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「先生たちが変われば、子どもたちの学びが変わる」

そう話すのは、対話を中心とした組織開発の専門家として、全国の学校でコンサルティングを行う澤田真由美さん。

約10年間小学校教員を務めた経験があり、子どもとの関わり方や働き方に悩んできたと言います。自身の経験から、先生がゆとりを持って働き、子どもたちの学びの質を高めていける学校を増やしたいと考え、2015年に学校専門コンサルタントとして独立。

現在、株式会社先生の幸せ研究所の代表を務める澤田さんに、改革を進めていくときのポイントと、教職員一人ひとりが改革のためにできることを伺いました。

教職員が思っている「変えられない」を「変えられるかも」に変換する

ーー学校コンサルティングでは、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

2022年4月から関わらせてもらっている埼玉大学教育学部附属小学校(以下、埼玉大附属小)では、組織開発をしていくために月1回ほど学校を訪問しています。それまでにICTツールの導入などでハード面は整ってきており、学校で働く教職員の意識など、ソフト面を変えていくことの必要性を感じておられました。

「教職員が自分たちで課題を解決していけるような組織にしていきたい」というニーズから、お声をかけていただきました。今は、それぞれの先生たちから発案があった12個のプロジェクトを並行して進めているところです。

ーー12個ものプロジェクトが発案されたのですね。教職員からそこまで多くの意見やアイデアが出るのは、一体なぜなのでしょうか。

どの学校も教職員のうち5%くらいの方は「学校を改革していきたい」という強い思いがあり、実現に向けてすでに行動しています。逆に、「変えずに現状を守りたい」という方も5%くらい。両者ともに、自分の信念を持って行動していることは共通しています。

1番多いのは、「変えられるなら変えたいけど、自分やこの組織には無理」と思っている方です。コンサルタントとして学校に関わらせてもらうときの最初のワークショップでは、「変えられるはずがない」と思っている方に「変えられるかもしれない」と思ってもらうこと、「変えずに現状を守りたい」と思っている方に「変えた方がいい場合もあるかも。案外いいかも」と思ってもらうことが最も重要なことだと思っています。

ーー研修やワークショップでは、具体的にどのようなことをするのでしょうか?

教員だけではなく誰しもが「こうするべき」という思い込みに無自覚のうちに縛られていることが多いので、それが当たり前ではないのだと感じられるような話をしたり、思い込みの枠を外せるようなちょっとしたワークをやったりします。

その後、埼玉大附属小のときは、3、4人ずつのグループに分かれて「これから変えていきたいこと」について話し合ってもらいました。私はいろんなテーブルを周りながら、出てきた意見を教職員全体に紹介したり、「最初は小さいことからでいいですよ」と声をかけたりします。盛り上げ役のような感じですね。

誰もが「本当はこうだったらいいのに」「ちょっとやりにくいな」と思っていることが必ず1つはあるものなんです。まずは勇気を出して、変えたいと思っていることを声にしてもらうことからだと思っています。

価値観を共有し、人として関わりながらプロジェクトを進める

ーー現在進めているプロジェクトについて、もう少し詳しく教えてください。

「学校の中でジェンダー平等の視点を広げたい」という思いを持った先生が発案したプロジェクトでは、男女別の名簿を見直したり、先生の性別によって受け持つ学年に偏りがある現状を見直したりする動きを進めています。

また、「それぞれの先生が自律分散的に動いていくティール組織のような場にしたい」という思いを持った先生からの発案で、週3回、子どもたちが下校した後の20分間はそれぞれが創造的なことに使える「クリエイティブタイム」を設定しています。

ルールとして決まっているのは会議を入れないことくらいで、その時間をどう使うかは個人に委ねられています。丸つけや事務作業をする以上に、それぞれが新たなアイデアを生み出したり、自分のやりたいことを深堀りしたり、教職員同士で対話をしたりするような時間にしていけるといいなと思っています。

ーー意見を出したり実際にプロジェクトを進めていくには、教職員同士の関係性も大切だと思います。信頼関係をつくっていくために、工夫していることはありますか?

埼玉大附属小では、教職員がお互いに自己開示をするワークショップをやりました。校内でプロジェクトリーダーをされていた先生が、この頃にはすっかり「自走」を地で行くようになっていたので、進行は私ではなくその先生にお任せしました。

ワークショップでは、3、4人のグループに分かれて、それぞれが大切にしている価値観や生い立ち、プライベートのことなど自由に話していきます。

幼少期の経験を話す中で「ひとり親家庭で育った」という方の話を聞いて、「実はうちもそうだよ」という会話が生まれたり。それまでは「先生」という役割を持った人として関わっていたのが、さまざまな背景を持った「人」としての関わりに変化していくんです。

校長先生のこれまでのストーリーを聞いて、「1本の映画を見ているような気持ちになった」と仰る方もいました。中には自己開示をすることに対して抵抗感があった方もおられましたが、「今までの研修の中で1番有意義だった」という声も上がりました。

最後にそれぞれの価値観を紙に書いてもらうと、いろんな言葉が集まりました。それぞれの価値観って、とても多様なんです。だからこそ、組織開発を進めていく中では目に見える成果だけを追い求めるのではなくて、先生たちと一緒に「どうありたいか」を考えながら目指す方向性を決めていきたいと思っています。

大切なのは、自分から手を挙げてもらうこと

変わっていく学校には、どのような要素があるのでしょうか?

まずは本音で話し合う時間を少し無理してでも確保することが重要です。そうでないと、変わるきっかけをつくれないので、現状維持のままになりがちです。先頭を切って改革を進めていくような校長がいれば変わりますが、結局その校長が異動したら元に戻ってしまいます。

話し合いの時間が楽しかったり、実際に変えていける実感を持った人が1人、2人と増えていけば、さらにその動きが周りに波及していきます。そうすると、最初は非公式の時間でやっていた話し合いが、学年会議や教科会議のような公式の時間に位置付けられていくわけです。

過去には先生たちへのヒアリングを元に、必要だと思ったアイデアを私から提案したことがありますが、それでは上手くいきませんでした。先生自身が心から「やりたい」と思うことが何かに目を向け、自ら「やろう」と声を上げることが、学校を変えていくためには必要なことだと思っています。先生たちのアイデアから生まれたプロジェクトを日常の業務と並行して進めていく中で、学校改革を進めていく“当事者”を増やしていくのです。

ーー学校を変えたいと思っている教職員一人ひとりができることは、何かあるでしょうか?

管理職ではなかったり経験年数が浅かったりすると、「できることはない」と思いがちですが、決してそうではありません。おすすめの方法は、「問いで耕す」ことです。

つまり、いろんな方に「問い」を投げかけるのです。例えば、「校内研修で何か困っていることはないですか?」と質問して、相手が「こんなことに困っていて…」と話してくれたら、そこから対話を続けていきます。あくまで「どう思いますか?」と聞くスタンスで、「こうしましょう」とは言いません。

実際に「問いで耕す」ことで、学校改革への情熱を持った教職員を増やしていき、研修やワークショップなどを一切せずに学校のあらゆる決まりごとを変えていった先生がいます。校内研究の講師を授業者が選べるようにしたり、通知表の作成週は毎日4時間授業にしたり、通知表の印鑑を廃止したり、各家庭でランドセルかリュックかを選べるようにしたり。すごいですよね。

先生だけではなく、校長や管理職の立場の方にもおすすめです。まずは「みんなどう思う?」と聞いていくところから始めてみてください。

先生たちが自由になれば、子どもの学びは変化する

ーー澤田さんがコンサルタントとして学校の教職員の方と関わるときに、気をつけていることはありますか?

改革を進めるときに欠かせないのが、「組織には見えやすい部分と見えにくい部分の両方がある」と理解することです。見えやすい部分とは、制度や時間割、環境設定などです。見えにくい部分は、教職員それぞれの思い込みや組織風土、個人のモチベーションなどです。他の学校が改革に成功した事例があると、同じ取り組みをそのまま導入しがちですが、それでは上手くいきません。組織ごとに目に見えにくい部分の課題が違うからです。

私たちコンサルタントは、組織ごとの課題をメタ認知して、プロジェクトの実行を進めるペースメーカーとして関わったり、壁打ち相手になったりすることもあります。組織にいる立場では言いにくいことも、外部の人間であれば「やってみましょう」と言える部分もあります。そんな風に、組織開発を進めていくための程よいプレッシャーを与えることが役割だと思っています。

ーー最後に、澤田さんが思い描いている学校教育のあり方を教えてください。

学校教育では、探究的な学びやプロジェクト学習が重要だと言われていますが、学校内で先生がクリエイティビティを発揮しにくい状況になっているという相談がとても多いです。それと同時に、これまで聞いてきた先生たちの話からは、「もっと自由にやりたい」と思っている方が多いことにも気づきました。

先生たちが「本当にやりたい」と思っていることを学校の中で実現できれば、子どもたちの学びは変化していくと思っています。実際に、教職員間で体験した話し合いやプロジェクトの進め方を、教室内で子どもたちを対象にやってみた先生もいました。すると、子どもたちからはどんどんアイデアが出てきたそうです。

先生たちには、学校の中で自由と可能性を感じてほしいと思っています。私は、それを実現するための手段として、学校コンサルティングや講演活動を行っています。まずは先生たち同士が何でも言える関係でわくわくと学校をつくっていくこと。その変化を、子どもたちの学びの変革につなげていきたいと思っています。

茅ヶ崎市立香川小学校(児童数:1,013人、教職員数:55人)といえば、「通知表をなくした学校」として多くの人に知られています。メガホン編集部では、通知表廃止だけでなく、教室の配置転換や運動会のあり方の見直しなど独自の取り組みを進めつつ、「5年間教職員の療休が出ていない」「不登校児童が少ない」など、教職員も子どもたちも自分らしく過ごす香川小の学校風土に注目。

同校の総括教諭(主幹教諭)である小林良平さんへのインタビュー、学校訪問、國分一哉校長をはじめとする教員の方々への取材を通し、その真髄を探ります。

ミドルリーダー・小林良平さんインタビュー

「大好きな職場。月曜日が来るのが嫌ではない」理由

「香川小最高ですよ、本当に。大好きな職場です。月曜日が来るのが嫌ではないですから(笑)。香川小の何がいいって、教職員一人ひとりが自分らしく働くことができていることですね。『ここは自分の居場所』と心から思いますし、人生の一部のような位置付けです」という小林良平さん。

教員生活15年目で、2018年4月に茅ヶ崎市内の小学校から香川小に総括教諭(主幹教諭)として異動。4年生のクラス担任に加え、児童の特性や個々の問題に応じた指導や支援を行う「支援グループ(※)」のグループリーダーをつとめています。(※参照「神奈川県における学校運営組織と総括教諭」)

「支援グループの方針として『全校での支援』を掲げ、課題を抱える子、支援が必要な子を教職員全員で支えるようにしています。また、『子どもたちだけでなく、先生たちも支え合いましょう』ということで、たとえば学級経営等でピンチに陥っている先生がいたら、周りの先生の空き時間を調整してシフトを組み、交替でそのクラスに入ってサポートしたり、同じ学年の先生同士で助け合ったりするようにしています。

支援に限らず、カリキュラム、学校運営など学校にまつわるさまざまなことを『だれかに押し付けるのでなくみんなでやる』『みんなで参加し、みんなで考える』という風土が根づいていることが、当校の大きな特徴だと思います。さまざまなキャリア、さまざまな家庭環境の先生一人ひとりがそれぞれのベストを尽くしながら自分らしく働くことができる、多様性のある職場です」といいます。

もちろん、このような風土が一朝一夕に出来上がったわけではありません。

「前任校から当校に赴任した当初は、ルールが多いことに加え、ちょっとしたことですが、鍵による開閉が必要な教室が校内にたくさんあることなどから、『堅い学校だなぁ~』というのが第一印象でした」と、当時を振り返る小林さん。

しかし同時期に、國分一哉校長が着任。

「國分校長は教職員組合の委員長もつとめられていた方で良く知っていましたし、『何か面白いことをやってくれそう』という期待感はありました。といっても、校長先生ひとりが力を発揮しワンマンでおし進めていくのではなく、着任当初から『みんなと話がしたい』と口癖のようにおっしゃっていて、それを実行されていました。

管理的ではなく、教職員が対等に、自由にディスカッションできる職場環境をつくろうとしてくださっていることを肌で感じ、先陣を切って言いたいことを言っていましたね」

教室配置の変換をめぐる議論の中で芽生えた「学校はみんなでつくる」という意

メディア等で大きな注目を集めた香川小の改革・「通知表廃止」は2020年度からスタートしましたが、

「実はその前から、通知表以外の要素で改革の動きがあったのです」と、小林さんは言います。それは、教室配置の転換でした。

(香川小学校の教室配置は現在、6年生と1年生の教室が交互に並ぶ「市松配置」)

「2018年のある時期、支援グループに属する現場の先生から『日常生活の中で子ども同士がお互いを認め、助け合う関係を築くため、1年生と6年生の教室を隣り合わせにしてはどうか』というアイデアが出て、それいいね、と。

これを実現させたいと思い、校長先生、教頭先生、現場の先生たちによびかけたところ、校長先生、教頭先生は賛成してくださいました。いっぽうで、『体格が異なる6年生と1年生がぶつかったりして危ないのでは』『そんな取り組みは今まで聞いたことがない。やる意味はあるの?』など、反対意見や慎重意見も少なくありませんでした」(小林さん以下同)

クラス数の関係で、同じフロアに同じ学年が全クラス並ばないという物理的な要因もあり、小林さんの働きかけを中心に学校全体で議論が活発化。賛成派、反対派と意見がまっぷたつに分かれることもあったというなか、数か月続いた最後の話し合いは、視聴覚室で教職員全員が車座になって行いました。

「職員室で行うと職員会議の延長のような雰囲気になり、発言しやすい人が決まってしまいがちで意見が偏りやすい」という理由からだそうです。

それでも賛否が拮抗してなかなか結論が出ず、「多数決で決めようか」という空気に一瞬なったといいますが、

「これまで本当にたくさん皆で話し合ってきたのにそれはおかしいよね、と。最終的に、校長先生に判断をゆだねることになりました」

翌日、校長先生がくだした結論は、「市松の(1年生と6年生の隣り合わせ)教室配置はしない」。

といっても全面的な「NO」ではなく、

「反対も多いので全面的にはやらない。けれど、まずは実験的に同じフロアに1年生と6年生の教室を配置して、隣り合わせでない形で様子をみてみましょう」という判断でした。

こうした学校をあげての一連の議論をきっかけに、

「教職員一人ひとりが、『キャリアが浅くても意見を言っていいんだ』『新しいことを始めてもいいんだ』『校長先生がすべてを決めるわけではないんだ』『一度に結論を出さず、トライアル的に様子をみていく進め方もあるんだ』などの思いを抱くようになり、学校はみんなでつくっていくものという意識が芽生え始めたと思います」といいます。

2019年度に1年生と6年生の教室を同じフロアに配置したところ特に問題は起きなかったため、2020年度から1年生と6年生、2年生と5年生の教室を隣り合わせに配置することに。

「またそこで議論になるのかなと思ったら、拍子抜けするくらいあっさり話がまとまりました。『やってみたら大きな問題もなく、なにか新しく始めることはそう大変でもないな』と皆で実感できた部分も大きかったと思います」と、小林さん。

「6年1組と1年1組」、「5年2組と2年2組」のように上級生と下級生のクラスを兄弟クラスにし、昼休み前の清掃時間には、上級生が下級生のクラスに出向いていっしょに掃除をしたりするようになりました。

前例があったからこそスムーズに進んだ「通知表廃止」の議論

「通知表廃止」についての議論は、そんな流れの中で始まりました。

「議題としてあがりはじめたのは、2019年度です。学校の実情に応じたカリキュラムを編成し、通知表の更新や校内研究の企画・運営を行うカリキュラムグループから、『通知表はなくしてもいいのではないか』という意見が出始めたのです」

2020年度から学習習指導要領が大きく変わり、通知表も評価の観点が4観点から3観点に。「必然的に通知表のあり方を変える必要があった」という背景も手伝い、教室配置の転換のときと同様に、学校全体で議論が始まりました。

「教室配置の転換について喧々諤々の議論を経験していたこともあり、話し合いそのものはスムーズに、建設的に進みましたね。最初は『通知表はあったほうがいい』という考えの先生が多数派だったのですが、時間をかけて対話を重ねていくうちに、『なしにするのもありなのかな』という流れになり、『じゃあ、やめてみよう』と。最終的には校長先生が判断くださいました」

通知表は2020年度から廃止され、これまで通知表を作成するために割かれていた膨大な時間は、子どもたちの成長を見る時間に使われるようになりました。

通知表の代わりになるようなものも特に存在せず、各担任の裁量により、面談等を通して子どもたち、保護者へのフィードバックが行われています。

「個人的には、『評価のために◯◯をしなくてはならない』など手段が目的化してしまうような時間が減ったぶん、教育過程を自由に組むことができるようになりました。通知表がないことを生かした教育を、模索しながら実践しています」

ボトムアップな学校風土醸成のキーワードは、「感情」「エピソード」「あいまいさ」

教職員の声に耳を傾け、フィードバックや対話を地道に重ねながら組織を活性化させる支援型リーダーシップで導く國分校長のもと、小林さんらミドルリーダーが中心となり、

教職員全員でボトムアップな学校風土を作り上げながら、これまでの学校の「当たり前」を見直し、新たな取り組みを進めてきた香川小。

このような風土改革実現のキーワードとして、小林さんは、3つの言葉をあげてくれました。

それは、「感情」「エピソード」「あいまいさ」

「最初に教室配置転換についての議論を重ねていたときに感じたのは、『◯◯は△△であるべき”といった正論で人は動かないし、私はこう思うと意見を述べ合うだけでは対立を生むだけ』ということ。特にうちのような人数が多い職場では、段階をふんだ合意形成は難しいと感じました。

その流れもあってか、通知表について議論するとき、『通知表つけるのって大変だよね』『通知表って、子どもたちの成長に本当に役に立っているのかなぁ』など、教職員同士がお互いの感情を吐露することから自然とスタートできたのは良かったと思います。

加えて、『たとえば社会科で、子どもが一生懸命新聞を作ったとしても、テストが高得点でなかったことで3段階評価の2をつける。その評価を子どもが目にしたときのがっかりした表情を目の当たりにすると、通知表の存在意義に疑問を抱く』などの具体的なエピソードも、皆の気持ちをゆさぶりました。

何かを変えようとするとき、そのメリット、デメリットを議論するだけでなく、お互いの感情やエピソードを話し合うほうが共感できるし、人の気持ちがぐっと変わったり議論が深まったりするきっかけになるのではないでしょうか」

小林さんが続けます。

「あいまいさについては、先ほど香川小は人数が多い職場といいましたが、人数が多いからこそあいまいなまま白黒はっきりせずにいろんなことが進みがちなところも、じつは良かったのではないかと。

『◯◯については、今どうなっているんだっけ』『この前の会議で出た△△の意見って、まだ生きているんだっけ』など、あいまいな部分を残したまま物事が進み、歩きながら考える空気が学校全体に流れていることで教職員一人ひとりの創造性が発揮され、意見やアイデアを出しやすくなる。これも、職場が活性化した理由のひとつなのではないかと思っています」

〜後半に続く〜

英検(実用英語技能検定)や漢検(日本漢字能力検定)、予備校の模擬試験など、外部機関の検定・試験を学校内で行うことは多いですが、「実施に大きな負担がかかる」という声も聞かれます。また、担当教職員が手続きを忘れていたことでトラブルになるケースも報道されています。

今回は、教職員の方を対象に、英検や漢検、外部模試の業務負担について、勤務校での実態を聞きました。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2022年11月18日(金)〜2022年12月12日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :42件

アンケート結果

設問1 検定・模試の校内実施の状況は?

Q1. あなたの勤務校では、英検・漢検・外部模試等の外部機関の検定や試験を校内で実施していますか?(国や自治体ごとに行う学力調査等は除きます)

小中学校では半数の学校で、高校では全ての学校で、外部期間の検定や模試を校内で実施していると回答がありました。

設問2 実施するうえでの負担は?

Q2. 設問1で「実施している」と答えた方にお聞きします。実施にあたって負担に感じていることを選択してください。(複数選択可)

負担に感じていることとして最も多かったのは、「事務処理(申込手続等)」。28人中24人が選択しました。次いで「金銭処理(検定費用等)」、「時間外や休日に実施すること」の順で多い結果となりました。

設問3 校内での検定・模試の実施、どう思う?

Q3. 学校内で外部機関による検定・試験を行うことについて、あなたの意見をお聞かせください。(任意)

事務や金銭処理への負担

申し込みの事務処理や代金処理を業者委託し、勤務時間内(当然、休憩時間を除く)に実施できるなら、やってもよいとは思う。が、本来、教育課程外の活動であり、希望する生徒が学校外で受ければすむことだと思う。【中学校・教員】

公立中学校勤務時代は英検を学校で実施していました。集金や申込にも気を使い、申込手続きで受験者側にミスがあっても学校側が責任を取るようになっていました。また実施日に部活動があると音がうるさくて聞こえないという課題やチャイムを切ったり戻したりすることやダブル受験者がいると放課後7時過ぎまでかかることなどもありました。受験者側の自己責任の部分が共有されず学校側に責任転嫁されることが学校で実施することの一番の課題だと思います。【小学校・教員】

生徒の負担減(学校での団体受検だと受検料が少し安くなる、会場が学校になる)にはつながるが、教員の負担が大きい(全生徒へのお知らせ、生徒とのお金のやりとり、郵便局への入金、当日の時間外勤務、手続きなどでミスをしてはいけないという精神的負担など)。また、英検は英語科教員の仕事だとされて、負担が偏る。(誰がやっても一緒なのに…)【中学校・教員】

市として補助金を出して英検を実施しており、授業をカットして検定を行うため2コマ授業が潰れること。また申し込みには担任が申込用紙を回収してチェックを行い、振込関係は教頭が行うなど負担である。さらに保護者からの問い合わせや入試に活用されることもあり、授業よりそっちの勉強に力を入れる学生もいる。【中学校・教員】

部活動等で休日開催だと出れない生徒がいるので開催は賛成だが教員負担はかなりある。昼休みの時の面接対策や外部検定と言いながら説明などするために教員にも説明する労力。大学入試と直結することでやらざる負えない。【高等学校・教員】

時間外や休日業務への負担

週休日の実施となるが、明確な振替が与えられていなかった。【小学校・教員】

地方で予備校が近くになく、生徒の実力を知る機会として業者模試を土日に、教員が兼業兼職願いを出して監督している。高3の後半半年は毎週末全て各社の業者模試が入り、3年正副担が交代で監督を強制されている。当然子育てや介護とは両立が難しく、そのような「事情」を持つ方が3年正副担を断らざるを得ない現状がある。「事情」を持たない人は兼業なのに断る権利がない。模試監督は教員でなくてもできる業務だ。校内で実施するにしても監督は学生アルバイトなどを雇えないのか。何十回もこういう交渉をしたが認められない。【高等学校・教員】

校外模試については、進学校の3年生になると、かなり頻繁に実施されるため、土日にかなりの時間を試験監督に費やさなければなりません。正直、受験の指導だけでもたいへんなのに、休ませてほしいと本気で思います。部活動問題だけではなく、検定や模試も教員の長時間労働につながっていると思います。検定を主催している団体や模試の会社にいいように利用されている気がしてなりません。【高等学校・教員】

まとめ

小中学校では半数の学校で、高校では全ての学校で、外部期間の検定や模試を校内で実施していると回答がありました。負担に感じていることは、「事務処理(申込手続等)」、「金銭処理(検定費用等)」、「時間外や休日に実施すること」の順で多い結果となりました。

事務処理や金銭処理を担うことで業務量が増えることへの負担のほか、ミスが許されないことへの精神的負担を感じるという声もありました。校内で実施することで生徒が受験しやすくなることには肯定的な意見が多く、校内で実施する場合は関連する業務を外部業者へ委託することを希望する声も寄せられました。


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※メディア関係者の皆様へ
すでに公開されている教職員アンケート結果やWEBメディアの記事の内容等は報道の際に使用いただいて構いません。その際は【出典:NPO法人School Voice Project 】クレジットを入れていただき、事後でも結構ですのでご一報ください。

以前フキダシで行ったアンケート「修学旅行先では自腹で行動!? 旅行行事の教員負担調査」では、旅行行事での教員の“自腹”の現状について現場の声を集めました。

結果記事はこちら。

そのアンケートの中で、「他の内容についての自腹も多くある」との意見も寄せられていたことから、フキダシでは、教員の“自腹”についての連続アンケートを実施しました。

※このアンケートでは“自腹”を業務上の必要性の観点から、「業務遂行上絶対に必要であり本来公的に支出されるべきだが、個人の負担になっている費用」と「業務遂行上絶対に必要とは言えないがあった方がよいと思い個人で負担している費用」とに分けて取り扱っています。

第3回は「学級経営」に関わる費用について聞きました。

第1回では「教科指導・教材研究」、第2回では「学級経営」についての自腹について調査しました。その結果は下記をご覧ください。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2022年11月11日(金)〜2022年12月5日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :28件

アンケート結果

設問1 「絶対必要なモノ」の自腹

Q1-1. 部活動やその他課外活動のためにかかる費用の中で「業務遂行上絶対に必要であり本来公的に支出されるべきだが、個人の負担になっている(自腹となっている)費用」が含まれているものを選択してください。(複数選択可)

業務遂行上絶対に必要であり本来公的に支出されるべきだが、個人の負担になっている(自腹となっている)費用としては、「備品・用具代」「交通費」「文具代」の順で多いことがわかりました。中学校では、回答者の7割以上が個人で「交通費」を負担することがあるようです。「自腹はない」と回答したのは回答者28人のうち、1人でした。

設問1-2 具体的な内容は?

Q1-2. 内容を具体的に記入してください。

備品・用具代

大会のための審判服、ホイッスル、その他道具代。【中学校・教員・バレーボール部】

指導用、自分で技術習得する目的で買う道具やスポーツウェア代は自腹。【中学校・教員・卓球部】

スキー指導のためのスキー道具。【小学校・教員】

公式戦に参加する場合、監督も選手と同一のユニフォームを着用しなければならないので、ユニフォーム、アンダーシャツ、ベルト、スパイクなどの費用は自分持ちです。自分が練習時に着るウェアはそれなりにお金がとられます。寒いのが嫌なので、意外と寒い時期の防寒具にお金がかかっているかもしれません。また、部費だけではお金が足りないときもあるので、部のバットのグリップテープなどは自分で購入しています。【中学校・教員・野球部】

交通費

大会や遠征の交通費は全て自腹になる。生徒引率のための折り畳み自転車を購入した。(学校の自転車は大会集中日は利用希望者が多数いるため、私物を用意する必要があった)【中学校・教員・卓球部】

土日の部活動は、交通費が出ないし、大会引率の場合の交通費も支給されない。移動に2時間かかるような場所に引率の場合でも、交通費が出ないのは理解しがたい。【中学校・教員・陸上部】

休日の部活動の交通費が高額になる。遠距離通勤しているが、休日の部活動に係る交通費は支給されない。交通費だけで赤字になる為お金を払って指導に行っている状態である。【高等学校・教員・バスケットボール部】

通信費

土日や夜は学校の電話が留守電になるため、他校の顧問とのやり取りは個人のスマホを利用する必要がある。土日や早朝の欠席連絡はスマホで行うしかない。大会会場からの連絡もすべて顧問の自腹になる。【中学校・教員・卓球部】

部活動や課外活動では、緊急時などに連絡を取る必要が出てくる。しかし、使うのは個人持ちの携帯電話。通話料はもちろん自腹。【中学校・教員・演劇部】

飲食費

運営に来た先生方の飲み物代(役員会で、会場校で準備するよう言われた)。【中学校・教員・野球部】

研修・講習費

部活動指導で学ぶための書籍代・【中学校・教員・バレーボール部】

競技未経験者のための研修参加(土日)に必要な経費は自腹。【中学校・教員・卓球部】

研修費は、遠方なので最近は有料のウェブ記事を買って知識を更新しています。【中学校・教員・野球部】

合宿費

合宿を行う際には、宿泊費は自己負担になる。【高等学校・教員・バスケットボール部】

遠方の大会参加のために前入りで宿泊し、翌日勝ち残った場合に備えても宿泊している顧問の宿泊費は自腹。【中学校・教員・卓球部】

設問2 1の自腹額は?

Q2. 設問1で答えた額は、合計すると1年あたりどの程度になりますか。

業務遂行上絶対に必要であり本来公的に支出されるべきだが、個人の負担になっている(自腹となっている)費用の金額としては、年間5,000円以上1万円未満の人が全体の約3割でした。回答者の多くは5万円未満の費用の負担でしたが、中には10万円を超える負担をしている人もいることがわかりました。

設問3 「あった方がいいモノ」の自腹

Q3-1. 部活動やその他課外活動のためにかかる費用の中で 「業務遂行上絶対に必要とは言えないがあった方がよいと思い個人で負担している費用」 が含まれているものを選択してください。(複数選択可)

業務遂行上絶対に必要とは言えないがあった方がよいと思い個人で負担している費用としては、設問1と同様に「備品・用具代」が最も多い結果となりました。次いで多かったのは「電子機器代」「通信費」「交通費」でした。電子機器を用意したり通信環境を整えることが活動のしやすさに繋がることもあり、「必要とは言えないがあった方がよい」と判断して教職員が個人で負担していることが想定されます。

設問3-2 具体的な内容は?

Q3-2. 内容を具体的に記入してください。

備品・用具代

審判をするときの防具を購入する費用。【中学校・教員・野球部】

高額なバットがあるほうが長打が出るので顧問で分担して負担。試合の結果に影響するし、生徒が喜ぶので買ったが、お金で勝利を買っているような感じで、用具の高騰化に中体連が使用禁止などの規制をかけないことには納得いっていない。【中学校・教員・野球部】

部活で使用する物品を教員で購入することがあります。部費を集めると、会計報告やお金の管理、会計が合わないなど、万が一の際は始末書となりますので、ならばこちらが自腹を切った方が時間的に楽だという判断です。【中学校・教員・演劇部】

飲食費

生活困窮家庭の生徒の弁当代が顧問自腹になっていたときもある。練習試合相手校顧問への差し入れ飲料代。毎回慣習で必要。【中学校・教員・卓球部】

研修・講習費

部活動での指導や審判などを行うために講習会などに参加してスキルアップをはかっている(はからされているが実情)。場合によっては協会登録費などの名目で自腹でお金を払っている。また、子どもたちのために、選抜の子どもたちが参加する大会への遠征費や練習費などを顧問会でカンパとして集める。顧問会なので払わないと周囲からの視線が厳しくなるので、実質強制と一緒である。【中学校・教員・バレーボール部】

任意参加の講習会に連れて行ったり、自分が部活動を指導するために研修に参加する費用はすべて自腹。【中学校・教員・演劇部】

設問4 3の自腹額は?

Q4. 設問3で答えた額は、合計すると1年あたりどの程度になりますか。

業務遂行上絶対に必要とは言えないがあった方がよいと思い個人で負担している費用の金額としては、設問3と同様に5,000円以上1万円未満が最も多い結果となりました。また、同様に回答者の多くは5万円未満の費用の負担でしたが、中には10万円を超える負担をしている人もいることがわかりました。

設問5 部活動・課外活動についての自腹、どう思う?

Q5. 部活動やその他課外活動に関する自腹について、あなたの思っていることや意見、考えを教えてください(困っていること、改善のためのアイディア・工夫、その他)。

必要な備品の購入に予算をつけてほしい

自治体によっては、ジャージや道具を購入するための補助がそれぞれに年間数万円出るらしいので、それだとありがたいです。【中学校・教員・野球部】

個人で使うものだから、という理由で競技道具を自腹で購入する、という流れが自然にまかり通ってきていたのだなと思う。しかし、その道具はその教員が趣味で行うものではなく指導のために必要な道具であるのだから、学校で指導用備品として準備するということが当然であると思う。この道具に関する曖昧さはどこから生まれるのだろうか。【小学校・教員】

仕事として認められる場合はまだマシだが、プライベートの時間を使って自腹で活動してるのは補助してほしい。それでなくても、生徒に飲み物やお菓子を買って自腹をきっている。【高等学校・教員・美術部】

顧問としての業務に予算をつけてほしい

顧問での会食も自腹でなく会社の経費のような扱いにしてもらえたらと思う場面がある。【高等学校・教員・理科部】

大会運営役員を依頼されて行っているのに、特勤手当がつかない、昼食費が支給されない。資格取得費用も個人持ち。大会主催する団体や中体連がもっと予算を増やし、運営する人に対しての正当な報酬や費用を担保すべきだと感じる。【中学校・教員・バレーボール部】

休日の生徒を伴わない部活動に関する会議や大会運営者としての大会参加は、勤務扱いとなり部活指導としてお金は降りません。担任などは振り替え休暇がとれないため、部活動指導費として特別手当をつけて欲しいと思います。【中学校・教員・演劇部】

部活動のあり方を見直すべき

現在の学校部活動の体制もそうであるが、教員の自己負担と善意によってなりたっている活動はすべきではない。あくまでも業務とするならばそれ相応に制度と環境を整えるべきである。【高等学校・教員・バスケットボール部】

やはり部活全体を外部委託した方が良い。大会の運営も多大な負担となっているので、専属で業務する人が欲しい。【特別支援学校・教員・卓球部】

まとめ

「業務遂行上絶対に必要であり本来公的に支出されるべきだが、個人の負担になっている(自腹となっている)費用」と「業務遂行上絶対に必要とは言えないがあった方がよいと思い個人で負担している費用」では、その内訳や金額に大きな差は見られませんでした。金額の大きさに関わらず、多くの教職員が個人で費用の負担をしている現状があるようです。金額は年間5,000円以上1万円未満が多く、中には10万円を超える負担をしている人もいることがわかりました。

内訳としては、ユニフォームや審判服、ホイッスル、防寒具など、「備品・用具代」が最も多く、部活動に所属する生徒たちへ飲み物やお菓子を買うための費用を負担している人もいるようです。また、大会運営の役員を任されている人は、生徒の引率を伴わない大会運営や会議での出張では部活指導としての手当がつかないケースもあるようです。中には大会や練習試合の引率の際に発生する交通費や合宿費を個人で負担している人もいました。

部活動において教職員が個人で負担している費用がある現状に対しては、「予算をつけてほしい」という声があったほか、「そもそも部活動を外部委託するべき」という声も寄せられました。


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