【解説記事】PTAがない学校が登場? 変化するPTAと学校・保護者・地域のあるべき関わり方
子どもたちの健やかな成長を支えるために、保護者と学校はPTAを通して連携しています。しかし、PTAの負担の大きさについての指摘や、そもそもの意義を疑う声があることも事実です。
実際、東洋経済新報社の調査では、保護者の約4割、教員の約半数がPTAが「不必要」だと回答しています。こうした中、PTAのあり方を見直したり、PTA自体を設置しない、廃止する動きもあります。
この記事では、PTAの概要と課題、新たな動きの中から見える学校と保護者の関わり方について解説します。
PTAとは
PTAは、学校ごとに組織される、保護者と教員から成る社会教育関係団体です。「Parents(保護者)」「T=Teacher(教員)」「A=Association(組織)」の頭文字をとってPTAと呼ばれています。英単語の通り、保護者と教員、地域社会が対等に協力し合い、子どもの成長を支えるために活動を行います。
PTAの結成や加入は義務付けられておらず、活動は任意で行われます。2022年6月、当時の文部科学大臣だった末松信介氏は、PTAが任意団体であることを理由に、PTAのあり方は「地域の状況に応じて協議をし、自主的に決めていくのが正しい考え方だ」と述べています。このように、PTAのあり方に関する判断には、文部科学省は関与しない姿勢を示しています。
参考「PTA入会の仕組み「自主的に判断を」 末松文科相、省関与否定の姿勢示す」(京都新聞,2023年2月8日参照)より
PTA組織の構造
PTA組織は、「日本PTA全国協議会」「都道府県・市区町村ごとのPTA連絡協議会」「単位PTA(学校ごとのPTA)」に分かれています。通常、PTAと言う場合は「単位PTA」のことを指します。
日本PTA全国協議会は、各公立小・中学校のPTAを束ねており、約800万人の会員がいる大規模組織です。
単位PTAの中にも、様々な役割があります。まず、「PTA役員」と呼ばれる役職とその仕事内容について、その一例をまとめます。
- PTA会長…PTAのリーダー
- PTA副会長…会長を支える役割
- 庶務…会議の議事録作成や、配布物の印刷、配布を行う。
- 会計…PTA会費の集金などを行う。
- 会計監査…PTAの会計を監査する。
さらに、PTAの内部には以下の専門委員会が設置される場合もあります。下記はその一例です。
- 学級委員会…学級・学年単位の行事や保護者懇親会などを企画、開催する。
- 広報委員会…PTA広報誌の企画や制作、発行を行う。
- 企画委員会…PTA会員や子どもたちの親睦を深めるための行事を運営する。
- 教養委員会…保護者向けの講演会や学習会を企画、運営する。
- 校外委員会…子どもたちの安全な登下校のため、パトロールや通学路の調査などを行う。
- ベルマーク委員会…児童が持ってきたベルマークを集計、学校に必要な備品を購入する。
- 選考委員会…次期のPTA役員を選ぶために、推薦やアンケートなどによる選考を行う。
参考「PTAとは?今さら聞けない活動内容・役割、オンライン化実例も紹介」(All About,2023年1月13日参照)より
PTA役員や専門委員の選出方法は、投票制や自薦、他薦制など、学校により様々です。
PTAが生まれた経緯
PTAは、19世紀末に児童愛護と教育環境の整備を目的としたアメリカの運動によって設置されました。PTAの創始者とされるアリス・バーニーは「幼児を健やかに育て、望ましい環境に迎え入れよう」と訴え、多くの母親から賛同を得ました。のちに父親や教師も運動に加わり、世界各地にPTAの活動が波及しました。
日本では、戦後にGHQが、日本の教育の民主的改革を進めるためにPTAの結成を奨励しました。これにより、当時の文部省がPTAの組織を推進し、昭和25年4月までに全国の約98%の小・中・高等学校でPTAが組織されました。
参考「PTA活動のためのハンドブック」(神奈川県教育局, 2023年1月13日参照)より
PTAの功績
PTAは、教育制度を充実させることに貢献してきました。
例えば、PTAは学校給食の制度化を実現しました。戦後日本は、給食の継続が困難となる事態に度々直面していました。このため、学校給食の法制度化による円滑な実施が喫緊の課題であり、PTAが法制度化実現のための活発な運動を行いました。その結果、1954年6月に学校給食法が制定されました。
また、学校保健法の制定にもPTAの運動が影響しています。PTAは、学校における子どもの健康・安全の確保を目指し、児童の災害補償について衆議院文教委員会に要望を行うなどの活発な動きを見せていました。これを受け、1958年4月に学校保健法が制定されました。
以上のように、保護者の要望をまとめて行政に働きかけることで、教育制度を充実させてきたことがPTAの功績であると言えます。
参考「日本PTAのあゆみ」(日本PTA全国協議会, 2023年1月13日参照)より
現在行われているPTAの主な活動
PTAが行う活動は、一例を挙げると以下のようなものがあります。
- 運動会や展覧会など学校行事の運営のお手伝い
- バザーや模擬店など、学校や地域のイベントの運営や手伝い
- 廃品やベルマークを回収して学校に必要な物を購入
- 子どもの安全や防犯のための地域パトロール
- 学校やPTAの広報活動
引用「PTAとは?今さら聞けない活動内容・役割、オンライン化実例も紹介」(All About,2023年1月13日参照)より
PTAは児童生徒の健全な成長を支えることを目的としているため、この目的に関わる幅広い活動を行っています。
保護者、教員が感じているPTAのメリット
PTAは大変だというイメージがありますが、東洋経済新報社の調査では、PTAが必要だと感じる保護者・教員も多いとわかっています。
保護者がPTAを必要だと感じる理由には、次のようなことが挙げられます。
- 知らない情報を教えてもらえる
- 他学年も含めて親同士の交流が持てる
- 家庭ではわからない学校での子どもの様子がわかる
特に、「親同士で交流が持てる」という意見が多く、PTAが親同士の情報交換や助け合いのための繋がりをつくる場として捉えられていると言えます。
また、教員はPTAが必要な理由として以下を挙げています。
- 保護者との関係づくりができる
- 学校行事で保護者の協力があり、ありがたい
- 保護者と協力して生徒の指導ができる
引用「保護者と教員1200人調査でわかった「PTAは必要?」の超本音 肯定派が半数超えでも、改革は急務なワケ」(東洋経済ONLINE, 2023年1月13日参照)より
学校行事の運営や生徒指導は教員だけで成り立つものではないため、保護者と協力するためにPTAが求められていると考えられます。
PTAの問題点
PTAにはメリットがある一方で、問題点も多く指摘されています。
例えば、保護者からは仕事との両立が難しい、不要な集まりが多いといった声が挙がっています。PTAの活動が平日昼間に行われていて集まりづらい場合があり、さらに効率的な運営が行われていないと考えられます。
また、本来任意であるPTA活動への参加が、強制的に行われているという問題点もあります。School Voice ProjectがPTAの加入について調査したところ、約6割の保護者が「PTAへの加入を選択できない/選択できると知らされない」と回答しました。
教員からも、PTA活動の負担の大きさが指摘されています。PTAの活動自体には「保護者との関係づくりのため」など必要性を感じる意見がある一方、「労働ではないのに、強制されるのはおかしい」「公務でやっているのに会費を支払うことに疑問」などの意見もあり、必須加入には75%が反対、という結果になっています。
こちらの記事では、教職員へのPTAに関するアンケート結果をまとめています。勤務校のPTA加入義務の有無やそれに対するコメント、PTAの今後のあり方に対する意見などをまとめていますので、ぜひお読みください。
参考「保護者と教員1200人調査でわかった「PTAは必要?」の超本音 肯定派が半数超えでも、改革は急務なワケ」(東洋経済ONLINE, 2023年1月13日参照)より
PTA改革! 変化するPTA
学校教育における功績も大きい反面、問題点もあるPTA。こうした中、活動しやすいよう柔軟に変化しているPTAもあります。
コロナ禍でPTAにIT改革
世田谷区のある公立小学校では、コロナ禍の影響もありPTAのオンライン化が進み、保護者負担の軽減が実現しています。
この学校では、主な連絡手段が紙であることへの負担感が保護者から指摘されていました。そこで、臨時で保護者有志の「IT推進委員会」が立ち上がりました。
8人のメンバーが集まり、PTA業務のオンライン化や保護者間のネットワーク構築のために「BAND」という無料アプリが採用されました。
導入後は、コロナ禍でのオンライン会議や学校行事の中継配信がアプリを通じて行われました。また、コロナの影響で入学式が延期となり、PTAの入会資料を配布できない中でも、BANDの参加者募集機能を利用して委員を募集することができました。
参考「PTAは罰ゲーム!? オンライン化で前例踏襲を改善した世田谷区の事例」(All About, 2023年1月13日参照)より
「やれる人がやれることを」前例にとらわれない運用をしているPTA
名古屋市の陽明小学校では、PTA役員を決めず、活動ごとにやる人を募集し、登録する「エントリー制」(希望参加制)を導入しています。
エントリー制では、PTAの委員会活動を細分化し、活動をやりたい人が自ら立候補します。立候補していないにもかかわらず強制的に役割が回ることはありません。
従来は、陽明小学校では委員への立候補がない場合、投票によって各クラス3名を選出していました。しかし、できる時にできる人が参加する制度に変えた結果、すべてのポストが立候補で埋まりました。
保護者からは、できる時にできる人が参加する形になったことで、「負担が少なそうだから自分にもできるかもしれない」と気軽に参加できるようになったとの声が挙がっています。
参考「変わるPTA活動 「くじ引きで委員選び」から「やりたい人が立候補」のエントリー制導入で成功も」(メーテレ, 2023年1月13日参照)より
PTA自体をなくした学校
PTAという枠組みに捕らわれず、PTAを廃止して別の形で支援を行う事例もあります。
東京都西東京市立けやき小学校は、PTAを強く望む保護者がいなかったため、学校創立時にPTAを組織しないことを決定しました。
しかし、保護者が活動する組織が全くないわけではなく、「保護者の会」が自主的に設立されました。PTAとは異なり保護者だけで運営が行われており、子どもの見守り活動等に取り組んでいます。
参考「PTAをなくした小学校16年目の真実 「いいことづくめ」の美談のはずが…」(J -CASTニュース, 2023年1月13日参照)より
また、東京都大田区立嶺町小学校は、PTAを廃止して代わりに「PTO」を組織しました。「PTO」は「保護者と先生による楽しむ学校応援団」とも呼ばれており、Parent -Teacher Organizationの略です。
PTOは2015年に組織されており、それまでは強制的な役員・委員決め、不要な活動の継続といった問題を抱えていました。そこで、できるときに、できる人が、やりたい活動やできる活動をするPTOのシステムに転換しました。これにより、保護者は無理なく参加でき、活動を楽しめるようになっています。
参考「義務感、強制感ゼロ「PTAをなくした」学校の実際−自由意志のボランティアで子ども支えられるか」(東洋経済ONLINE, 2023年1月13日参照)より
求められるPTAの役割とは
冒頭で、東洋経済新報社の調査で保護者の約4割、教員の約半数がPTAが「不必要」と回答したことを紹介しました。これは、裏を返せば保護者、教員の半数は必要だと思っていると言えます。
PTAを廃止した学校でも、保護者と学校のより本質的な連携を目指して別の組織が生まれています。東洋経済新報社の調査では、PTAの代わりにコミュニティ・スクールを提案した教員もおり、何らかの形で保護者と学校の連携が求められているとわかります。
「コミュニティ・スクール」について詳しくはこちら。イラストや具体例を交えて解説しています。
多忙な教員だけですべての教育を担うことは不可能であり、学校と保護者、地域との連携は必要不可欠です。ただし、その方法や形式は、従来のPTAという枠組みに捕らわれすぎず、柔軟に考えることが重要です。
まとめ
PTAは子どもの健やかな成長を支えることを目指す、保護者と教員による組織です。教育制度の充実に貢献した功績があり、保護者と教員の繋がりを形成するという利点もあります。
しかし、不要な活動の存在や強制的な参加など、保護者の負担が大きいという問題点があります。さらに、保護者が活動に参加しづらいことで、結果的に教員主導となり、教員の負担も大きくなっています。
こうした中で、IT化による負担軽減や、PTAの運用体制の変革、PTAの廃止が進められています。保護者と学校が本質的に連携するために、従来のPTAのあり方を柔軟に見直すことが必要です。
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メガホン編集部