
「資源につなぐ」だけじゃない。“聞く”をベースに、子どもの環境に働きかけるスクールソーシャルワーカー
すべての子どもが安心して学校に来られるように、ソーシャルワークの視点から子どもたちを支援する専門家であるスクールソーシャルワーカー(以下、SSW)。全国的に配置の拡充が進んでいるものの、その専門性が十分に理解されていない現状もあります。
学校現場にソーシャルワークの視点が入ることで、子どもたちを取り巻く環境はどのように変化するのでしょうか?
『包摂する教室 「子どもの声」を聴くために欠かせないもの』の著者であり、2016年よりSSWとして学校現場と関わりを持つ小谷綾子さんに、SSWの役割や教職員がソーシャルワークの視点を持つことの価値を聞きました。
子どもたちの「環境」に働きかける人
——— SSWとは、そもそもどんなことをする人なのでしょうか?
一言で表すと、「すべての子どもが安心して学校に来られるように、環境に働きかける人」です。
家庭環境に何かしら問題を抱えている子どもたちが、学校で見過ごされないようにアプローチをしていくことに重きを置くと思われがちなですが、SSWはそのような子どもたちのため「だけ」にいるわけではありません。今日元気に学校に来られている子ども「も」、明日も元気に来られるような環境をつくっていく。そんな考えをベースにしています。
——— SSWの立場から見る「環境」とは、なんでしょうか?
「環境」というと、物理的な環境に意識が向きがちだと思いますが、子どもたちを取り巻く人の人間関係も「環境」に含まれると考えています。例えば、先生と子どもの相性や先生と管理職の相性も環境の1つです。大人のコンディションはすべて子どもに還元されるので、時にはそういった関係性にアプローチしていくこともあります。
——— 実際に出勤してからは、学校でどのようなことをしますか?
私は学校配置型(※)のSSWなので、担当する小学校に出勤した後は、管理職や児童支援を担当する先生、コーディネーターの方と打ち合わせをします。週1日の勤務なので、それまでの1週間の出来事や相談内容を共有してもらい、それに応じて、その日の過ごし方を決めていきます。先生と一緒に児童相談所に行くこともありますし、保護者との面談をすることもあります。特に予定が入らないときは、校内を歩いて子どもたちの様子を見るようにしています。学区内の中学校から要請があれば、そちらに出向くこともあります。
※ SSWの配置形態は、教育委員会を拠点として複数校を広く支援する「教育委員会配置型」と、特定の学校に拠点を置いて活動する「学校配置型」に大別される。(参考:文部科学省 SSWガイドライン)
——— 先生からは、具体的にどのような相談があるのでしょうか?
「教室を飛び出す」「友達とよく喧嘩する」「先生に攻撃的な態度を取る」など、相談内容はさまざまです。虐待の可能性がありそうな、気になる保護者の話をされることもあります。
そのような話を聞いた際には、「どのようなことが気になるのか?」「なぜ問題だと思ったのか?」など、まずは先生のお話をじっくりと聞きます。例えば、「教室で暴れる」という相談があった場合は、「いつから暴れるようになったのか?」「どんなタイミングで暴れるのか?」なども聞き、その行動が起こる前との境目に何が起きたのかを探っていきます。
もしかしたら、家で虐待されているのかもしれないし、友達との関係が上手くいっていないのかもしれない。もしくは、先生自身のコンディションの影響で「問題」として見ていたのかもしれません。その子どもの問題ではなく、先生自身の問題であることもあり得るので、先生の考え方には必ず触れるようにしています。
そんな風に、ちょっとした相談から先生のお話を聞いて深く掘り下げていくことで、いろんな可能性を考えていきます。もし「教室に入れない」という相談を受けたとしても、単純に「教室に戻すためにどうしていくか」という話はしません。
「資源につなぐ」だけではない
——— 特に印象的だった出来事はありますか?
別の自治体でのことになりますが、ある中学校で「最近、学校に来ていない生徒がいる」と相談を受けたことがあります。先生に話を聞いていくと、家庭訪問をしようとすると保護者はいつも学校まで来てくれるようで、なかなか生徒と会えない状態が続いていました。
先生にとっては、「学校まで来てくれる協力的な保護者」という印象があったようですが、不登校の子どもを持つ保護者にとって、学校に行くことは心理的な負担もあるはずです。それなのに、いつも学校に来てくれていたわけです。保護者のそのような行動も生徒を取り巻く環境の1つとして考えていくと、その点は気になることでもあったので、「家庭訪問をされたくない理由があるのではないか?」ということを先生にお伝えしました。
あるとき、先生が家庭訪問をすると、家の中は床が見えないくらい物が溢れていたんです。一方で、きょうだいは学校に行っていました。さらに話を聞いていくと、その生徒には発達特性があり、他のきょうだいのように、自分で学校に行く準備を整えられない状態であったこともわかりました。
そのご家庭は、地域からも孤立している状態であったため、最終的に、児童相談所や社会福祉協議会、生徒の発達面をサポートする機関などの資源に繋いでいきました。
※ 個人のプライバシー保護のため、本質的な内容を損なわない範囲で、事例の一部を改変して記載しています。
——— 課題が見えてきたからこそ、必要な資源につなぐことが出来たのですね。
そうなんです。SSWの仕事は、単に「資源につなぐこと」だと思われがちですが、実際はその前から始まっています。先生からのちょっとした相談からヒアリングを重ねていき、「背景にはどんな可能性があるのか?」を考えていきます。そして、子ども自身を取り巻く環境を紐解いていくことで、必要な資源につなぐことができるんです。例えるなら、SSWの役割は「交通整理」のような感じかもしれません。

ソーシャルワークの視点を学校現場に取り入れる
——— 学校の中で、SSWの認知度は上がってきていると感じますか?
全国に目を向けると、まだまだSSWの存在やその役割は正しく認知されていないように思いますが、私が関わっている学校では、少しずつ認知度が上がっているように感じます。最近は中学校からの要請も増えてきましたし、先生方と一緒に福祉的な視点と教育的な視点を合わせて、生徒を取り巻く環境について考えられるようになりました。
別の学校の話になるのですが、7年ほど前にある中学校の学年主任から相談を受けたことがあります。「この春、入学してくる子どもたちの中で不登校生はゼロです。この先、不登校になる子どもがいたとしたら、それは中学校の責任です。そうならないためには、どうしたらいいですか?」という内容でした。
私からは、ソーシャルワークの視点を交えながら、「生徒の、いわゆる“問題行動”とされるような表出に対して指導するのではなく、なぜその生徒がそういう表出をしたのかに目を向けたらいいのではないか」とお伝えしました。例えば、提出物を出さない生徒がいた場合、学校では提出物を出すように迫る働きかけをしがちですが、出せない理由があることを前提に話をしていくことが必要なんです。
その中学校では、「SSWだったらどう考えるか?」という視点で生徒と接することを続けていました。最終的に、その学年が卒業するときに不登校だった生徒は1人だけだったんです。先生からいただいたメールには、1人を不登校にしてしまったことへの責任が綴られていましたが……。
この中学校のように、先生方が持っている教育の専門性にソーシャルワークの視点を加えることで、学校システムを変化させていきやすいのではないかと思っています。
※ 参考:『包摂する教室 「子どもの声」を聴くために欠かせないもの』p.250 著者:小谷綾子
不適切な行動をどう受け止めるか?
——— SSWとして学校現場にいて、課題に感じることはありますか?
子どもの言動に対して、「その言動は子ども自身が起点になっている」と過度に思っているところが気になります。
例えば、暴言を吐く子どもがいたときに、学校では、「その子自身の意思で暴言を吐いた」と捉え、指導の対象にしがちだと思います。一方で、ソーシャルワークの視点では、「その子が暴言を吐くに至る背景や意味がある」と考えます。つまり、環境に目を向けるんです。どんな人も環境によって表出は変わるもので、100%自分の意思で行動しているとは、本来考えにくいのです。
「その子は、暴言を吐くことでしかそこにいられないのかもしれない」
「暴言を吐くことまでして、なぜここに適応しようとしているのか?」
そんな風に考えていくことで、暴言を吐く行動の背景に何があるのかを探っていくことができます。学校では、「子ども自身がそうしている」のではなく、「子どもがそうさせられているのかもしれない」という視点で、子どもを見れるようになるといいなと思っています。
——— 大切な視点だと思います。一方で、そういった視点を受け入れにくい先生もおられるのではないかと思います。そのような場合は、どうされるのでしょうか?
ソーシャルワークの視点が伝わりにくいと感じたときは、「この子にどんな大人になってほしいですか?」「そもそもあなたはなぜ先生になろうと思ったのですか?」などと聞くようにしています。すると、先生自身の想いを話してくれます。
それを叶える際の視点として、2つの研究を紹介します。1つは、子ども期の逆境的な体験が、将来どのような影響を与えるのかについての研究です。身体的虐待や心理的虐待など8項目を「逆境的な体験」としていて、それらを体験した子どもは、自殺未遂やアルコール依存、違法薬物の使用など、精神的・身体的な健康への負の影響が大きくなるという結果が出ています。

※ 参考:Vincent J Felitti 他による「The Adverse Childhood Experiences (ACE) Study」(1998年)。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)と医療保険会社による共同研究データの論文に基づく。
一方で、ポジティブな体験がおとな期に与える影響についての研究もなされています。その研究結果によると、逆境的な体験をしても、ポジティブな体験の数が増えるほど、健康への負の影響を与える割合は低下することがわかっています。
ポジティブな体験とは、「学校に居場所がある」「自分に心から関心を持ってくれる親以外の人がいる」など、7項目。そのうちの3〜5項目を満たせると、おとな期のさまざまな健康リスクが低減され、逆境的な体験があったとしても、それを打ち消すことができるのです。
ポジティブな体験には、学校にいる大人たちがアプローチできることも多く含まれています。

※ 参考:山岡祐衣「子ども時代の逆境的体験と肯定的な体験―ポジティブなペアレンティングを支えるために―」(『チャイルドヘルス』2024年Vol.27 No.5、診断と治療社)
子どもと先生の間に愛着関係がないと、先生の想いは届きません。なので、まずは子どもが安心できる環境をつくることが必要なんです。その子が「ここにいていいんだ」と思える状態があって、初めて先生の指導も届くものだと思います。そんなお話をすると、多くの先生は理解してくださいます。
一方で、「(体罰を含めて)厳しく指導してもらったからこそ、今の自分がある」という成功体験を持つ先生もおられます。ただ、それは先生自身の傷の部分でもあると思います。暴力を受けていた過去をいい体験として意味づけすることで、自分の中に取り入れているのかもしれません。本来、暴力を受けていい子なんていないのですが、そんな風には思えず、葛藤を抱えていることもあります。
そういう先生には、状況や関係性によって「本当はそんな指導は受けなくても良かったのかもしれませんね」とお伝えすることもありますし、そのまま蓋をしておくこともあります。
「いつもとちょっと違う」を気軽に話して
——— 小谷さんが望む学校のあり方を教えていただけますか。
ハウツーに頼らない学校になってほしいなと思っています。目の前にいる子どもの状態やその子の家庭環境は、一人ひとり違います。そして、それぞれの先生のアイデンティティや子どもとの関わり方も違う。ソーシャルワークの視点では、すべてのケースにおいて環境が違うので、ハウツーが当てはまるわけがないんです。過去の事例を参考にすることは大事ですが、「ハウツーがあれば上手くいく」ということはあり得ないと思っています。
では、何が大事なのか?それは、学校現場でいろんな先生が「子どもの表出が少しおかしいな」と思ったときに、「この子の背景に何があるんだろう?」と考える視点を持つことだと思っています。それによって子どもに対する大人の関わり方は変わるので、結果的に子どもの表出は変わっていくと思うんです。
例えば、授業中に立ち歩く子どもがいた場合、その行動だけを見て立ち歩かないように指導する先生はまだおられます。それ自体が間違っているわけではありませんが、「なぜ立ち歩かないといけない状態なのか?」にもっと目を向けてほしいと思っています。そうすると、ハウツーに頼らなくても、解決策は見えてくるものなんです。
——— 最後に、SSWと関わりのある先生にメッセージをいただけますか?
もし勤務されている学校にSSWが来ていたら、些細なことでもいいので、困っていることについて相談してみてほしいなと思います。教室で起こった何気ない1コマを切り取って、「これってどんな意味があったんですかね?」という話でも大丈夫です。
そんなちょっとしたことから、「実は家庭で虐待されていた」という事実がわかることもあります。子どもはそういった体験を言語化して伝えてくることはあまりありませんが、何らかの形で表現しているものです。「いつもとちょっと違うな」と先生が思ったときは、相談のタイミングだと思ってもらえるといいかもしれません。
SSWは、先生とは違う立場として世界を広げてくれる可能性がある人なので、あまり怖がらずに関わりを持ってほしいなと思います。
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建石尚子











