【学校の居心地プロジェクト】Yogiboを障害のある生徒の自立活動に活用。所沢おおぞら特別支援学校の実践
昨年、NPO法人School Voice Projectでスタートした「#学校の居心地プロジェクト」。
きっかけとなったのは、WEBアンケートサイト「フキダシ」に集まった、学校の居心地についての教職員の皆さんからの声でした。
「とても居心地がよいと思う」「まあ居心地がよいと思う」という肯定的な選択肢を選んだ人は約半数。職員室など、教職員が仕事をするための空間については、肯定的な回答は約3割。少なくない子どもたちや先生たちが、心地よいとは言えない環境で学んだり働いたりしている実態が見えてきました。(アンケート結果詳細はこちら )
「#学校の居心地プロジェクト」での取り組みの一つとなる「学校にYogiboを置いたら」実証実験では、全国から公募した5つの学校のさまざまな場所にYogibo(ヨギボー)を設置し、子どもたちや先生たちの心や学び、関係性にどのような影響を与えるのかを探っていきました。
今回は、「学校にYogiboを置いたら」の実証実験への応募を決めた埼玉県立所沢おおぞら特別支援学校の小山優樹さんと、肢体不自由教育部門を担当する中島達彦さんと川上優希さん、知的障害教育部門を担当する西本さんにお話を伺いました。
まずは、教職員の休憩室にYogiboを設置
「Yogiboを使うことで子どもたちの緊張緩和ができれば、それぞれが表現方法を増やすことにつながるのではないかなと思い応募しました。また、教職員の休憩室にYogiboを置くことで、子どもたちだけではなく教職員のリラックス効果も期待していました」
学校の居心地プロジェクトに参加した動機をそう振り返るのは、知的障害教育部門高等部の3年生を担当する小山さん。
同校は知的障害教育部門と肢体不自由部門が併置されている特別支援学校で、小学部、中学部、高等部で構成されています。特に肢体不自由部門では重度重複障害の児童生徒が在籍しています。
Yogiboを最初に設置したのは、教職員が利用する休憩室。寝転んで仮眠を取ったり、座って軽食を取ったりする先生の姿があったそう。「実は自宅にもYogiboがあって…」と親しみを持つ先生も。一方で、人目につくところでリラックスすることへの抵抗感があることから、休憩室ではYogiboに座ることを躊躇する先生もいました。
「夏休み中は、休憩室に置いてあるYogiboがいつの間にかなくなっていることがありました。どこに行ったんだろう?と思って校内を探してみると、別の教室でYogiboに座ってリラックスしている先生の姿を見かけることもありました(笑)皆さん人前だとなかなか使いづらいのかもしれませんが、プライベート空間に持っていて使う方は結構いましたね」
Yogiboに座り、教員の補助なしで座位を保てるように
2学期からは、生徒の学校生活の中でYogiboが使われました。同校には身体の緊張が強かったり、座位を保てない生徒も多く在籍しています。そのような生徒にとっては、Yogiboの大きさや柔らかさがちょうどよく、自立的な活動にもつながりました。
Yogiboを上手く活用できた生徒について、肢体不自由教育部門高等部の生徒を担当する川上さんはこう振り返ります。
「私の教室には、自分の意思とは関係なく常に手足や顔が動いてしまう不随意運動が起こる生徒がいます。自立して歩いたり、椅子や床に座ったりすることは難しいので、日常生活では基本的に車椅子に座っています。ただ、登校してから下校するまでの間、ずっと車椅子に座ってベルトを閉められた状態でいるのはとてもつらいことです。なので、一定時間は教員が生徒の体を支えながら、歩いたり座ったりして活動をしています」
「この生徒の自立活動に、Yogiboが使えるのではないか」そう思い、壁に立てかけるようにして置いて、その上に生徒に座ってもらったそうです。
「Yogiboが生徒の体にフィットするように変形して体を支えてくれるので、教員の補助なしで自立して座ることができたんです。後頭部や体の両側もYogiboに支えられている状態なので、安定感もありました。Yogiboに座ることで、その生徒は手元で作業をしたり足湯をしたりすることもできるようになりました。また、生徒自身もYogiboに座るよさを感じたのか、『Yogiboあるよ。どうする?』と聞くと、指差しをして座りたい意思を伝えてくれていましたね」
生徒が自立的な活動ができるようになったことは、他の生徒にも影響があったと言います。
「Yogiboがあることで、教員の手を借りなくても生徒は自分で座位を保つことができるようになりました。そのため、教員1人の手が空くわけです。その分、教員は他の生徒とより多く関わることができるようにため、どの生徒も平等に支援を受けられることにもつながっていると感じます」
身体の緊張を緩める効果も
同じく肢体不自由教育部門高等部の生徒を担当する中島さんは、Yogiboがあることで生徒の身体の緊張を緩めることにつながったと言います。
「私が担当している生徒の中には、筋緊張が強くて体の力を抜くことが難しい生徒がいます。緊張状態が続くと、疲労感がたまったり集中力の低下にもつながります。普段はマットの上に横になって教員が体を伸ばしてあげることで緊張を取るようなサポートをしており、この活動の中でYogiboを上手く活用できないかと考えました。Yogiboの上に寝転がってもらうと、気持ちがよかったのか生徒には笑顔が見られましたね。楽しみながら身体の緊張を緩めることができたと思います」
一方で、生徒によっては使いづらいのではないかと感じることもあるようです。中島さんはYogiboの価値を実感しつつも、「生徒の身長によっては難しさもある」と言います。
「私が現在担当しているクラスの生徒にとっては、大きめのYogiboがちょうどいいサイズでしたが、体の小さい生徒にとっては大きすぎて体が埋まってしまいます。そうすると、Yogiboを使うことへの怖さを感じる生徒もいるのではないかなと思います。生徒の身長に合わせたサイズのYogiboがあるといいと思います」
川上さんからは、「生徒の用途に合わせたYogiboがあるといい」という提案もありました。
「筋緊張が強い生徒や手術をした後の生徒の場合、足がクロスしてしまったり腕が内側に入ったりしてしまうことがあります。そういうときは、柔らかいクッションを足の間に挟んだり抱いたりします。抱き枕のような形のYogiboがあると、ちょうど良さそうだなと思います」
「寝転びたい」生徒に働きかけるYogiboの価値
知的障害のある生徒の場合、Yogiboはどのように活用したのでしょうか。知的障害教育部門高等部で重度重複障害の生徒を担当する西本さんは、Yogiboをスヌーズレン・ルームに置くことで、生徒がリラックスして過ごす様子が見られたと言います。
スヌーズレンとは、オランダ語の「スヌッフレン(くんくん匂いを嗅ぐ)」と「ドゥーズレン(くつろぐ、うとうとする)」の2つの言葉からつくられた造語。スヌーズレン・ルームは、重度の知的障害のある方が過ごすオランダの施設で生まれ、探索とリラクゼーションの両方の活動を提供する実践として世界に広がっています。
参考:日本スヌーズレン協会
「校内にスヌーズレン専用の部屋があるわけではないのですが、1つの教室を暗くして光るボールや弱めの光を発するライトなどを置いてくつろげる空間をつくっています。そこにYogiboも置いておくと、ある生徒は自然に近づいてきて横になっていましたね。こちらが使い方を説明しなくても、生徒が自らYogiboを使おうとしてくれていました」
さらに、Yogiboの効果についてこう続けます。
「実は、スヌーズレン・ルームをつくったとしても、置いてあるものによってはリラックスできないことも結構あるんです。けれど、Yogiboが置いてあると、生徒が自ら上に乗って寝転んでいました。教員が意図的に寝転ばせたわけではありません。Yogiboの色や形、柔らかさによって、生徒の『寝転がりたい』という気持ちに働きかけているのかもしれません。Yogiboには生徒の主体的な行動を促す効果があるのではないかなと思います」
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最後に
これまで取材してきた小学校や中学校、高等学校では、Yogiboがあることでくつろげたり、友達との交流が生まれたりするきっかけになっていることが見えてきました。一方で、今回取材させてもらった特別支援学校では、生徒の自立活動にもつながることがわかり、Yogiboを活用する幅がぐっと広がったように感じます。児童生徒の身体の大きさやそれぞれの特性に合った活用の仕方は、まだまだあるのではないでしょうか。
教職員の方からは、「小さめのYogiboがあるといい」「Yogiboだけの部屋をつくってみたい」などの声もありました。Yogiboをきっかけに、児童生徒や教職員にとっての居心地の良い空間づくりについての議論がさらに深まっていくことを期待しています。
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メガホン編集部