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宿題が変わる「けテぶれ」学習法とは? 2年間実践を続けた中学校教員の取り組みを紹介

  • 建石尚子

小学校教員である葛原祥太さんが提唱した、子どもを自立した学習者に育てる学習法「けテぶれ」。今回は、2年前から「けテぶれ」の実践を始めた大阪府の公立中学校教員である新井雅人さんに、実践のきっかけや成果、工夫していることなどを伺いました。

ーー「けテぶれ」とは、どのような学習法なのでしょうか。

「計画」「テスト」「分析」「練習」の頭文字を取って「けテぶれ」と呼んでいるのですが、簡単に言うと、自分で考えながら学習を進める勉強法のことです。まずは自分で目標を立て(計画)、実際に問題を解いてみる(テスト)。その結果を振り返り(分析)、目標を達成するために必要な学習を積み重ねる(練習)。この4段階が1つのサイクルになっています。ビジネスにおいては、業務の改善を促す技法をPDCAサイクルと言ったりもしますよね。これを子どもでもわかりやすいように表現したのが「けテぶれ」です。

ーー 「PDCAサイクル」と言うと難しい印象を受けますが、「けテぶれ」であれば、何を表しているのか子どもでもイメージが湧きやすいですね。具体的に、学校ではどのような実践をしているのでしょうか。

まずは課題(宿題)の出し方を変えました。今までは、全員一律の内容(全員に対して、同じやり方・同じページ数を解いてくる)だったのですが、自分で決めた目標に合わせて「けテぶれ」で学習を進める課題(宿題)に転換していきました。それまでは、ワークをやってくることが目的になっている子が多かったので、「けテぶれ」を通して、ワークを使って学習をすることを目的にしていこうと伝えています。

他にも、部活動や授業でも活用できます。僕はテニス部の顧問をしており、試合の後にその結果を部員同士で「分析」して、必要な「練習」を自分たちで考えるように促したりもします。理科の授業では、ガスバーナーの使い方を教えるときにも「けテぶれ」を活用しました。使い方を教科書で学んだあとは「テスト」として実際に使ってみて、何に手間取ったかなどをそれぞれ「分析」し、それを元に「練習」を繰り返していくんです。

ーー 宿題以外でも、さまざまな場面で活用ができるんですね。そもそも、なぜ「けテぶれ」を実践しようと思ったのでしょうか。

2020年の春、コロナウイルスの感染拡大で全国一斉に休校になったことがありましたよね。そのときに、「子どもたちの学びは止めてはいけない」という声が強まったと思います。学ぶ機会を奪ってはいけないと思い、僕自身も必死にいろんな取り組みを考えました。しかしそこで、子どもたちの多くは“こちらが学ばせないと学べない状態にある”という事実に気づいたんです。

もう少し説明すると、「学びに向かわない(やろうとしない)」と「学び方がわからない(やろうとは思っているけれど方法がわからない)」の2通りの生徒がいるなと思いました。これまでの学校生活の中で、「言われたことを言われた通りにやることが勉強だ」と教え込まれてきたからだと思いました。自分が今までやってきた教育に対して、課題を突き付けられたような感覚でした。

そのときに、以前購入して読んでいた本『けテぶれ宿題革命』を思い出したんです。そして再び本を読み、ハッとしました。なぜこの現状が生まれているのか…それは、今までの“課題(宿題)”のせいだと確信しました。やらなければいけない課題を課す→言われたものはこなした方が良い→言われなければやらなくていい→勉強はやらされるもの、こんな思考が子どもたちの中にあると考えたのです。また、中学生の主体性が発揮されにくいのも、このようなところからくるのだと感じました。

ーー 学校での学びが止まったことで、生徒たちに「自立した学習者としての力」が育っていないことが露呈したわけですね。実際にやってみて、生徒たちにはどのような変化がありましたか?

すぐに壁にぶち当たりましたね。「けテぶれ」を生徒たちに紹介してみたものの、みんなやらないんです。今までは「ドリルを10ページやってきて」と言われたら、その通りやっていればよかった。それが、自分で目標を決めて試行錯誤をしなければいけなくなったんです。それってめっちゃめんどくさいんですよ。「なんでそんなこと考えないといけないの?」「問題を解いた後に、なぜまた勉強するの?」などと、反発がありました。

ーーその壁は、どのようにして乗り越えたのでしょうか。

「けテぶれ」をやることの目的や、僕自身の思いを繰り返し伝えました。やろうと思っても具体的にどうやればいいのかわからない生徒も中にはいます。その場合、僕が教えるよりも生徒同士での学び合いが一番だと思っていたので、「けテぶれ」を上手く活用している生徒のノートを教室の後ろに掲示したり、教科で発行している学年通信の中で紹介したりしました。すぐに全員が「けテぶれ」を活用できるわけではありませんが、続けていくと、できるようになる生徒は確実に増えていっていると感じます。

また、校内では興味のありそうな先生たちに声をかけて、一緒に実践してくれる仲間を増やしました。さらに同じ校区の小学校の先生も巻き込んで、小学校でも実践をしてもらいました。そうすることで、校区全体で「けテぶれ」のサイクルを生み出せないかと考えたんです。実際は僕自身がその年で異動になってしまったこともあり、長期的な変化は見られていないのですが、今も最初に実践を始めた学校では「けテぶれ」の考え方、つまり「自立した学習者を育てたい」という思いを紡いでくれていますね。

ーー 「けテぶれ」を実践し始めてから、新井さん自身にはどのような変化がありましたか?

「できないことは、自分自身の“伸び代”だ」という考え方が身につきました。「けテぶれ」は、できていないことに対して、どうすればできるようになるかを考え、できるようになるまで試行錯誤を繰り返すプロセスなんです。それを生徒たちに伝えていっているので、僕自身も授業のスキルを磨いていく過程でその思考が身につきました。世の中で成果を出している人は、きっとみんな「けテぶれ」のような思考プロセスを踏んでいるんだと思います。

生徒たちの多くは言われたことを言われた通りにやる学習方法が身についてしまっているので、「けテぶれ」ができるようになるには時間がかかると思いますが、僕自身は自分の身の回りでできることをしていきたいですね。最終的には、”宿題だからやる”ような“こなすための”勉強が、全国の学校からなくなるといいなと個人的には思っています。

ーー 新井さん、ありがとうございました!

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建石尚子

1988年生まれ。中高一貫校で5年間の教員生活を経て、株式会社LITALICOに入社。発達支援に携わった後、2021年1月に独立。現在は教育に関わる人や場を中心に取材や執筆をしている。「メガホン」の運営団体であるNPO法人School Voice Project 理事でもある。

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