【解説記事】学習指導要領って何? 現行版のポイントは? 〜平成29・30年改訂学習指導要領の概要と原文リンクをまとめました〜
学習指導要領って何? 今の学習指導要領のポイントは?
はじめに
学習指導要領が改訂され、すでにその内容に沿った授業づくりが進められています。しかし、そもそもの学習指導要領の位置づけや学習指導要領“解説”との違いについてよく分からなかったり、実践するうえで細かな疑問がある方もいるのではないでしょうか。
この記事では、学習指導要領の概要、法的根拠・法的拘束力、現行の学習指導要領のポイントを解説したうえで、現行と改定前(平成20・21年改訂)の学習指導要領にアクセスがしやすいよう、リンクをまとめました。
学習指導要領とは? “解説”とはどう違うの?
学習指導要領の概要
「学習指導要領」は、文科省が小中高校で教える内容や教科の目標を定めた教育課程(カリキュラム)の基準です。全国の小中高校で一定の水準の教育を受けられるようにするため、グローバル化や急速な情報化、技術革新など、社会の変化を見据えて、子どもたちがこれから生きていくために必要な資質や能力について文科省から通知(告示)されています。現在のような告示の形で定められ始めたのは1953年(昭和33年)。それからほぼ10年ごとに改訂されています。
学習指導要領は、直近では2017年(平成29年)に小・中学校分が、2018年(平成30年)に高校分が改訂されました。そこから数年の移行期間を経て、小学校では2020年(令和2年)度、中学校では2021年(令和3年)度から完全実施されています。改訂内容が一斉に実施される小・中学校とは異なり、高等学校では2022(令和4年)年度の第一学年から学年進行で実施され、2024年(令和6年)度に完全に置き換わることになります。なお、特別支援学校では幼・小・中・高等学校の実施スケジュールに準拠して実施されています。
引用「学習指導要領とは何か?」(文科省,2011年2月公開,2022年8月参照)より
引用「学習指導要領改訂に関するスケジュール」(文科省,2016年8月29日公開,2022年8月参照)より
学習指導要領の“強制力”
それでは、学校はこの学習指導要領にどこまで従う必要があるのでしょうか?
それについて文科省は「学校教育法及び同施行規則に根拠を有し、単なる指導助言文書ではなく法的基準性のあるものである」としたうえで「大綱的な基準であり、各学校が創意工夫を生かし特色ある教育活動を展開することが期待されている」としています。重要なのは、ここで「創意工夫を生かし」とあるように、学習指導要領はあくまで基本となる(大綱的な)基準、ということです。実際、文科省も学習指導要領は「最低基準」であり、発展的内容についても「児童・生徒の興味・関心等に応じ、理解の状況を踏まえて」指導することが可能としています。
ちなみに、法律としての学習指導要領の強制力(法的拘束力)については、いくつかの見解に分かれています。前述の通り文科省の立場は「大綱的基準説」ですが、そのほか学習指導要領のすべての条項が法的規範ではないとする立場の「指導・助言説」や「そもそも法的拘束力という考え方は教育の具体的な営みに馴染まない」と考える否定派の意見もあります。
引用 「学習指導要領等の構成、総則の構成等に関する資料」(文科省,2016年2月24日公開,2022年8月参照)より
引用「学習指導要領の法的拘束力に関する諸説とその共通点」(筑波大学教育制度研究室 松原 悠,2012年2月公開,2022年8月参照)
学習指導要領の“解説”について
学習指導要領には、教える内容や教科の目標を定めている教育課程(カリキュラム)の基準が定められているものの、内容は抽象的な記述になっています。そこで文科省は「指導助言」の一環として、教科ごとに「解説」を作成しています。ただし、学習指導要領解説はあくまで「指導助言」であるため、法律的な強制力(法的拘束力)はありません。ちなみに、各教科で用いられる教科書は、学習指導要領と学習指導要領解説の内容をもとに編纂・審査されています。
さて、ここで「文科省が“解説”をつくってくれているし、教科書も学習指導要領を参考に作ってあるのだから、学習指導要領ではなく“解説”や教科書を読めばいいのでは?」と考えた方もいるかもしれません。もちろんそれでも問題はないのですが、その発想にはデメリットもあります。それは「教員が自分で目の前の子どもたちに合わせた指導計画を立てにくくなる」ということです。
一例を挙げてみましょう。例えば中学2年生の数学で習う「連立方程式」の単元。教科書には単元の最後に「連立方程式の利用」という項目で、いわゆる文章題が4〜5ページにわたって掲載されています。しかし、学習指導要領の中でそれに該当するのは「連立二元一次方程式を具体的な場面で活用すること」という記述だけです。つまり、学習指導要領で求められているのはあくまで「具体的な場面で活用する」ことであり「文章題を解く」ことではないのだと分かります。このことを知っていれば、「数学が苦手な生徒に向けて1ページ分の内容を確実に教える」「教科書とは別の例を連立方程式にして授業で解く」といった指導計画を立てることができます。
参考「中学校学習指導要領」(文科省,平成29年告示,2022年8月参照)
また逆に、学習指導要領には各学年で学ぶべき漢字や、扱う英会話の場面、歴史的な事柄のつながりなど、細かく内容が指定されている箇所もあります。それらを授業で扱い忘れてしまわないためにも、学習指導要領を丁寧に読んでおくことには意味があるでしょう。
上記から分かるように、学習指導要領に記載されている目標・内容・計画上の取扱いを読みながら各教科の指導計画を作成することで、より目の前の子どもに合わせた計画を立てることができます。
また、学習指導要領の「総則」には、「教育課程の編成」や「特別な配慮を必要とする生徒への指導」など、学校・学級経営全体に関わる内容も記載されています。それぞれの学校で教育活動を進めていくうえでの共通認識として活用することも有用です。
現行学習指導要領のポイント
現行学習指導要領は、小学校では2020年(令和2年)度、中学校では2021年(令和3年)度から完全実施され、高等学校では2022年(令和4年)度の第一学年から学年進行で実施されます。
現行学習指導要領のポイントは、大きく3つあります。
- 社会に開かれた教育課程
- 主体的・対話的で深い学び
- カリキュラム・マネジメント
上記3つのポイントについて解説していきます。
社会に開かれた教育課程
「社会に開かれた教育課程」は、現行の学習指導要領の基盤となる考え方とされています。
「学校教育を通じてよりよい社会をつくる」という目標を学校と社会が共有し、そのために必要な資質・能力を、学校が地域と連携しながら育成していく、ということがポイントです。そのような教育活動を通じて、子どもたちが「自分の力で人生や社会をよりよくできる」という実感をもつことが期待されています。
「社会に開かれた教育課程」を支える制度として、コミュニティ・スクールや地域学校協働活動などが設定されています。
主体的・対話的で深い学び
子どもたちの「生きる力」を育むために、「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」について、いわゆる「アクティブ・ラーニング」の視点を取り入れたのがこの項目です。
しかし、「アクティブ」と言っても、ただ授業で話し合ったり発表したりする授業を行うのではなく、子どもたちの頭の中が「アクティブ」に働いている状態を目指すのが重要です。具体的には「活動の振り返りを通して成果の自覚や次回の主体的な取り組みを促す」「考察の根拠となる資料をもとに様々な立場から話し合う」などの取り組み例が例示されています。
カリキュラム・マネジメント
学習指導要領の「社会に開かれた教育課程」の理念の実現に向けた、それぞれの学校の改善活動が「カリキュラム・マネジメント」です。
具体的には、各学校の現状(学校や地域の実態)が目標(学校教育目標)に近づくように、学校の中の様々な教育活動の質を向上させていく取り組みを指します。特に、「教師・教科で連携して授業をつくる」「PDCAを通じて検証・改善をする」「地域と連携する」の3つの側面からの取り組みが求められています。
引用「平成29・30・31年改訂学習指導要領の趣旨・内容を分かりやすく紹介」(文科省,2017年3月公開,2022年8月参照)より
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メガホン編集部