【解説記事】知っておきたい! 学校と著作権、判断基準からトラブル事例まで
学校では、授業のために誰かが作った様々なものを利用することがよくあります。児童生徒の興味をひくためのイラストをコピーしたり、時事問題をとりあげるときのニュースをみんなで見たりするとき、「著作権を考えると使用していいのだろうか?」と思った方も多いのではないでしょうか。そして、「教育目的では例外的にOKだったはず」となんとなく覚えているのではないでしょうか。
実は教育目的だとしても、どのような利用も認められているわけではありません。この記事では、学校での正しい著作物の扱い方のポイントをお伝えします。
まず著作権の基本を理解しよう!
そもそも著作権とはどのようなものでしょうか。著作権法を参考に、一般的な著作権について理解しましょう。
著作権とは
著作者の著作物(文章、イラストや絵画、音楽など)に対する権利のことです。販売されているか、アマチュアが作っているかなどに関わらず、全ての創作物には著作権があります。
具体的には?
著作権には具体的には、どのような権利があるのでしょうか。
- 作者の名前を表示する権利(氏名表示権)
著作者の名前を公表するかしないか、名前を実名やペンネームにするのかを決める権利のことです。 - 勝手に改変されない権利(同一性保持権)
タイトルや内容を勝手に改変されない権利のことです。 - コピーする権利(複製権)
著作物を複写、録音、録画などでコピーする権利のことです。 - 二次創作する権利(二次的著作物の利用権)
自分の著作物を原作とする二次的著作物を利用することについて、二次的著作物の著作権者が持つものと同じ権利をもてる権利のことです。
これらは、著作者の没後70年まで有効とされています。
著作権料って?
他人の著作物を使用する場合には、著作者、または、著作者から委託を受けた、著作権管理事業者(日本音楽著作権協会 JASRACが有名ですね)へ、著作権料を支払います。その金額や割合は様々です。これから解説する、「学校における例外」にあてはまらない使用をどうしても行いたい場合は、著作権料を調べて、本人や管理事業者へ支払い等手続きを行う必要があります。
一定の「例外的」な場合で、著作権を制限し、許諾なく著作物を利用することができます(第30条〜第47条の8)。例えば、料金を取らずに上演・演奏するなどです。
参考「昭和四十五年法律第四十八号著作権法(e-gov)」(e-GOV 法令検索,2022年10月18日参照)より
参考「著作者にはどんな権利がある?」(公益社団法人著作権情報センター CRIC,2022年10月18日参照)より
教育機関で著作物を使える場合の5つの判断基準とは?
では、学校ではどのような場合は、著作物を利用してもよいのでしょうか?
学校における著作物の使用は、原則、以下の5つの基準のすべてを満たす必要があります。
OK/NGの判断に迷ったら、この基準に当てはまるかを順に確認してみてください。文化庁の資料を元に基準を確認していきましょう。
対象施設が学校その他教育機関であること
著作物を利用する場所が、教育機関である場合です。学校とは、小・中・高・大学・高等専門学校、専修学校などのことです。その他教育機関とは、公民館などの社会教育施設、教員研修施設や職業訓練施設などのことです。
一方、営利目的である学習塾などは該当しません。
対象主体が教員、児童生徒学生であること
著作物を利用する者が、教員、または児童生徒学生である場合です。教育をする人、される人の間で利用が認められるということです。
利用が「授業の過程」であること
授業の中であれば、著作物を扱うことが認められています。例えば、社会の授業の中でTVニュースを扱う、音楽の授業で最近の楽曲を歌うなどです。
使い方が「複製」「公衆送信であること」
複製、または公衆送信をすることが認められています。
公衆送信とは、不特定、または特定多数への送信(特定少数以外)のことです。具体的には、EメールやFAXでの送信、クラウドへアップロードして共有することです。
権利者の利益を害さないこと
わかりやすく言いかえると、売れるはずだったものを売れなくしてはいけないということです。問題集やソフトウェアなど、一般で販売されているものを扱う時、特に注意が必要です。
参考「学校における教育活動と著作権」(文化庁長官官房著作権課のホームページ,2022年10月18日参照)より
著作権の「学校における例外」5つのパターン
学校で著作物を使うためには、上記の5つの判断基準がありました。しかし、基準に照らし合わせても判断に迷う場面があります。具体的にしていいこと、してはいけないことがわかる助けになる「学校における例外」の5つのパターンを紹介します。
教材として使う
- 授業で使うために小説をコピーして配布したり、生徒が調べ学習の過程で新聞などをコピーしてクラスで配布する場合はOK
- 販売されているドリルや教材をコピーして配布する場合や、有料のソフトウェアを複製してパソコン等にインストールする場合は権利者の利益を侵害するのでNG
- 録画した学習資料を、反転授業の教材として送信するのは、同時双方向の授業の外での扱いとなるためNG
参考「学校と著作権の関係とは? 著作物を使用するときの注意点」(日本教育新聞電子版 NIKKYOWEB,2020年5月3日公開,2022年10月18日参照)より
参考「授業での著作権法遵守|指導される方へ」(みんなのための著作権教室 KIDS CRIC,2022年10月18日参照)より
オンラインなどの中継授業で使う
- 遠隔の教室とインターネット通話で交流し、同時双方向の授業をする場合、著作物の図表を見せ合ったり、朗読や演奏をしたりするのはOK
- 遠隔授業で、送信側がスタジオから教員だけで解説をし、受信側が授業を受ける場合、「主会場」と「副会場」がある授業形態ではないためNG
参考「学校における教育活動と著作権」(文化庁長官官房著作権課のホームページ,2022年10月18日参照)より
試験問題として使う
- 小説や新聞などを利用して試験問題として出題する場合はOK
- 小説や新聞などを利用して試験問題を作成した後、問題をホームページに掲載する場合は、試験の目的以上の範囲で複製や送信をしているためNG
参考「学校における教育活動と著作権」(文化庁長官官房著作権課のホームページ,2022年10月18日参照)より
資料・レポートへの引用
- 教員が研究発表をする際、指導成果を解説する際に、児童生徒の作文の一節を引用する場合はOK
- 生徒が郷土史の発表のために、地域の作家の作品の写真を引用する場合はOK
- 生徒が感想文の結論に、引用であることを書かずに雑誌に載っていた評論の中身を「そのまま」使う場合はNG。引用であること、著作物や著作者名を明記すればOK
参考「学校における教育活動と著作権」(文化庁長官官房著作権課のホームページ,2022年10月18日参照)より
部活動や学校行事での作品上演やキャラクター使用
- 運動会等で、看板やチラシにキャラクターを描く場合はOK
- 学校行事で音楽を利用する際、「営利目的ではない」「入場料を受け取らない」「演奏者などの出演者に報酬の支払いがない」場合はOK。ゲストに報酬が発生するなど、上記を1つでも満たさない場合はNG
参考「学校と著作権の関係とは? 著作物を使用するときの注意点」(日本教育新聞電子版 NIKKYOWEB,2020年5月3日公開,2022年10月18日参照)より
うっかりがトラブルに? 見落としがちな著作権
ここまでに、判断の基準と「学校における例外」を確認してきました。
それらと照らし合わせ、似たような内容・状況だからと著作物を利用できると思ったら、実は著作権にひっかかってしまうような場合もあります。起こりえる具体的事例を以下に紹介しますので、「うっかり」が起こらないように注意していきましょう。
職員会議でのコピー資料配布
教材としての利用には著作権利用の例外が適用されますが、職員会議など、教員が利用する場合は適用されません。職員会議で雑誌のコピーを人数分配布するなどの行為は著作権者の許可が必要です。
教材以外へ著作物を使用する場合のポイント
保護者や地域への配布資料は、「学校における例外」にはあてはまりません。インターネット上のイラストや写真を使うことが多いと思いますが、以下の点に注意が必要です。
保護者、地域への配布資料のポイント
・著作権フリーのものを使う(※ただし、サイトの利用規約を守ること。)
・一般の人のブログなどにある風景写真などを使いたい場合もあるかもしれないが、プロアマ問わず、撮影者に著作権があるので、許可を得ない利用はNG
児童生徒が著作権侵害?
ここまで、主に教員が著作物を扱う場合を想定していましたが、児童生徒が著作権侵害を起こすケースもあります。例えば以下のようなパターンです。
児童生徒が著作権侵害してしまいがちなパターン
・学校外でも利用するSNSで、好きなアニメキャラクターや芸能人の写真をアイコンに使用
・有名イラストをプリントしたクラスTシャツを学校外で着用
・漫画や音楽をコピーして友達とシェア
・卒業記念DVDのBGMを流行の歌にする
うっかり児童生徒が著作権を侵害してしまわないよう、発達段階や状況にあわせた著作権に関する指導をすることが大切です。教科教育の中でも著作権や知的財産に関する記述がありますし、以下のようなインターネット教材もあります。
- 著作権に関するインターネット教材
参考「学校教育と著作権」(公益社団法人著作権情報センター CRIC,2022年10月18日参照)より
児童生徒の作品にも著作権がある
児童生徒の作品にも著作権は発生します。
例えば、以下のようなパターンでは、本人の同意が必要です。
児童生徒から同意を得る必要があるパターン
・作文や図工作品を校内に展示する
・作品を学校HPに掲載する
・教科書会社から児童生徒の優秀作品の掲載を打診される
とはいえ、例えば、教室の後ろに掲示することを伝えたうえで書道作品に取り組ませた場合では、改めて同意をとる必要はないでしょう。
参考「学校と著作権の関係とは? 著作物を使用するときの注意点」(日本教育新聞電子版 NIKKYOWEB,2020年5月3日公開,2022年10月18日参照)より
参考サイトの紹介
そのほか、これまでに、または今後想定される著作権に関するケースの判断の参考になるサイトを以下に紹介します。
・学校教育と著作権-授業目的公衆送信補償金制度を中心に-(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seminar/2021/pdf/93183101_01.pdf
・こんな時の著作権(CRIC) http://kids.cric.or.jp/case/index.html
・学校教育と著作権(CRIC) https://www.cric.or.jp/qa/cs01/index.html
・学校における教育活動と著作権(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/chosakuken/hakase/pdf/gakkou_chosakuken.pdf
・学校など教育機関での音楽利用(日本音楽著作権協会 JASRAC)
https://www.jasrac.or.jp/info/school/index.html
・教育機関における著作権 https://www.ccile.otemon.ac.jp/copyright/educational/
まとめ
著作権は、作った物に対して、名前や中身、他者がどう扱うかを著作者が決められる権利です。個人や団体が作る全ての創作物に著作権があります。
学校は、以下の限りにおいて、著作物の利用が認められています。
① 教育機関で
② 教育をする/される者が
③ 授業の中で
④ 複製または公衆送信をする場合
⑤ 権利者の利益を害さない
しかし、この条件を満たしていても問題となる場合があります。
特にインターネットを利用した、発信、複製、公開などに関して、注意して扱う必要があるでしょう。オンラインで扱う場合、範囲が学校・教室と同様になるような運用が求められます。また、保護者や地域の人が関わる場合にも、教育を超えた範囲で利用してしまわないように注意しましょう。
また、児童生徒も、自身の行動が著作権にふれてしまわないかを判断できるようになることが求められます。ITの発達により複製や配布が簡単にできるようになったため、子ども同士の活動や遊びの中でもトラブルの危険があります。発達段階や、学校で扱う対象とその機会に応じて、著作権についての学習をさせることが望ましいです。
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メガホン編集部