【解説記事】学校の地域連携のパターンと事例、必要性まで詳しく解説
はじめに
学校は地域との連携・協働を、ふるさと学習を通して地域に対する愛着を、外部人材の積極的活用をーー
学習指導要領に「社会に開かれた教育課程」の実現が謳われるように、現在の学校にとって、身近な地域社会との連携・協働は急務となっています。
しかし、限られた授業時数の中で効果的な学習を行うには、どのように地域と連携し、活動を行ったらよいのでしょうか。
この記事では「地域学校協働活動」、いわゆる地域連携の代表的な活動を具体事例とともに紹介し、このような活動が必要とされる背景について解説していきます。
地域連携の代表的なパターン(地域学校協働活動)
画像引用「様々な地域学校協働活動」(文部科学省,2022年9月13日参照)より
地域連携と一口に言っても、その規模は様々、内容は多岐にわたります。
例えば、スポット的な地域との連携と、中長期での体系的な連携に分けると、下記のような活動が代表的なものとして挙げられます。
1. 主に単発・短期での連携・協働
・地域の方をゲストスピーカー・講師として招く
・農家や各種施設等で体験学習を行う
・地域のお店・事業所などを訪問する
2. 主に中長期での連携・協働
・総合学習等で地域の課題解決に取り組む
・地域人材による学校サポート(部活指導・放課後学習・校内美化など)
・地域の子ども支援機関・NPO等とケース会議を行う
・声かけ・交差点での誘導などの活動
参考「学校と地域でつくる学びの未来『地域学校協働活動』」(文科省,2022年9月13日参照)より
中でも代表的な取り組みである「地域の方をゲストスピーカー・講師として招く」、「総合学習等で地域の課題解決に取り組む」について、1つずつ具体例を挙げて紹介します。
地域の方をゲストスピーカー・講師として招く(かほく市立外日角小学校)
石川県のかほく市立外日角小学校では、地域の方をゲストスピーカーに招いた『アサギマダラプロジェクト』を実施しています。
日本における唯一のわたり蝶であるアサギマダラを呼び込む活動を通して、地域の自然について学び、海浜の環境保全にもつなげることができないかという地域の方の声をきっかけに、平成28年からプロジェクトが開始されました。
地域の方を講師としたアサギマダラと学校付近の自然環境についての学習会を実施するほか、児童と地域ボランティアが一緒に植栽や除草、花植えなどを行う機会が継続的に生まれています。また、近年では蝶にマーキングをして継続的に調査をしたり、地域の老人クラブに向けて発信したりなど、活動の可能性と裾野は広げ続けているようです。
このような機会を通して、子どもたちの郷土を愛する心を育むこと、地域の中に明るい話題を提供し地域活性化につなげることがねらいとされています。
参考「地域と学校が連携・協働した 実践事例集」(石川県教育委員会,2022年9月13日参照)より
参考「アサギマダラにマーキング かほく・外日角小児童「外国まで飛んで」」(中日新聞,2022年9月13日参照)より
総合学習等で地域の課題解決に取り組む(東京都立篠崎高等学校)
東京都立篠崎高等学校では、2022年4月から地元企業と連携した探究学習プログラムが行われています。
「探究学習(総合的な探究の時間)」を活用して、地域のリアルな課題に向き合い、課題解決や新たな魅力創生を通して、将来地域社会に貢献できる人物を育成することがねらいとされています。
高校生は、実際に江戸川区の地元企業から与えられた、下記のようなテーマにグループで取り組みます。
- 生パスタを使った新メニュー
- 時と場所を鑑みた広告宣伝アイデア
- 食品ロスを減らすアイデア
- 農家の人手不足を解消するためのアイデア
- 小松菜のブランディングアイデア
- 農のある風景を継続していくアイデア
探究の過程では、地元企業が課題提供のほか、出張授業や発表会でのフィードバックなどを通してアドバイザーとして参画しています。
参考「地元企業と連携し、地域社会とつながる活動を」(日本教育新聞,2022年9月13日参照)より
コミュニティ・スクールとは?
画像引用「学校と地域でつくる学びの未来」(文科省,2022年9月13日参照)より
前項で例に挙げたように、近年は全国各地の学校で、地域に応じた多様な地域学校協働活動が行われています。
このような取り組みは、いつ頃から、どのような理由で加速したのでしょうか?
文部科学省(文科省)は平成17年度から、「コミュニティ・スクール」という形で、学校運営に地域が一体となって関わっていく仕組みを整備しています。
コミュニティ・スクールは「学校運営協議会」を設置した学校と定義されており、令和3年度の調査の時点で、小学校を中心に既に1万校以上に導入されています。
学校運営協議会は、法律に基づいて下記の機能を持っており、学校と地域が一体となって地域学校協働活動を推進することが期待されています。
- 校長が作成する学校運営の基本方針の承認をすること
- 学校運営について、教育委員会又は校長に意見を述べることができること
- 教職員の任用に関して、教育委員会規則に定める事項について、教育委員会に意見を述べることができること
引用「『地域に開かれた学校』から 『地域とともにある学校』へ」(独立行政法人教職員支援機構,2022年9月13日参照)より
例えばコミュニティスクールの先駆けとなった三鷹市立第四小学校では、下記のような様々な取り組みが行われてきました。
- 平成12年度から始まる、家庭・地域・学校が連携協働して子どもたちの夢を育む「夢育(むいく)の学び舎=参画型コミュニティスクール」の理念を柱とした実践
- 共に生き、共に学ぶパートナーとしての教育支援ボランティアの参画による、多様な教育活動や授業の質の向上
- 教育支援ボランティアの自立組織「NPO法人・夢育支援ネットワーク」の設立
- 三鷹市が推進する施策「コミュニティ・スクールを基盤とした小・中一貫教育」に基づく、中学区ごとの「学園」コミュニティ・スクールと、学園ごとに学校運営協議会の機能をもつ「コミュニティ・スクール委員会」の設置
学校と地域がビジョンを共有し、協働しながら子どもの学習を支える地域連携の好例と言えるでしょう。
参考「平成18年度コミュニティ・スクール推進フォーラムにおける実践発表資料(東京都三鷹市立第四小学校)」(文科省,2022年9月13日参照)より
参考「コミュニティ・スクールを基盤とした三鷹市の教育活動 ~「いい」学校づくりでウェルビーイングに~」(TEACHChannel,2022年9月13日参照)より
地域連携の必要性が叫ばれる背景
お店訪問などの授業の一コマから、コミュニティスクールのような大きく中長期的な在り方まで、地域連携の多様な在り方について紹介してきました。
それでは、なぜ今このような連携協働の重要性が、強く叫ばれているのでしょうか。
文科省は平成27年の中央教育審議会の答申で、学校と地域の連携・協働の必要性を次の観点で説明しています。
- これからの時代を生き抜く力の育成の観点
- 地域に信頼される学校づくりの観点
- 地域住民の主体的な意識への転換の観点
- 地域における社会的な教育基盤の構築の観点
- 社会全体で,子どもたちを守り,安心して子育てできる環境を整備する観点
- 学校と地域の「パートナーとしての連携・協働関係」への発展
先行きの見えにくいVUCAの時代に当たっては、他者と協働しながら課題解決する力など、実社会に通ずる幅広い知識・能力が求められます。
その育成のためには、地域社会とのつながりや信頼できる大人との関わり、つまり学校だけではなく様々な専門知識・能力を持った地域人材が、当事者意識を持って関わることが重要であると文部科学省は強調しています。
それは、都市化・過疎化の進行や家族形態の変容により失われつつある「地域社会の教育力」を取り戻すこと、そして将来を担う子どもたちを育て、各地域を振興・再生していくことにもつながります。
子どもたちが様々な人との関わりや経験を通して、心豊かにたくましく成長し、将来を生き抜いていく。そのために、学校と地域社会が相互補完的に連携・協働し、社会全体で子どもの教育を支えていくことが求められているのです。
参考「第1章 時代の変化に伴う学校と地域の在り方について 第1節 教育改革,地方創生等の動向から見る学校と地域の連携・協働の必要性」(文科省,2022年9月13日参照)より
まとめ
地域学校協働活動の実例やコミュニティ・スクール制度、また何故学校と地域の連携が求められているのかを説明しました。
子どもは学校のみならず、家庭や地域において、様々な人や場面に触れて成長していきます。教員にもまた、知識を教えるだけではなく、地域資源を活かした学習や、様々な人との協働を支援するようなファシリテーター・コーディネーター的役割が求められつつあります。
令和2年度からは、地域のヒト・コト・モノを生かした学びやつながり作りを担う「社会教育士」という称号も整備されました。
参考「社会教育士について」(文科省,2022年9月13日参照)より
今後ますます、地域社会と連携・協働した教育の必要性は増していくことでしょう。
School Voice Projectでは、社会の変化に応じた教育の在り方や現場の先生方の声について、引き続き取材を続けていきます。
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メガホン編集部