学校にファシリテーションを! 一人ひとりが「聞いてもらえた」を実感できる、みんなの力を生かす話し合いの技術
会議が長く、建設的な話し合いができない。
話し合いの仕方を子どもたちにどう教えればいいかわからない。
一人ひとりの意見を聞きたいけれど、十分な時間がない。
教職員として学校で過ごす中で、そのように感じることはありませんか?
主体的・対話的で深い学びが重視されるようになった今、学校では多くの先生たちが授業や学級運営のアップデートを試みています。また、働きやすい職場にしていくために、教職員間が円滑にコミュニケーションを取れるような環境づくりも重視されるようになりました。一方で、会議や話し合いの進め方を体系的に学ぶ機会は少なく、多くの方がさまざまな課題を抱えながら、その解決策を模索しているのではないでしょうか。
そんな状況の中で注目されているのが、「ファシリテーション」です。今回は、ホワイトボード・ミーティング®️の開発者でもあるちょんせいこさんに、学校にファシリテーションが必要な理由やその効果についてお話を伺いました。
安心安全で、一人ひとりが力を発揮できる対話の場
ーー そもそも「ファシリテーション」とは、何でしょうか?
ファシリテーションは、狭義では会議や研修、プロジェクトなど、人が集まる場で一人ひとりの意見を生かし、合意形成や課題解決を進めるための話し合いの技術です。広義では、私たちは本来、誰もが力をもつ存在で、その力を発揮できるエンパワメントな場づくりを進める話し合いの技術です。立場や意見などの互いの違いを認め合い、人権を尊重しながら対立を好機に変え、よりしなやかで力強い平和な社会づくりを進めるための技術でもあります。
例えば、教職員の会議も、子どもたちの話し合いも、発言する人が偏ってしまう、時間をかけてもみんなが納得する答えにたどり着かない、決まったことが実行されないなど不調に終わることがあります。「対話をしてもイノベーションが起こらない」「会議をしても成果ややりがいを感じにくい」ような状態は、みんながファシリテーションを身につけていないために起こる現象です。話し合いに不全感をもったり、その価値を最大化しにくくなります。
今、教科書をパラパラとめくると「自分の意見を付箋に書いて、友達と交流しましょう」や「グループで話し合ってパンフレットを作りましょう」などのように、主体的・対話的で深い学びを前提とした授業や学級活動が始まっています。また、大学や研修、書籍やセミナーなどでファシリテーションを学ぶ人が少しずつ増え、話し合いの進行役をファシリテーターと呼んだり、ファシリテーションを取り入れた校内研究を進める学校や、先生や子どもたちがファシリテーターとして活躍する実践も増えてきています。
悩み、葛藤しながらも、自分や他者を大切にしながら協働するために。ファシリテーションは正解がないと言われる時代を生きる私たちに、今、最も求められている技術のひとつで、一部のリーダーだけではなく、みんなが身につけて、誰もがファシリテーターになれるソフトなインフラ整備が求められています。
ーー 具体的に「ファシリテーション」は、どのような技術でしょうか
「よくわかる学級ファシリテーション」シリーズ(岩瀬直樹・ちょんせいこ・解放出版社・2011-2013)以降、ファシリテーションを構成する「6つの技術」を提案しています。
ファシリテーションの6つの技術
1. インストラクション(指示・説明)
シンプルでノイズのない言葉で情報を共有し、みんなが動きやすい環境をつくる技術
2. クエスチョン(質問・問いだて)
対話や議論、試行錯誤や探究を促進する問いの技術
3. アセスメント(評価・分析・翻訳)
全体状況から現状を分析し、評価、翻訳する技術
4. グラフィック&ソニフィケーション(可視化&可聴化)
対話や議論を促進するために「見える化」「聞こえる化」する技術
5. フォーメーション(隊形)
グループ編成やキャスト、シチュエーションを選択する技術
6. プログラムデザイン(設計)
ゴールをつくり出すためのアクティビティを組み立てる技術
授業検討会を例にあげると、先生のインストラクションは子どもたちが動きやすい説明になっていたか、子どもたちの学びを深めるのに適切な問いのプロセスをつくっていたか、子どもたちの学ぶ姿をどのように分析していたか、子どもたちの学びや活動を促進する可視化や可聴化はどのように機能していたか、グループサイズや編成は学びを深めるのにマッチしていたか、単元や本時の授業案は効果的であったか、などの技術になります。
会議を例にあげると、ファシリテーターのシンプルなインストラクションで参加者の意見や情報を共有し、問いで議論を深め、個人やチームの現在地を分析しながら効果的な展開を思考する。大きな声の意見も小さなつぶやきも見える化、聞こえる化で対等化しながら、この議論に適切なメンバー構成と人数で、ゴールにむかって進め方を工夫する、などの技術になります。
これらは包括的、即興的に繰り出されるので境目が見えにくいのですが、ひとつずつわけて練習することも可能です。愚直な練習とリフレクションを繰り返しながら、大人も子どもも合意形成や課題解決に有効な6つの技術を身につけていきます。
練習すれば、誰もがファシリテーターになれる
ーー 学校では、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。
私は今、教育委員会や学校の先生方と一緒に、学校マネジメントの充実や授業改善、学力向上や困難な状況にある子ども支援に役立てるため、さまざまなファシリテーション技術の普及に取り組んでいます。その中で、特に力を入れているのは、2003年に開発したホワイトボード・ミーティング®️です。体系化されているので、大人も子どもも同じ方法で学ぶことができます。続けていると互いを承認しあう関係づくりが進むので、安心や安全がベースの環境設定が進んで、教室や職員室のコミュニケーションが良くなるのも大きな特徴です。
ホワイトボード・ミーティング®︎は、その名の通りホワイトボードを活用して進める効率的、効果的な会議の方法です。進行役をファシリテーター、参加者をサイドワーカーと呼びます。成熟した場はファシリテーターの力が3、サイドワーカーの力が7くらいで進んでいきます。つまり、サイドワーカーが活躍する環境調整をするのが、ファシリテーターの役割です。オープンクエスチョンやあいづちで思考と対話を深めながら、情報共有を進める意見の発散を黒、出てきた意見を構造化する収束を赤、結論や行動計画、役割分担を決める活用を青で書くとルールづけています。基本となる6つの会議フレームがあり、熟練したファシリテーターは、この6つの技術を即興的に組み合わせて使うようになります。小・中学校の子どもたちは①ー③の3つのフレームとアレンジを練習します。2020年4月以降はデジタル入力で進める方法も開発されています。
ホワイトボード・ミーティング®︎6つの基本会議フレーム
①定例進捗会議
②役割分担会議
③企画会議
④情報共有会議
⑤課題解決会議
⑥ホワイトボードケース会議
ーー ホワイトボード・ミーティング®のファシリテーションを身につけると、会議はどのように変化するのでしょうか?
話し合いが可視化されることで、参加者全員が会議のプロセスを共有しやすくなります。ファシリテーターは大きな声の意見も小さなつぶやきも同じようにホワイトボードに書くので意見が対等化され、年代や立場をこえて多様性を生かした対話や議論が進みやすくなります。最終的に「意見の帰属」を外しながら、ホワイトボードに書かれたみんなの意見を元に、めざすゴールに向かって具体的なアイデアを出しあうので、民主的に話し合いを進めることができます。話し合ううちに、一見、関係ないと思う議題も自分ごとにして考えやすくなり、慣れてくると会議の時間短縮も可能になります。
参考文献:
「ちょんせいこのホワイトボード・ミーティング」(小学館)
「13歳からのファシリテーション」(メイツ出版)
参考記事:
「東洋経済オンライン education×ICT」
https://toyokeizai.net/articles/-/612981?fbclid=IwAR1Imr4H5j-JoeEtomhpR3fPBACtTNHByTQyXJBNbH8XfrSqqyEG-hoc61A
授業の中だけではなく、子ども同士や教職員間でも活きる
ーー 実際に、学校ではどのような場面でファシリテーションが使われていますか?
クラスで大人しい感じの小学校4年の子が、児童会の話し合いに参加していたときのことです。ある行事をめぐって意見が対立し、トータルで2時間以上の話し合いが続いていましたが解決策が見えませんでした。「先生、ホワイトボードを持ってきていいですか」。その子は教室から児童会室に60×90センチの大きめのホワイトボードをズルズルと引きずっていき、マーカーを握って、みんなの意見をホワイトボードに書き始めました。全員に意見を聞いて書き、大切なポイントを赤で、具体的に行うことを青で書いて役割分担まで決めたそうです。児童会の先生が「あんなに揉めていたのに、たった20分で決まって驚きました」とフィードバックをくださいました。
お昼休みに子ども同士が口論になり、一方が泣いてしまったときのことです。クラスに常設されたホワイトボードの前に「じゃあ、ファシリテーターするから来て」と揉めた当事者を集め双方の言い分を聞きながら書く子が現れました。ファシリテーターとしてオープンクエスチョンで意見を聞きながら感情も受け止めて書きます。一番、いやだと思ったことを収束で聞き、これからどうしたいのかを活用で問います。当事者同士で向かい合うと利害関係があってうまく進まない話し合いもホワイトボードに向かうと思考と感情の整理が進み、最後には「仲良くしたい」と言う言葉が出たところで話し合いは終了。教室に来た先生に「さっきケンカがあったけど、もう解決したから。ホワイトボードに書いてあるから」と子どもたちが口々に報告する。そんなフィードバックもいただきました。
他にも、授業の話し合い活動やケース会議、校長先生と教職員の面談などでも取り組まれています。
学校現場での実践例の紹介
・養護教諭もファシリテーターに
・特別支援教育におけるホワイトボード・ミーティング®
・スクールソーシャルワークとホワイトボード・ミーティング®︎
・子ども達と支援担任、学級担任をつなぐ ホワイトボード・ミーティング®
(株式会社ひとまち・Webサイトより)
ファシリテーションは、これからのの世界を生きていくための基礎スキル
ーー ちょんさんご自身が、学校へのアプローチを続けている理由を教えてください。
子ども時代を振り返ると、学校で学んだ影響はとても大きいと感じています。学校は子どもにとってはひとつの社会であり、大切な居場所です。家で怒られてクサクサした気持ちも学校で友達に会えば忘れることができる。うまくいかないことがたくさんあっても、それが糧となる。みんなで取り組んだ授業や行事をはじめとする学校生活は、ドキドキワクワクのハプニングと笑いと涙に溢れていて、周囲とうまく折り合いがつかない不安や恐れ、孤立感、孤独感のような感情も、対話や学びを通じて緩和したり、解決へと向かうことができます。
自分とは違うさまざまな価値観に出会うことで気づきや発見がたくさんあり、失敗や間違いをゆるされながら、友達や先生方とともに成長していく。社会に出たときに、学校生活で経験的に学んだことは、良くも悪くも大きく影響します。だから、幸せな子ども時代を過ごすと、大人になったときに生きやすいと感じています。
誰にでも開かれた場所である学校は、たとえ厳しい環境に置かれた子どもであっても、生きる価値を学び、ともに人生を切り開く仲間に出会うことができる場です。なので、学校の中で子どもたちが成長を実感できる環境をつくりたいという思いがあります。しかし、今、学校は先生方の働き方、子どもたちの学び方も大きな変化のときを迎えています。変化に混乱はつきものです。そして、学校だけが居場所ではありませんが、小・中学校の不登校数が約20万人という数字が示す意味も重く受け止めています。
ひと昔前に学校教育の代名詞のように言われた「読み・書き・そろばん」のように、例えば「読み・書き・ICT・ファシリテーション」と並ぶようなベーシックスキルになればいい。そうすれば、変化につきものの混乱も学びの糧にしやすくなります。みんなでドキドキワクワクしながら遊ぶように学び、学ぶように遊ぶ授業や学級活動が繰り広げられていく。そんな、幸せな子ども時代、幸せな社会づくりを進めていきたいという自分の中にある願いが、学校教育にかかわるモチベーションになっています。
株式会社ひとまち
「ファシリテーターになろう!」を合い言葉に、会議や学び、プロジェクトの推進に効果的な「ホワイトボード・ミーティング®」をはじめとするファシリテーション技術の普及に取り組む会社。ちょんせいこさんが代表取締役を務める。さまざまな現場への、効果的な研修の提供やコンサルテーションを通じて、人やまちが元気になることを目指している。https://wbmf.info
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メガホン編集部