
「自由進度学習」を手放して見えたもの。授業を“つくる”プロセスを、子どもや同僚にひらく価値
長野県にある軽井沢風越学園(以下、風越学園)は、子どもと大人がともに「つくる」ことを大切にしている幼稚園・義務教育学校です。
2022年4月に入職した算数・数学科スタッフの佐々木陽平さんは、前任校で大切にしてきた練り上げ型の一斉授業を手放し、風越学園で自由進度学習に挑戦。自身の違和感や子どもたちの声、同僚との対話を通して「1時間に1問だけ一人ひとりがじっくり考える授業」や「異学年でまざり合う授業」へと、授業を変化させてきました。
授業づくりに行き詰まりや葛藤を感じたとき、佐々木さんはどのように自身の思考やプロセスを周りに「ひらき」、子どもと同僚とともに授業を「つくる」ことを重ねてきたのでしょうか。佐々木さんに試行錯誤のプロセスを聞きました。
子どもたちに委ねながら、授業をつくる
——— 風越学園のスタッフとして働くようになったきっかけを教えてもらえますか?
前任校で大切にしてきたのが、1つの問題についてみんなで考えて話し合い、学びを深めていく「練り上げ型」の一斉授業でした。大学時代から研究室の仲間とその実践を大切にしてきたこともあり、強い思い入れがありました。ただ、あるとき「ちょっと手放したいな」と思うようになったんです。
理由の1つが、新型コロナウイルスの流行です。当時は、子どもたちが登校しても集団での話し合いは難しい状況でした。さまざまな制約の中で何ができるかを模索するうちに、「教師が授業の落としどころを握って全体で話し合うよりも、子どもたちに活動をぐっと委ねた方が、よく考えるな」と気づいたんです。むしろ、自分が子どもたちの活動を邪魔していたんじゃないかという感覚もありました。
もし、練り上げ型の一斉授業を手放すなら、新しい学校でチャレンジしたい。そう思っていたとき、たまたまSNSを眺めていたら風越学園の教員募集の投稿が流れてきたんです。「こんな面白そうな学校があるんだ」と興味を持ちましたし、授業で自由進度学習を実践していることにも惹かれました。
僕自身、数学を「つくる」ことを大切にしてきたので、風越学園の「つくる」という姿勢に、通じるところがあるかもしれないと思ったのも大きかったです。思い切って応募したところ、ありがたいことに採用していただきました。
※自由進度学習:子どもが自ら学習計画を立て、個々のペースや理解度に合わせて課題に取り組む学習形態。佐々木さんは当時、竹内淑子氏(2019)の『教科の一人学び「自由進度学習」の考え方・進め方』黎明書房を参考にして実践していました。
自由進度学習を手放した理由
——— 風越学園では、どのような授業をしていたのでしょうか?
自由進度学習と言ってもやり方はさまざまなのですが、僕が入職してからは、思考を表現するような学習パッケージ(子どもたちが取り組むプリントのセット)を使った自由進度学習に取り組んでいました※。学習パッケージは、全員が期間内に終えてほしい基礎編と、進んでいる子がやってもいい発展編に分かれた構成になっています。ただの計算練習や例題演習にはしたくなかったので、「この問題についていろんな方法で考えてみよう」や「答えが出たらこんなことを考えてみよう」という課題の構成にして、思考を深められるように工夫していました。

ただ、それがなかなか機能しなかったんです。答えが出たら次のプリントに進んでしまう子どもが多く、「1つの問題についてじっくり考える」という時間にはほとんどなりませんでした。子どもたちにとっては、「プリントを何枚やったか?」や「問題を何問解けたか?」という学習の進捗の方が、手応えを得やすかったんだろうなと思います。それに、「どこまでいったら深く考えたと言えるのか」という共通認識を子どもたちと持つことも、今考えると難しかったなと思います。
このままこのやり方を続けても、「ものを深く考えること」や「1人ひとりの自分らしさを大切にすること」はできないなと感じるようになりました。次々に問題を解くだけでは子どもの思考プロセスは見えてこないし、正直「全然面白くないな」と思ってしまって(笑)。僕は、子どもたちが頭を悩ませてじっくり考える姿が見たかったんです。
それで、自由進度学習をやめることにしました。その時点で決めていたのは、「1時間に1問だけ解く」ということだけです。2問も3問も解く必要はなくて、まずは1つの問題を、目の前の子どもたちと一緒にじっくり考えてみようと決めました。

授業を変えていくプロセスを、ひらく
——— 自由進度学習をやめると決めてからは、どのようなことをしていったのでしょうか?
自分の思考や授業をつくっていくプロセスを「ひらく」ことをしていきました。まずは、ある同僚に、「自由進度学習をやめたいと思っている」と伝えました。やめることに対して何か相談したかったわけではないのですが、やめるプロセスを少しでも同僚に知っておいてもらえることで巡り巡っていいことがあるんじゃないか、という感覚があったんです。校内で実践記録を公開し、そこで、やめる宣言をしました。そして、子どもたちにも自分の意向や授業で大切にしたいことを伝えました。
——— 授業を変えていくプロセスを周囲の人に伝えていくことに、怖さはありませんでしたか?
授業を公的に「ひらく」ことには、あまり抵抗感はありませんでした。大学院時代から、いろんな方の授業を見せてもらって語り合うことはしてきたので、授業を公開する文化には染まっていたんです。これまで同僚から負の感情を持ったフィードバックをもらったこともあまりなかったので、同僚に対して「ひらく」ことの怖さはなかったですね。
風越学園でも、「つくる」プロセスを重視している実感はあります。印象的だったのは、スタッフ間での話し合いの末、ある授業の設計について保護者にひらいてみる試みをしたことです。そのときに、「あ、授業の相談って、保護者にもしていいんだ」と気づいて。相談することですぐに何かいいフィードバックが得られるかはわからないけど、その方がめぐりめぐっていいことがあるんじゃないか、みたいな感覚は明確にありました。
ただ、子どもたちに対して「ひらく」ことには、少し躊躇しました。「こういう思いがあるから、自由進度学習を手放したい」と伝えたとき、どう思われるんだろうという怖さがあったんです。実際に伝えてみると、不満が出たり反発されたりすることはなく、それぞれが受け取ってくれたような感じはありました。風越学園と言えども学校なので、「大人が言ってるから…」という大人と子どもの力関係は働いていたかもしれませんが…。

子どもたちの声から、異学年で「まざる」試みを
——— 実際に授業を変えてみて、子どもたちの反応はどうでしたか?
全員で同じ問題について考える授業に変えたので、自由進度ではなく一斉授業に近いかたちにはなったと思います。工夫した点は、1つの問題について考えたプロセスをなるべくプリントやノートに書き残すよう、子どもたちに伝えながら進めていったことです。そんなに特別なことはしていなくて、素朴な授業だと思います。
ただ、続けていく中で、今度は子どもたちから「1時間に1問だけ考えるのはきつい」という声が上がってきたんです。確かに、ほとんど手が動かずに1時間が過ぎてしまう子や、深く考えきれずに終わってしまう子もいました。深く考えることよりも、知識を得たいというニーズが子どもたちの中に段々募ってきたというか。
その声を聞いて、僕なりにいろんな工夫をしてみたものの、結局、今やっていることが子どもたちの手元にないような感覚がありました。そのときは、結構苦しかったですね。
——— それから、授業をさらに変えていったのですね。
そうです。当時は学年ごとに分かれて授業をしていたのですが、同僚や子どもたちとの対話を重ねていく中で、異学年で授業をすることになりました。
実は、授業を学年ごとに分けるスタイルは、僕の強い希望で始めたものでした。でも、子どもたちの声を聞く中で「このまま自分のやりたいことを突き通すのは違うな」と思ったんです。風越学園にはもともとまざる文化があって、「土台の学び」という教科の本質を大切にした授業以外は異学年で行っていました。それもあって、子どもたちにとってはまざることは文化として根付いていたんだと思います。単学年だと、ずっと同じコミュニティの中で関係性が固まってしまう苦しさが子どもたちの中にあったようで、異学年での授業でまざりながら学ぶ方が、新しい関係性のなかで学ぶよさもありました。
子どもたちの声を聞き、同僚との話し合いのすえ「土台の学び」の時間は中学の3学年がまざって授業をするようになりました。それぞれが自分の問題集に取り組む時間と、みんなで問題について考える時間に分けて展開しています。学年がまざっているからこそ、子どもたちは窮屈さを感じずに学んでいる感じはありました。僕は2026年度から小学生の授業を担当することになったので、離れてしまったのですが、今も子どもたちやスタッフが話し合いながら、授業を「つくる」プロセスは続けています。
授業をひらき、一緒につくる過程に、価値がある
——— これまでのプロセスを振り返ると、どのようなことを感じますか?
決して順調なことばかりではなく、苦しい時間も多かったですが、無駄な時間はなかったと感じています。自分のやりたいことができなかったり、自分がやりたいことをやっても子どもたちがそれを受け入れられなかったりと、苦しさはありましたが、そもそも自分1人で授業をやっているわけじゃないので、自分だけのやり方を突き通すのも変な話なんですよね。
いろんな人に支えられ、一緒に授業をする子どもやスタッフがいるからこそ、必要な苦しみも生まれるし、一方で面白いことも起きるんだと気づきました。
正直、授業や思考のプロセスを「ひらく」のは手間もかかるし、しんどい時間も多くあります。ミーティングが増えたり、やり取りがうまくいかず失敗したりすることもありますし、必ずしもすべてが良いことばかりではありません。
けれど、自分1人じゃできないことも、プロセスをひらいて一緒に考える中で、腹を割って話せる仲間が増えていった実感はあります。僕が中学校を離れた今でも、みんなでつくってきた授業の枠組みが残り、子どもやスタッフが楽しんでくれている姿を見ると、ひらいてきたからこそ残るものがあるんだなと思います。失敗したらみんなで反省して次に活かしていければいいし、そうやって周りとともに授業をつくっていくこと自体に、価値があるんだと感じています。
たった1人でいい。腹を割って話せる仲間を見つけて
——— 子どもたちや同僚とともに授業をつくっていきたいと感じている方が、まずできることは何でしょうか。
僕が伝えたいのは、「仲間をつくること」です。これは大学時代にお世話になった教授から、ずっと言われてきた言葉でもあります。「職場で、まず仲間をつくりなさい」と。
実は風越学園に来た当初、算数・数学の授業について、すぐに腹を割って話せる仲間がいたわけではありませんでした。きっかけとなったのは、ある同僚の存在です。自由進度学習をやめたいという話をしたときに、「なんで自由進度学習をやめたいの?」「なんでこれをしたいの?」と、根掘り葉掘り聞いてくれて。そこから少しずつ、腹を割って話せるようになっていきました。
本音で話せる仲間が1人いるだけで、学校の景色って全然違ってくると思うんです。何人も仲間をつくる必要はありません。たった1人でいい。たとえ目の前の課題が大きく進展しなかったとしても、その仲間と一緒にあれこれ考えること自体が、大きな喜びになるはずです。1人で抱え込まずに、まずは腹を割って話せる仲間を1人見つけることから始めてみてください。

同じカテゴリの記事
実践を知る|授業づくり・学校生活
学校に関わる人の声から学ぶ
最新記事やイベント情報が届くメールニュースに登録してみませんか?

-
建石尚子










