教職員×議員 学校の現実を本音で語る会in大阪【イベントレポート】
2月19日「現場と政策をつなぐ対話会」
2日目は「現場と施策をつなぐ対話会」として、以下の6つのトピックについて参加者同士で意見交換を行いました。トピックは、①部活動 ②特別支援 ③校則 ④統廃合 ⑤評価 ⑥大阪の教育のこれから(フリーテーマ) の6つです。
第1部では、NPO法人School Voice Projectが大阪府下の学校に勤める教職員を対象に実施した緊急アンケートの結果を紹介しました。第2部では6つのグループに分かれ、学校現場の実情や施策への思いについて、アンケート結果を踏まえて意見を交わしました。
6つの項目について、アンケート結果を報告
アンケート結果については、NPO法人School Voice Project理事の武田緑から設問の紹介があり、その後大阪府下の現職の教職員6名がトピックごとにグラフ(数値状の結果)と現場の声(自由記述の中身)の紹介を行いました。集まった回答数は351件。トピックごとに要点を紹介していきます。
なおこちらのアンケートの詳細については別途こちらの記事にまとめていますのでご覧ください。
①部活動
近隣の学校同士が合同で部活動を行う「部活動大阪モデル」には回答者の約50%が賛成。反対派の意見としては、「現場の状況を考えずに、勝手に合同チームを組まれている」「他校への移動を考えると活動時間が足りない」「安全管理や他校とのトラブルが心配」などの声が寄せられました。
地域移行には約70%が肯定的な意見でした。利点としてあがっていたのは、「専門的な指導を受けられるので生徒にとって良い」「外部コーチとの会話は教員にとっても新鮮」など。一方で、懸念点としては、「パワハラ、モラハラが横行する可能性がある」「経済格差が拡大する可能性がある」「地域によっては担い手が見つからない可能性がある」などの意見が寄せられました。
②特別支援
特別支援学級に在籍する生徒は、週の半分以上支援学級で学ぶとした文科省通知について、「(大阪独自の)現在のかたちを維持すべき」と回答したのは全体の42%。「通常学級在籍でも個別に必要な支援が受けられるように」と回答したのは36%。障害のある子が、通常学級で他の子どもたちと共に学び、共に育つ大阪のインクルーシブ教育を大切にしたいと言う意見が大勢でした。インクルーシブな教育環境を整備するために、「スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを正規雇用にして、全ての学校に配置してほしい」「少人数学級化を進めてほしい」「特別支援学級に在籍する児童生徒の学び方を柔軟にしてほしい」などの意見が寄せられました。また、「大阪はこれまで保護者や子どもの意見を尊重して通える学校を決めてきた。大阪の良さが続くようにしてほしい」という声もありました。
③校則
回答者の9割以上が「校則の見直しを積極的に進めるべき」と回答。子どもの権利や人権の観点から、見直しをしていくことを訴える声が寄せられました。一方で、校則を緩和することだけではなく、慎重に見直す必要があると訴える声も。校則を変えられない現状としては、児童生徒同士のトラブルや地域からのクレームが増加することへの懸念、多忙等により校則について議論のする場の少ないことがあがっていました。
④統廃合
統廃合に関する肯定的な意見として、「それなりの生徒数はいないといけないので、統廃合はやむを得ないのではないか」という内容がありました。否定的な意見としては「生徒の行き場がなくなる」「不人気校の烙印が押される」「人口が偏ってしまう」などの声が寄せられました。また、私立学校への人気が高まっていることで、教育格差を生むことに繋がっているのではないかと懸念する声もありました。
⑤評価
チャレンジテストについては反対する声が多く集まりました。理由としてあがっていたのは、「学力は地域によって違いがあるものであり、一律のテストの点数で評価するのは公平ではない」、「家庭の経済格差も紐づいている」、「チャレンジテストで点数をとるための授業になってしまう」など。一方で「競争はあってしかるべき」「テスト自体はいいが時期が良くない」という意見も一部ありました。
その他、観点別評価については、多様な視点で評価できる点を支持する意見がある一方で、「成績をつけることに今まで以上に時間がかかるようになった」「なぜ観点ごとの評価割合が1:1:1なのか疑問」など、反対意見が多く集まりました。
⑥大阪の教育のこれから
フリーテーマで自由に議員さんに届けたい思いや情報を書けるようになっていたこちらの設問には、働き方や教育予算、制度に対する声が多く集まりました。育児との両立などのために希望した教員が週3日等時短勤務ができるようにする制度や、教員が自己研鑽できるような余裕の確保、性犯罪などから児童生徒を守る制度などを求める声が寄せられました。
多岐にわたるテーマを広げて深掘り
アンケートの結果が共有されたあとは、それぞれが関心のあるテーマのテーブルに移動してもらい、意見交換を行いました。6トピックの中で主に話題にあがった内容をご紹介します。
①部活動
元々部活指導が好きだったいう教員からは、「嫌だと思ったことはない」「頑張って部活指導をしたら、生徒もそれに応えてくれる」など、部活動の意義について率直な意見があがりました。一方で、「拘束時間が長かった」「教員にも生徒にもブラックだという現状があるので、 外部に委託するなどの対応は必要」「顧問と外部人材の方向性をどう揃えていくかが課題」など、何らかの改革を進めていく必要性を訴える声も多くあがりました。
課題となっているのは外部人材の確保や指導の質の担保。「顧問が自分の人脈で外部人材を見つけることが多い」「外部人材の質を保つための研修制度や給与などの制度面は今後整備が必要」などの意見が交わされました。「大学生がアルバイトとして指導を見てくれることもある。斜めの関係として関わってくれるので良い側面はある」など、メリットを感じる側面もあるようです。
②特別支援
特別支援学級や特別支援学校に在籍する児童生徒の人数が増えている現状に対して「特別支援教育に限らず、学校全体で人員が不足している」「特別支援学校は、子どもが増えても教員が増えるとは限らない」など、人員の不足を訴える声が目立ちました。
また、「特別支援教育が必要な児童生徒を分けるのではなく、同じ教室でみんなと一緒に学んでいくことが社会のあり方につながっていくと思う」と、学校教育全体の方向性について言及する意見もありました。
③校則
「校則を変えることが決まったが、校長と一部の教員の意見により、先送りになってしまったことがある」「会議の議題に上がっても、十分に議論する時間が取れない」「意見を言っても通らないので、誰も意見を言わなくなってしまった」など、校則を変えることへのハードルの高さを感じるような意見が多く集まりました。
また、現状の校則に対しては「教員として何のためにあるのかわからない校則があったとしても、守っていない生徒には指導をしないといけない。葛藤がある」という意見のほか、「校則がないと学校が立ち行かないという危機感もある」など、校則を変えることへの懸念点もあがっていました。
④統廃合
統廃合が進むことに関して、「通学時間が伸びる生徒や地域とのつながりが希薄になる生徒が出てくる」「障害のある子が通っている学校が統廃合されたらどうするのか?」などの懸念点が集まりました。統廃合を進める過程においては「一教員ではどうにもできない無力感がある」という意見があり、当事者として議論に参加することが難しい現状があることが伺えました。
また、「学力格差がある中で私学が無償になると、さらに格差が広がる。公立にお金を回してほしい」など、格差の広がりを懸念する声もありました。
⑤評価
チャレンジテストについては、「平均点を出すことで学校が序列化される。誰のためになっているのか分からない」「チャレンジテストの成果を確かめずに続けることへ疑問がある」「チャレンジテストがあることで子どもたちが追い詰められている」などの懸念点が多く寄せられました。
一方で、「生徒が自分の立ち位置を知ることができる」「教師の判断だけで評定をつけ、入試に反映することへの懸念を払拭できる」「指導改善の意識づけになる」などのメリットもあがっていました。
観点別評価については、「なぜ大阪府だけ観点ごとの評価割合が1:1:1なのか?デメリットを多く感じている」「少人数なら丁寧に指導できるが、現状は厳しい」「主体性が評価しにくい」など否定的な意見が多く集まりました。
⑥大阪の教育のこれから
これまでの大阪の取り組みを評価するとともに、現状が変わることへの懸念を感じるという声が多くあがりました。
「大阪は誰1人取り残さず、弱者に優しい教育をしてきた。 人権の研修もおもしろかったのに、研修の予算が削減された。研修による明確な効果を求めれるようになったことで、結果として研修が削減されたのは残念」
「大阪は他の自治体が受け入れないような児童生徒も(地元の学校で)率先して受け入れてきた。 過去に大阪の特別支援の生徒が通常学級で学べるように配慮していることが賞賛されたことがある。インクルーシブ教育は本来ずっとやってきたこと。当たり前のようにやってきたことにスポットライトを当ててほしい」
「大阪では昔からインクルーシブ教育が進んできたのに、評価などのせいで時間がなくなっている側面がある。教育を進めるうえで、おもろい授業をするためには研修が必要。時間的な問題もあるため難しいが、研修のための時間や費用が必要」
「現場と政策をつなぐ対話会」の感想
当日の会場はものすごい熱気で、終始白熱した議論が行われました。教育行政に関わるような「制度の話」「枠組みの話」をすることは、教職員同士でも、実はそんなに多くはありません。このイベントでは地域や校種を超えて、活発に普段現場で感じていることや、学校教育への想いや願いが語り合われ、語りながら、元気や勇気を分かち合う姿もたくさん見られました。そのこと自体に大きな意味があったと感じます。
そして、「立場や意見は違えど、敵ではない」「みんな大阪の教育をよくしたいと思っている」。そのことを前提に現職議員の方や、議員候補者の方と話し合えたことは、とても大切な一歩でした。もちろん、噛み合わなかったり、通じ合えなかったりすることもあって当然なのですが、この2日間に渡る「本音で語る会」を通して、いくつか、「今、共通認識が生まれた!」という瞬間を目にすることがありました。無数の課題と、厳しい現場状況がある中で、小さな成果かもしれませんが、School Voice Projectでは今後も、こういう“成果”をたくさんつくり出し、現場の教職員の皆さんと共有していきたいと願っています。
参加者の感想
- 白熱した議論がすべてのテーブルでなされていて、この会の意義があったなぁと思います。ありがとうございました。(高校・教職員)
- 校種の違う意見が聞けてよかったです。校種が違っても、同じ思いを持っているところもあって面白いなと思いました。改めて自分の勤務校の現場、現実を見つめ直す必要があると思いました。(高校・教職員)
- あまりご存知ない方が多い支援学校の実態を参加者のみなさんに聞いていただき知っていただけたことをありがたく思っています。伝え続けることで支援学校の教育の改善につながるよう願っています。(特別支援学校・教職員)
- 自分とは異なる現場の話をたくさん聞けてよかったです。学校の外の繋がりを感じることができたし、アフターを含めて対面で久しぶりにじっくり話すことができたと思います。また、議員さんに伝えようとする中で、何が重要なことなのか自分の中で考える機会にもなりました。(高校・教職員)
- 特別支援と部活動の場に参加しましたが、現場の実態がよく分かり勉強になりました。引き続き実態をしっかりと掴み、政治が果たすべき役割を果たしていきたいと思います。ありがとうございました。(議員候補者)
- 前回に加えて、さらに広く深い問題があることがわかりました。どこから手を加えていくのが、効果があるのか、もう少し勉強したいと思います。一番感じるのは必要とされる人材と、現在の教育で評価される人材に差があることです。学力だけで全てが判断される仕組みをまずは変えること、そしてそのための予算編成にしなくては、持続可能な教育にならないと感じました。(議員候補者)
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メガホン編集部