
学校現場からの大学院、どうだった?4人の体験者と語る「教員が学び直す意味」
学校で働いていく中で、大学院や大学で学ぶ機会は制度として存在します。しかし、自治体によって期間や給料の有無などの待遇は異なっています。教員が現場を離れて学びに行くことの意味や実態をつかむため、NPO法人School Voice Projectは「教員の学ぶ機会と生活の保障を求むアクションプロジェクト」を2025年夏に始動しました。今回の座談会では実際に大学や大学院に行かれた4人の方にお話を伺います。体験談や復帰後の現場において学びがどのように生かされたかなどの具体的な話をお聞きしながら、教員の学びや人生設計について考えていきます。
今回お話ししてくださった4人
山本智子:大阪府公立小学校勤務/大学院修学休業制度(2021-22)
上條正太郎:新潟県公立小学校勤務/現職派遣制度(2019-20)
山内結:大阪市立公立中学校勤務/長期自主研修制度(2021-22)
金子貴志:茨城県公立小学校勤務/内地留学制度(2020年度後期。当時は中学校勤務)
司会 武田緑 NPO法人School Voice Project理事/学校DE&Iコンサルタント
発起人 榎原佳江 大阪府立高校勤務/長期自主研修制度で1年間休職中
より広く関心が向くようになった
武田:ご自身の学びのテーマや就学期間なども含めて、自己紹介をお願いします。
山本:私は大阪の小学校に勤務しています。33歳から大学に入って通信で免許を取り、35歳で教員になりました。6年前、ある友人と話をしていたときにその方が「大学院で勉強しようかな」と言い始めました。その言葉にひらめきを得て、自分も大学院に行こうと思いました。私が勤務してきた学校の中では「現状がしんどい」と声を上げている人が必ず一人はいました。でも、やっているのは教科の校内研究ばかり。いま隣で苦しんでいる人がいるのに、なぜそこなの?という疑問がずっとありました。上越教育大学で赤坂真二教授から学ぶということは、ひらめいた時点で決めていました。約一週間後に名古屋で開催された説明会に行って、受験することにしました。家族の協力があってのことでしたが、本当に貴重な2年間でかけがえのない時間でした。いまは戻ってきて3年目で、教員生活は24年目です。
上條:新潟県で小学校の教員をしています。今から6年前に山本さんと同じ赤坂先生のゼミに行ってきました。その時、教職12年目か13年目でした。当初は自分の学級経営の力量を高めたいという思いがありました。僕は新卒採用で教師になって、全然うまくいかなかった経験をしています。学級が崩れていく、つらい思いをする子が増える、いじめがあったりするということで、学級づくりに大きな課題感を持っていました。当初の目的と大学院を出た後に得たものは少し違っていて、自分のというよりも教師とか全般の学びとは何だろうとか、教育にはどういうことが大事なのだろうかということに広く関心が向くようになりました。僕は教職大学院の2年間、新潟県の現職派遣制度を利用して給与を受けながら行ってきました。そのためこの2年間は、現場から離れて大学での学びに専念することができました。
山内:大阪市で中学校の教員をしています。私は2021年度と2022年度の2年間、教員11年目で大阪大学の博士前期課程いわゆる修士の大学院に入学して研究をしました。自分が教員になった当初から大阪では教育改革がうたわれていて、橋本元知事などが進めてきたその方針に対して「これって学校のためになっているのかな?」という疑問がありました。そのことをしっかり考えたいと思い、大学院に行くことにしました。じっくり本を読んだりとか、今自分が置かれている状況について考えたりする時間が全然なかったこともあって、これは一回現場を離れないといけないなという思いもありました。
私は教育社会学を学びました。大学院では大阪市の教員数名にインタビューをして、その教育改革が教員にどういう影響を与えたのかということを研究して、修士論文にしました。
金子:茨城県の小学校に勤めています。教員として8年目の半年間、筑波大学に行きました。国語のスピーチなどについて研究しました。テーマについてはいろいろと考えましたが、これまでやってきた内容を深める趣旨の募集だったので、授業の中で一生懸命取り組んできたことを選びました。
打ちのめされてこれまでを反省
武田:現場を離れて学びに行って、実際はどうでしたか?自分にとってどういう時間だったのかとか、何がどうよかったかを聞きたいです。
金子:現場を離れたことそのものがよかったです。例えば本を読むにしても、明日の授業や仕事を抱えながら読むのとでは、全然考え方が違ってくると気づきました。そもそも読む本が変わりました。それまではhow toものの本を読んで、次は何しようかなと考えていたものが、学術書を読んで根本から考えるというように変わりました。
山内:一番大きかったのは出会いですね。現場にいては出会えないたくさんの人と出会うことができた。教授であるとか、あとは大学から上がってくる大学院生もいて、10歳ぐらい年下の人と一緒に学びました。教師をやっていて学校の中だけしか知らなかったけど、世の中には研究者という立場で学校に伴走してくれている人たちがこんなにいたんだなと知ることができました。逆に言うと、学校の中にいる時はそういうことは感じにくくて、教員だけが頑張っていると思っていました。
山本:私は大学院入学の4月から7月までの授業で打ちのめされたんです。これまで接してきた子どもたちにごめんなさいと反省するばかりでした。その学びを土台にしながら研究校に入り、伴走させてもらいました。自分たちのスキルを発揮しながら研究してデータを出して、一定の成果を上げたことを一緒に喜び合える経験を2年続けて同じ学校でさせてもらえたのは宝ものでした。私はゼミ生の中で一番年長でしたが、子どもと同じような歳のストレートマスターたちと対等に過ごしました。私は素直に「わからない」と言えたし、職務経験のないマスターの「現職さんはこれをどう受け止めるんですか?」という疑問についてお互いに本音で話し合うこともありました。
金子:私が学んだのはコロナの時期で、しかも半年だったので、授業もほぼオンラインでした。学生さんたちとの交流に関しては、それまで同じところに研修に行っていた人のようにはできませんでした。大学の先生2人とはよくお話させてもらいましたが、ほぼ自習した感じでした。ただ、その時に勉強したことで国語教育分野での思考力はすごく鍛えられました。あとは、筑波大の先生たちに去年、勤務する中学校に来てもらって校内研修をやったんです。それができたのは、その時の国語の先生からのつながりでいろんな教科の先生たちに来てもらえたから。今もつながりが生きていると思います。自分は大学も大学院も国文学だったので、国語教育をちゃんと勉強できていなかったんですよね。今回、国語教育の先生について勉強できたので、一から学び直しました。きっと、働きながらでは一までは戻れない。今ある自分の上にプラスしていくことはできるかもしれないけれど、全然違うスタートラインから勉強し直すことは難しかったんじゃないかなと思います。
新しい土台ができ、大きく転換
武田:次は、現場に戻って外にいた時期に学んだことがどのように活かされているかをお伺いしたいです。
山内:もともと教育社会学を学んでいましたが、大学院で研究して帰ってきてより社会学的に物事を見ることができるようになりました。例えば、すごくしんどい生徒がいるとして「その子に問題がある」と捉えるのではなくて、その子がそうせざるを得ない社会的な背景とは?と考える。子ども一人一人とか、また保護者を見る時にも個人の問題ではなくて、社会の問題から見たらどうなんだろう?などという見方をすぐにできるようになったのは、自分としては大きいです。
山本:大学院で学んだことをアウトプットしていかないと絶対に忘れると思ったので、自分からお願いして講座を開き、それを2年間続けました。例えば相手に話が通じなくて「あれ、自分がおかしいんかな?」と思うときがあるんです。そんなとき、赤坂先生は「チューニングしにおいで」って言ってくれます。大丈夫って思わせてもらえる人を得ることができたことも大きな財産です。思いが伝わりづらいと感じるのは、身近な先生が多いです。学級経営っていう課程は上越教育大が2025年度に必修で大学に入れたのが全国で初めてのことなので、学んでいない方が圧倒的に多いわけです。しかし、4月になったら「はい、学級経営してください」と、初任者もベテランも同じように言われ、できるものとして担っている。学級経営には譲らないものと寛容に見ればいいものとのバランスが大事だということは、学んだことで分かったことでした。でも、それを知らないがゆえに、子どもたちをコントロールできた成功体験が正しさとして受け継がれている学校現場はやっぱりある。とても厳しくて、先生が通ったら児童がみんなぎゅっと、シュッとなるとか。正直「そうじゃない」ということが、一切わかってもらえない場合もあります。
金子:国語の授業について学んだので、授業づくりで単元を実践するときの新しい土台ができたくらいの大きな転換になりました。現場にいると学習指導要領がすごく大切だと言われるけれど、大学などで教科の研究をしている人はもっと深く、もっと先を見て研究している。だから、10年ごとに改定される指導要領に振り回されるんじゃなくて、もっと大事なことを見ていくという視点もできました。あとは古い本が読めるようになった。教育書でも、即効性があるような新しいものじゃなくて、もっと古いものとかちょっと難しいものも読めるようになりました。だから、参考となる文献の幅がすごく広がりました。
上條:現場にいるだけでは、土台づくりは難しいですか?
金子:自分が国語教育を学んできていたら、もしかしたら違ったかもしれません。でも、自分は文学の勉強をしてきて教員になったので、国語教育の土台がなかった。そこで一生懸命やったとしても、今の学習指導要領の範囲内で言われていることの勉強しかできないと思う。研究と現場がかけ離れていることに気づくことができたのも、大学での学びがあったおかげだと思います。
上條:「いまに活かされている学びはこれ」というふうに一つに言い切ることは難しいです。新潟県の現職派遣制度は現場に戻ったら、向こう10年ぐらいは新潟県の教育に貢献することが望まれていて、現場への還元が強調されるところがあります。使命を担っていることを感じますが、自分はなかなか期待されていることを目に見える形で還元はできていないと思っています。大学院を出て自分が変わったところは、自分を相対化して捉えるようになったこと。実践の延長線上にはないものを学び得たことが一番大きかったです。あとは文章や論理に強くなり、文章を読んだり研究の言葉をまとめたりするのが速くなりました。
離職率を下げるという意味でも
武田:今までの話を聞きながら思ったのは、自分を相対的に見ることができるようになるとか、how toではない本を読んで「なんでこうなっているんだろう」と考えることができること。つまり、クリティカルな視点が得られるのだろうなと思いました。
次は、大学院での学びが児童生徒にどう活きたのか?という観点と、自分がどんな制度で現場を離れてどんな課題があったのか、疑問とか、制度のあり方について感じることもお聞きしたいです。
金子:学んできたことは目の前の授業にはもちろん活かせたけれども、例えば他の先生たちにそれを言ったとしても、簡単には伝わらないと思うんです。私が半年いない間、別の教員が一人入って私も給料をもらっていました。お金をかけてもらって行かせていただいたけど、それだけのバックをしているかと言ったらなかなか難しい。これからまだまだ働いて、還元していかなきゃと思っています。でも、そんなに目に見えて即効性のあるものかと言うと難しいなというのが私の考えです。
山内:やっぱり子どもたちを元気にするには教員に元気でいてもらわないといけない。制度に対して思うのは、目に見えて何かが還元されるものにしかお金をかけられていないこと。例えば「これだけテストで点数が上がります」とか、そういう短期的な成果にしかお金をかけられていない。でも、教育って長期的に考える必要がありますよね。数値にはできなくても、教員が学ぶことによって還元されるものが確かにあるというところを分かってほしい。長期研修制度では自分でお金を出して大学院に行き、その期間は無給でした。でももしこの制度がなかったら教員を辞めていたかもしれない。教員の離職率を下げるという意味でも、こういう制度が一つあれば優秀な教員が確保できると思っています。
山本:今、教育改革をしていこうとしている都道府県では、手挙げ方式の研修が増えてきているじゃないですか。「大学に行きたい人ー?」という募集に「行きたいです」と手を挙げて、それが選抜になるのはいいと私は思います。その制度すらないというのはよくない。この教育改革の波に乗っかって、長期期間勉強したい人の思いをかなえられる国であってほしい。
学ぶ楽しさや学び続けることの素晴らしさを子どもに伝えたいなら、先生も学び続けないといけないし、先生も学びを楽しまないといけないと思います。自分たちの体験があって、子どもたちにそれを面白いと言える教員がたくさんいたらいいと思います。
武田:体現している背中を見ることには教育効果がありますよね。私がこの間行った研修で、上から行けと言われてハイテック・ハイに行かされた人に会いました。「すごく良かったから、ガラっと自分が変わりました」と話されていて、行かされたとしても良い結果を生んだケースもあると思いました。
金子:そうですね。全員手挙げ方式となった場合には、手を挙げていない人は学ばないということになりかねない。難しいですよね。
上條:新潟県は現職派遣制度で、単年度ごとに議会を通して予算を獲得しています。なので、お金が取れるような短期的な成果を求めることをゼロにはできないんだろうなと思う。でも成果というものには確かに言い表しにくい部分がある。ただ、その後も新潟県に残っている人は多い。だから、制度があることで教員が残るとか、10年ぐらい働いた人がいったん現場を離れて学ぶことで、しなやかになったり強くなったりすることとして意味があると思っています。この制度では結構な人数がちゃんと給与をもらって行くことができます。生活が保証された形なのでかなりリスクが低く、ハードルが下がる。とはいっても、現場を離れることで実践力が下がってしまうのではという不安は若手ほど大きいと僕は思うんです。でも周りに行った人がたくさんいると経験者の話が聞けるので、派遣への不安は減るのではないかな。
どの人にも同じようにチャンスを
武田:ありがとうございます。先生たちが勤続の途中でちょっと抜けて学ぶこともあらかじめ織り込んだ採用数になっていれば、安定的ですよね。もちろんその分お金がかかりますが、それでも離職率が下がるなら大きな意味がある。私はこのプロジェクトはとても大事だと思うので、じわじわ広げていきたいと改めて思いました。榎原さん、最後に一言どうぞ。
榎原:8月にこのグループを立ち上げてアンケートをしたり、文科省でも発言していただいたり、大阪府議会でも本会議で質問をしたりと地道に活動しています。そもそも私は教員の学びの制度づくりは文科省でやってほしいと思っています。でも文科省がやらないから各自治体に制度ができていて、その制度によって、期間や給料の有無などの待遇に大きな差があります。自治体の差などなくどの人にも同じようにチャンスが開かれてほしいです。全国の先生が集っているSVPでプロジェクトを組んで、改善できる方法を考えていきたいと思っています。今日はありがとうございました。
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