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【#新年度準備を十分に!】始業式の日程を後ろ倒しした熊本市の遠藤教育長にお話を聞きました

  • メガホン編集部

熊本市では、令和2年度に学校管理規則(*1)を改訂し、学年始休業日の終了を1日遅くしました。同時に、冬季休業日も前後1日ずつ伸びる一方で、夏季休業日の終了が3日早まっています。これによって新年度の準備により多くの時間を確保できるようになりました。この取り組みをどのように進めたのか、どういった課題があったのか、熊本市教育委員会の遠藤教育長にお話を伺いました。

取り組みの経緯とスケジュール

ーー改めて、休業日に関して、学校管理規則をどのように改訂されたのか教えていただけますか?

こちらの教育委員会会議の資料にある通り、学年始休業日の終了を1日遅くして、冬季休業の開始日を1日早め、終了日を1日遅くしました。コロナによる休校を経験した今となっては、3日間長期休業が増えるのは大したことがないように思いますが、この規則を変更した当時は授業日数を揃えるために、夏季休業日の終了を3日早め、全体の授業日数に差が生まれないようにしました。

ーーなぜ新年度準備に関する学校管理規則を変更するに至ったのですか?

学年始めは先生方の準備が大変なので1日でも準備期間が増えた方がいいというのは、多くの学校関係者から要望がありました。また、クリスマスプレゼントの話題で悲しい思いをする子がいるということで、クリスマスを休みにしてほしいという声も以前より聞いていました。

ーー教育委員会ではどのようにして取り組みを進めましたか?

教育委員会の職員と話す中で、学期の始めの忙しさを何とかしませんかという話は以前からありました。そこで、まずは教育課程検討会議という、教育委員会と学校関係者が議論する場を作って、予備時数の削減や行事の精選などと一緒に検討しました。その後、検討会議でまとめた案を教育委員会会議に出して、教育委員さんからも賛同いただき、改訂に至ったという流れです。

ーー改訂に向けてどのようなスケジュールで進めたのでしょうか?

検討会議では全体として2年ほどかけて検討しました。学校管理規則の改正案は、作ってから実施するまでに半年くらいのイメージです。次年度に向けて変えるとなると、各学校が次年度の行事予定などを決める前に結論を得なければなりません。8月から9月頃には具体的な案を作り、市長部局や議会にも説明をして、調整するのに1, 2ヶ月程度、その上で12月に教育委員会会議にかけるようなスケジュールです。その間に校長から各学校内への周知もする必要があります。次年度からスタートするのであれば、少なくとも半年ぐらいの期間が必要なんだろうと思います。

授業時数の問題をどうクリアするか

ーー取り組みを進めるにあたっての懸念事項はあったでしょうか?

始業日を早くしますと言ったら先生方からの懸念の声もあるかと思いますが、遅くすることに対しての懸念の声はなかったです。年間の授業日数に変更もなかったので。今となっては、学級閉鎖などにより数日休むといったことなどはよくありますから、3日くらいなら授業日数を減らすだけでも良かったかもしれません。ただ、全体の授業時数がぎりぎりだと学校行事などが組みにくくなってしまうので、それぞれの学校の予定によって日程を変えられる余地は多少はあった方がいいかなと思います。

もし単純に新年度始業日を後ろ倒しにして授業日数自体を減らすのであれば、授業日数を減らすことで実際の授業時数がどう変わるか、先の10年分ぐらいみていくといった作業が必要になるのかもしれないなと思います。

ーーコロナ禍前後で、教育委員会事務局や学校管理職の間で授業時数に対する捉え方はどのように変わりましたか?

かなり変わりました。現場の先生方も教育委員会も、コロナ禍で学校が長期休業となった場合でも1年間で教育課程が終わったという経験があるので、今は多少休校にしますと言っても「それで教育課程終わるんですか?」と言う人はいないですね。休校になってもオンラインで授業ができるから大丈夫というのもありますし、たとえ1ヶ月くらい授業日数が短くなっても、それなりに教育課程を終わらせることができる、ということがコロナ禍の長期休業で分かりましたので。
また、去年の夏休み明けは午前授業をやっていましたが、これは先生方からも生徒からも極めて評判が良かったです。今では通年で毎日午前中授業にできないかという声もあります。そういった意味で、以前のような授業時数へのこだわりはなくなってきているように感じます。

教育委員会、学校現場、保護者の反応

ーー規則を変えること自体への抵抗感などはありませんでしたか?

学校管理規則を改正すること自体が大変だという意識はありませんでした。もともと平令和元年度に、休日がずれるなどの都合で学校管理規則の休業日の記載を1年限りの特例として改訂していたこともあり、令和2年度の規則の変更もやりやすい環境ではありました。そうでなくても、市立の幼稚園、小中学校、高校、特別支援学校、専門学校まで含めれば、毎年のように学校管理規則は改正していますので。

私(教育長)自身にも抵抗感はありませんし、学校や教育委員会の中での抵抗感もないと思います。教育委員会としての仕事を誰のために、何のためにやっているのか、理念・目的を共有できているので、作業的に大変だなと思うことはあったとしても「やらない方がいい」とはならないです。


ーー先生方からの反応はどうでしたか?

楽になってよかったということに尽きますね。特に今年は土日の関係もあって、新年度は4月11日スタートと、だいぶ余裕を持って年度が始まったと思います。来年の年明けも1月10日スタートなので、スケジュール的にはかなり余裕があります。

ーーこのように「働き方改革」“が進むと学校現場は助かりますね。

学校現場の働き方改革の本質としては人を増やすというのが一番の解決策で、それをしないことには抜本的な働き方改革にはならないと思っています。

ただ、もちろんお金が必要なことですし、1自治体では解決するのに時間がかかります。そのため、人を増やす以外の方法でできることは何でもやっていこうという中で、1つの工夫として始業日を変更しました。もちろんそれだけで一気に楽になるような本質的な解決策になるとは思っていませんが、人を増やすまでの期間に先生方の負担が少しでも軽く楽になればと思っています。

ーー保護者からの反応として懸念されていたことはありますか?

始業日の変更については、それぞれ1日ずつですから保護者からの懸念は特にありませんでした。その分、夏休みが短くなっていますし。

保護者の一番の関心は給食・学童保育があるかです。例えば、仮に午前中授業の日を増やしたとしても、給食も学童保育もありますということであれば、保護者からの抵抗というのはそこまでないんじゃないかなと思っています。もし仮にどうしても早く帰ってこられては困るという意見があるのであれば、例えば、放課後は学校内で自習してもいいですよ、とするなど、保護者の懸念を和らげるような方法はあるのかなと思います。結局は、そのためのお金と人を用意できるかということに尽きるでしょう。

教育委員会にできることは多い

ーー「働き方改革」の資料などを拝見すると、他の自治体より踏み込んだ表現が多いように思います。

私としては、制度・仕組みを変えることを重視しています。制度自体は変えないで、例えば、通知を出しますとか、運用を変えますとか、校長会で呼びかけをしますといった方法もありますが、その元になる制度を変えることで、自然にそれが浸透していくことが大切だと思っています。

校則に関しても学校管理規則を改訂しました(校則の制定・改廃に教職員・児童生徒・保護者が参画することや、校則を公表することを追加)。多くの自治体は、この件を学校管理規則に記載しようとは考えないと思います。通知やガイドラインを出すといった対応になるのではないでしょうか。しかし、学校管理規則にするのか、通知やガイドラインを出すだけにするのかで、責任の所在が変わります。教育委員会として要請はしますが、やるかやらないかは学校の責任です、というのはよくないと思います。私としてはやるなら教育委員会の責任でルールを変える、教育委員会が責任を持たないなら口も出さない、というつもりでやっています。

ーー予備時数ゼロまで踏み込んでいらっしゃることが印象的でした。

そこを変えていかないと学校が楽になりません。留守電の導入などもそうですが、保護者への説明としても、教育委員会に言われてこのようにしていますと学校が言える環境をつくる必要があり、それが教育委員会の役割だと思っています。学校が説明しづらいことについては、私(教育長)や教育委員会の名前で通知を出すことで、保護者からの意見要望を学校ではなく教育委員会に言ってもらうようにしています。

ーー次に検討されている取り組みを教えていただけますか?

都道府県・市町村の権限を両方持つ政令指定都市だからできることですが、堺市が中学校単位(学校群)で人事権や予算権を渡すという取り組みを始めており、おもしろい取り組みだなと思っています。学校単位では権限がなくてやりたいことができないという校長に権限を移譲するというのは、モデル校的に取り組んでみてもおもしろいかもしれないと思っています。その代わり、その運営には必ず子どもも参加するようにするべきだと思います。

(*1)学校管理規則とは、小中学校の管理運営の基本事項について定められた各市町村の教育委員会により規定される規則のことをいいます。

(*2)予備時数とはとは、各学校が不測の事態が起こって数日授業ができなくても授業時数が確保できるよう、年度当初に設定している余剰の授業時数のことです。予備時数を多く確保することで、不測の事態には備えられるものの、先生方が授業に拘束される時間が長くなり、負担に繋がっているという側面があります。熊本市では令和元年(2019年)より予備時数を20時間程度まで削減する取組を行っており、現在は更に0時間を基本とした編成を進めています。

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メガホンの記事は、教職員の方からの声をもとに制作しています。
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