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さいたま市、岐阜市の教育長に聞いた!採用の工夫、働き方改革…教員不足をなくすために各自治体でできることは?

  • メガホン編集部

文部科学省が2021年に実施した教員不足の全国調査によると、2558人の教員が不足している実態が明らかになりました。NHKの調査でも、2022年度は2800人不足という一層深刻な数字が公表されています。

「#教員不足をなくそう!~今できること、すべきこととは?~現状を共有し、解決の道を探る 公開オンラインシンポジウム」が2022年8月17日、YouTubeライブ配信されました。告知期間が短かったにもかかわらず、100名以上がリアルタイムで視聴し、多くのコメントが寄せられました。

シンポジウムでは、細田眞由美・さいたま市教育長、水川和彦・岐阜市教育長をゲストに、#教員不足をなくそう緊急アクションの妹尾昌彦さん、末冨芳さんが教員不足の現状や解消策の工夫などについて語り合いました。全体司会はSchool Voice Projectの武田緑が務めました。
(本記事は、イベント内容をダイジェストでまとめたものです。イベントの様子はアーカイブ動画でも視聴いただけます。)

「#教員不足をなくそう緊急アクション」とは?
教員不足の厳しい状況を踏まえ、本サイトを運営するNPO法人School Voice Project と末冨芳さん、妹尾昌俊さんが立ち上げたキャンペーン。5月には教員と保護者の緊急アンケートを実施し、それをもとに緊急提言をまとめて記者会見した。国の「骨太の方針」にも教員不足の解消という言葉が入っており、一定の成果が出ている。

登壇者の経歴

細田眞由美さん(さいたま市教育長)
埼玉県及びさいたま市教委、高等学校長などを経て、2017年から現職。文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会委員、経済産業省産業構造審議会分科会委員など公職多数。元英語教師でもあり、最近も英語キャンプに参加。

水川和彦さん(岐阜市教育長)
岐阜県内の小中学校教諭のほか教育委員会、教育事務所にて勤務。義務教育学校・白川郷学園の初代校長。岐阜聖徳学園大学教授を経て、2021年から現職。休日は朝の自転車を楽しむ。

末冨芳さん(日本大学文理学部教授、#教員不足をなくそう緊急アクション発起人)
専門は教育行政学、教育財政学。内閣府子どもの貧困対策に関する有識者会議構成員、文部科学省中央教育審議会委員など歴任。著書に「教育費の政治経済学」(勁草書房)など。

妹尾昌俊さん(学校業務改善アドバイザー、#教員不足をなくそう緊急アクション発起人)
中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁などで部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議委員も務めた。著書に「教師崩壊」(PHP新書)など。



教員不足の実態は? さいたま市と岐阜市で異なる現実

今日は3部構成で進めます。「教員不足の実態についてどう考えるか」「これまでの各自治体の取り組みや工夫」「今後どうするか」です。早速、パート1の「教員不足の実態」から始めましょう。昨年初めて、文科省が調査したのですが、各自治体が一生懸命に教員を集めても、なお不足していたという実態がありました。我々の調査でも、文科省の調査よりもっと大変であるという実態が見えています。さいたま市の状況からお願いします。

文科省の教師不足に関する実態調査が発表されましたが、まず昨年度5月1日現在の教師不足の状況です。さいたま市は小学校ゼロ、中学校1でした。各自治体とも必死で集めますが、ゼロという自治体は稀有です。他自治体のデータをじっくり見ますと、「うわ、こんなに大変なのか」と愕然としました。しかし、本市も今年については、悪くなっていて、小学校2、中学校3の欠員です。年度後半になると、どんどん穴が空いてくるんです。8月1日現在は、小学校19、中学校7になっています。教員が若返っていて、産休、育休が増えていることによる欠員ですが「ハッピーな話」にすぐ手当てができない現状です。さいたま市は相当充足率が高く、全国的にもトップレベルですが、それでもこんな現状です。

都市部では20代、30代の教員構成が多くなっているので、産休育休代替の需要が強いことはよくわかります。なかなか後任が見つからないのが苦しいですね。

さいたま市の現状を羨ましいと思いながら聞いていました。私は10年くらい前に、県教委の教職員課にいて、大量退職の時代を予測しながら人事異動や採用をしていたのですが、「その通りの時代が来た」と思っています。大量退職のピークは岐阜では過ぎていますが、大量退職イコール大量採用なので、学校の常勤講師のストックがなくなっていくということです。常勤講師が正式に採用されていくためです。さらに、産育休がでたり、部分休をとる人が増えると、厳しくなるということです。退職者が再任用として働きたがらない状況もあります。また、大学を卒業して初任1年目、2年目の初任者が大学生に「先生って面白いよ」と言いがちにならない。さらに、先生が子どもたちの憧れになっているか気になっています。
岐阜市は小学校46、中学校23、特別支援1で、児童生徒数は約3万人です。教職員定数は1800人くらいいるんです。420人の講師群がいます。これだけを一人残らず配置するのは大変です。当初欠員だけで110人ほどいます。どんどん採用されて、ストックがないところをどうやって講師で埋めるのか、大変です。「教員免許を持っていれば、見境なく探したい」というのが人事担当の本音なんですが、なかなかうまくいきません。
では、どうやって充足させたかというと、中学校の加配教員をはがして、小学校に配置するようなことを強引にやりました。それでも加配でつくべき教員が20人くらい不足しました。教務主任しかフリーの教師がいないような状況にあります。
また、岐阜市は国に先がけて少人数学級をやっているんですが、担任が必要になるので教員が不足する。さらに、すべての小中学校にいじめ対策監を市費で70人採用するので、一層足りなくなっています。現場のための施策を打つほど、ますます不足が深刻になっています。

教員不足の数だけが一人歩きしても良くないと思います。何を基準に不足というのか定義も難しい問題がありますね。

採用の工夫は? さいたま市、一次試験に「SPIのみ」導入

リアルな実態ありがとうございます。さいたま市は政令指定都市なので、独自に採用もできる強みがあると思います。教員免許を持っている社会人の若い層を増やすために、工夫があれば教えてください。

ご指摘の通り、さいたま市は政令市なので採用任命していますが、必死です。やれることは全てやろうという気持ちでやっています。地理的にもアクセスが良くて、とても恵まれていて、採用試験も今年(令和5年度)の小学校は150人採用の見込みで、競争率が約3倍です。中学校は6・7倍。特別支援学級は2倍でした。他の自治体からは羨ましいと言われるかもしれません。採用の形態も工夫しています。今年の目玉は、一次試験はSPIのみの試験を導入しました。各大学でのリクルート活動も、春秋と大々的な説明会を全国行脚でやっています。教育長自ら、「教員ってこんなに素晴らしい仕事で、さいたま市はこんな面白いことをしている」というトップセールスをしています。そのため、なんとか志願者数が増えています。

ギリギリのやりくりの中で、特別支援学級や少人数加配が必要な厳しい状況の学級への影響はいかがでしょう。どのように補っていけば良いでしょうか。

特別支援教育に向けては、スクールアシスタントを採用しています。自治体持ち出しで、670人を採用して、困りごとを抱えている子どもたちにさっとつけられるようにしています。

岐阜市は中核市ですが、先生たち「やらされ感」を抱かせることなく、教員として自分の良さが活かせるように市独自で特別支援の教員養成をしています。特別支援の担任の負担感をなくしていかなければならないと思います。

ここで、チャットの意見を紹介します。臨時的任用教員(以下、臨任=欠員補充などのため講師として臨時に任用される教員)に頼るシステム自体に課題があるのではないか。育産休や途中退職などが出ると思うが、正規の採用人数に加算する手立てはできないのか。また、採用が4年生夏の一発勝負になっているが、数回のチャンスがあれば良いのではないか。SPIの導入によって実力のある臨任の人が不利になるのではないか。こんな意見が届きました。

採用時にもっと多く確保できなかったのかという素朴な疑問はありますね。

おっしゃるとおりです。ですから、さいたま市は、臨任もチャレンジできる、チャレンジングな採用枠を作っています。プレゼンテーション特別枠というのがあり、得意なことをプレゼンしてもらう一次試験をやりました。面白い人材が集まっています。また、採用計画は15年先くらいまで見ています。財政面の理解を得ることも大事です。

人事担当者レベルで言うと、一人生徒が増えることによって学級が増える場合があります。正直なところ、フリーの立場でいられる先生が一人いれば、学校はとても楽になるんです。例えば、今ならコロナで陽性になった先生がオンラインで授業するのは難しいですね。しかし、現実は多めに採用しておくのは難しいです。過去に、岐阜県全体で38人しか小学校の先生を採用しなかったことがあり、倍率は19・3倍(平成12年度)でした。今は小学校だけで312人の採用で、倍率は1・91倍です。動向が読みきれないのですが、こうなるのは国の政策が変わるためなんです。同じ県内でも充足しているところと足りないところがあります。

自治体によって課題が大きく違いますね。さいたま市は、0歳から14歳までの転入超過が7年連続で日本一の自治体なので、教員の大量退職の影響のみならず児童生徒増に伴っての教員採用増も続いています。質的担保をどうするのかが最大の懸案事項です。それぞれ全国の自治体ごとに特有の課題がある一方、教育に対して熱い志を持ち続ける人材がじわじわ減っていることは共通の課題だと思います。私自身が教員を志した時代とは違うと実感します。どうやって教育という仕事の魅力を伝えるかが全国共通の課題だと思います。

課題がさまざまでありながら、共通の部分も見ていく必要があると思います。

ここまでは採用の話が中心になっていますが、私たちの緊急アクションで出している提言においても必要な手立てを、「応急処置」として採用方法の柔軟化、「体質改善」として働き方改革、「根本治療」として国庫負担の見直しの3つに分けて整理しています。採用以外の点についてもお話いただけますか?

働き方改革は? 岐阜市、夏休み完全閉庁やいじめ対策監配置

働き方改革を含めた教職の魅力アップの動きはどんなものがありますか。

岐阜市は、夏休みの一部期間は市教委からの連絡も入れず、完全閉庁です。緊急時以外は連絡しません。学期中もDX推進の面からは、携帯で児童生徒のお休みの連絡ができます。ですので、朝は電話が鳴りません。児童生徒がタブレット一台持っていますので、心の健康観察もできています。話したい先生がいれば、その先生につながります。いじめに関する悩みを担任が一人で抱えなくて良いように、いじめ対策監を置いています。過去2年で、民間企業を入れて各学校の業務改善提案をしています。

個々の先生の能力や資質におんぶに抱っこするような仕組みを変えていくことは、負担軽減につながりそうですね。

「チーム学校」というのは、みんなで力を合わせるというのではなくて、得意なことを得意な人が一歩先にやることによって、苦手な人の負担を軽減できます。ベテランが作ったコンパスカリキュラムを若い先生が利用して、部分的に変更していくということで良いのではないでしょうか。

働き方改革については、やれることはなんでもチャレンジしてきました。量的な改革は限界かと思っており、今後は質的な働き方改革をしていこうと思っています。例えば、チームビルドです。得意なことで助け合っていくことは大事で、教員免許を持っていない人にも門戸を開いていく必要があると思います。国は旗を振っているけれど、実態が伴っていないんです。現在、社会人特別免許状(以下、特別免許=一定の知識経験をもつ社会人に教員免許を付与する制度)を出しているのは、ほとんどがネイティブ教員なんですね。学校の中でプロフェッショナルが一緒に仕事できるようになると、「得意なことをこの人に」という学校文化ができると思うので研究しています。

さいたま市「プログラミング人材ほしい」、岐阜市「地域の力を借りれば深い学びに」

ーー子どもを真ん中にして、よりよいコミュニケーションができるようになるにはどうすればよいのでしょう。

プログラミング教育の本物ができる人に来てほしいです。中学校の技術教員でプログラミングを教えられる人は少ないです。高校の情報の免許を持っている教員がいない学校もたくさんあると聞いています。

STEM教員です。理科の免許を持っている人を積極的に小学校の理科に入れていたんですが、すごく良い結果が出ました。技術系や理科は通常の教員がものすごく準備が大変で専門的な知識が必要なところは特別免許を出すことで負担軽減できると思います。岐阜市は全校でコミュニティスクールをやっていますが、教員は地域の人が関わると面倒くさいと思ってしまいますが、地域の人材を活かせれば「10の力が6で済む」ことを知らない教員が多いんです。「どんな力をつけたい」ということをきちっと伝えれば、「では私はこれができます」という話になります。負担が少なくても深い学びができることを、まだまだ先生が知らないんですね。一人教育型、学校完結型の教育はもう終わっていると思います。また、通常は先輩が後輩に教えるんですが、タブレット活用は逆転してるんです。こんな場面では、若い先生とベテランの先生のコラボで大きな効果が出るとよくわかりました。特別免許もその延長線上にあると思います。

「本物ができる人」と繋がることが大事というのが二つの市に共通していました。

得るところが大きかったです。教員不足をどうするかは、あの手この手だろうと思っていましたが、具体的な話がよく見えました。岐阜市独自の特別支援教育の免許状発行もどこでもできると勇気が湧きました。また、質的な働き方改革は、岐阜市の「ここが頑張りすぎじゃない」と前向きに働き方を良くしていこうと、「やってよかった」ことを増やしていくことが大事だと思います。質的な方を見ながらも、睡眠時間の確保は人としての基本的なウェルビーングなので、そこは数値目標にしていただきたいという思いです。そして、休みが取れる職場になりつつあるということも発信していけると、全世代から学校に来てもらえるようになると思います。

最後に、社会全体で考えてほしいこと

国や社会全体で考えていくべきことはいかがでしょうか。

一般企業の採用時期との比較で、「採用試験の時期を早めたい。早まったらいいな」と思っています。また本市では、スクールアシスタントを昨年度実績で670人雇用して、学校で大活躍してもらっていますが、ほとんど教員免許を持っています。ただ、フルタイム勤務はなかなか難しい。2人を定数1とカウントできるようなシステムが取れると、学校で力を発揮したいという人に力を発揮していただくことも可能だと思います。教員不足に対する妙案の一つになると思います。国と相談しながらできたらいいなと思っています。

やがて定年延長がきます。30年かけて一人の教員を校長にしていくのに、校長にはその後、教諭として働いてもらっています。校長をやった人に「担任で頑張ってください」ではなく、キャリアに応じた活かし方があると思います。若い先生のアシスタント、学校経営のアシスタントなど。強みに応じた活かし方があると思います。低学年は得意だけど高学年は苦手な先生もいるんです。それぞれの先生が強みを活かせるようにすることが一つです。また、初任者の研修が大変です。教員は4月1日から20年経験した人と責任という面では、変わらないんです。小学校の初任者は担任を持たずに育成するような仕組みも必要ではないでしょうか。最後に、子どもに自分の生き方を語らない先生が多いと思います。教員は親以外の最も身近な大人のモデルなんですが、時事問題についても語ったりできる環境になってほしい。校長次第で職員室の雰囲気は変わるので、校長にも期待しています。

採用も学校運営も、今までうまくいっていた仕組みでは回らなくなっているところもあります。働き方改革も、単に時間をカットすることが目的になると変な方向に行ってしまうので、先生にとって大切な時間を確保できるようになってほしいと思います。

とても濃い内容のシンポジウムで、ありがとうございました。#教員不足をなくそう緊急アクションは、「この機関が悪いんだ」と誰かを責めてどうにかしようというのではなく、それぞれの立場で頑張ろうとしている人と好事例をシェアして、みんなでこの問題を乗り越えようという方向性で動いています。今日は教育長お二人のどうにかしようという熱量を感じていただけたと思います。私たちも文科省とも相談しながら進めていきたいと思うので、それぞれの地元でも「こんな事例がある」というように、広めていただけたら心強いです。細田教育長、水川教育長、ありがとうございました!

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NPO法人School Voice Project のメンバーが、プロやアマチュアのライターの方の力を借りながら、学校をもっとよくするためのさまざまな情報をお届けしていきます。 目指しているのは、「教職員が共感でき、元気になれるメディア」「学校の外の人が学校を応援したくなるメディア」です。

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