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学習指導要領改訂に向けた特別部会の議論の中で、年間標準授業時数1,015時間の中に「裁量的な時間」を設けることが提案されました。
これは、学校ごとに教科等の授業時数を自由に削減し、そこで生まれた時間を他の活動に活用することができるというものです。その使い道の範囲は現在検討中ですが、児童生徒の学習支援や教員研修に使うことなどが提案されているほか、現場からも多様な用途が提案されています。

もしこの「裁量的な時間」が導入されるとしたら、どのような使い道が望ましいと思いますか? 全国の先生方に聞いてみました。
■対象 :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2025年7月4日(金)〜2025年8月25日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら)
■回答数 :56件
Q1.あなたは「裁量的な時間」の導入に賛成ですか?

全体で見ると賛成が80%、反対が13%、その他が7%と、賛成多数の結果となりました。
校種別では小学校が賛成79%、中学校が81%といずれも高い割合を示し、回答者の少なかった高等学校、その他の校種についても「既に裁量的な時間をとっている」という回答を除く7名中7名が「賛成」と答えました。
自校の課題に応じて使えるようにしたい【小学校・教員】
用途を事前に決めて報告したりしないものなら賛成。適当になっている授業準備にあてたり、心配な生徒の面談に使ったり自由に使えるとよい【高等学校・教員】
基本的に賛成です。学校の特色を出しやすくなると思います。しかし、保護者や地域への「裁量的な時間」導入のしっかりした説明(文科省としての)と、教科の学習内容の削減、校長の権限の教科、「裁量的な時間」のための学校予算の確保、がセットであることが必須です。【小学校・教員】
現行の教科の学習の時数を圧縮して、生み出された時数を柔軟な教育課程の編成のために使う、ということ自体には賛成である。今後は、子どもたち一人一人に応じた教育課程が編成されていくことで、その子にあった学びがつくられることは望ましいことのように思う。課題として、それを担う教師が圧倒的に不足している点がある。現在は教育課程は場所に付随しているため、大まかに考えれば、教育課程=場所=教師の数となるが、教育課程を場所で区切ることをしなければ、教師の数はより必要となる。必要な制度の新設と制度の実施に必要な環境整備とが同時に達成されたのちに実施されなければ、形骸化してしまうか、教師の業務の天井知らずの高まりを招いしてしまうことが懸念点としてあるように思う。【小学校・教員】
自由な時間が必要です。休憩時間がなくて、体力的に辛いので、自由裁量時間がほしいです。教材研究をする時間を確保してください。持ち帰りでやるのは、精神的にしんどいです。それでもやらなくては、自信をもって子どもたちの前に立てないので、やらざるを得ません。【小学校・教員】
中学校現場ですが、生徒も先生も疲れていると感じます。興味のあることを探究する時間や先生たちが研修できる時間にあてたいです。【中学校・教員】
裁量的な時間をあえて設けるより、標準授業時数を減らし、教師が教材研究をしたり、休憩をしたり、研修に取り組める時間にしてほしい。「裁量的な時間」を設けることで、保護者もなんらかの期待をするので、文科省は、余計な時間を増やすのではなく、仕事、標準授業時数を減らしてほしい。【小学校・教員】
もともとの学習、指導要領内容を削減しない限り、何をやっても無駄です。採用の時間等入れたら複雑になるだけで、メリットがありません。ゆとりと言われた指導要領が1番良かったです。【小学校・教員】
市町村で差がでて、オリジナル感を出そうとする教育長が負担を現場に増やすと思う【小学校・教員】
主体的な学びが重視されていることで、複雑な目標の活動が多いように感じるため、裁量的な時間の実施は反対です。【中学校・教員】
既に裁量的な時間をとっている。【小学校・教員】
わからない。イメージがわかない【中等教育学校・教員】
使い方次第【小学校・校長】
Q2. 設問1で賛成またはその他と回答した方にお聞きします。
「裁量的な時間」の量についてお聞きします。裁量的な時間は、どのくらいの時数を充てるのが望ましいと思いますか。

「2割程度(1日1時間または週に1日程度)」を選んだ方が全体の41%と、最も多い結果となりました。
一方で、「1割程度(週に半日程度)」や「4割程度(1日2時間または週に2日程度)」という選択肢もそれぞれ全体の14%・18%となるなど、意見のばらつきが見られました。
校種による回答の大きな差は見られませんでした。
Q3. 学校をよりよくするために、「裁量の時間」はどのように利用されるとよいと考えますか。次の項目の必要性を選択してください。



肯定的意見が最も多かったのは「教職員の授業準備の時間に充てる」の選択肢で、全体の92%が「とても必要」「どちらかというと必要」と回答しました。
次いで多かったのは「児童生徒の負担軽減のため早く帰宅させる」の84%、「教職員の休憩時間に充てる」の82%、「教職員の研修に充てる」と、いずれも肯定的意見が8割を越えました。
逆に否定的意見が最も多かったのは「部活動に充てる」の選択肢で、全体の94%が「あまり必要でない」「必要でない」と回答しました。次いで「学校行事に充てる」が71%、「その他課外活動(委員会活動など)に充てる」が66%と続きました。
校種別に見ると、前述の「教職員の授業準備の時間に充てる」などはどの校種でも共通して肯定的意見が多い一方で、いくつかの選択肢でばらつきが見られました。
たとえば「その他課外活動(委員会活動など)に充てる」については、中学校のみ肯定的意見が過半数を占めたほか、「時数の足りない教科の授業に充てる」に関しては、高校でのみ肯定的意見が過半数となりました。
同様に、「特定の児童生徒に対し補習や学習支援を行う」「保護者との面談に充てる」に関しても、高校での肯定的意見の割合が、その他の校種より有意に高い結果となりました。
Q4. その他、「裁量的な時間」の是非や実施方法等について、あなたの考えを教えてください。
子供の学力向上のためには、教員が自発的に学習に取り組むことができるようなゆとりが必要である。【中学校・教員】
社会に受け入れられない考え方(学校は楽しすぎているみたいになりそう)だが、子どもを教育する教師の魅力向上を第一に考え、教師が勤務時間内に業務を終え、余暇で研鑽するという形を創り出したい。現場は、時間がなく自転車操業的に子どもたちと接している・授業を行っている。ゆとりをもち、しっかり準備したうえで子どもたちや保護者と関わるようにすることで、「教育」自体が魅力あるものにかわるはずである。【小学校・校長】
自由に業務ができる時間であるという認識なので、教材研究や採点、ノートやワークの点検などを始め、授業準備に充てたいと考える。また、そういう時間がまとまって必要だと思う。【中学校・教員】
働き方改革としても教員の余白を如何に確保するかがすべてでしょう。【小学校/中学校・校長】
教職員同士の対話の時間と教材研究や準備の時間が圧倒的に足りていないと思います。週の一割は職員同士の対話の時間、残りの一割は授業をデザインする時間にしたいです。これらの時間は現状削がれるか自宅で行っていますので。【小学校・教員】
あれば面談などに担任が使えてよいと思います。高校では体育祭や文化際の準備に時間が必要なので時間を割いてほしいです。また、短縮で生徒は帰宅し、先生が考査の事務作業、成績作業をする時間がほしいです。部活動と授業、校務分掌だけで精一杯で、考査を作る時間などありません。自宅で作っている方がほとんどではないでしょうか。【高等学校・教員】
徹底反復などの前向きな学習機会の確保に充当したいと考えます。【小学校・教員】
学ぶ意欲のある生徒との発展的な学びの時間【中等教育学校・教員】
児童がやりたいと思うことをのびのびできる時間にしたい。今の時数だと学習することがガチガチすぎて、本当に子どもが気になったり興味を持ったりしたことに時間を取ってあげられない。指導要領上の学習内容もしっかり減らして、余裕をもって裁量的な時間を取り入れられる時数にしてほしい。そうでないと、教科書の内容が終わり切らない教科の補充で終わってしまうと思う。【小学校・教員】
既に学校行事や校外学習との兼ね合いで担任の裁量で融通をきかせている時間をとっている。そうでもしないと現行の指導要領の内容と教科書の内容が多すぎて未履修の内容が出てしまうからだ。裁量的な時間をとる以前にカリキュラムオーバーロードを改善しないと意味がないと思う。【小学校・教員】
とにかく、指導の範囲を見直し、現行の内容を削減する。特に小学校3年までは基礎基本の徹底。四年からは、学力別にクラス編成をし、そのクラスに応じたカリキュラムをもっと自由で探究的な学習に当てたい【小学校・教員】
時間を増やすのでなく、教科の学習内容を減らして、その分自由裁量の時間にあててほしい。子どもたちが自分たちで使える(考え、計画、実行できる)時間を増やしてほしい。【小学校・教員】
不登校の対応を協議したり、多様な生徒のニーズに応えるための研究、もしくは授業に当てるべきです【中等教育学校・教員】
探究の時間にあてる【小学校・教員】
勤務時間内に余白が生まれ、その時必要なことに使えるのが本当に嬉しいし、有難い!
・法定研修や職員研究とは異なる教員が課題だと感じ学びたいと思っている研修にあてたり、平日に他校の授業実践を見学しに行くことができる
・連絡事項の情報伝達で終わっていた学年や分掌の会議を対話の時間を設けて、本質的なねらいの確認などが行える
・教科内での授業研究や研究協議をし、授業内容や方針について同僚と意見交換ができる
・SCやSSWとの支援生徒の振り返りをゆっくりできたり、保護者も加えた相談の時間を取ることができる【高等学校・教員】
実施されるなら、私が兼ねてより考えていた教育過程を取り入れたいと思います。子どもたちの学習能力と運動能力の低下に歯止めをかけるための教育過程です。その内容は朝の会後は、全校で体育又は運動の時間を取り入れることで、それ以降の時間の学習効果や記憶力、集中力、創造力などに貢献できるというカリキュラムです。【中学校・教員】
より実態に合わせて使えればいいと思うし、子供の意見表明権を大事にしたい。【小学校・教員】
子どもも先生も、どちらも幸せに過ごすための時間になったら良いと思います。【小学校・教員】
各学校の実践の蓄積から、裁量的な時間は流動的に活用されるべきだと思う。現状「裁量的な時間」について、教職員同士で話す機会もない。国の施策等を理解し、各校で趣旨を理解した上で、内容を決定できるように教育委員会が旗振り役として機能すべきだと思う。【特別支援学校・教員】
時間の使い方について、むろん教員の働き方の軽減に向けて実施することに反対ではないが、そこだけになってはいけない。その時間が子どもたちの成長発達に寄与するものであることが大前提であると考えます。その部分が抜け落ちてしまうことがあっては本末転倒ではないでしょうか?なんのために学校は存在するのか?確かに教員の働き方は異常な部分もあるけれど、子どもたちの学び方も今となっては異常であると思う部分もある。そこをアップデートすることも見落としてはいけないと思っています。【小学校・教員】
時間割(特に道徳や総合、学活等)の大幅な調整が必要になると思います。勤務時間が限られている非常勤・時短の先生、SSSさん、SCさん、用務員さん、支援員さん、ICTサポーターさん、STさんなど様々な職種の方々も交えて、議論を深め、学校全体の負担過重にならぬよう、教育課程検討会議などを通じて決定していく必要があります。教育行政の方々にも積極的に現場に入って頂き、視察ではなく、現状把握を目的に本気で長時間労働と負担荷重を見直す好機と捉えて取り組んで頂きたいです。また、市町村教育委員会や都道府県教育委員会は、通知文を出すだけでなく、行政と現場での取り組みに多忙化の拍車をかけぬよう、大幅な負担減と超過削減につながる政策や施策を各部会を通じて打ち出し、自治体間・学校間・校種間格差を生まぬよう、全国を上げて動き出して頂きたいです。教育界が若い世代にとって希望が見える、特定の誰かに頼り切らない、任せ切らない、組織として個人を守ることができる、持続可能な業界に生まれ変わる第一歩になることを、強く望むばかりです。【中学校・教員】
「裁量的な時間」の導入に関しては、全体の80%の方が賛成、13%が反対、7%がその他と、賛成多数の結果となりました。校種別に見ると小学校の先生方の79%が賛成、中学校が81%、高等学校・その他の校種が88%と、いずれも高い割合を示しました。
「裁量的な時間」の理想的な割合については、「2割程度(1日1時間または週に1日程度)」を選んだ方が全体の41%と、最も多い結果となりました。一方で、「1割程度(週に半日程度)」や「4割程度(1日2時間または週に2日程度)」など他の選択肢についても全体の1割以上の方が選択しており、意見のばらつきが見られました。
「裁量的な時間」をどんなことに利用したいかという問いについては、「教職員の授業準備の時間に充てる」「児童生徒の負担軽減のため早く帰宅させる」「教職員の休憩時間に充てる」が8割以上の肯定的意見を集めました。逆に「部活動に充てる」「学校行事に充てる」は、否定的意見の多い結果になったほか、「時数の足りない教科の授業に充てる」「その他課外活動(委員会活動など)に充てる」など一部の校種のみで支持される選択肢も見られました。
全体を通して見ると、児童生徒や教員の負担軽減につながる選択肢は肯定的意見を、児童生徒の活動を従来通りとする、または増やしかねない選択肢は否定的意見を多く集める傾向が見られました。
「裁量的な時間」の使いみちや学習指導要領について、多くの意見が多く寄せられた今回のアンケート。
目立ったのは「児童生徒にも教員にも、ゆとりが必要」という声です。様々な活動に充てることができる「裁量的な時間」が、現場の先生方の生活や、児童生徒の学びを豊かにするものにつながることを願ってやみません。
今後もSchool Voice Project は、学校の様々な実態や課題について調査し、伝えてまいります。
▼ 自由記述の回答一覧は、以下よりダウンロードしてご覧ください。 ▼
本アンケートは、「教員の学ぶ機会と生活の保障を求むアクション」が実施主体となり、NPO法人School Voice Projectがアンケート収集と分析、結果公表への協力を行っています。
詳細は下記をご覧ください。
<実施主体より>
現在大阪府では教員の学ぶ機会の保障として、長期自主研修制度や大学院派遣制度はありますが、休職中は無給で副業も原則できません。加えて、生活費や授業料も自己負担となるため、経済的余裕のある教員しか利用できない制度となっており、教員の学ぶ機会や生活の保障がされているとは言えない状況です。
しかし、他の自治体では給与の全額または一部支給や、保険料・年金負担継続、授業料補助などを実施しているところもあります。そこで、教員の学ぶ機会と生活の保障の状況を把握するためにも、こうした制度を利用したことのある公立学校の教員(元教員)の方にアンケートを実施しました。
■対象 :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2025年9月12日(金)~2025年9月30日(火)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら )
■回答数 :51件(※調査対象外の方による回答を除く)
Q. どのような制度等を利用して学びましたか。

※ 本調査は回答者の申告によるものであり、制度名も本人の認識によっているため、正式なものではない可能性があります。
Q. どこで学びましたか。

利用した制度は「大学院修学休業制度」がもっとも多く、各種派遣制度(現職教員派遣、教職大学院派遣など)、「自己啓発等休業制度」がそれに続きました。また、「その他」として長期研修制度等を利用したとの回答もありました。校種による違いはほぼ見られませんでした。
学んだ場所については、校種による違いが鮮明になりました。小学校では教職大学院で学んだ方が過半数だったのに対し、中学校・高等学校では他の国内大学院で学んだ方が最多となりました。その他として、フォルケフォイスコーレや国外の語学学校で学んだ方、「Fulbright program (FLTA)を利用してアメリカの大学で日本語教師をした」という方もいました。
Q. 学びのために所属校を離れている間、以下の支援制度はありましたか。
・給与の支給
・保険料・年金などの負担
・住居サポート(家賃手当など)
・授業料や研究費の補助
・通学手当





利用した制度によって金銭面でのサポートの有無や充実度合いに大きな差が見られました。
全体的な傾向として金銭的なサポートは、各種派遣制度・その他(長期研修制度等)、大学院修学休業制度、自己啓発等休業制度の順に充実しており、同じ「大学院での修学」という状況であっても利用した制度が“派遣・研修”か“休業”かによって金銭面での負担が大きく異なる実情が伺えました。
Q. 所属校に復帰した後、給与額の変更などありましたか。

専修免許の取得に伴い変更あり【新潟県】
修士免許になるため給与がアップされる【兵庫県】
役職が変わり、結果給与増加【横浜市】
やや増額しました。【新潟県】
変更なしの予定【静岡県】
特になかった【沖縄県】
管理職に確認しましたが、採用時に専修免許があれば給与は一種免許より高くなるが、中途段階で専修免許をとっても変更はないとのことでした。【神奈川県】
なし【埼玉県・茨城県・愛知県・大阪府・兵庫県・神戸市など】
休職扱いで、仕事を続けていれば年数が重なるにつれて昇給するが、昇給は止まったままときいた。実際はわからない。【名古屋市】
所属校に復帰した後の昇給については、「なし」と答えた方が45%となり、多くの自治体で昇給が行われない実情が明らかになりました。
大学院での修学に伴って教員免許の種類が専修免許に更新される場合についても、自治体によって昇給の有無が異なっていたほか、同じ自治体でも「どの制度を使ったか」で昇給の有無が異なる事例も見られました。
今回のアンケートからは、教員が自ら学びを深めようとする際の支援制度についての様々な現状が浮き彫りになりました。特に経済的なサポートについては、冒頭に挙げた大阪府のように「休職中は無給かつ副業も原則禁止、授業料も自己負担」という制度の自治体がある一方、他自治体では在学中の給与や授業料を支給する例もあり、地域間の格差が明確に見られました。
制度別に見ると、「派遣・研修」型の制度では給与や保険料、家賃手当等の支給が比較的手厚いのに対し、「休業」型ではサポートが少ないという実態も明らかになりました。大学院で学ぶ内容が同じであっても、制度選択によって生活が困難になる可能性があることは大きな課題といえます。
また、修学後の昇給についても、多くの自治体で「なし」と回答しており、専修免許を取得しても給与が変わらないケースが半数近くに上りました。中には同じ自治体内でも「どの制度を利用したか」によって昇給の扱いが異なるなど、運用の不統一も見られました。
そもそも教員が安心して学び続けられる環境を整えることは、教育の質を高めるうえで不可欠な要素です。このことは法令や国の方針においても明示されており、たとえば教育公務員特例法(第21条)には、教員は自らの資質向上のために「研究と修養に努める義務」が明記されているほか、文部科学省も2022年の答申内で教師が「教職生涯を通じて探究心を持ちつつ自律的かつ継続的に新しい知識・技能を学び続け」ることを目標に掲げ、教員の主体的な学びを重視しています。
参考:「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について~「新たな教師の学びの姿」の実現と、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成~(答申)
しかし、現状ではその理念を支える制度的・経済的基盤が十分とはいえません。教員が生活を犠牲にせずに学びを深められる仕組みが整ってこそ、こうした理念が真に実現されるといえるでしょう。今後は、自治体間での好事例共有や制度の見直しを通じて、すべての教員が安心して学び続けられる環境を整備することが求められます。
School Voice Projectでは、引き続き現場の声をもとに、教員の「研究と修養」が実質的に保障される社会の実現を目指していきます。
不登校が認知されるようになり長く経ちました。しかし、今なお不登校の生徒は増えています。さらに、不登校の定義には含まれていませんが、その傾向にある子どもも多くいるとの調査もあります。
これに対して、一概に学校復帰だけを目指すものでない、多様な不登校支援のあり方がされつつあります。今、改めて不登校の現在の課題や実践などについて説明します。
不登校とはどのような状態を指すのでしょうか。
文部科学省(文科省)は、不登校を「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」と定義しています。
昭和時代では「学校ぎらい」を理由とした欠席を範囲としていましたが、平成10年以降「不登校」という言葉に置き換えられ、「学校に通いたいけど通えない」子どもたちまでを含めるものとなりました。
参考「不登校の現状に関する認識 – 文科省」(文科省,2009年以前公開,2022年10月31日参照)より
参考「生徒指導資料第1集(改訂版)第3章 不登校」(国立教育政策研究所 生徒指導研究センター,2009年3月公開,2022年10月31日参照)より
2024年度の文科省の調査では、小・中学校における不登校児童生徒数は過去最多の35万3970人と発表されました。前年度からは7,488人、2年前に比べると5万4922人の増加となります。不登校の定義が現在と同じになった平成10年の時点では、小・中学校を合わせて12万7692人でしたが、ここ10年ほどは増加の一途を辿っています。
では、実際の学校の中には、どれくらい万登校の子どもがいるのでしょうか。
小学校では13万7704人で、全体の2.3%の児童が不登校にあたります。1学年3クラスの学校では学年に2人以上いる計算となります。中学校では21万6266人で全体の6.8%です。30人以上のクラスでは1クラスに2人はいる計算となり、学校・教員は必ず考えなければいけない問題であると言えるでしょう。
多くの子どもが直面する不登校について、より詳しく掘り下げていきます。
参考「令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(文科省,2024年10月31日公開,2025年5月15日参照)より
定義上当てはまらないけれど同様の苦しさを抱える子どもたちもいます。「隠れ不登校」「不登校傾向」などと言われる子どもたちです。
認定NPO法人カタリバによる2023年の調査では、「部分/教室外登校(保健室登校や一部の授業のみに参加する生徒など)」「仮面登校(ほぼ毎日、学校に通いたくないと思っている生徒)」に注目しました。教室に入らなかったり、登校していても遅刻や早退が多かったり、内心では「行きたくない」と感じていたりする中学生が推計41万人いるとしています。これは中学生の約5人に1人が「不登校」または「不登校傾向」に該当することを示しています。
参考「不登校に関する子どもと保護者向けの実態調査」(認定NPO法人カタリバ,2023年12月9日公開,2025年5月15日参照)より
また、実質的には不登校の子どもが教員や学校の判断によって「病気による長期欠席者(長期病欠)」とカウントされている事例も報道されています。
記事によると、行き渋る子どもが頭痛や腹痛を訴える場合、病欠とするか不登校による欠席と捉えるかは、「保護者や担任の判断」(中日新聞)とされ、「不登校かどうかの判断が学校ごとに異なる可能性はあり得る」(熊本市教育委員会,熊本日日新聞による)とも述べられています。
引用「不登校最多、出欠判断の基準はあいまい 学びの場多様化、実態反映せず」(中日新聞,2022年10月28日公開,2025年5月20日参照)より
引用「不登校のはずの娘が「長期病欠」扱い 明確な基準なく、学校が「総合的に判断」 数字に表れない〝隠れ不登校〟も存在か」(熊本日日新聞,2022年12月21日公開,2025年5月20日参照)より
多くの場合、「病気による長期欠席者」という表現からイメージされるのは長期間入院をしている児童生徒が中心かと考えられますが、2013年度の文科省調査では小・中学校における長期入院児童生徒数は全国で2,769人とされている一方で、それから2年後の2015年度の「病気による長期欠席者」は4万1064人と報告されており、約15倍の乖離が見られます(※「病気による長期欠席者」の人数は2015年度調査から公表開始)。
また、近年のデータに限っても、「病気による長期欠席者」は2021年度から2024年度の3年間で5万人以上増加しており、純粋な“病気のみによる長期欠席”としては不自然な推移が見られます。上記の報道等と併せて考えると、本来「不登校」とカウントされるべき子どもが「病気による長期欠席」と報告されていることが示唆されていると言えるでしょう。
参考「長期入院児童生徒に対する教育支援に関する実態調査の結果(概要)」(文科省,2025年5月20日参照)より
なぜこれだけ多くの子どもが不登校、またはその傾向になるのでしょうか。
文科省による2024年度の学校に対する調査では、「長期欠席者の状況」で「不登校」と回答した不登校児童生徒全員につき、教職員が当てはまるものをすべて回答する形式をとっています。
同調査によると、小学校・中学校共通して、「学校生活に対してやる気が出ない等の相談があった」の選択肢の回答割合が最も多く、いずれも30%を超えています。ついで「生活リズムの不調に関する相談があった」、「不安・抑うつの相談があった」が25%ほどと多く、「学業の不振や頻繁な宿題の未提出が見られた」(15%)と続きました。
学校から見た不登校の要因には、校種を問わず一定の傾向があることがわかりますが、校種や学年によってその実態は様々です。例えば中学校では、進学に伴う学習や生活の変化によっていじめや不登校が増加する「中1ギャップ」が広く認知されています。文科省は小学校高学年教科担任制を導入するなどの対策を打ちましたが、国立教育政策研究所は安易な表現に振り回されず、児童生徒の課題を見据える必要性を指摘しており、中1ギャップという問題の捉え方に注意を促しています。また、高等学校では、2000年以降減少傾向ではありますが中退というケースもあります。留年や通信制への転校など、おかれる状況も多種多様で、実態把握の難しさがあります。
参考「令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(文科省,2024年10月31日公開,2025年5月15日参照)より
参考「「中1ギャップ」の真実」(文科省,2014年4月公開,2025年5月20日参照)より
参考「高校生にみる不登校傾向に関する研究 : 意識調査を通して」(山下みどり, 清原浩,鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要,2004)より
2024年3月には、公益社団法人 子どもの発達科学研究所から文部科学省委託の「不登校の要因分析に関する調査研究 報告書」が発表されました。
不登校のきっかけ要因を学校、家庭、本人それぞれを対象に調査した同資料によると、「学業の不振」、「宿題の提出」については、三者の回答割合が比較的近い値となりました。一方で、「いじめ被害」、「教職員への反抗・反発」、「教職員からの叱責」等については、教師の回答がわずか2~4%であるにもかかわらず、児童生徒・保護者は20~40%が回答するなど、割合に大きな差がみられました。
また、「体調不良」、「不安・抑うつ」、「居眠り、朝起きられない、夜眠れない」といった心身不調・生活リズム不調についても、児童生徒や保護者の60~80%が回答しているのに対して、教師の回答割合はいずれも20%未満と、低く留まりました。
不登校については様々なケースがあり、また一つのケースでも複合的な要因があることも多いため、唯一の原因を特定することはできません。教職員に対する調査だけでは視点に偏りが生じうるため、現場で児童生徒の個別の事例に向き合っていく必要がある一方で、不登校児童生徒本人や家庭の実態把握が今後ますます重要になりそうです。
参考「文部科学省委託事業 不登校の要因分析に関する調査研究」(公益社団法人 子どもの発達科学研究所,2024年3月公開,2025年5月15日参照)より
増え続ける不登校への対応として、国や教育委員会等ではどのような施策がとられているのでしょうか? また、実際に不登校になった子どもや家庭にとっては、現状どのような選択肢があるのでしょうか?
多様な要因・背景から、結果として不登校状態になっているため、「問題行動」と判断してはならないという認識があり、文科省は2019年の「不登校児童生徒への支援の在り方について」という通知で、
「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく,児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて,社会的に自立することを目指す必要があること。
としています。必ずしも学校への復帰をゴールとはしておらず、学業の遅れや進路選択の際の不利益を被りかねないことなどのリスクも指摘しつつも、多様な関係機関との連携、家庭への支援を基本的な考え方としています。
参考・引用「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」(文科省,2019年10月25日公開,2022年10月31日参照)より
COCOLOプラン
2023年3月には「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」が発表され、不登校により学びにアクセスできない子どもたちをゼロにすることを目指して、
という方針を示しました。具体的には、不登校特例校(学びの多様化学校)や校内教育支援センターの設置促進、1人1台端末を活用した心や体調の変化の早期発見の推進、教師やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどから成るチーム学校による、早期支援の強化等が目指されることとなりました。
2023年6月に閣議決定された教育振興基本計画において、各都道府県・政令指定都市で1校以上を設置し、将来的には全国で300校の設置を目指すことが決定されました。また、同年8月に不登校特例校は「学びの多様化学校」へと改称されました。
参考・引用「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)(文科省,2023年3月31日公開,2025年5月15日参照)より)
参考「第4期教育振興基本計画」(文科省,2023年6月16日閣議決定,2025年5月15日参照)より
不登校に関連する法律としては、2016年に教育機会確保法が施行されました。これは、不登校児童生徒を対象とする教育の機会の確保を推進しようという法律で、学校環境の整備、民間団体との連携などを自治体に求めています。
フリースクール等民間団体の支援については直接的に内容としては盛り込まれませんでしたが、不登校児童生徒の状況に応じて「フリースクールなどの民間施設」と連携したうえで「多様な教育機会を確保する必要がある」と明示されています。
参考「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律の公布について」(文科省,2016年12月22日公開,2025年5月20日参照)より
参考「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」(文科省,2019年10月25日公開,2025年5月20日参照)より
学校外の機関で学ぶ場合、出席の判断はどのようになるのでしょうか。
文科省は学校外の機関での学習が出席に認定されるための要件を「保護者と学校との間に十分な連携・協力関係が保たれていること。」「当該施設に通所又は入所して相談・指導を受ける場合を前提とすること。」など複数まとめています。
しかし、「適切な支援を実施していると評価できる場合,校長は指導要録上出席扱いとすることができる。」とされ、判断は校長裁量となっています。全国に共通するような明確な基準は示されておらず、運用実態は自治体ごと、学校ごとに大きく差がある状況です。
参考・引用「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)(別記1)義務教育段階の不登校児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けている場合の指導要録上の出欠の取扱いについて」(文科省,2019年10月25日公開,2025年5月20日参照)より
文科省は、「一般に、不登校の子供に対し、学習活動、教育相談、体験活動などの活動を行っている民間の施設」と定義しています。民間の運営による主体性・自主性によって、規模や活動内容は多岐に渡ります。カリキュラムや授業があるところもあればないところもあり、公教育と異なる教育理念や教育方法を採り、学校への復帰にこだわらない団体もあります。比較的少人数で、それぞれが自由に過ごしたり、子ども中心の活動や学習のサポートなどを行っている場合が多いです。
参考「フリースクール・不登校に対する取組」(文科省,2022年10月31日参照)より
教育支援センター(旧称:適応指導教室)は、学校生活への復帰を目指しその支援をするために設置されている施設です。以前は学校以外の場所に設置されていることが多かったのですが、近年は「校内教育支援センター」として、学校内の空き教室等に設置されることが増えています。個別の学習支援の他、スポーツや芸術、調理体験や自然体験など集団での活動もされています。
参考「「教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査」結果」(文科省,2019年5月13日公開,2025年5月20日参照)より
教育支援センターは2023年時点で1743カ所設置されており、そのうちの1704カ所が市町村教育委員会による設置となっています。ただし、2023年度で教育支援センターを活用できている割合は、不登校児童生徒の8.8%にとどまり、ニーズに答え切れていない現状です。
また、以前より減ってきてはいますが、「社会的自立」が重要という文科省に対し、「学校復帰」を目標にしてしまっている適応指導教室が多いことが課題とされています。原因は職員に退職教員が多いことなどが挙げられています。
参考「「教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査」結果」(文科省,2019年5月13日公開,2025年5月20日参照)より
校内教育支援センターは、教育支援センターの機能を各学校内に持たせたもので、「スペシャルサポートルーム」や「校内フリースクール」などとも呼ばれています。2024年時点で全国の46.1%の公立小・中学校に設置されており、文科省の事業により今後も拡大していく見込みです。
参考「不登校の児童生徒等への支援の充実について(通知)」(文科省,2023年11月17日公開,2025年5月20日参照)より
学びの多様化学校(旧称:不登校特例校)は、学校と同じように出席扱いになる教育機関です。2025年11月現在、全国に58校の学びの多様化学校が設置されています。それぞれに特色のあるカリキュラムや教科を編成しており、不登校経験や、不登校傾向のある児童生徒でも学びを継続しやすい仕組みとなっています。
熱心な取り組みもあり、例えば星槎名古屋中学校は、教師全員がカウンセラーの資格を持っています。共感理解教育を掲げ、生徒もコミュニケーションや心理学を学ぶことができ、生徒同士で助け合える「ピア・チューター」の育成も行っています。
岐阜市立草潤中学校では、個に合わせた多様な学び方を徹底されています。オンライン学習によって家や学校内のさまざまな場所で学習ができ、日々の過ごし方や担任まで個々に応じて見直し、変更することができます。
参考「不登校特例校の設置者一覧」(文科省,2022年更新,2022年10月31日参照)より
参考「学校ブログ 12期ピアチューター研修(養成講座)が行われました!」(星槎名古屋中学校,2022年8月27日公開,2022年10月31日参照)より
参考「注目の不登校特例校「学校らしくない」草潤中の今」(東洋経済オンライン,2021年12月7日公開,2022年10月31日参照)より
これまで、教育支援センターや民間フリースクール、自宅等での学習を適切に評価に反映することが非常に難しい状況が続いてきました。
しかし、2024年8月の「不登校児童生徒が欠席中に行った学習の成果に係る成績評価について」という文科省の通知において、不登校児童生徒に対する支援を強化し、学校以外の支援機関や、自宅でのオンライン学習の学習成果の適切な評価への反映が目指されることとなりました。
学校現場と、フリースクールをはじめとした支援機関が、今後どのように連携や情報共有を深め、子どもたちの学びを保障していくのか、模索が続けられています。
不登校という社会課題に対し、社会的な認知も進み、教育機会確保法が制定されたことで学校や民間団体と学校や行政との連携が始まりました。
しかし、不登校傾向も含めると60万人以上と言われる子どもたちの数に対し、公的機関・民間機関を合わせても「学校にかわる居場所・学びの場」は足りておらず、学習権が保障できていないことが大きな課題です。
社会的自立を目標として、多様な選択肢のもとで子どもが学ぶためには、様々な機関の立ち上げや相互の連携が必要です。フリースクールでの学習が出席・単位として認定されたり、教育支援センターの設置が進み学校を中心としない学習の支援が整備されたり、学びの多様化学校の設置の拡大がなされることなどが求められています。また、これらは現在の学校が、不登校状態にある子どもたちを包摂できていないということでもあり、学校がもっとインクルーシブなものになる余地はまだあります。
不登校であっても様々な場所や方法で学ぶことができる「学びの選択肢」が拡大され、そもそも不登校にならなくていいように既存の学校が変容していく、その両輪が回り、噛み合っていくことが求められています。
2024年に大分県玖珠町に開校した「くす若草小中学校」は、公立小中一貫校として九州初の学びの多様化学校です。不登校を経験した子どもたちが安心して過ごせる学校を目指すこの「若草」では、学びの出発点として「大人も子どもも全員が違う」という前提を大切にしています。今回は「多様な子どもがそのままいられる学校とは?」をテーマに、くす若草小中学校の教員と校長、そして教育現場を見つめる3人が語り合った内容をお届けします。
※本記事は2025年9月14日に大分県由布市で開催されたイベント〈主催:Happy Education・School Voice Project〉の様子をもとに構成しました。



小原猛さん(たけしさん):くす若草小中学校校長
1969年大阪府堺市生まれ。5歳の時に両親の離婚をきっかけに別府市内の母子生活支援施設で幼少期を過ごす。大阪教育大学「小学校教育(夜間)5年専攻」を卒業後、臨時講師の期間を経て、1997年から小学校教諭として杵築、別府両市で勤務。2006年から18年間、別府市教育委員会などで教育行政などに携わる。2024年4月から現職。学校では「たけしさん」と呼ばれている。
脇こなぎさん(こなちゃん):くす若草小中学校教員
1995年大分県日出町生まれ。3人兄妹の真ん中。父は高校教員。母の影響で小学2年生から大学4回生までバドミントンに打ち込む。大学卒業後、2020年から教員。前任校では全校児童1000人超の大規模小学校で4年担任と特活主任を担当した。今の公教育の在り方、働き方に課題を感じ、オランダの学校視察へ参加。大人も子どもも幸せな学校の在り方を模索したいと思い、開校初年度からくす若草小中学校(学びの多様化学校)で勤務し「こなちゃん」と呼ばれている。
武田緑さん:School Voice Project理事/学校DE&Iコンサルタント
学校における【DE&I(多様性・公正・包摂)】をテーマに、研修・講演・執筆、ワークショップやイベントの企画運営、学校現場や教職員への伴走サポート、教育運動づくり等に取り組む。また、民主的でインクルーシブな学校教育の実現のためには学校現場のエンパワメントが必要との思いから、全国の学校教職員らと共にNPO法人 School Voice Project」を立ち上げ、現在は理事兼事務局長として活動に従事している。 / 著書『読んで旅する、日本と世界の色とりどりの教育』(教育開発研究所)、共著『「これくらいできないと困るのはきみだよ」』(東洋館出版)

多様な子どもたちがそのままいられる学校にしていくためにくす若草小中学校(以下「若草」)ではどんな取り組みをしていますか?特別な仕組みがあるのか、それとも教員のマインドによる部分が大きいのか、いかがでしょうか。

教育課程については「対話・野遊び・探究」という新設教科があり、従来の枠組みと少し違っているところもあります。でも多様な子どもの違いを認め合うという点では、特別な仕組みはありません。若草は公立学校なので、6年生の子は6年生というように当該学年の授業内容を押さえることは必須です。3年間で3年分を見ればよい、といった幅を持つことが制度として認められていないのはすごく苦しいところです。例えば6年生であっても、1年生から学校に行っていない場合もあります。足し算も掛け算もわからない子にいきなり少数の掛け算や分数は到底できない。そこで、ベースに復習を入れながら当該学年の授業をしていますが、対応は大人のマインドセットによるところが大きいですね。

学校長としての私の役割は、教職員ひとりひとりが生き生きと働けるように後方支援することだと考えています。多様な子どもたちとどう関わるかというところは、大事なのは大人のマインドセットだと思います。私たち大人の考え方に必要以上にこだわる教育観は変えた方がいいと思っています。

障害者運動の中で出てきた「個人モデルと社会モデル」という考え方があるんです。個人モデルをベースにした考え方では、例えば車椅子の人が移動に困っている場合「この人の足が動かないから困っているんだな」と、困りごとの原因をその個人に求める。そうすると、足が動くように手術やリハビリをしましょうとか、どうにもならなければ家族に車椅子を押してもらってくださいという話になります。でも、要因は社会環境の側にあると考えると「エレベーターをつけましょう」となる。人ではなく、バリアに注目して、社会や環境を変えようという考え方が社会モデルです。若草はいろんな子たちにとって居心地のよい環境になっているとしたら、従来の学校にあるいろんなバリアが取り除かれているのかなと感じます。以前は学校に行くのが難しかった子たちが、通えるようになった背景にはどんなものがあると感じていますか。

小学校の算数の授業でいうと、通常だと5年生は一斉に5年生の内容をします。でも、同じ5年生でも学校に通えていた子と全く行けなかった子では進度が全く違う。ですから若草では個別に対応しています。それにプラスして、それぞれの性格や特性に応じてメンバー構成を考えています。例えば性格上、周りの子と比較して自分ができていないことをマイナスに捉えてしまう子どももいれば、学習面では厳しくても前向きに自分のペースでできる子もいます。自分ができるようになったことにフォーカスできるよう、グループ編成にはこだわっています。

学びの多様化学校ではない学校にも、もっと手前の学年でつまずいている子もいれば、板書を取るスタイルの授業がしんどい子もいますよね。そろっていないのに、そろっているものとして動かしているから矛盾が生じる。若草は全員が違うという前提をスタートにするから、子どもたちからすると精神的負荷が低いところがあるのでしょうか。

そうかもしれません。前の学校までは、大人の価値観の型に子どもをはめ込んでいたと私は感じています。何年生になったらこれをしなくちゃいけないとか、この時間はこれをするとか、整列はこうあるべきだとか。「普通ってこうだよね」という価値観の型があるために、子ども大人も苦しんでいました。例えばドリル。私は前任校では、書くことが苦手な子にも書かせていました。購入したものだから、必ずやらせなくちゃいけないという思いが強かった。でも、若草では紙に書くかタブレットで打つかということも、子どもが自分で選ぶことができます。そういったこともあるからか、他の子に対して「ずるい」などという声は一切聞いたことがないですね。

若草の教育活動は「選択肢があるか、自己決定をしているかどうか」ということがキーワードになっています。そこはブレずにここまで1年3カ月、日々工夫改善しながら進んでいる。毎日学校に来ることができるバラ色の学校やと思ったら大間違いで、そんなことはないんです。やっぱりリズムが整わなかったりとか、行きづらい気持ちが出てくる子もいる。そんなときにもその子に自己責任として転嫁せず、先生が「じゃあこんなやり方はどうかな」などといった選択肢を提供することを考えています。


「自己選択・自己決定」というワードが出ましたが、具体的にはどんなシーンでどんな選択や決定ができるのでしょうか?

たけしさんが「たけしさん」と呼ばれているように、まず呼ばれたい名前と自分が学ぶ場所の選択肢を子どもに提示して、自己決定してもらうようにしています。それから、その時間に勉強したい場所を決めてもらっています。「名前は何でもいい」という子もいますが、それでも「呼ばれたい名前を言ってほしい」と伝えます。自分や周りに対して無関心だった子や、意思がない子、考える経験をあまりしてこなかった子たちもいます。そういった子どもたちが「私は何と呼ばれたいんだろう」と自分のことを考えるきっかけになると考えています。

学びたい場所を決めるというのは、どこでもいいんですか?

どこでも。外でも。グラウンドでも。

私の机でも。笑

校長先生の机で勉強したいっていうのもありなんですね!基本的には個別の内容をやっているから、同じ空間にいる必要性はそれほどないというイメージで合っていますか。

教科の学習は学年で一緒にすることも多いですが「次、6年生の社会どこでするー?」と聞いて、図書館にするとかお座敷の部屋でするっていうのを決める感じですね。自学の時間が週に3回あって、その時間も個別の学びなので、個人がやりたい場所でやっています。中には体育館の倉庫の中が一番落ち着くという子もいます。跳び箱の上で勉強するとか。自分が一番落ち着ける場所を子どもたちも探しながら「あ、ここだ!」みたいな場所を見つける。

私は海外の教育現場を見に行くスタディツアーを企画しています。、ヨーロッパの学校に行って特に衝撃だったのは学ぶ空間のデザイン。廊下にソファーやテーブルがあって、そもそも選択肢がある環境になっていました。廊下の靴箱の上でパソコンを膝の上に置いて3人並んでパソコンを開いてる高学年ぐらいの子がいたので、私はまず担任の先生に「あれはいいんですか?」って聞いたんですけど。笑 「学べていればいい」というお返事でした。やっぱりひとりひとりが自分に合う学び方とか、自分が集中できる空間の違いがありますもんね。それぞれが違うから、選ぶことができる。

大人のみなさんにもそれぞれ自分が一番居心地がよくて、集中できる場所があると思うんです。子どもたちにもそういった居場所があるという前提に立ったときに、やはりいろいろな環境を準備しておかなきゃいけない。そういったことは学校で常々話しています。


自己選択と自己決定をどこまで求めるか、どこは緩めるかというポイントを見極めることはけっこう難しいですよね。そのポイントは決めて対応していますか?それとも調整していますか?。

かなり調整しているかも。決めることがストレスになるという子もいますし。そういう子には最初は「一緒に考えようか」と言って、だんだん自分で決める方向性に持っていきます。選択肢は最終的には子どもが持ってほしいという思いがあるので、すべて大人が決めるというわけではないですけど。その子の現在地やその日のコンディションによっては、こちらから提案することもあります。

基本的なところでいうと、安全とか命に関わることについては一歩たりとも譲りません。でも、それ以外では自由だったり、満たされたりする状況を作ってあげたい。「今は静かにしよう」という雰囲気を子どもに分かってもらうには、それ以前から、同じくらいの振れ幅で、褒めたり認めたりしていないと伝わらない。満たされていなければ、子どもは静かにしないと思うんです。例えば、うちの体育館はバドミントンのネットを出しっぱなしなんですよ。それはなぜかというと、出しておいた方がいつでも運動できるから。通常、一般的な考え方でいけば、運動するときには準備をして活動をして片付けをするのが当たり前とされています。でも、私たちは教職員で話し合って遊ぶことと体を動かすことを最重点にしようという結論を出した。体を動かすことや、認められることで満たされたら子どもたちは片付ける。また別の活動でスペースが必要な状況になったときには片付けを始めるんです。

若草の先生たちも前任校では「ルールを守れ」「出したものは片付けろ」と言ってきたんですよね。だから最初は「ルールがない」ということに対して私たち大人はすごく怖かった。でも、子どもが来なくなったら意味がないという前提がありましたし。正直「これが正しい」という思いで規制を外したのではなくて、ゆるくしないと子どもたちが来なくなるんじゃないかという気持ちもありました。でも、去年1年間やってみて、子どもって満たされたり、こちらが心から信頼して委ねたときに、絶対外れたことをしないと確信しました。よく大きな叫び声を上げていた子がいて、普通だったら注意してしまうけど、その子は何か理由があって叫んでいるんだろうなと思う。「静かにしなさい」と言うべきかどうか悩みましたが、結局「言わない」という選択肢を先生たちがみんなで取りました。すると、叫び声はだんだん収まっていったんです。

若草の素敵なところは、子どもに責任を求めるんじゃなくて、何か理由があるんじゃないかと(思えること)。例えば、車からなかなか降りない子に対して「昨日家で何かあったんと違うか」というふうに考える感性は教員にとって大事ですよね。

自己選択・自己決定など、子どもの自己肯定感を育む関わりを生むための学校としての軸がどうやって決まっていったかということも気になります。また、軸を決めたとしてもひとりひとりが違う先生たちの中で腑に落ちて対応することは、簡単ではないと思います。その辺りはどのように共有していますか。

みんな意思が一緒で仲が良くて「たけしさんが目指すビジョンの通りに頑張ります」みたいな大人がうちの学校の職員だったら、僕はたぶん気色悪い(笑)。大人もでこぼこであるということを踏まえて、基本的なことについては研修を組んでいます。だけどそれが腑に落ちるかどうかは、私は、関係性やと思う。関係性を作ることによって学びの深まりが変わってくると考えています。シンプルな仕掛けを設けたのは、4月1日。人事異動で初めて出会った大人同士、みんな緊張するでしょう。その空気感を変えるためにしたのは「私の名前は小原猛です。たけしさんって呼んでください」という声掛けです。そうすると、何人かの人が呼ばれたい名前をいうときに「小さいときにそう呼ばれていて、うれしかったから」とか言って、その名前で呼ばれたい理由を教えてくれた。そうしたらもうその時点でその人の名前を呼びやすくなるんです。そうやってお互いの関係性を少しずつ噛み合わせながら、目指すことを共有して、お互いの価値観の違いは埋めていく。そんな日々ですね。

率直にいうと、私はチーム担任制に難しさを感じています。以前の学校では基本的な学級運営は個人個人に任されていました。若草のチーム担任制は、小学部の子どもたちを大人4人で見ていて、中学部も大人5人で見ています。それぞれの先生が自分の考えを持っている中で、最上位目標に向けて折り合いつけていくにはどうしたらいいか、悩みます。教員って合意形成の経験が少ないな、私には折り合いをつけていく経験が少なかったんだなと思いました。経験や年齢や、価値観が違う大人が集まって一つのことをするためには、対話力が必要になってくる。対話を可能にするのは、たけしさんが言うような関係性。うちの学校には「何を言っても大丈夫」というのは、ベースとしてはあります。だけど「相手に伝わるようにどう言えばいいかな」とは思う。私は1学期、葛藤しました。

チーム担任制については、今こなちゃんが話した状況はまさしくデメリットに近いと思います。ただ一方で、僕は子どもから見たときのチーム担任制にメリットがあると思っているんです。子どもから見て「あの先生に話したい」という人が学級担任という1人に限られたもの、という固定概念を変えた方がいいと考えています。でも一方で大人のサイドから見たときにはデメリットがあるのは十分わかる。

デメリットもあってとても大変だとは思うのですが、大人にとっても「どうしたら伝わるんだろう」と考える経験ができることは、大事なことでもあると感じました。最後におふたりとも、ひとことずつお願いします。

今、学びの選択肢が充実してきていて、オルタナティブスクールやフリースクールも選択できるようになってきました。それはすごく素敵なことだと思っています。その一方で、そういった場所に通う選択肢を選ぶことができない子もたくさんいるのが現状です。自分の家から通うことができる公立学校が多様であれば、もっと子どもが居やすいんじゃないかなと思います。大人にしてもそうです。病休者も増え、苦しんでいる先生たちも見てきました。みんなでこぼこがあるという前提に立ったとき、多様な学びの学校があるというのは先生たちにとっても救いになるし、いいきっかけになるのではないかと思っています。

若草は不登校特例校ですから、子どもたちはいわばカミングアウトして通ってきています。私自身も、両親の離婚に伴って母子生活支援施設という、かつての母子寮で暮らしました。そういう経験もあって、「もっと生きづらさを話してもええよ」っていう状況に進めたらいいと思っています。うちの学校の子どもたちや親御さんの様子を見ていても「先生あのね」と話をしてくれるようになってきています。これからもカミングアウトしやすい社会にちょっとずつ向かっていけたらいいなと思っています。

多様化学校であるという点で登校時間や教育課程など、柔軟にやりやすい面はあるにせよ、それ以外の学校でもできることがあると感じました。特にマインドの持ち方や細かい日々のやり方に関しては、いろんな学校で取り入れることができると思います。これからも学び合いながら、前に進んでいけたらいいなと思っています。本当にありがとうございました。

くす若草小中学校とは?
2024年に大分県玖珠町に開校した、公立の小中一貫校としては九州で初の学びの多様化学校。25年9月現在、小学部11名・中学部10名の計21名が学んでいる。教職員数は13名。「みんなが主役の学校」を学校教育目標とし、子どもと大人が一緒になってつくる学校を目指している。
Happy Educationとは?
「みんなが笑顔で幸せになれる教育って?」をベーステーマに対話しながら考える有志の会。大分県ゆかりの教職員や学生・地域の保護者がメンバーとなり、約2年前から始動。大人も子どももウェルビーイングな形で過ごしていける社会を目指し、北欧などの海外視察報告会や座談会・ワークショップを開催している。
NPO法人School Voice Projectとは?
「学校現場の声を見える化し、対話の文化をつくる」をミッションに、100名を超える現職・元教職員メンバーの参画によってスタート。一人ひとりの教職員が日々働きながら感じ考えていること=「学校現場の声」を見える化し、課題解決へとつなげるための組みとして、WEBアンケートサイト「フキダシ」・WEBメディア「メガホン」・教職員のオンラインコミュニティ「エンタク」の運営、さらに政策提言・ロビイング活動に取り組んでいます。 https://school-voice-pj.org