【解説記事】目的別・宿題の出し方4選!けテぶれから反転学習まで
はじめに
<宿題って必要? 宿題のメリット・デメリットと、「宿題のない学校」の実践例を紹介します>の記事では、宿題の意義や、宿題をとりまく国内外の現状について解説しました。
School Voice Projectが行った教員へのアンケート調査でも、反復練習の大切さを訴える意見や一律的な宿題を出すことへの疑問、また保護者や学校方針との兼ね合いの難しさなど、様々な意見が寄せられました。
宿題とその内容を考える上では、単純な「あり・なし」の二項対立ではなく、それによって児童生徒に宿題を通して子どもにどうなってほしいか、という「目的」に立ち戻ることが大切です。
ここでは、宿題の是非や出し方について検討している先生に向けて「基礎学力の向上」「自主性や非認知能力の向上」といった「目的」に立脚した、いくつかの具体的な宿題例とそのやり方について紹介します。
《教員へのアンケート調査とインタビュー結果はこちら》
「宿題」の目的は何か
宿題を行う目的(子どもにどうなってほしいか)とそれに応じた方法には、どのようなものがあるのでしょうか。
いくつか例を挙げて紹介します。
自律的に学習する力を付けてほしい
自分に必要な学習の内容と量を考え、かつ継続的に取り組むことを目的とした宿題の取り組みとして、自学ノートが挙げられます。
こちらの記事で紹介した宿題の4分類【準備・練習・拡張・創造】の、それぞれにバランス良く対応でき、かつ習熟に応じて、負荷や選択性の調整もしやすい課題であると言えるでしょう。
また、そこに「PDCA」の要素を取り入れ、自律的な学習をしやすくしたけテぶれという宿題の形も、近年広まってきています。
数値では測れない心の成長について内省し、実感してほしい
教師が与えた問いについて作文という形で答え、自分の考えや変化に向き合う成長ノートという取り組みがあります。教員や友達とのコミュニケーションのきっかけにもなり、協調性や表現力、自己肯定感といった非認知能力を伸ばすことのできる活動の1つであると言えます。
宿題というと個人作業になりがちですが、こちらで述べた宿題の出し方のポイント②「適切なフィードバックを行う」とセットで行うことで、より効果を発揮する取り組みです。
授業中に活発に学び合うようになってほしい
授業の場を、知識伝達ではなく活発な教え合い・学び合いの場にする反転授業についても、研究と実践が広がっています。
反転学習では通常、知識の伝達や個人での考察は授業外、つまり宿題として行い、授業の時間を効率的に協働学習に充てることができます。
宿題の出し方としても、こちらで述べた5つ目のポイント「宿題と授業に一貫性を持たせる」という点に沿っていると言えます。
次項では、それぞれのメソッドの目的とやり方を、より詳しく解説します。
自学ノート
目的と概要
自学ノートの多くは、自ら主体的に学ぶ姿勢を育むために、また多様な興味関心を伸ばしていくために、一律的な宿題に代わる比較的自由度の高い宿題の形として導入され、徐々に裾野を広げています。
中学校を中心に既に多くの実践例があり、自治体によっては、教育委員会のホームページにその意義や実践例を掲載するなどして、自学ノートの実施を奨励しているところもあります。
《各都道府県の取り組み》 家で勉強する!主体的な学びをしまねに | 島根県教育委員会
方法と事例
広く実践されている自学ノートの内容として、「自律学習型」と「探究学習型」が挙げられます。
自律学習型
- 主な目的
- 自分の苦手な部分や自分にとって必要な学習を理解し、それに取り組む力をつける
- 取り組み例
- 授業で習った漢字や計算問題について、全部ではなくできなかったところを練習する
- 授業でわからなかったところを自分なりにまとめる
- 小テストの結果をもとに自主学習の計画を立て、実行し振り返る
探究学習型
- 主な目的
- 日常の不思議に思ったことを探究する力をつける
- 取り組み例
- 授業の学習内容から発展して興味を持ったことについて調べ、まとめる
- 季節の植物など、テーマに沿って見つけたものや調べたことをまとめる
- 日常生活で頑張ったことや取り組んだことについて、表現方法を工夫してまとめる
参考「自ら計画を立てて、自ら学ぶ熊本の子供たちに!~家庭と連携を図りながら、子供たちの学習習慣形成を促す取組の推進~ 」(熊本県教育庁,2022年9月14日参照)より
参考「自主学習ノートって何を書けばいいの?自学ネタや作り方を教えて!」(あゆすた,2022年6月11日公開,2022年9月14日参照)より
参考「「学びは遊び」だから楽しんで主体的に取り組める「自学ノート」指導」(みんなの教育技術,2020年6月26日公開,2022年9月14日参照)より
また、学校によっては上記2つの型を組み合わせ、バッチリメニュー(国語・算数)とワクワクメニュー(その他・探究)にそれぞれ1ページずつ取り組む、といったバランス型の取り組みをしている学校もあるようです。
《参考例》 5つのポイントでやってみよう!~自学ノート~ – 教育つれづれ日誌
留意点
既に多くの学校で取り入れられている「自学ノート」ですが、だからこそ「目的を設定すること」と同時に、「目的を子どもたちに伝えること」「目的に沿った評価をすること」の2つを揃えることが大事です。
まずは、年度の初めに自学ノートの目的と意味を説明するなどして、目線合わせをすることが重要です。
また、「自学ノートのチェックシートをつくる」「累計ページ数を記録する」といった些細な仕掛けも、継続する上では重要です。自学だからといって十分なチェックや評価、友達同士での学び合いなどを行わなければ、自学ノートに取り組むモチベーションの維持は次第に難しくなってしまうでしょう。
しかし、たとえ自律的な学びをねらって導入したとしても、教員側が「きれいな自学ノートを評価し、掲示する」といったことを繰り返すと、 子どもたちは「ノートをきれいにまとめる」という方向に目が行ってしまいかねません。
自由度の高い宿題だからこそ、子どもに目的を示し続けるとともに、量だけでなく着眼点や継続性など、それぞれの長所や成長を見取り、積極的にフィードバックしていきましょう。
けテぶれ
目的と概要
けテぶれは「計画」「テスト」「分析」「練習」の頭文字を取った学習法です。
自学ノートと同じ「自律的に学習する力を付ける」という目的のもと、計画性や分析力の向上により特化した活動を設定し、子どもが取り組みやすいように改良したものであるとも言えます。
けテぶれ学習法の提唱者である葛原祥太さんは、けテぶれについて次のように解説しています。
簡単に言うと「基本的な勉強方法」のことです。
これを子どもたちに手渡してやることで子どもたちは「自己学習」つまり「独学」ができるようになります。けテぶれを元にした「自己学習」に取り組む中で、自分なりの勉強方法を見つけ「自立した学習者」へと育っていきます。
具体的には…目標に向けて学習計画を立て(計画)、自身の実力を測り(テスト)、実力を上げるためにはどうすればいいかを考え(分析)、学習を積み重ねる(練習)というサイクルを回します。
引用「けテぶれ学習法」とは何か」(けテぶれ・QNKS・心マトリクスを考えた人のブログ,2018年1月16日公開,2022年8月7日参照)より
方法と事例
期間やテストの方法などは実践者により異なりますが、共通して肝となるのは「分析」の活動です。例えば…
- 単元の計画やテストをもとに、自分に必要な学習を分析し、計画を立てる
- テストの結果から、これまでの学習方法やスケジュールは適切であったか検討する
- 既習事項の復習と新しい内容に進むこと、どちらが必要であるか考え計画に反映する
上記のようなプロセスを重ねて目標と現状のギャップを認識すること、自分のそれまでのやり方を検討した上で目標達成の方法と計画を考え、実行することの繰り返しが、自律的な学習者を育てます。
実際の取り組みの中では、漢字練習やテスト直しなど、知識・技能の定着を目指す場面で効果的に取り入れる例が多く見られます。
また、宿題だけではなく、授業や補習でも同様の学習法を取り入れた実践報告もあります。
参考「自己学習力を身に付ける!「けテぶれ学習法」(watcha Nagoya講演録②チームけテぶれ)」(EDUPEDIA,2019年10月12日公開,2022年9月14日参照)
参考「【保存版】「けテぶれ学習法」の具体的活用法|宿題・授業・補習の3場面で使い方を紹介」(ゆとりんり,2022年5月11日公開,2022年9月14日参照)
留意点
子ども版のPDCAサイクルとも言え、数値としての結果にもつながりやすいテぶれ学習法。子どもが自ら楽しく学びだすメソッドとしても、近年実践が増えています。
汎用性が高いため、例えば教員のガイドのもと、授業の中で「自分はどこが苦手か」「自分に合った学習法はどれか」といった自己分析を行う、あるいは宿題として行う中で、自らテストし分析する習慣を付けるなど、発達段階に応じて目的や場面をカスタマイズすると良いでしょう。
特にペーパーテストで評価がなされる分野との相性が良いため、興味・関心の広がりや、表現力を問う活動とのバランスを考えて導入することも必要です。
けテぶれ学習法については、本サイト内のインタビュー記事もご参照ください。
《「けテぶれ」を2年間実践した教員へのインタビュー記事はこちら》
成長ノート
目的と概要
成長ノートは菊池省三さんが提唱する、数値にできない子どもの非認知能力の成長に焦点をあてた毎日の作文活動です。
菊池さんは著書の中で、成長ノートとのねらいを下記の3点であると述べています。
- 子どもたちに、心の成長を実感させる
- 書くことで、文章表現を身につけさせる
- 各学年にふさわしい「公」を意識させる
菊池さんは、ほかにも「褒め言葉のシャワー」や「価値語」の奨励など、子どもの心の成長を促し、自己肯定感を高めるための取り組みを多く提唱されています。
引用「コミュニケーション力あふれる「菊池学級」のつくり方」(菊池省三、菊池道場,中村堂,2014年4月1日)より
参考「こんにちは 菊池先生」(東書Eネット・学級経営の広場,2022年9月14日参照)
方法と事例
成長ノートでは、教員が設定したテーマについて子どもが考え、作文をします。テーマは授業の感想から道徳的・生活指導的なもの、友達関係や学級全体に関わるものなど、学級の段階に応じてタイムリーに変化させます。
テーマ例
- 会話の授業の感想
- 教室からなくしたい言葉、教室にあふれさせたい言葉
- Cさんはなぜ、誰とも最強のコンビを作ることができるのか
- 自分のことを「好き」になるために
- 成長ノートは私の何をどう育てたのか
引用「人間を育てる【菊池道場流】作文の指導」(菊池省三、田中聖吾、中雄紀之,中村堂,2015年4月15日)より
毎日1人ひとりの作文にコメントを残し、子どもが自己の内面や学級でのふるまい方について考え、表現することを助けていきます。菊池さんは著書の中で、コメントは子どもとのつながりを深められる重要な要素であるとし、原則プラスの内容を ①線と丸だけ ②一言コメント ③つぶやきコメント ④1ページコメント と、テーマや時期に応じて軽重をつけて返すとよいと述べています。
留意点
他の宿題法と同じく、これもただ「テーマを与え、書く」という手段が目的化した作業になってしまっては、子どもの成長は限定的になってしまいます。作文を大事なコミュニケーションの場と捉え、適切なテーマを適切なタイミングで設定すること、教員からの反応を返すことが、併せて大事であると言えます。
反転授業
目的と概要
前述した3つの方法とは異なる宿題の捉え方が必要となる方法として、授業を効果的な場にするための反転授業があります。
反転授業においては、授業は主に学んだことやお互いの考えをアウトプットする場となり、インプットは事前に宿題として行うという形式がとられます。通常の教科書などの予習とは異なり、講義動画を配信し事前の視聴を義務付けることで、共通のインプット状況を授業前に作り出します。
GIGAスクール構想に伴って1人1台端末環境が充実し、動画の編集や配信がしやすくなったことにより、注目を浴びている授業形態の1つです。
方法と事例
事前に視聴する動画は、教員が自ら作成する場合もあれば、インターネット上の動画を用いる場合もあります。
また、講義ではなく議論やプレゼンテーションの動画を事前に視聴させる、教員ではなく学習者が説明動画を作るといった、様々なバリエーションが見られます。
参考「NHK for School で反転学習!~家庭学習と授業の連携~」(NHK・すくレポ,2018年2月12日公開,2022年9月14日参照)より
参考「反転授業のユニークな7つの事例を紹介」(Panopto,2019年6月4日公開,2022年9月14日参照)
いずれの方法においても、限られた授業の場を、知識伝達ではなく活発な教え合い・学び合いといった協働学習、または問題演習といった活動に充てることが目的であると言えます。
留意点
事前の動画視聴に関しては、ハードウェアやインターネット環境の確保など、ある程度整備と保障が進んでいることが前提となります。また、授業に対する動機付けや信頼関係が不十分であると、参加の前提条件となるはずの知識のインプットを怠ったまま授業に参加し、想定していた授業展開が十分にできないという事態も起こり得ます。
他の宿題と同じく、十分にその意義や、学習の大事な工程の1つであることを伝えるなど動機付けを工夫することが、授業での活動を充実させるためには不可欠です。
まとめ
宿題をはじめとした、あらゆる学習活動の根本にある目的(子どもにどうなってほしいか)に立ち返りながら「自学ノート」「けテぶれ」「成長ノート」「反転学習」という4つの宿題のかたちを説明してきました。
どのような宿題を課すにしても、なぜそれをするのかという目的を明確にした上で方法を選び、子どもにも目的を伝え続けることが大切であると言えます。<宿題って必要? 宿題のメリット・デメリットと、「宿題のない学校」の実践例を紹介します>の記事でも述べた通り、「何のために」をきちんと子どもが理解し、「どのように」が意識された宿題であれば、目的に応じた学習効果が表れるでしょう。
紹介したそれぞれの宿題の目的からも見て取れるように、単純な作業の繰り返しではなく「自ら学びに向かう力」「自己分析力」「自己肯定感」などの育成が、家庭学習においても重視されつつあることがわかります。
School Voice Projectはこれからも、新しい時代に対応する子どもを育成するための学びの在り方について、調査と情報提供を続けていきます。
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メガホン編集部