWに相談をすること」といったルールさえある。【SSW・高校・青森県】

教員の負担軽減にはつながりづらい

相談できるところがある分精神的な負担は減るが、突発的な案件があった場合は、教員が対応せざるを得ない。また時間的制約があるため、毎回、教員とケース会議をひらけるわけではない。常勤ではない現状では、本人との面談につながる場合もあるが、SCの活用と同様に、教員へのコンサルティングが中心となり、時間的な負担については、あまり変化がない。【教諭・高校・大阪府】

SSWと連携する時間がない

SSWの存在は知っていても、相談できる時間や場所がない。勤務時間が短く、基本教育委員会にいるので対話もできない。特別な場合で、間にコーディネーターや市教委が入った場合でも、1人が抱えている相談件数が多いためか具体的な子どもの支援にはつながりにくい。【教員・小学校・大分県】

設問5 勤務校でのSSWとの関わりは?

Q5. 【教員向け設問】あなたの現任校でのスクールソーシャルワーカーとの関わりについて、当てはまるものを教えてください。(複数選択可)

勤務校でのSSWとの関わりについては、多い順に「ケース会議(47%)」「児童・生徒に関する軽い相談(37%)」「外部機関についての質問・相談(27%)」という結果となりました。「来ていない(27%)」「関わったことはない(15%)」という回答も目立ちました。

設問6 SSWとして働く上での課題は?

Q6. 【SSW向け設問】スクールソーシャルワーカーとして働き続けるうえで課題だと感じることを教えてください。(複数選択可)

SSWとして働く上での課題としては、多い順に「有期契約という身分の不安定さ(76%)」「勤務校でのSSW活用体制の不整備(66%)」「非常勤契約による仕事の掛け持ち(59%)」という結果となりました。支援の体制が整っていないことに加え、雇用の不安定さを課題に感じている人が多いようです。

まとめ

本アンケートには、教員だけではなく、SSWとして学校で働く方からも多く回答をいただきました。

教員からはSSWとの連携の必要性を感じる声が多く集まりましたが、一方で、「SSWとどう連携すれば良いかわからない」「連携しても業務の負担が減るわけではない」という声もありました。SSWからは、SSWの活用方法の不明瞭さや教員とのコミュニケーション機会の少なさによって、上手く支援に入れないもどかしさを感じているという声が多く集まりました。

さまざまな意見が集まった中で特に目立ったのは、「SSWが学校にいる時間が短い」という内容。SSWの学校への適切な配置頻度として、「5日」と回答した人が約半数にのぼりましたが、実際はそれよりも少なく、なかなか連携が進まない現状があるようです。SSWの雇用の不安定さも課題にあがっていました。SSWが活躍できる時間の短さによって、「必要なときに支援を頼めない」「SSWの活用方法がわからない」など、さまざまな課題を引き起こしているのではないでしょうか。

また、教員間で「子どもに関わることはすべて担任が担うべき」「SSWを活用するとは担任の力不足」という考え方もあるようで、その価値観がSSWとの連携をしづらくしている側面もあるようです。

NPO法人School Voice Projectでは、「すべての子どもが安全・安心に生活を送り、学校に通える環境を整える」ためにはSSWの配置拡大が効果的であると考えています。福祉の専門家として学校に配置されるSSWの増加を目指し、今後も政策提言活動を続けていきます。


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すでに公開されている教職員アンケート結果やWEBメディアの記事の内容等は報道の際に使用いただいて構いません。その際は【出典:NPO法人School Voice Project 】クレジットを入れていただき、事後でも結構ですのでご一報ください。

同僚の先生たちに“問い”を投げかけることで、「自分でアクションを起こし、学校を変えていく人」を生み出してきた大野大輔さん。

2023年3月までの10年間、都内の公立小学校で教員を務めたのち、現在は株式会社 先生の幸せ研究所のコンサルタントとして全国の学校の組織開発に携わっています。そんな大野さんに、学校で新たな一歩を踏み出そうとしている人の“伴走者”として、大切にしていることを伺いました。

「隣りの先生は幸せですか?」師匠の一言にハッとした

—— 大野さんは同僚の先生方に“問い”を投げかけることで、改革をする人を増やしてこられたそうですね。学校を変えていくアプローチはさまざまだと思いますが、“問い”に注目したのはなぜだったのでしょうか?

きっかけは僕の師匠からの言葉でした。当時の僕は教員5年目で、順調にいけば良いポジションにもつけるようなタイミングでした。学校の中では自分自身の正義感から、職員会議で「それって子どものためになってるんですか?」といきなり反対意見をいうようなタイプ。今思い返すと、まさに天狗状態だったなと思います。

ある飲み会の席で、僕は自分の考えや価値観を師匠に話していました。それを「うんうん」と聞いてくれて、最後に「ところで、大ちゃん(大野さんの通称)の隣りの先生は幸せですか?」と聞かれたんです。そのとき、何も言葉を発することができないくらいの衝撃を受けました。

職場の人たち一人ひとりの顔を思い浮かべてみると、幸せではないことは明らかだったんです。「僕は、5年間一体何をやってきたんだろう…」そう思って、本気で反省しました。子どもはもちろん、まずは先生たちが幸せになるような働きかけをしないといけない。考えが180度変わったと同時に、“問い”のすごさを感じた出来事でした。

—— 師匠からの一言が、大野さんに大きな影響を与えたのですね。

そうですね。それから僕が尊敬する方々の振る舞いやさまざまな組織を見る中で、自分の考えを押し付けず、相手のありのままを受け止めることの大切さを感じました。

僕と話すことをきっかけに、相手が自分の能力をそれまで以上に発揮できるようになってほしい。そう思って、「“問い”で相手を解放する人になろう」と決めたんです。

1人の先生が起こしたアクションが、学校全体に広がっていった

—— 勤務されていた学校では、具体的にどのようなことをしたのでしょうか。

勉強会を開いたり、お菓子を食べながら話す場をつくったりしました。同僚の先生と一緒にランチを食べに行くこともありましたね。

ちょっとした対話の場をつくることで、普段は見せないような一面を見せてくれることもありました。実はDIYが好きだったり、植物の名前はなんでも知っていたり。その方の好きなことを聞くと、可能性がたくさん見えてくるんです。

以前、裁縫が好きな先生に家庭科の授業に一緒に入ってもらったら、子どもたちへのアドバイスが的確で本当に助かりました。一方で、僕は体を動かすことが好きなので、体育があまり得意ではない先生の授業に入ってサポートをしたりすることもありました。お互いの好きなことや得意なことを知っていると、仕事を補い合うこともできるんですよね。

—— “問い”を大切にするようになってから、特に印象に残っている出来事はありますか?

6年生の担任をしていた頃、同じ学年を受け持っている先生と2人でラーメンを食べているとき、「もし何も制約がないとしたら、学校でどんなことをしたいですか?」と聞いてみました。すると、「本当は、コーヒーを飲みながらみんなで教材研究をしたいんだよ」と言うんです。他にもたくさんの願望を話してくれました。

さらに「小さい一歩を踏み出すために、なにか一緒にできることはありますか?」と聞くと、「6年生を学年担任制にしたい」と話してくれて、それに向けて動いてみることになったんです。

※学年担任制:学級担任を固定せず、学年を受け持つ複数の教員がチームとなって、各学級の業務をローテーションで担当する学級運営の方法

後日、その先生が「どうやったら無理なく学年担任制が導入できるか」を資料にまとめて持ってきてくれました。元々資料づくりは天才的に上手い方で、その資料を見て思わず「最高です!」と言ってしまいました(笑)

その後、関係する教職員の方に事前にお伝えした上で職員会議で提案すると、みんなからも賛同してもらえました。すごいのは、6年生だけではなく他の学年にも学年担任制が広がっていったことです。

最初に「学年担任制にしたい」と言った先生がアクションを起こしたことで、全体に広がっていった。それを実感したとき、嬉しさと感動で体が震えましたね。

大切なのは、ワクワクで小さな一歩を踏み出す人の伴走者になること

—— “問い”の力でそこまでの変化が起こるとは驚きです。なにか意識していることがあるのでしょうか?

相手と話すときに意識しているのは、「好き→願望→今(現在地)→小さい一歩」の順番で聞き、その後に相手に「伴走」することです。僕はこれの頭文字を取って、「スキガイチバン(スキ:好き、ガ:願望、イ:今、チ:小さな一歩、バン:伴走)」と覚えています。

具体的な例をあげると、①「好きなことはなんですか?」、②「何も制約がないとしたら、どんなことをしたいですか?」、③「今はどんな感じですか?」、④「やりたいことを実現するための小さな一歩はなんですか?」という感じです。

もちろんその場の流れや相手によって、問い方は変えています。大切なのは、小さな一歩を聞いた後に、相手に伴走することです。組織の中でなにか新しいことをしようと思うときって、やっぱり孤独だと思うんです。それがハードルの一つになっている。だから僕は、一緒に作戦会議をしたり、ちょっとした成功を喜び合ったりします。実は、子どもたちとの関わりでも同じことを意識していました。

—— “問い”を投げかけるだけではなく、その後の関わりも大切なのですね。とは言え、自分とは価値観が合わないと感じる相手もいると思います。どのようなことを心掛けていたのでしょうか?

相手と合わない部分があることって、実は当たり前なんですよね。だからこそ、その違いを楽しむようにしています。そして、自分の考えと合うか合わないかに関係なく、誰もが尊い存在だと思っています。すべての生きている人は、既に100点満点なんです。

鎧を脱いで、みんな「我がまま」になっていい

—— 大野さんが感じる、“問い”の魅力とはなんでしょうか。

カリスマ的な改革者1人が組織を大きく変えていくこともできますが、その人がいなくなることで、また元に戻ってしまったという事例を耳にしたこともあります。

“問い”の最大の魅力は、みんなが当事者になって自分でアクションを起こしていくところです。誰も「大野さんのおかげ」とは言わないんですよね。もちろん僕自身もたくさんのアクションを起こします。その上で、いろんな人が当事者となって自分の“好き”をベースに動いていける組織は強いですよ。

さらに、いきなり大きなワークショップや研修を導入しようとするとハードルは高いと思いますが、「問い続けること」は日常の中で小さく始められます。“問い”によって信頼関係ができていると、大きなアクションを起こしたときに賛同が得やすいとも思っています。このように、畑が耕された状態でワークショップや対話の場を設定することで大きな効果が出ると考えています。

—— 最後に、少しでも組織を変えていきたいと思っている教職員の方にメッセージをいただけますか。

僕が好きな言葉の一つは、「わがまま」です。わがままって、ネガティブなワードとして使われることが多いのですが、漢字で書くと「我(われ)がまま」ですよね。本当は誰もがこの世に生まれたときは我がままだと思います。それに、いつの時代も誰かの我がままで社会が進化してきました。

けれど、段々と鎧(よろい)を着るようになり、「こうしなきゃいけない」「こうするべき」と考えるようになるんです。僕も、以前はそうでした。その鎧を脱げたとき、毎日が本当に楽しくなったんです。だから、それをもっと多くの方に知ってほしいと思っています。もっと、みんな我がままになっていい。多くの人が、まずは自分を解放し、その後たくさんの人を“問い”で解放していけるようになると嬉しいです。

先生たちがそんな風になっていけば、きっと日本はもっと自由な社会になるんじゃないかなと本気で思っています。今は外から学校に関わる立場として、いろんな組織が幸せになるプロセスを一緒に歩みたいと思っています。

—— 大野さん、ありがとうございました!

学校では毎年4月1日から新年度がスタートし、非常に短い期間で新年度準備を行っています。
この期間には本来であれば、教職員がしっかりとコミュニケーションをとりながら、学校のビジョンや目標を話し合ったり、新年度の体制やカリキュラムにを作っていくための時間を取りたいところですが、実際はそのような時間を取るのは難しいといえます。

新年度準備期間が短いと、様々な準備に十分な検討を行うことが難しく、ひとまず前年通りで進めるしかなかったり、超過勤務や休日出勤が状態化しているという現状があります。

そこで今回のアンケートでは、現職の教職員のみなさんに、新年度の準備時間が短いことによって発生している超過勤務についてお伺いしました。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2023年4月10日(月)〜2023年5月8日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :122件

アンケート結果

設問1 2023年度の始業式はいつ?

Q1. あなた勤務校では、今年度(2023年度)の始業式は4月何日ですか?

本アンケートにご回答いただいた122名の方の中では最短で4月5日(準備期間2日間)、最長が4月11日(準備期間6日間)でした。最も多かったのは10日(準備期間5日)、次が6日(準備期間3日)、続いて7日(準備期間4日)となりました。始業式日程は学校管理規則で定められており、多くの自治体では「(春季休業は)4月●日まで」という書き方になっています。2023年度は、年度はじめに土日が挟まったため、通常の年度よりも新年度準備の期間が短くなってしまっています。

※より広範囲の「始業式日程調査(全国版)」は別途閲覧できるように整理していますので、ご興味のある方は、下記画像をクリックしてご覧ください。

設問2 新年度の主な受け持ちを知ったのはいつ?

Q2. 2023年度の主な受け持ちが管理職等からあなたに知らされたのはいつですか。
※主な受け持ちとは、学級担任や校務分掌などの職務の割り振りのうち、主となる職務を指します。

主な受け持ちが知らされる時期については最も多いのが「修了式以降、3月中」で39%、次が「4月以降」で23%、続いて「3月中旬以降、修了式以前」が18%、「3月上旬」が12%、「2月以前」が8%となりました。

異動の方や初任者の方が含まれると思いますが、4月になってから担当を知らされた場合は、始業式までの数日間でクラスや教科や分掌の全ての準備を行う必要があり、例え平日6日間準備期間があったとしても、かなり厳しいスケジュールと言えます。3月に知らされたとしても、ポジションによっては、準備期間として十分ではないケースも少なくないと思われます。

設問3 年度始めの平日の超過勤務はどれぐらい?

Q3. 4月1日から始業式までの間における、平日1日あたりの超過勤務時間を教えてください。
※おおよその平均値でお答えください。

最も多かったのは「2〜4時間」、続いて「4〜6時間」、次いで「0〜2時間」、「6時間以上」となりました。児童生徒がいない時期にもかかかわらず、回答者の97%は残業をしていることになります。

設問4 新年度準備期間の土日に土日出勤をしましたか?

Q4. 新年度準備期間の土日(1日・2日)に土日出勤をしましたか?

今回のアンケートでは、約半数、53%の方は「土日出勤はしていない」という結果になりました。土日どちらかのみ出勤したという方が36%、両方出勤したという方は11%でした。

設問5 新年度準備期間の土日の業務時間合計は?(持ち帰り業務を含む)

Q5. 新年度準備期間の土日(1日・2日)に合計で何時間程度業務をしましたか?(持ち帰り業務を含む)

こちらは持ち帰り仕事も含めた、土日の業務状況を聞いたものです。設問4と照らし合わせると、土日出勤はしておらずとも、家で業務に当たっていた方が一定数いることがわかります。また、業務時間で見ると、「5時間以下」が最も多く30%、「5〜10時間」が18%、「10〜15時間」が9%、「15〜20時間」が4%、「20時間以上」が4%となっています。おそらく、学校組織におけるポジションや役割などの影響もあると思いますが、人によってかなりばらつきがあることが見えてきます。

まとめ

今回は、年度始めの超過勤務や土日出勤、持ち帰り仕事の状況を現職の教職員の方に伺いました。いずれの項目についても、かなり人によってばらつきがあることがわかります。中にはほとんど超過勤務をせず、土日も休めている方もいらっしゃいますが、一方で、1日6時間以上超過勤務している人や、土日両方出勤している人、持ち帰り仕事の含めて土日に20時間以上働いている人がいることは看過できません。

今回の調査は、サンプル数が限定的ですので、より正確に実態を把握しようとすると、さらに大々的な調査が必要かと思います。School Voice Projectでは引き続き、「新年度準備を十分にキャンペーン」にて、現場の実情の把握と、政策提言・ロビイング活動に取り組んでいきます。

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絵画や写真、音楽などの芸術作品を複数人で見て対話を重ねる「対話型鑑賞」。鑑賞者に作品の解釈や知識を教えるのではなく、作品を見て感じたことや考えたことを伝え合います。

今回は、美術や図工の時間に対話型鑑賞を取り入れている小学校教員の城野知佐さん、中学校の美術科教員である川崎佳代さん、高等学校の美術科教員である森本彩さんに、学校で対話型鑑賞を取り入れる意義や生徒の変化について伺いました。

答えを求めず、いつもの会話のように対話を楽しむ

ーー 皆さんにとって、授業の中で行う「対話型鑑賞」とはどのような時間でしょうか?

川崎:対話型鑑賞は、1つの作品について正解を求めずに対話を重ねていくことだと思っています。授業で行うときは作品の情報はすぐには伝えず、生徒同士で気づいたことや感じたことを伝え合います。なので、対話する人やタイミングが変わると、当然対話の展開も変わってくるわけです。他者の発言で作品の見え方がガラッと変わり、話がいろいろな方向に広がったり分かれたりして、一つの作品についてたくさん思考を巡らす、とても創造的な時間だと感じています。

対話型鑑賞をすると、それぞれの見方や考え方の違いを体感できます。それは、お互いの違いを認め合いながら対話をしていくレッスンにもなっているのではないかなと思います。

(兵庫の中学校で美術を教える川崎佳代さん)

森本:その視点はすごく大事ですよね。対話型鑑賞をすることで、生徒自身も自分の世界が広がっていく実感があるのではないかなと思います。中には「どうやって絵を鑑賞したらいいのかわからない」という生徒もいました。つまり、それまでは作品に対する知識しか学んでこなかったので、作品そのものの見方がわからずにいたんです。

以前、ゴッホの絵画『3足の靴』で対話型鑑賞をしたときに、ある生徒が「脱いだ靴を並べて、崖の上から飛び降りようとしている」と言ったんです。そこから「ほんまにそう見える!」「でもこれ室内ちゃうか?」「いや、室外やろ」「え、雪山じゃないの?」と、いろんな見方についての意見が交わされました。私も含めて、固定概念がパーンと壊された感じになるんです。すごく盛り上がりますよ。

城野:作品を鑑賞することの面白さを体感できることは、対話型鑑賞の魅力の1つですよね。相手の考えを知ることで興味を持てたり、違う意見が出ることで対話が盛り上がったりする。その結果として、いろんな見方や考え方ができるようになるんだと思います。

普段、授業の中で話し合いをする場面では、子どもたちに「答えを出さなければいけない」と感じさせてしまう場面が多いのではないかなと思います。対話型鑑賞は、答えを出すことよりも、友達といつも通りの会話をするような感覚に近いんです。答えがなく、たわいもない会話を楽しむような感じです。そんな体験を通して、生活を楽しめるようになってほしいなと思います。

(左:城野知佐さん・大阪の小学校教員|右:森本彩さん・三重の高校教員)

自分では気づかないような「新しい視点」に触れる

ーー 特に印象に残っている出来事はありますか?

川崎:ある授業で、『風神雷神図屏風』の対話型鑑賞をしたことがあります。絵画を見た生徒たちからは「雷を起こそうとしている」「喧嘩しているんだ」といろんな意見が出ました。その中で、ある生徒が「2人は恋人同士なんじゃない?」と言ったんです。理由を聞くと、「2人とも出会い頭にニコニコしていて、嬉しそうだから。『やっと会えたね』と言って喜んでいる」と。そこからさらに対話が広がってきました。違う意見が出ることの面白さを感じますね。

また、以前勤務していた学校で『モナ・リザ』の絵を見せたときは、ある生徒が「眉毛がないからヤンキーや」と言ったんです。作品に対する知識が前面に出ていると、なかなかそういう発言はできないものなんですよね。作品について誰も気づかなかったようなことを指摘する生徒がいることで、そこから対話が広がっていく。

城野:面白い視点ですね。私が印象的だったのは、友達の作品への見方が変化したなと感じたことです。先日、学校で開催した作品展では、5年生の児童が2年生の児童の作品を見て「シンパシーを感じる。自分の作品と通じるところがある」と言っていました。

1つの作品について狭い見方しかできないと、「上手い」「下手」「可愛い」などの感想で終わってしまうと思うんです。でもそうではなく、頭の中で自分の作品と並べてみたり、作品そのものが伝えようとしていることを想像したり、いろんな視点で作品を見ようとしているのではないかなと感じました。

森本:1つの作品との向き合い方は変わってきますよね。私の学校では、授業の中で絵を描くとき、以前は多くの生徒が1、2時間くらい考えるとすぐに描き始めていました。今は4、5時間考えるようになったと思います。例えばお花を描く場合、「どんな種類の花があるんだろう?」「自分は何を表現したいんだろう?」「こう描いたらどんな風に見えるだろう?」などと考えるようになりました。

対話型鑑賞で1つの作品についていろんな見方や考え方をしてきたから、自分たちが作品をつくる立場になったときに、相手に何を届けたいのかを考えるようになったんだと思います。

自分の世界観を自由に出し、心を育てる時間

ーー 対話型鑑賞を続けてきて、気づいたことや感じたことはありますか。

城野:学校の授業で行う「鑑賞」と言うと、友達の作品を見ていいところを見つけてコメントする活動が多いのではないかなと思います。それ自体が悪いわけではないのですが、思考力や判断力、表現力も含めるような活動をしていきたいと思って、対話型鑑賞を取り入れました。その結果、先ほどお話ししたように友達の作品の見方にも広がりが持てているような実感があります。

川崎:まさにそうですね。美術に関する知識を得ることも大切ですが、それ以上に、自分で感じたことや考えたことを表現することに意味があると思っています。それぞれの世界観を自由に出し合いながら、人の視点のおもしろさに出会ったり、言語化されていなかった自分の価値観に気づいたりする。受け皿の深いアートだから、そんな対話ができるのだと思います。

例えば、社会課題や日常の出来事についての対話だと、意見のぶつかり合いが起こる可能性があります。けれど作品についての対話であれば、誰かを傷つけたり自分が傷ついたりすることなく、お互いの意見を出し合えるんです。作品についての意見が違ったとしても、それぞれの人生にはあまり影響しないからです。その過程で、自分の考えに偏りがあることに気づくこともある。自分自身の見方や考え方の枠を広げてくれるものだと思っています。お互いが大切にされている感覚を持てるから、意見を出し合えるんだと思います。

森本:安心感があるからこそ、心が育っている感じがしますね。私の勤務校では卒業後に海外に行く生徒が多いので、最初は「日本の作品を自分の言葉で説明できるようになること」をねらいとしてやっていました。対話型鑑賞を続けてきた今は、「感動する心や相手を尊重する心を育てること」に繋がっているのではないかと感じています。どちらかというと、後者の方を意識しているかもしれません。

対話があたたかい場になることで、生徒たちは「こんなこと言っていいんや」「これもありなんや」と感じ、安心して発言することができます。それが自己肯定感にもつながっていくと思うんです。

ーー 川崎さん、森本さん、城野さん、ありがとうございました。

今年、子ども家庭庁が設立されたことで、ますます注目が集まるスクールソーシャルワーカー(以下:SSWと表記)。学校で働く、福祉の専門職です。

大学等で社会福祉を学び、社会福祉士や精神保健福祉士を取得して雇用されます。最近は、SSWの養成課程等を持っている大学もあり、社会福祉士を志す学生の一つの進路としても、関心が高まっています。『スクールソーシャルワーカー実務テキスト』 には、『貧困家庭、社会的養護、不登校、いじめ、虐待など、子どもたちが抱える課題の多くが、彼らの生活環境の問題から生じていることが多いが、その真のニーズは見えにくく、学校というすべての子どもが通る現場での発見(アウトリーチ)と支援が期待される』と書かれています。 

学校が全ての子どもたちにとって安心安全な場になること、また、個別の子どもの支援だけではなく、学校文化の変革にも寄与できる可能性があるスクールソーシャルワーカーについて、解説していきます。 

※一部『生活教育』2023年4・5月号(no.827)編集:日本生活教育連盟 に寄稿した物に、加筆修正をしております。

ソーシャルワーク”の定義とは?

まずは、ソーシャルワークそのものについて説明します。国際ソーシャルワーク連盟が採択したソーシャルワークの定義には以下のように書かれています。

“ソーシャルワーク専門職は、人間の福利(ウェルビーイング)の増進を目指して、社会の変革を進め、人間関係における問題解決を図り、人々のエンパワーメントと解放を促していく。ソーシャルワークは、人間の行動と社会システムに関する理論を利用して、人々がその環境と相互に影響しあう接点に介入する。人権と社会正義の原理は、ソーシャルワークの拠り所とする基盤である(IFSW;2007.7.)”

改めて書かれると少し難しいため、超意訳を用意しました。これは、私、小谷が研修等でソーシャルワークの定義を説明する際に必ず用いているオリジナルの“やさしい日本語訳”です。

“人が人として生きていくためには、心や体の健康だけでなく、社会の中で「ここにいて楽しいな。幸せだな」と思えるようなコミュニティに安心して所属できることも、とても大切。

今いる場所がドキドキしてしまうなら、そこを安心できるように変えていかないといけないわ。でも“安心”って状況によって違うから、その人本人との対話を通して、「安心じゃなくさせているもの」をどうやったら取り除けるのか一緒に考えて、その人が持っている力を最大限に発揮できるように応援していくの。

でも、やみくもに話を聞いて背中をバシバシ叩いて、自分の感覚だけで応援してもダメなのよ。それには、正しい理論を身につけた人が“安心できない場所”とその人との間に何が起こっているのか見極めて「安心」を作るためにはどうしたらいいか考えることがとても重要なの。

そして、もう一つ大切なことがあるの。全ての人々の権利を大切にして、そこに集うみんなに不公平がないようにしていくということは、絶対に忘れてはならないわ。そういうことをシャーシャルワークというし、そういうことをする人をソーシャルワーカーと呼ぶのよ。”

ソーシャルワーカーは、相談を聞いて困っている人を「どこかしらの何かにつなぐ人」と思われがちなのですが、それはソーシャルワークのごく一部です。ある人にとって困っていることと、その困りの原因との境界面に、どのようなことが起こっているのかを見極め(※)、どうしたらその“困っていること”が”困らない状況“になるのかを、困っている当事者の思いを大切にしながら状況を整えることが、ソーシャルワーカーの仕事なのです。

※アセスメント:「その方が今、どのような場所に立たされているか」ということを客観的な情報や本人・家族の言葉から浮かび上がらせる作業のことです。

この“状況を整える”ということを環境調整というのですが、困っていることの中には、もちろん福祉制度が解決してくれることもあるため、既存の物で解決できそうな場合には、

①どこかしらの何かにつなぐお手伝いをします。
 (困っている状況を社会制度の仕組みで補うという調整です)

既存の福祉制度では解決できない時には、

②そのような仕組みを作るように働きかけます。

また、困っていることの内容そのものが、マイノリティとマジョリティの見え方の違いから来ている場合には

③マジョリティに対して啓発をします。

また、そういうことでは解決しない、親子、友達同士、先生との関係も、その人にとっての環境の一部ととらえ、

④うまくいかない人間関係の調整も行います。

ソーシャルワークに大切な4つの視点

このようにソーシャルワークは、”環境”という物を幅広く捉え、それらに対して調整をしていくのですが、上記の調整を行う時に、大切にすべき視点についてお話します。

自己決定の視点

自己決定というのは、様々な情報を知り経験した中で決めていくことです。、例えるなら、オレンジジュースしか知らない子どもがいつもオレンジジュースを注文していてもそれは自己決定とは言わず、リンゴジュースもサイダーもコーラもカルピスもいろいろ味わった中で、オレンジジュースを選ぶことが自己決定なのです。

人が物事を決定するためには、その年齢に応じた必要な経験が必要です。それがあるからこそ、適切に判断して進んでいくことができます。それらの経験を提供することができる環境を整えなければ、自己決定をしてくことができません。

機会均等の視点

例えば、階段しかない場所で、車いす利用者が上の階に行きたいと思ったとき「上の階までいつも担いでいきますからエレベーターはつけられませんが大丈夫です」と言われたとします。確かに、いつも担いでもらえるので2階には行くことはできますが、エレベーターがあるとわざわざその場にいる人に頼まなくても自分で(時には介助者と)2階に行くことができます。

結果的に、2階へ行くことができるということよりも”その場所へアクセスできる環境が整っているか”ということが大切であり、アクセスできる環境があることで”その場所に行く or 行かない”の自己決定を、簡単にしやすくなるのです。

そういう、その人が自分の力を最大限に発揮できる環境が整ったうえで、機会が均等にあるということが重要であり、そういう環境になっているのか、ということを見直すことが大切です。

社会モデルで考える

以前は、ある人に何か問題(に見えること)が起こると、それはその人の問題と捉え、今ある社会の枠組みに合うように治療をするという考え方がありました。これを医学モデルといいます。

一方で、社会モデルとは、“個人の問題に見える背景”(障害、家庭環境、人種、国籍、言語的文化的背景の違いなど)と、“社会(国、法律、学校、地域など)が持っている枠組み”とのミスマッチが起こっていると捉え、その個人的な背景が包括されるための社会環境を、どのようにしたら作り出すことができるか、という視点で起こっている出来事を捉えます。

“障壁は社会の側にある”という立場で、個人に責任を帰さないという考え方です。

権利に基づく視点

環境調整を行うためには、その分野の国際的な人権規約とそれに関連する国内法やガイドラインに基づいて行動することが求められます。

障害の分野であれば『障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)(2006.12)』、子どもの分野では『児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)(1989)』がとても大切な規範であり、子どもの権利条約および、障害者の権利条約の理念をもとに、子どもたちを取り巻く環境を安心安全に作り直します。(子どもの権利条約については、過去記事をご参照ください)

そして、その調整は、”環境”に関わるすべての人の権利が守られるような調整でなければなりません。家庭であれば保護者と子ども、学校であれば子どもと教職員双方の権利が大切にされなければならないのです。

上記の視点を大切にしながらアセスメントを行い、人と環境との間にある“安心できない状況”=権利が侵害されている環境に対して、その人自身の自己決定を尊重しながら解決のプロセスに伴走していくことが、ソーシャルワークです。

スクールソーシャルワークについて

上記のソーシャルワークが学校で展開されることがスクールソーシャルワークです。
学校は、子どもの生活の場ですので、主体は子ども。

子どもの生活を見ていくと、子どもが自発的に困ることはほとんどなく、子どもを取りまく環境の中で“困らされている”状態があり、その環境は、家庭の状況、学校制度、先生や友達との関係など多岐にわたります。

仮に、子どもに発達課題があったとしても、その子と環境とのミスマッチに由来する“困り”であり、考えるべきはその子が安心して生活できるような基盤(=環境)をどのように整えるか、ということなのです。

子どもが困っているとすぐに「子どもに支援をいれよう」と考えがちですが、まずはアセスメントをし、ケース会議で浮かび上がった客観的な情報から、子ども自身が直接的な支援を必要としているのか、家族の“困り”なのか、学校環境とのミスマッチなのか、見定めた上で支援を展開していきます。

また、特定の子ども自身への働きかけも大切ですが、すべての子どもが安心できる環境に作り替えていくことも、スクールソーシャルワークの一つです。“困り”)を抱えている子にとって、家庭や学校が、困らなくてもいい仕組みになっているか。適切におとなを頼ることができる状況が作られているか。そういう視点で全体を見渡し、すべての子どもが“困り”を抱え込まなくてもいい学校環境も同時に作っていきます。

教職員との協働

子どもに起こってしまった問題を解決するのに大切な、SSWと教職員との協働。

適切な支援を行うためには、多角的なアセスメントが必要で、SSW、スクールカウンセラーの福祉・心理的な専門性と、教職員の専門性からその子を重層的に見立てていくことで、子ども像が浮かび上がってきます。

しかし、学校に福祉・心理の専門職が入ることで「子どもの困りごとは全て専門家にお任せ」なることもあります。そうなると、アセスメントに必要な教職員の専門性が抜けてしまい、多角的なアセスメントができにくくなります。

アセスメントが適切でないと、表出している困りに対しての本当のニーズにまで支援が届かず“専門家が入っているのに何も変わらない”という現象が生まれます。

学校は、子どもの第二の居場所(家庭:第一の居場所)。子どもが最も多く関わるおとなは学級担任(家庭:保護者)です。一番身近なおとなとの安心した関係の構築は、子どもの学校生活の土台になります。

多角的な見立てのもと、教室や校内でその子にとって何ができるのか考え、福祉・心理・教育の専門家が協働していくことが、子どもの最善の利益につながっていくのです。

まとめ

スクールソーシャルワーカーは、児童虐待や生活困窮、障害、などの“困り”を抱えた児童や家庭を、外部機関につないでくれる人、という見られ方をしています。

しかしこのようにみてみると、SSWは学校に通う子どもたちの安全を作り出すことが一番の役割であり、その役割の中で、個別のケースに対して、外部機関につなぐことがあるだけなのです。

そして、ソーシャルワークの原則の1つ=“その場所にいる人すべての人の権利が守られること”を考えると、SSWの学校配置は、おとな(教職員、保護者)と子どもが安心して通うことができる学校を作る一助にもなると思います。

一方で、SSWの現状を見てみると、全国的にほぼ全てのSSWは非常勤・非正規雇用となっています。雇用数、勤務条件、学校での役割など自治体ごとのばらつきも顕著で、SSWになりたい人たちへの門戸が開かれにくい現状があります。また、SSWが学校に配置された後も、どのように教員と協働して”子どもの最善の利益”に関わっていくのか、手探りの状態が生まれてしまっているのが課題です。

School Voice Projectでは、このような状況が是正され、すべての子どもへの利益になるようなSSWの在り方について、今後も政策提言を行っていきます。

参考文献

  • 『スクールソーシャルワーカー実務テキスト』編著:金澤ますみ・奥村賢一・郭理恵・野尻紀恵 学事出版:2022
  • 『生活教育』2023年4・5月号(no.827)編集:日本生活教育連盟 
  • 『福祉施設・学校現場が拓く 児童家庭ソーシャルワーク 子どもとその家族を支援する全ての人に』 編著:櫻井慶一・宮崎正宇 北大路書房:2017
  • 『スクールソーシャルワーカーと教師のための校内支援実践マニュアル』 著:大塚美和子 神戸学院大学出版会:2022

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「生徒指導」は、これまで学校で当たり前のように使われてきた言葉です。多くの学校の校務分掌の中には生徒指導部があり、児童生徒の不適切な言動に対応したり、児童生徒同士のトラブルに対応したりすることも、「生徒指導」と言われています。

児童生徒の自立に向けた指導がなされている一方で、教員からの一方的な指導によって結果として児童生徒を苦しめることにつながる事例も耳にします。そんな中、2022年12月に「生徒指導提要」の改定が行われたことも影響し、児童生徒への関わり方を見直す動きが全国の学校で広がっています。

埼玉県立新座高等学校は、2023年4月に校務分掌の「生徒指導部」を「生徒支援部」へと改称しました。中心となって改革を進めたのは、昨年4月に生徒指導部長に着任した社会科教員の逸見峻介さん。「生徒指導部」の改称に踏み切った理由とこれまでの経緯について聞きました。

先生は、生徒を支える立場である

—— どのような思いから、「生徒指導部」から「生徒支援部」に名称を変えようと思ったのでしょうか。

元々「生徒が持っている力を大事にする組織にしたい」という思いがありました。生徒たちはそもそも「成長する力」を持っています。生徒たちの力を尊重して、先生が適宜サポートしながら、一緒に成長していくことが重要であると考えていました。

また、ニュースでは一方的な指導や体罰、問題校則※など、生徒指導のマイナス面が問題視されてきていますが、そんな生徒指導の在り方を見直すきっかけをつくりたいとも思っていました。

※本メディアでの「問題校則(ブラック校則)」の呼称について
行き過ぎた校則を「ブラック校則」と呼称することが一般的となっていますが、「ブラック〇〇」という表現が黒色へのネガティブイメージを固定し、人種差別や偏見助長へつながる恐れがあることから、本記事では基本的に「問題校則」の表記で統一しています。

先生が怒鳴ることで生徒が言うことを聞くこともあると思いますが、そのような関わりは生徒との対話を重視していないと思います。時にはそういった指導が必要なこともあるかもしれません。ですが、怒鳴ることで問題が改善したように見えても、本質的な改善にはつながりません。「先生が怖いから」という理由で改善するのは、生徒の自主・自律につながっていないと思うので。

大事なのは、生徒の実情に寄り添いながら、丁寧に対話をして共通理解を目指すことだと思います。生徒指導提要の改定や子どもの権利条約の重要性が改めて認識されてきている現在、生徒を丁寧に支援していくことが大切だと思います。

埼玉県内では、埼玉県立志木(しき)高校が組織の再編をして、「生徒指導部」から「生徒支援部」に変更したという事例を耳にしました。調べてみると、全国でも名称変更をしている学校の事例がいくつかありました。このようなことを踏まえると、「生徒支援部」の方が勤務校の教育活動にフィットするのではないかと思いました。

—— 名称を変更する前は、先生方はどのように生徒と関わっていましたか?

勤務校の先生は、すでに生徒の自主・自律に向けて支援するような関わり方をしていました。生徒を大切にするあたたかい雰囲気があったと感じています。

例えば、遅刻をしてきた生徒がいたときは「こら!遅せえじゃねえか!」と叱るより、「おはよう。どうしたの?」と聞くような先生が多いですね。先生たちはまず生徒の話を聞くことを大切にしていました。

とは言え、生徒”指導”という言葉を使う限り、一方的な指導をするような印象は残ってしまいます。昨今の社会情勢や生徒指導の在り方が問われている中で、名称の変更で勤務校をより良い方向に進めることができると思いました。

名称の変更をすれば、勤務校の強みである対話を大事にする文化をさらに活かすことにもつながるし、先生と生徒の関わり方を改めて問い直すことができたら良いなと思いました。

多くの先生が改称に賛成。校則やルールの見直しも

—— 具体的には、どのように名称を変えていったのでしょうか。

私が生徒指導部長になったのは昨年(2022年)4月で、そのタイミングで生徒指導部の5つの柱を先生方全員に提示しました。5つの柱は元々あったのですが、一部を改変しました。大事にしたのは「みんなで協力をすること」です。先生たちはこれまで多くの生徒を見てきていますし、それぞれの想いがあります。そんな先生たちの力を借りたいと思い、民主的で風通しの良い組織運営をしたいと考えていました。

(逸見さんが年度当初に配布した「生徒指導部の5つの柱」※2023年4月より「生徒支援部」に変更)

同年の秋頃には、生徒指導部の名称を変えられないかと管理職に相談しました。管理職も名称を変える必要性を感じてくれて、具体的にどうすれば変えられるのか相談に乗ってくれました。その後、まずは生徒指導部の会議で提案して具体的な案を固め、名称を変更する案を職員会議で先生方全員に提案しました。管理職が前向きに受け止めてくれたこともありがたかったなと思います。

—— 名称の変更を提案した際、先生方からはどのような反応がありましたか?

皆さん前向きに受け入れてくれました。元々、学校全体で対話を重視し、生徒を支援するような関わり方をしている人が多かったことも大きな要因だと思います。

名称を変更したのは今年4月なのですが、実は、前年12月に先生方全員に校則やルールについてのアンケートを取っていました。それを元に校則やルールの改定をしていたので、多くの先生が生徒との関わり方について見直すことに意識が向いているタイミングだったのではないかなと思います。

—— アンケートを取ることで、感じたことはありますか?

中には、以前から「この校則は必要だろうか?」と疑問があってもなかなか言う機会がなかったり、言いにくかったりする人もいたようです。アンケートを取ることで、先生が感じていることを出し合い、見直していくことの重要性を感じました。

回答の中には、具体的な変更のアイディアだけでなく、「粘り強くやりましょう」「教育相談の分野ともっと連携して情報共有しましょう」などの意見もありました。さらに、生徒ときちんと向き合うことの意義を書いてくれる方がいるなど、素晴らしい意見に溢れていました。

皆さんに意見を聞けたことはとても良かったですし、私自身にとっても勉強になることが多くありました。アンケートはこれまで年度末に取っていたのですが、意見が出ても時間が足りずになかなか変更まで進まないことが多くありました。今回それを改善するために12月に取ったことで、1〜3月に具体的な議論を時間をかけて進めることができました。

—— 校則やルールについては、どのような改定をしたのでしょうか。

例えば、生まれつき髪の毛の色が黒ではない生徒は地毛申請をする必要があったのですが、生徒の人権を尊重することを重視して、廃止することを決めました。髪型についても、以前は校則違反をした場合は短い部分に合わせて髪を切るように指導していましたが、これもなくしました。なので、今は生徒としっかり対話をしながら、経過観察などを基本として丁寧に指導することになっています。

また、遅刻を4回以上した生徒は廊下の雑巾掛けをする指導があったのですが、これも話し合いの末、廃止しました。雑巾掛けは生徒にも懲罰的に捉えられてしまっていたので、遅刻の指導として時代にそぐわないと判断しました。

これらの校則の変更については、教員からの意見だけでなく、生徒の意見から変更まで進んだものもあります。生徒が目安箱に入れた意見を生徒会が丁寧に議論をして、生徒指導部(現在は生徒支援部)に提案をしてくれました。生徒会もとても頑張ってくれたので、感謝しています。

2022年3月からはホームページですべての校則を公開することも決定しました。生徒や保護者などからの共通理解を今まで以上に図ること、今後の校則の見直しがスムーズに進むようになることを目指して、いち早く公開に踏み切りました。誰もが校則についてホームページで確認できるようにすることは、生徒指導を見直し、より良いものを目指していくという学校の決意表明であると思います。

(新座高校HPより。誰でも「生徒心得(校則)を見ることができる)

“ぬくもり”のある職場づくりにもつなげたい

—— 生徒指導部の名称を変更するにあたり、特に大切にしたポイントはありますか?

先生方に提案するときは、どのような思いがあって「生徒指導部」から「生徒支援部」に変更するのかを丁寧に説明しました。背景にある思いは、「ぬくもりを中心に置くこと」です。これは私が最初の職場でお世話になった先輩教員が言っていたことに影響を受けています。

「効率化や合理化が進み、成果主義が中心となった現代、さらに人とのつながりも希薄になりつつある。このような社会の変化の中で、公立高校で一番大切なことは”ぬくもり”だ」と。その言葉が印象に残っていて、「生徒指導においても“ぬくもり”が大切なんじゃないか」と思ったんです。ちなみに、“ぬくもり”には「あたたかさ」「人と人との関わり」などの意味があるそうです。

“ぬくもり”があれば、生徒たちの持つ力を信じたり、厳しく指導しても一方的で終わらずに、生徒へのフォローに入る先生がいたりすると思います。また、この”ぬくもり”は、先生たちの間にも必要なものだと思います。管理職や教員、事務の方はもちろんですが、臨任、非常勤の方などを含めて職場全体に必要なんです。

教育現場は、多忙化や教員不足など多くの課題があります。ですが、そんな中でも生徒と丁寧に向き合っている先生や、若手の先生に寄り添って職場を良くしている方がたくさんいます。

そんな”ぬくもり”がもっと広がっていき、ハッピーな職場になったら、生徒も先生ももっと自分らしく過ごしていけると思います。その点、私の勤務校は良い環境だと思います。あたたかい雰囲気の先生が多く、生徒も元気なので日々楽しく過ごさせてもらっています。

“ぬくもり”を大切にしたいという思いは、生徒支援部の5つの柱にも込められています「職員全員と協力し、チームとして統一した指導を行う」「教員間のフォローアップを忘れない」など、先生にとって働きやすい職場をつくっていくことも意識しました。

—— 名称を変えたことで、どのような変化がありましたか?

4月に変更したばかりなので、変化を感じる場面はまだそこまで多くはないのですが、勤務校では肯定的に捉えてもらっています。「生徒支援部になったんだし、こうやって関わっていけたらいいよね」という会話も増えてきています。他校からは「自校でも生徒支援部に名称を変更したい」という声を聞くこともあり、とても励みになっています。

今後も生徒を中心においた支援ができるように、学校で働く職員同士が協力し合えるような雰囲気をつくっていきたいと思います。

—— 逸見さん、ありがとうございました!

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日本の学校には、教員同士で互いの授業を見合う「研究授業」という文化があります。今回の教職員アンケートでは、そんな研究授業のドレスコードについて、勤務校での実態とそれについての意見をお聞きしました。

※WEBアンケートサイト「フキダシ」では、ユーザーの皆さんが同業の教職員の方に聞いてみたいことを投稿できる『みんなに聞きたいこと』というコーナーがあります。本アンケートは『みんなに聞きたいこと』から作成されました。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2023年3月10日(木)〜2023年4月10日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :30件

アンケート結果

設問1 「研究授業の際のスーツ着用」、必須?

Q1. あなたの勤務校では、研究授業を行う際に授業者のスーツ着用は必須ですか?

回答者数が少ないことには留意が必要ですが、「必須である」が3割、「必須ではないが着用している教員が多い」が5割、「特に言及はない」が2割という結果になりました。

設問2 「研究授業の際のスーツ着用」、どう思う?

Q2-1. あなたは「研究授業の際のスーツ着用」についてどう思いますか?

設問1と同じく回答者数が少ないことには留意が必要ですが、明確に「賛成」という人はおらず、「反対」・「どちらかというと反対」が合わせて約7割、「どちらかというと賛成」が約3割という結果になりました。

Q2-2. 上記の選択肢を選んだ理由をお書きください。

いつもと違う雰囲気になるのが、よくない

ただでさえいつもと違う雰囲気なのに、その上スーツで無駄に子どもの緊張を高める必要はないと思うから。【小学校・教員】

特に小学校では、子どもの背丈に合わせて屈んだり、一緒に遊んだりすることが多いので、スーツは不便です。体育の際に運動着に着替えるのにも手間がかかります。ふだんスーツで授業をしていない場合、研究授業でスーツを着ると、子どもによっては雰囲気の違いで緊張してしまうこともあります。だからこそふだんからスーツを着て授業をするという先生もいますが、そこまでしてなぜスーツを着るのかよく分かりません。自治体によっては、教職員に対する単なる締め付けとして導入されていると感じられる部分もあります。なぜ学校現場のことを何も知らない、現場から遠く離れた人が人気とりのために導入したことを、ずっと守らされなければならないのでしょうか。【小学校・教員】

授業は子どもたちのために行うものである。担任が日常と違ったことをすると、それだけで子どもたちの動きは変わってくる。まして、他の教師が見に来るような研究授業の場面で、前に立つ担任が普段と違った服装をすれば、子どもたちも普段とは違った反応になってきてします。【小学校・教員】

子どものための服装ではないのではないか

スーツを着用するのは自由だが、着用してないと注意される、というのは理解し難い。というのもスーツ着用はどちらかというと、子どもたちに対しての態度ではなく大人に対してのものなので、スーツ着用の強制は大人の目の方を気にしている現れだと思うから。【高校・教員】

本来、参観は子どもの学びを見るものなのに、教師同士が教師を評価、指導するもの、というバイアスがかかると感じている。【小学校・教員】

誰に対しての授業かを考えると、必ずしもスーツの必要はない。 学校の教育活動において、スーツ着用が望ましい場面は年に数回しかない。【中学校・校長】

教員の仕事にスーツは不便である

実際には、スーツでない教員がたくさんいるため。常に動き回る教員という仕事にスーツは、適していない。あちこちにチョークがつくし、板書するときに上着が邪魔になる。自分たちがよいと思っていないものを、これから教員になるかもしれない人に強要するのは、ナンセンス。むしろ、多様性の時代のリーダーとして、場にふさわしい服装を各々が考えて着て、多様性を具現化してほしい。【中学校・教員】

研究授業が設定されている時間も様々で、その前後が体育ということもしばしば。参観のためだけに慌てて着替えるというのも大変だったため、いつもスーツではなかった。これが「いつも着用」となると厳しいなと思う。【小学校・教員】

研究授業に関わらず、仕事のときは常にスーツを着用しているから。 体育などの特別な服装が求められる教科以外はスーツ着用が基本だと考えている。 もちろん、特別な服装が日頃から必要な教科はスーツである必要はない。【中学校・教員】

外部の人が来る場合は着用すべき

外部から講師なども来てもらうわけなので、きちんとした恰好をするのはマナーだと思う。(体育、技術、美術、理科(実験)は別)【中学校・教員】

校外の方(例えば指導主事)が来られる場合等は、スーツの方がいいだろうと思った。【小学校・教員】

普段からきちんとした服装をすべき

普段からスーツ着用しています。人前に出るので、しっかりするのが大事と思っています。【高校・教員】

研究授業のときだけスーツを着用する理由がわからない。 普段からきちんとした服装をすべきで、研究授業のときも同じでいいと思う。【小学校・教員】

普段から身だしなみに気をつけた服装をしていない方が結構見られるので、どちらかというと賛成と感じる。 スーツでなくても、キチンと感が出ていれば良いが、現状を見ていると、無理な気がする。【小学校・教員】

設問3 このテーマについて自由にお書きください。

Q3. このテーマに関連して、日頃あなたが思っていること・感じていることを自由にお書きください。

校種や地域による違いを感じる

小学校は特に、教科ごと着替えるのは大変だと思うが、もう少し身だしなみに気をつけて…と思う方が、男女問わずいるのが残念だし、不快に感じる。 中学の方が、普段からスーツ着用だったり、小綺麗にしている方が多いように思う。【小学校・教員】

地域的にも研究授業の時はスーツで行う。というのがスタンダードである。初任者が研究授業を行ってスーツでなければ確実に指導が入る。【小学校・教員】

そもそも教員の服装が、地域によって様々なのではないかということを最近感じる。私服のような服装で過ごしている地域から、出退勤は必ずスーツという地域もあるようだ。この感覚の違いは何か気になる。【小学校・教員】

日常の服装についての言及

日頃生徒の前で働いている姿のままで何か問題なのだろうか。日頃の身だしなみが、他者に見られて恥ずかしい、困るようなものであれば、それ自体を改めるべきだと感じるし、「研究授業ではスーツを着るように」ではなく、日常に気を使うように指導されるべきだと強く思う。ありのまま、日常の状態を磨かずして、研究授業の意味はないと思う。【高校・教員】

 子ども達にTPOを教える役割がある以上、教員は普段から外部の先生や保護者に見られて困るような格好で授業をすべきではない。とはいえ、子どもと過ごすと泥だらけになるので毎日きちんとしたスーツを着るのは難しい。そうなると、普段から洗いやすいオフィスカジュアルな格好で過ごし、研究授業も同様の服装で行なうのがベストなのでは。【小学校・教員】

なぜ日常業務がスーツでなくてもいいのか、ジャージやラフな格好でいいのかが疑問。 男性がひげを生やしたままでもよく、女性がネイルや染髪をしていることも許容される風潮になって久しいが、一般企業に合わせて変化していくのであれば、「スーツ・もしくはスーツに順ずる格好」が基本の方がいいと思う。【中学校・教員】

服装は表面的なものでしかないのでは

スーツ着用が望ましいとは思うが、必須ではなく、動きやすさができる服装の方が良いとは思う。子どもたちへの対応や、わざわざ研究授業のタイミングだけ着替えたりするのも「こじつけ」るような感じがするから。本来は見てもらうべきは授業であって服装ではないが、服装でとやかく言われるのならば、1時間ぐらいの服装は我慢していると言うのが本音かも。【中学校・教員】

管理職が普段着で参観してはいけない、教えていただくのだから正装しなさいと指導がありました。たかが服装ですが、普段の授業の質を上げることが大切で、その時だけを取り繕うような雰囲気を完全に纏うこの考え方は、あまり心地よいものではないと思っています。 校内研修担当ですが、相手を不快にさせない服装ならなんでもいい、むしろ黒スーツの集団は子どもにも教師にも圧がかかるため禁止、というルールを来年度は追加してしまおうかと検討中です。【小学校・教員】

研究授業に限らず、保護者や指導主事が来る日に普段とは違う格好をすることは好きではない。 保護者や指導主事はお客様ではなくて、ともに子どもを支える同志。 普段通りの恰好で迎えたい。 格好ではなく、振る舞いで敬意を伝えたい。【小学校・教員】

その他

研究授業以外で、スーツ着用を求められることが多く、特に困るのが明言(指示)しないケースが多いこと。 「この話し合いはスーツが必要か」と同僚同士で相談し、探りあっていることが多い。で、蓋を開けたらほとんどの人が正装でした、ということもしばしば。 個人的には、できるだけスーツは着たくないと思うが、管理職が「正装が必要」と考えるなら、はっきり指示を出してほしい、と思う。【特別支援学校・教員】

スーツ着用が当たり前だと思っていましたが、よく考えてみたらなんか変だなあと思いました。【小学校・教員】

まとめ

このアンケートはWEBアンケートサイト「フキダシ」内の『みんなに聞きたいこと』コーナーへの投稿をもとに作成されました。

研究授業のスーツ着用については、「必須」「必須ではないが着用している教員が多い」が合わせて8割となり、研究授業の際のスーツ着用は広く浸透している、一般的になっていることが伺えました。
スーツ着用の是非については、どちらかというと「反対」の傾向が強くあらわれる結果となりました。

自由記述の内容からは、”研究授業の際”のスーツ着用については、普段と違う雰囲気により児童生徒が緊張することや授業を担当する教員へのプレッシャーが強まることへの懸念や、誰のための研究授業なのか?といった疑問、仕事上の実用性の低さへの指摘などの声が寄せられた一方、「職業柄、普段からある程度きちんとした格好をするべきではないか」、「同僚の身だしなみが気になる」といった意見も複数寄せられました。

服装のマナーについては、価値観の分かれるところではあるとは思いますが、各職場で「何のために」「どのような場で、どのようなドレスコードが必要なのか、もしくは不要なのか」という議論や対話を重ね、納得できるルールを見出していくことが大切なのかもしれませんね。


▼ 自由記述の回答一覧は、以下よりダウンロードしてご覧ください。 ▼

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すでに公開されている教職員アンケート結果やWEBメディアの記事の内容等は報道の際に使用いただいて構いません。その際は【出典:NPO法人School Voice Project 】クレジットを入れていただき、事後でも結構ですのでご一報ください。

NPO法人School Voice Project(以下SVP)では、2023年4月6日(木)、新年度準備期間の短さと期間延長の必要性をPRする記者会見をオンラインで開催しました。この日は全国平均で最も多くの自治体で始業式が実施されている日です。それ以外の市町村でも、まさに始業式前後のドタバタ期で、学校現場は余裕のない中で業務に追われている最中。この時期にタイムリーな発信をすることで、この問題を多くの教職員や保護者・市民の皆さんに知ってもらい、問題意識を持ってもらえたら。そんな思いで実施に至りました。

本記事では主に、記者会見でSVPからメディアの皆さんに提供したデータ(プレゼンテーション)の内容と、多忙の中参加していただいた現職教員・教育委員会事務局職員の方の声をお伝えします。

「#新年度準備を十分に!キャンペーン」とは?
実は、4月に学校の新学期が始まる日程は自治体によって違います。ほとんどの自治体では、教職員の人事異動の発表と新採用の辞令がおりるのが4月1日。なので、重要な決定事項を決める会議は4月に入ってからでないと難しく、新年度のための準備は「4月1日から始業式の前日までの日数」でやる必要があります。 新年度準備期間が十分に確保できないと「授業準備が不十分」「教科や学級、校務分掌の準備が不十分に」「児童生徒の情報共有や引継ぎが不十分に」「初任者や異動者への支援が不十分に」「組織としてのビジョン共有や方針立案が不十分に」「教職員のチームビルディングが不十分に」…など様々な問題が発生します。

SVPでは、新年度準備のための日数を十分にとり、よりよい状態で子どもたちを迎えられるよう、この問題を「見える化」し、各自治体に対する働きかけ・キャンペーンを行っています。

はじめに

記者会見の冒頭では、進行役を務めたSVP理事の武田から、このキャンペーンの背景と趣旨が語られました。

武田:私たちSVPは、アンケートや様々なオンラインの対話の場などを通して学校現場の教職員の声を集めています。その中で、”新年度準備期間の短さ”という課題が見えてきました。教職員自身も、他自治体の状況を知らないことが多いので、自分の勤務自治体の状況が「当たり前」だと思っている、という状況もあります。実際、「え、◯◯県はそんなにゆっくり始まるの?!」「知らなかった!」といった声がたくさん聞かれたんです。新年度がドタバタで始まると、大事な引き継ぎ事項が漏れたり、授業準備ができなかったり、学校のビジョンを擦り合わせたりする時間が取れなかったり・・・といったことが起こります。これは教職員の働き方の観点から問題であるのはもちろんのこと、子どもたちにも弊害が出ている=教育・支援の質に関わる問題であると考え、このキャンペーンを立ち上げました。

始業式の後ろ倒しは、教職員の多くが求めている改善であり、かつ変更が比較的容易で、予算もほとんどかかりません。変更コストに対して、変えた際のプラスの影響・効果の大きいことが想定されるトピックだと考えています。最近では始業式の後ろ倒しを実現した自治体も少しずつ増えています。ぜひ全国に広まってほしいです。

続いて、同じくSVP理事の小林から、実施した2つの調査についての報告がありました。

全国始業式日程調査の結果

1つ目は、全国の学校管理規則を洗い出し、「始業式」の日程を調査したものです。

調査概要

  • 調査実施時期:2022年7月〜8月上旬
  • 調査主体:NPO法人School Voice Project
  • 調査対象:1756自治体(都道府県47+市区町村1741 – 不明32 )
  • 調査方法:①各都道府県に問い合わせ 
         ②「学校管理規則」をインターネット上で検索
          (一般財団法人地方自治研究機構の全国例規集を主に参照)

※今回の調査では、①各都道府県に問い合わせた2022年度の春季休業終了日、②学校管理規則上の春季休業終了日を集計しました。前者のみでは全自治体の情報を網羅することが難しい一方で、後者は年度・学校ごとの弾力的な運用により実際の日程と異なる恐れがあるため、①②の情報で相互に補完することを目指しています。

基本情報

  • 春休みの期間=始業式日程は、学校設置者の定める「学校管理規則」において決められています。
  • 「学校管理規則」は教育委員会会議の決議で変更することが可能です。(議会での決議は基本的には不要)
  • 規則の書き方には幅があり、明確に日程を記載しているもののほか、学校長の判断で変更が可能になっているもの等があります。
  • 「学校管理規則」は市町村教育委員会が定めるものですが、都道府県ごとに一定の傾向が見て取れます。

2022年度と2023年度は年度当初に土日があったため、多くの自治体では通常よりも新年度準備期間が短くなってしまっていました。都道府県に問い合わせた2022年度実態では73%、学校管理規則上では56%の自治体で、2022年度、2023年度の新年度準備期間は4日以下であったことが分かりました。

実質準備日数を表にしたものがこちらです。準備期間が4日以下が976自治体、3日以下が671自治体、2日以下が87自治体でした。最も多かったのは準備期間が3日の自治体でした。一方で8日や10日の準備期間がある自治体もあることが分かりました。

こちらは都道府県ごとに新年度準備にかけられる日数の平均値を算出して色分けしたものです。始業式日程は各市町村で決められるものではありますが、都道府県ごとに大まかな傾向があるため、参考になると考え、MAPを公表しました。

教職員向けWEBアンケートの結果

また、教職員WEBアンケートサイト「フキダシ」にて実施した新年度準備期間についてのアンケートの結果もお伝えしました。

調査概要

  • 調査対象 :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う 一条校に勤務する教職員
  • 実施期間:2023年1月20日(金)〜2023年3月13日(月)
  • 実施方法:インターネット調査(Googleフォームを活用、WEBアンケートサイト「フキダシ」にも掲載)
  • 回答数 :179件
  • 調査主体:NPO法人School Voice Project

新年度準備期間が不十分なことで起こってきた現象を尋ねたところ、ほぼすべての項目において教職員の9割以上が悪影響を感じていることが分かりました。

また、求める新年度準備の日数を尋ねたところ、「”万全の状態”でスタートするために」という聞き方では、「9日〜10日」という方が最も多く41%、続いて「7〜8日」が36%でした。「最低限必要な」という聞き方では、「5〜6日」という方が最も多く40%、続いて「7〜8日」が36%という結果になりました。いずれの聞き方でも、9割以上の方が「最低5日はほしい」と考えていることが分かりました。

また、教職員から寄せられた生の声も紹介。こちらは以下の別記事から詳しくお読みいただけます。

学校現場からの声

会見には、新年度の忙しい時期にも関わらず、現職教員の方が2名、教育委員会事務局の方が1名参加してくださいました。

富山県の公立小学校に勤めるベテラン教育である能澤英樹さんからはこんなふうに話してくれました。

「例えば、学校ではアレルギー対応給食といって、個々のアレルギー食材を取り除いたり、代替の給食が配付されますが、それを管理するのは教員なので、4月の当初に誰がどんなアレルギーがあるかの全職員の共通理解が行われます。子どもの命に関わることなのでかなり慎重に行う必要があります。これはほんの一例で、それ以外にもスムーズかつ安全に年度初めの学校生活をスタートさせるための業務が、昔よりも量的にも質的にも増えている。しかし、そのための人員は増えず、時間は逆に削られています。」

「三日間の準備期間では、子どもを迎えるための最低限の環境整備しかできず、後回しにしてよい書類などはすべて始業式後になります。それでもできなかった業務は子どもたちが帰ってからすることになる。最も圧迫されるのが授業準備の時間です。十分な授業準備ができないことで、分かりやすく授業できない、興味をひきつけることができない。特に勉強の苦手な子に十分に手が届かない無念さを私もいつも味わってきました。最悪の場合、子どもたちが落ち着かない状態になり、学級崩壊したり、いじめが起こったりして問題対応でさらに時間が取られることがあります。そうなるとさらに授業準備の時間が削られて”負の連鎖”です。」

東京都の公立小学校に勤める若手教員であり、一般社団法人まなびぱれっと代表理事として初任者や若手教員の支援にもあたっている小泉志信さんは、

「前年度引き継ぎや、校務分掌の相談等をしていると、年度当初は2日間ぐらいはずうっと打ち合わせになります。合わせて初任者にはこのタイミングで研修が入ることが多い。そうすると学校でクラスの準備をする時間はほぼ取れなくなります。東京は今日(4/6)から登校が始まっているところが多いですが、実際教室に入れたのは昨日、というような初任者も当たり前にいます。これはかなり苦しいです。」

「初任者は、”何が分からないかも分からない”という状態を抱えている。そういう時に先輩に頼りたいけれど、先輩たちですら今の状況ではギリギリでやっているんです。心理的に安全ではない状況で、初任者は聞きにもいけず、周りを頼れない。そもそも親しくもなれすらいない、学校の方向性・ビジョンも共有できていない、という課題があるのかなと思います。今若手の病休の割合も増加している中で、安定した準備ができることが、安心して働けて、その結果子どもにいい授業、いい教育を届けることにつながると思います。」

と話してくれました。

後ろ倒しに取り組んだ教育委員会の立場から

Sさんからは、昨年、某市教育委員会で新年度準備期間の課題について改善を試みた経緯について、共有されました。

「本市では学校運営管理規則上の春季休業が4月5日からと記載されているので、去年・今年は準備期間が3日間。実際今年とある学校の教頭の退勤時間を聞くと、22:30に退勤したという報告も上がってきています。昨年度この状況が見えていたので、なんとか規則を改訂して準備期間を1 日でも長くしようと試みましたが、結果的には今年度は持ち越し、次年度以降再検討ということになりました。」

「昨年の夏から秋にかけて市内全部の学校の管理職にヒアリングをしました。ほとんどの学校でバタバタしていて準備期間が足りていないという声があがりました。それを受けて、市内600名の教職員にアンケートをとりました。約430名から回答があり、準備ができてゆとりを持って迎えられた人は0%、十分な準備が問題なくできていたと答えたのは1.8%でした。また、土日に出勤も持ち帰り仕事もせずしっかり休めていた先生はわずか17.5%でした。こういう状況を受けて春季休業を4月7日までに変更してはどうかという起案を上げました。」

「解決しないといけないハードルとして、授業時数があります。本市の場合は小学校では低学年はゆとりを持ってやれており、高学年が少しギリギリ、中学校では特に3年生で足りていない学校もあり、これを理由に今年度は見送りになりました。結論としては、今年度教育課程を見直して、小学校にモジュールですとか、中学校では授業時間に読めるような活動を積極的に読み込んでいくことで授業時数の確保をし、今後改訂していこうとしています。」

さいごに / まとめ


この問題は、まだまだ学校現場においても、各教育委員会においても、課題として認識されていない、という状況にあります。全国的にまだあまり議論されておらず、大きな論点として設定されていないという現状です。だからこそ、この問題に気づいた教育委員会事務局の方が起案したり、もしくは教職員組合や校長会が要望を挙げ、議論さえ始まってしまえば、変えていける可能性も大きいのです。

SVPとしては、今後も多くの方に発信することで問題意識を共有していきたいと考えています。また、教育委員会等に対する資料提供や働きかけも行なっていき、この機運を盛り上げていきたいと考えています。ぜひ今後もご注目いただければ幸いです。


子どもを指導する教員が足りず、時には学校がハローワークで求人も――。全国の公立小中高校で、教育現場に計画通りの教員数を配置できない「教員不足」問題が深刻化しています。

文部科学省が2022年1月に公表した実態調査では、全国の小・中学校で合わせて約2000人の教員が足りない厳しい現実が浮き彫りになりました。なぜ、少子化が進み児童・生徒が減っている日本で教員が足りないのでしょうか?また、解決する方策はあるのでしょうか?この記事では、「教員不足」問題の実態と原因を解説し、解決するためにSchool Voice Projectなどが提言する対応策をご紹介します。

教員不足の現状

最初に、どのような学校・地域で、教員がどのくらい不足しているかを見てみましょう。

文部科学省は2022年1月、全国の公立小学校・中学校・高等学校・特別支援学校(計3万2903校)を対象にした実態調査の結果を公表しました。その調査によると、教育現場に本来配置されるはずだった教員人数から、実際の配置人数を引いた欠員数は、小学校979人、中学校722人、高校159人、特別支援学校205人で、合わせて2065人にのぼります(2021年5月時点)。

欠員のあった学校の割合を見ると、小学校4.2%、中学校6.0%、高校3.5%、特別支援学校11.0%で、特に特別支援学校での不足が目立ちます。そして、特別支援学校の欠員率を自治体別に見ると、熊本県(3.52%)、秋田県(1.57%)、新潟市(1.42%)、千葉市(1.25%)、鳥取県(1.18%)などが上位に並び、特定の地方への偏りは見られません。また、欠員率が高い自治体が全国に点在する現状は、他の校種でも同様です。例えば小学校の場合、欠員率が最も高いのは島根県(1.46%)で、熊本県(0.88%)、福島県(0.85%)、長崎県(0.78%)、茨城県・千葉県(0.64%)が続きました。

また、School Voice Projectが全国の教職員を対象に行なったアンケート調査結果でも、多くの教育現場で欠員が生じている現状が垣間見えます。授業の質の低下などを懸念する声も多く寄せられており、詳しくは下記の記事をご覧ください。

参考「『教師不足』に関する実態調査」(文部科学省,2022年12月30日参照)より

なぜ教員が足りないのか

文部科学省が実施した実態調査によって、2021年5月時点で教員約2000人が足りない現状が明らかになりました。実際の教育現場では、年度の途中で教員の病欠や育児休業取得などがあり、現実はさらに厳しくなっています。例えば読売新聞によると、東京都内の公立小学校では2022年、欠員が同年度当初の約50人から夏休み明けには約130人に増えました。校長ら管理職が教壇に立ち、板橋区教育委員会ではハローワークに求人を出すなどして欠員補充に努めています。

また、欠員補充が難しいという問題については、School Voice Projectでも独自に教職員アンケート調査を実施しまとめているのでご参照ください。

では、全国的に教員が不足している根本的な原因は、いったい何なのでしょうか。

NHKによると、そもそも文科省による実態調査は、2021年度から公立小学校に「35人学級」が導入され、新たに大量の教員が必要となったことが背景となっています。つまり、教員不足の原因として真っ先に挙げられるのは、①「35人学級」です。また、実態調査において全国の各教育委員会は、他の原因として多い順に、②産休・育休取得者数の増加、③特別支援学級数の増加、④病休者数の増加、を挙げています。

ただ、もちろん、「35人学級」の推進を今から取りやめるわけにはいきません。35人学級は、児童の個性に応じたきめ細かな教育を実現するために重要で、「誰一人取り残すことなく、全ての子供たちの可能性を引き出す」とうたった文科省の「令和の日本型学校教育」の中核をなす制度です。また、教育の質を高めるには、教員が仕事と家庭を両立させ、安心して働ける環境作りが必要ですし、特別支援学級の整備もまた、個に応じた教育に不可欠といえます。次に、これら①〜④の事情について個別にみてみましょう。

参考「都内公立小の教員不足が拡大、夏休み明け130人欠員…ハローワークに求人出す区教委も」(読売新聞オンライン、2022年11月22日公開,2022年12月30日参照)より
参考「教員不足の実態を全国調査へ『35人学級化』実現に向け」(NHK,2021年4月6日公開,2022年12月30日参照)より
参考「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)(文科省,2023年2月25日参照)より

① 産休・育休取得者数の増加

かつて教育現場を支えた教員が次々に定年退職し、世代交代によって若手教員が増えたため、教育現場で産休・育休を取得する教員が増えています。

日本経済新聞によれば、1970年代の第2次ベビーブームへの対応で大量採用された教員の多くが定年退職の時期を迎え、若手教員の採用が増えています。例えば、文科省の資料からも、公立小学校教員の平均年齢は2007年度の44.5歳から一貫して下がり続け、2019年度には42.6歳に達したことが分かります。同じように、公立中学校も44.2歳(2010年度)から43.6歳(2019年度)に下がりました。ただし、高校は45.3歳(2007年度)から46.1歳(2019年度)に上昇していますが、そもそも教員数が小中学校(全国で計約60万人)よりも少ない(同約16万人)ため、小中高全体としては若年化の傾向が続いています。

また、育児休業は仕事と家庭を両立させるうえで非常に大切な制度ですが、多忙のためか、男性教員の育休取得率は他の職種の地方公務員より低迷しているのが現状です。総務省のまとめによると、全国の教育委員会に所属する男性職員の育児取得率は8.1%で、地方公務員男性全体の13.2%を大幅に下回っています。国は、数値目標として2025年までに30%の取得率を掲げているため、今後、育休を取得する男性教員の増加が予想されます。

※なお、女性職員の取得率は教育委員会99.6%、全体99.7%でほぼ同じです。

参考「小中教員『若返り』続く 大量採用世代が退職、文科省」(日本経済新聞,2017年9月14日公開,2022年12月30日参照)より
参考「令和元年度学校教員統計調査」(2022年12月30日参照)より
参考「令和2年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果」(2023年2月25日参照)より

② 特別支援学級数の増加

少子化で児童・生徒が減り続ける一方で、特別支援教育を受ける子どもが増え、その対応を担う教員が足りなくなっています。

文科省によると、特別支援学校に通う児童・生徒数は、2009年度の約6万2000人から2019年度には約7万5000人に増加しました。小中学校の特別支援学級に通う児童・生徒数も、同じ期間中に約13万5000人から約27万8000人へと倍増しています。特別支援学校や特別支援学級は、1学級6〜8人、あるいは1学級3人が定数の場合もあるため、教員の確保はより喫緊の課題になっています。

特別支援教育の拡充は、文科省が「令和の日本型学校教育」として新たな教育体系を目指す中で、「個に応じた指導」にかなうものとして重視されています。特別支援学校や特別支援学級は増え続けていますが、各国に目を向けると、決して日本だけが特別支援教育に手厚いというわけではないことが分かります。

例えば、日本の義務教育において特別支援教育を受ける児童・生徒は、2019年度時点で全体の5.0%(約48万6000人)です。しかし、アメリカでは全公立学校在学者の13.0%(2010年度)が連邦の特別教育支援プログラムを受け、フィンランドでは就学年齢人口の7.3%(2013年)の児童・生徒が特別支援教育を受けています。教育制度は国によって異なるため、単純な比較はできませんが、特別支援教育を重視する姿勢は各国とも共通しているようです。

参考「特別支援教育の現状」(文科省,2022年12月30日参照)より
参考「諸外国の特別支援教育の状況」(文科省,2023年2月27日参照)より

③ 病休者数の増加

文部科学省によると、教員の病気休職者数は高止まりが続いています。例えば、精神疾患による病気休職者の推移を2016年度から2020年度にかけてみてみると、4891人、5077人、 5212人、5478人、5203人と5000人前後を保っています。

また、うつ病など精神的な病気が原因で休職する教員も増え、大きな問題となっています。NHKによると、精神的な病気で休職した教員は昨年度5897人に達し、過去最多となりました。文科省はその背景について、「コロナ禍での行事など、難しい判断が必要な業務が増えている影響も考えられる」と分析しています。実際、その影響もあってか、日本教職員組合が2022年に行なった調査によれば、一日の休憩時間が「0分」と回答した公立学校教職員は40.6%に上り、2021年の32.5%、2020年32.0%から大幅に増えたことが分かります。

なお、School Voice Projectでは教員の過酷な労働環境の一因とも言われる「給特法」についても記事をまとめています。

参考「令和2年度 公立学校教職員の人事行政状況調査について(概要)」(文科省,2022年12月30日参照)より
参考「精神的な病気で休職した公立学校教員 昨年度5897人 過去最多に」(NHK,2022年12月26日公開,2022年12月30日参照)より
参考「2022年 学校現場の働き方改革に関する意識調査」(日本教職員組合,2022年12月22日公開,2022年12月30日参照)より

④ 35人学級の導入

公立学校の学級編成などを定める義務標準法が2021年に改正され、同年4月から、公立小学校の全学年について学級人数の上限が40人から35人に引き下げられました。既に小学1年では35人学級が導入されていましたが、同年から段階的に、5年がかりで35人学級が全学年に導入されます。これに伴い、全国で新たに大量の教員を確保する必要が生じました。読売新聞によると、35人学級を実現するためには、少子化を考慮してもなお5年間で1万3500人以上の教員が必要とされています。

日本の教育現場では長年にわたり、他の先進国と比べて1学級あたりの児童生徒数が多く、35人学級の実現が大きな目標とされてきました。例えば2008年のOECD調査をみると、日本の国公立学校の学級平均児童生徒数は、初等教育28.0人(OECD平均21.6人)、前期中等教育33.0人(同23.7人)で、各国より際立って多い水準でした。日本より学級規模が大きい国は韓国、チリなどごく一部の国にとどまり、改善が急務だったことがわかります。

2021年3月に法改正が行われ、小学校の全学年について35人学級の導入が決められる際、当時の萩生田光一文科大臣は「少人数学級にしたほうが子供たちの学びはよくなるよね、学校が楽しくなるよね、子どもたちが明るくなったよね、多様な評価を皆さんでしていただいて、その成果を中学校、高校へとつなげていくことが必要だ」と国会で意義を強調しています。

少人数学級は学校現場の教職員が長年訴え続けてきたことでもあり、その実現は喜ばしい一方で、必要な教員数が増える=教員不足が発生する、というジレンマも生まれているということです。

参考「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律の一部を改正する法律の概要」(文科省,2022年12月30日参照)より
参考「小学校全学年を5年かけ『35人学級』に…改正法成立、上限引き下げは41年ぶり」(読売新聞オンライン,2021年3月31日公開,2022年12月30日参照)より
参考「一学級当たり児童生徒数 [国際比較]」(文科省,2023年2月25日参照)より
参考「小学校における35人学級の実現/約40年ぶりの学級編制の標準の一律引下げ」(文科省,2023年2月25日参照)より

教員不足の解決策は?

慢性的な教員不足は、授業の質の低下や、教育現場で活躍する教員の更なる負担増加を引き起こし、そして例えば「学級担任がいない」「教科担任がすぐ交代してしまう」などといった子どもたちの不利益につながりかねません。それでは、現状を改善するにはどうすればよいのでしょうか?

School Voice Project では、学校業務改善アドバイザーの妹尾昌俊さん、研究者の末冨芳さん(教育政策)と協力して「#教員不足をなくそう!緊急アクション」と題したキャンペーンを展開し、2022年に政策提言書を取りまとめました。この項では、その提言の概略をご紹介します。

① 【教員免許制度】【採用のあり方】に関すること(応急処置)

教員になる可能性がある学生や社会人に積極的に働きかけ、採用試験を受けるよう背中を押す必要があります。具体的には、教員免許を保有または取得見込みの学生に対し、教員採用試験の実施時期を前倒ししたり、教員になった場合に奨学金(日本学生支援機構)が返還免除となる仕組みの復活などが想定されます。また、教員免許を持つ社会人に対し、中学校免許があれば小学校での勤務を可能としたり、講師登録や採用前研修などを担う全国的な講師人材バンクを整備したりすることも有効かもしれません。

② 体質改善 【働き続けられる環境づくり】【働き方改革】に関すること

教育現場で激務が常態化していては、新たな人材が飛び込んできてくれることを期待することはできません。教育現場への就職を促し、そして離職を防ぐためには、教員が安心して働き続けられる環境作りが必要です。

施策としては、教員以外の専門職・支援員の増員や、育児や介護をしながら働く時短勤務・フレックス勤務の制度整備などが必要でしょう。保護者等とのトラブルや訴訟・紛争リスクを軽減するための相談制度や、使い勝手のよいICT環境の整備など、細かな改善の余地はたくさんあります。

③ 根本治療【教員定数】や【国庫負担(予算)】に関すること

安定した学校運営を確立させるには正規採用教員を増やす必要があり、そのためには結局のところ、十分な予算配分が必要です。現在、少子化がさらに進むという前提のもと、都道府県では教員の正規採用を抑えて非正規雇用を拡充させる傾向があります。都道府県に正規採用教員を増やすよう促すには、国が予算面で支えることが避けられません。

具体的には、教員の人件費について、国の負担割合を現在の3分の1(都道府県は3分の2)から2分の1に戻す必要があります。安定した財源のもとで少人数学級化を推進し、正規教員の人員を増やしながら、非正規教員の人数に上限を設定するなど、抜本的な施策が今こそ必要です。

※「#教員不足をなくそう!緊急アクション」の詳細については、School Voice Projectの特集ページもご参照ください。

全国の各教委や文科省の努力も

 もちろん、全国の教育委員会や文科省も、教員不足の現状にただ手をこまねいているわけではありません。文科省によると、例えば神戸市では35人学級による教員定数の増加や、特別支援学級数の増減等の予測を反映させた5か年の採用計画を作成し、長期的視点から教員の採用活動を進めています。また、福岡市では協定を結んだ大学の現役学生について、大学からの推薦に基づく特別選考を導入していますし、文科省による人材バンク「学校・子供応援サポーター人材バンク」を代替教員の採用に活用している自治体も34自治体に上っています。

さらに2022年11月、文科省は「年度途中での欠員補充が難しい」という教育現場からの声に応え、23年度から一定の条件の下、年度当初から代替教員を配置できるように運用を改めることを決め、全国の教育委員会に通知しました。

引用「『教師不足』に関する実態調査」(文部科学省,2022年12月30日参照)より
引用「産休・育休代替教員を事前配置しやすく 文科省、加配活用で」(教育新聞,2022年11月2日公開,2022年12月30日参照)より

まとめ

全国における教員不足問題は深刻化しています。文部科学省が2022年1月に公表した実態調査によって、公立小学校・中学校・高校・特別支援学校で合わせて2065人(2021年5月現在)の教員が不足していることが分かりました。

その原因は様々ですが、

  1. 第2次ベビーブーム世代の教員が大量に定年退職し、教員の若返りが進んだ結果として産休・育休取得者が増えたこと
  2. 特別支援教育を受ける子どもが増え、特別支援学校・学級への手厚い人員配置が必要になったこと
  3. 病気休職者が増えたこと
  4. 2021年から公立小学校の全学年で35人学級が段階的に導入され、その後の5年間で1万3500人以上の教員が必要になったこと

などが考えられています。

そして文科省は、今の時代にふさわしい教育体制として「個に応じた指導」を目指していますから、今さら時計の針を逆に戻すことは適切ではありません。教育現場で児童・生徒の個性に合ったきめ細かな指導をするためには、35人学級を大人数学級に戻すことはできませんし、特別支援教育をおそろかにすることもできません。ましてや産休・育休取得者の抑制は、教員が安心して働けない環境に直結してしまいます。ですから、教員不足問題を改善するためには、まず現状をしっかりと把握したうえで、抜本的な対策に至る道筋を見つけなければなりません。

School Voice Project では、「#教員不足をなくそう!緊急アクション」として政策提言書を取りまとめており、例えば学生が教員採用試験を受けやすくしたり、激務が続く教育現場の労働環境を改善したり、正規採用教員を増やすべく国が予算配分を改善したり、といった施策の導入を全国に訴えています。

もちろん、一部で明るい兆しもあります。

文科省は2022年11月、文科省は「年度途中での欠員補充が難しい」という教育現場からの声に応え、23年度から一定の条件の下、年度当初から代替教員を配置できるように運用を改めることを決め、全国の教育委員会に通知しました。また、全国の教育委員会では、正規教員の中長期的な採用計画を立てる動きが広がっています。

とはいえ、もちろん抜本的解決にはまだまだ至りません。安定した教育環境のもとで、全国の子どもたちが安心して学べる未来を築くために、School Voice Projectのアンケートや広報、PR活動へのご協力をお願いいたします。

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多様な性のあり方が少しずつ社会的に認知される中で、学校のあり方に対しても問い直しが起こっています。この数年は特に、LGBTQ+当事者をはじめとする児童生徒が、学校の制服や校則、学校生活上の対応等について、変更や改善を求める声を上げるケースも増えてきています。多様な性のあり方を踏まえた学校運営について、全国の学校に勤める教職員に聞きました。

※LGBTQ+:「性的少数者」の総称の一つ。「性的少数者(セクシュアルマイノリティ)」を代表するレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニングの5つの頭文字を取った言葉に、「+(プラスアルファ)」を付けた通称。クエスチョニングとは、自身の性自認や性的指向が定まっていない、もしくは意図的に定めていないセクシュアリティを指す。

※自由記述欄に寄せられた回答を掲載した部分では、一部つらさを感じる方がいるかもしれない内容が含まれていますが、あえてそのまま掲載しています(全回答を見ることができるダウンロード資料も同様です)。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2023年1月19日(木)〜2023年2月20日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :104件

アンケート結果

設問1 多様な性のあり方を踏まえた取り組みは進めるべき?

Q1. 多様な性のあり方を踏まえた学校づくりの取り組み(現行のルールや仕組み等の改革や改善)を進めるべきだと思いますか?

全体の約9割の人が、多様な性のあり方を踏まえた学校づくりの仕組みを「積極的に進めるべき」と回答しました。特に、若い世代ほど「積極的に進めるべき」と回答した人の割合が高い傾向が見られました。

設問2 多様な性のあり方を踏まえた学校運営、どんな取り組みが必要?

Q2. 多様な性のあり方を踏まえた学校運営として、あなたは勤務校において、どのような取り組みが必要だと思いますか?(複数選択可)

全体的には、「教職員向けの研修や啓発(76%)」「制服のジェンダーレス化・選択制(75%)」「着替えや宿泊行事の際などの配慮/工夫(75%)」が特に必要だと思っている人が多いことがわかりました。

校種別で見ると「保護者、地域への啓発」は小学校77%、中学校57%、高等学校36%と、児童生徒の年代が上がるにつれて必要だと思う人の割合が減少。「いじめの予防や、早期対応ができる体制づくり」についても同様に、小学校61%、中学校54%、高等学校45%と、児童生徒の年代が上がるにつれて必要だと思う人の割合が減少する傾向がありました。

「頭髪や服装に関する校則やルールの見直し」については、小学校で必要と感じている人の割合は45%だったのに対して、中学校は81%、高等学校は73%でした。

設問3 LGBTQ+当事者の児童生徒が抱えやすい困難、知っている?

Q3. 多様な性のあり方について、LGBTQ+当事者の児童生徒が学校生活上抱えやすい困難について、あなた自身はどの程度知っていますか?

「よく知っている」「ある程度知っている」と回答した人は、全体の約8割程度でした。所属する校種や回答者の性別による大きな違いは見られませんでした。

設問4 LGBTQ+当事者の児童生徒が抱えやすい困難、同僚は知っている?

Q4. 多様な性のあり方について、LGBTQ+当事者の児童生徒が学校生活上抱えやすい困難について、職場の同僚はどの程度知っていると思いますか?

自身の同僚に対しては、LGBTQ+当事者の児童生徒の困難について、「よく知っている人が多いと思う」「ある程度知っている人が多いと思う」と回答した人は、約35%にとどまりました。

設問5 多様な性のあり方を前提とした学校づくり、進んでいる?

Q5. あなたの勤務校において、多様な性のあり方を前提とした学校づくりの取り組みは進んでいると思いますか?

勤務校における多様な性のあり方を前提とした学校づくりの取り組みについては、「全くそう思わない」「あまりそう思わない」と回答した人が約75%にのぼりました。

設問6 多様な性のあり方を踏まえた学校運営、どんな難しさがある?

Q6. 多様な性のあり方を踏まえた学校運営について、どのような難しさを感じていますか?(複数選択可)

多様な性のあり方を踏まえた学校運営の実現について難しさを感じている点は、「教職員が多忙で、取り組みを進めるための話し合い等の時間がとれない」が約70%で、その他の選択肢に比べて圧倒的に多い結果となりました。校種別に見ると、特に小学校と中学校でその傾向が強いことがわかりました。

設問7 子どもたちに対して、どのような配慮が必要?

Q7. 学校教育の中で、子どもたちのジェンダーやセクシュアリティに対してどのような配慮が必要だと考えますか? また、多様な性のあり方を踏まえた学校運営について、あなたの意見や考えを自由にお書きください。(任意)

学校運営や教職員の知識理解について

人権教育として押し付けられるよりも、まずはどんな困り事があるのか教員がイメージを持つことかなと思います。ワークショップ的な研修を重ねて、自分たちの学校運営を見つめる機会が必要だと思います。【小学校・教員】

まず教師側が圧倒的に知識不足すぎる。発言、行動の端々に現れている。なので、保護者たちも巻き込んで、徹底的に研修をした方がいい。その上で、校内の問題点をみんなで総点検して洗い出し、優先順位を決めて直す。【中学校/高等学校・教員】

教員の理解がまずは大切だと思う。ハード面をどれだけ整えてもソフト面が変わっていなければ傷つく。きちんと理解した上での支援を考えたいが、教員によって意識も学ぶ意欲もばらつきがある。【特別支援学校・職員】

僕は当事者でゲイの教員です。制服や名簿のこと、委員会の事もそうですが、何より先生方の受け入れ態勢が出来ていません。どうしても「気持ち悪い」「中学生くらいの年齢にはよくある事」「LGBT系だよねw」などといった茶化したりヘイトしたりといった雰囲気があります。教員が普通のこととして接したり発信したりすることが大切だと感じますが、人それぞれの認識をかえるのはやはり難しいです。【中学校・教員】

児童・生徒への関わりや学ぶ機会の提供について

ふだんの授業などにおいて、ジェンダーロール(性別による役割を期待されること)の固定化に繋がらないような言動を心がける。【小学校・教員】

性的同意、デートレイプなど、自分の身を守るための知識をきちんと教えるべき。【中学校・教員】

生徒たちの屈託のない会話の中で、「こいつホモやで」とか「女みたいや」などの言葉を頻繁に聞かれること、それに対して、頭ごなしに「間違っている」と否定するのではなく、さりげなく諭すようにすること。【高等学校・教員】

学活や、道徳、人権尊重教育などで、包括的にジェンダーを学ぶ機会はほぼないです。ジェンダーだけではないですが、成長に合わせた人権意識の啓発は大人、教師側から研修を行い、定期的に授業等で指導する体制を担う必要があるのでは。(生徒指導部や支援教育指導部などが中心的に担える体制つくりも含める)【中学校・教員】

校則やルールの見直しについて

今課題と考えているのは、委員会の男女1人ずつのルール。やるなら、全学年で一斉にやりたいが、自クラスだけというわけにもいかず。【中学校・教員】

男だから、女だから…という垣根(性差)は、身体測定や内科検診など、限られた場面でのみ必要です。どういう場面でどのような課題があるのかといった実態を把握し、対応策を練るべきかと思います。【小学校・教員】

勤務校では、今年度から、女子はスカートだけでなくスラックスも選択出来るようになりました。しかし、全校集会、学年集会などでの整列は必ず男女各一列であったり、委員会活動では、「クラスから男女各1名ずつ選出する」であったり、必ずしも性別で区切る必要の無いものも未だに男女で区分け来ることが多くあると感じます。【中学校・教員】

まず、不要に男女に分けることを積極的にやめるべきである。そして、ジェンダー問題としてだけでなく、そもそも子ども1人1人が違うという認識のもとでの学校運営が必要である。普段身につける制服は、さまざまな生徒に対応できる形が良い。しかし、伝統だから、という理由でなかなか変わらない学校もある。管理職が多様な性に対する理解を示さないと、なかなか対応は進まない。【高等学校・教員】

本当に制服を廃止するべきだと思います。毎日の服選びが困難だとか、家庭の経済的にたくさんの衣類がないご家庭のことも考えると、せめて標準服のような位置付けのものがあればいいかなと思います。制服廃止が進まない大きな理由は、制服じゃないと学生らしくないという大人の都合のような気がします。【中学校・教員】

物理的な環境設定について

着替えやトイレなどについて、「だれでもトイレ」などの設備面を強化すること。【中学校・教員】

設備面では、校舎内の設備がとても古い構造なので、更衣室がなく、トイレも多目的トイレは、体育館に1ヶ所だけという形であり、対応できるとは言えない施設であります。行政側が設備改修に早急に対応する事も大事だと考える。【中学校・教員】

トイレの問題も大きい。しかし、多様性の対応するトイレが必要だと感じても、それが実際に学校につくれるのかと言えば、今のままでは永遠につくれない。予算や物理的な問題もあるが、生物学的男女が共同で使うことに対する不安感が社会でもあるように、きっと学校でもその不安は生じるというような問題もある。【小学校・教員】

当事者への合理的配慮について

修学旅行などの宿泊行事でFTMの生徒が、男子生徒と同じ部屋で宿泊することを希望した際、同室の生徒および保護者に了承を得ないといけませんでした。これはカミングアウトを強いられているのでは?と思います。【高等学校・教員】

私も以前、「体の性は男だが、恋愛対象はどちらも」というバイセクシャルの生徒を担任したことがある。周囲の生徒も理解があり、そのことは受け入れられていた。教員が啓発することで、思った以上に子どもは受け入れられる。我々の姿勢が問われていると感じる。【中学校・教員】

当事者の生徒が、他の理由もあるとは思うのだが男女を意識させられる体育の授業に参加できていない。体力や技能的な面で男女別に行う必要もあるとは思うが、その子への対応がなされていないのが気になる。【中学校・教員】

小学校段階では、なかなか児童から相談が上がってこない実態があります。保護者や児童への啓発や相談体制を整えることから始めたいと思いますが、まだまだ職場内に必要感が生まれていない現状です。【小学校・教員】

啓発について

啓発活動が必ずしも良いとは感じない。自然な形での配慮は必要だと思うが、啓発活動が極端な意識を生むことが考えられ、それが関わりにくさにならないとも言えないと感じる。【中学校・SC】

学校図書館や教室など校内で多様な性のあり方に触れられる機会(本やポスターなど)を増やすこと。【中学校・教員】

まとめ

多様な性のあり方を踏まえた学校づくりの仕組みは、積極的に進めるべきだと考えている人は約9割にのぼりました。一方で、アンケートの回答全体からは、実際に取り組みを進めていくことへの困難さがあることが伺えました。

取り組みを進める際の弊害としては、「教職員の知識や理解の不足」が多く上がっていました。ただ、「教職員が多忙で、取り組みを進めるための話し合い等の時間がとれない」と感じている人は約7割にのぼり、「時間のなさ」も教職員の知識や理解の不足に繋がる要因の一つではないかと推測できます。

LGBTQ+当事者への児童生徒が抱えやすい困難について、回答者自身が「知っている」と回答した人の割合は約8割であったのに対して、「職場の同僚は知らない人が多いのではないか」と感じている人は7割弱いることがわかりました。

多様な性のあり方を踏まえた学校運営については、教職員の理解の重要性や校則やルールの見直し、LGBTQ+当事者の児童生徒への合理的配慮の難しさを訴える声も寄せられました。このアンケートに回答してくださった教職員の方の間でも、異なる意見、対立する意見が見られ、学校内での共通理解・共通認識がまだまだ形成途上であることが読み取れます。

すべての児童生徒の存在・声が無視されず、安心安全に過ごすことができる学校づくりを進めるために、School Voice Projectでは引き続き現場の声を集めて実態を掴み、改善のための方法を教職員の皆さんとともに模索していきたいです。


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