
【教職員アンケート結果】デジタル教科書、使っていますか?
紙の教科書とデジタル教科書のあり方をめぐる議論が進んでいます。2026年6月には、紙とデジタルそれぞれの良さを生かした教科書づくりを可能にする「学校教育法等の一部を改正する法律案」が成立しました。文部科学省は、この制度改正について、デジタル化自体を目的とするものではなく、これまで紙だけが認められていた教科書にデジタルを取り入れて作成できるようにすることで、子どもたちの学びの質を高めることが目的だと説明しています。

一方で、国会では「全てがデジタルの教科書」をどのように扱うかについても議論されました。松本洋平文科相は、4月の衆議院文部科学委員会で、小学校4年生以下については全てがデジタルの教科書を認めるべきではないとの考えを示しました。また、国語や社会、道徳などについても、文脈を理解しながら読むこと、書き込むこと、文章と資料を一覧で見ることなどの学習場面が想定されることから、当面は慎重に考える必要があるとの認識を示しています。
今回の法改正の中心となっているのは学習者用の教科書ですが、実際の授業では、教員が提示や説明に使う指導者用デジタル教科書も利用されています。児童生徒一人ひとりが学習者用端末で使用する「学習者用デジタル教科書」と、教員が電子黒板や大型提示装置に映して使用する「指導者用デジタル教科書」は役割や目的が異なるものですが、学校現場ではそれぞれどのように利用されているのでしょうか。
「デジタル教科書」の使用の実態について、全国の教職員に聞きました。
アンケートの概要
■対象 :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2025年10月18日(土)〜2025年12月22日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら)
■回答数 :34件
アンケート結果
設問1 学習者用デジタル教科書を使っている?
Q1. 学習者用デジタル教科書を使っている教科を教えてください(複数選択可)

学習者用デジタル教科書の使用状況について、小学校では「使っていない」が約6割、中学校でも「使っていない」が半数を占めました。他の校種でも「使っていない」との回答が多く、全体としても半数以上が「使っていない」という結果となりました。ただし、「2教科以上で使用」と答えた回答も一定数みられ、学校や教科によって使用状況に違いがあることも伺えます。
設問2 指導者用デジタル教科書を使っている?

指導者用デジタル教科書については、学習者用とは異なる傾向が見られました。
小学校では1教科以上で使用していると答えた回答者が約8割、複数教科で使用していると答えた回答者も3割以上いたほか、中学校でも1教科以上での使用が約9割、複数教科での使用が5割以上となりました。
この結果からは、学習者用デジタル教科書と比べると、指導者用デジタル教科書は、小学校・中学校で広く使われていることが示唆されます。教員が教科書の紙面や資料を提示する、音声や動画を再生する、画面上に書き込んで説明するための指導者用デジタル教科書は、児童生徒一人ひとりが操作する学習者用デジタル教科書に比べ、授業に取り入れやすいことが考えられます。
設問3 学習者用デジタル教科書の使用機能は?
Q3. 学習者用デジタル教科書で「使っている機能」「使ってみたい機能」はなんですか?
学習者用デジタル教科書の「使っている機能」「使ってみたい機能」について、音声読み上げやリスニング、動画や資料の提示、教科書への書き込み、図形の操作などが挙げられました。また、AIを使った個別学習、自動ヒントやフィードバックなど、現在は利用していない機能への要望も見られたほか、学習者用デジタル教科書を使用した経験がない、自治体で導入されていないため、機能がわからないという回答もありました。
音声・読み上げ・リスニング
国語の読み上げ機能【小学校・教員】
音読機能はかなり使っています。【中学校・教員】
スピードを変えたリスニング機能【中学校・教員】
動画・資料提示
図形の弁別や、コンパスを使った円のかき方など、図形やかさのような量感覚を養う単元で、動画再生している。【小学校・教員】
理科の実験や、自然現象など、映像で動画が見れる機能。【高等学校・教員】
「使ってみたい機能」:教科書本文の投影ならびに付属する資料リンクにすぐ飛べるところ。【高等学校・教員】
参考作品例の写真や、キネティックな作品の動画などを見せています。でも参考例は少ないし、動画ばかりだと見せるのに時間がかかるので、スライドショー方式にしてほしいです。【小学校・教員】
書き込み・操作・個別学習
単語アプリ(単語の問題がでる)【中学校・教員】
教科書に直接書き込む(文字やメモ)図形の移動・回転・拡大縮小(算数)
解答に対して自動ヒント・フィードバックをもらえる機能【小学校・教員】
AIと連動した個別最適な内容【中学校・教員】
使ってみたい機能:あるのかは分かりませんが、書いた作品を写真でとるとコメントがつく機能【小学校・教員】
音声読み上げ
デジタルドリル
動画視聴
新出漢字のなぞり書き
デジタル資料(補足)【中学校・教員】
使用経験や利用環境に関する回答
使ったことがないのでどのような便利な機能があるか分かりません。また、紙の教科書と異なる点が浮かばないです。費用の関係があるのならば、デジタルでもいいのかなという程度です。【中学校・教員】
使ってないのでわからないです【高等学校・教員】
勤務する市は学習者用のデジタル教科書は使えない。使えるようにしてもらいたいと思う。【小学校・教員】
設問4 学習者用デジタル教科書を使わない理由は?
Q4. 学習者用デジタル教科書を使っていない、または使いにくいと感じる理由を教えてください

選択肢の中では、「できるだけ紙や手書きを経験させたいから」「使いたい機能がない/必要性を感じないから」の「学習者用デジタル教科書の必要性」に関する理由を挙げる回答が多く見られました。次に、「教員の機器等の整備が不足しているから」「児童生徒の機器等の整備が不足しているから」の、機器整備不足の理由を挙げる声が続いています。
逆に、教員・児童生徒の準備の手間、使い方の難しさや、トラブルの回避を理由とした回答は比較的少数でした。「その他」として挙げられた意見も、「自治体で導入されていない」「使える環境にない」「端末の動作が遅い」など、学習者用デジタル教科書の機能や使いにくさというより制度や端末上の問題を挙げる声が多く見られました。
設問5 学習者用デジタル教科書、どう思う?
Q5. 学習者用デジタル教科書やその取り扱いに対して、あなたの考えを教えてください。
活用している・活用を促進したい
理科では毎時間利用している。実験の仕方を伝えるのには有効であるし、動画も活用できる。【小学校・教員】
活用したい。
使い方を丁寧に指導しなければいけないと思う。【中学校・教員】
使えるならどんどん使った方が良い。【中学校・教員】
家庭でも見られること。授業準備が進めやすい。【小学校・教員】
紙の教科書・手書きを重視したい
長文や複雑な文章の読解において紙の方が優位であるというのは周知の事実です。デジタルにするメリットは、「軽くなる」だけだと思っています。
拡大や読み上げが必要な生徒には大事なツールかもしれませんが、全生徒対象にすることはデメリットが大きすぎます。【中学校・教員】
小学生のうちはできるだけ紙ベースの教科書を使わせたい。ページをめくる、それだけでも数の量感にもつながるし、端末を起動させて、Wi-Fiにつないだら必要な箇所を接続して…という手間と児童用の机の上のスペースを考えると、紙ベースの教科書メインの方が小学生の子どもの実態に合っている。また、電子黒板に大きく投影できるのでタブレット端末の小さな画面にそれぞれの子どもが見るよりも視力への影響が小さいと思う。【小学校・教員】
教科や学習場面によって使い分けたい
画像や動画を生徒が自分で見たり、教室で投影してみんなで見たりすることで、役立つ場面はあります。
ただし、授業前に動画を予習するのは、文章や画像を予習するよりも時間がかかり、負担が大きくなりがちです。
今後の教科書の在り方として、紙とデジタルの教科書に同じ内容を持たせるのではなく、紙の教科書はボリュームを抑えて基礎・基本を構成し、全体像をつかるものとし、関連資料や発展内容をデジタルで補う形がよいと考えます。【高等学校・教員】
学習者用デジタル教科書については、便利な機能が多く、特に算数の図形操作などは理解を深めるのに有効だと感じます。
しかし、国語の物語文や説明文の学習では、紙の教科書の方が記憶の定着や見返しのしやすさという面で優れていると感じます。デジタルだとページをめくったり戻ったりする手間がかかる場合があり、特に文章の構造を理解する際には紙媒体の方が直感的に整理しやすいと思います。
そのため、教科や学習目的によって、紙とデジタルを使い分けることが効果的ではないかと考えます。【小学校・教員】
補助的に使うことには賛成。
でも、デジタル教科書をメインに使って学力の向上につながるとは考えられないので、全面的な導入には反対。【高等学校・教員】
資料の読み取りに関しては非常に効果はあると思うが、それ以外は紙の教科書をメインにしている。【中学校・教員】
学習者用の必要性が疑問
数学という教科では、指導者も学習者もデジタル教科書を使いやすいと思っていないため、不要だと思う。【中学校・教員】
紙で済むなら紙がいい。デジタルでは脳も目も疲れるし、電気もくうので不便。【中等教育学校・教員】
教科書以外でもデジタルというだけで、学習効果の期待値は低いです。【小学校・教員】
世界ではデジタルから紙に戻っているのに、どうなるんだろうと心配している【高等学校・教員】
必要ないと思います。【中学校・教員】
学習者用は不要だが指導者用は有用
「多彩な学習支援機能」を使いこなせるほど優秀な生徒はほんの一部で、大半の生徒は認知負荷が増えるだけです。効果的だと考えているのは優秀な大人だけで、一般的な生徒や学習が苦手な生徒にとっては「複雑・面倒くさい」と思うだけです。
一方、指導者用デジタル教科書は、とても教育効果が高いと思います。【中学校・教員】
社会科などで資料から気づいたことを書き込ませることに利点がある一方、微妙な配置に意識が向いていじる子もいて期待する活動の質が下がることはある。
理科では、教科書裏表1ページで実験ー結果考察の組合せとなっていて、実験(実技)中心使う必要がない。
私は外国語専科で話す実技と活動量を重視するため、リスニングはさっとやってシャドーイングに繋げる程度で、教師用を使って一斉指導でやってしまう。
学習者用がなくてもいいけれど、指導者用がないと不便に思う。【小学校・教員】
機器・通信・費用・運用面に課題がある
学習者用・教員用ともに端末のメンテナンス・無線環境の安定化を図るべくインフラと専門職員の常駐化を整備し、校舎の既存のネットワークシステム及び自治体の情報通信基盤を大幅に改良頂きたいです。【中学校・教員】
生徒用のデジタル教科書は、高いし買ったら生徒のタブレットに入れる作業が大変だ、ということで全く導入の予定がない。
毎日来るわけでもなく、超多忙そうなICT支援員や係職員の負担を考えて導入しないというのはどうかと思うがそれが現実だ。【高等学校・教員】
学習者用のデジタル教科書はタッチペン機能が機能するタブレットが全生徒に配布されれば、私は是非使ってみたいと考えています。
教科書に私がメモしていることを黒板に投影し、ロイロノートなどのアプリケーションで生徒も同時並行で見る機能がちゃんと使えれば、こちらがスライドやプリント作成などの手間も大幅に省けると思っています。
ただし、勤務校では、タッチペンの用意は生徒の自腹となるのが非常にネックです。それ以外の方法も探せばあると思うのですが…。【高等学校・教員】
ログインのためにアドレスやパスワードの入力がめんどうだったり、アドレスの入力がうまくできず時間がかかり場合が少なくない。【小学校/中学校・教員】
機能・操作性が物足りない
指導案通りの学習活動のためにしか使えない機能が8割を占めるものがある。それがうまく生徒たちにフィットするなら苦労はしない。むしろ教員によるカスタマイズの幅がなければ。【中学校・教員】
紙の教科書以上の機能があれば使いたいが、そんなに充実しているとは思えないので、あまり必要性を感じない。教科書に載っていない資料や動画が充実すれば使うかもしれない。【中学校・教員】
生徒が今どんな画面を見て何をしているのか?教師の課題に応じた学習に取り組めているのかを1台端末だと把握できるようになるとありがたいです。【中学校・教員】
図工は紙の教科書だと汚れたり、机の上で場所をとって制作しづらいことがあるので、デジタルで見せられるのはよいと思う。ただ今のスタイルは使いづらいところが多いので、もっと現場の声を拾ってほしい。【小学校・教員】
まとめ
今回のアンケートでは、学習者用デジタル教科書について、小学校では約6割、中学校では半数が「使っていない」と回答しました。一方、指導者用デジタル教科書を何らかの教科で使用している割合は、小学校で約8割、中学校で9割近くに上っており、学習者用と指導者用のデジタル教科書で学校現場への広がり方に差が見られました。
この違いは、両者が想定する使い方とも関係していると考えられます。指導者用デジタル教科書は、教員による説明や一斉提示を中心とした授業にも取り入れやすい一方、学習者用デジタル教科書は、1人1台端末を生かし、児童生徒が自分のペースで学ぶことや、個別最適な学びにつなげる授業設計が求められます。その意味で今回の結果は、学校教育現場でのデジタル活用が「一斉指導補助」中心で、「児童生徒一人ひとりの学びの支援」がまだ広がっていないことを示しているとも捉えられます。
学習者用デジタル教科書を使っていない、または使いにくい理由では、「紙や手書きを経験させたい」が約2割を占めたほか、必要とする機能がないことや、児童生徒・教員の機器整備も比較的多く挙げられました。一方、自由記述では、紙の教科書を重視する意見だけでなく、図形操作、音声、動画、資料提示など、教科や学習場面によってデジタルを活用したいという声も見られました。現場がデジタル教科書を一律に否定しているのではなく、紙とデジタルの適切な使い分けを模索していることがうかがえます。
2026年6月に成立した改正法も、教科書を一律にデジタルへ置き換えるものではありません。「紙とデジタルを組み合わせたもの」などを新たな教科書として制度上位置づけ、教科書をよりわかりやすく、学びやすくすることが目的とされています。7月16日の文部科学省の検討会議で報告された全国の教科書採択権者への意向調査でも、「ハイブリッドな形態の教科書」を望む割合は、小学校で88.3%、中学校で86.3%、高等学校で78.4%と、いずれの校種でも最多となりました。小学校低・中学年では紙の割合が多い形態を望む傾向がある一方、小学校高学年や中学校の英語・実技系教科などでは、デジタルを半分程度以上取り入れることを望む回答も比較的多く見られます。今回のアンケートに寄せられた、教科や場面に応じて使い分けたいという声とも重なる結果です。
同時に、学年や教科による一定の基準と、一人ひとりの学びやすさをどう両立するかも重要な論点です。松本文科相は、紙の教科書では学習が困難な児童生徒について、検定教科書の内容をデジタル化したものを「教科用特定図書等」として使えるようにする考えを示しています。元麹町中学校校長である工藤勇一氏も、年齢や学年で一律に区切ることへの疑問を示し、紙の文字を読むことが大きな負担となる子どもなど、多様な学び方を保障する視点の必要性を指摘しています。発達段階への配慮と、個々の状況に応じた選択肢の保障を、対立させずに考える必要があるでしょう。(参考:工藤勇一氏X投稿)
また、一部で報道されている海外の「紙の教科書への回帰」をめぐる議論についても、「デジタルをやめて紙に戻した」と単純化することには注意が必要です。制度や教材の質、利用時間、教科、学習場面など、複数の条件を分けて検討することが求められます。(参考:「「スウェーデンは紙に回帰」は本当か」日経BP、工藤勇一氏X投稿)
紙かデジタルかという二者択一ではなく、誰が、どの教科で、どの場面に、どのような目的で使うのか。その選択を実質的なものにするためには、端末や通信環境を整えることはもちろん、教材の操作性、費用、校内ICT支援体制を充実させること、そして何より、「児童生徒一人ひとりの学びやすさを高めること」という目的を忘れずに、発達段階や教科特性に応じた最適な指導方法を常に模索していくことが重要です。
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