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不登校だった児童が小3から変化。担任の“個に合わせ、子ども同士をつなぐ”アプローチとは?

  • メガホン編集部

小学校に入学した直後から学校への行き渋りがあり、徐々に登校日数が少なくなっていったエリさん。昨年春に3年生になってからは「学校が楽しい」と言うようになり、ほとんど休まずに通うようになりました。

エリさんの保護者であり、スクールソーシャルワーカーでもある小谷綾子さんは、担任教員の伊東裕子さん(仮名)がエリさんの個性を理解して関わってくれたおかげだと話します。伊東さんが大切にしている学級運営や授業づくりについて、保護者である小谷さんとの対談形式でお届けします。

勉強についていくことが難しく、登校を渋るように

—— 小学校3年生になるまでのエリさんは、どんな様子だったのでしょうか?

小谷:エリは幼稚園に通っていた頃から、なかなか集団生活に馴染めないような子どもでした。小学校に入学してからの先生方もエリのことを気にかけてくれていたのですが、やはり勉強に対する関心は向かなかったようで…。授業中に鉛筆を折ったり、消しゴムを粉々にして帰ってくることもありました。

写真:小谷さん提供

それから段々と「学校に行きたくない」と言う日が増えていったんです。2年生になり勉強の難易度が上がると、さらに授業についていくのが難しくなっていきました。家で勉強させようとしても抵抗する感じで。3年生になる前は、週2回くらい登校するような感じでした。

ただ、エリは家で大人しくしているよりも友達と遊ぶことの方が好きだったので、勉強がネックになって学校に行けなくなってしまうことは、本人にとってもしんどかったと思います。3年生に上がるときには、親としても「もう行けなくてもいいか…」という少し諦めのような気持ちにもなっていました。なので、担任の伊東先生には特にエリの様子をお伝えしていなかったんです。

「勉強よりも、まずは遊びを優先しませんか?」

—— 3年生になってからは、どのような様子でしたか?

小谷:4月末頃にエリを教室まで送ったとき、ちょうど伊東先生とお話しする機会がありました。そこで、「エリちゃんは友達と遊ぶのがとても好きな子だと思います。勉強のことは気になりますが、友達と遊ぶ経験が学習につながっていきます。なので、勉強のことは一旦置いておいて、まずは友達と遊ぶことを中心に学校生活を送らせてもらってもいいですか?」というようなことを言ってくださったんです。

その言葉を聞いて、本当に感謝の気持ちでいっぱいでした。エリにも「遊びに行くような気持ちで学校に行ったらきっと楽しいよ」と言えるようになりました。そんな経緯があり、年度当初から嫌がらずに学校に行くようになりました。

伊東:クラスを受け持つことになったときに、不登校傾向の児童がいることは聞いていたんです。それで、エリちゃんをよく見ていたら、声をかけてくれた子についていって休み時間に楽しそうに遊ぶ様子がありました。「とにかく勉強を頑張らせたい」と仰る保護者の方もおられるのですが、つい小谷さんとお会いしたときに「宿題もしてこなくていいから、とりあえず学校に来ることを優先しませんか?」と言ってしまったんだと思います。それが4月の出会いだったんじゃないですかね。

小谷:そうでしたね。「宿題もしなくていいですよ」と言ってくださったんです。それを聞いたエリも、「宿題しなくていいの?!」と驚いていました(笑)

個に合わせた学習で、徐々に自信をつける

小谷:あるとき、エリがいい点数がついたテストを持って帰ってきたんです。どうやら先生がテスト中に補足説明をしたり、読み上げたりしてくださったようで。そうすると解きやすくなりいい点数がついたようです。それがエリにとってはすごく嬉しかったみたいで、自慢げにテストを見せに来るようになりました。

夏休みに入る前、伊東先生がみんなとは別にエリ用に宿題を作ってくれたんです。エリが簡単にできる内容や少し頑張ったらできそうな内容の宿題を提案してくださいました。そのご配慮にはとても感動しました。これまでにも同じようなことをされてきているのでしょうか?

伊東:そうですね。今までもそのようにしてきているので、そんなに大したことではないんです。宿題の内容が違っても表紙がみんなと同じであれば、提出するときにも困らないと思うので、そこは統一しました。他の児童も、勉強が苦手な子がいることはみんなわかっています。

写真:小谷さん提供。エリさんが解きやすいように宿題の内容を変更している

小谷:実は、3年生に上がる前には特別支援学級に在籍することも検討していました。けれど、本人が嫌だと言って。今では勉強したい気持ちが芽生えて、宿題も自分からするようになりました。以前は「私はバカだから勉強ができないんだ」と言って、家でよく泣いていたんです。伊東先生に出会ったことで、「自分に合った勉強の仕方があるんだ」とわかったみたいです。

困っている子の背景に目を向けるようになった

小谷:伊東先生がエリの居場所をつくってくれたから、学校が楽しいと言い始めたと思うんです。子ども一人ひとりに合った関わりを大切にされるようになったのは、なぜなのでしょうか?

伊東:20年以上前に、ダウン症のBさんを4年生から3年間担任したことがきっかけになったんだと思います。特別支援学級ではなく普通級に在籍すると決まってからは、繰り返し職員会議で話し合いを重ねました。

保護者の方は、勉強ができるようになることよりも、クラスの子たちとともに生きることを望んでおられました。最初の頃はお母さんが送り迎えをしてくれていたのですが、少しずつ手を離していくことを目標にしました。6年生の途中からは友達と一緒に家まで帰る練習までできるようになったんです。

その頃から特別支援教育の勉強会や研修会にも参加するようになりました。特別支援教育に知見のある先生との出会いもあり、徐々に児童を見る目が変わってきたような気がします。以前は気になる子どもがいると、「落ち着かない子」「勉強ができない子」という見方をしてしまうことが多かったのですが、「こだわりが強いのかもしれない」「この環境に苦しさがあるのかもしれない」「口頭よりも紙に書いた方が伝わりやすいかもしれない」と考えるようになりました。

小谷:その子がなぜその行動を取らなければいけなかったのか。その背景にフォーカスを当てるようになったのですね。

教員は、子ども同士をつなぐアプローチを

伊東:それと同時に、子どもたちが持っている力の大きさを実感する場面も多くありました。ダウン症のBさんとは、担任である私が向き合っているのだと思っていました。けれど振り返ってみると、クラスの子どもたちがBさんと向き合っていることが多かったなと。

小谷:子どもたち同士の関わりが大切だったと。

伊東:そうです。担任である私は、子ども同士がうまく関係性を築けるようなサポートをする役割だと思うようになりました。それからは、子ども同士の関わりをよく見るようになりましたね。

例えば、転入してきた子が1人で休み時間に座っていたら、1番最初にその子に声をかけたのは誰なのか、そして、次の日に声をかけたのは誰なのかをしばらく観察しています。声をかけていた子には、後から「最初に声をかけてくれたけど、どうだった?」と話を聞きます。1番しんどいのは転入してきた子自身なので、その子に変わることを求めるのは酷だと思うんです。

ただ、転入生を気にかけることを1人の子どもに押し付けてはいけないと思っています。1人だと周りからの目が気になったり、負担に感じてしまったりすることもあるからです。なので、まずは周りを気にかけてあげられる子が3人いるといいなと思っています。3人いると、そこから5人、6人と増えていくんです。

小谷:子どもが教室の中で浮かないことは、安心してその場にいるためには必要なことですね。伊東先生のような方が近くにいてくれる安心感はきっとあると思います。

伊東:それはわかりませんよ(笑) もっとのびのびと過ごしたい子もいるかもしれません。でも、小学校生活の中でいろんな先生に出会うことも大切だろうなとも思います。

一人ひとりに違った伸び代がある

小谷:以前授業を見せていただいたときに、あまり黒板を書き写す場面がなかったことが印象的でした。子どもたちはそれぞれが自分なりの表現でその日に学んだことをまとめていましたね。何か意図があるのでしょうか?

伊東:どの授業でも「板書を写しなさい」とは言いません。どの子にも個性があって、それぞれが持っている課題や伸ばしていけるところが違うからです。子どもたちに伝えているのは、「今日の授業で面白かったことや分かったこと、次にやってみたいことを自分にも相手にもわかるように書いてね」ということです。

小谷:黒板を書き写すだけでも、しんどさを感じる子もいますよね。エリもそうです。授業中にあまり集中できていないときもあったと思うのですが、伊東先生はその状態を注意せずに見守ってくれる感じがありました。先生のそんな関わりを見て、周りの子もエリの自然な姿をそのまま受け入れてくれたような気がします。

伊東:結局、私が子どもたちと関わるのは1年間や長くても数年です。大人になるまで一緒にいることはないけれど、今目の前にいる子どもたちが社会でどう生きていくかはやはりいつも考えていることです。

1+1の計算ができることよりも、いろんな人とコミュニケーションをとっていくことの方がこの社会で生きていくには大事なんじゃないかなと最近は思うようになりました。もちろん勉強も大切ですけどね。

—— 最後に学級担任をされている先生に向けて、子どもたちとの関わりについてアドバイスをいただけますか?

伊東:大したことは言えないのですが、「正しく知ること」は大切だと思っています。今の学校現場では、発達に遅れや偏りのある子どもの特性について、教職員の中である程度の知識が共有された上で動いている感じはありますが、実際はまだまだ勉強が足りていないと思います。それは、私も含めて。

ご自身が「この方の話を聞いてみたい」と思うような方の研修会や講演会に参加して、話を聞きに行ってほしいですね。やはり自分から行かないと得られない情報や知識はたくさんあると思っています。

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メガホン編集部

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