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「教員でも説明できないルールがある」校則見直しを始めた中学校教員に、1年間の歩みを聞く

  • 建石尚子

「校則を変えること」よりも、生徒や教職員同士の対話を通して校則を見直すプロセスを大切にするルールメイキングプロジェクト(以下、ルールメイキング)。

大阪府吹田市立豊津中学校では、2022年1月より校則やルールの見直しに取り組みました。

進行に関わった同校教員の髙山桂さん、濵田淳司さん、髙栁菜摘さんに、具体的な実践と生徒や教職員の変化について聞きました。

教職員への提案を経て、プロジェクトメンバーを募集

ーー まずは、中心となってルールメイキングを進められた髙山さんに、実施までの経緯を伺ってもいいでしょうか。

髙山:以前から、校則や多さや教員でも説明できないようなルールがあることが気になっていました。そんなときに認定NPO法人カタリバさんの『ルールメイキング』の取り組みを知り、さらに興味を持ちました。

カタリバさんが提供している教材や他校の先生方の取り組みを参考にしながら本校でも進めてみようと思い、2021年10月に実施した校内の教職員研修で、「生徒指導マニュアル」の見直しを提案したんです。それがきっかけで、ルールメイキングに取り組むことが決まりました。

豊津中学校のルールメイキングの取り組みを中心となって進めてきた高山さん

ーー ルールメイキングに参加する生徒は、どのように決めていったのでしょうか。

髙山:2学期の終わりに、全校生徒に対してルールメイキングの発足を伝えて、年明けに参加したい生徒を募りました。集まったのは26人で、私を含めて4人の教員が中心となってプロジェクトを進めることになりました。

髙栁:生徒会に所属しているかどうかは関係なく、有志の生徒を集めました。希望したら誰でも参加できるので、ある意味いい加減に参加することもできるんですよね。その点は少し心配でしたが、実際は真剣に議論に参加するような生徒が集まってくれました。

髙山:そうですね。「なんで学校用の靴下をわざわざ買わないと行けないんだろう?と疑問に思ったから参加しました」という子もいましたし、「友達に誘われたから来ました」という子もいました。軽い気持ちで参加した生徒も、議論を進めていく中で自分の意見が形成されていった部分はあったのではないかなと思います。

少数派の意見も聞いて新ルールを検討した

ーー 具体的に、どのようなルールを見直すことにしたのでしょうか。

髙山:何度もミーティングを重ね、最終的に「靴下や髪ゴムの色に関するルール」と「登校時の服装に関するルール」の見直しをすることになりました。

ーー 2つのルールに絞って見直しをしていったのですね。その2つに絞るまでには、どのようなやり取りがありましたか?

校則については「以前から疑問も感じてきた」という濵田さん

濵田:集まった生徒たちは、「少数派の意見も聞き逃したくない」「この場にいない人の意見も大切にしたい」という思いがあったので、全校生徒を対象に、見直したいルールについてのアンケートを取りました。その上で、生徒と教職員の交流会も開きました。2つのルールに絞るまでには2ヶ月間くらいかかりましたね。

登校時の服装に関しては、本校では制服以外は原則として禁止されていて、体操服で登校する場合は個別に許可が必要なんです。それに対して、生徒からは「自分の性に悩んでいる子は、制服を着ることに抵抗感があるかもしれません。先生にカミングアウトして許可をもらえば服装のことは解決するけど、精神的には負担があると思います」という意見が出ました。これには衝撃を受けましたね。ジェンダー平等に関しては授業で扱っていたので、それがちゃんと届いたのかもなと感じました。

髙山:特に、「先生がジェンダーのことを教えているのに、学校ではそれが大切にされていないなんておかしい」という生徒の発言には、説得力がありましたね。教員自身がジェンダーについての理解が深まっていなかったと反省する気持ちもありました。

髙栁:話し合いの雰囲気としては、生徒たちは「そういう意見もいいよね」と相手の意見を受け入れるように聞いていました。髙山先生が、ミーティングの最初に「相手を否定しない」「自分の意見が変わってもいい」など、大切にして欲しいことを丁寧に伝えたこともよかったのではないかなと思います。

ーー ルールに関しては、保護者とのやり取りもあったのでしょうか?

濵田:ありましたね。教職員からは「靴下の色が自由になったら保護者の負担が増えるのではないか?」と懸念する声もありました。ならば直接聞いてみよう、と。

アンケートをとって聞いてみると、意外なことに賛否両論ありました。ルールを変えることへの反対意見としては、「統一感がなくなってしまうのではないか」「自由にさせすぎるのは良くないのではないか」などです。

髙山:アンケートとは別に、生徒も含めてPTA役員の方とルールについて話をする交流会も設けました。PTA役員の方からは、「中には体が器用に動かせなくて、制服を着るのに時間がかかってしまう子もいます。そういう子にとっては、体操服登校はありがたいと思いますよ」という意見をいただきました。私にはない視点だったので、聞けてよかったです。

また、それまであまり自分の意見を言わなかった生徒が、PTA役員の方に対して「もし自分の子どもが性のことで悩んでいたら、体操服登校を認めてほしいって思いますよね…!」と言っていたのには驚きました。後でその生徒に聞いてみると、「みんなが意見を言っているところを見て、自分も言ってみようと思った」「この場なら、聞いてもらえると思った」と言っていました。

単に「自分の意見を言いましょう」と伝えるだけではなく、こちらがちゃんと聞くことや、受け止めることも大切なんだと思います。

校則の見直しを通して、みんなが過ごしやすい学校へ

ーー ルールメイキングを進めていく中で、どのようなところに難しさを感じましたか?

髙山:生徒たちが作成した提案書を教職員に配布したのは9月だったのですが、2学期に入ると行事で忙しくなり、教職員間で話し合う時間がなかなか取れませんでした。なので、教職員向けのアンケートを実施して意見を聞くことにしたんです。その結果、「靴下や髪ゴムの色に関するルール」については、大多数の教職員が見直し案に賛成。「登校時の服装に関するルール」についても、半数以上の教職員が賛成すると回答してくれました。

ただ、その後はスムーズに進まなくて。「校則を見直した後に、何らかの問題が起こったらどうするか?」など、いろんな議論を重ねました。私としては、何十年も前に決まった校則が今もそのままの状態で続いていることには違和感があり、何とか変えたい気持ちはあったのですが…。最終的に、「靴下や髪ゴムの色に関するルール」については試行期間を設けて一時的に緩和することになりました。

教職員全員が納得して意思決定することの難しさは、恐らくどの学校でも共通していることだと思います。工夫したところとしては、生徒同士でミーティングをするときに、必ず教職員にも案内をしたことです。時にはルールを変えることに反対意見を持っている先生が来てくれて、議論に参加してくれたこともあります。

ーー 試行期間中、生徒たちはどのような様子でしたか?

髙栁:私はクラスの生徒たちの様子を少し意識して見ていました。あるとき、ベージュ色の靴下を履いている生徒がいたので、声をかけてみたんです。すると「白、黒、ベージュの3色セットで買ったんですけど、ずっとベージュだけ履く機会がなくて。それがやっと今日、日の目を浴びたんです…!」と言っていました(笑)純粋に可愛いなぁと。

濵田:家庭としても助かりますよね(笑)私はその期間はすごく忙しくて、正直生徒たちの服装を気にしている間もなく終わってしまった感じでした。後から聞いたら、自分のクラスにも靴下や髪ゴムを変えている生徒はいたみたいでしたが、違和感はなかったんです。それくらい、自然なことなのかもしれないなと思いました。

髙山:私もあまり気づかなかったのですが、身につけているものを見せてくれる生徒はいましたね。友達とお揃いのピンクの髪ゴムをしてきたり、キャラクターの靴下を履いてきたり。私の感覚でいうと、多くの先生たちが心配しているようなことは起こらず、変化を楽しむ子もいれば今まで通りの子もいる感じでした。

試行期間は10日間のみだったので、もちろんまだどうなるかわからない部分もあると思います。次は、もう少し期間を延長してやってみてもいいかもしれません。

ーー 特に印象に残っている生徒からの言葉はありますか?

髙山:今年度の取り組みに区切りをつけるために、先日生徒たちと一緒に振り返りをしました。「ルールメイキングはどんなプロジェクトだった?」と聞くと、「みんなの声で社会を変えるプロジェクト」「いろんな意見が否定されないプロジェクト」「一人ひとりの世界が関わり合うプロジェクト」などの声が集まりました。ルールメイキングは、どんな結果になったとしても、意味のある取り組みだなと改めて感じました。

また、ある生徒からはこんな言葉ももらいました。「私たちのこれまでの活動や提案、発言で、先生方の考え方が変わったり、心が動いたとすれば、それはどんな場面ですか?どのように変わりましたか?私はそれが知りたいです」と。

生徒たちは、校則について何度も議論を重ね、提案書を作成し、勇気を出して教職員全員の前でも意見を伝えました。それくらい真剣に向き合ってきたからこそ、私たち教職員に対して、この問いを投げかけてくれたんだと思います。生徒からのこの問いに、きちんと答えられる大人でありたいと強く思います。

ーー これまでの取り組みを振り返って、どのように感じますか。

髙栁:最初は人前で話すことが苦手だった生徒も、言葉にして相手に伝えることがすごく上手くなったんですよね。ルールメイキングを通して、自分の意見を伝えることへの自信もつけてもらえたのではないかなと思います。

濵田:1年間を通して、発表が上手くなった生徒は多いですよね。私は自分自身のことを振り返ると、これまで当たり前にやっていた自分の振る舞いによって、生徒にしんどい思いをさせてしまったことがあったかもしれないなと思うようになりました。やっぱり、一人ひとりが輝ける学校にしていく必要があると思うんです。ルールメイキングを通して、授業や学校行事のあり方も見直していきたいですね。

髙山:「ルールを変えること」が目的ではないですからね。一方で、ルールメイキングに直接関わっている立場だと、どうしても「変えたい思い」が強くなりがちです。全校生徒や教職員、保護者など、いろんな人の意見を聞いていくプロセスこそ、大切だと思います。新しいルールを提案するときにも、ただ内容を伝えるだけではなく、そこに込めた思いや話し合いの過程も伝えられるといいのかなと。

これまで当たり前のように決められていたことを変えようとしているわけですから、時間はかかると思います。それでも、「自分らしく生きること」を認め合える学校をつくるために、来年度以降も地道に校則やルールの見直しをしていきたいと思います。

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建石尚子

1988年生まれ。中高一貫校で5年間の教員生活を経て、株式会社LITALICOに入社。発達支援に携わった後、2021年1月に独立。現在は教育に関わる人や場を中心に取材や執筆をしている。「メガホン」の運営団体であるNPO法人School Voice Project 理事でもある。

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