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【解説記事】中学部活動の地域移行、事例をもとに具体的な検討ポイントを解説

  • メガホン編集部

はじめに

2023年度から公立中学校の休日の運動部活動を段階的に地域に移行していくことがスポーツ庁で審議されています。部活動の地域移行については、これまでも議論がされてきました。その議論を通じて、特に少子化の影響で地方でスポーツを行う環境が減少している状況の改善や、教員の負担の大きさを解消する必要性などが指摘されています。

2023年度から段階的地域移行に向け、今回の記事では、部活動の地域移行が必要な理由、改革の方向性、地域移行を検討する際のポイントについて紹介します。また最後に、すでに導入がなされた事例も紹介しますので、今後の取り組みの参考にしてください。

部活動の改革が叫ばれる理由

部活動に関する問題は、立場や競技の種類によって様々なものがあります。ここでは、部活動の地域移行が必要だとされる理由を「教員の働き方改革の必要性」「少子化における部活動の活動の維持」という2点に分けて紹介します。

教員の働き方改革の必要性

教員の働き方改革を行うにあたって、部活動の改革は欠かせません。それは、現状の部活動が「長時間労働の原因となっている」「十分な手当が出ない」「基本的に断ることができない」という3つの側面から問題になっているからです。それぞれ詳しく見ていきましょう。

部活動顧問の長時間労働の原因となっている

部活動は、学校教育の一環として実施されてきました。休日にも部活動があることを考えると、教師の負担の上に支えられており、長時間労働を助長する一因です。実際、公立小・中学校教員の勤務実態調査の報告書にも「中学校教員の勤務時間の長時間化は(中略)特に土日の部活動に費やす時間が長時間化したことによる」とあるなど、改善の必要性が指摘されています。

参考「公立小学校・中学校等 教員勤務実態調査研究」(リベルタス・コンサルティング,2022年9月20日参照)より
参考「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」(文科省,2022年9月20日参照)より

十分な手当が出ない

教員が部活動の指導をする際には、特殊勤務手当が支給されます。この手当の額は、国の方針をもとに自治体が定めており、たとえば以下の表のようになっています。このように、手当の支給条件や額などは自治体によって様々です。

自治体手当の対象時間金額
東京都週休日3時間以上3,000円
大阪府週休日
半休日(*)
2時間以上4時間未満
4時間以上
1,800円
3,600円
秋田県週休日
半休日(*)
3時間以上2,700円
島根県週休日2時間以上4時間未満
4時間以上
1,800円
3,600円
高知県週休日2時間以上3時間未満
3時間以上4時間未満
4時間以上
1,800円
2,700円
3,600円
(*)…勤務時間が4時間未満である日

 しかし、支給の基準となる活動時間は最長でも3時間~4時間程度に設定されている場合が多く、その場合、大会など丸1日活動をするような日でも追加の手当が支払われません。実際には、時給換算で最低賃金を割ることもありえるのが現状です。

校長指名を拒否できない

部活動顧問の指名は、各学校の校長に権限があります。校務分掌のひとつであり、進路指導や生活指導などのように、教員が協力して分担しています。法令上、校長は勤務時間外の部活動業務を命令することはできないのですが、上司の指示であることや、自分が断れば同僚の誰かがやらなければならないことなどから、部活動顧問を断ることを難しくしています。

また、教員としての仕事に不慣れな若手教員や、指導経験のないスポーツを指導する教員にとっては、より大きな負担となっているという側面もあります。

少子化における部活動の活動の維持

進行する少子化も、部活動改革が叫ばれる大きな理由になっています。

実際、少子化によってサッカーや野球など1チームに多くの人数が必要なスポーツで学校単位でのチームを組めなくなったり、顧問の不足から人数の少ない部活動が廃部になったり、という影響が出ています。現在の部活動の在り方が変わらないと、子どもたちが多様な文化やスポーツに触れる機会が失われる恐れがあります。

また、School Voice Projectで過去にとったアンケートでは、「部活動が“必須加入”となっている学校があるのはなぜだと思いますか?」という設問に対して

小規模校で全員加入にしないと競技が成り立たない。

学校単位のチームという枠組みでは、部活動を維持するために、全員加入という方法をとらないと持続できない学校もあるのだと思う。

といった回答も見られています。このように、本来自主的な取り組みであるはずの部活動が少子化の影響で“必須加入”となってしまうと、それによって苦しむ子どもたちが出てくることも考えられます。部活動改革には、そのような事態を防ぐ意味合いもあると言えるでしょう。

《教員へのアンケート調査はこちら》

改革の3つの方向性

教員の働き方改革と少子化による部員減少。
これらの部活動の課題に対して、どのような解決策があるのでしょうか。

地域移行

地域移行とは、現在教員が担っている管理者、指導者の役割を民間の方に担ってもらうということです。

教員の多忙を解消するだけでなく、部活動の文化やスポーツの専門性をもった人材を登用することができるメリットもあります。一方、デメリットもあります。2022年現在、2017年改訂の中学校学習指導要領が適用されていますが、部活動は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」「学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意する」ことが求められています。この教育的な側面がどのように担保されるのかといった問題が懸念されています。また、人件費等の費用がどのように捻出され、誰が負担すべきかといった議論もあります。

参考「部活動の地域移行、教育的意義はどうなるのか」(笹川スポーツ財団,2022年6月15日公開,2022年9月20日参照)より

合理化(ICT活用など)

教員を部活動の職務から外すだけでなく、部活動自体を変化させていく方法もあります。

例えば教師がしっかり目を向けられるときは、全体練習でしかできないチームプレーの確認や事故や怪我が起こらないよう管理の重要な活動を中心にします。教師が忙しい場合は、筋トレなど個人でできる練習や事故や怪我のリスクの低い活動をまとめることで、教師の負担を軽減できるかもしれません。またICTの活用によって、個人情報の管理や連絡、書類手続きなどを直接的に業務削減する方法もあるでしょう。

大会の在り方の見直し

部活動の大会の運営も大きな負担の一つです。基本的に休日に開催され、大会運営の多くが教員によってなされています。また、大会には部活動の成果としての意味合いが大きくあります。結果を求めるあまり、勝利至上主義や長時間の活動を引き起こし、身体の発達以上の負荷やスポーツが「苦しい」ものになりかねないという問題があります。

このような観点から、各競技について若年層向けの大会のあり方を見直す動きが出ています。実際、海外では15歳以下の全国大会を廃止した例があるほか、日本でも、全日本柔道連盟が2022年から個人戦の全国小学生学年別大会の廃止をしています。

参考「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言(令和4年6月6日)の概要」(文科省,2022年9月20日参照)より

地域移行の詳細

地域移行について、具体的に解説していきます。

概要

「運動部活動の地域移行に関する検討会議」で、2022年6月6日に提言が取りまとめられました。2023年度からの3年間、中学校の運動部活動を休日の活動から段階的に地域に移行していくことが基本とされています。

開始時期

提言によれば、2023年度から2025年度末を「改革集中期間」と設定しており、まずは休日の運動部活動から段階的に地域移行していくことを基本としています。進捗状況から、2026年度以降、さらに改革を続けていく予定です。

人材

地域の実情に応じて、地域や民間の団体、事業者やプロスポーツチームなどが想定されています。また、スポーツの指導だけでなく、大会の運営や引率を担うような人材も必要とされます。

予算

保護者が負担することや地方自治体の減免措置が想定されています。生徒の活動機会の保障、受益者負担の観点からは妥当であると言えますが、これまでに両者の負担がないことから、国による支援も検討されています。

懸念点・検討事項

各自治体、地域ごとの地域移行のスピード感や、人材や予算の問題があります。実際に学校で部活動の地域移行をする際に懸念される点や検討すべきポイントをまとめてみました。

人材確保できるか 

地域移行を行うためにはまず、部活動を指導できる人材を確保しなければなりません。

以前からの指導者がいる場合は継続任用を要請することが可能ですが、それ以外の場合は地域スポーツクラブや競技団体から紹介してもらったり、学校関係者の人脈などから指導者を確保することが必要です。実際、実践研究でもこのようなパターンでの人材確保が多く見られました。

そのほかには、体育・スポーツ協会や、大学運動部や企業チームなどとの連携が考えられます。また、求人募集や人材バンクの活用などの事例もあり、新規に人材募集をすることが必要になる場合もあるでしょう。

予算をどうするか

次に、予算の確保です。これまでの部活動は教員の無償奉仕によって支えられていましたが、それが引き継がれては持続可能な取り組みにはなりません。そのため、指導者に適切な給与を支払うことが必要です。

部活動に所属する生徒(保護者)から支払いを行う受益者負担の他に、地方自治体や国の支援も検討されています。そのほかの方法として、後で紹介するようにクラウドファンディングによって地域移行を成功させた事例もあります。全国大会のために地域や同窓組織から寄付を募るような光景は今までもありましたが、それを恒常的に行うようなイメージと捉えると分かりやすいでしょう。

勝利至上主義加速の懸念

指導体制や指導方法についても検討をする必要があります。スポーツは「楽しみながら体を動かす」という側面だけでなく、「勝ち負けがつくもの」という側面もあります。

強豪校といわれるような学校では「勝利し続けること」が強く求められ、すでに専門家の指導や長時間の部活動がされています。地域移行で学校の管理から離れることで、部活動で「スポーツを楽しむ」という側面が薄くなり、過剰に「勝利」を求めすぎることが懸念されています。

運動部活動の地域移行に関する検討会議では、目指す姿として「スポーツへ親しむ機会を確保すること」や「自発的な参画による楽しさや喜びが本質だ」とされています。心身の健康やスポーツを楽しむことが十分に配慮される仕組みが必要とされています。

参考「運動部活動改革のこれまでの経緯・取組について」(文科省,2022年9月20日参照)より
参考「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」(文科省,2022年9月20日参照)より

地域移行の事例

それでは、実際に活動の地域移行を行った学校はどのような取り組みを進めていったのでしょうか。ここでは、地域移行の成功事例を紹介します。

茨城県つくば市公立中学校の取り組み

茨城県つくば市立茎崎中学校は、2018年「茎崎地区文化・スポーツクラブ」を民間と学校によって立ち上げ、部活動の地域移行を成功させました。

当時の茎崎中学校は全校生徒が200人。その生徒数ではサッカーや野球のチームが作れるかどうかの状態で、生徒数はその後も減少の見込みと、学校単位での部活動は「すでに破綻」という状態でした。その状況を踏まえ、当時の八重樫校長は部活動の地域移行が必要だと決断します。当初は反対意見も多く出ていたものの、学校関係者や行政と話し合い、摩擦を乗り越えてクラウドファンディングを実施。それが目標額を大幅に上回る額で成功し、受益者負担型の任意団体という形態での地域移行を実現させました。八重樫さんはその後に赴任した谷田部東中学校でも同様の取り組みを行い、スポーツ庁・茨城県・つくば市とも連携した団体を立ち上げています。

参考「八重樫通氏「すでに破綻している」学校は部活動改革だけでは変われない」(東洋経済,2022年6月29日公開,2022年9月20日参照)より

岐阜県教育委員会の取り組み

次に紹介する岐阜県では、今後部活動の地域移行を進める準備として地域指導者の人材育成を始めています。

岐阜県が育成を目指すのは、部活動の教育的意義を理解した上でスポーツへの興味・関心や体力・技能を向上させるような指導ができる人材です。2023年の地域移行スタートに先駆けて、2022年5月、教育委員会と岐阜県スポーツ協会は、地域部活動指導者育成研修会を開催しました。講座では、教育的な関わりやスポーツの安全な取り組み方について学べ、全てを受講した者にライセンスを発行することで、教育的な意識をもった指導のできる人材を増やすことに成功しています。

参考「「部活の地域移行」へ指導者育成 研修会受講でライセンス発行、岐阜県教委」(岐阜新聞,2022年6月9日公開,2022年9月20日参照)より

まとめ

以上、2023年度から段階的に行われることが決定している部活動の地域移行について、地域移行の必要性と、概要、課題、実践例を紹介していきました。

もともと部活動は、教員に残業代が与えられないなか長時間労働を強いることで成り立っており、労働上の問題が指摘されていました。それに加え、少子化の進行により学校単位で充実した活動を行うことが難しくなっている側面もあります。

それらを解消するため、現在教師が担っている管理者、指導者の役割を民間の方に担ってもらうという動きが部活動の地域移行です。

スポーツ庁は、2023年度からの3年間、中学校の運動部活動を休日の活動から段階的に地域に移行していくことを提言としてまとめました。2023年度から公立中学校の休日の運動部活動が、段階的に地域移行されます。

実際に地域移行するにあたり、教育的意義や安全性を管理できる人材の用意や、活動の資金をどのように確保するのかといった予算の問題があります。

茨城県つくば市では、活動費をクラウドファンディングで募り、受益者負担型の任意団体へと移行することに成功しました。岐阜県では地域の指導者不足に対し、岐阜県スポーツ教会と手を組み教育とスポーツを学べる講座を開設することで、地域移行の実施に先駆けて人材育成をしています。

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メガホン編集部

NPO法人School Voice Project のメンバーが、プロやアマチュアのライターの方の力を借りながら、学校をもっとよくするためのさまざまな情報をお届けしていきます。 目指しているのは、「教職員が共感でき、元気になれるメディア」「学校の外の人が学校を応援したくなるメディア」です。

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