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【解説記事】GIGAスクール構想とは? 学校はどう変わる? 2022年最新の概要・背景・現状・課題をまとめて解説!

  • メガホン編集部

はじめに

新型コロナの影響によって、「GIGAスクール構想」の実施が前倒しされ、1人1台端末の配備やネットワーク環境の整備が日本中の学校で進んでいます。この記事では、「 GIGAスクールってよく聞くけど何のこと?」「学校はどう変わる?」「現状と課題は?」……。そんな疑問をお持ちの方に向けて情報を整理。現場の教職員の生の声も踏まえて、わかりやすく解説します。

GIGAスクール構想とは

GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想とは簡単にいうと「子どもを誰ひとり取り残さないために、ICT教育を充実させよう」とする構想のことです。2019年12月に文部科学省から発表されました。

GIGAスクール構想には大きく分けると2つの目的があります。

  1. 多様な子どもを誰ひとり取り残さないために、個別最適化した教育を実現すること。
  2. これまでの教育実践とICTをかけ合わせることで教員と子どもの力を最大限に引き出すこと。

これら2つの目的を達成するために、ICT環境の整備が急速に進んでいます。具体的には、「1人1台端末」や「校内通信ネットワーク」といったハード面の整備、「ICT支援員の設置」といった指導体制の充実などが行われてきました。

例えば、令和2年度には端末整備に1,951億円、ネットワーク環境整備に71億円、GIGAスクールサポーターの配置に105億円など2292億円の補正予算が組まれています。

参考「GIGAスクール構想の実現について」(文科省,2022年9月13日参照)より
参考「GIGAスクール構想による 1人1台端末環境の実現等について」(文科省,2022年9月13日参照)より

なぜGIGAスクール構想が進められているのか?

GIGAスクール構想が進められてきた背景には、「社会環境の変化」と「ICT教育の遅れ」があります。

来るSociety5.0と呼ばれる社会では、IoT(※)、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボットなどをはじめとする技術革新がこれまで以上に進み、新しい価値やサービスがどんどん生まれていきます。
(※IoT:「Internet of Things(モノのインターネット)」の略。従来インターネットに接続されていなかった家電や住宅などが、ネットワークに接続され、相互に情報交換する仕組みのこと)

「今後10~20年程度で半数近くの仕事が自動化される可能性が高い」「子どもたちの多くは将来、今は存在していない職業に就く」と指摘する研究者もいるように、産業構造の変化によって、暮らしや働き方も大きく変化していくことが予想されています。

そんな社会で生きる子どもたちにとって必要な教育とは何か、という観点から、GIGAスクール構想は生まれています。平成29・30・31年改訂​​の新学習指導要領では、情報活用能力は言語能力と同様に「学習の基盤となる能力」と位置付けられ、ICTを活用して、創造性や論理的思考力を養う教育が求められています。

​​しかし、日本のICT教育は順調に進んできたとは言えません。たとえば、第3期教育振興基本計画(平成30年)の目標では、3人に1台の割合でICT端末を準備する予定でしたが、結果として5.4人に1台(平成31年)しか準備できず、環境整備がほとんど進みませんでした。さらに、学校教育におけるICT機器の使用時間はOECD諸国の中で最下位ということもわかりました。

参考「GIGA スクール 構想の実現へ」(文科省,2022年9月13日参照)より
参考「第3期教育振興基本計画(概要)」(文科省,2022年9月13日参照)より

GIGAスクール構想のメリット

GIGAスクール構想が進み、端末を自由に活用できるようになれば子どもたちにとっても、教職員にとってもさまざまなメリットがあります。

①一人ひとりにあった学びが実現しやすくなる

たとえば、「Qbena」や「すらら」「小学館デジタルドリルシステム for School」のようなデジタルドリルを活用すると、子どもたちはそれぞれ自分のペースで学ぶことができます。学習履歴に応じて問題が自動的に変化したり、記録が残ることによって、自分の得意・不得意に応じた学習がしやすい点も特徴です。

教員にとっては、ICTが収集したデータによって、一人ひとりの学習進度やつまづきを把握しやすくなり、アドバイスをしたり、励ましたり、適切なサポートがしやすくなります。

参考「Qubena」(Qubena,2022年9月13日参照)より
参考「学校向けICT教材」(すらら,2022年9月13日参照)より
参考「小学館デジタルドリルシステム for School」(小学館,2022年9月13日参照)より

②デジタルの利点を活生かした学習ができる

動画や写真などビジュアル教材を使って学習することができるので、授業内容もわかりやすくなります。たとえば、算数や数学の図形は教科書では動かすことができません。しかしICTを活用することで図形を反対から見たり、切ってみたりと試行錯誤しながら学習することができます。体育などでは、自分たちのダンスを動画で記録して見直し、改善するといった使い方も可能です。

子どもにもよりますが、自分の意見を伝えやすくなり、アウトプットの幅が広がるという利点もあります。クラスの前で口頭で発表することが苦手な子どもでも、文字にしたり、匿名にしたりすることで自分の意見を伝えることができます。また端末があれば、文章だけでなく、スライドをつくる、動画をつくるといった表現方法で学びの成果をまとめることも可能になります。

作文や新聞づくりなど、学習の中で何度も推敲する必要がある時に、紙のように破れることもなく、容易に気軽に何度でも書き直すことができるのも利点です。

③時間と空間を越えて人とつながり、学ぶことができる

インターネットを活用することで、離れた場所にいるもの同士がつながれるようになります。コロナ禍で急速にニーズが高まったように、家からオンラインで授業に参加することも学びの選択肢として可能になります。

もちろん、海外の学校とつないで交流することもできます。さらに、Google Classroomなどの掲示板機能などを使って、自宅に帰ってから宿題を教え合うというような使い方も可能です。

④教員の業務負担の軽減(働き方改革) 

教職員の日々の仕事は膨大です。ICTをうまく活用することで、業務負担の軽減が期待できます。

たとえば、保護者からの欠席連絡をメールやウェブアンケートフォーム、アプリなどを使ってオンラインにすることができれば、電話対応がかなり減ります。紙の連絡帳をやめてメールや掲示板上のやりとりにすることで子どもたちと過ごす時間の中にゆとりを生み出すとともに、子どもたちが保護者にプリントの渡し忘れることによるトラブルも防ぐこともできます。

職員用SNSを活用して報告等を済ませることで、会議を圧縮することもできますし、ペーパーレスが進めば印刷作業もせずに済むようになります。テストを自動採点ソフトで採点することも可能です。全国の学校で、じわじわとICTを活かした働き方改革が広がりつつあります。

参考「全国の学校における 働き方改革事例集」(文科省,2022年9月13日参照)より

GIGAスクール構想の現状と課題

環境配備の遅れや自治体間格差への批判もありましたが、2022年7月現在、全国ほとんどの小中学校で1人1台端末が配られ、ネットワーク環境も徐々に整いつつあります。

学校現場ではこの間、自治体や学校による差は大きいものの、全体として急速にデジタル化が進んでいます。
以下では、そんな中で、見えてきている現状と課題を、学校現場の生の声とともにご紹介します。

業務量が減る

学校全体にかかわるものや、緊急の連絡などを行えることで、全家庭に電話連絡をする、ということはないのは助かる。【小学校・教員】

無駄な紙の削減や、提出物のチェックの手間なども減り、大変助かっている。【中学校・教員】

保護者と連絡が取りやすい

仕事の都合で日中電話に出られない家庭や、コロナで自宅待機中の家庭と連絡が取りやすくなった。【小学校・教員】

理解しやすくなる

授業に付き添うときには、タブレットを持っていき、担任の先生の説明を文字やイラスト、写真などを使って、視覚情報に置き換えています。視覚優位の子どもたちにはかなり効果があります。

国語の物語教材や道徳の題材を音読、CD再生しているときに、子どもたちに感想を打ち込んでもらう。社会や理科の動画でもできる。そうすると、子どもたちの率直な感じ方や、理解などがわかりながら授業を進めることができる。

環境整備の不十分さ

児童の端末は整備されましたが、教員用は数が足りません。【小学校】

配布されたタブレットは規制が強く、YouTubeなどが視聴できない。結局、教員用で再生して、黒板に映写してみんなで見ることになってしまう。【高等学校】

WiFiの速度が遅く、クラス全員でインターネットを使用すると、何人かは繋がりません。1人1台のはずなのに、全員が使えません。【小学校】

タブレットは300台ほどあるが、40〜50台ネットワークにつなぐと、ほとんど回線がパンク状態である。【高等学校】

高校へのICT端末の配備の遅れ

小・中学校への端末配備と比べると公立高校への端末の配備は進んでいません。特に自治体によっての差が大きく、設置台数が生徒人数の半分に届いていない自治体もあります。

県立学校では1人1台に対する「予算」がないため、学校に専用回線を引き、個人所有ののスマホやタブレットを利用するBYODを導入した。【高等学校】

《教員へのアンケート調査とインタビュー結果はこちら》

参考「GIGAスクール構想に関する教育関係者への アンケートの結果及び今後の方向性について」(デジタル庁・総務省・文部科学省・経済産業省,2022年9月13日参照)より

教育のこれから

これから先、ICTを活用した教育の重要性はますます増していくでしょう。

一方で、教職員がICTを活かした教育について学べる研修機会の保障、情報リテラシー教育・デジタルシティズンシップ教育など情報化社会に対応する教育の充実、ICT支援員の配置やICTを生かしたカリキュラム開発など、課題は山積みです。

政府は現在、5か年計画に基づいてICT機器に対する補助金を出しています。しかしこれもいつまで続くのか不透明です。

個人所有の端末を学校でも使用できるようにするBYOD(Bring Your Own Device)という方法も検討されていますが、端末代を家庭が負担することになるため、困窮家庭の支援をどうするかを考えていく必要が出てくるでしょう。

一方でICTを活用することで、学びの選択肢が増えることは大きな利点です。子どもの興味・関心を高めたり、個別最適な学びや協働的な学びを進めるうえで強力なツールになりえます。

不登校の生徒の遠隔での授業参加や、離島など僻地の学校と他の学校の生徒との交流授業など、離れた場所にいる子ども同士が、ともに学習する機会もどんどん増えていきそうです。

ハード面の環境整備が徐々に進む中、次にキーワードになるのは「誰ひとり取り残さない教育はどのように実現していくのか」ということ。

ICTを活かすことで、すべての子どもたちがより自分に合ったかたちで学習でき、学校生活の充実感を高め、将来の可能性を広げていけるよう、今後教育実践の交流や研究、検証の深化が求められています。

まとめ

GIGAスクール構想について解説してきました。子どもを誰ひとり取り残さないために、ICT教育を充実させる目的でGIGAスクール構想は始まりました。背景には「社会環境の変化」と「日本のICT教育の遅れ」があり、学校教育はICT環境がインフラ化する社会に対応する教育への転換を求められています。

GIGAスクール構想は、個別最適化された学びや協働的な学びの充実や、教職員の働き方改革にもつながりうるものです。しかし、その一方で、自治体によっては環境整備が遅れていたり、ICT活用の学校間・教職員間の価値観のズレやスキルギャップ、家庭や子どもの負担、情報リテラシー教育の不足など、実現に向けたさまざまな課題もあきらかとなってきています。

VUCA時代という言葉があるように、これからの社会は、どんどん変化していく、不確実で正解のない社会だと言われます。GIGAスクールの進展によって、従来の学校教育のあり方への「問い直し」が起こり、「変革」が迫られていることは確かでしょう。

GIGAスクール構想をどう評価するかは意見の分かれるところかもしれませんが、少なくとも、これからを生きる子どもたちに、どんな学びを保障し、どんな力やスキルを育んでいくことが重要なのか。その問いに向き合っていく必要はあるのではないでしょうか。

GIGAスクールは、その1つの“答え”として国(政府・文科省・経産省)が示している方針とも言えるものです。

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メガホンの記事は、教職員の方からの声をもとに制作しています。
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メガホン編集部

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