学校をもっとよくするWebメディア

メガホン – School Voice Project

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学校では、授業のために誰かが作った様々なものを利用することがよくあります。児童生徒の興味をひくためのイラストをコピーしたり、時事問題をとりあげるときのニュースをみんなで見たりするとき、「著作権を考えると使用していいのだろうか?」と思った方も多いのではないでしょうか。そして、「教育目的では例外的にOKだったはず」となんとなく覚えているのではないでしょうか。

実は教育目的だとしても、どのような利用も認められているわけではありません。この記事では、学校での正しい著作物の扱い方のポイントをお伝えします。

まず著作権の基本を理解しよう!

そもそも著作権とはどのようなものでしょうか。著作権法を参考に、一般的な著作権について理解しましょう。

著作権とは

著作者の著作物(文章、イラストや絵画、音楽など)に対する権利のことです。販売されているか、アマチュアが作っているかなどに関わらず、全ての創作物には著作権があります。

具体的には?

著作権には具体的には、どのような権利があるのでしょうか。

  • 作者の名前を表示する権利(氏名表示権)
    著作者の名前を公表するかしないか、名前を実名やペンネームにするのかを決める権利のことです。
  • 勝手に改変されない権利(同一性保持権)
    タイトルや内容を勝手に改変されない権利のことです。
  • コピーする権利(複製権)
    著作物を複写、録音、録画などでコピーする権利のことです。
  • 二次創作する権利(二次的著作物の利用権)
    自分の著作物を原作とする二次的著作物を利用することについて、二次的著作物の著作権者が持つものと同じ権利をもてる権利のことです。

これらは、著作者の没後70年まで有効とされています。

著作権料って?

他人の著作物を使用する場合には、著作者、または、著作者から委託を受けた、著作権管理事業者(日本音楽著作権協会 JASRACが有名ですね)へ、著作権料を支払います。その金額や割合は様々です。これから解説する、「学校における例外」にあてはまらない使用をどうしても行いたい場合は、著作権料を調べて、本人や管理事業者へ支払い等手続きを行う必要があります。

一定の「例外的」な場合で、著作権を制限し、許諾なく著作物を利用することができます(第30条〜第47条の8)。例えば、料金を取らずに上演・演奏するなどです。

参考「昭和四十五年法律第四十八号著作権法(e-gov)」(e-GOV 法令検索,2022年10月18日参照)より
参考「著作者にはどんな権利がある?」(公益社団法人著作権情報センター CRIC,2022年10月18日参照)より

教育機関で著作物を使える場合の5つの判断基準とは?

では、学校ではどのような場合は、著作物を利用してもよいのでしょうか?

学校における著作物の使用は、原則、以下の5つの基準のすべてを満たす必要があります。
OK/NGの判断に迷ったら、この基準に当てはまるかを順に確認してみてください。文化庁の資料を元に基準を確認していきましょう。

対象施設が学校その他教育機関であること

著作物を利用する場所が、教育機関である場合です。学校とは、小・中・高・大学・高等専門学校、専修学校などのことです。その他教育機関とは、公民館などの社会教育施設、教員研修施設や職業訓練施設などのことです。
一方、営利目的である学習塾などは該当しません。

対象主体が教員、児童生徒学生であること

著作物を利用する者が、教員、または児童生徒学生である場合です。教育をする人、される人の間で利用が認められるということです。

利用が「授業の過程」であること

授業の中であれば、著作物を扱うことが認められています。例えば、社会の授業の中でTVニュースを扱う、音楽の授業で最近の楽曲を歌うなどです。

使い方が「複製」「公衆送信であること」

複製、または公衆送信をすることが認められています。
公衆送信とは、不特定、または特定多数への送信(特定少数以外)のことです。具体的には、EメールやFAXでの送信、クラウドへアップロードして共有することです。

権利者の利益を害さないこと

わかりやすく言いかえると、売れるはずだったものを売れなくしてはいけないということです。問題集やソフトウェアなど、一般で販売されているものを扱う時、特に注意が必要です。

参考「学校における教育活動と著作権」(文化庁長官官房著作権課のホームページ,2022年10月18日参照)より

著作権の「学校における例外」5つのパターン

学校で著作物を使うためには、上記の5つの判断基準がありました。しかし、基準に照らし合わせても判断に迷う場面があります。具体的にしていいこと、してはいけないことがわかる助けになる「学校における例外」の5つのパターンを紹介します。

教材として使う

  • 授業で使うために小説をコピーして配布したり、生徒が調べ学習の過程で新聞などをコピーしてクラスで配布する場合はOK
  • 販売されているドリルや教材をコピーして配布する場合や、有料のソフトウェアを複製してパソコン等にインストールする場合は権利者の利益を侵害するのでNG
  • 録画した学習資料を、反転授業の教材として送信するのは、同時双方向の授業の外での扱いとなるためNG

参考「学校と著作権の関係とは? 著作物を使用するときの注意点」(日本教育新聞電子版 NIKKYOWEB,2020年5月3日公開,2022年10月18日参照)より
参考「授業での著作権法遵守|指導される方へ」(みんなのための著作権教室 KIDS CRIC,2022年10月18日参照)より

オンラインなどの中継授業で使う

  • 遠隔の教室とインターネット通話で交流し、同時双方向の授業をする場合、著作物の図表を見せ合ったり、朗読や演奏をしたりするのはOK
  • 遠隔授業で、送信側がスタジオから教員だけで解説をし、受信側が授業を受ける場合、「主会場」と「副会場」がある授業形態ではないためNG

参考「学校における教育活動と著作権」(文化庁長官官房著作権課のホームページ,2022年10月18日参照)より

試験問題として使う

  • 小説や新聞などを利用して試験問題として出題する場合はOK
  • 小説や新聞などを利用して試験問題を作成した後、問題をホームページに掲載する場合は、試験の目的以上の範囲で複製や送信をしているためNG

参考「学校における教育活動と著作権」(文化庁長官官房著作権課のホームページ,2022年10月18日参照)より

資料・レポートへの引用

  • 教員が研究発表をする際、指導成果を解説する際に、児童生徒の作文の一節を引用する場合はOK
  • 生徒が郷土史の発表のために、地域の作家の作品の写真を引用する場合はOK
  • 生徒が感想文の結論に、引用であることを書かずに雑誌に載っていた評論の中身を「そのまま」使う場合はNG。引用であること、著作物や著作者名を明記すればOK

参考「学校における教育活動と著作権」(文化庁長官官房著作権課のホームページ,2022年10月18日参照)より

部活動や学校行事での作品上演やキャラクター使用

  • 運動会等で、看板やチラシにキャラクターを描く場合はOK
  • 学校行事で音楽を利用する際、「営利目的ではない」「入場料を受け取らない」「演奏者などの出演者に報酬の支払いがない」場合はOK。ゲストに報酬が発生するなど、上記を1つでも満たさない場合はNG

参考「学校と著作権の関係とは? 著作物を使用するときの注意点」(日本教育新聞電子版 NIKKYOWEB,2020年5月3日公開,2022年10月18日参照)より

うっかりがトラブルに? 見落としがちな著作権

ここまでに、判断の基準と「学校における例外」を確認してきました。

それらと照らし合わせ、似たような内容・状況だからと著作物を利用できると思ったら、実は著作権にひっかかってしまうような場合もあります。起こりえる具体的事例を以下に紹介しますので、「うっかり」が起こらないように注意していきましょう。

職員会議でのコピー資料配布

教材としての利用には著作権利用の例外が適用されますが、職員会議など、教員が利用する場合は適用されません。職員会議で雑誌のコピーを人数分配布するなどの行為は著作権者の許可が必要です。

教材以外へ著作物を使用する場合のポイント

保護者や地域への配布資料は、「学校における例外」にはあてはまりません。インターネット上のイラストや写真を使うことが多いと思いますが、以下の点に注意が必要です。

保護者、地域への配布資料のポイント
・著作権フリーのものを使う(※ただし、サイトの利用規約を守ること。)
・一般の人のブログなどにある風景写真などを使いたい場合もあるかもしれないが、プロアマ問わず、撮影者に著作権があるので、許可を得ない利用はNG

児童生徒が著作権侵害?

ここまで、主に教員が著作物を扱う場合を想定していましたが、児童生徒が著作権侵害を起こすケースもあります。例えば以下のようなパターンです。

児童生徒が著作権侵害してしまいがちなパターン
・学校外でも利用するSNSで、好きなアニメキャラクターや芸能人の写真をアイコンに使用
・有名イラストをプリントしたクラスTシャツを学校外で着用
・漫画や音楽をコピーして友達とシェア
・卒業記念DVDのBGMを流行の歌にする

うっかり児童生徒が著作権を侵害してしまわないよう、発達段階や状況にあわせた著作権に関する指導をすることが大切です。教科教育の中でも著作権や知的財産に関する記述がありますし、以下のようなインターネット教材もあります。

参考「学校教育と著作権」(公益社団法人著作権情報センター CRIC,2022年10月18日参照)より

児童生徒の作品にも著作権がある

児童生徒の作品にも著作権は発生します。

例えば、以下のようなパターンでは、本人の同意が必要です。

児童生徒から同意を得る必要があるパターン
・作文や図工作品を校内に展示する
・作品を学校HPに掲載する
・教科書会社から児童生徒の優秀作品の掲載を打診される

とはいえ、例えば、教室の後ろに掲示することを伝えたうえで書道作品に取り組ませた場合では、改めて同意をとる必要はないでしょう。

参考「学校と著作権の関係とは? 著作物を使用するときの注意点」(日本教育新聞電子版 NIKKYOWEB,2020年5月3日公開,2022年10月18日参照)より

参考サイトの紹介

そのほか、これまでに、または今後想定される著作権に関するケースの判断の参考になるサイトを以下に紹介します。

・学校教育と著作権-授業目的公衆送信補償金制度を中心に-(文化庁)
 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seminar/2021/pdf/93183101_01.pdf
・こんな時の著作権(CRIC) http://kids.cric.or.jp/case/index.html
・学校教育と著作権(CRIC) https://www.cric.or.jp/qa/cs01/index.html
・学校における教育活動と著作権(文化庁)
 https://www.bunka.go.jp/chosakuken/hakase/pdf/gakkou_chosakuken.pdf
・学校など教育機関での音楽利用(日本音楽著作権協会 JASRAC)
 https://www.jasrac.or.jp/info/school/index.html
・教育機関における著作権 https://www.ccile.otemon.ac.jp/copyright/educational/

まとめ

著作権は、作った物に対して、名前や中身、他者がどう扱うかを著作者が決められる権利です。個人や団体が作る全ての創作物に著作権があります。

学校は、以下の限りにおいて、著作物の利用が認められています。

① 教育機関で
② 教育をする/される者が
③ 授業の中で
④ 複製または公衆送信をする場合
⑤ 権利者の利益を害さない

しかし、この条件を満たしていても問題となる場合があります。

特にインターネットを利用した、発信、複製、公開などに関して、注意して扱う必要があるでしょう。オンラインで扱う場合、範囲が学校・教室と同様になるような運用が求められます。また、保護者や地域の人が関わる場合にも、教育を超えた範囲で利用してしまわないように注意しましょう。

また、児童生徒も、自身の行動が著作権にふれてしまわないかを判断できるようになることが求められます。ITの発達により複製や配布が簡単にできるようになったため、子ども同士の活動や遊びの中でもトラブルの危険があります。発達段階や、学校で扱う対象とその機会に応じて、著作権についての学習をさせることが望ましいです。

多くの人が政治的教養の必要性を感じているものの、教員にとっては、学校の授業で政治的な内容を扱うことに対して難しさを感じるという声も耳にします。

「社会に関心を持ったり、社会の面白さを感じてほしい」そう話すのは、大阪府立高校で社会科を担当する榎原佳江さん。以前から大阪都構想や選挙、新型コロナウイルスなど、教科書の枠を越えてさまざまな時事ニュースや社会の動きと連動させた授業を行ってきた榎原さんは、どのような思いで授業づくりをしているのでしょうか。生徒たちの変化や、授業を通して感じていることを聞きました。

各政党を調べ、選挙期間に模擬選挙

ーー榎原さんは、普段から社会の動きと連動させた授業をしていますよね。具体的にどのような授業をしているのでしょうか?

最近は、「現代社会」の授業で参院選を扱いました。実際の選挙がある1ヶ月前からテキスト教材を使って選挙のことを学び、その後はグループごとに調べたい政党を1つ決めて、その政党について調べる時間を取りました。調べた政党についてグループごとに発表し、最後は模擬投票です。投票箱は実物で、事前に自治体の選挙管理委員会からお借りしたものを使いました。

ーー生徒たちは、どのように政党のことを調べるのですか?

各政党の候補者が街頭演説をする日時や時間はSNSに上がっていることが多いので、中には自分でそれを確認して、その場所まで行って話を聞きにいく生徒もいました。他にも、アポを取って事務所に訪問したり、質問したいことを書いた紙をFAXで送ったりする生徒も。ホームページにはマニフェストが載っていますが、高校生が読むには難しすぎるんです。候補者や関係者の方と直接やり取りをさせてもらうと、わかりやすく説明してくれることが多いなと思います。

社会とのつながりを感じる体験に

ーー選挙が終わったあとの生徒たちは、どのような様子ですか?

実際にお会いした方が国会で答弁している様子をテレビで見たり、当選して国会議員になったりしたときは、「私が写真を撮った人!」「俺が質問しに行った人!」と反応していますね(笑)以前より、政治家の方を身近に感じるようになったのかもしれません。

生徒たちには、世の中で起こっている出来事が「自分と関係している」と感じられる体験が必要なんだと思います。授業で扱われる内容について、自分とのつながりを感じられないまま学んでいることは多いのかもしれないですね。必死で政治家になろうとしている大人に出会うことで、生徒たち自身の声のあげ方も変わるし、社会の見方も変わる。急激に社会の一員になる感じがします。

ーー選挙の授業を通して、印象的だったエピソードはありますか?

なんとなく持っているイメージや周りからの影響で、「この政党がいい」と思い込んでいる生徒がいました。でも実際にその政党の候補者に会ってみると、邪険に扱われる体験をしたようです。そうすると、やっぱりその政党に対して感じることが変わってくるわけですよね。単純に「嫌な対応をされた」という表面的なことだけではなくて、その対応によって、高校生たちは「誰を見て政治をしているのか」という候補者の価値観を感じ取るんです。教科書だけでは学べないことだと思います。

ーーこの授業を受けて、生徒たちの選挙に対する意識は変わったと感じますか?

実は、そこが課題なんです。授業をしているときは選挙のことを考えたり、投票率の低さを話題にしていたのに、実際に選挙権を得ても投票に行かない生徒の方が多いなと感じます。この前会った卒業生は授業のことはよく覚えてくれていましたが、投票に行ったか聞くと、「行こうとは思ってたんだけど、ちょっとバイトがあって…」みたいに返ってきたり。悲しい気持ちにはなりますが、投票に行かなかった生徒や卒業生を責める気にはならないんです。

やっぱり1人で複数の政党を一つ一つ調べて比較して、選挙に行って投票するのは、すごくハードルが高い。授業で選挙のことを扱って1ヶ月かけて調べ、模擬選挙をしたときとでは全く状況が違うんです。

中には、家に届いた投票所入場券を持って、「先生!これ届いた!」と見せに来てくれた子もいました。そんな前向きな子でさえ、「誰に投票したらいいかわからん」って言うんですよ。でも、わからなかったとしても、その状態と向き合って言いにきてくれたことはめちゃくちゃ嬉しかったです。それくらい悩んで向き合ったんだなと思って。

身近なところから自分たちの生活を考えることが、“主権者教育”

ーー投票先を決めるためには、自分自身が何を大事にしているかをわかってることも大切ですよね。

そうなんですよね。例えるなら、選挙は“お祭りの当日”のような感じです。お祭りの当日を迎えるまでには、準備がありますよね。同じように、日々の学びがあるから実際の選挙に活きるんです。

普段の授業では、話題になっている時事ニュースや裁判、労働、税金などをテーマに扱ったりしています。自分たちが生きている社会で起こっていることに目を向け、「自分はどう思うか?」を考えることが大切だと思っているからです。投票した後も、「自分はこの争点で投票したけど、別の争点で見たら、支持するのは違う政党だったかもしれない」と気づいたりすることがあります。そうやって、いろんな見方を学び、自分自身の価値観や考え方と向き合っていくために、日々の学びがあるんです。

“主権者教育”というと、「選挙に行こう!」「主権者になるためには?」という文言が目立ちますが、それより、もっと自分たちの生活に近いところにある学びだと思っています。例えば、大阪にはいろんなルーツを持つ生徒たちがいます。そうすると、「在日外国人の方には投票権がなくていいのか?」という問いが生まれたりする。自分たちの周りにいるリアルな人や自分たちを取り巻くリアルな社会から、自分たちの生活を考えることが、“主権者教育”なんだと思います。

叩かれることは恐い。でも自粛はしない

ーー政治的なことを授業で扱うのは、リスクも伴うと思います。その点は、どのように考えていますか?

偏らないようにすることは、もちろん意識しています。あまりこちらから情報提供しすぎず、生徒たちが自分で調べたり、考えたりする時間を多く取るようにしています。生徒たちが調べている内容が偏っているなと感じたら、あえて違う内容の資料を持っていったりすることもあります。

でも、どのトピックを授業で扱うかを選択することでさえ、すでに偏ってしまっているんですよね。例えば、「安倍元首相の国葬の是非」について授業で扱っても扱わなくても、どちらを選んでも、「政治的だ」と言われるとそうなってしまうんです。だからと言って、それを恐れて授業で扱わないことはしません。私が自粛してしまうと、生徒たちが自分と社会のつながりを感じたり、自分自身がどう考えるのかを学ぶ機会を奪ってしまうからです。

政治的なことを扱っていると、「明日には叩かれるかもしれない」という気持ちと常に隣り合わせです。もし「この授業は偏向教育だ」と思われてしまったら、これまでやってきたことがゼロになるどころか、むしろマイナスになってしまいます。そう言う意味では、教員人生をかけてやっています。

ーー最後に、どのような思いで授業をつくっているか教えてください。

生徒たちには、自分の生活の中で生まれた疑問や、不満も含めた思いが、社会の中でちゃんと受け止められることを学んでほしいと思っています。そのためには、まずは社会を知ることが第一歩だと思います。私たちが暮らしている社会は、教科書を読むだけでは学べません。実際に人に会ったり会話をすることで、生徒たち自身が考えることを大事にしていきたいです。

私自身は、「生徒に何かを教えてあげよう」とは全然思っていなくて、「一緒に考えへん?」という気持ちでやっています。そのためには、1人の人間としてどう社会と向き合うかは大切にしたいですし、高校生と出会うときにかっこ悪い大人ではいたくないなと思っています。人間性も含めて、授業で勝負したいですね。

ーー榎原さん、ありがとうございました


不登校が認知されるようになり長く経ちました。しかし、今なお不登校の生徒は増えています。さらに、不登校の定義には含まれていませんが、その傾向にある子どもも多くいるとの調査もあります。

これに対して、一概に学校復帰だけを目指すものでない、多様な不登校支援のあり方がされつつあります。今、改めて不登校の現在の課題や実践などについて説明します。

文科省の不登校の定義

不登校とはどのような状態を指すのでしょうか。

文部科学省(文科省)は、不登校を「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」と定義しています。

昭和時代では「学校ぎらい」を理由とした欠席を範囲としていましたが、平成10年以降「不登校」という言葉に置き換えられ、「学校に通いたいけど通えない」子どもたちまでを含めるものとなりました。

参考「不登校の現状に関する認識 – 文科省」(文科省,2009年以前公開,2022年10月31日参照)より
参考「生徒指導資料第1集(改訂版)第3章 不登校」(国立教育政策研究所 生徒指導研究センター,2009年3月公開,2022年10月31日参照)より

不登校の現状

令和3年の文科省の調査では、小・中学校における不登校児童生徒数を24万4,940人と発表しています。不登校の定義が現在と同じになった平成10年は小中学校を合わせて127,692人でした。長らく横ばいの後、ここ8年ほどで増加し今に至ります。

では、実際の学校の中には、どれくらい不登校の子どもがいるのでしょうか。

小学校では8万1498人で、全体の1.3%の児童が不登校にあたります。1学年3クラスの学校では学年に1人以上いる計算となります。中学校では16万3442人で全体の5%です。30人以上のクラスでは1クラスに1人はいる計算となり、学校・教員は必ず考えなければいけない問題であると言えるでしょう。

多くの子どもが直面する不登校について、より詳しく掘り下げていきます。

参考「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(文科省,2022年10月27日公開,2022年11月2日参照)より
参考「不登校傾向にある子どもの実態調査報告書」(日本財団,2018年12月12日公開,2022年10月31日参照)より

「隠れ不登校」「不登校傾向」の児童生徒はどれくらいいる?

定義上当てはまらないけれど同様の苦しさを抱える子どもたちもいます。「隠れ不登校」「不登校傾向」などと言われる子どもたちです。

日本財団の2018年の調査では、「部分/教室外登校(保健室登校や一部の授業のみに参加する生徒など)」「仮面登校(ほぼ毎日、学校に通いたくないと思っている生徒)」に注目しました。教室に入らなかったり、登校していても遅刻や早退が多かったり、内心では「行きたくない」と感じていたりする中学生が推計33万人いるとしています。これは中学生の10人に1人程度が該当する数です。

参考「不登校傾向にある子どもの実態調査報告書」(日本財団,2018年12月12日公開,2022年10月31日参照)より

不登校の理由

なぜこれだけ多くの子どもが不登校、またはその傾向になるのでしょうか。文科省の調査では、要因を学校、家庭、本人のものと分けて、主に要因となったものについて調査しました。小中学校を通し「本人の無気力・不安」が最も多くおよそ半数にのぼりました。

文科省調査は各学校・教育委員会からの情報をもとにしていますが、2018年、日本財団はインターネットで中学生に直接調査をしました。文科省の調査と比較すると、「本人の無気力・不安」と似た質問項目で該当者が多い点で同様の結果が出ている一方、「先生とうまくいかない/頼れない」という先生との関係に関する項目では大きな差が見られたことが指摘されています。学校や教育委員会を経由した文科省調査においては、学校に要因がある不登校については、正確なデータがとれていないと見ることもできます。

要因については様々なケースがあり、また一つのケースでも複合的な要因があることも多いため、唯一の原因を特定することはできません。不登校児童生徒本人も原因を聞かれても分からないという場合もあり、現場では、児童生徒の個別の事例に向き合っていく必要があります。校種別の状況について、より詳しく見ていきましょう。

参考「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(文科省,2022年10月27日公開,2022年11月2日参照)より
参考「不登校の原因・きっかけは? 2つの統計データから解説【2022年3月更新】」(通信制高校ナビ,2022年3月更新,2022年10月31日参照)より

小学校

文科省調査によれば、小学校では、不登校の主な要因を1つあげてもらった場合、約半数を占める本人の無気力・不安についで、親子関係が13.2%、生活リズムの乱れ・あそび・非行が13.1%、ついでいじめ以外の友人関係の問題が6.1%でした。また、学年が上がるごとに不登校の数が増える傾向にあります。

参考「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(文科省,2022年10月27日公開,2022年11月2日参照)より

中学校

中学校では、小学校同様約半数を占める本人の無気力・不安についで、いじめ以外の友人関係の問題が11.5%、生活リズムの乱れ・あそび・非行が11%、学業の不振と親子関係が6%程度でした。悩みの対象が親子関係から友人関係へと移行してきているのが伺えます。また、出席認定がされるか、受験に不利にならないか、など進学に関する不安も生まれる時期です。

進学に伴う学習や生活の変化によっていじめや不登校が増加する「中1ギャップ」が広く認知されています。文科省は小学校高学年教科担任制を導入するなどの対策を打ちましたが、国立教育政策研究所は安易な表現に振り回されず、児童生徒の課題を見据える必要性を指摘しており、中1ギャップという問題の捉え方に注意を促しています。

参考「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(文科省,2022年10月27日公開,2022年11月2日参照)より
参考「初中教育ニュ-ス(初等中等教育局メ-ルマガジン)第428号【臨時号】」(文科省,2021年12月24日公開,2022年10月31日参照)より
参考「「中1ギャップ」の真実」(文科省,2014年4月公開,2022年10月31日参照)より

高等学校

高校では、無気力・不安を理由とする不登校が最も多いです。意識調査の研究では、「ねむい・体がだるい」「勉強したくない」「授業がわからない」が該当の多い項目で、登校したくない気持ちがありつつ登校している生徒でも同様の回答が多く選ばれていました。

2000年以降減少傾向ではありますが、高校では中退というケースもあります。留年や通信制への転校など、おかれる状況も様々で、実態把握の難しさがあります。

参考「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(文科省,2022年10月27日公開,2022年11月2日参照)より
参考「高校生にみる不登校傾向に関する研究 : 意識調査を通して」(山下みどり, 清原浩,鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要,2004)より

不登校児童生徒の学ぶ選択肢とその実態

増え続ける不登校への対応として、国や教育委員会等ではどのような施策がとられているのでしょうか?また、実際に不登校になった児童生徒や家庭にとっては、現状どのような選択肢があるのでしょうか?

文科省は「不登校」をどう捉えているのか?

多様な要因・背景から、結果として不登校状態になっているため、「問題行動」と判断してはならないという認識があり、文科省は、令和元年の「不登校児童生徒への支援の在り方について」という通知で、

「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく,児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて,社会的に自立することを目指す必要があること。

としています。必ずしも学校への復帰をゴールとはしておらず、学業の遅れや進路選択の際の不利益を被りかねないことなどのリスクも指摘しつつも、多様な関係機関との連携、家庭への支援を基本的な考え方としています。

参考「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」(文科省,2019年10月25日公開,2022年10月31日参照)より

教育機会確保法

不登校に関連する法律としては、2016年に教育機会確保法というものが施行されました。不登校児童生徒を対象とする教育の機会の確保を推進しようというものです。学校環境の整備、民間団体との連携などを自治体に求めています。

フリースクール等民間団体の支援については直接的に内容としては盛り込まれませんでしたが、文科省は検討会議を設け、議論を続けています。

参考「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律の公布について」(文科省,2016年12月22日公開,2022年10月31日参照)より

支援機関で学習する児童生徒の出席扱い

学校外の機関で学ぶ場合、出席の判断はどのようになるのでしょうか。

文科省はその要件を「保護者と学校との間に十分な連携・協力関係が保たれていること。」「当該施設に通所又は入所して相談・指導を受ける場合を前提とすること。」など複数まとめています。しかし、「適切な支援を実施していると評価できる場合,校長は指導要録上出席扱いとすることができる。」とされ、判断は校長裁量となっています。全国に共通するような明確な基準は示されておらず、運用実態は自治体ごと、学校ごとに大きく差がある状況です。

参考「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)(別記1)義務教育段階の不登校児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けている場合の指導要録上の出欠の取扱いについて」(文科省,2019年10月25日公開,2022年10月31日参照)より

フリースクール

文科省は、「一般に、不登校の子供に対し、学習活動、教育相談、体験活動などの活動を行っている民間の施設」と定義しています。民間の運営による主体性・自主性によって、規模や活動内容は多岐に渡ります。カリキュラムや授業があるところもあればないところもあり、公教育と異なる教育理念や教育方法を採り、学校への復帰にこだわらない団体もあります。比較的少人数で、それぞれが自由に過ごしたり、子ども中心の活動や学習のサポートなどを行っている場合が多いです。

参考「フリースクール・不登校に対する取組」(文科省,2022年10月31日参照)より

適応指導教室(教育支援センター)

適応指導教室(または教育支援センター)は、学校生活への復帰を目指しその支援をするために、学校以外の場所や学校内の空き教室等に設置されています。市町村の教育委員会が設置する場合がほとんどです。個別の学習支援の他、スポーツや芸術、調理体験や自然体験など集団での活動もされています。

参考「「教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査」結果」(文科省,2019年5月13日公開,2022年10月31日参照)より

適応指導教室の実態と問題点(教育支援センター)

令和元年の段階で4割の自治体で設置できていません。適応指導教室の在籍者は、不登校の児童・生徒の7.5%、12.9%にとどまり、ニーズに答え切れていない現状です。設置できていない自治体のうち、設置予定が6%、設置に関する検討中が35%です。予算や場所の確保が問題となっています。

また、以前より減ってきてはいますが、「社会的自立」が重要という文科省に対し、「学校復帰」を目標にしてしまっている適応指導教室が多いことが課題とされています。原因は職員に退職教員が多いことなどが挙げられています。

参考「「教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査」結果」(文科省,2019年5月13日公開,2022年10月31日参照)より

不登校特例校

不登校特例校は、学校と同じように出席扱いになる教育機関です。設置は努力義務とされており、2022年4月現在、全国で21校(うち公立学校12校、私立9校)しか開校していないのが現状です。

熱心な取り組みもあり、例えば星槎名古屋中学校は、教師全員がカウンセラーの資格を持っています。共感理解教育を掲げ、生徒もコミュニケーションや心理学を学ぶことができ、生徒同士で助け合える「ピア・チューター」の育成も行っています。

岐阜市立草潤中学校では、個に合わせた多様な学び方を徹底されています。オンライン学習によって家や学校内のさまざまな場所で学習ができ、日々の過ごし方や担任まで個々に応じて見直し、変更することができます。

参考「不登校特例校の設置者一覧」(文科省,2022年更新,2022年10月31日参照)より
参考「学校ブログ 12期ピアチューター研修(養成講座)が行われました!」(星槎名古屋中学校,2022年8月27日公開,2022年10月31日参照)より
参考「注目の不登校特例校「学校らしくない」草潤中の今」(東洋経済オンライン,2021年12月7日公開,2022年10月31日参照)より

まとめ

不登校という社会課題に対し、社会的な認知も進み、教育機会確保法が制定されたことで学校や民間団体と学校や行政との連携が始まりました。しかし、不登校傾向も含めると40万人とも言われる子どもたちの数に対し、公的機関・民間機関を合わせても「学校にかわる居場所・学びの場」は足りておらず、学習権が保障できていないことが大きな課題です。社会的自立を目標として、多様な選択肢のもとで子どもが学ぶためには、様々な機関の立ち上げや相互の連携が必要です。フリースクールでの学習が出席・単位として認定されたり、適応指導教室の設置が進み学校を中心としない学習の支援が整備されたり、不登校特例校の設置の拡大がなされることなどが求められています。また、これらは現在の学校が、不登校状態にある子ども達を包摂できていないということでもあり、学校がもっとインクルーシブなものになる余地はまだあります。不登校であっても様々な場所や方法で学ぶことができる「学びの選択肢」が拡大され、そもそも不登校にならなくていいように既存の学校が変容していく、その両輪が回り、噛み合っていくことが求められています。

文部科学省が2021年に実施した教員不足の全国調査によると、2558人の教員が不足している実態が明らかになりました。NHKの調査でも、2022年度は2800人不足という一層深刻な数字が公表されています。

「#教員不足をなくそう!~今できること、すべきこととは?~現状を共有し、解決の道を探る 公開オンラインシンポジウム」が2022年8月17日、YouTubeライブ配信されました。告知期間が短かったにもかかわらず、100名以上がリアルタイムで視聴し、多くのコメントが寄せられました。

シンポジウムでは、細田眞由美・さいたま市教育長、水川和彦・岐阜市教育長をゲストに、#教員不足をなくそう緊急アクションの妹尾昌彦さん、末冨芳さんが教員不足の現状や解消策の工夫などについて語り合いました。全体司会はSchool Voice Projectの武田緑が務めました。
(本記事は、イベント内容をダイジェストでまとめたものです。イベントの様子はアーカイブ動画でも視聴いただけます。)

「#教員不足をなくそう緊急アクション」とは?
教員不足の厳しい状況を踏まえ、本サイトを運営するNPO法人School Voice Project と末冨芳さん、妹尾昌俊さんが立ち上げたキャンペーン。5月には教員と保護者の緊急アンケートを実施し、それをもとに緊急提言をまとめて記者会見した。国の「骨太の方針」にも教員不足の解消という言葉が入っており、一定の成果が出ている。

登壇者の経歴

細田眞由美さん(さいたま市教育長)
埼玉県及びさいたま市教委、高等学校長などを経て、2017年から現職。文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会委員、経済産業省産業構造審議会分科会委員など公職多数。元英語教師でもあり、最近も英語キャンプに参加。

水川和彦さん(岐阜市教育長)
岐阜県内の小中学校教諭のほか教育委員会、教育事務所にて勤務。義務教育学校・白川郷学園の初代校長。岐阜聖徳学園大学教授を経て、2021年から現職。休日は朝の自転車を楽しむ。

末冨芳さん(日本大学文理学部教授、#教員不足をなくそう緊急アクション発起人)
専門は教育行政学、教育財政学。内閣府子どもの貧困対策に関する有識者会議構成員、文部科学省中央教育審議会委員など歴任。著書に「教育費の政治経済学」(勁草書房)など。

妹尾昌俊さん(学校業務改善アドバイザー、#教員不足をなくそう緊急アクション発起人)
中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁などで部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議委員も務めた。著書に「教師崩壊」(PHP新書)など。



教員不足の実態は? さいたま市と岐阜市で異なる現実

今日は3部構成で進めます。「教員不足の実態についてどう考えるか」「これまでの各自治体の取り組みや工夫」「今後どうするか」です。早速、パート1の「教員不足の実態」から始めましょう。昨年初めて、文科省が調査したのですが、各自治体が一生懸命に教員を集めても、なお不足していたという実態がありました。我々の調査でも、文科省の調査よりもっと大変であるという実態が見えています。さいたま市の状況からお願いします。

文科省の教師不足に関する実態調査が発表されましたが、まず昨年度5月1日現在の教師不足の状況です。さいたま市は小学校ゼロ、中学校1でした。各自治体とも必死で集めますが、ゼロという自治体は稀有です。他自治体のデータをじっくり見ますと、「うわ、こんなに大変なのか」と愕然としました。しかし、本市も今年については、悪くなっていて、小学校2、中学校3の欠員です。年度後半になると、どんどん穴が空いてくるんです。8月1日現在は、小学校19、中学校7になっています。教員が若返っていて、産休、育休が増えていることによる欠員ですが「ハッピーな話」にすぐ手当てができない現状です。さいたま市は相当充足率が高く、全国的にもトップレベルですが、それでもこんな現状です。

都市部では20代、30代の教員構成が多くなっているので、産休育休代替の需要が強いことはよくわかります。なかなか後任が見つからないのが苦しいですね。

さいたま市の現状を羨ましいと思いながら聞いていました。私は10年くらい前に、県教委の教職員課にいて、大量退職の時代を予測しながら人事異動や採用をしていたのですが、「その通りの時代が来た」と思っています。大量退職のピークは岐阜では過ぎていますが、大量退職イコール大量採用なので、学校の常勤講師のストックがなくなっていくということです。常勤講師が正式に採用されていくためです。さらに、産育休がでたり、部分休をとる人が増えると、厳しくなるということです。退職者が再任用として働きたがらない状況もあります。また、大学を卒業して初任1年目、2年目の初任者が大学生に「先生って面白いよ」と言いがちにならない。さらに、先生が子どもたちの憧れになっているか気になっています。
岐阜市は小学校46、中学校23、特別支援1で、児童生徒数は約3万人です。教職員定数は1800人くらいいるんです。420人の講師群がいます。これだけを一人残らず配置するのは大変です。当初欠員だけで110人ほどいます。どんどん採用されて、ストックがないところをどうやって講師で埋めるのか、大変です。「教員免許を持っていれば、見境なく探したい」というのが人事担当の本音なんですが、なかなかうまくいきません。
では、どうやって充足させたかというと、中学校の加配教員をはがして、小学校に配置するようなことを強引にやりました。それでも加配でつくべき教員が20人くらい不足しました。教務主任しかフリーの教師がいないような状況にあります。
また、岐阜市は国に先がけて少人数学級をやっているんですが、担任が必要になるので教員が不足する。さらに、すべての小中学校にいじめ対策監を市費で70人採用するので、一層足りなくなっています。現場のための施策を打つほど、ますます不足が深刻になっています。

教員不足の数だけが一人歩きしても良くないと思います。何を基準に不足というのか定義も難しい問題がありますね。

採用の工夫は? さいたま市、一次試験に「SPIのみ」導入

リアルな実態ありがとうございます。さいたま市は政令指定都市なので、独自に採用もできる強みがあると思います。教員免許を持っている社会人の若い層を増やすために、工夫があれば教えてください。

ご指摘の通り、さいたま市は政令市なので採用任命していますが、必死です。やれることは全てやろうという気持ちでやっています。地理的にもアクセスが良くて、とても恵まれていて、採用試験も今年(令和5年度)の小学校は150人採用の見込みで、競争率が約3倍です。中学校は6・7倍。特別支援学級は2倍でした。他の自治体からは羨ましいと言われるかもしれません。採用の形態も工夫しています。今年の目玉は、一次試験はSPIのみの試験を導入しました。各大学でのリクルート活動も、春秋と大々的な説明会を全国行脚でやっています。教育長自ら、「教員ってこんなに素晴らしい仕事で、さいたま市はこんな面白いことをしている」というトップセールスをしています。そのため、なんとか志願者数が増えています。

ギリギリのやりくりの中で、特別支援学級や少人数加配が必要な厳しい状況の学級への影響はいかがでしょう。どのように補っていけば良いでしょうか。

特別支援教育に向けては、スクールアシスタントを採用しています。自治体持ち出しで、670人を採用して、困りごとを抱えている子どもたちにさっとつけられるようにしています。

岐阜市は中核市ですが、先生たち「やらされ感」を抱かせることなく、教員として自分の良さが活かせるように市独自で特別支援の教員養成をしています。特別支援の担任の負担感をなくしていかなければならないと思います。

ここで、チャットの意見を紹介します。臨時的任用教員(以下、臨任=欠員補充などのため講師として臨時に任用される教員)に頼るシステム自体に課題があるのではないか。育産休や途中退職などが出ると思うが、正規の採用人数に加算する手立てはできないのか。また、採用が4年生夏の一発勝負になっているが、数回のチャンスがあれば良いのではないか。SPIの導入によって実力のある臨任の人が不利になるのではないか。こんな意見が届きました。

採用時にもっと多く確保できなかったのかという素朴な疑問はありますね。

おっしゃるとおりです。ですから、さいたま市は、臨任もチャレンジできる、チャレンジングな採用枠を作っています。プレゼンテーション特別枠というのがあり、得意なことをプレゼンしてもらう一次試験をやりました。面白い人材が集まっています。また、採用計画は15年先くらいまで見ています。財政面の理解を得ることも大事です。

人事担当者レベルで言うと、一人生徒が増えることによって学級が増える場合があります。正直なところ、フリーの立場でいられる先生が一人いれば、学校はとても楽になるんです。例えば、今ならコロナで陽性になった先生がオンラインで授業するのは難しいですね。しかし、現実は多めに採用しておくのは難しいです。過去に、岐阜県全体で38人しか小学校の先生を採用しなかったことがあり、倍率は19・3倍(平成12年度)でした。今は小学校だけで312人の採用で、倍率は1・91倍です。動向が読みきれないのですが、こうなるのは国の政策が変わるためなんです。同じ県内でも充足しているところと足りないところがあります。

自治体によって課題が大きく違いますね。さいたま市は、0歳から14歳までの転入超過が7年連続で日本一の自治体なので、教員の大量退職の影響のみならず児童生徒増に伴っての教員採用増も続いています。質的担保をどうするのかが最大の懸案事項です。それぞれ全国の自治体ごとに特有の課題がある一方、教育に対して熱い志を持ち続ける人材がじわじわ減っていることは共通の課題だと思います。私自身が教員を志した時代とは違うと実感します。どうやって教育という仕事の魅力を伝えるかが全国共通の課題だと思います。

課題がさまざまでありながら、共通の部分も見ていく必要があると思います。

ここまでは採用の話が中心になっていますが、私たちの緊急アクションで出している提言においても必要な手立てを、「応急処置」として採用方法の柔軟化、「体質改善」として働き方改革、「根本治療」として国庫負担の見直しの3つに分けて整理しています。採用以外の点についてもお話いただけますか?

働き方改革は? 岐阜市、夏休み完全閉庁やいじめ対策監配置

働き方改革を含めた教職の魅力アップの動きはどんなものがありますか。

岐阜市は、夏休みの一部期間は市教委からの連絡も入れず、完全閉庁です。緊急時以外は連絡しません。学期中もDX推進の面からは、携帯で児童生徒のお休みの連絡ができます。ですので、朝は電話が鳴りません。児童生徒がタブレット一台持っていますので、心の健康観察もできています。話したい先生がいれば、その先生につながります。いじめに関する悩みを担任が一人で抱えなくて良いように、いじめ対策監を置いています。過去2年で、民間企業を入れて各学校の業務改善提案をしています。

個々の先生の能力や資質におんぶに抱っこするような仕組みを変えていくことは、負担軽減につながりそうですね。

「チーム学校」というのは、みんなで力を合わせるというのではなくて、得意なことを得意な人が一歩先にやることによって、苦手な人の負担を軽減できます。ベテランが作ったコンパスカリキュラムを若い先生が利用して、部分的に変更していくということで良いのではないでしょうか。

働き方改革については、やれることはなんでもチャレンジしてきました。量的な改革は限界かと思っており、今後は質的な働き方改革をしていこうと思っています。例えば、チームビルドです。得意なことで助け合っていくことは大事で、教員免許を持っていない人にも門戸を開いていく必要があると思います。国は旗を振っているけれど、実態が伴っていないんです。現在、社会人特別免許状(以下、特別免許=一定の知識経験をもつ社会人に教員免許を付与する制度)を出しているのは、ほとんどがネイティブ教員なんですね。学校の中でプロフェッショナルが一緒に仕事できるようになると、「得意なことをこの人に」という学校文化ができると思うので研究しています。

さいたま市「プログラミング人材ほしい」、岐阜市「地域の力を借りれば深い学びに」

ーー子どもを真ん中にして、よりよいコミュニケーションができるようになるにはどうすればよいのでしょう。

プログラミング教育の本物ができる人に来てほしいです。中学校の技術教員でプログラミングを教えられる人は少ないです。高校の情報の免許を持っている教員がいない学校もたくさんあると聞いています。

STEM教員です。理科の免許を持っている人を積極的に小学校の理科に入れていたんですが、すごく良い結果が出ました。技術系や理科は通常の教員がものすごく準備が大変で専門的な知識が必要なところは特別免許を出すことで負担軽減できると思います。岐阜市は全校でコミュニティスクールをやっていますが、教員は地域の人が関わると面倒くさいと思ってしまいますが、地域の人材を活かせれば「10の力が6で済む」ことを知らない教員が多いんです。「どんな力をつけたい」ということをきちっと伝えれば、「では私はこれができます」という話になります。負担が少なくても深い学びができることを、まだまだ先生が知らないんですね。一人教育型、学校完結型の教育はもう終わっていると思います。また、通常は先輩が後輩に教えるんですが、タブレット活用は逆転してるんです。こんな場面では、若い先生とベテランの先生のコラボで大きな効果が出るとよくわかりました。特別免許もその延長線上にあると思います。

「本物ができる人」と繋がることが大事というのが二つの市に共通していました。

得るところが大きかったです。教員不足をどうするかは、あの手この手だろうと思っていましたが、具体的な話がよく見えました。岐阜市独自の特別支援教育の免許状発行もどこでもできると勇気が湧きました。また、質的な働き方改革は、岐阜市の「ここが頑張りすぎじゃない」と前向きに働き方を良くしていこうと、「やってよかった」ことを増やしていくことが大事だと思います。質的な方を見ながらも、睡眠時間の確保は人としての基本的なウェルビーングなので、そこは数値目標にしていただきたいという思いです。そして、休みが取れる職場になりつつあるということも発信していけると、全世代から学校に来てもらえるようになると思います。

最後に、社会全体で考えてほしいこと

国や社会全体で考えていくべきことはいかがでしょうか。

一般企業の採用時期との比較で、「採用試験の時期を早めたい。早まったらいいな」と思っています。また本市では、スクールアシスタントを昨年度実績で670人雇用して、学校で大活躍してもらっていますが、ほとんど教員免許を持っています。ただ、フルタイム勤務はなかなか難しい。2人を定数1とカウントできるようなシステムが取れると、学校で力を発揮したいという人に力を発揮していただくことも可能だと思います。教員不足に対する妙案の一つになると思います。国と相談しながらできたらいいなと思っています。

やがて定年延長がきます。30年かけて一人の教員を校長にしていくのに、校長にはその後、教諭として働いてもらっています。校長をやった人に「担任で頑張ってください」ではなく、キャリアに応じた活かし方があると思います。若い先生のアシスタント、学校経営のアシスタントなど。強みに応じた活かし方があると思います。低学年は得意だけど高学年は苦手な先生もいるんです。それぞれの先生が強みを活かせるようにすることが一つです。また、初任者の研修が大変です。教員は4月1日から20年経験した人と責任という面では、変わらないんです。小学校の初任者は担任を持たずに育成するような仕組みも必要ではないでしょうか。最後に、子どもに自分の生き方を語らない先生が多いと思います。教員は親以外の最も身近な大人のモデルなんですが、時事問題についても語ったりできる環境になってほしい。校長次第で職員室の雰囲気は変わるので、校長にも期待しています。

採用も学校運営も、今までうまくいっていた仕組みでは回らなくなっているところもあります。働き方改革も、単に時間をカットすることが目的になると変な方向に行ってしまうので、先生にとって大切な時間を確保できるようになってほしいと思います。

とても濃い内容のシンポジウムで、ありがとうございました。#教員不足をなくそう緊急アクションは、「この機関が悪いんだ」と誰かを責めてどうにかしようというのではなく、それぞれの立場で頑張ろうとしている人と好事例をシェアして、みんなでこの問題を乗り越えようという方向性で動いています。今日は教育長お二人のどうにかしようという熱量を感じていただけたと思います。私たちも文科省とも相談しながら進めていきたいと思うので、それぞれの地元でも「こんな事例がある」というように、広めていただけたら心強いです。細田教育長、水川教育長、ありがとうございました!

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以前フキダシで行ったアンケート「修学旅行先では自腹で行動!? 旅行行事の教員負担調査」では、旅行行事での教員の“自腹”の現状について現場の声を集めました(結果記事はこちら)。

そのアンケートの中で、他の内容についての自腹も多くある、との意見も寄せられていたことから、今回フキダシでは教員の“自腹”についての連続アンケートを実施します。

※このアンケートでは“自腹”を業務上の必要性の観点から、「業務遂行上絶対に必要であり本来公的に支出されるべきだが、個人の負担になっている費用」と「業務遂行上絶対に必要とは言えないがあった方がよいと思い個人で負担している費用」とに分けて取り扱います。

第1回は「授業・教材研究」に関わる費用について聞きました。

第2回では「学級経営」、第3回では「部活動・課外活動」についての自腹について調査しました。その結果は下記をご覧ください。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2022年9月23日(金)〜2022年10月17日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :83件

アンケート結果

設問1 「絶対必要なモノ」の自腹

Q1. 教科の授業や教材研究にかかる費用の中で 「業務遂行上絶対に必要であり本来公的に支出されるべきだが、個人の負担になっている費用」 が含まれているものを選択してください。(複数選択可)

教科の授業や教材研究において、最も多くの教職員が負担しているのは「教材・副教材・教具代」の購入でした。校種別に見ると、中学校の約7割の教職員が「教材・副教材・教具代」の購入をしているのに対して、高校では約5割でした。その他、「電子機器代」や「研修。講習費」についても他の校種に比べて、多くの中学校の教職員が費用を負担していることがわかりました。

設問1-2 具体的な内容は?

Q1-2. 内容を具体的に記入してください。

教材・副教材・教具代

理科の実験や工作に必要な材料(例、紙コップ、たこ糸、ジップロック、ビニル袋)は、正式注文すると時間がかかるので、100均や通販で買います。【小学校・教員】

生徒に授業でみせる映像教材。(例、自宅で録画したBlu-ray、NHKオンデマンドの有料会費)【高等学校・教員】

小学校では、鍵盤ハーモニカや習字セット、裁縫セット、リコーダー、絵の具セット等、学習で使う道具が多くあります。教科担任ではないので、基本的にどの教科の物も必要になります。全て自分で買い揃えています。特に公費の話や、補助の話もありません。自腹が前提となっています。【小学校・教員】

特別支援の子が使えそうなボードゲームをいくつか購入するなどの支出があります。【中学校・教員】

特別支援学級の担任になったが、本校には特別支援学級用の教材が全く無い為、特別支援学級用の問題集や教材作成の為の本、教材作成の為の材料費、専門的知識を得る為の本、特別支援用の知育教材等、全て自腹で買いました。【義務教育学校・教員】

4月の予算の時には、予定のなかったもので、授業で使ったらよさそうな教材などを思いついた時、手続きに時間がかかったり、申請通らなかったりが面倒なので自分で買ってしまいます。【小学校/中等教育学校・教員】

文具代

児童が忘れ物をした時用の文具。【小学校・教員】

書類など手書きで対応する部分は多くあるが、記載するペンなどの用具を学校側が用意する事はない。そのため自分で賄うしかない。【小学校・教員】

毎日押しまくらなくてはならない検印、スタンプ台!【小学校・教員】

書籍代、ボールペンやサインペン、ルーズリーフ。【中学校・教員】

電子機器代

オンライン授業やオンライン会議が始まっていく中で、学校購入ではどうしても数が限られ、探したり共有するよりも個人で購入した方が便利な電子機器などは個人購入をしている。【中学校・教員】

授業でiPad miniを使用している。iPad miniはプライベートでは使わず普段は学校に置きっぱなしだが、自腹で購入したもの。【高等学校・教員】

教育予算がないためか、学級の指導用(デジタル教科書)と成績処理等の業務用として、学級に1台のみのパソコン配布です。児童用タブレットは配布されたのに、教師用タブレットは配布なしです。そのため、自分のiPhoneやiPad、デジカメを使わざる得ない状況です。【小学校・教員】

学校からiPadは配付されているが、学校のwi-fiが弱く、そのiPadを使って動画等が見せられない。仕方なく、私物のiPadを使ってwi-fiを使わず、見せている。【小学校・教員】

SDカードや接続機器などパソコン周りの周辺機器。【中学校・教員】

学校のパソコンは当然持ち出し不可、データも取り出し不可、複合機のスキャンは性能が低い、学校のデジカメの画質は悪く、貸し出しの手続きが面倒、各機器が学校にあっても、借りて返さない教員がいるため、自分で用意しないと仕事にならない。【中学校・教員】

授業でiPad miniを使用している。iPad miniはプライベートでは使わず普段は学校に置きっぱなしだが、自腹で購入したもの。【高等学校・教員】

通信費

一人一台端末が導入され、Google educationが入ってきましたが教員機の性能が悪くスマホからログインした方が早く写真等をアップロードできることが多いので通信費の負担が増えました。【小学校・教員】

オンライン研修時の通信費。学校内のネットワークからはアクセス不可。【中学校・教員】

私の勤める市町村のインターネットの回線契約の関係で、同時に複数のクラスではネットが使えなかったり、そもそも理科室にはインターネット環境がないため、映像資料を見せる場合は、個人のタブレットを使用しています。【中学校・教員】

教材をPC(これも私物)で作成したものをいったんクラウドにアップロードし、iPadにダウンロードしているが、その通信費(スマホのテザリング)も自腹。授業でYouTubeを見せたりするときの通信費も自腹。【高等学校・教員】

教材研究費

書籍代です。授業に必要な本や教材研究に使いたい本は基本自分で購入しています。【中学校・教員】

中学理科の教員です。より良い教具の研究をする場合、失敗を視野に入れて行います。「消耗品なら」と言いつつも、学校に申請した場合は許可がおりないことが多く、理由は「お金がないから」ということがあります。【中学校・教員】

授業づくりで参考にしたい書物代・入試問題作成のための書物購入費(国語科は引用する本を購入しなければならない)。【高等学校・教員】

研修・講習費

授業研究の発表を求められるがそれに対する費用が一切ない。そのため自費で研修会に参加している。【小学校・教員】

特に研修の駐車場代などが気になっています。車でしか行けない場所に出張に行くのに駐車場代は自腹です。【小学校・教員】

各教科の研究協議会の主催する研究大会への参加費。【中学校・教員】

設問2 1の自腹額は?

Q2. 設問1で答えた額は、合計すると1年あたりどの程度になりますか。

教科の授業や教材研究にかかる費用については、年間で1万円から5万円の出費をしている教職員が約半数でした。少数ではありましたが、小学校と中学校では年間で10万円以上の額を個人で負担していると回答した人もいました。

設問3 「あった方がいいモノ」の自腹

Q3. 教科の授業や教材研究にかかる費用の中で 「業務遂行上絶対に必要とは言えないがあった方がよいと思い個人で負担している費用」 が含まれているものを選択してください。(複数選択可)

業務遂行上絶対に必要とは言えないがあった方がよいと思い個人で負担している費用については、「研修・講習費」や「教材研究費」が最も多く、全体の約半数の人が選択しました。「教材・副教材・教具代」については、小学校で51%、中学校で48%であったのに対して高校では14%と、大きく差が開きました。 

設問3-2 具体的な内容は?

Q3-2. 内容を具体的に記入してください。

教材・副教材・教具代

特別支援学級で個別に必要な教材・教具。(手作りの材料も含む)教材作成のためのラミネートシート。【小学校・教員】

学校では新聞を一紙しかとっていない。我が家の新聞を毎日学校図書館に寄贈し、活用している。【中学校・教員】

提出物を入れるかごなど、教室環境整備費。【小学校・教員】

文具代

直しをやった後の丸付けに使う青ペン、間違ったところに付ける付箋、子どもや保護者、他の先生への伝達事項に使う付箋などの文房具。【小学校・教員】

文房具はこだわりがあるので、自分の好きなものを購入しています。【高等学校・教員】

使いやすいハサミやシール、付箋など。【特別支援学校・教員】

貸出用の定規や学校にあるポールペンだと書きづらく書類の清書用に買うペンなどがあります。【小学校・教員】

電子機器代

自宅で仕事をする時用のパソコン、iPad、Apple Pencilなどの電子機器。【小学校・教員】

職員室の支給されているパソコンはSDカードの読み込み口がないため、外付けのデバイスを自前しなければならない。また、教室でタブレットの画面を大型テレビにつなぐケーブルの絶対数が足りていないので、便宜上自分のものを使っている。【高等学校・教員】

通信費

パソコンのスペックが低いので私物持ち込み、Wi-Fiには入れないので自分の通信を使っている【中学校・教員】

教材研究費

教科「情報」で、使ったことのないMacで授業することになり、自腹でmacbookを購入し教材研究している。【高等学校・教員】

研修・講習費

自分で勉強したいと思った内容の書籍代、自主研修のための研修費。【小学校・教員】

設問4 3の自腹額は?

Q4. 設問3で答えた額は、合計すると1年あたりどの程度になりますか。

費用負担については、「業務遂行上絶対に必要であり本来公的に支出されるべきだが、個人の負担になっている費用」よりも低く、年間で5千円から2万円の出費をしている人が約半数でした。高校よりも小学校、中学校の教職員の方が出費額がやや多めということがわかりました。

設問5 授業についての自腹、どう思う?

Q5. 教科の授業や教材研究に関する自腹について、あなたの思っていることや意見、考えを教えてください(困っていること、改善のためのアイディア・工夫、その他)。(任意)

教材研究や自己研鑽のための予算をつけてほしい

免許更新制で強制的に学ばされるよりも、自主的な研究会参加に覆いの補助金を出してくれる方が、教員の主体性を確保できるのでうれしい。今後そうなっていってほしい。ちなみに自分の勤める私立小は、研究費として、上限はあるが支給される。【小学校・教員】

備品費や消耗品費以外に教材研究費がほしい。わたしは技術科なので、ある程度教材研究してから、生徒分を購入したりするが、その教材研究は自費でやっている。【中学校・教員】

授業向上のためという名目で、各教員に予算をつけてほしい。年間1万でもあれば、本買ったり講演聞きにいったりして、教員それぞれがスキルアップできると、授業力もアップされ、生徒へ還元されるはず!【高等学校・教員】

地方だと都市部に研修に行くのにとてもお金がかかるので、研修の半額でも補助していただけるととても助かる。地方の先生の方が研修の機会にハンデがあるので、どうにかしてほしい。【中学校・教員】

大学のように一人いくらまで使えるという研究諸費があればいい。ちゃんと領収書も取りチェックできるように。【中学校・教員】

立替購入をした場合は、後日申請できるようにしてほしい

予算を使うためには、カタログで金額を調べ、提出しなければなりません。100均やネットなどで、必要なものを立替購入できるようになるといいなーと思います。【小学校・教員】

「翌日、必要だからDAISOで買いたい」と思っても、急な公費支出は無理だし、ネットで安いからカード払いとかで立て替えたいのに、それも無理とか、購入に制約が多すぎる。【中学校・教員】

手続きや公費の基準を見直してほしい

ある程度は仕方ないと思う。しかし自分の自治体では予算執行の手続きが煩雑だったり、予算を立てるのが前年度の11月で、執行の半月前までに申請が必要だったりと、小回りが効かない。特に家庭科や美術の教員は自腹が多い印象がある。【特別支援学校・教員】

どこまでが公費で落ちるのかどうか、基準を明確に示して欲しい。【小学校・教員】

まとめ

自由記述では、書籍代やセミナーの参加費など、「教材研究や自己研鑽のための予算をつけてほしい」という声が多く集まりました。一方で、任意で購入している物もあり、「ある程度は仕方がない」「自腹の方が気軽に購入できる」などの意見も集まりました。また、授業においては急遽教材の購入が必要なことも多く、経費申請の手続きをしていると準備が間に合わないため、やむを得ず自費で賄っているケースもあるようです。「立て替えで購入をした際に、後日経費申請ができるようにしてほしい」という声もありました。


▼ 自由記述の回答一覧は、以下よりダウンロードしてご覧ください。 ▼

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※メディア関係者の皆様へ
すでに公開されている教職員アンケート結果やWEBメディアの記事の内容等は報道の際に使用いただいて構いません。その際は【出典:NPO法人School Voice Project 】クレジットを入れていただき、事後でも結構ですのでご一報ください。

今、日本の学校には先生が足りていません。学級担任の不在によって不安な思いをしている小学生、専門ではない教科の先生から教わる中学生、高校生がたくさんいます。

2021年度に文科省による調査で明らかになった教員の不足数は、全国で2558人。「担任が配置できない」「教科の先生がいない」「育休の代わりの先生が見つからない」この状況は、教員の働き方はもちろん、子どもたちにも影響が出る大きな問題です。

本サイト「メガホン」を運営するNPO法人School Voice Project では、学校業務改善アドバイザーの妹尾昌俊さん、教育行政学の研究者である末冨芳さんとともに、「#教員不足をなくそう緊急アクション」を立ち上げました。子どもたちのために、教員不足を一刻も早く改善するための活動です。

5月には教職員、教頭・副校長、保護者を対象としたネット調査を行い、教職員、教頭・副校長向けのアンケートではそれぞれ1000件を越える回答を得ました。また、この調査をもとに、記者会見などメディア発信を行い、また政治家の方や複数の教育委員会と意見交換を実施してきました。その結果、政府の「骨太の方針」に「教員不足解消」の文言が記載されるなど、一定の成果につながっています。

今回は、教職員、保護者、児童生徒を対象に、アンケート調査を実施。教職員向けアンケートについては、どのような教員不足が起きていて、現場はどう対応しているか(特に年度当初と比べて夏休み明けの状況がどう変化しているか)を探るとともに、具体的に困っていることや国・自治体への提案についても収集。保護者、児童生徒向けアンケートについては、教員不足の問題について、保護者・児童生徒の目線からの心配ごとやエピソードを収集しました。

アンケートの概要

■実施期間:2022年9月10日(土)〜2022年10月6日(木)

<教職員向けアンケート調査>
■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施方法:主にSNSを通じて協力者を募集し、ネット上で回収
■回答数 :426件

<保護者向けアンケート調査>
■対象  :全国の小〜高校年齢の子どもを持つ保護者
■実施方法:主にSNSを通じて協力者を募集し、ネット上で回収
■回答数 :22件

<児童生徒向けアンケート調査>
■対象  :全国の小〜高校年齢の子どもを持つ保護者
■実施方法:主にSNSを通じて協力者を募集し、ネット上で回収
■回答数 :4件

結果を読む際に、ご留意いただきたいこと

  • 任意の調査であるため、教員不足で困っている人ほど、回答しやすい傾向があると考えられます。そのため、現実よりも教員不足の実態が過大に出ている可能性が高いと予想されます。

アンケート結果

教員不足の発生状況

教職員向けアンケートでは、勤務校における今年度(2022年度)「始業式時点」「始業式以降7月末までで(一度でも)」「9月1日時点」の欠員状況を聞きました。以下のグラフに校種ごとの結果をまとめました。
教員不足が深刻な人ほど回答しやすい可能性はあるものの、回答者の状況として、1学期中に教員不足はより深刻化し、9月時点でもあまり改善していないことが読み取れます。

詳細内訳

アンケート回答者の勤務校のうち、2022年度始業式時点では、小学校の約4割、中学校の約半分、高校の約2割で欠員がある状況であったのが、7月末までに小中学校で約6割、高校で約4割に増加。夏休み明けには少し改善してはいるものの、引き続き多くの欠員が出ています。

教員不足が起きた時の対応

教員不足が起きていると回答した回答者に対して、勤務校の状況としてあてはまるものを選んでもらった結果が以下の3つのグラフです。

注)当該時点で教員不足が起きていると回答した数を分母に集計。公立高校等は不足数が少ないためグラフから除外しています。(自由記述の回答は記載)

始業式時点の対応を見てみると、小学校では本来学級担任ではない人(少人数指導、教務主任など)が代替する例が多いことがわかります。中学校では専門外の教員が教科指導にあたったり、授業がストップしたりしているケースも・・・。

7月末時点の対応を見ると、始業式時点よりも多くの項目でグラフが伸びており、「苦肉の策」での対応が加速している可能性が見てとれます。中学校では授業ができない教科があったとの回答が不足が発生している学校の3割近くに登っています。

そして、夏休みが明けて9月に入ったあとも状況は改善していない可能性が高いことが示唆されます。

教員不足の影響(教職員から声)

教員不足の実態

教職員は、みな元気で働けることを前提に配置されていることを痛感した上半期だった。特に担任ではなく専科や事務、校内で1人職の職員が病休になり、教頭教務はじめ職員みんなで空き時間をなくし、何とか乗り切らざるを得なかった。発達の課題や登校渋りの児童が非常に多く、支援体制を考えるにしても、人手が足らなすぎる。(埼玉県、公立小学校)

担任がGW後に休職に入ったため、級外の職員が担任に入ることになった。しかし代わりの職員は勤務時間後に組合業務があるため、時間的に制約がある。学年やブロックの教員で授業を何とかやり繰りして凌いでいる。当該学級に関わる教員の精神的な負担はとても大きかい。また子どもたちにも影響は大きい。例えば技能教科は、1ヶ月ごとに指導教員が変わらざるを得ない状況になり、一貫した指導方針で指導ができているとは言えない。(大阪府、公立中学校)

コロナなどで、誰かが休むと学校が機能しない。ちゃんと授業ができない。教務主任はかなり超過勤務が続いて過労死レベル。教員が不足することで一人一人への負担が増え、さらにブラックな職場になってしまう。(京都府、公立中学校)

担任1名が療休になり、日本語指導の担当を急きょ、その代わりにあてた。また、他の担任が1名、産休に入ったが、代わりが見つからず、教務主任が担任を兼務している。(東京都、公立高校)

療養休暇の時は、学期中に代替が見つからないことが多く、専科などの教員が代わりに担任として入ります。私自身、再任用で6年の理科専科と教育は相談コーディネーターをしていますが、そこへ代替としての授業が入り込むと理科の授業準備、保護者との面談が遅くにずれ込み帰宅が遅くなります。月残業も60〜80に増加。とにかく疲れます。そして、きちんと1人の代替がつかないので複数人で見るようになり子供達は落ち着きにくいです。(福島県、公立高校)

特別支援学校のため少しアンケートには当てはまらない部分もありますが、4月時点で2欠で、当該学年の学年主任も夏前に病欠になりました。産休代替もおらず、病欠が3人増え、現在は小学部のみで6欠です。特別支援学校であるにもかかわらず、副担任が足りず1人で回さなくてはならないクラスがたくさんあります。児童の怪我も増えてきています。9月時点で6欠で、もう限界です。(熊本県、特別支援学校)

教育・教員の質低下に対する危惧

4月当初から,教頭が各学年の教室に入れない子どもの個別対応をしていたが,産休代替として1つのクラスに入ったことにより,複数名の個別指導ができなくなった。そのため,その児童が学校内で暴れたり,外へ逃げ出したりして,その対応に追われるようになった。その結果,複数の学年が落ち着かない状態にある。(宮城県、公立小学校)

問1で教員不足は起きていないと回答しましたが、配置された常勤講師が著しい指導力不足、社会性の欠如といった、教員としての適正に明らかに欠ける者であったため、実質はマイナス1の状態です。担任を任されたものの、学級がすぐに崩れ、学年主任が2学級を合体して指導を続けています。学年主任は、学級の立て直しと講師への指導に疲弊し、心が病んできています。児童の中には、狭い教室に大人数という環境に不適応を起こしている児童も複数いますが、環境を変えるための人的余裕はありません。その常勤講師ができるようになった仕事は、窓明けや黒板消し、掃除などしかありません。それらですら、忘れてやらないこともあります。明らかに適正に欠いているのにも関わらず、雇用されているのは、教員不足の深刻さ故だと思います。(大阪府、公立中学校)

特別支援学級担任が病欠に入り、代替教員が採用されたが1週間足らずでやめた。その後2学期の始めも代替教員は見つかっていない。コーディネーターである特支担当教諭によってクラス編成がされたが、担任が病休に入ったクラスにはいわゆるADHD症状の強い男子児童が2名在籍しており、暴れて奇声を発し、取っ組み合いの喧嘩が絶えない。2人は同じ普通学級に所属していて、支援員さんが午前中は見守ってくださるが、午後は担任不在で普通学級への参加をしている。逃げ出したり暴れたりするたびにコディネーター教諭や管理職が対応するが、その教諭のクラスが今度は不在となり、授業が成立しない。教務主任が担任となって2学期が始まった。しかしながらコロナ禍で家族に熱や風邪の症状が出る度に教諭が出停になるため、自習になるクラスが出ている。私自身も英語専科教諭で加配人材であるため、空き時間は現状で全てない状態。中高1種免許のため、臨時小免で対応している。(愛知県、公立高校)

授業時数への要望

3月末に「4月1日に配置が難しいかもしれないが8日(始業式)までにはなんとかなる」と市教委から言われ校内人事を決定したが8日になっても配置されず「年度当初から必要なのになぜ教員が配置されないのか」と校長が教職員から糾弾され、配置されるまで校長が特別支援学級の授業を行うことになった。(神奈川県、公立小学校)

常に大変なので、異常が日常となっているので感覚が掴めません。財政的に人材の確保が難しいのであれば、せめて授業時数を削減して欲しい。毎日5校時まで等。(沖縄県、公立小学校)

教員を増やすことと、教員の負担を減らすことに尽きると思いますが、工夫だけでは負担減には限界があり、今の膨れ上がった業務を減らしきれない。授業内容をもっともっと減らして、根本的な負担減を測って欲しい。そのことが伝わり、教員がもっと働きやすいと思えるようにならないと、教員不足は解消しないと思う。

教員がいないのに、授業時数を『遵守』するように言われる。実際には、標準時数(中学校では1015時間)や教科ごとの時数を若干下回っても大丈夫なのに、そこを守れと言われるのがなお現場を苦しめている実態もある。『少しくらい下回っても大丈夫だから、柔軟にせよ』と何度も何度も繰り返し強く、文科省からはっきり言っていただくだけで楽になることは多いと思う。(大阪府、公立中学校)

免許外・臨時免許で授業を行うことへの懸念

臨時免許状の先生の授業では実験や実習ができない。安全を確保できないから。先生がいないところの穴埋めで、授業数の増えた先生が病気休暇になった。ストレスによるもので、明らかに教員不足が原因。(宮城県、公立小学校)

初任で免許外の家庭科を教えています。
これがアンケートの教員不足の意図に沿っているかは分かりませんが、すごく困っています。誰も相談できる人がいない。先輩たちは「困ったことがあったら、誰かに相談するといいよ」と言いますが、その「誰か」にはなってくれない。
家庭科は人生の生き方に直結する教科だと思います。だからこそ間違ったこと教えたらどうしようという不安があります。生徒へ申し訳ないです。(大阪府、公立中学校)

養護教諭の病休代替に臨時的任用職員が見つからず、会計年度任用職員を充てている。少数配置・専門職の休職の為、全職員でカバーにあたっている。単純負担もさることながら、専門知識の不足から適切な保健事業が行われているか、保健教育が実施されているか判然としない状況が続いている。(群馬県、公立中学校)

柔軟に対応できる体制を確保する難しさ

研究のための加配だったが、その目的で活動できにくくなった。生徒支援の加配もサポートにまわり、手が取られ得ることが増え、学校の全体の仕事をしたり、緊急時に動ける体制がとれにくくなった。(東京都、公立小学校)

特別支援学校の場合です。児童を見守る目が少なくなるので、ヒヤリハット現象が発生した。事故のリスクが高くなる。(広島県、公立小学校)

精神的負担・心の病の増加

教務主任が担任を兼務しており、非常にしんどそうにしていた。児童も休職している先生が自分たちのせいで病気になってしまったのではないかと想像しており、心配している様子であった。
本校は欠員はありませんが、あくまでギリギリの状態です。担任がお休みした時点で緊急事態に陥ります。担外は1名(教務主任)配置されていますが余力はありません。(北海道、公立小学校)

小学校で43学級あります。2学期も欠員1名、教務が担任で午前中授業、理科専科が午後授業、教頭や学年の中で補って年休等の補欠に入ってます。激務すぎて、コロナ陽性、病気、病休になる先生が次々出て、休む先生が毎日耐えません。自分は50代後半の理科専科ですが、29時間フルに授業していて、教材研究や実験準備などは全て放課後なので、残業は20〜22時までかかります。帰りがけ、疲労が半端なく運転不可能で、いつもコンビニの駐車場で車内で爆睡し、明け方になって家に着くことが何度もありました。(神奈川県、公立中学校)

教員の長時間労働から心身の健康を病んでしまいお休みに入る先生、家庭を犠牲にしてしまい最終的に退職する先生をたくさん見てきました。自治体はそれを把握しているはずなのに、業務を増やしてきます。従わなければ圧力がかかります。自治体の理想とする業務ができない教員は、必要がないと思われているように感じます。実際自分も心療内科に通いながら働いており、いつ使い捨てられるのかと不安や憤りを感じています。(千葉県、公立小学校)

産育休などの取得しにくさ・子育てとの両立の難しさ

育休明けで時短勤務を希望したが、時短勤務では戻せる場所がないと言われた。
教育予算が少なすぎる。再任用の方が多くいるが時短勤務の方が多く時間割調整や仕事の割り振りが大変。(山形県、中学校)

小4、年中の子育てをしながら中学校勤務しています。教科は家庭科担当、勤務市は、家庭科教員は一校1人の配置。本年度転勤になり、勤務校では専門でない女子バスケ部担当に。主な指導はもう1人の顧問が担ってくれているが、生徒のけが、熱中症の心配もあり、放課後は部活終了の18時まで部活にベタ付きが基本。授業準備に放課後の時間をあてることが難しくなり、かなりストレスです。部活も生徒が頑張っているので、適当にもできない。そんなこちらの気持ちにつけ込んで時間が搾取されていると感じます。本当はもう少し保育園に早くお迎えに行きたいし、休日も部活ではなく我が子と過ごしたり家事に時間を充てたい。実習授業準備など、1人で全部しなければならないのに、時間がなかなか捻出できず、別職種の夫が平日休みの日に21時頃〜22時頃まで残って授業準備する日々です。(大阪府、中学校)

管理職の負担の重さ

教務主任が兼任中。教務主任の業務を教頭と他の職員で手分けをして補っている。教頭はもともとキャパオーバー気味だったので、さらにキツくなっており、年度内保つのか心配。さらに10月から産休に入る職員がいるのだが、こちらも後任は決まっていない状況で、職場内で補充するのは難しい。どうするのかは管理職が検討しているとは思うが…。養護教諭も70代の方に来てもらっている状況で、校務支援員さんに手伝ってもらいながら、行っている。(大阪府、公立小学校)

新しい担任が決まるまでは副校長が担任になった。そうなると副校長の業務がストップ。またコロナで休む教員もいるので補教など、専科の先生が総動員で対応して大変だった。(群馬県、公立小学校)

新卒1年目が主で担任をすることになった。また、同じ学年内で初めて常勤講師をする人が1人で担任をすることになった。
技術科の教員が病気療養に入り、補充ができないので、教頭が専門外だが技術の授業を担当している。教頭が職員室にいないため、空き時間に職員室で来客対応や電話対応をする仕事が増えた。
(岡山県、公立特別支援学校)

非正規雇用頼りのシステム・運用への批判

小学校の非常勤講師をしています。10月から、常勤講師を頼まれて移行します。常勤講師が見つからないとのことで、家庭との両立の自信がないままに、仕方なく引き受けました。講師のあり方を変えないと限界な状況です。私の自治体だけかもしれないですが、常勤講師は、基本副業が認めらません。講師の話がくるまで、働かずして仕事を待つことができる人なんて、なかなかいないのではないでしょうか??(愛知県、公立小学校)

産休代替教員が配置されないことが知らされたのが,3月30日でした。欠員は自校で探すように言われましたが,4月1日までの2日間で何ができるでしょうか。結局,指導方法工夫改善教員を担任に当てました。(愛知県、公立小学校)

養護教諭がいないので、保健室を利用できない!生徒が養護教諭に聞いて欲しい話もあり、困っている。
最初から多めに採用するべき。教務や教頭が授業を持たない状態でスタートできるような人員配置にすればいざという時に担任の交代も可能で、学校も円滑に機能する。講師を頼りすぎる今の状態は危うい。(岐阜県、公立中学校)

柔軟な働き方の実現への要望

前任校では、産休に入る先生の代わりが見つからず、少人数担当者が代わりに担うことになりました。子どもたちにきめ細やかな指導ができなくなることに加え、校務分掌の再編がなされました。

課題として見えたのは、少人数指導の先生は、退職され、講師登録した先生だったのですが、業務が多い担当は負担が大きいと言われ、周りがカバーしながら日々過ごしました。負担は大きかったです。体育軽減で来てくださった先生は、介護などあるため、午前中のみの勤務ならば、勤務できるが、担任(支援担)は、できないとのこと。勤務体系を工夫して、午前のみの勤務とし、午後から勤務できる方を新たに探すなどの柔軟な対応はできないのか市教委に掛け合いましたが、受け入れてもらえず。講師の採用の仕方をもっと柔軟にすれば、退職された先生方の力も借りることができると感じました。(大阪府、公立小学校)

四月始業式の時点で担任が1人足りず管理職が校務が兼任、夏休みから産休に入った担任がいてまた不足のためもう1人の管理職教務が兼任。もし、なんらかの都合で仕事を休む担任がいても補助に入れる教師が足りないため、休んだら迷惑をかける、絶対休めないねという意識でみんな仕事をしている。兼任の管理職2人は毎日遅くまで二つの業務をこなしたり休日出勤している。
産育、病休などの代員(臨時的任用)が、フルタイムでないと採用できない。半日だけ、数コマだけ、のような柔軟な任用ができるとよい。(臨時的任用フルタイムだけでなく非常勤なども含めて、新たな任用形態を創設すべきだと思う)(埼玉県、公立中学校)

待遇の改善要望

講師を何年間かして問題がなければ採用するような仕組みがあれば安心して勤務できる。給与や待遇面の改善も必要。(兵庫県、公立小学校)

主幹教諭が担任をもつことになり、仕事がまわらない。産休代替が見つからず、再任用の先生が1ヶ月だけ担任をもち、さらにまた別の再任用の先生へと引き継ぐという、担任が目まぐるしく変わってしまうということが起こった。
教員という仕事自体はとてもやりがいがあるし、魅力がある。しかし、それをはるかに上回るブラックな労働環境で、次々に現職が辞めていき、若者(大学生)はこの仕事を選ばなくなった。定時で帰る労働環境なくして、教員人気の復活はあり得ない。今の40代50代は教員の労働環境について半ば騙されてこの世界に入ってしまった。SNSがこれだけ発達した今、騙される教員志望者は居なくなった。給特法の改善なくして教員不足解消は絶対にないと考える。(栃木県、公立中学校)

働き方改革への要望

学年主任が抜ける事態となりました。当該学年は学年運営が円滑に進んでおらず、他教員の負担が大きくなっているように感じております。また、校長が教科を担当し、実務への支障が少なからずあるのでないかと思われます。学校職員に求める仕事・業務が多く、全体として余裕がない。「子どものため」という言葉は時として教員に対し妥協を許さない重荷となり得る。教員の負担を減らすために、学校事務職員への期待として役割の転嫁が検討されているが、既存の業務に加えられると教育職よりもマンパワーが少ない以上いずれ立ち行かなくなる。また、教育職よりも給与水準の低い行政職に今以上の責任が課せられることに疑念がある。外部委託や業務の自動化など民間企業と比較して後回しにされている仕組み自体の変革を早急に検討するとともに、授業料の廃止など教育に係る予算の見直しを改善してほしい。「足し算」だけではなく「引き算」もなければ、人口減少の未来において学校は機能不全になる。(北海道、公立高校)

 まず、今私たちがしたいことは2つ。1つは業務の大幅な改善です。もちろん学校ごとにすべきことであるのは事実ですが、校長によって、その意識の違いは雲泥の差です。どれだけ現場で声をあげても、校長が無知だと全てが白紙に戻り、そこに費やす職員の労力と時間は無駄になります。
 自治体で、減らすべき基準、教職員の意識の調査をし、業務削減に向けた校内での対話など、現場の職員の声を元に自治体が削減すべき内容を管理者に指示してもらうのが早いのではないかと思います。少ない人数で回すためには、減らすしかない。減らせば、環境は良くなり、実質的に教員が持続可能な仕事として、選択肢に入る人も増えると思います。
 もう1つは、私たち現場の人間も、時間外にできないことは、やらないことです。私たちはやると言われたことは、自分の生活を文字通り犠牲にしてでも行います。多くの主婦の方は定時で帰りますが早朝に起きて仕事をしています。介護をしている私は、土日は仕事に使えませんし、それでも、朝4時に起きて教材研究をします。研究ごとの準備は自宅で行います。少なくとも私の周りの職員は、自分を犠牲にして、仕事をして、学校が成り立っています。そして、学校ではそれを優秀だとして評価します。我々の労働感も見直す必要があるのは確かです。校長も休みの日にも学校のグループLINEであらゆる連絡をしてくる方なので、その辺りの意識が低いのは否めませんので、私の学校特有のところもあるかもしれません。
 でも、その心の余裕はありません。必死に働いています。どうか、教員が人間らしい生活を送れるよう、業務改善の第一歩にお力添えいただきたいです。(福岡県、公立小学校)

地域・家庭への働きかけの必要性

計画的な育成、採用と教員の魅力がまた光るように、待遇や環境改善に取り組んでほしい。特に、地域や家庭が担うべきことを学校にだけ求めないでほしい。保護者の過剰な主張に応えなければならないのが、最も教員を疲弊させている(神奈川県、公立小学校)

関連教員の業務負担増加と超過勤務の悪化。管理職も対応負担増加。生徒への学習指導と成績評価が適正にできていない。
教員が教員でなければできない仕事に注力できる環境に。特に中学校・高校については、部活動を一刻も早く地域に移行してください。望まない教員が、生徒の自主的自発的教育課程外活動に休日を含めた勤務時間外を奪われる不合理は全く説明がつきません。少なくとも、望まない教員が部活動顧問を強いられない環境を整えなければならないことは最早自明です。やりがいを持って部活顧問をしている教員もいる一方で、苦しみ疲弊している教員やその家族も少なからずいます。何がともあれまずは、「教員に部活動顧問は強制できない」と広く周知してください。(長野県、公立高校)

教員不足の影響(保護者・児童生徒からの声)

保護者からの意見

新採用の先生が7月から病休に入られ、8月で退職されたため、現在は主幹教諭が担任を行っている。新採用の先生が退職されたということが保護者としてもとてもショックでした。何が原因かは分かりませんが、その先生のその後が心配されます。また、残された子どもたち、職員の不安や負担はとても大きいと思います。このようなことは起きないでほしいと思いました。 【新潟県、公立小学校】

コロナで休む担任がいると、担任を持たないサブの先生だけで手が回らず校長教頭が代わりに授業に入る。普段からサブの先生がもっと増えて余裕があれば良いのにと思う。【愛知県、公立小学校】

保護者、子供達から慕われているような先生が、所謂昔の、古い考えの先生にパワハラ、モラハラ等の嫌がらせを受けて休職→退職している。子供達がそういう場面を目の当たりに出来てしまうので、本当に良くない。子供達はよく見ていて、子供達同士では話題に上がるも、内申に関わったり逆らえないので何も言えないそう。そんな教員ばかりが残る。そして幅をきかせている。校長が把握して居るのかは不明。 【神奈川県、公立中学校】

・4月時点、教員不足で、昨年度まであった算数少人数クラスが実施できず

・5月末時点、スポーツフェスティバル後、3年生の先生1名が病欠に→副校長がクラス担任を兼任

・8月31日、1年生、2年生の先生各1名の後任が見つからず、1年生には専科の主任教員、2年生には校長が担任、3年生は引き続き副校長とのメールあり。

・教員が3名不足して、目の前に子どもたちがいる状態。

また、コロナで急な数日間の休みもあるなかで、「まわしながら、人を探す、組織を整える」ことを一校で完結するのは無理だと、強く感じています。この深刻な状況が、どのくらいの温度感で行政側(区役所、教育委員会)にどれだけ知られているのかわかりません。【東京都、公立小学校】

1学期途中で転任後一年目の若い美術教師が鬱を患い、途中休職したが、二学期になっても代替教員が見つからない。 【東京都、公立中学校】

3年生から1クラスになったが、発達障害児、グレーゾーン児、家庭の問題で情緒不安定な児童が多かったため学級崩壊が起きた。そのため4年生からは2クラスに分かれたが、専科・フリーとして割り当てられた教員枠を学級担任に流用したため、教員の担当コマ数に余裕がない。
また、学級崩壊の余波で授業を飛び出す児童や喧嘩等の対応にまわれる教員・管理職の手が足らず、学校の治安が悪い状態が続いて3年目になる。
私の息子は学級崩壊の影響で不登校になったが、学校の別室登校ができるようになっても対応できる教員がいないという理由で勉強を見てもらえず、別室にひとりで放置されていた。見かねて保護者の私が一緒に登校して、息子が放置されるコマに教科指導をしていたほどだった。 
学校が福祉施設になることは望んでいないが、教育機関として子どもにきちんと質が担保された教育を提供するために必要な環境を整えるため、教員の数を増やすことは今の世の中で必要な改革だと思う。教員数を増やすのが難しければ、教員より低予算で済む学習支援員を1学年あたり1-2人配置したり、事務員を児童・生徒数100人に対して1人配置するなどして、教員が本来の業務である教科指導に専念できるよう環境整備してほしい。【三重県、公立小学校】

産休に入る体育の教員の代わりが見つからないようです。そこで特別支援学級の担任二人が体育教員なので、分担して受け持つことになりました。それぞれ、副担もされ、特別支援コーディネーターと進路指導もされています。体育の授業と(支援級の)子供の授業がかぶる時は、子供は支援員さんが見ています。授業にはならず、自習です。中3なのに心配です。去年から産休入りはわかっていたはずなのに、なぜ見つけられなかったのでしょうか?なぜ体育が自習にならずに、特別支援学級が自習になるのでしょうか?同じ自治体内の他の学校も同じような状況です。支援員は教員ではなく、支援員単独で授業を見るのはおかしい。授業準備もされておらず、いきあたりばったり、その場しのぎ。意味なし。教育委員会に訴えても、日本全国で教員が足りませんからって開き直っています!【福岡県、公立小中学校】

児童生徒からの意見

いつも忙しそう。先生がコロコロ変わって、誰が担任なのかわからないかんじ。 
支援学級の担任の先生が体育を教えることになり、私達は違う先生に習うことがある。
いるときもあれば、いないときもある。支援員さんだけのときもある。 【福岡県、公立中学校】

担任がいなくなったクラスに、教務主任が入り担任をしている。教頭先生が教科を教えている。 【千葉県、公立小学校】

まとめ

前回実施した年度当初のアンケートと比べると今回は回答者の母数が小さくはなっていること、また教員不足が起きている学校の関係者ほど回答しやすい傾向がある点にも留意する必要があるものの、教職員向けアンケートの結果からは、始業式時点よりも夏休み明けのほうがより事態が悪化している可能性が見てとれます。

今回も自由記述欄には、厳しい学校現場の状況と、早急に効果のある施策を打ってほしいという切実な声が数多く寄せられました。1つ1つのコメントを読んでいくと、教員不足の状況が、現場の教職員を心身ともに追い詰め、更なる欠員発生を招いている悪循環がよく分かっていただけるかと思います。

現場の逼迫は当然ながら子どもたちの学びやケアに影響します。本当は必要なのに、余力がなくきめ細かなサポートができない、授業すらまともに実施できないという悲痛な声をぜひ、政治や行政の関係者の方々、広く市民の方々に知っていただきたいと思います。

状況は厳しいですが、いいニュースもありました。
つい先日(2022年11月1日)、文部科学省は、産休や育休に入る教員の代替教員の確保が年度途中だと困難になっているという声を受けて、来年度から一定の条件の下、年度当初から代替教員を配置できるように運用を改めることを決め、全国の教育委員会に通知しました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/33bba8576fa2ba77c1e483f55021f3e6914eb82d

産休・育休代替が見つからない問題は、このことでかなり改善される可能性があり、来年度からの効果が期待されます。#教員不足をなくそう!緊急アクションとしても、状況を見守りたいと思います。
同時に、病休への手立てや、離職防止、採用の工夫など、その他の手立てについても引き続き好事例を集め、発信していきたいと思います。

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(写真:高橋真樹、Hakuba SDGs Labo、白馬高校、横山義彦)

環境ジャーナリストの高橋真樹です。今回は、公立学校で子どもや先生たちを取りまく温熱環境を変えようとするプロジェクトを紹介します。ご存知のように、学校の校舎は、夏は暑く冬は寒いのが当たり前でした。このような過酷な環境が放置されてきたことで、子どもたちの学習意欲や健康、さらには自治体の財政にまで悪影響を及ぼしています。

背景にあるのは、学校の建物がほとんど断熱されていないという事実です。状況を変えるために声をあげたのは、子どもたち自身でした。子どもたちと地域の大人が協力して、教室をDIYで断熱改修するという前代未聞のプロジェクトが、各地で動き始めています。その現状と課題をお伝えし、教育環境のあり方を、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

教室は暑くて寒いのが当たり前?

そもそも日本の学校には、温度規定があってないようなものでした。文科省が定める教室の温度基準(学校環境衛生基準)では、「10度以上、30度以下が望ましい」と定められていました(2018年まで)。しかも努力目標にすぎないので、守っていなくても問題にはなりません。そのことが、夏は熱中症、冬は風邪やインフルエンザなどの流行が起こりやすく、また子どもたちが学習に集中できない要因ともなってきました。

なお、大人が働くオフィスの温度規定である事務所衛生基準規則(厚労省)では、約50年前の1972年の時点で、「17度以上、28度以下になるように努めなければならない」と定められています(2022年に下限を18度以上に改正)。子どもは、大人に比べ心身の発達が成長途上であるにもかかわらず、環境は過酷なまま放置されてきたのです。

変化が起きたのは、2018年です。その年の夏に記録的な猛暑となり、児童・生徒の熱中症が相次ぎました。政府は教室へのエアコン設置を急がせて、公立の小中学校(普通教室)のエアコン設置率は、2018年の約60%から2022年の約96%に上昇しました。また、同じ2018年に学校環境衛生基準もようやく「17度以上、28度以下が望ましい」と改定されます。さらに、今年(22年)の4月には、下限室温が17度から18度に変更されました。なお下限の変更については、2018年にWHO(世界保健機関)が、「冬の室温として18度以上」を強く勧告したことが影響しています。

エアコン設置で解決するか

ただ、室温基準が改められたとは言え、拘束力のない努力目標にすぎないことはこれまでと変わりません。本メディアを運営するNPO法人School voice project が実施した先生方へのアンケート(回答者109名)では、この規定を「すでに知っていた」と回答したのは23%(「だいたい知っていた」と合わせると64%)、さらにこの基準を「しっかり守れている」と回答した人の割合は、東日本では約30%、西日本では約10%と低いレベルにとどまります。

アンケートでは「基準を守れない理由」として、エアコンの故障や能力不足により、稼働しても適温にならないという機械的な問題や、管理職しか操作できないという仕組みの問題も指摘されています。教室の各場所に温度計を設けるなどして、適切なルールの下で空調を動かしている学校はごく一部です。

また、エアコンの普及も現場に新たな課題を突きつけました。出力の大きいエアコンは、ランニングコストの増大にもつながっています。断熱されていない大空間で空調を動かすと、温度ムラが起こりやすく、かつエネルギーの大部分は建物の隙間から抜けていきます。結果として、コストばかりが上昇し、教室は快適にならないという悪循環が起こっています。

実際、予算がかかりすぎるために規定の時間や温度に達するまでは、エアコンを使ってはならないなどと、厳しい規則を課す学校や自治体も多くあります。22年9月には、沖縄の県立高校の生徒がこの稼働基準を変えるよう声をあげ、県の教育庁が基準を変更したこともニュースとなりました。(ニュース記事はこちら

室温を適切に保ちながらランニングコストを増加させないためには、エアコンの導入とセットで教室の断熱を考える必要があります。しかし断熱の意義は、社会的にまだ周知されているとは言えません。そんな中、高校生たちの積極的な行動が事態を切り開いていきます。

高校生による断熱改修プロジェクト

断熱改修プロジェクトが立ち上がったのは、スノーリゾートで知られる長野県白馬村の白馬高校です。冬の教室では石油ストーブが使われますが、ストーブの近くの席は暑すぎて、逆に窓際は寒すぎるという温度ムラの激しい状態でした。高校で環境問題に取り組んでいた手塚慧介さん(当時3年生)ら3人の高校生は、教室を断熱改修すれば暖かくなるだけでなく、省エネも実現できることを知り、2020年初めに学校に断熱改修の提案を行います。

(名峰に囲まれた長野県白馬村の景色)

公共施設の改修となると、学校の判断だけでなく、教育委員会の許可も必要です。しかも生徒が主体になるという話など、聞いたことがありません。担任の浅井勝巳先生は、「当初は、良いことだけどハードルが高すぎるので、生徒たちを傷つけずにどうやって納得してもらうか考えていました」と苦笑します。しかし、生徒たちが粘り強く「どうしたら実現できるか」と模索を続けていく中で、学校側も「なんとかして子どもたちの熱意に応えたい」という姿勢に変化していきます。生徒たちへのアンケートでも、ほとんどの生徒が「教室が寒い」、「手がかじかんで授業が受けづらい」と感じており、断熱改修が求められていました。

最終的に、学校や教育委員会の許可を得た手塚さんたち3人は、断熱改修の専門家に直接交渉して、ワークショップを指導してもらう協力を取り付けました。さらに、地元のホテルやスキー場、環境グループなどに呼びかけて、教室ひとつ分の改修に必要な60万円以上の資金を集めます。

(白馬高校断熱プロジェクトの最終日に参加したメンバー)

体験を通じた学習効果も

3日間にわたる断熱DIYワークショップが行われたのは、2020年9月。主催した3人の高校生の同級生や後輩たちが、入れ替わりでおよそ50名ほどが参加しました。また、地元の工務店や、環境活動に取り組む大人たちも協力しました。

(ワークショップ終了後に行われる振り返りの会)

作業は、高校生と大人が混ざり、いくつかのグループに分かれて進められました。具体的には、窓側の壁、廊下側の壁、天井裏にそれぞれ断熱材をカットして設置することと、廊下側の窓を断熱性の高いものに入れ替えることでした。断熱材を入れた後の壁は、木の板で覆ってきれいに塗装します。また、外側に面する窓には、内窓となる木製サッシを設置しました。

(廊下側の壁に断熱材を入れ、その上に貼った木材を塗装する)
(天井に断熱材を入れる作業)
(断熱材を測ってカットする)

プロが危険のないように指導してくれたおかげで、高校生たちは「自分たちでもできる」という手応えを感じたと言います。浅井先生が言います。「同じことを授業の一環でやったら、こんなに大勢の生徒が自主的に参加することはなかったはずです。生徒自身が呼びかけたからこそ、これだけ広がったのでしょうね。何よりの学びになったと思います」。

断熱改修から2度の冬を越えて、その効果を伺いました。冬が近づくと、ストーブを着けていなくとも、他の教室より2~3度暖かくなりました。また、ストーブを着けた後では、改修した教室はストーブを着けるとすぐに暖かくなり、また極端な温度ムラも解消されました。浅井先生は、「夕方も教室が寒くないので、生徒たちの学習意欲も持続していました」と語ります。

温度以上に生徒たちが喜んだのは、教室の見た目の変化です。木製の壁やサッシに囲まれ、「雰囲気が良くなって嬉しい」という声があがりました。主催した手塚さんは、こう総括します。「本当に良かったと思います。断熱改修は楽しいし、暖かいし、見た目もいいと、みんなが実感してくれました。省エネにもなるので環境にもいいから、他の学校にも広がればいいですね」。

(教室に木製の内窓が設置された)