学校をもっとよくするWebメディア

メガホン – School Voice Project

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昨今、「教員不足」「講師不足」が深刻になり、子どもたちにも影響が出る大きな問題となっています。今回の調査では、教員不足の実態を把握するため、現職教職員の皆さんから情報・意見を集めました。なお、教員不足が現在起きていない学校も調査対象としています。

協力:末冨芳さん(日本大学教授)、妹尾昌俊さん(学校業務改善アドバイザー)

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2023年12月25日(月)〜2024年2月26日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :1325件

アンケート結果

設問1 2023年度、教員不足は起きていた?

Q1-1. あなたの勤務校では、2023年度の4月1日、9月1日、12月1日の時点において、「教員不足」は起きていますか。

Q1-2. 「教員不足が起きている」と回答した方にお聞きします。教員不足によって起こったことや、大変だったこと、エピソードを教えてください。(教職員・職場組織への影響、児童生徒への影響など)

業務負担の増加

途中で退職したり、休職したりする先生の後補充が来ないため、現在いる先生で授業を持つため、時間割の組み直し作業も複数回にわたって行う必要がある。【中学校】

空き時間がないこと。小学校高学年ですが専科の授業もほぼなくなり、毎日フル稼働でした。若い育休代替講師の学級が荒れ、わずかな空き時間もそこへのフォローです。助けてあげたい気持ちはあるのでそれは かまいませんが、2ヶ月近く空き時間がないなんてことは教員になって初めてでした。【小学校】

契約上担任になれない非常勤講師が4月頭から特別支援級の担任になっていた。最初から人手不足でフォ ローも足りず今年度異動してきたての中堅の方が10月にメンタル病欠、昨年度から医者にフルタイム業務をとめられていた病欠の方が無理くり教務として復帰。現状、皆倒れそう。【小学校】

不足している教科の先生の授業時数が多くなり、負担が増える。特別支援学級の教員が不足しているため、 本来別々に授業すべきクラスが一緒に授業している。【中学校】

授業のコマ数が倍になった。【中学校】

4月の時点で高齢の講師が多い教科です。近隣の他校でも同教科の教員が次々と休職・退職をされ、代替 講師は見つからず。現場の中で授業を割り振りますが、少人数の学校で教員数も少ないため、3学年の試験と評価物があり、残業時間は月100〜170時間程度になってます。教える学年が増えると対応する生徒も 一気に増えるので、生徒対応だけで定時内の時間は終わり、担任業務などもおざなりになってしまっていま す。【中学校】

教員不足を補うために、時間講師が採用されることが多く、6時間勤務のため放課後業務には携わっていた だけなかったり、時短勤務をする教員の放課後業務に人がいなかったり、病休はもう日常茶飯事で今居る教員で回さなければならない状態です。4月の時点で、こちらが必要と提示している教員数に足りない割り当てでスタートし、講師も無く、生活介助員をあてに、もう、校務分掌や行事関係は破綻しています。障害の軽重などによるシーリングなんて意味がありません。それに加えて、保護者からの要望は、日に日に、高く、 細かく、丁寧な対応を求められ、もう、保護者も教育ではなく、学校に求めているものは保育や介助という福祉機能です。教育はもうありません。できません。【特別支援学校】

担任や教科担当者の不足

教室ではなく、武道場に2クラスの生徒を集めて、同時に教科の授業を行う予定。講師の先生1名が主担当 し、他教科の先生1名がサポートにつく。環境づくり、時間割など大変。【東京・中学校】

病休に入るまでの年休期間は変わりが見つからず、その教科の授業ができなかった。他教科の教員が無 免許で授業を実施せざるを得ない期間があった。定期テストもその教科は実施できず延期となった。現在も 積み残しが発生することが確実な状況。【千葉・中学校】

担当学年ではない学年の授業を、2クラス同時でやらざるをえない状況があった。その単元 の理解度はやはり低かった。 【福岡・中学校】

コロナ等で休んだ教員がいた際、補充に入れる教員がおらず終日自習となる。【岐阜・中学校】

前年度、特別支援学級で、常に大変な状況なのに、初任者が出勤しなくなり、主任が出勤しなくなり、その多忙さからバタバタと病休者が増え、5人担任のところが、最後は担任一人になった。【東京・小学校】

特別支援が必要な児童生徒への対応不足

支援学級の児童が交流学級で過ごす際の支援が十分に行われなくなり、放置される時間が増えました。【大阪・小学校】

特別支援学級の授業がなくなり、その生徒が交流学級で授業を受け ることになった。支援学級生徒が、軽視されてると感じた。【岡山・中学校】

教室で入りづらいADHDや愛着障害の児童に対応できず、放任してしまう時間が発生している。この事で児 童と信頼関係を構築できず、悪循環が生まれ、生徒指導の時間が大幅に増えている。【高知・小学校】

海外ルーツのこどもで成績が下位のグループへの取り出し授業が行われない期間があった。日本語入門レ ベルのこどもへの対応が適切に行われず、レベルがそのままにとどまっている。【兵庫・中学校】

教職員の関係性の悪化

職員の数が足りなくなったとしても、学校内全体の公務の量が減るわけではない。そのため、一人当たりの 授業数や校務分掌の量が増える。 特に無理を押しての日々となり当然教員の関係性についても悪影響が起きている。割り切って帰る人は5時 に帰るし、今までと同じようにやらなければならないと感じる人は残り続けてやる。結果として、無理を押して やってる人が倒れた。また、やっている人たちは、さっさと帰る人たちを敵対視して、職員室が大きく2分化し ている。【神奈川・小学校】

一つ目、担任が年度途中で不在になったことにより学級が荒れてしまい、他のクラスの教員が空きコマを 使って見守りを行った。それによって連鎖的に他のクラスも荒れていった。二つ目、学校全体の治安が低下 している状態で、管理職がどのような手立てをとろうとするのか見ていた。教員不足によって残った教員の 業務は増えたが、依然として仕事を削減する提案については反対し続けられた。管理職への不信感によっ て、管理職と教諭との溝ができてしまったため、組織としての力は大幅に低下してしまった。【広島・小学校】

教員の健康面への影響

産休代替の代理がいない、パワハラで病休により退職に追い込まれた。【東京・小学校】

自分自身が医師から休職を勧められているが、それ以前に欠員の代替業務を担っている為、休みづらい。 周囲もいっぱいいっぱいの現状を知っている為、その負担がいくかと思うととてもその選択をできない。また、 初任者に担任を持たせることがここ数年多いがそのフォローも含めた研修に対する余裕がない。【東京・高等学校】

2023年4月時点で1人の教員不足が起きていたのは、全体の約37%。その後、9月時点では約55%、12月時点では約61%と、徐々に教員不足が起きている学校が増えていることがわかりました。不足している人数を見ていくと、年間を通して1名不足している学校は約30%前後と大きな変動はありませんでしたが、2人以上不足している学校は4月時点では約10%だったのに対して、12月時点では約30%に増えていました。

教員不足によって起こっていることとして多くあがっていたのは、教職員の業務負担の増加。年度途中に休職者や退職者がいた場合でもそれまでの教職員数で業務に当たるため、「空き時間がなくなった」「授業時数が増えた」「残業時間が増えた」などの現状があり、大きな負担になっていることが伺えます。それによって、教職員の健康や関係性の悪化にもつながっている現状があるようです。

また、教員が不足している教科や特別支援学級を担当する教員が不足していることによって、児童生徒への学習保障や心身のケアにも実害が出ているという声も寄せられました。

設問2 教員不足解消に有効だと思う施策は?

Q2. 教員不足解消のための教員確保策として、それぞれの取組やアイデアはどのくらい有効だと思いますか。 

教員不足解消のための施策として、「とても有効だと思う」「有効だと思う」と回答した人が比較的多かったのは、「育短制度利用者の定数外措置(時短勤務者の人数に応じて教員が増やせる制度)(93%)」「初任者には学級担任として配置しない(副担任からスタート)など、初任者の負担軽減(88%)」「教員の日本学生支援機構による奨学金の返済免除(71%)」でした。

一方で、「大学3年生から1次試験を受けられる採用試験の実施(12%)」「免許保有者(いわゆるペーパーティーチャー)を発掘し、研修を行う取組(15%)」「学生や社会人向けに教員の仕事の価値や魅力を発信する取組(21%)」は、有効だと思う人が比較的少ない結果となりました。

設問3 重要・実現してほしい業務負担軽減策は?

Q3. 学校、教員の負担軽減策として、特に「重要だ」「実現してほしい」と思う取り組みやアイデアを3つまで選択してください。

教職員の負担軽減策として「重要だ」「実現してほしい」という回答が比較的多かったのは、「教員定数の改善による持ち授業時間数(持ちコマ数)の軽減(67%)」「学級規模の改善(30人以下学級など)(62%)」でした。校種別に見ると、高校に所属する教職員からは「観点別評価の廃止(18%)」を求める声が他の校種よりも多く集まりました。

また、「勤務時間外における保護者対応、児童生徒対応の原則禁止(いじめ対応など緊急性が非常に高いものを除く)(37%)」「給食、掃除、休み時間の見守り、ICT機器のトラブル対応など、教員免許を要しない業務について、教員以外のスタッフに任せられるようにすること(36%)」「保護者等からの過度な要求に対する第三者による介入支援(弁護士、心理士等)(33%)」など、教員が保護者や児童生徒に対応できる時間を制限したり、教員以外のスタッフや専門家が担う業務を増やしていく施策については、3割から4割程度の人が「重要だ」「実現してほしい」と回答しました。

設問4 定年延長を利用する予定は?

Q4. 2023年から定年延長がスタートしています。あなたは61歳以降も継続して働くご予定ですか?現時点での意向を教えてください。

定年を延長し61歳以降も働く予定の人は28%だったのに対して、働かない予定の人は30%であり、ほぼ同数となりました。「未定(38%)」と回答した人が最も多く、定年延長を利用するかどうかは、迷っている人が多い傾向が見られました。

設問5 転職・離職を考えることはある?

Q5. あなたは離職・転職を考えることがありますか?

「当面離職・転職は考えていないが、今後も続けられるかは自信がない(3年内に離職・転職する可能性がある)」と回答した人は、回答者全体の62%でした。「現在、離職・転職を考えている(1年内に離職・転職する可能性がある)」と回答した人においては、14%にのぼりました。「いまのところ、離職・転職するつもりはない」と回答した人は38%と半数に満たず、過半数の人が転職・離職を考えていることがわかりました。

まとめ

今回は約2ヶ月間かけてアンケートを実施し、1325件もの回答が集まりました。

昨年度12月の時点では回答者全体の約6割の学校で教員不足が起こっていることが明らかになり、その結果、教職員への負担が増えているだけではなく、児童生徒の学習保障や心身のケアにまで影響が及んでいることがわかりました。

実際に教員不足が起こっている学校の教職員や問題意識の強い人が回答しやすい傾向はあり、調査の結果が課題に出ている可能性はありますが、児童生徒に対して質の高い授業ができない状況やきめ細かいサポートができない状況であることは、重く受け止める必要があります。

2024年4月9日(火)には、本アンケートに協力いただいた末冨芳さん(日本大学教授)と妹尾昌俊さん(学校業務改善アドバイザー)とともに、文部科学省で記者会見を実施しました。その様子や会見の内容については、多くのメディアでも取り上げていただきました。

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すでに公開されている教職員アンケート結果やWEBメディアの記事の内容等は報道の際に使用いただいて構いません。その際は【出典:NPO法人School Voice Project 】クレジットを入れていただき、事後でも結構ですのでご一報ください。

京都市北区にある北大路駅を下車して約7分ほど歩くと、設立からそう年月が経っていないであろう新しい校舎が見えてきます。ここは2015年4月に昼間定時制の普通科、単位制の学校として開校した京都府立清明高等学校。

小学校や中学校で不登校を経験した生徒や、学校生活に違和感を抱いていた生徒も在籍しています。そんなマイノリティ(少数派)と呼ばれる生徒たちも含め、多くの生徒が清明高校では安心して過ごしているのだそう。

生徒たちがこれまで過ごしてきた学校と、一体何が違うのか。校長である越野泰徳さんと生徒支援部の山下大輔さん、そして生徒会の生徒たちへのインタビューを通して、清明高校の魅力を深掘りします。

※ 本記事は取材を行った2024年3月時点の内容を記載しています。また、取材時に校長を務めていた越野泰徳さんは現在退任されています。


教職員研修で生徒が自身の「困りごと」をスピーチ

「もう本当に、生徒たちが素晴らしくて。生徒の声を聞くことが先生にとって1番の学びになるし、自己変容につながるんです」

2023年10月に清明高校で開かれた教職員研修会「清明ダイバーシティピッチ」をそう振り返るのは、生徒支援部の山下大輔さん。研修会に集まった教職員や保護者、生徒に向けてスピーチをしたのは、同校に在籍する5人の生徒たちでした。

読み書きに困難がある学習障害の一種であるディスレクシアや感覚過敏、HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)、化学物質過敏症、性的マイノリティの当事者である5人が、学校生活の中での困りごとについて具体的なエピソードを交えながら話し、「困りごとに対して一緒に考えていきたい」と訴えました。その結果、教職員からは大きな反響があり「生徒について知っているつもりになっているだけで、知らないことが多かった」という声もあったと言います。

大勢の前で自身の困りごとを話した生徒たち。抵抗感はなかったのでしょうか?その疑問に答えるように、山下さんは研修前のやり取りをこう話します。

「自己開示をすることで、もしかしたら心ない言葉を耳にするかもしれません。生徒たちには『それでも大丈夫か?』と何度も確認しました。けれど、生徒たちは『やります』と言って、やり切ったんです」

そもそも先生への信頼や自分たちのアクションによって学校が変わる可能性への期待がないと、生徒たちが「先生たちに話してみよう」と思い、それを行動に移すことはないのではないでしょうか。一体何が、生徒たちの行動を後押ししたのでしょう。

その理由を、校長の越野泰徳さんは「生徒と先生が同じ方向を向いているからではないか」と言います。

「教職員が生徒から学ぶ清明ダイバーシティピッチには、教職員だけではなく他の生徒も聞きに来ていました。あれがすごいなと。興味津々で聞いているわけです。特定の生徒がカミングアウトするだけの場ではないし、先生と生徒が対峙しているわけでもない。みんなが同じ方向を向いて、学校を過ごしやすい場所にしていこうとする雰囲気があるんです」

障害は社会側が生み出している。社会モデルで当たり前を見直す

今でこそ「つまずきのある人もない人も共に安心していきいきと学ぶ学校」として知られるようになった同校ですが、4年前は学校の方針や教育活動のアップデートが必要なタイミングでもありました。

2015年の開校当初から勤める山下さんはこう振り返ります。

「開校時から『学びアンダンテ(自分のペースで、歩くような速さで学ぶ)』という学校の基本コンセプトはありましたが、教職員全員で目指すべき方向性が定まっていなかったんです。『進路実績を出さないといけない』『いや、それよりもまずは学校に来ることが大事なんじゃないか?』など、意見はバラバラで。私自身もどこに向かっていったらいいのかわからなくなっていました。それが、校長の越野先生が来てから徐々にいろんなことが変わっていきました。『目指すのはここだ』と示してくれたんです」

越野さんが清明高校の校長に就任したのは、2020年4月。授業内容や学校行事、校内のルールなどを生徒の実態に合わせて次々に変えていきました。例えば、生徒が欠席した際には必ず担任がその家庭に電話連絡をするルールがありましたが、現在は、その頻度を減らすようにしていると言います。それによって、生徒にとっては「毎日学校に行かなければいけない」というプレッシャーが減り、教員にとっては余裕を持って日常の業務にあたれることにつながりました。

また、以前あった「職員室では入り口から大きな声で先生を呼ぶ」というルールもなくなり、現在は職員室の入り口に置いてあるタブレット端末を操作して先生を呼べるシステムになっています。

「先生は、『職員室では大きな声で先生を呼ぶ力を身につけさせたい』と思ってしまうんです。でも、ちょっと待てと。『全員がハキハキとしゃべれなければいけない』という圧力が、生徒たちへのストレスになっているのではないかと考えなくてはいけない。それが原因で不登校になることだってあるんです。『これが普通』『これがいい』と思われていたことが、案外そうではなかったということは、学校だけではなく世の中でも多いと思いますよ」と越野さん。

土台となっているのは、「社会モデル」の考え方。障害は個人が抱えている問題であり、治療や個人の努力によって社会に適応すべきものだという考え方の「医学モデル」に対し、「社会モデル」は障害は社会側が生み出しているものだと考えます。

「職員室で大きな声を出して先生を呼ばなければいけない」という考え方は、まさに医学モデルがベースとなっています。その状況に苦しさを感じている生徒がいるのであれば、社会モデルをベースとした考え方でルールや仕組みを変えていくことで、生徒が居心地よく過ごせる学校づくりにつながっていくのではないでしょうか。

まずやってみる。生徒の笑顔で、教員は変わる

越野さんは学校の中にある「普通」や「当たり前」のおかしさにいち早く気づき、学校改革を進めていきました。

「今まで問題とされていなかったことを問題として見える化して、『こうやってみたらどうだろう?』と試していくのが好きなんです。ひねくれ者なんで、今まで通りの学校は嫌なんですよ(笑)」

穏やかな口調でそう話す越野さんですが、教職員が一丸となって学校を変えていくために必要なことを見抜く鋭い視点も持っています。

「立場が上の人であればあるほど、正しいことを言っちゃだめなんです。校長が正論を言うと、先生たちはそれに従うしかない。野球部の顧問が怖いから部員がいうことを聞いているのと同じです。表面的に変わったとしても、それでは意味がないんです。先生たちだって、ちゃんと自分の中で腹落ちしないと納得して動くことはできません」

先生たちが納得して動いていくために、越野さんがよく口にするのは「すぐやる、まずやる、ざっくりとやる」という言葉。完成度が低くても、失敗しながらでも、何度も繰り返しやってみて少しずつ前進していけばいい。そんな思いが込められています。

例えば、2023年度から行われている制服の見直しでは、2ヶ月間限定で校則を緩和する案が生徒会から出されました。その案に対して、「勉強をしなくなるのではないか」「生活習慣が乱れるのではないか」と不安を感じる教員もいたそうです。

「校則を緩和しても、絶対に大丈夫だという確信はありました。けれど、それを私が押し付けてはいけないと思っています。先生たちの不安も聞きつつ、『まずやってみよう』と言う。実際にやってみると、表情が明るくなり生き生きと過ごす生徒たちの姿を目にするんです。最初は不安を感じていた先生であっても、生徒のそんな姿を見ると、校則を緩和することに納得してくれます」

ここまでに紹介した越野さんの価値観や教職員全員で目指すべき学校像は、58ページにも及ぶ資料「ティーチャーズバイブル(理論編)」に示されています。令和5年度当初に越野さんが作成し、HPから誰でも内容を見ることができます。そこには、学校のミッション、ビジョン、バリューをはじめ、支援の方針や具体的なアクションプランが書かれています。

後編へ続きます。

「ふつうの相談」ができる職員室へ

フジテレビ木曜ドラマ「いちばんすきな花」(2023年)は、僕が担任していたHさんとの共通言語でした。このドラマは多部未華子さん、松下洸平さん、今田美桜さん、神尾楓珠さんの4人が主演を務め、日常的で誰しもが考えたことのある永遠のテーマを扱っていたことで注目を集めていました。毎週金曜日にHさんと「今週はどのシーンが良かった?」「あなたは夜々ちゃんみたく考えたことある?」とよく話をしていました。僕は特に第5話が好きで、椿さんの次の台詞がとても印象に残っています。

1人で傷つき苦しみを抱えていた紅葉さんに、椿さんがこんな話をしている。

「うん。よかった。話す人いて。お腹痛いとき、お腹痛いって言っても治んないけど、痛いのは変わんないけど、紅葉くんは今お腹痛いんだってわかってたい人はいて、わかってる人がいると、ちょっとだけマシみたいなことは、あるから。」(フジテレビ「いちばんすきな花」第5話より。文字起こしは筆者)

「ふつうの相談」1が学校でできるかどうかは、仕事を安定して行っていく上で非常に重要です。「ふつうの相談」は東畑開人氏の言葉で、いわゆるカウンセリングのように個室で二人きりでなされるものだけを言うのではなく、廊下での立ち話や、用具庫での片隅でのひそひそ話、詰め所や職員室で交わされる職員同士の愚痴や世間話も含むものです。ふつうに相談することが、そしてふつうに相談に乗ることが、心にとっていかなる治療的意味をもつ、と東畑氏は述べています。

本当は同僚に相談してみたかったけれど、心配や躊躇があってなかなか相談できないことは、僕は一度や二度ではありませんでした。当時の自分を振り返ると、こんな違和感について本当は同僚に相談してみたかったのです。

  • 〈起立→気をつけ→「これから2時間目の授業をはじめます」〉という日直の号令で授業を開始するとき、「気をつけ」の後に教師からの「どうぞ」があるまで号令を続けてはならないという先生ルールがありました。これは本当に必要なのかな。
  • 特別支援学級で生徒1人、教師1人で授業しているのに、1対30人で一斉授業するように生徒と黒板の間に教師が立って授業している人がいました。これだと教師も子どもも授業しにくくないのかな。

「ふつうの相談」ができる職員室であれば、全国で苦しんでいる先生たちの大半の悩みはなくなるのではないでしょうか? そういう職員室を目指し、僕が研究主任という立場で実践してきたことをいくつか紹介します。

1. 職員室ラジオ

職員室ラジオは、公立小学校教諭にょんさんの実践です(カタリストfor eduのホームページに、にょんさんへのインタビュー2がありますので、ぜひご参照ください)。僕は“Spotify「ミチクサRADIO〜とある先生たちの日常〜」#9 3”で、その実践を知りました。にょんさんの「職員室全体での対話の場を作る前に、もっとつぶさに、一人ひとりとの関係性をつくることができないだろうか」という問題意識に共感し、僕も「職員室ラジオ」を始めることにしました。

職員室ラジオは、次の3つのステップでできます。

① 放課後の時間等を活用し、同僚と1対1で対話する。
② その様子をスマホで録音する。
③ 収録データを職員室で共有する。

空き時間に事務作業などの仕事をしながら聞いてもらったり、通勤途中で聞いてもらったりすることを考えて、ラジオ1本分の時間は最大15分を目安にしました。トーク内容は、対話型のカードゲーム「センセイトーク」4を使って決めました。ある同僚にお願いし、その人が聞いてみたいトークテーマのカードを何枚か選んでもらっていました。

「自分にとって一番お気に入りの場所は?」「自分にとってのストレス解消法は?」などライトな質問から「先生になろうと思った理由」「先生以外になろうと思っていた職業の話」「子どもの頃は学校が好きだったか?」など、その人のパーソナルな部分の話や「学校祭はどうしたらもっと楽しくなるのか」など実務的なことも話題になりました。

また、ある同僚はこんなエピソードを語ってくれました。
「実は前任校での苦労や失敗があったからこそ、今は笑顔いっぱいで周囲に元気を与えながら仕事している」
笑顔の裏にはそのような背景があったのかと初めて知り、とても印象的でした。

現代の職員室は「ちょっとお時間もらえませんか?」と同僚に話しかけることすら、躊躇してしまいませんか? 職員室ラジオが「ちょっといいですか?」と気兼ねなく発せられる雰囲気づくりに、少しでも貢献できればと思っています。そして、足湯に浸かると次第に身体が温まっていくような速度で、「考えること」「疑問をもつこと」「誰かの意見を聞こうとすること」を職員室からじわじわと広めていけたら嬉しいです。

2. MM法(みんなでつくるミーティング法)

MM法とはみんなでつくるミーティング法で、ファシリテーターの青木将幸氏が考えた会議手法5です。MM法の特徴は、一人ひとりに持ち時間があって「全員が、ひとつずつ、議題を持ち寄る」という構造にあります。「今、このメンバーで、本当に話し合いたいこと」を持ち寄って話し合いますが、時間を厳密に区切って進行するため、時間内に結論が出ないこともあります。ただ、結論が出なくても、誰かに受け止めてもらえた事実が話し合いの場にはあり、メンバーの表情を見るとみんなすがすがしい顔になる、と青木氏は説明しています。

校内研修では、「困り事相談会」という名称でMM法を実施しました。この時間のねらいは、次の3つでした。

① 「目の前にいる子どもの誰を見て、どんなことを考えているか」について、同僚の声をゆっくり聞く時間をつくること。
② 悩みや困っていることを相談することで、心のエネルギーを回復してもらうこと。そして、MM法を通じて「ふつうの相談」ができる職員室の雰囲気をつくること。
③ 教室の様々な状況を「問い」や「悩み」として持ち寄ることで、教師の子どもを見取る力を高め、教師のアンラーン(学びほぐし)を促進すること。

僕のグループでは、次の4つのテーマについて議論しました。
● 話しやすい事務とは?(こんな事務となら仕事をしやすい、コミュニケーションをとりやすいか)
● ありきたりな授業から脱却するにはどうすればいいですか?
● 生徒達はなぜ失敗をうまく経験値につなげられないのだろうか?
● 多様性を気にするあまり本音を話さず、相手と距離をとって人それぞれだから…と片付けてしまうのはなぜだろう? 個を尊重するとはどういうことだろうか?

MM法を終えて、ある同僚からこんなフィードバックをもらいました。

「職員室で周囲を見ると、みんな忙しそうにしている。話しかけるタイミングを見計らっていたら、今日が終わってしまったこともしばしばありました。また、こんなこと言っても受け止めてくれるだろうかという不安があったので、こうやって悩みを相談できる場があるのは嬉しいです」

実は、僕はこのフィードバックをくれた同僚にとって「ふつうの相談」ができる職員室になることを願って、今回校内研修の時間を使ってMM法を実施しました。だから、このフィードバックをもらえて、素直に嬉しかったです。フィードバックをくれた彼女とよく話していたことは「人が変わろうと思うのは、自分の感情を誰かに拾ってもらえたときだ」ということでした。

「プリントを使って授業すると、毎日授業準備が大変ですよね」
「必死に授業しながら同時に評料し、それを記録していくのは至難の業ですよね」
などと僕が声をかけ、彼女が時折弱音を吐ける場を用意してあげることを日々心がけていました。

うまく受け止めてあげられたときは、元気を取り戻し、少しずつ授業づくりを楽しんでいってくれました。変わろうとする気持ちが湧いてこないのは、心のエネルギーが不足しているからだ、と僕は考えています。

3. 学びカフェ

「学びカフェ」6は、佐藤由佳さんの実践です。校内研究のように公的に位置付けられたフォーマルな場ではなく、まじめに雑談する時間を設け、定期的にみんなで話し合うインフォーマルな学びの場が「学びカフェ」です。その理念をベースにして、僕は特にテーマを設定せずに、2. で紹介したMM法のように「最近考えていること」「悩んでいること」「話を聞いてもらいたいこと」をただ話すだけの会にしました。ただし、それだけでは人は集まらないので、道の駅に売られている美味しそうなお菓子を用意し、それに釣られてやってくる人たちと対話しました。

4. 図書コーナー

勤務校の職員室には収納棚があり、一人ひとつ割り当てられていました。ある日、その収納棚の扉を外して、図書コーナーを設置しました。教室環境を整える際には「教師の学びの過程をオープンソース化」7をしていて、学級経営や教科指導など関連する多くの書籍を教室に置いていました。この図書コーナーは、教室での取り組みを職員室でも同じように行ったものです。 

4月は協同学習に関する本、5月はインクルーシブ教育についての本、8月は合唱指導や行事指導に関する本、9月は探究や教室ファシリテーションについての本、11月はいじめや不登校に関連する本など、仕事のサイクルに応じて本を並べました。

図書コーナーは、足を止めたり視線を向けたりしている人々の興味や関心を知るしかけとして活用していました。また、積読のままの本を同僚と持ち寄って、みんなで平積みする活動はとても楽しく、お互いの理解を深める機会にもつながりました。さらに、クリスマスに関連する絵本や可愛らしい猫が表紙の絵本を置くことで、無機質な職員室が華やかになったことは良い思い出です。

5. 持っている情報量を揃えること

「校内研究」「校内研修」と聞くだけで「ああ…」とため息をついてしまう人はまだまだたくさんいるのに、「私たちはどんな職員室をつくりたいのか」「私たちはどのように学び、成長したいのか」「そのために私たちはどのような研修にしたいのか」について職員室で議論されることは、僕の経験上ほとんどありませんでした。

そこで、年度末に実施した校内研修の時間では、オンライン掲示板アプリ「Padlet」8使って「校内研究」「校内研修」に関する様々な情報を共有し、みんなで見ながら次年度の校内研修について意見交換をしました。

その結果、次年度は“プロジェクト型の校内研修”に挑戦することが決まりました。僕には、自分の声を大切に発信し、他者の声も尊重しながら変化を生み出す職員室に少し近づけた瞬間に感じました。残念ながら僕は4月に異動となりましたが、校内研修を通して「変えていける実感」を教師が取り戻すことにつながり、子どもたちが民主的なコミュニティのつくり手としての感性や力を育んでいける学校に、さらに近づいていってくれることを期待しています。

参考
  1. 東畑開人『ふつうの相談』(2023年,金剛出版) ↩︎
  2. 職員室の土壌づくりー『職員室ラジオ』で、今まで見えていなかった先生たちの思いを知るー」(カタリスト,2022年4月15日公開) ↩︎
  3. にょんさんの「職員室ラジオ」実践についてきいてみた」(Spotify for Podcasters / ミチクサRADIO~とある先生たちの日常~,2022年2月) ↩︎
  4. センセイトーク ~学校関係者の「チームづくり」を促進するカードゲーム~(https://weschool.jp/↩︎
  5. 青木将幸『ミーティング・ファシリテーション入門―市民の会議術』(2012年,ハンズオン!埼玉出版部) ↩︎
  6. 伊藤大介、佐藤由佳、山本由紀、三石初雄『校内研究を育てる―その学校ならではの学びを求めて―』(創風社,2022年) ↩︎
  7. 石川晋『「対話」がクラスにあふれる! 国語授業・言語活動アイデア42』(2012年,明治図書) ↩︎
  8. 藤倉稔「校内研修についての資料箱↩︎

3月〜4月のこの時期は、異動する、退職する人、立場が変わる、受け持ちの変更、同僚の入れ変わりetc…多かれ少なかれ、何らかの変化がある時期です。その変化に伴う、さまざまな感情・気持ちが一人ひとりの教職員の中にきっとあるはず。今の教職員の気持ちを聞きました。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2024年3月11日(月)〜2024年4月11日(木)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :45件

アンケート結果

設問1 年度切替えの今、抱いている感情は?

Q1. 年度切り替えの変化の時期、今抱いている感情を以下のリストから選んでお書きください。
※いくつでも結構です。
※相応しいものがなければリストに載っていないものを書いていただいても構いません。

※出典:https://nvc-u.jp/
回答のテキストマイニング結果

新年度を迎える時期の気持ちとしては、「不安」「心配」「疲れる」「へとへと」など、気がかりな気持ちや心身の疲労を感じさせるワードが多く選ばれる傾向がありました。同時に、「あたたかい」「寂しい」「ドキドキ」などのワードを選んでいる人もおり、別れの寂しさと新年度への期待が入り混じっていることが伺えます。

設問2 今の感情はどこから来ている?

Q2. 年度切り替えの変化の時期、今抱いている感情とその感情がどこから来ているのかを教えてください。(過去や現在の状況・環境・出来事、願いやニーズなど)

異動や人事に関する不満と不安

修了式から年度はじめまでの間は、来年度の配置がまだ分からないため、宙ぶらりんな気持ちになります。同僚との腹の探り合いも、落ち着きのなさの原因です。もっと管理職と話をする機会があって、どんなことがやりたいのかを聞いてくれるなら、こういう気持ちにならないのかもしれないですが、基本的に管理職はあまり話は聞いてくれません。何がやりたいのかなどは、時間をかけて聞かないと出てこないものだと思うのですが……。個人の希望をしっかり聞いた上で、来年度の組織編成をやって欲しいなと毎年思います。【小学校・教員】

来年度の校内人事がどうなるのかわからないと、自分の立ち位置が分からず不安になる。
部活動の顧問をもちたくないと希望しているが、毎年職員が減り、部活数は変わらない。来年度もこの生活が続く、もしくは今以上に厳しい状態になるのかと思うと気が重い。【中学校・教員】

ミッションをこなしてきて、成果も出したつもりが、希望も聞かれず望まない所へ異動にされた。大声で希望を述べその希望が叶えられた人がいる傍らで、希望を言うことも許されない人がいるのは公平じゃない。今日の新聞発表を見て、また落ち込んだ。悔しい。【小学校/中学校・校長】

特別支援学級の担任です。在籍する子どもの数が増えるのに、担当する先生が決まっていない。今年度担任だった先生は、私以外は異動してしまう。さらに、新入生が手のかかる子どもだとわかり、クラス分けも一から考え直さなくてはならない。子どもの様子も完全に把握しきれていないのに、4月2週目から学校生活や様々な行事が始まってしまうことに不安しかない。【中学校・教員】

業務負荷とストレス

年度末に向けて、通知表の作成、要録の作成、諸々に必要な所見の嵐……とにかく圧倒的に業務量が多くてへとへと。【小学校・教員】

なんとかギリギリにやらなければならないことを年度末までに仕上げたが、通勤時間も長く、仕事もなかなか終わらないので、疲労感が半端ではなかった。また、本来やりたい事ができないところで、周りにもなかなか理解者がいないので、無力感が大きい。【小学校・教員】

新年度準備期間が、短いため引き継ぎが十分にできない。書類完成後にいじめが発覚、同じクラスに当事者がいることから、クラス編成のやり直しを検討することに、これも、準備期間が十分取れてないことの弊害、新年度の準備には、丁寧に引き継げる時間が必要、十分な準備期間の確保を是非進めて欲しい。
とにかく今、置かれている教職員の環境は、地獄そのもの、真面目に取り組んでるものが心身ともに壊れていく。適当、要領良くできない教職員を救って欲しい。【小学校・教員】

新年度への期待と不安

初めて3年間担任した生徒たちの卒業式を終えて、次の年度に向けて気持ちが切り替わっている。次がこの学校で働くのが5年目かつ1年生の担任をするのも2回目ということで、なんとなく見通しが持てているし、自分が学年や学校の中で中心としてがんばっていくのだという気持ちも強い。学年主任の先生が尊敬と信頼できる人で、また同じ学年で働けるというのも自分にとって大きな安心材料。一方で、初めて同じ学年で働く先生や異動されてくる先生も多いので、どんな学年教師集団になるのか、チームワークがうまくいくだろうかという点においては少し不安と緊張がある。【中学校・教員】

昨年度全校1000人いた子どもたちが学校が分離したことで半分以下に減りました。また、職員数は昨年度の半分以下になりました。そのため、5つあったクラスは2つに減り、一人当たりの分掌や学年作業が増えました。周りから「大変そう」と言われますが、自分はやりがいを感じています。大変なクラスの担任に加え、体育主任も任されたため、この一年を走り抜ければ大きな達成感を感じるのではないかとワクワクしています。【小学校・教員】

現在の職場は3年目で、良い意味で慣れている。前例踏襲主義に陥らず、その場で判断しながら変えたいところは周りに相談しながら変えていきたい。【高等学校・教員】

4月から新設校に異動する。通勤時間がかなり短縮されることで楽になる。その意味では明るい気持ちで、新年度に臨めるが、新しい環境がどのようなものか見えてこないため不安もある。また当然ながら、以前の職場を離れる寂しさもある。【特別支援学校・教員】

学校や教職員の関係に対する不満や懸念

職員が入れ替わったのに、その忙しさから十分に知り合う時間もとれず、毎年お互いのことがよくわからないまま始業式を迎えます。また、管理職との面談も十分に行われず、自分が組織でどのような役目を期待されているのかなどもわかりません。そういう状況だと、発言力のある先生だけが目立って、そうじゃない先生が何も言えなくなるんですよね。学級とおなじように、最初の1週間は教職員同士が出会う期間にしてくれたら本当にいいのですが……。【小学校・教員】

教職員の年齢層が高くなりすぎているので、是正してほしいと毎年願いますが、年齢層の高い先生のほうが圧倒的に多いため、難しいようです。年齢層の高い先生からはたくさんハラスメントを受けまして、一緒に働きたくないです。【高等学校・教員】

教育委員会や学校の方針に対する疑問や不満

「誰も取り残さない」「先生が働きたいと思う」自治体を謳っているが、何やかんやとこじつけてのビルドアンドビルドにこれらのキーワードと現場が早速取り残されており、年度末から絶望的な気分になっている。【小学校・教員】

大人にとっても子どもにとってもwell-beingな学校を目指したいが、変えることを拒むベテランが多く、、意見を無視されることで無力感を感じる。誰のため、何のためが抜けていて、大人のための学校になっている気がして仕方ない。校内人事も声の大きい人が優先される傾向にあり、大変なことは何も言わない人や若手に押し付けるような人事になりがち。そこに不安や絶望感がある。【小学校・教員】

まとめ

疲労や不安、ストレスを感じている言葉が多く集まりました。その理由としては、「希望した人事が通らなかった」「新年度の人事がわからず準備ができない」「年度末の業務が多く、新年度に向けた準備ができていない」など、人事や業務量についての内容が多くあがっていました。また、教職員間の関係構築が十分にできていないことや学校の運営方針が、ストレスの原因になっていることが伺える回答もありました。一方で、1年間を終えた達成感や新年度に向けた期待など、前向きな気持ちを表す回答も多く集まりました。


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※メディア関係者の皆様へ
すでに公開されている教職員アンケート結果やWEBメディアの記事の内容等は報道の際に使用いただいて構いません。その際は【出典:NPO法人School Voice Project 】クレジットを入れていただき、事後でも結構ですのでご一報ください。

さまざまなメディアでも取り上げられている通り、現在、日本の学校では「教員不足」が大きな課題の一つとなっています。

NPO法人School Voice Project では「#教員不足をなくそう!緊急アクション」というキャンペーンを立ち上げ、学校現場の厳しい実態の見える化・記者会見を通した問題提起を行ってきました。さらに問題を深く理解するため、教員を志望していたがやめた方々・現在、教壇に立っている方々の生の声を聞きました。
(協力:Teacher Aide / 株式会社トモノカイ)

アンケートの概要

■対象  :若手教員、教員志望の大学生、大学の一時期まで教員を志望していたがやめた若手社会人・大学生 ※ここでいう「若手」とは、大学卒業後5年以内の人を指す。
■実施期間:2024年2月8日(木)〜2024年3月11日(月)
■実施方法:学校現場の声を見える化するWEBアンケートサイト「フキダシ」及び大学生×教育バイトメディア「t-news」にてWEBアンケートを実施
■回答数 :598件

アンケート結果

教員志望をやめた理由は?/教員を目指す上での懸念点は?

【若手教員・教員志望の学生の方向けの設問】
教員を目指すにあたっての懸念点について、以下のことはどの程度当てはまりますか。
【元教員志望の若手社会人・元教員志望の学生の方向けの設問】
教員を志すのをやめた理由について、以下のことはどの程度当てはまりますか。

若手教員・教員志望の学生(教員・教員志望グループ)と、元教員志望の若手社会人・元教員志望の学生(元教員志望グループ)間で、教員になる上での懸念点にどのような共通点・違いがあるのかを比較しました。

その結果、両グループで70%以上が、給料の低さ・業務量の多さ・自分が力を入れたい業務への時間の足りなさ・初任時の責任の大きさ・多様化する子どもや保護者のニーズへの不安に対して「とてもそう思う」「そう思う」と回答しました。また、元教員志望グループでは、教員・教員志望グループに比べ、給料・閉塞的な組織文化・教育実践の硬直性・サポートのなさへの懸念が大きい傾向が見られました。

回答者からの声

給料への懸念

クラスのことを任せられてしまう仕事の責任の大きさももちろんですが、そもそも教員免許を取る時間と努力、そして教員採用試験に合格する努力も教師になるには必要です。その時間と手間と努力、そして実際勤務する責任、これらに見合ったお給料が新卒からもらえているとは思えません。 教師になってから給与に不満を覚えて転職した知り合いがいるのですが、その方はベンチャー企業でいきいきと働いていました。その姿を見て、教師になる勉強をしたって絶対教師になる必要はないと感じさせられました。【教員志望・学部2年】

部活動顧問がほぼ無給なのは、教員養成課程を履修して初めて知りました。労働に対する対価が支払われないのは納得できませんでした。【元教員志望・博士3年】

職場に1人クセの強い先生(40代のベテラン)がおり、教員・子ども・保護者全てからクレームが出るくらいの人でした。(中略)どんなにクレームが出たとしても、教員は続けられるものなんだと知った時は、「私がやらなくてもいい仕事かもしれない」と察しました。どんなに仕事ができなくても、クビにはできない。年功序列で順番に上に上がって行かなくてはならない。しかし、なるべきではない人が校長になったら、その学校はどうなるのか。若手がいくらSOSを出したとしても、年功序列の制度は変わりません。またどんなに仕事ができなくても、税金で給料が安定的に上がっていく、ボーナスももらえる。仕事ができない人の代わりに、できる人が倍働く。なのに給料は同じ。そんな世界で働きたいと思える人がどのくらいいるのでしょうか。【元教員志望※教員経験2年あり・若手社会人】

働き方への懸念

教員という仕事は、子どもたちにこれから必要な知識教養を身に付けてもらうために教えると同時に、人として成長してもらうためにクラス担任を担うなど社会的意義のある仕事であると考え、志望しておりました。しかし、実際に教育現場で働く先輩からのリアルな現場の話や公務員としての給料面や休日日数、部活の顧問など必要な業務量がとても多い一方で、いきなり現場に投げ出され、教鞭、事務、保護者対応、部活などを兼務するのは自分には荷が重すぎると感じました。また、子供の未来を担う教師の未来は暗い労働環境というのが個人的には良くないとも思えたため、教員志望を辞めることにしました。【元教員志望・学部4年】

子どもの居場所作りや、個別支援が必要な子に対してじっくりと向き合う働き方をしたいと考えていたが、実習を通して教員の忙しさを目の当たりにした際に、先生になったら勉強を教えることしか(教えることすら?)できないように感じてしまった。【元教員志望・若手社会人】

結婚をして子どもを産みたいと昔から考えているため、教員になったら自分の子と関わる時間が生徒と関わる時間より少なくなってしまう可能性があることを考えると「他の子どもを教育している場合ではないのに」と心の余裕が無くなりそうだと考えました。【元教員志望・修士1年】

初任時の責任の重さ・多様化するニーズに対する不安

現在塾講師として働いているのですが、保護者様からの厳しいお言葉や要求がかなりある現状と知り、より多くの生徒、保護者と関わる必要のある学校の先生は私には向いていない、耐えられないと思いました。【元教員志望・学部3年】

近年の保護者の過干渉や、生徒の多様化のニュースなどを見ていて、自分にはそれに対応しきれる精神力が足らず、自分を壊してしまうのではないかという懸念が強かった。【元教員志望・若手社会人】

小学校の場合は確実に初任で担任を持たされるし、今は中学でも初任で担任を持たされる人も中にはいる。大学で授業のことだけ多くは学んできて、学級経営など学んできていなかったり、また教育実習でも20人規模の生徒の前でしか授業していない人もいるのに、教員になって1年目で30人規模の学級の担任をして、生徒指導、学級事務をしたり、保護者との関係づくりをしなければならなかったりすると、授業どころではなくなってしまう。誰しも、大学で学んできたことを活かして、よりよい授業を作っていきたいと思っているが、それが実際に現場では達成されず、心身の不調にも繋がると思うから。【教員志望・学部4年】

閉塞的な組織文化への懸念

小学校の時の憧れだった先生が、当時は生徒のことを第一に考えてくださっていましたが、今は学校のルールに縛られて考え方が変わってしまったと伺って、やはり自分らしくを貫くのは難しい環境なのかなと残念な気持ちになったのも理由の一つです。【元教員志望・学部4年】

国全体が教育をサービス業とみている節があったり,教育の改善が一向に期待できない点が大きいですが,教育実習に行った際に現場の意識も文句ばかりで行動が伴っていなかったのを見て,教員になるのをやめました。【元教員志望・修士1年】

授業に集中して取り組みたいが、分掌や事務作業に追われる日々。その業務も前例主義で去年やっていたから、、いきなりやめられない。と、もちろんメリットもあるのだろうが効果に見合った時間になってない業務が多い。なくすと責任を負うのが嫌で、なくせない主任。管理職。若手がスクラップを提案すると、「経験が大事」「何事も学ぶことがある」と若いからと言った理由で意味を感じない仕事をしていると感じることが多い。【若手教員】

コロナ禍での文化祭開催の議論や、理系の共通テストの社会科受験科目の選択肢の幅など、伝統保守的な立場の先生方が多く、挑戦的な姿勢や新たな可能性を探ろうとする姿勢を感じられない事が多かった。【元教員志望・学部2年】

サポートの無さへの懸念

教職インターンシップにてお世話になった際、心身共に参っている新人の先生を多く見かけた。子どもたちがクラスという空間での習慣や、学校環境の変化、学年の変化、学級の変化に対応できないと教員としてもキツいと言っていた。また、中には、昔のやり方をそのままに、それはよくないと思うと、自由なやり方を制限するベテランも見かけた。サポートに入っていても連携が取れない、とる時間すらない、もはや、連携をとるためにコンタクトをとる時間でさえ勿体ないと感じる先生が多いように感じる。
結局、その学校の職員の組み合わせによって変わるところもあったり、管理職や教頭、校長が、言い方を悪くすると、どれだけ使えるか、他の職員に、自分に寄り添って考えているかによって変わったりもする。私の伺った学校では、残念ながら教頭が1人で慌ててしまって、インターン生の私はもちろん、その他の職員への対応も疎かで、連携が取れない環境であればどうしようかと考えることもある。【教員志望・学部2年】

教員志望をやめたタイミング

【元教員志望の若手社会人・元教員志望の学生の方向けの設問】
いつ頃まで教員を志望されていましたか?

元教員志望グループに教員志望をやめたタイミングを尋ねたところ、62%が学部1年生時点でやめていたことがわかりました。学部2年生まで含めると80%以上にのぼり、大学生の比較的早い段階で教員志望をやめている学生が多いことがわかります。なお、この傾向は小学校・特別支援学校と、中学校・高等学校で比較しても大きく変わりませんでした。しかし、今回の調査では、早く教員志望をやめたグループと、遅くやめたグループで懸念点に違いは見つかりませんでした。

まとめ

若手教員・教員志望の学生(教員・教員志望グループ)と元教員志望の若手社会人・元教員志望の学生(元教員志望グループ)間、両グループで、70%以上が、給料の低さ・業務量の多さ・自分が力を入れたい業務への時間の足りなさ・初任時の責任の大きさ・多様化する子どもや保護者のニーズへの不安に対して懸念があることがわかりました。特に、元教員志望グループでは、教員・教員志望グループに比べ、給料・閉塞的な組織文化・教育実践の硬直性・サポートのなさへの懸念が大きい傾向が見られました。

アンケートの結果から、給料や働き方の改善、精神的プレッシャーに対する支援、閉塞的な文化の改革などさまざまな観点での改善の必要性が再認識されました。これらの課題を解決していくことは、少なくとも「教員志望をやめる学生」の減少につながるのではないでしょうか。

※上記はあくまでアンケートの結果から導かれた仮説となります。例えば、「閉塞的な組織文化」に触れることによって教員志望でなくなるのではなく、何かしらの理由で教員志望でなくなった学生の方が「閉塞的な組織文化」へのアンテナが高くなるため懸念度が高くなったことも考えられます。今回のアンケートでは、あくまで「閉塞的な組織文化」への懸念度と教員志望度との相関関係が観察されたというだけで、因果関係を説明できるわけではない点にご注意ください。

※また、短い期間でパイロット的に行ったアンケートであるため、アンケート回答者は便宜的なサンプルであり、若手教員・教員志望の学生・教員元志望の若手社会人や学生を代表するものではありません。


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