【解説記事】コメントに悩む通知表…そもそも無くていい? 学校の「評価」の仕組みと最新情報
学校の「評価」の仕組みはどうなってる?
はじめに
「何の気なしにもらっていた通知表。まさか作成するのがこんなに大変だったなんて……」。そんな風に感じたことのある先生も少なくないのではないでしょうか?
この記事では、評価をおこなう上でのポイントや、学校全体の評価計画に活用できる「評価」の仕組みを解説します。
前半ではまず、指導要録や通知表を作成するのに必要な、制度の中身や評価のポイントをおさらいします。
その後、通知表をめぐる現場の声に耳を傾け、どのような課題があるのかをみていきます。
そして最後に、通知表をめぐる課題に「通知表を無くす」という選択で立ち向かった学校の事例を紹介し、今後への展望をまとめます。
学校で行う「評価」の仕組み
「評価」と「評定」の違い
「評価をおこなう」とひと口に言いますが、学校での「評価」においては、「評価」と「評定」、この2つは明確に区別し、それぞれ別個に実施する必要があります。
文部科学省(文科省)の「学習評価に関する資料」をもとに、それぞれを確認しましょう。
「評価」とは
「自己評価」や「評価額」のように「評価」という言葉は日常的には広い意味を持ちますが、日本の学校現場における「評価」はそれより少し範囲が狭いものを指します。
文科省によると「学習指導要領にある各教科の目標や内容について、児童生徒がどの程度実現できたかを3つの観点から“分析的”に捉えたもの」を指します。実際の学校現場では、授業態度や試験結果等、様々な場面における児童生徒の姿を、学習指導要領にある3つの観点から3段階(ABCが一般的)で評価しています。これは「観点別評価」とも呼ばれるもので、のちほど詳しく取り上げます。
「評定」とは
「評価」と同様、「評定」も日常的な用法と学校現場での用法では少し内容が異なります。
こちらも文科省によると、「評定」とは「評価をもとに総括的な学習状況を示すもの」とされています。
これはいわゆる「段階評定」のことで、小学校では3段階(「大変よい」「よい」「もう少し」等)、中学・高校では5段階(5~1)で行われています。高校や大学の入試の際に用いられることもある「評定平均」とは、この「評定」の平均値のことを指しています。
「評価」と「評定」の関係
「評価」と「評定」の関係を一言で表すと「各観点の評価を総合して評定をつける」ということになります。つまり、生徒の実現状況を“分析的”に捉えた評価結果をもとに、“総括的”に「評定」として示す流れです。
具体例を挙げてみてみましょう。
例えば、ある生徒の目標実現状況を、「主体的に学習に取り組む態度」はB、他の2評価軸はいずれもAに相当する、と捉えたとします。これが評価です。そして、その評価結果をもとに、「Aが2つ、Bが1つなので、5段階評定では(例えば)4と総括する」、これが評定です。ちなみに、評定において「評価をどのように総括するかについては、各学校の工夫が求められる」とされています。
文科省の「学習評価に関する資料」では、このような「評価」と「評定」を各教科で実施すること、また「評価」「評定」ともに照らすべき基準は学習指導要領に定められた目標であることが明記されています。
参考「学習評価に関する資料」p1(文科省,2022年9月12日参照)より
絶対評価と相対評価
ここでもまず、文科省「学習評価に関する資料」から、絶対評価と相対評価の違いを確認しておきましょう。
「絶対評価(目標に準拠した評価)」とは
児童生徒の一人ひとりについて、「目標をどの程度達成できたか」を基準に評価をする方法です。
学校現場では、ここで言う「目標」が、各教科の学習指導要領に記載された目標となります。
ここで大切なのは、絶対評価はあくまで比較基準が「目標」であり、「集団」ではないということです。つまり、ある学級の生徒全員が目標を達成したと評価された場合には、全員「5」となることもある、ということです。
「相対評価(集団に準拠した評価)」とは
集団(学級や学年)内における位置づけをもとに評価をする方法です。
具体的には、全生徒のうち上位◯%の生徒が「A」、次の△%が「B」…、のように評価をつける方法です。
(なお、文科省では平成22年以降、「絶対評価」という表現は使用しておらず、「目標に準拠した評価」という表現を使用しています。本記事では、直感的に概念を理解していただくため「絶対評価」という表現を主として用い、「目標に準拠した評価」という表現を補足として併記しています。)
では、現在、文科省によって定められている評価方法は絶対評価と相対評価のどちらか、ご存知ですか?
現在採用されているのは「絶対評価(目標に準拠した評価)」。平成12年(2000年)の要録通知をもって、相対評価から絶対評価に改められました。文科省は、他の児童生徒と比較したり、クラス内でのその子の位置から評価をつけるのではなく、学習指導要領の目標に照らして、その実現状況から評価・評定を実施するよう明確に指示をしています。
……ここで、内心動揺を覚えた先生もいるのではないでしょうか。というのも、現場で実際に絶対評価が徹底されているのかについては、疑問の余地がありそうなのです。例えば、自治体・教育委員会等によっては、学校長に対し、教科ごとに各評定(1~5)を与えた生徒の人数やその割合を報告するよう義務付けているところもあります。このような報告書の存在を念頭において評価に取り組んでいる学校は、決して少なくないのが実情です。
また、後半「通知表の実態と問題点」内で取り上げる現場の教職員のアンケート結果からは、事実上の相対評価が行われている実態も垣間見えます。
参考「学習評価に関する資料」(文科省,2022年9月12日参照)
参考「学習成績分布表」(千葉県,2022年9月12日参照)より
さて、すでに触れたように、平成12年(2000年)の要録通知をもって、相対評価から絶対評価に改められました。当時の資料では相対評価から絶対評価への変更理由は、
- 児童生徒一人一人の進歩の状況や教科の目標の実現状況を的確に把握し、学習指導の改善に生かすため
- 学習指導要領の内容の習得状況を評価することで基礎的・基本的な内容の確実な定着を図るため
- 上級の学校段階の接続を円滑にするため
- 個に応じた指導に対応するため
- 学年・学級の児童生徒数が減少している中で評価の客観性や信頼性を確保するため
と説明されています。
5. にもあるように、相対評価から絶対評価への移行には少子化の影響もあります。以前は学年100人を超える学校も珍しくありませんでしたが、それも今は昔、地方に行くと1学年1クラスの学校も散見されます。人数が少なくなると当然、相対評価で「5」を取れる人数の縛りがきつくなり、納得感のある評価が難しくなります。
その意味では、現在はまだ絶対評価を徹底できていない地域・学校も、今後少子化が進行していくことでその状況が変わってくるかもしれません。
引用「学習評価に関する資料」p8(文科省,2022年9月12日参照)より
参考「よくある質問と回答(学習指導要領)」(文科省,2022年9月12日参照)より
観点別評価とは
ここでは、観点別評価について詳しくみていきます。
小学校・中学校では導入から20年以上が経過し(2002年導入)、すっかり定着している観点別評価ですが、高校では2022年から正式導入となり、注目を集めました。
観点別評価は、正式には「観点別学習状況の評価」といい、「学習指導要領に示す目標に照らして、その実現状況がどのようなものであるかを、観点ごとに評価し、児童生徒の学習状況を分析的に捉えるもの」と定義されています。
「「評価」と「評定」の違い」でみたように、各教科については「評価」と「評定」とを実施する、と定められていますが、ここで文科省の言う「評価」が「観点別評価」です。「評価」で生徒の実現状況を“分析的”に捉えたのち、評価結果をもとに、“総括的”な学習状況を「評定」として示します。
定義 | 具体例 | |
---|---|---|
評価 | 生徒の実現状況を3つの観点から「分析的に」捉えるもの | 授業態度や試験結果等を、3つの観点から3段階(ABCが一般的)評価する |
評定 | 「評価」をもとに総括的な学習状況を示すもの | いわゆる「5」~「1」の数字のこと (小学校では「大変よい」「よい」「もう少し」等の3段階) |
観点別評価では、各教科・科目それぞれの目標に対する実現状況を、以下の3つの観点からA(十分満足できる)・B(おおむね満足できる)・C(努力を要する)の3段階で評価します。
- 知識・技能
- 思考・判断・表現
- 主体的に学習に取り組む態度
なお、2002年から観点別評価が導入されている小学校・中学校においては、現行(平成29・30年改訂)の学習指導要領から、評価の観点が、それ以前の4つ(※)から上記の3つに再整理されました。(※中学校国語科のみ5観点)
これにより、2022年の高校での観点別評価の正式導入をもって、小学校〜高校段階までを、共通する3観点で評価していく仕組みが整いました。
今回の観点再整理のポイントは、学校教育において重視すべき三要素(学校教育法第30条第2項)「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」と対応する内容となった点です。
改訂前(4観点)
- 知識・理解
- 技能
- 思考・判断・表現
- 関心・意欲・態度
改訂後
- 知識・技能
- 思考・判断・表現
- 主体的に学習に取り組む態度
参考「学校教育法 | e-Gov法令検索」(2022年9月12日参照)より
小学校・中学校での観点別評価
「観点別評価とは」で触れた通り、現行(平成29・30年改訂)の学習指導要領から、評価の観点が再整理されました。
これにより、教科によって異なっていた評価の観点が全教科で統一され、下記の3つとなりました。
- 知識・技能
- 思考・判断・表現
- 主体的に学習に取り組む態度
それぞれの観点から、具体的には「何を」「どのように捉えればよいのか」については、学習指導要領の「目標」や「内容」を指針とすることができるようになっています。
参考「新学習指導要領における「目標」及び「内容」の構成」p10(文部科学省初等中等教育局,2022年9月12日参照)より
参考「学習評価の在り方ハンドブック(小・中学校編)」(国立教育政策研究所)
高校での観点別評価
高校では、2022年度から実施された学習指導要領より、観点別評価が導入されました。この導入に伴って、指導要録の参考様式にも各教科・科目の観点別学習状況を記載する欄が設けられています。
各観点ごとの評価方法の工夫例は、2019年度の文科省資料「新高等学校学習指導要領と学習評価の改善について」等でも示されていますが、そこで強調されているのは、特に「主体的に学習に取り組む態度」については、他の観点の状況を踏まて評価を行うという点です。たとえば算数・数学の授業で「ノートに途中式が書いていないから減点」のように画一的な評価を行うのではなく、その児童生徒の「知識・技能(ここでは計算能力)」なども考慮して評価をすべき、ということになります。
これは、観点別評価導入の目的が、「どの観点で望ましい学習状況が認められ、どの観点に課題が認められるかを明らかにすることにより、具体的な学習や指導の改善に生かす」ことにあるためです。
評価対象となった生徒が、評価を手がかりに、学習改善に取り組めるようになることが求められています。
引用:「新高等学校学習指導要領と 学習評価の改善について」(文部科学省初等中等教育局教育課程課,2022年9月12日参照)
指導要録とは
続いて、指導要録について確認しましょう。
指導要録とは、「児童等の学習及び健康の状況を記録した書類の原本」を指し(学校教育法施行令第三十一条)、「校長は、その学校に在学する児童等の指導要録を作成しなければならない」と定められています(学校教育法施行規則)。
指導要録に関してもっとも重要な点は、指導要録が法によって作成等が義務付けられている「表簿(※)」の一つである、ということです。法的に定められている以上、「指導要録のない学校」というのは存在しません。そして、指導要録に含まれる「学習状況の記録」には、前項まででみてきた「観点別評価」と「評定」を記入することになっています。つまり、「評価」及び「評定」をおこなわないと、指導要録は作成できない、ということになります。(※表簿:学校教育法施行規則第28条 における「学校に備えなければならない」表や帳簿類のこと)
なお、指導要録の様式については「各設置者が定める」こととなっていますが、全国全ての学校に備えるよう義務付けられた表簿であるため、標準化が進んでいます。このため、異動等によって勤務校が変わった場合でも、似た形式で作成を行うことが可能です。
参考「学習評価に関する資料」 p.4(文科省,2022年9月12日参照)
引用「学校教育法施行令」(e-Gov,2022年9月12日参照)
引用「学校教育法施行規則」(e-Gov,2022年9月12日参照)
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メガホン編集部