代わりの先生がいない間に教頭や教務が入れ替わり立ち替わりで授業をして、臨時講師が見つかったときには、1年間で3人の担任となり、「どうせ俺ら、どうでもいいんやろ?」って一度言われました。「先生俺らどうなるん?」とも言われました。【小学校・教員】
学校をもっとよくするWebメディア
以前、 School Voice Project で行った「#教員不足をなくそう 緊急アンケート」は、報道各社に取り上げられ(報道記事はこちら)、文部科学大臣も提言内容にコメントをする(記者会見録はこちら)など、大きな反響がありました。
教員不足を解消するため、School Voice Project では『もっと聞きたい、教員不足現場の“声”』という連続アンケートを実施しました。この記事では、全3回のアンケートのうち、第1回と第2回のアンケート結果についてまとめて紹介します。
第1回のテーマは「しわ寄せは子どもたちに…」。教員不足での不利益の最後の行き先は学校の児童生徒たち。現場でのエピソード等を聞きました。
■対象 :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2022年6月17日(金)〜2022年7月19日(火)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら)
■回答数 :38件
Q1. 教員不足の学校で働いている・働いていた経験がある方に質問します。児童生徒から聞こえる「困った」の声を教えてください。
代わりの先生がいない間に教頭や教務が入れ替わり立ち替わりで授業をして、臨時講師が見つかったときには、1年間で3人の担任となり、「どうせ俺ら、どうでもいいんやろ?」って一度言われました。「先生俺らどうなるん?」とも言われました。【小学校・教員】
学級担任が病気で退職し、その後の担任が決まりません。かろうじて、校内の教員でやりくりしています。子どもからは、同じ学年の中で、自分のクラスだけ担任の先生がいなくて寂しいという声がありました。【小学校・養護教諭】
昨年、中学の理科の教員が病休で、病休期間が決定するまでは、理科の教員が不在で授業がなく、「授業はどうなっているの?」「いつから授業ができるの?」「学年の先生が1人不足で大変そう」「何とかならないの」など聞かれたけど、答えられなかった。【中学校・教員】
臨時講師の先生が担当している教科の授業では、年度の途中で担当者が代わることが多く、生徒が先生のやり方に慣れてきた頃に交代となり、生徒が困っていた。【中学校・教員】
勤務時間が短い方や日数が少ない方が多いため、生徒が質問しに行ったり、提出物を出そうとしたりしたときに先生がいなくて困っている場面はよく見る。【中学校・教員】
何かトラブルが起きたときに、「先生たちが廊下とかで見てないんだもん」と生徒から言われたことがある。また、勉強がわからないから聞きたいのに、その教科の先生が全員行事引率に持っていかれてしまい「聞けなかった」と不満があった。【中学校・教員】
何かトラブルがあったとき、「授業が自習になるのがいやだ。朝、ちゃんと準備してきてるのに」と、言っていたのを聞きました。【小学校・教員】
Q2. その他、教員不足によって生じた「児童生徒の不利益」の状況について教えてください。(任意)
欠員分を負担している教員には空き時間もなくなり、クラスの授業準備等ができないため、そのクラスの児童生徒にも不利益が生じてしまう。【小学校・教員】
授業で自習が多くなる。他の先生たちへの負担につながり、授業準備ができず、教え込みの授業になってしまう。【中学校・教員】
教員不足のため、大学生4年生に特別免許を与えて非常勤をやってもらっている。しかし指導力不足で生徒が授業中に遊んでしまい、真面目に取り組みたい生徒が集中できていないことが多くなっている。【高等学校・教員】
きめ細かな指導もできなかったり、個々に応じた指導が出来ないことが多いです。1人の教員の負担が大きくなり、多忙感が職場に広がっています。【小学校・教員】
教師が児童と向き合う時間がなくなっている。そのため大人を巻き込んだ大きな問題になるまで、いじめや不満が対応されなくなっている。大きな問題となると、結果として教師の業務を圧迫するという悪循環が発生している。【小学校・教員】
十分に子どもを見てあげられなくなるので、自分からSOSを出せない子は見逃される可能性が出てきます。【小学校・教員】
支援学級の先生を教科担当に充てたため、支援学級生のサポートが不十分になった。【中学校・教員】
教頭が授業に出ているため、教頭が対応しなければいけない相談ができないケースがあっても、外部との連携に遅れが出てしまっている。生徒にも折り返し電話などになってしまい、即時対応ができていない。結果、休みが続く生徒に迅速な対応ができていない。【高等学校・教員】
目の前のことに追われている大人を見て、子どもは「これからの未来が楽しみだ!」とは到底感じられないでしょう。子どもにとって大切なのは、生き生きと働く身近な大人だと考えています。教員の多忙さは子どもにとって悪害でしかないです。【小学校・教員】
十分な支援が受けられず、保護者が不信感を募らせた。保護者が不安定になると、子どもも不安定になり、学校生活に乱れが生じて、授業参加が難しくなった。【小学校・教員】
学級崩壊しての、担任の病休は子どもたちに影を落とします。1年間に何人の大人が授業を終わらせるために入ってきたか。その事実は決して消すことはできません。そんな経験をした子どもたちは、大人を信じることができないと思います。【小学校・教員】
学級担任が不在であることで、子どもたちの不安を受け止める人がいない状態になっています。小学校低学年なのに、毎時間ごとに教壇に立つ教員が変わるので、不安で当然だと思います。【小学校・養護教諭】
設問1では児童生徒からの「困った」の声を、設問2では児童生徒の不利益の状況を聞きました。
教職員が聞いた児童生徒からの声としては、授業担当者が不在で授業が進まないことへの不安や、担任が頻繁に変わることで不信感を抱いていることが伺える内容が目立ちました。不利益の状況としては、「教員の多忙化によって学級運営や授業の質が保てないこと」が多くあがっていました。一人ひとりに目を配りたいと思いつつ、それが出来ないもどかしさもあるようです。支援が必要だと思われる児童生徒がいてもサポートができず、不安感や不信感を抱かせてしまっているのではないか、という声もありました。
また、School Voice Projectでは2021年9月にも臨時講師不足についてのアンケートを実施していますが、その中でも「少人数加配がいなくなり、児童の学力保障が十分にできていない」「子どもの異変に気づくのが遅くなる」など、児童生徒に不利益が出ているという意見が多く集まっており、今回のアンケートとの関連が見られました。
《教員へのアンケート調査はこちら》
次のページでは、教員不足によって生じている教職員への影響や、教職員が期待する国や自治体からのサポートについてご紹介します。
夏休みは大会も多く、部活動が活発に行われる時期でもあります。生徒にとってはさまざまなことが学べる経験になる一方で、「活動量を減らすべき」という意見もあります。実際に部活動の顧問をしている教職員は、夏休みの部活動についてどのような意見を持っているのでしょうか?夏休み中の部活動の実態と、教職員の考えを聞きました。
■対象 :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2022年8月19日(金)〜2022年9月12日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら)
■回答数 :51件
Q1. この夏休み、あなたが担当している部活動は、週何日程度活動していますか? もっとも近いものをお選びください。(お盆期間等を除きます)
週4日以上活動していると回答したのは、中学校では約8割、高校では約5割でした。文化部と運動部を比べると、運動部の方が活動日が多い傾向があることがわかりました。
スポーツ庁が2018年3月に策定・公表した「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」では、中学校での運動部活動については、平日の活動時間を2時間程度、休養日を週2日以上設けること等が示されています。また、高校における運動部活動については、「本ガイドラインを原則として適用」し、その際、「多様な教育が行われている点に留意する」こととされています。
参考「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン FAQ」(スポーツ庁,2022年9月21日参照)より
Q2. この夏休み、あなたが担当している部活動は、毎日何時間程度活動していますか? もっとも近いものをお選びください。(お盆期間等を除く)
1日の活動時間が2時間以上4時間未満と回答したのは、全体の約7割でした。校種や部活動の種類による活動時間の大きな差は見られませんでした。
2時間以上4時間未満が最も多い理由としては、「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」で定められている平日の活動時間が2時間程度とされているために、その基準に合わせて設定されていることが推測できます。また、自治体によっては休日の部活動が3時間以上になる場合は特殊勤務手当が支給されるため、その規定に合わせて活動時間が設定されている可能性もあります。
「1日4時間以上」の項目を選んだ回答者は6人全員が、活動日数が週4日以上であり、「1日2時間未満」の項目を選んだ回答者2人は、ともに活動日数が2日以下でした。このことから、週の活動日数が多いほど、毎日の活動時間も長い傾向があることがわかります。
Q3. 夏休みの活動日数・時間数についてあなたはどう感じていますか? もっとも近いものをお選びください。
夏休み中に教職員の打ち合わせや研修をしたら学期中の会議の負担が減るのですが、多くのクラブが日々練習や対外試合、大会に行くので、学校の教職員がすべて揃うことはありません。【中学校・教員・野球部、囲碁将棋・副顧問】
制度としてガイドラインはあっても、運動部や強い部活の担当になると、保護者の期待もあり、簡単に活動時間を減少させるコトに抵抗がある。【中学校・教員・バスケットボール・主顧問】
ほぼ毎日、熱中症のような症状の生徒が出ている。現在、合同チームで活動しているが、主顧問の相手チームの先生が異常な量の練習日を設定している。こちらは副顧問の立場なので話ができない。【中学校・教員・野球・副顧問】
自分が経験しておらず、また興味のないものに対しては多いということです。競技をする、競技をみる(観戦する)ことと、競技を教えることは全く違うと思います。【中学校・教員・剣道・副顧問】
大会やコンクールを控える生徒には大切な時間だが、指導をしていると他の業務ができないため。【高等学校・教員・演劇、ダンス・副顧問】
平日ほぼ毎日活動しており、この猛暑の中ここまでやるのは健康的にも良くないと思う。【高等学校・教員・卓球・主顧問】
小学校です。部活動がある自治体である。担当教員間での意識の差があり、練習をやりたい教員に引っ張られる形で練習かどんどん増えていく。【小学校・教員・サッカー・副顧問】
夏休みに高体連や協会主催の大会が行われるので、休みたくてもやらざるを得ない。【高等学校・教員・バレーボール・主顧問】
2週間くらい休みがあったので、リフレッシュ休暇にはちょうど良かったです。【中学校・教員・バドミントン・副顧問】
今年から気温の上昇や、働き方改革などを考慮した結果、休みを増やしました。教員も生徒ものびのびできているも思います。【高等学校・教員・ソフトテニス・主顧問】
夏休みの部活動が「多すぎる」「多い」と感じている方は、全体の約7割でした。中学校の教職員の方がその割合が高く、高校の教職員では半数が「ちょうどよい」と回答しました。また、年代が下がるにつれて、「多すぎる」「多い」を選ぶ方の割合が高まる傾向がありました。
多いと感じる理由としては、自身が経験していない競技の指導をすることへの負担や、新学期に向けた準備が十分にできないことなどがあがっていました。「ちょうどいい」と回答した方は長期休暇が取れていたり、教職員や保護者、生徒との話し合いを通して活動量を調整していることが影響しているようです。
Q4. 長期休み中の部活動の在り方について、あなたの考えをお書きください。(任意)
大会の規模や回数を少なくしてほしい。ノークラブデーなどをつくり、教職員で話し合いができる時間を確保したいです。【中学校・教員・野球、囲碁将棋・副顧問】
基本的になしでよい。昨年、一昨年とコロナ感染の広がりの影響で夏休みは活動禁止だったが、それで夏休み期間中は他の業務に集中できた。それでも時間が足りないくらいであった。【中学校・教員バレーボール・主顧問】
平日は週3日以内、土日は原則休養日にし、冠大会や各種イベントを大幅に削減すべきだと思います。【中学校・教員・陸上競技・副顧問】
多様な経験ができる社会教育として地域部活動があり、子どもの自由選択で参加できる仕組みがあれば、学校としての部活動はなしでよいのではないか。【中学校・教頭】
部活は負担が大きいので、夏の活動や宿泊を伴う大会も含めて民間委託すべきだ。【特別支援学校・教員・卓球・副顧問】
そもそも部活動自体を学校からいち早く切り離さないと、いずれ熱中症で死んでしまう生徒が出るかもしれない恐怖がここ数年、常に付きまとっている。【中学校・職員・野球・副顧問】
気温が高くなっているなかで、夏休み期間中の部活動は熱中症のリスクも高まっています。屋外の大会や練習は難しくなっているのではないでしょうか。【高等学校・教員・放送・主顧問】
部活動の練習や試合があるために、必要な研修や教材研究の時間が取れないのは本末転倒のような気がする。【中学校・教員・バレーボール・副顧問】
夏休みに部活を半日やると、もう半日は仕事をする体力がなくなるので、やはり日数は多くない方が良いと考えます。【高等学校・教員・ソフトテニス・主顧問】
子どもの居場所づくりとしては大事だと思う。けど、平常時になかなか休めない現状から考えると、教師のリフレッシュに充てるべき時間だと思う。在り方の正解はなくとも、在り方を見直し続ける必要はあると思う。【中学校・教員・バドミントン・副顧問】
チーム事情(目標や地域の熱量、生徒や保護者の要望等)が異なるので、それぞれに応じた在り方を模索するべきだと思います。【高等学校・教員・剣道・主顧問】
暑い夏を乗り越えたら体力がつくとか言う意見もあるが、本当にそうなのか。そうだとしてもそこまで頑張る必要があるのか。【高等学校・教員・ソフトテニス・主顧問】暑い夏を乗り越えたら体力がつくとか言う意見もあるが、本当にそうなのか。そうだとしてもそこまで頑張る必要があるのか。【高等学校・教員・ソフトテニス・主顧問】
チームづくりをする上では大切な期間になるが、基本個人でやる競技についてはやりたいやりたくないは分かれても当然。やりたい子だけやればいい。【中学校・教員・剣道・副顧問】
生徒が練習日や時間を決めて顧問等に提案し、それを顧問等の予定とすり合わせた上で練習日や時間を決めることが本来の姿だと考えます。【高等学校・教員・吹奏楽・主顧問】
夏休み中の部活動を「減らすべき」、もしくは「外部に委託するべき」という声が最も多く集まりました。その理由としては、他の業務に支障が出ていることや、猛暑の中の活動の危険性などがあがっていました。一方で、児童生徒の健康管理や居場所の確保の観点から、部活動の意義はあるのではないかという声もありました。
▼ 自由記述の回答一覧は、以下よりダウンロードしてご覧ください。 ▼
「学校」「教室」「職員室」という言葉からイメージされるのは、どんな空間でしょうか?
「学校なんてどこも同じようなものでしょう?」と思う方もいるかもしれません。ですが、海外の学校では教室にソファーが置いてあったりと、学校を「居心地の良い空間」にするための工夫がされている例も多くあります。 職員室も同様にリラックスしたり仕事に取り組みやすいような工夫がなされています。
このアンケートでは、日本の学校を子どもたちにとってより幸せな場所にするために、また教職員にとって働きやすい空間にするために、学校の「物的・空間的環境」に焦点を当てました。
School Voice Project では、WEBアンケートサイト「フキダシ」に登録する教員の方を対象に「学校の”居心地”」についてアンケートを取りました。
■対象 :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教員
■実施期間:2021年8月17日(水)〜8月31日(水)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら)
■回答数 :64件
Q1. 担任するクラスの教室や担当する教科の教室の“居心地”についてお尋ねします。当てはまるものにチェックしてください。
Q2. 勤務校の職員室や主たる執務空間の“居心地”についてお尋ねします。当てはまるものにチェックしてください。
※ここでは人間関係等に起因することではなく、「物的・空間的環境」に起因する“居心地”についてお尋ねしています。
クラス、教科の教室など、子どもたちが学んだり過ごしたりするための空間については、教職員である自分自身にとって「とても居心地がよいと思う」「まあ居心地がよいと思う」と肯定的な選択肢を選んだ人は合わせて50%、「児童生徒にとって」では47%でした。職員室など、教職員が仕事をするための空間については、「自分自身にとって」「同僚にとって」ともに、36%とより低い結果になっています。
Q3. 担任するクラスの教室や担当する教科の教室の「物的・空間的環境」について、以下の言葉は当てはまると思いますか?
「学習に集中できる」では「当てはまる」「まあ当てはまる」と肯定的に答えた人が6割を越えた一方で、「リラックスできる/落ち着く」「ワクワクする/楽しい」は33%、「モチベーションが上がる」は22%と、回答した教職員の多くが「当てはまらない」と感じていることが分かりました。全体としてあまり居心地がよいとはいえない状況であることが読み取れます。
Q4. 勤務校の職員室や主たる執務空間の「物的・空間的環境」について、以下の言葉は当てはまると思いますか?
教職員が仕事をする空間の「居心地」に対する評価は、さらに厳しい結果となっています。「仕事に集中できる」でも「当てはまる」「まあ当てはまる」と肯定的に答えた人は4割を下回り、「リラックスできる/落ち着く」では24%、「ワクワクする/楽しい」は17%、「モチベーションが上がる」は14%となりました。
また教室など子どもたちの学びの空間と比較しても、明確に「当てはまらない」と回答した人(グラフの水色部分)の多さが特に目立ちます。
Q5. 児童生徒が学び学校生活を送る空間と、教職員の働く空間の“居心地”を高めるためにどんな「物的・空間的環境」があればいいと思いますか? 自由にお書きください。
居心地の良さという観点で、学校の空間を考えたことがありませんでした。
職員室は就業時間外に冷暖房がつくことがなく、酷暑極寒の最悪の環境。狭いスペースにギリギリまで職員の机を配置しているため、通路も狭くすれ違うのも困難。管理職の席も近くにあるし、みんなお喋りもせず黙々とパソコンに向かい作業しています。一息できるのは給湯室にお茶を入れに行くときぐらい。職員室にいてモチベーションが上がったり、ワクワクすることなど一切ありません。【特別支援学校・教員】
・空調を整備して、学習しやすい環境にする。
・水漏れなどの環境を早急に修理してもらえれば…。【高等学校・教員】
まず教室で子どもたちが荷物を常時おける場所がない。机がボロボロのまま。クーラーのメンテナンス契約を購入時にしてなかったために、どんどん壊れていく。お金がないから我慢するように言われる。専科の家庭科や理科室にクーラーがないのは大問題。教室の広さと子どもの数が合わない。そもそも狭いのに、コロナで離れるように言われても物理的に無理だった。【小学校・教員】
机や椅子がガタガタしない、騒音がない、アシナガバチが来ない、コバエが来ない、暑すぎない、寒すぎない、アクリル板がない、など。【中学校・教員】
基本的に「広さ」が重要だと感じる。教室が狭く荷物の置き場がない、接触が起こりがちな場所では気持ちも落ち着いて動けない。また、机も最近の教科書やノートなどが大きくなっていることやタブレットなどの利用を考えると狭くなっている。十分なスペースをとれるような環境が必要である。【中学校・教員】
一人あたりのパーソナルスペースを広く。【小学校・校長】
移動をする際に人や物をよけずにすむ物理的な余裕(広さ)が必要。現在、廊下も会談も教室も職員室も狭く、すれ違うことが困難な状況である。まず、不快に思わなくてすむスペースが必要。【中学校・教員】
教室も職員室も、その広さには基準があるのでしょうが、一クラス40人近い子どもたちが過ごすには、教室が狭すぎるし、収納スペースも少ない。職員室も同じ。また、年々特別支援学級が増加しているが、教室が足らずに、特別支援学級の子どもたちは、非常に不便な環境で学習せざるを得ない。【義務教育学校・教員】
道具を収納するスペースが充分にあって、整理整頓されている。
席と席とのあいだに余裕がある。【中学校・教員】
自分の座席以外に座れる場所があればいいなと思います。例えば教室の中なら、ソファやベンチがあったり、畳があったりすれば、自然とそこに人が集まって会話が生まれます。職員室も、ソファや丸テーブルがあったりすれば、そこに人が集まって、自然と会話が生まれます。そういう会話は、組織の潤滑油となるという点で非常に大事です。廊下や運動場などにも座る場所があれば、いろいろな子たちが集まるので、見ていてとても面白いです。逆に、自分の席以外に座る場所がない空間だと、そこにいる人たちを大切にしていないのかなと感じ取れてしまいます。【小学校・教員】
移動の自由があり、選択できる場所があること。物の位置が決まっていて、探すストレスがないこと。1人にもなれるし、協働もできること。【小学校・教員】
フリーアドレス制にして、その日1日どこにいたいかを毎日選択出来るような環境になれば、居心地良い場所はどこかを自分で選択できるようになると思う。【中学校・教員】
児童生徒に向けては、画一的な机と椅子が一斉に並んでいる時点で「みんな同じ」という空気感が出てしまうので、自分に合った学び方が選択できることを感じられるような教室にしたいです。【小学校・教員】
大人数で同じ空間を過ごすことが苦手な生徒のために、教室以外の「居場所」が確保できればいいと思っています。高校(少なくとも本校)の場合、教室で授業を受けなければ出席は認められませんが、教室以外での出席が認められれば、少しは中退する生徒も減るのでは、と思ったりしています。【高等学校・教員】
一人になれるスペースや、静かなスペース、安心して話を聴いてくれる大人が常駐しているスペースなど、心を休めることの出来る空間が必要と感じています。【中学校・教員】
ゆっくり休めるソファースペースとか、ぼーっと眺めるのにいい窓際スペースとか特に頑張りたいとき用の仕切りとか、オンとオフの切り替えができる空間があるといい。
やわらかさがあればいいと思う。たまに外国の教室を見ると、家具と言えるようなテーブルや椅子でうらやましくなる。日本の教室は、「学校の机・椅子」であって家具ではない。教室ではなくリビングにしたいと個人的には思う。実際そうなったときにデメリットもあるのだと思うけれど、僕はそうしたい。【小学校・教員】
・ミーティングがしやすい、物理的にゆとりがある空間
・ドリンクバーがある(有料でも可)
・気持ちが切り替えられ、アイディアが出そうなリラックスできる空間。ソファーがあったり、アートが飾ってあるなど。
・足湯
【特別支援学校・教員】
設問1、設問2では、教室や教科教室など学びの空間の居心地については、「とてもよい」「まあよい」と答えた回答者と、「あまりよくない」「悪い」と答えた回答者がおおよそ半数ずつという結果に。職員室等の執務空間については、6割強の方が「あまり「よくない」「悪い」と答えており、教室よりも若干「課題意識」「困り感」が強く出た結果になりました。
設問3では、クラス教室や教科の教室について、「学習には集中できる」と答えた人が6割を超えたものの、「リラックスできる / 落ち着く」「ワクワクする / 楽しい」と答えた人は3割程度、「モチベーションが上がる」については2割程度となっています。学習空間としてはある程度機能しているものの十分ではなく、さらに居心地のよさや子どもたちにとって楽しく幸せな空間になっているかという観点では課題がある、と言える結果です。
設問4では、職員室などの執務空間について、「仕事に集中できる」と答えた人は4割を切り、「リラックスできる / 落ち着く」と答えた人は2割強、「ワクワクする / 楽しい」「モチベーションが上がる」については、2割を切っています。職員室など仕事をする空間については、執務空間としても安心でき意欲が湧く空間としても、あまり機能していないということができそうです。
自由回答では、広さや清潔さ、温度などの観点から、学んだり働いたりする上で、最低限の快適さが保てていないという声も多く寄せられました。また、フレキシブルな空間やリラックスできる環境がほしいという声も上がっています。
空調設備等行政に対応を求めるしかないものもありますが、職場レベルで改善・挑戦できることもありそうです。このアンケートを機に「学校の物的・空間的環境」について見直しが進むことを望みます。
▼ 自由記述の回答一覧は、以下よりダウンロードしてご覧ください。 ▼
2023年度から公立中学校の休日の運動部活動を段階的に地域に移行していくことがスポーツ庁で審議されています。部活動の地域移行については、これまでも議論がされてきました。その議論を通じて、特に少子化の影響で地方でスポーツを行う環境が減少している状況の改善や、教員の負担の大きさを解消する必要性などが指摘されています。
2023年度から段階的地域移行に向け、今回の記事では、部活動の地域移行が必要な理由、改革の方向性、地域移行を検討する際のポイントについて紹介します。また最後に、すでに導入がなされた事例も紹介しますので、今後の取り組みの参考にしてください。
部活動に関する問題は、立場や競技の種類によって様々なものがあります。ここでは、部活動の地域移行が必要だとされる理由を「教員の働き方改革の必要性」「少子化における部活動の活動の維持」という2点に分けて紹介します。
教員の働き方改革を行うにあたって、部活動の改革は欠かせません。それは、現状の部活動が「長時間労働の原因となっている」「十分な手当が出ない」「基本的に断ることができない」という3つの側面から問題になっているからです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
部活動は、学校教育の一環として実施されてきました。休日にも部活動があることを考えると、教師の負担の上に支えられており、長時間労働を助長する一因です。実際、公立小・中学校教員の勤務実態調査の報告書にも「中学校教員の勤務時間の長時間化は(中略)特に土日の部活動に費やす時間が長時間化したことによる」とあるなど、改善の必要性が指摘されています。
参考「公立小学校・中学校等 教員勤務実態調査研究」(リベルタス・コンサルティング,2022年9月20日参照)より
参考「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」(文科省,2022年9月20日参照)より
教員が部活動の指導をする際には、特殊勤務手当が支給されます。この手当の額は、国の方針をもとに自治体が定めており、たとえば以下の表のようになっています。このように、手当の支給条件や額などは自治体によって様々です。
自治体 | 手当の対象 | 時間 | 金額 |
---|---|---|---|
東京都 | 週休日 | 3時間以上 | 3,000円 |
大阪府 | 週休日 半休日(*) | 2時間以上4時間未満 4時間以上 | 1,800円 3,600円 |
秋田県 | 週休日 半休日(*) | 3時間以上 | 2,700円 |
島根県 | 週休日 | 2時間以上4時間未満 4時間以上 | 1,800円 3,600円 |
高知県 | 週休日 | 2時間以上3時間未満 3時間以上4時間未満 4時間以上 | 1,800円 2,700円 3,600円 |
しかし、支給の基準となる活動時間は最長でも3時間~4時間程度に設定されている場合が多く、その場合、大会など丸1日活動をするような日でも追加の手当が支払われません。実際には、時給換算で最低賃金を割ることもありえるのが現状です。
部活動顧問の指名は、各学校の校長に権限があります。校務分掌のひとつであり、進路指導や生活指導などのように、教員が協力して分担しています。法令上、校長は勤務時間外の部活動業務を命令することはできないのですが、上司の指示であることや、自分が断れば同僚の誰かがやらなければならないことなどから、部活動顧問を断ることを難しくしています。
また、教員としての仕事に不慣れな若手教員や、指導経験のないスポーツを指導する教員にとっては、より大きな負担となっているという側面もあります。
進行する少子化も、部活動改革が叫ばれる大きな理由になっています。
実際、少子化によってサッカーや野球など1チームに多くの人数が必要なスポーツで学校単位でのチームを組めなくなったり、顧問の不足から人数の少ない部活動が廃部になったり、という影響が出ています。現在の部活動の在り方が変わらないと、子どもたちが多様な文化やスポーツに触れる機会が失われる恐れがあります。
また、School Voice Projectで過去にとったアンケートでは、「部活動が“必須加入”となっている学校があるのはなぜだと思いますか?」という設問に対して
小規模校で全員加入にしないと競技が成り立たない。
学校単位のチームという枠組みでは、部活動を維持するために、全員加入という方法をとらないと持続できない学校もあるのだと思う。
といった回答も見られています。このように、本来自主的な取り組みであるはずの部活動が少子化の影響で“必須加入”となってしまうと、それによって苦しむ子どもたちが出てくることも考えられます。部活動改革には、そのような事態を防ぐ意味合いもあると言えるでしょう。
《教員へのアンケート調査はこちら》
教員の働き方改革と少子化による部員減少。
これらの部活動の課題に対して、どのような解決策があるのでしょうか。
地域移行とは、現在教員が担っている管理者、指導者の役割を民間の方に担ってもらうということです。
教員の多忙を解消するだけでなく、部活動の文化やスポーツの専門性をもった人材を登用することができるメリットもあります。一方、デメリットもあります。2022年現在、2017年改訂の中学校学習指導要領が適用されていますが、部活動は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」「学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意する」ことが求められています。この教育的な側面がどのように担保されるのかといった問題が懸念されています。また、人件費等の費用がどのように捻出され、誰が負担すべきかといった議論もあります。
参考「部活動の地域移行、教育的意義はどうなるのか」(笹川スポーツ財団,2022年6月15日公開,2022年9月20日参照)より
教員を部活動の職務から外すだけでなく、部活動自体を変化させていく方法もあります。
例えば教師がしっかり目を向けられるときは、全体練習でしかできないチームプレーの確認や事故や怪我が起こらないよう管理の重要な活動を中心にします。教師が忙しい場合は、筋トレなど個人でできる練習や事故や怪我のリスクの低い活動をまとめることで、教師の負担を軽減できるかもしれません。またICTの活用によって、個人情報の管理や連絡、書類手続きなどを直接的に業務削減する方法もあるでしょう。
部活動の大会の運営も大きな負担の一つです。基本的に休日に開催され、大会運営の多くが教員によってなされています。また、大会には部活動の成果としての意味合いが大きくあります。結果を求めるあまり、勝利至上主義や長時間の活動を引き起こし、身体の発達以上の負荷やスポーツが「苦しい」ものになりかねないという問題があります。
このような観点から、各競技について若年層向けの大会のあり方を見直す動きが出ています。実際、海外では15歳以下の全国大会を廃止した例があるほか、日本でも、全日本柔道連盟が2022年から個人戦の全国小学生学年別大会の廃止をしています。
参考「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言(令和4年6月6日)の概要」(文科省,2022年9月20日参照)より
地域移行について、具体的に解説していきます。
「運動部活動の地域移行に関する検討会議」で、2022年6月6日に提言が取りまとめられました。2023年度からの3年間、中学校の運動部活動を休日の活動から段階的に地域に移行していくことが基本とされています。
提言によれば、2023年度から2025年度末を「改革集中期間」と設定しており、まずは休日の運動部活動から段階的に地域移行していくことを基本としています。進捗状況から、2026年度以降、さらに改革を続けていく予定です。
地域の実情に応じて、地域や民間の団体、事業者やプロスポーツチームなどが想定されています。また、スポーツの指導だけでなく、大会の運営や引率を担うような人材も必要とされます。
保護者が負担することや地方自治体の減免措置が想定されています。生徒の活動機会の保障、受益者負担の観点からは妥当であると言えますが、これまでに両者の負担がないことから、国による支援も検討されています。
各自治体、地域ごとの地域移行のスピード感や、人材や予算の問題があります。実際に学校で部活動の地域移行をする際に懸念される点や検討すべきポイントをまとめてみました。
地域移行を行うためにはまず、部活動を指導できる人材を確保しなければなりません。
以前からの指導者がいる場合は継続任用を要請することが可能ですが、それ以外の場合は地域スポーツクラブや競技団体から紹介してもらったり、学校関係者の人脈などから指導者を確保することが必要です。実際、実践研究でもこのようなパターンでの人材確保が多く見られました。
そのほかには、体育・スポーツ協会や、大学運動部や企業チームなどとの連携が考えられます。また、求人募集や人材バンクの活用などの事例もあり、新規に人材募集をすることが必要になる場合もあるでしょう。
次に、予算の確保です。これまでの部活動は教員の無償奉仕によって支えられていましたが、それが引き継がれては持続可能な取り組みにはなりません。そのため、指導者に適切な給与を支払うことが必要です。
部活動に所属する生徒(保護者)から支払いを行う受益者負担の他に、地方自治体や国の支援も検討されています。そのほかの方法として、後で紹介するようにクラウドファンディングによって地域移行を成功させた事例もあります。全国大会のために地域や同窓組織から寄付を募るような光景は今までもありましたが、それを恒常的に行うようなイメージと捉えると分かりやすいでしょう。
指導体制や指導方法についても検討をする必要があります。スポーツは「楽しみながら体を動かす」という側面だけでなく、「勝ち負けがつくもの」という側面もあります。
強豪校といわれるような学校では「勝利し続けること」が強く求められ、すでに専門家の指導や長時間の部活動がされています。地域移行で学校の管理から離れることで、部活動で「スポーツを楽しむ」という側面が薄くなり、過剰に「勝利」を求めすぎることが懸念されています。
運動部活動の地域移行に関する検討会議では、目指す姿として「スポーツへ親しむ機会を確保すること」や「自発的な参画による楽しさや喜びが本質だ」とされています。心身の健康やスポーツを楽しむことが十分に配慮される仕組みが必要とされています。
参考「運動部活動改革のこれまでの経緯・取組について」(文科省,2022年9月20日参照)より
参考「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」(文科省,2022年9月20日参照)より
それでは、実際に活動の地域移行を行った学校はどのような取り組みを進めていったのでしょうか。ここでは、地域移行の成功事例を紹介します。
茨城県つくば市立茎崎中学校は、2018年「茎崎地区文化・スポーツクラブ」を民間と学校によって立ち上げ、部活動の地域移行を成功させました。
当時の茎崎中学校は全校生徒が200人。その生徒数ではサッカーや野球のチームが作れるかどうかの状態で、生徒数はその後も減少の見込みと、学校単位での部活動は「すでに破綻」という状態でした。その状況を踏まえ、当時の八重樫校長は部活動の地域移行が必要だと決断します。当初は反対意見も多く出ていたものの、学校関係者や行政と話し合い、摩擦を乗り越えてクラウドファンディングを実施。それが目標額を大幅に上回る額で成功し、受益者負担型の任意団体という形態での地域移行を実現させました。八重樫さんはその後に赴任した谷田部東中学校でも同様の取り組みを行い、スポーツ庁・茨城県・つくば市とも連携した団体を立ち上げています。
参考「八重樫通氏「すでに破綻している」学校は部活動改革だけでは変われない」(東洋経済,2022年6月29日公開,2022年9月20日参照)より
次に紹介する岐阜県では、今後部活動の地域移行を進める準備として地域指導者の人材育成を始めています。
岐阜県が育成を目指すのは、部活動の教育的意義を理解した上でスポーツへの興味・関心や体力・技能を向上させるような指導ができる人材です。2023年の地域移行スタートに先駆けて、2022年5月、教育委員会と岐阜県スポーツ協会は、地域部活動指導者育成研修会を開催しました。講座では、教育的な関わりやスポーツの安全な取り組み方について学べ、全てを受講した者にライセンスを発行することで、教育的な意識をもった指導のできる人材を増やすことに成功しています。
参考「「部活の地域移行」へ指導者育成 研修会受講でライセンス発行、岐阜県教委」(岐阜新聞,2022年6月9日公開,2022年9月20日参照)より
以上、2023年度から段階的に行われることが決定している部活動の地域移行について、地域移行の必要性と、概要、課題、実践例を紹介していきました。
もともと部活動は、教員に残業代が与えられないなか長時間労働を強いることで成り立っており、労働上の問題が指摘されていました。それに加え、少子化の進行により学校単位で充実した活動を行うことが難しくなっている側面もあります。
それらを解消するため、現在教師が担っている管理者、指導者の役割を民間の方に担ってもらうという動きが部活動の地域移行です。
スポーツ庁は、2023年度からの3年間、中学校の運動部活動を休日の活動から段階的に地域に移行していくことを提言としてまとめました。2023年度から公立中学校の休日の運動部活動が、段階的に地域移行されます。
実際に地域移行するにあたり、教育的意義や安全性を管理できる人材の用意や、活動の資金をどのように確保するのかといった予算の問題があります。
茨城県つくば市では、活動費をクラウドファンディングで募り、受益者負担型の任意団体へと移行することに成功しました。岐阜県では地域の指導者不足に対し、岐阜県スポーツ教会と手を組み教育とスポーツを学べる講座を開設することで、地域移行の実施に先駆けて人材育成をしています。
本来「労働者の権利」であるはずの年次有給休暇(年休)。
自分のために時間を使ったり、リフレッシュのために年休を取るなど、社会的にも「年休を十分に取得すべき」という論調が強まっていますが、学校の教職員はそれが難しいようです。
「長期休暇中しか取得できず、家庭の都合に合わせられない」、「長期休暇中も部活などでほとんど取得できない」という声も聞こえます。School Voice Project では、WEBアンケートサイト「フキダシ」に登録する教職員の方を対象に、年休取得の実態調査をしました。
■対象 :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2022年7月15日(金)〜2022年8月8日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら)
■回答数 :99件
※ このアンケートでの年次有給休暇とは、長期休業中の特別休暇(夏季休暇)や家族看護休暇などは除きます。
Q1. 今年度、4月から夏休みが始まるまでの間に年休を何日分取得しましたか?
(1日未満部分は切り捨ててお答えください。例:2.5日取得→「2日」を選択)
夏休みに入る前の段階では、全体の半数の方の年休取得日数が1日以内という結果となりました。「年休はまったく取っていない」を選択している方は全体の22%で、該当するのは小学校もしくは中学校の教職員でした。
回答者全体の平均取得日数は2.4日。校種別の平均取得日数を見ると、小学校は1.9日、中学校は2.0日、高等学校は3.4日、特別支援学校は5.9日でした。年代別の平均取得日数は20代で1.4日、30代で2.5日、40代で2.4日、50代で2.9日、60代で2.5日となっており、 年代が低いほど年休取得日数が少ないことがわかりました。
※平均取得日数は、「1日未満」を「0.5日」、「1日」を「1.5日」として、「6日」までも同様に計算しています。「7日以上」は「8.5日」として計算しています。
Q2. 今年度全体を通して、年休は何日程度取得する予定ですか? 自身・家族の病気や事故などによる取得を除いてお答えください。
「年休を取る予定はない」と回答した人は全体の4%。年休の取得予定日数が「1日〜5日」と回答した人は全体の23%、「6日〜10日」と回答した人も全体の23%でした。「11日以上」と回答した人は全体の49%でした。
Q3. 年休取得状況・取得予定について、追加して伝えたいことがあれば記入してください。
人数に余裕がなく、平日で取ると他の教員にしわ寄せがあるので、取れません。【小学校・教員】
年休取得は当然の権利、と自分に言い聞かせてはいますが、やはり長期休暇以外は非常に取りにくいです。自分が休むと、朝の学活、給食指導や清掃指導も含めて、誰かが代わりに自習に入らなくてはならず、迷惑をかけてしまうからです。【小学校・教員】
はっきり言って、普段の日には取りづらいです。自分が年休を取ることによって、現場が回らなくなる、または、だれかの(無給の)時間外労働を発生させることが想像できてしまうのですから。【中学校・教員】
休んだ分だけ自分の首を絞めるので、計画年休なんて戯言。本当に体調不良時、家族の都合の時にしか使えない。【小学校・教員】
校務分掌の偏りがあり、今年度は学年主任、学級担任、進路指導主事、生徒会担当、教科主任、初任研指導、県中教研発表etcと仕事集まっているため、年休を取るとその後の仕事が苦しくなるのが現状です。【中学校・教員】
考査期間中は年休がとりやすいはずなのですが、現在の職場では採点に追われ年休を取ることで自分の首を絞めてしまうこともあります。【高等学校・教員】
先輩の目が気になり、休みが取れない。【小学校・教員】
働き方改革が全く進んでいないため、管理職から「早く帰れるときに帰ってください」と言われるだけで、全体の仕事量は減らない。ICT関係で仕事が増えているにも関わらず、コロナで休止していたことが復活し、多忙化が進み、年休取れる雰囲気がありません。【小学校・教員】
部活動が枷(かせ)になって、年休が非常に取りにくい。通院で絶対休まなければいけない日も、「部活動の方はどうするのか」と聞かれ、休みにしにくい状況がある。【中学校・職員】
授業だけではなく、生徒指導対応もあれば、保護者対応もある。かといって、長期休業中も中学校では部活動もあり、年休は取りづらい。結果、毎年年休は消化不良で無くなっていくことを繰り返している。自分の子どもが体調を崩しても休むことが難しい。年休が取れるような余裕が学校現場にはない。【中学校・教員】
授業のある日はほぼ年休は取れません。「今日は早く出られるかも」と夕方に年休を2時間入れていても、出ようとしたところに生徒指導案件の対策会議など、業務が湧き上がってきます…。【高等学校・教員】
年休は1日使うというより、時間休で使うという感覚。(夏休みも含めて)1日丸ごと休む日は取っていないのが現状。なぜなら、夏休みに会議、面談、出張が多く入っているので。【小学校・事務職員】
出張などで出先からそのまま帰るときに時間休を使う程度です。帰った分の仕事がたまるので、土日に部活動指導したあとにその分を学校で行ったり、次の日の放課後の夜に仕事したりしています。【中学校・教員】
子どもが登校する日は、私事では使いにくいため、1日休みが使えるのは長期休暇のみ。【小学校・教員】
年休は、春季休暇・夏季休暇・冬季休暇に追加してとる程度です。授業がある平日には取れない状況です。【小学校/中学校・教員】
年休が取得できるのは正直、長期休業中かテスト日くらいです。【中学校・教員】
長期休暇中でも三者面談や部活、研修、会議で休むタイミングが分かりません。子育て休暇があるので年休は使わなくてもいいですし、年休を取るのは急な病気のときのみです。【中学校・教員】
すでに取得した年休は、リフレッシュのためではなく、自分の通院や子どもの懇談のためといったことがほとんどです。通院はまだしも、子どもの学校行事で年休を使うのはなんか違うよなと少しモヤモヤします。【高等学校・教員】
今年取ったのは、妻が倒れてしまい、子の送り出しをした1時間と自転車がパンクして遅れた1時間くらいです。【高等学校・教員】
副担任制度や教科担任制が進んだり、不必要または教員がやらなくても良い業務が減ったりすれば、年休が取得しやすくなるなと思います。【小学校・教員】
年休が使えない実態なので、使わなかった分は、買い取って欲しいです。【小学校・教員】
長期休業期間(夏・冬・春)において、大幅に業務を削減し、教員が「リフレッシュ」「自己研鑽」出来る機会を十分に確保できる環境づくりをして欲しい。【中学校・教員】
年休消化について強制力を持たせてもいいと思う。【特別支援学校・教員】
多くの回答者から聞かれたのは、「年休を取りづらい」という声でした。その理由としてあがっていたのは、「他の教職員に迷惑をかけてしまう」「休んだ分だけ自分の首を絞める」など。年休は心身のリフレッシュを図ることを目的として導入されている制度ですが、安心して休暇を取れる仕組みの構築には課題があるようです。
一方で、少数ではありましたが、「教員生活15年で1日も年休を捨てたことはない」「意識して使い切るようにしている」など、個人で取得できるように意識している人もいました。
▼ 自由記述の回答一覧は、以下よりダウンロードしてご覧ください。 ▼
教員の授業の進め方や、児童生徒の手の挙げ方・筆箱を置く位置など、授業中のやり方・受け方を統一する「授業スタンダード」が全国の自治体・学校で作成されています。全国の「授業スタンダード」の実態と、それについて思うことを教職員の方に聞きました。
■対象 :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2022年7月22日(金)〜2022年8月15日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら)
■回答数 :84件
Q1. あなたの勤務する自治体や学校では、授業中のルールを統一して指導するために教員向けに作成された「授業スタンダード」はありますか?(授業以外の点についてのものは除きます)(複数選択可)
回答者の79%の方が「授業スタンダードがある」と回答し、全体の60%が「学校単位」で作成していると回答しました。
全回答84件から重複を除くと、計29都道府県、70市町村のユーザーから回答がありました。回答者が所属する市町村全70自治体のうち、28自治体で「市町村単位」で作成、都道府県全29自治体のうち、6自治体が「都道府県単位」で作成していると回答しました。
※同一の都道府県・市町村でも「授業スタンダードがある」と答えたユーザーと「ない」と答えたユーザーがいる場合もあるりましたが、その場合は「ある」としてカウントしています。
校種別に見ると、学校単位で作成しているのは小学校が最も多く、次いで、中学校、高等学校という結果となりました。また、授業スタンダードの作成者として、「都道府県単位で作成されている」「市町村単位で作成されている」「学校単位で作成されている」のうち、2つ以上を選択肢した方は、19人(22.6%)でした。
Q2. 「授業スタンダード」の内容はどのようなものですか?(複数選択可)
強制ではないが、学級の掲示物の位置等を統一させる学年を見たことはある。【中学校・教員】
授業の最初と最後の挨拶。【中学校・教員】
朝の会の内容、チャイム黙想。【特別支援学校・教員】
「授業スタンダードがある」と回答した方の中で、最も多かったのは、「教員の授業の展開方法に関すること」でした。小学校では「児童生徒が授業で使う物や児童生徒の持ち物に関すること」(67%)、中学校では「教員の授業の展開方法に関すること」(80%)が最も多い回答でした。
Q3. 「授業スタンダード」の実施にはどの程度強制力がありますか?
自治体のスタンダードは強く、訪問の際にはスタンダードに沿っているかを重視される。【小学校・教員】
強制力はないけど、みんなそのとおりにする感じ。組織はトップダウンが大事って思っているから、???と思っていても従わざるを得ない感じ。【小学校・職員】
今年度は、職員の異動が多かったため、年度当初バタバタとスタートし、昨年のように審議、協議が深くできなかったので、徹底までいっていない。【中学校・教員】
「授業スタンダードがある」と回答した方の約65%が、「強制ではないが推奨されている」を選択しました。「強い強制力がある」を選択した方は約16%、「強制力はない」を選択した方は約21%でした。
作成者別での回答割合は、以下の通りです。
Q4. 「授業スタンダード」の良いところ・メリットはどういうところだと思いますか?
Q5. 「授業スタンダード」の悪いところ・デメリットはどういうところだと思いますか?
設問4・5では、「授業スタンダードがある」と答えた回答者に授業スタンダードのメリット・デメリットを聞きました。メリットとデメリットはそれぞれ表と裏の関係になっていると考えられるので、このアンケートでは、メリットとデメリットが対になるように選択肢を設け、それらを選択した人数を比較する手法を採用しました。
(例:「教員が指導の方法に迷わなくなる」というメリットに対して「教員が指導の方法を工夫しなくなる」というデメリットをあげています)
また、設問4のメリットに関する選択肢については、授業スタンダードを作成している自治体が「導入する理由」としてあげているものを抜粋しています。その結果をまとめたのが下記のグラフです。
授業スタンダードがあることで、「教員が指導の方法に迷わなくなる」と感じている教員がいる一方で、「指導の方法を工夫しなくなる」という声も聞かれました。1つの事象をメリット・デメリットのどちらで捉えるかは拮抗していることが分かります。統一された授業になることについてメリットを感じている方は少なく、「個々の児童生徒に対応できない」というデメリットを感じている方が目立ちました。
また、児童生徒の学びに関する選択肢への回答は少なく、メリット・デメリットともにあまり認識されていないことが分かります。保護者との関わりについては、「保護者との対話ができない」というデメリットよりも、「保護者への説明が容易」というメリットが優位となりました。
以下でまとめている自由回答においては、授業スタンダードの導入について、「経験年数の浅い教員や変化への対応に困難さがある児童生徒にとってはプラスになる」という意見が一定数集まりました。全体としてはデメリットに関する意見が多く、児童生徒の主体的で対話的な学びに繋がりにくいことが課題としてあがっていました。
若い先生や、異動してきた先生が学校についてわかる。【小学校・教員】
授業の進め方がわからなかったり、わかりやすい授業をしたいと思うときの助けになったりする。【小学校・教員】
先生自身が一つひとつの意味を考えなくても良いということはあるかもです。自分自身のこだわりのない部分のところでは、ある意味、ラクです。でもそこが大きな課題だと思います。【小学校・教員】
何も分からない若手の先生が毎日何科目も授業をしなくてはならないため、スタンダードがあることで安心感はあると思います。【小学校・教員】
クレームが起こりにくい対策ではあると思います。「みんな同じにやっています」とも言いやすいし、「みんな同じ」だから指摘しづらくなる。【中学校・教員】
毎年、担任が替わっても、ある程度統一された授業をされると、子どもたちが、慣れるのに楽。(支援の必要な児童やこだわりの強い児童に取っては、毎年かわることは、かなりしんどいと思う)【小学校・教員】
小中で共有しているので、中学に上がってきた生徒もスタンダードに基づいて、授業の用意から取組みまで行うので安心感はあると思う。中1ギャップの解消になっている。【中学校・教員】小中で共有しているので、中学に上がってきた生徒もスタンダードに基づいて、授業の用意から取組みまで行うので安心感はあると思う。中1ギャップの解消になっている。【中学校・教員】
学校としてのやり方が決まっていて、それに沿ってルール作りをそれぞれの担任がしていれば、学年が変わって担任が変わっても全てが大きく変わることなく、児童にとって安心感がある。【小学校・教員】
教員それぞれの良さを活かした授業の妨げになると思います。【小学校・教員】
スタンダードがあることで振り回されてしまう教員がいる。それができているかどうか、が関心事になり、児童生徒に「スタンダードにあるから」という理由でコントロールしようとし、それは指導ではない。考えない大人と子供をつくることになる。【小学校・教員】
各学校、学級で驚くほど児童の実態が違う。児童の学習へ向かう態度や規範意識が高い学級では、授業そのものはスタンダードで進められるが、荒れた学校学級では、スタンダードが成立していない。児童の実態に合った柔軟な進め方を認めた方が良い。【小学校・教員】
何のためにスタンダードがあるのかを、子どもも大人も納得し、それがいいと思えるならやった方がいい。けれど、互いにやらされ感を抱きながら叱られないように、目立たないように、文句言われないように…とそんな発想ならやめた方がいい。考えることなしにやることはどんなものでもメリットはないと思います。【小学校・教員】
もっと違った授業をしたくても「〇〇スタンダードに沿って・・・」とさせてもらえない場面を多く見てきた。【中学校・職員】
「主体的・対話的で深い学び」の実現を学校教育で求められているにもかかわらず、スタンダードという型にはめられ、その型が細かいほど教員の主体性はなくなってしまう。とっても矛盾していると思います。【高等学校・教員】
“スタンダードな”実践ができない先生は、比較し自己嫌悪、比較されどんどん自信をなくし、つらくなり病んでいくことも。たのしく、おもしろみのある職場をつくらないと。【中学校・教員】
A先生ができたことがB先生でできないことはある。それは能力の違いではなく、個性の違い。教員個々の個性を潰してしまうような一律化は、その指導を受けている子どもの個性を潰すことにつながると思う。【中学校・教員】
同じ流れ、同じ板書、同じ思考パターンを繰り返すことが、学力の厳しい子にとってプラスだという意味で取り組まれているようですが、果たしてそうか?といつも思います。一つのパターンでしか物事を考えることができなくなったら、それこそ先の見えない世界で臨機応変に生き抜くなんて難しい話になると思うのですが‥。【小学校・教員】
「ハンドサイン」というものがあり、発言したい場合も発言しない場合も、意思表示として全員手を挙げなければならないというルールがあるが、高校生、大人になってからそのような方法で意思表示をする場はない。教師側が子ども達の理解度を知るための手段としては有効かもしれないが、児童生徒目線ではないのではないかと思う。【小学校・教員】
小中連携の内容の一つとしてスタンダードが存在しているが、使っているからと言って何か効果があると実感できていない。【中学校・教員】
挨拶は立腰から始まります。姿勢にこだわり過ぎていて、そこに合わせることのできない生徒をダメな生徒にしてしまっている空気感が良くないと思っています。【中学校・教員】
多くのスタンダードは必要ないと思います。担任が変わったときに子どもが混乱するから、と言われますが、子どもは思った以上に柔軟です。ただし、良くないものは決めておいた方がいいのかなと思います。持ち物など。【小学校・教員】
▼ 自由記述の回答一覧は、以下よりダウンロードしてご覧ください。 ▼
「生徒一人ひとりに合った学び」や「教職員の働き方改革」の実現に向けて、ICTの活用を進める横浜市立鴨居中学校。ここに今年(2022年)4月から英語教員として赴任した的場彩さんに、授業や業務でどのようにICTツールを活用しているのかを伺いました。
的場さんは一人一台端末の活用が始まる前から、デジタル教科書やプロジェクターを使って授業を進めてこられました。現在は学校全体がICTの活用に積極的に取り組んでいることもあり、さらに活用の幅が広がったと言います。普段使っているICTツールや、活用の工夫などを伺いました。
ーー 授業の中では、どのようなICTツールを活用していますか?
1番よく使っているのは、単語学習アプリ「Quizlet(クイズレット)」です。英単語を覚えるときに、小さなカードの表と裏に英語と日本語を書いて覚えた経験がある方は多いと思いますが、それのデジタル版だと思ってもらえるといいと思います。簡単に単語帳が作成できて、音声を聴くこともできます。自動でテストを作成してくれる機能があり、4択問題にしたりタイピングで解答したりと、出題スタイルも変えることもできます。
生徒たちは一人ひとりがChromebookを持っているので、それを使って、授業開始後の5分間で英単語テストに取り組んでもらいます。授業では英会話や文法の学習に時間を使いたいので、基本的に英単語は家で覚えてきてもらい、学校ではテストをするだけにしています。それぞれのペースで学習を進められるのはこのアプリの良さだと思います。
学習ツールが紙からデジタルデバイスに変わるだけで、やる気がでる生徒も多いようです。自動でそれぞれの学習レベルにあった問題が出題されたり、ゲーム感覚でできたりするからだと思います。
ーー 英単語の学習を終えたあとにも、授業内でICTツールを使うことはありますか?
ありますね。その日の授業内容によっても違いますが、発音練習をするときは、生徒たちは自分のChromebookに入っているデジタル教科書を使います。それぞれがイヤホンをつけて、音声を聴きながら同じように発音するんです。教科書本文の音読練習では、出てくる単語の一部を隠す機能もあるので、意味や単語を考えながら音読練習をすることができます。それぞれが録音した音声を「ロイロノート」で提出してもらうこともありますね。ロイロノートは、教員から生徒に課題を配布したり、生徒たちの解答を集めたりと、さまざまなことができるクラウド型の授業支援アプリです。
また、クイズ作成アプリ「Kahoot!(カフート)」を使うこともあります。私が4択クイズを作成して、生徒たちはそれぞれが自分のChromebookでクイズに答えます。答えが合っていた人を解答の早い順で教室にあるモニターに表示させることができるので、クイズ大会のような感じですごく盛り上がるんです。本校では、基本的にどの教室にもiPadを設置し、授業の様子をビデオ会議ツール「Google Meet(グーグルミート)」でつないでいるので、教室に入りづらい生徒でもそこから授業を受けることができます。この前は自宅療養で休んでいた生徒が自宅から参加してくれて、その生徒が1位を取りました(笑)教室にいなくても一緒に学ぶことができるのはICTツールの良さだと思います。
ーー 英語の授業以外でも、学校全体で活用しているICTツールはありますか?
毎朝15分間は朝学習の時間を取っていて、記憶定着をサポートするアプリ「Monoxer(モノグサ)」を使っています。導入前の授業時間は50分間だったのですが、この朝学習を始めてからはすべての授業が45分間になりました。朝学習ではそれぞれの科目の「知識」の記憶定着を図り、授業ではその知識を活用して「思考判断表現」する場面を十分に設定して、もっと深い学びができるようにしようと学校全体で取り組んでいます。
ーー 日々の業務でICTツールを使うことはありますか?
教職員間では、校務支援ツール「milim(ミライム)」を使っています。お互いにメッセージや資料を送ったり、さまざまな情報を共有することができます。掲示板機能があるので、教職員に知らせたい内容を事前に入力しておくと、それぞれが掲示板を見て確認することができます。例えば、朝の打ち合わせで「体育行事実行委員は、今日の昼休みに会議室に集まるように伝えてください」などと先生たちに連絡することがあると思います。そういう内容も全て掲示板に書き込んでおくので、「見ておいてください」という連絡だけで済むようになりました。朝の打ち合わせ時間が短縮されましたし、紙の資料を用意することもほとんどなくなりました。
また、定期テストや小テストの採点ではデジタル採点システム「Answer Box Creator(アンサーボックスクリエイター)」を使い始めたことで採点にかかる時間が大幅に減りました。回収した答案用紙をスキャンしてパソコンに取り込んで画面に表示させ、選択問題は自動で採点、記述問題は一覧表示にして一括で採点することができます。英語だと自動採点ができない問題も多いのですが、採点スピードは上がりましたね。手も疲れなくなりました(笑)
ーー 保護者とのやりとりでICTツールを活用することはありますか?
保護者の方とのやりとりには、学校連絡・情報共有サービス「COCOO(コクー)」を使っています。欠席や遅刻をする場合は、保護者が保護者用Webサイトから学校に連絡することができます。教員はそれをパソコンの画面上で確認します。今までは毎朝欠席連絡の電話が鳴り止まず対応に追われていたのですが、それがほとんどなくなりました。システム上で学校からのお知らせを保護者へ送ったり、保護者がアンケートの回答を行ったりすることもできます。教員だけではなく、保護者の方にとっても負担は減ったのではないかなと思います。
ーー これから学校内でICTツールの活用を広げようとしている先生へ、アドバイスをお願いします。
いきなり職場の先生たちに広めていくのはなかなか難しいことだと思うので、まずは自分が興味のあるICTツールを使ってみるといいと思います。そうすると、生徒たちから反応があったり、興味を持ってくれる先生が声をかけてくれたりすると思います。
実際に、私が授業でクイズ作成アプリ「Kahoot!(カフート)」を使っているところをたまたま見た数学の先生が興味を持ってくれて、早速授業で使ってくれています。使ってみた感想を職員室でのちょっとした雑談の中で話してみるのもおすすめです。きっと興味を持ってくれる先生はいるはずなので、周りにいる先生を少しずつ巻き込んでいけると、徐々に学校全体にも広がっていくと思います。
ーー 的場さん、ありがとうございました!
< 授業内で使えるICTツール >
① Quizlet(クイズレット)|https://quizlet.com/ja
② ロイロノート|https://n.loilo.tv/ja/
③ Kahoot!(カフート)|https://kahoot.com/
④ Monoxer(モノグサ)|https://corp.monoxer.com/
< 日常の業務で使えるICTツール >
⑤ milim(ミライム)|https://www.milim.jp/
⑥ Answer Box Creator(アンサーボックスクリエイター)|https://answerbox.jp/
⑦ cocoo(コクー)|https://www.cocoo.education/
木更津市では、従来、年度当初の始業式が4月6日に設定されていましたが、2022年度から新年度の休業日を「4月1日から起算して日曜日及び土曜日を除く5日間」とする学校管理規則(*1)に変更しました。これによって新年度が開始してから始業日までの準備に、その年のカレンダーに関わらず、毎年必ず平日5日間を確保できるようになりました。この取り組みをどのように進めたのか、どういった課題があったのか、木更津市教育委員会学校教育課長の今井さんにお話を伺いました。
(*1)学校管理規則とは、小中学校の管理運営の基本事項について定められた各市町村の教育委員会により規定される規則のことをいいます。
ーーなぜ新年度準備に関する学校管理規則を変更するに至ったのですか?
以前より現場から要望はあがっていたのですが、2020年の3月に正式に校長会の意見として教育委員会にあげられてきました。教育委員会でも、新年度準備のために平日5日間が必要という認識はしていたので、現場の意見を尊重して進めることにしました。
ーー教育委員会ではどのようにして取り組みを進めましたか?
学校教育課が主体となり、2021年の夏頃から市長部局の総務課に事前協議をしたのち、12月頃に教育総務課に起案しました。教育長、市長に起案を回し決裁を取ったのは翌年の1月頃で、最終的には2月の教育委員会会議で承認されました。また、教育長には学校教育課より事前に相談をした上で進めました。(下図のスケジュール参照)
ーー取り組みを進めるのは大変でしたか?
学校管理規則を変えること自体に取り組んだことがなかったので、手順を踏む必要があり大変というイメージがありましたが、実際に最も時間がかかったのは総務課との事前の文言の検討でした。それを経れば思ったより簡単に規則を変更することができ、案ずるより産むが易しという印象でした。
ーー例えば授業時数など、取り組みを進めるにあたっての懸念事項はあったでしょうか?
正直、懸念事項はありませんでした。授業時数については、年間時数もゆとりがあり、コロナ禍でも柔軟に調整してこられたこともありましたので、懸念事項として取り上げるには至りませんでした。また、教育委員会の内部や保護者、議員などからも特に懸念や指摘の声は上がりませんでした。
ーー新年度の始業日を変更するにあたってどのような部署に連携が必要でしたか?
1月末ごろまでに各学校の配食日を給食センターへ報告することで、周知を図りました。そのほか、学童保育については各学校より関係機関に周知をしてもらい、放課後の学校施設の地域開放についてはスポーツ振興課も関係するのでそちらにも連絡しました。
ーー各学校への通知はどのように行いましたか?
校長会には内々で2021年の12月頃には伝えており、正式には新年度が始まる前の3月ごろに各学校に周知をしました。
ーー教員からの反応はどうでしたか?
新年度の準備日を確保したことについては、学校管理職や教員からは会うたびにお礼を言われます。この件について不満を言う人は誰もいませんでした。
ーーこの取り組みを進めた所感を教えてください。
働き方改革については先生方の信念対立を生む取り組みもありますが、そうした施策と比べるとこの施策は非常に取り組みやすく先生方の反応も良かったです。また、教育長が新年度準備期間の確保に非常に前向きに考えてくれていたのも、この取り組みが進めやすかった要因だと思います。教育委員会としては、先生方の働き方改革を進める上では現場の意見が尊重されるべきだと考えているので、今回の案が現場の意見を集約したものとして校長会からあがってきて、それを教育委員会や教育長で推し進めていけたのがよかったです。
ーー今後取り組みたいと考えていることを教えてください。
次に取り組もうと思っているのは日課・時程(日々の時間割)の見直しです。ここは学校長裁量なので教育委員会より指示を出すのは難しいと思っていますが、校長会にて適宜指導助言をしたり好事例を共有したりするなどして働きかけています。効果の大きい施策だと思うので、今後積極的に取り組んでいきたいと思っています。
ーー今井さん、ありがとうございました!
多くの学校で、新年度が始まる4月の忙しさは大きな課題になっています。しかし、4月の始業式の日程が、自治体によって違うことはご存知でしょうか?4月5日から始まる地域もあれば、4月10日から始まる地域もあります。4月頭の忙しさを考えると、この数日の差で、子どもたちを迎える準備が十分にできるか大きく変わりますよね。新年度の準備期間を十分に取るため、近年、規則改定を行った自治体もいくつかあるようです。
School Voice Projectの「#新年度の準備期間を十分に!キャンペーン」では、年度始めの教職員の忙しさ、ひいては新年度準備を十分行えずに子どもたちを迎えざるを得ない状況を解消するため、春季(春期)休業終了日(学年始休業日)の後ろ倒しを推進しています。
こちらの記事では、キャンペーンの一環として、1) 全国の春季休業日程の調査結果、2) 各自治体で一歩を踏み出していただくための資料を共有いたします。
公立学校の春季休業の日程は、都道府県・市区町村の規則(「学校管理運営規則」や「学校管理規則」)によって定められています(*1)。春季休業日というのは子どもたちにとっては「春休み」と呼ばれるものですが、学校の教職員にとっては新年度の準備をするための期間になります。ここでポイントとなるのは、ほとんどの自治体において、教職員の人事異動の発表と新採用の辞令がおりるのが4月1日であり、重要な決定事項を決める会議は4月に入ってからでないと難しい、ということです。つまり、新年度のための準備は「4月1日から始業式の前日までの日数」でやる必要があります。さらに、4月頭に土日があると、新年度の準備期間が実質3日や4日以下しかなく、「土日出勤するしかない」という状況にもなり得ます。
新年度を迎えるにあたり、学校は様々な準備をします。具体的には「学校全体での準備や会議」「学年での準備や会議」「校務分掌の部会での準備や会議」「自分のクラスの準備」です。それぞれに決めなければならないことや、確認事項、引き継ぎ事項、書類の準備等があります。学年や校務分掌の会議でスムーズに役割が決まらなかったり、慎重に検討することが必要な事案が出てきた場合、「自分のクラスでの準備」の時間がどんどん削られていきます。また、近年はコロナ対策やGIGAスクール構想による1人1台端末のためのアカウント関連の業務なども増えています。結果として、新年度ワクワクして登校してくる子どもたちや、目を輝かせて入学してくる新入生を迎える前に、先生たちは既に連日の長時間残業や土日出勤によってクタクタになっている…ということが多くの自治体で起こっています。
School Voice Projectが以前とったアンケートの中でも、先生方から「曜日の関係で新年度準備の日数に増減があるのが困る」「異動してきたばかりの先生にとっては、学校の教務規定や校則、それぞれの文化を理解する間もなく新学期を迎えるため、期間にもっとゆとりが欲しい」といった声があがっています。
*1 実際の日程は、学校管理規則より前後する自治体も一定存在します。
School Voice Projectが行なった調査(*2)によると、国内にある1,756の自治体において、2022、2023年度の新年度準備期間が4日以下となる自治体は56%(976自治体)でした。なお、都道府県から回答をいただき、2022年度の実態が判明した自治体に絞って集計を行った場合、この割合は73%に上昇します。
*2 調査結果の詳細は、記事下部よりダウンロードください。規則上の記載と、2022年度の実態(都道府県から回答をいただいた範囲内)を都道府県・市区町村ごとにご覧いただけます。ご自身の自治体と近隣自治体などとの比較にお使いください。
School Voice Project が2022年7月~8月にかけて行なった調査によると、国内にある1,718の自治体において、春季休業日の最終日が「4月7日まで」と記載されている自治体は504ありました。その場合、どのような曜日の並びであっても、始業式までの平日の日数は最低でも5日間は確保されます。しかし「4月6日まで」と記載されている場合、2022年度や2023年度のカレンダーであれば平日は4日間、2024年度のカレンダーであれば平日は5日間になります。同様に、「4月5日まで」と記載されている場合、2022年度や2023年度のカレンダーであれば平日3日間、2024年度のカレンダーであれば平日は5日間となります。
つまり、春季休業の最終日が4月7日以前に設定されている自治体は、カレンダーの曜日の並びによって平日の日数が変わるということです。これらの自治体では、年によって、始業式まで平日5日間確保されていてある程度余裕を持って準備できる年もあれば、今年や来年のように平日3日間で慌ただしく準備しなければならない年もある、ということになります。
さて、年によっては5日かけて行う準備を2〜3日しかけられない場合、どのようなリスクやデメリットがあるでしょうか。考えられるのは以下のようなものです。
1.情報の引き継ぎが不十分になる
異動してきた先生や新規採用の先生に、学校の様子や子どもの様子、年度当初にやるべきことなどを丁寧に伝える時間が足りなくなる。
2.新規採用の先生に、大学では学ばない学校の活動について伝える時間が足りなくなる
特に小学校の場合、新規採用で来た先生は、大学の授業ではほとんど学ばない給食指導や清掃指導についてよく分からないまま子どもたちを迎えることにもなり、結果的に1学期の学級経営においてよいスタートが切れなくなる可能性が高まる。
3.教職員同士がお互いのことをあまりよく知らないままスタートを切ることになる
全員が慌ただしく準備する状態になると、異動してきた先生や新規採用の先生とじっくり話す時間のないまま始業式を迎えることになり、お互いのことをよく知らないまま重要な案件を決めていく必要が出てくる。丁寧なチームビルディングやビジョン共有などはさらに困難となる。
4.短期間にこなさねばならない業務量が増え、超過勤務になる。
すべての教職員に負担がかかるが、各学年、各学級の情報を取りまとめる教務主任、学校全体の情報をまとめて教育委員会に提出する教頭は特に多忙になる。そのため、4月が始まってすぐに残業続きとなったり、土日出勤をせざるを得ない状況となる。
もちろん、学校において最優先されるべき「子どもの安全に関する情報共有」などはどの学校でも入念にしっかりとなされているでしょう。しかしながら、「優先順位や重要度は高くはないけれどやっておくべきこと、やっておきたいこと」については、遅くまで残業をして行うか、諦めるかのどちらかになってしまいます。現状の春季休業のスケジュールで、十分に子どもたちを迎え入れる準備ができているのかどうか、考える必要があるのではないでしょうか。
この現状は、「学校管理規則」を改定することで変えられます。具体的には、どの自治体でも定期的に開催されている「定例教育委員会会議」で決議すれば、春季休業日の日程を変えることが可能です。なお、学校管理規則は、多くの自治体において、議会での決議を必要とせず教育委員会の議決で済むため、意外とハードル低く変更することができます。
実際のプロセスについては、特集・カテゴリページの「#新学期準備を十分に」に掲載の教育委員会へのインタビューをご覧ください。
例えば、カレンダーに関わらず、平日5日間を新年度準備として確保できるよう学校管理規則を改定した木更津市教育委員会のインタビューでは、今井学校教育課課長から、コロナによる休校の経験を経て、授業時数に対して柔軟に対応できるようになっていたため、大きな懸念事項は無かったこと、思ったより簡単に変更することができ「案ずるより産むがやすし」という印象であったことなどを語っていただいています。必要な手続きを踏めば、どんな自治体でもすぐに可能だということをご理解いただけるのではないかと思います。
近年、学校管理規則を改定して春季休業終了日を後ろ倒しにした自治体として、他にも坂井市(福井県)、熊本市(熊本県)、近江八幡市(滋賀県)が挙げられます。記事下部よりダウンロードいただける資料では、これらの自治体の教育委員会にてどのような議論がされたのか定例教育委員会の議事録も紹介しておりますので、ご参照ください。
では、学校管理規則を改定するためには、具体的にどのような手続きを踏んでいけばよいのでしょうか。それはまずスタート時点である「あなた」がどのような立場の方であるか、ということによって決まります。詳しくは記事下部よりダウンロードいただける資料内の「各立場からの提案方法」を参照ください。
もしもあなたが、教員になって間もない20代の先生だったとしても、可能性はあります。その場合、まずは信頼できる同僚の先生にこの記事を共有してみてください。その先生が学年主任、教務主任、教頭の立場であればよりよいでしょう。校内に共有できそうな先生がいない場合は、他校でも構いません。まずは4月の春季休業期間について問題意識を共に持つことができそうな先生に相談するところから始めてみてください。
また、保護者の方の場合、お住まいの地域の教育委員会事務局や市区町村役場に問い合わせてみるという方法があります。まずはお住まいの地域の4月の始業式が何日から始まっているのかを調べていただき、もし「4月6日」より早い日程で始まっていた場合、学校教職員はかなり多忙な状況であることが予想されます。保護者の方からこのような問い合わせが入れば、学校や教育委員会事務局としては、働き方改革を推進するための追い風だと感じられるでしょう。
上述の通り、近年、学校の業務改善・教職員の働き方改革を目的とし、春季休業期間の見直しを行い学校管理規則を改定した自治体はいくつかあります。また、今年度改定に向けて動いている自治体もあるようです。
この課題は全国の学校で共通であると同時に、その課題解決のプロセスもほぼ同じものになると思われます。ご自身の自治体で春季休業期間の見直しに動きたいという方向けに、当記事の内容をより詳しく記載した資料をご用意しました。ぜひ、記事下部よりダウンロードください。
また、記事・資料の内容への質問やご意見、問い合わせ、ご相談などがありましたら、ぜひこちらのフォームよりご連絡ください。School Voice Project としても、全国的な課題解決を図っていけたらと考えています。
1. 自分の自治体や近隣自治体の春季休業日程の確認のために
a. 全国自治体の春季休業終了日の集計結果
※資料フォルダ内、PDFで要旨を、Excelで詳細を紹介しています。
2. 教育委員会へ提案するために
a. 教育委員・教育委員会事務局・教職員・保護者など、各立場からの提案方法
b. 教職員アンケート(案)
3. 定例教育委員会での決議のために
a. 春季休業終了日を後ろ倒しにした自治体の議事録
b. 発議資料テンプレート(準備中)
3. 学校・保護者への説明のために
a. 学校への通知文書テンプレート(準備中)
b. 保護者への説明資料テンプレート(準備中)
小学校へ入学した子どもが、幼稚園や保育園などの遊びや生活を通した学びと育ちを基礎として、主体的に自己を発揮し、新しい学校生活を創り出していくための「スタートカリキュラム」。沖縄県の八重瀬町立東風平(こちんだ)小学校では、2021年度からスタートカリキュラムの導入に取り組んできました。
当時の学年主任である永山勝幸さんは、どのような実践をされたのでしょうか。具体的な取り組み内容と子どもたちの変化を伺いました。
ーー 東風平小学校では、どのような経緯でスタートカリキュラムに取り組むことになったのでしょうか?
八重瀬町では「保幼小連携プロジェクト」として、子どもを真ん中に置いた教育のあり方を模索していました。当時の私は教務主任として学校全体のカリキュラムづくりに取り組んでおり、校長から「次年度は小学校1年生の学年主任として、スタートカリキュラムづくりに取り組んでみないか」とお話をいただいたんです。ありがたいことに、教育委員会や管理職からのバックアップもありながら、スタートカリキュラムづくりを任せてもらいました。
ーー 具体的に、どのような取り組みをされたのでしょうか?
目標として掲げたのが、安心安全を最優先にすること。そして、子どもたちとともにみんなが楽しい学校をつくることです。そのために、生活科の授業を中核として、「自己選択」と「自己決定」を子どもたちに委ねることにしました。例えば、例年であれば子どもたちの靴箱とロッカーの位置は教員が決めて、事前に名前を書いていました。それを変え、入学してきた子どもたちに自分が使う靴箱とロッカーを選んでもらったんです。さらに、どの机を使い、教室のどこに置くかも子どもたちに選んでもらいました。
机の配置まで自分たちで決めてもらうことにしたので、どうなるかは私たちも予想がつきませんでした。実際、4人の子が黒板に背を向けて机を置いてしまったんです。「いやいや、それは違うでしょ」と言いかけましたが、大事なのは子どもたちの「自己選択」と「自己決定」。考えた末、結局黒板は使わず、私が教室の真ん中に立って授業をすることにしました。
その後、振り返りの時間も設けました。紙に机とロッカーと靴箱のイラストを描いておき、それぞれについて、自分の気持ちに近い表情のイラストに色を塗ってもらいました。ある子は、悲しい表情のイラストに色を塗っていたので、「どうして?」と聞くと、「本当はあの机が良かったけど、取れなかった」と言うんです。まだ机が余分にあったので、そこに行って選び直すことに。再び机を選んだあとは、笑った表情のイラストに色を塗っていました。
給食の準備もできるだけ教員は手を出さず、子どもたちに任せるようにしました。そうすると時間はかかるし、週1回は必ず誰かが給食を床にぶちまけてしまうんですよね。でも、その過程も私は大事にしていました。子どもたちには、「失敗してもいい。そこから学んでいこう」と伝えたかったんです。上手くいかなかったときは改善するチャンスという意味を込めて「ハックチャンスだね。どうしようか?」と声をかけると、子ども同士でフォローし合う姿も見るようになりました。困っている子がいると必ず来てくれる子やお手伝いが上手な子もいたりして、子どもたちのいろんな面が見れたのもよかったと思っています。
4月下旬には、生活科の授業で1年生と2年生がペアになって学校探検をしました。それぞれがペアになってカメラを持ち、校庭や校舎内の教室を巡って写真を撮るんです。この体験が、後日別の教科の学びにもつながりました。例えば、校庭に咲いていた花を撮ってきた子がいたので、「何本あるんだろう?」と問いかけると、子どもたちは数を数えようとします。まさに算数で学ぶ内容です。また、校舎を巡ったときに、子どもたちはいろんな掲示物を目にするんですね。「なんて書いてあるんだろう?」という興味から、ひらがなの学習につながりました。
掃除の時間も、最初に教員がルールを決めるのではなく、子どもたちに任せてやってみました。すると、廊下掃除の子がほうきを全部持っていってしまって、足りなくなってしまったんです。そこで、1本のほうきは1人が使うことを確認して、何人がほうきを使えるかをみんなで考えました。掃除の時間の出来事が、算数の「1対1の対応」の学びにつながったんです。
ーー 永山さんご自身は、なぜスタートカリキュラムに取り組もうと思ったのでしょうか?
教員生活を続ける中で、「学校の当たり前って本当に必要なんだろうか?」と考える場面が増えていったんです。例えば、子どもたちを整列させて体育館に歩いていく。それって、何のためなのでしょう。そんなことを考える中で、やっぱりこれは見直さないといけないと思いました。失敗を積み重ねながら学んでいける教育に変えていくには、1年生の入学時からやっていくのが1番だと考えて、スタートカリキュラムに取り組みました。
ーー 教員全体がチームとなってスタートカリキュラムに取り組めた要因は、どんなところにあったと思いますか?
「幼保小連携プロジェクト」の一環として取り組めたことは大きかったですね。コーディネーターの方や大学の先生からのアドバイスもいただけたので、心強かったです。ここまで子どもたちに委ねようと決めるまでには、1年生を担当する教員チームで何度も対話を繰り返しました。何かしらのトラブルが起こることも想定した上で、覚悟を決めて取り組んだんです。実際は、めちゃくちゃ怖かったんですよ。でも、チームの中には1年生の担任経験が豊富な教員もいたので、相談しながら進めました。他の教員も「大丈夫だよ。やってみよう」と言ってくれたから、思い切って取り組めたんだと思います。
ーー スタートカリキュラムに取り組んだ1年間を振り返てみて、子どもたちにどんな変化がありましたか?
実際にやってみると、私たちが思っている以上に、子どもたちは自分で考えて動く力を持っているんだと気づきました。子どもたちが「こんなのやりたい!」と言っていたら、それに耳を傾け、「じゃあ、どうしたらいい?」と問いかけると、私たち大人が考えもしないことを自分たちでやっていくんです。こちらも楽しかったですよ。途中で何度も心が折れそうになりましたけどね(笑)子どもたち主体で進めていくと、いろんなことがカオスな状態になるので、「自分の指導力不足なんじゃないか」と思うこともありました。とても怖かった。どこまで自由に任せるのか、バランスを取ることの難しさは感じますし、まだまだ課題はあります。だけど、子どもたちを信頼することが何より大切なんだと思います。子どもを真ん中において教育を考えていくと、それが子どもたちの当たり前になる。これを続けていくことで、「自分たちで変えていける」という意識を持ってくれるんじゃないかなと思います。
2021年10月の文科省の発表によれば、不登校の子どもの数は8年連続で増え、19万を超えて過去最多となっています。しかし、不登校の子どもとその家庭と、どのようにコミュニケーションしていけばよいのかという知見やノウハウは、意外と学校現場では共有されていません。子どもや保護者のつらさが学校や教員の側からは想像しづらく、逆に保護者からは学校が抱える事情や対応の限界が見えにくいという課題があります。学校側が無自覚に子どもと家庭を追い詰めてしまうケースや、相互理解の不足によって双方が苦しくなってしまうケースも少なくありません。
そこで今回は、『不登校の子どもを育てる家庭と学校のコミュニケーション』をテーマに、保護者の久保田希さんと小学校教員の加藤陽介さんの対談を企画しました。久保田さんは、子どもが不登校になった際に保護者が学校と相談したい項目をまとめた「学校への依頼文フォーマット」(以下、依頼フォーマット)を作成して、活用を呼びかけています。対談では、この依頼フォーマットを切り口に家庭と学校の関係づくりのヒントを探しました。
久保田希さん
埼玉県戸田市在住。不登校の子どもと家庭、居場所運営者を支援する団体「多様な学びプロジェクト」会員。小学校1年生だった子どもが「今日から学校に行かない」と宣言して以来、現在まで3年ほど不登校の問題に向き合う。今回の対談に登場する依頼フォーマットの作成チームリーダーを務めた。
加藤陽介さん
宮城県仙台市在住。公立小学校教員。大学1年生の頃から5年間、フリースクールのスタッフとして不登校の支援に関わる。同時にニートやフリーターなど若者の就労支援にも携わっており、それらの経験を学校現場で生かしている。元気に登校する子どもたちも含めて、さまざまな子どもと対峙する教員の立場から対談に参加した。NPO法人School Voice Project 理事でもある。
不登校の子どもと家庭、居場所運営者を支援する団体「多様な学びプロジェクト」が2022年度初めに公開。会員である久保田さんが、教員が集まる勉強会に参加した際に「不登校の子の家庭が学校とのやりとりで困っていることを、先生方はあまりご存じないんだ..」と気づいたことをきっかけに団体に発案した。
実態把握のために実施した保護者アンケートには、わずか10日間で約630人の回答があり、17項目にわたって詳細な回答が得られた。久保田さんは「困っている保護者の切実な思いが表れている」と感じている。具体的に困っていることを記述してもらうと同時に、改善できた事例も教えてもらった。
2月中旬にスタートし、4月4日には依頼文フォーマットが公開されるスピーディな展開で、School Voice Project の教員らも一部協力。家庭の困りごとランキングでは、「出欠連絡」と「教師との意識のずれ」が最多。「プリントなどの受取」「登校刺激」「給食費などの支払い」が続いた。
また、「子どもの状況をどう説明するか」にも困っていた。そこで依頼フォーマットでは、出欠連絡など10の項目について、選択式で子どもや家庭の希望を伝えられるようにした。学校や行政の関係者からは「積極的に使いたい」という声も届いている。
▼ 困りごとランキング(アンケート結果より)
▼ 学校とのやりとりにおける保護者の困りごと(アンケート結果より一部抜粋)
ーーアンケートとフォーマットをご覧になって、教員の立場から感じたことはありますか。
アンケートについて、数も集まっているし、家庭の声が分かりやすくていいなと思いました。
項目を見ていて、保護者は出欠連絡と安否確認を分けていると気づきました。教員は安否確認したいから出欠確認しているところが大きいんですね。例えば、「毎朝しなければならない出欠連絡が精神的に苦痛で、しなければ学校から電話がかかってきて地獄でした」というアンケートの回答があります。ここは感じている保護者の生の声なので、教員にも本物を読んでもらいたいと思います。でも、家庭からかかってこないと先生としてはかけなければならないんです。教室の子たちに「本でも読んでいてね」と言い残して、焦って職員室へいって電話しなければならない。
また、安否確認しなかった時の責任についても考えました。何かあった時に、「保護者とやりとりしているので、安否確認していませんでした」と言えるかなと。教育現場への批判が集まった時に教員が弱い立場であることは事実だと思います。そこで、詳しく聞きたいのは、学校からの連絡は本当にいらなくて、安否の確認はしなくてもいいのでしょうか。
不登校に関わっていて思うのは、一つの解はないということです。不登校って原因 が十人十色だと思います。ですので、一つの答えでは解決しないと思います。安否確認をした方がいいのか、そっとしておいた方がいいのか。どちらも良い点と悪い点があると思います。先生が安否を思っているのもよく分かります。
ただ、アンケート結果の数値を客観的事実として捉えていただけたらと思っています。出欠確認については、「朝、電話1本すればいいだけでしょ」と思われるのかもしれませんが、家庭では子どもに「今日どうするの、行くの?行かないの?」と聞かなければなりません。親の出勤時間が迫る中、その時間までに、はっきりさせなければならないんです。迫られる子どもは苦しいし、迫る親もしんどいです。子どもは「学校を休ませて」と言葉に出した段階で、いっぱいいっぱいです。学校に出欠連絡をするために、家庭でこのやりとりを毎日やることが本当に子どものためになっているのか、疑問に思っています。
「出欠ってこういうもんですよね」という従来の当たり前に囚われずに、家庭と学校が話し合うきっかけにしたくて依頼フォーマットを作りました。
このフォーマットがあるから、安否確認や朝の連絡を一律に「やめましょう」という乱暴な話ではなく、これだけの人が困っている事実をもとに、教員や学校が考え直す一つの機会にしていくことが大切ですね。教員もすごくモヤモヤすると思うのですが、対話のきっかけに使ってくれればいいと感じました。
出欠連絡については、頻度を減らしたり、メールの連絡も増えています。朝の電話での出欠連絡は、実は学校側も大変で、ここ2年はコロナ禍の影響もあって不登校が多い学校の場合は、毎朝7時半から8時20分まで電話がパンクするんです。実際に私の担当した生徒も「週1回の登校にあわせて連絡をします」などと 取り決めたこともありました。個別対応で方法は変えられるんですが、「何かあった時にどうするのか」ということは校長も教育委員会も心配しています。そこで密な連絡をすることが一般化されてしまうんだと思います。
依頼フォーマットを使った場合に、反発されたりして子どもと保護者が傷つく事態を一番恐れました。不登校の当事者同士だと「出欠連絡って大変だよね」という話で通じてしまうんですが、先生はどこまで理解されているのか、私たちには分かりませんでした。いま19万人が不登校になっていて、それだけたくさんの子どもと家庭が困っているんですね。その度合いが深刻で・・・不登校って命の問題だと思うんです。「学校に行けない」という現象だけじゃなくて、子どもたちは「社会に居場所がない」と思っています。「自分に価値がない」と思っています。多くの子どもたちが不登校を経験しても成長していますが、公教育が19万人の不登校を生んでいることはすごく問題だと思っているんです。なんとかしたいです。
そうですね・・・。担任の中にも不登校についての理解や知識・経験がある人とそうでもない人がいます。不登校の子どもは小学校だと100人に1人ほどということもあり、出会わないと実際の対応も分からないんですね。私がこれまで出会った中では、具体的には、いじめがあったケースや、そもそも学校を希望していない子もいました。ただ、背景や理由が多岐に渡っているので、「どうして?」と聞いても「分からない」という子も多いですよね。いろいろな不登校があって、背景を理解する経験が教員の側に少ないので、原因を掘り下げようとしてしまう。けれど分からないんですね。そして、保護者の側も明確な理由などが分からない場合は、先生から詳しく聞かれても、それによって追い詰められてしまうことも・・・。そうやってうまくいかなくなってしまう。「教員との意識のずれ」というのは、どんなことでしょうか。
不登校のことをご存知でないんだろうなと感じることがあります。子どもが不登校になった時は、親もどんなことか知らないんです。でも、我が子のことなので必死で調べます。すると、たくさんの事例や本や文科省の通達とか、知識として得られるものはたくさんあります。知っている情報量にギャップがあるために、不登校のことを知らない先生と話した時に「ずれている」と思うことは多いんじゃないかと思います。私の意見ですが、不登校って学校の中で暮らしていける「普通」の枠が真ん中にあって、その枠に入りづらい子が暮らしにくくなっている状況だと思うんです。「普通」の枠がもっと広がったら、学校で学べる子が増えるのではないかと思います。一方、幅を広げても今の学校システムにいられない子もいると思っています。「学校復帰を目的としない」という通達も出ています。ただ、学校復帰を求めないのであれば、その子たちが社会の中で育ち上がっていくには、どうすればいいか考えないといけないと思っています。例えば、よく「教室以外の部屋に来て過ごそう」という働きかけもありますが、その部屋にいることが学びの保障になっているのかなという、疑問もあります。
多様な学びのあり方について、私も話したいです。「そもそも学びってなんだろう」というところから、考えていかなければならない時代になったと思います。学校教育だけが「学び」とされていますが、人は自然と学んでいるんですよね。赤ん坊も学んでいるとすれば、それは学校教育じゃないところで学んでいるんです。ちょうど昨日登壇した多様な学びについて考えるシンポジウムでは、「なぜ、無理に学校教育を“食べさせよう”とするのかな」という話も出ました。それは、社会に出る時に、学校教育の修得具合、すなわちテストで評価されてしまうシステムの問題じゃないのかという話もありました。学校教育を受けずに社会的に自立して、活躍する人もいるのは知っています。けれど、保護者や当事者の方から「最終的に進学できるのでしょうか。就職できるのでしょうか」という相談を受けることもあります。学校教育の修得具合という尺度だけで切り取られる世界に戻ろうとした時に、「実際に大変なんだよ」と伝えようとしている教員がいることも事実だと思います。
まさに昨日、子どもの在籍校の先生方とそんな会話をしていました。「実際に、不登校だった子が社会で幸せに暮らせているのを知っていると、教員側も不安になりすぎなくて済むんですよね」とおっしゃってくださって。不登校の後の生き方は、いっぱい事例があるんですよね。学校も通信制があり、大学にも入れます。選択肢は広がっていて、先生も保護者も実態を知っているかどうかで違ってくると思います。先生は休養する必要性は知っていても、先生自身がその子の将来を不安に思っていたら、「どうせ入試も入社もあるんだから、学校においで」ということになるんだろうなと思います。でも、学校が合わない子にとって、「学校しか学ぶ場所がない」「学校で学ばないと将来困る」という指導を受けることは「あなたはこの社会で生きられない」と言われているのと同じなんです。
先生たちも多くの場合、学校教育以外の学びの場を経験していないでしょうし、学校でしか生きていないんですよね。小中高と学校に通って、大学に行って就職したという自身の経験をもとに、「この道を行けば大丈夫」と話される先生もいると思います。
ーー先生だけでなく保護者も「学校にいけないと、将来生きられないんじゃないか」という不安を抱えることはありますよね。
それはそうです。私も子どもが不登校になった当初、それで苦しかったです。
でも、その不安から無理やり学校のレールに戻そうとすると、明らかに子どもが壊れていくんです。それで「普通」の枠に入れようとするのを諦めました。将来の安心のために、今、子どもが壊れていくのを見ていられませんでした。
ーー子どもを真ん中にして、よりよいコミュニケーションができるようになるにはどうすればよいのでしょう。
相手が不登校児童の保護者かどうかに限らず、教員には学校の内情や自分たちの対応の限界などについて、正直に伝えていいのかという葛藤があります。「相手の気持ちを聞こう」という気持ちがある一方で、先生たちには伝えていない本音もあるかなと思います。
保護者も、学校に家庭のことを伝えていかなければいけないなと思います。そして、学校からも「ここまでは出来るけど、これ以上は無理です」というところを聞かせてもらいたいです。「お母さん吐き出してください」と言われ、聞いていただいても何も変わらないということがよくあります。学校の限界をきちんと教えていただいた方が、「じゃあ、その先をどうしよう?」と具体的に考えられます。吐き出し合いではなく、依頼フォーマットを対話の種として使っていただきたいと思っています。実は、依頼フォーマットは使用感のアンケートも取っていて、「在籍校から渡してもらえたら」という声がたくさん上がっています。検討してもらえたら嬉しいです。
確かに、それで楽になる家庭は少なくないですよね。ただ、一方で私は、「学校にこのフォーマットを常備して不登校の子の保護者に渡しましょう」というのが対応のテンプレートみたいになってしまったら、「冷たい」「形式的だ」と感じる家庭もあるのではないかと心配です。
形骸化してしまっては意味がないので、学校から渡すということはケースバイケースで、慎重に考えたいなという気持ちもあります。
そういうこともあるかもしれませんね。ただ、子どもたちは待ったなしで、学校に行けずに苦しんでいる間も成長し続けていることを、考えていただきたいんです。不登校になって、苦しい時間が短かかった子ほど、精神的なダメージは小さくて済みます。親にとっても、どんな選択肢があるかすら知らずに、迷い混乱しながら過ごす時間はつらく、そういった期間は子どもに適切なケアをするのが難しくなるものです。子どもたちがつらい気持ちで大きくならなければならない状況を何とかするために、依頼フォーマットを活用してもらえたらと願わずにいられません。
子どもたちのためにというのは学校も同じ思いです。1つの正解がない中で、この子にとってはどうするのがいいのか、この子のために保護者とはどんなコミュニケーションをとっていけばいいのか、一人ひとりの教員が考えるのが大切だと思うんです。この依頼フォーマットと、そのもとになった保護者アンケートに、不登校の子どもとその家庭に向き合う上でのヒントが詰まっているのは間違いないと思います。多くの先生に見てもらえたらいいなと思っています。
ーー加藤さん、久保田さん、ありがとうございました。
すべての子どもたちを受けとめるために学校教育の枠組みそのものを見直していこうという「インクルーシブ教育」。子どもたちの学ぶ環境を整える「基礎的環境整備」や「合理的配慮」が注目されています。とはいえ「誰もが学びやすい環境っていったいどんな環境?」「どのようにつくっていけばいいの?」という疑問も湧いてくるのではないでしょうか。今回は北欧・フィンランドの事例を参考に、学校の物的・空間的な「居心地」について考えます。フィンランドの学校をこれまで30校以上視察し、現地での教員経験もある地下智隆さんにお話をうかがいました。
ーーはじめに簡単に自己紹介をお願いします。
今は鹿児島の沖永良部島(おきのえらぶじま)で子ども居場所づくりの活動をしています。フィンランドの学校に勤めた経験がきっかけとなり、日本のローカルな場所で北欧のエッセンスを取り入れた教育活動がしたいと思って始めました。
ーーフィンランドの教育との関わりを詳しく教えてもらえますか?
フィンランドにはこれまで6回渡航したことがあって、期間としてはトータル1年2ヶ月ぐらい現地の学校現場に関わりました。前半の半年間では、公教育にスポットを当てて、都会の学校から田舎の学校まで30校くらい視察しました。小学校をメインとしつつも、幼稚園から専門学校、大学までさまざまな現場を見てきました。フィンランドの教育システムは、誰もが平等に教育を受けられる環境が幼児期から大学までつながっているのが特徴なので、その点を学びたいと思ったからです。後半は、幼小中高一貫の学校に勤めました。そのときは、学校教育と地域、行政など、子どもたちを取り巻く環境がどのように成り立っているのかに着目して働いていました。
ーー30校とは、かなりたくさん見られましたね。
やはり1つの学校だけでは、わからないことも多くあります。複数の学校を見ることで比較ができると思ったので、地域を越えてさまざまな学校を視察しました。訪問したのは、田舎の学校や、生徒数の多い学校など。メインで行っていたインターン先の学校は新設校で最新の設備が揃っていたので、訪問先はそこと違う要素があるかを意識して選びました。
ーー地域ごと・学校ごとに違いがあると思うのですが、教室環境としてはどんな点が特徴的でしたか?
先生たちの考え方として共通していたのは、目の前の子どもたちを見て、その子にあった教室環境を、子どもたちと話し合いながらデザインしていくという点です。なので、入る教室によって置かれているものが違います。体の動きがあった方が集中できる子が多いクラスでは、バランスボールやバランスチェアが多く置いてありました。目の前のその子が、どうやったら教室の中で一緒に学べるかを考えて、置くものを選んで、試行錯誤しながら環境づくりをしているんだなということが伝わってきました。「子どもたち一人ひとりには、それぞれに合う学びのスタイル・過ごし方がある」という知識や考え方が前提として共有されていることにも驚きました。複数の学校をまわりましたが、この視点は、しっかり共通認識になっていて、しかも予算が充てられています。その中で一人ひとりの先生が工夫しているのが印象的でしたね。
ーー予算が確保できているというのは、たとえば「教室にバランスチェアを置きたい」となった場合に、新たに予算がもらえるということですか?
ものが自由に買えるというよりは、特別な支援が必要な子どもの人数を学校が行政に連絡すると、人数に合わせて予算が下りるかたちでした。特別なニーズのある子どものためにおりた予算を具体的にどう使うかの裁量は学校や担任の先生にあるようです。
ーー「多動性の高い子にはバランスボールやバランスチェアはどうだろうか」といった発想は、そもそも情報を知らないと湧きづらいのではないかと思います。こうした、教室で過ごす際や学習に取り組む際の助けになるグッズの選択肢は、フィンランドの教育者の間ではすでに一般化されているのでしょうか?
僕が働いていた5年ぐらい前(2017年頃)が、ちょうど教室に学習の助けになるようなグッズが導入され始めた頃でした。大学レベルの研究では、学校で長時間座っていることが子どもたちに悪影響を与えると指摘されていました。さらにインクルーシブ教育の観点からも、子どもたちが自由に動けないことへの問題意識が学校現場にはあって。そういう背景で、バランスボールなどを使うようになりました。また、フィンランドでは、1年に1回、国内の教科書会社や教材教具開発している団体、教育に関連するNPOなどが一堂に会する「エデュカ」と呼ばれるイベントがあり、そこに全国から先生が集まるんです。先生たちは「エデュカ」でいろんな教材やグッズを見て、自分が教えている子どもたちに合うものは何だろうと考えるんですよね。新しい教材やグッズとの出会いを通して、個別のニーズや特性に応じた支援について、情報をアップデートする機会にもなっていると思います。
ーー教室環境の工夫や配慮として、他にはどんなものがありましたか?
印象的だったものはイヤーマフです。子どもたちが必要だなと思ったらいつでも使えるように教室の前に置いていました。
あとは、パーテーションを置いて授業を受けてる子もいましたね。それも先生に許可をとって使うというよりは、周りが気になって集中できない時など、自分が必要なタイミングで自分で持ってきて使える感じでした。
ソファもフィンランドの教室にはよく置いてあるんですけど、中にはソファの両側に目隠しになる仕切りがついているものもありましたね。ソファがあると子どもたちで取り合いになるんじゃないかと思ったんですけど、全然そんなことはないんですよ。順番制になっているわけでもないのに。本当に自分にあった環境を子どもたちが選んで過ごしているのがすごく印象的でした。
ーー「教室の中にいろんなものがある」のが、特別なことではないという感覚があるのかもしれませんね。
フィンランドでは、日本と比べると、かなりリラックスして授業を受けている印象はあります。ある学校で、寝転びながら算数の問題を解いている子どもがいたので、驚いて先生に「どういう意図があるんですか?」と聞いたんですよ。そしたら、「子どもが一番学びやすいスタイルを選んでいるのだから、集中できているならいいんじゃないか」という返事が返ってきました。いつも”正しい姿勢”でいることよりも、その場その場での目的を大事にしているんですよね。フィンランドでも式典などの際には、オフィシャルな場での振る舞いとして姿勢を重視することはあります。学びの場をオフィシャルな場と捉えるのかどうかが、1つの違いとしてあるのもしれませんね。
ーーほかにも学習環境について印象に残っていることはありますか?
教室の外でも学べるデザインがされている点も特徴だと思います。廊下も学ぶ場の1つとしてすごくこだわってつくられているなと感じました。たとえば、廊下にも教室にあるような机と椅子が並べてあったり、ソファが2つくっついていてミーティングができるようなスペースがあったり。あとは、高さを変えられる机があって、立って学んだり座って学んだりをフレキシブルに選択できるようになっていたり。
教室の外に学びの空間が広がっている・・・というのはフィンランドではそんなに珍しいことではありません。ただ、都会では、学校施設のキャパシティ的に難しい場合もあるかなと思います。そういう地域ではむしろ、街全体が子どもたちにとっての学びの場という感覚があったように思います。地域の図書館に気軽に出かけていく、というような。
ーー大人が働く環境で印象的だったものはありますか?
大人が過ごす環境もすごく大事だと考えられていて、職員室がリラックスできるデザインになっていました。職員室は仕事をする場ではなくて、安らぐ場なんですよね。コーヒーを飲みながら、日常的な会話や対話が生まれる仕掛けがあるなと思いました。職員室に入ったら休まるんですよ、「ふぅ」って。みんな肩の力を抜いてリラックスしていました。校長先生に職員室づくりで大事にしていることを聞いたら、「1人ひとりが安心して働ける環境をつくっていきたい」とおっしゃっていました。教室づくりで大事にされていることが、職員室づくりでも同じように大事にされているということですよね。
ーー日本の学校でフィンランドの空間環境づくりのエッセンスを活かすとしたら、何ができると思いますか?
どんな環境だったら集中できそうか、居心地がいいのか、子どもたちと一緒に考えられるといいと思います。予算がかかる部分もあるので全部は難しいかもしれませんが、もしかすると、中には実現できるものや、自分たちで変えられる環境もあるんじゃないでしょうか。職員室についてもそうですよね。まずは「あったらいいな」と話すところから、始まるんじゃないかなと思います。
また、フィンランドの先生は、「目の前の子どものことを一番わかっているのは担任の先生」「まず目の前の子どもたちのことを見るんだ」と口を揃えて言っていました。その言葉が、僕にはすごく響いたんです。どんな時も、そこを大事にして、日々子どもたちと関わっていきたいと思っています。
ーー地下さん、ありがとうございました!