子どもも大人も“ウェルビーイング”な学校へ!【イベントレポート】
心身ともに満たされた状態を表す「ウェルビーイング(Well-being)」。
学校の多忙化や窮状が知られるようになっている昨今。NPO法人School Voice Projectは、学校で過ごす子どもや大人がより良い状態で過ごすために必要なことを考える対話イベントを開催しました。
場所は、東京都調布市に校舎を構えるドルトン東京学園 中等部・高等部。ゲストに公立小学校教員の森村美和子さんと、ばん走者・授業づくりネットワーク理事長の石川晋さんをお招きし、NPO法人School Voice Projectの理事も交えてパネルトークを行いました。イベントには60名を超える方にご参加いただき、参加者同士で対話をする時間も設けられました。この記事では、イベントの様子とともに、パネルトークのダイジェストをお届けします。
イベント概要
・日時:2023年12月3日(日)13:00〜16:30
・場所:ドルトン東京学園 中等部・高等部(〒182-0004 東京都調布市入間町二丁目28番20)
・対象:教職員、教育に関心のある方
・主催:NPO法人School Voice Project
・協賛:株式会社Yogibo
登壇者プロフィール
●ゲスト:森村美和子さん
東京都内公立小学校の特別支援学級教員
学校心理士・教育相談コーディネーター
公立小学校の知的障害学級、通級指導学級、巡回指導で実践を重ねる。一人一人の違いを前提に、「子どもを変える」のではなく「環境を変える」実践に取り組み、GIGA端末等も活用した個々の特性・ニーズに応じたサポートなども工夫してきた。
また、2012年に東京大学先端科学技術センターの熊谷晋一郎氏と出会い、当事者研究の試みを参考に、教育の場で子どもたちと「自分研究」として新たな実践にチャレンジ。こちらは、著書『特別な支援が必要な子たちの「自分研究」のススメ』にまとめられている。https://bunshun.jp/articles/-/55798
●ゲスト:石川晋さん
ばん走者・授業づくりネットワーク理事長
横浜市立小学校教員・元北海道公立中学校教員
1967年、北海道旭川市生まれ。1989年北海道中学校教員として採用。以降、オホーツク、旭川、十勝の中学校を歴任し、2017年3月に退職。その後、日本中の学校を年間100校以上訪問し、飛び込み授業や校内研修に関わる。またオンラインでも全国の多くの先生たちと対話を続けている。2022年からは横浜市の小学校で再び教員として勤務している。著書に『学校とゆるやかに伴走する』と『笑顔と対話があふれる校内研修』などがある。https://toyokeizai.net/articles/-/688019
参加保障に関して
NPO法人School Voice Projectでは、《誰もが参加できる仕組みづくり》を目指しています。参加ハードルの高さをなるべく解消すべく、聴覚障害等をお持ちの方や日本語が不自由な方にも参加していただけるように登壇者の発言をすべてリアルタイムで文字起こしし、プロジェクターに投影しました。また、保育ボランティアの配置やキッズスペースを確保することで、お子様連れでも参加しやすい環境設定をしました。
会場にはヨギボーがいっぱい!
今回は、イベントに協賛してくださった株式会社Yogiboさんのご厚意で、いろいろな種類のヨギボーをお借りして会場に設置。ゲストや登壇理事の皆さんにもヨギボーに座ってお話しいただきました!
楽しさや嬉しさ以外の気持ちも受け止めて
1人目のゲストである森村美和子さんからは、「子どものウェルビーイング」をテーマにお話いただきました。聞き手は、School Voice Project 理事の若杉逸平さんと久保敬さんです。
「多様な子どもがいることを前提として、学校づくりをしているでしょうか?」ゲストの森村さんからは、そんな問いが投げかけられました。公立小学校の特別支援学級の担任を勤めてきた森村さんは、子どもたちとの関わりから“当事者の視点に立ち返ること”の大切さを感じるようになったと言います。
コミュニケーションは、人と人の間にあるものなんですよね。上手くコミュニケーションが取れないときに、一方だけの責任にするのではなく、安心してヘルプが出せる環境や関係性があるといいですよね。それを考えていくことは、ウェルビーイングにも繋がっていくことだと思います(森村)
森村さんが実践したのは、子ども自身が自分の困っていることを研究し、対処方法を考えて発表する「自分研究」。イベントでは、さまざまな子どもの自分研究の成果を紹介していただきました。「自分研究」に決まったやり方はなく、キャラクターを作ったり漫画を作ったりと、それぞれが好きな方法で自分の困っていることを表現します。
いろんなお子さんと関わる中で、『不安があっても、それを自分の一部として向き合っていく方が楽なんだよ』と教えてもらいました。教員としての私は、真逆のことをしてしまっていないだろうかと考えさせられました。皆さんは、子どもの嬉しさや楽しさ以外の気持ちも、受け止めているでしょうか?(森村)
続けて、大人のウェルビーイングの大切さについてもお話しいただきました。
ある子どもが、私に手作りのカードをくれました。そこには『疲れは頑張りの証』と書いてあったんです。皆さん、疲れていませんか?私たち大人も、疲れている自分をもっと抱きしめてあげていいのではないかなと思います。
そして別のカードには、『誰でも世界は変えられる』と書いてありました。そのための一歩がきっとこういう場でのつながりなんだと思っています。人にはそれぞれいろんな得意や強みがあります。手を取り合って、一緒にとことん悩む。そんなことから、世界は変えられるのではないかな。そんな希望を持っています(森村)
森村さんのお話をじっくりと聞いてからは、若杉逸平さんと久保敬さんも交えて、ウェルビーイングについて考えていきました。
子どもの声を聞くことは大切だけど、その前に大人は自分の声を出せているのだろうか…と考えてしまいました。私はSchool Voice Projectの理事として活動する中で、自分のことを話せている実感があります。そういう関係性は大切にしていきたいなと思います。それと同時に、教員はやっぱりいい仕事だなと感じました。子どもとともに人間として成長していける素敵な仕事だと思います(久保)
大人が“聴く”という行為を丁寧にすることで、子どもは本当に出したいものを出すことができるのではないかなと思います。私は普段ファシリテーターの役割をすることが多く、子どもが安心して声を出せる環境をどうつくるかは意識するようにしています。森村さんの著書『自分研究』も読ませていただきました。さまざまな事例を紹介しつつ、子どもとの関係をどうつくっていくのかについて丁寧に書かれていて、大変参考になりました(若杉)
パネルトークのあとは、参加者同士で感じたことをシェアする時間も設けられました。真剣な表情で語り合うグループもあれば、笑い声が聞こえてくるグループも。
実感を伴う言葉を使って語る
2人目のゲストである石川晋さんからは 「教職員のウェルビーイング」をテーマにお話いただきました。聞き手は、School Voice Project 理事の山本智子さんと加藤陽介さんです。
2016年に発行された写真絵本『わたしたちの「撮る教室」』の紹介から始まりました。
2011年頃から、私の実践はものすごい勢いで変わりました。それから5年間くらいの集大成のような本です。当時担任していた中学3年生の41人がそれぞれカメラを持って、1年間自分たちの教室を撮り続けるんです。プロのカメラマンである小寺卓矢さんに来てもらって、1年かけて教室づくりの実践を記録しました(石川)
絵本からは、自分が感じたことを表現しようとする生徒一人ひとりの姿があることが伝わってきます。丁寧に絵本の中身を紹介した上で、石川さんは参加者にこう投げかけます。
さて、私の教室にあったのはウェルビーイングですかね?
そして、続けます。
この実践をしている当時の私は、ウェルビーイングなんて言葉は知らなかった。ただ、子どもたちが幸せに暮らせればいいなと思っていましたし、子どもたち一人ひとりが自分の特性に合わせて自分のペースでいろんなことができればいいなと思っていただけです。
実践者は今、巧妙に自らの言葉を剥奪されているように思います。私たちは、幸せも喜びも苦しみも悲しみも、自分の実感を伴って使う言葉でしか伝えられないはずです。決して、ウェルビーイングという言葉がダメだと思っているわけではありません。ただ、僕らは実践者だから、自分で自信を持てる言葉を使えばいいと思うんですよ。それが私たちが幸せでいられることに繋がっていくんじゃないかと思います(石川)
パネルトークでは、「大人の幸せ」についてそれぞれがエピソードを交えながら振り返りました。
職員室と教室は地続きだと思っているんです。『子どもたちと過ごすのは幸せだけど、職員室での人間関係はちょっと…』という声も聞きます。職員室でも学級づくりと同じように、みんながそれぞれを思いやったり、思いを打ち明けられたりできたらいいなと思います(山本)
私は公立小学校でいじめ対策担当教員をしています。いつもイレギュラーな対応なので、予定の目処が立たないんです。思い通りにならないことが多いのですが、その中でも楽しさを感じることはあります。担任が対応しきれないところを自分が肩代わりしたり、関わっている子どもの変化を聞いたりすると、自分が役に立っている実感が沸くんですよね(加藤)
最後に、石川さんから、自分の目の前にあることと向き合うことの大切さについてお話してくださいました。
私たちは今、愛が高じて自分のことをちゃんとやっていないと思うんです。いろんなことに手や足を突っ込んでいるんじゃないのかな、と思うわけです。自分の授業をとにかく一生懸命やっていたら、それで日が暮れるはずなんです。誰かを変えようとするのではなくて、自分の持ち場を離れずにやっていれば、それが楽しさにつながるはずなんですよ。
そもそも生まれも育ちも全然違う人たちが集まって職場を形成しているんだから、分かり合えないのは当たり前ですよ。それでもお互いのことを少しでもわかるように近づいてみるのが対話なんだと思います。
お2人のゲストを招いて行ったパネルトークのあとは、参加者同士での対話の時間を設け、イベントを終えました。
参加者の声
フラットな雰囲気づくりのおかげで、現場の先生の思いやお悩みなどをリアルに聞くことができ、自分自身も素直にお話することができました。
今までオンラインでお会いしていた方、全国から集まって来られた方に対面でお会いできて、対話することができて、とてもすてきな時間でした。目の前の子どもたちに自分ができることを丁寧に、子どもたちの目線にたって関わっていこうと改めて思いました。すてきな会をつくってくださって、ありがとうございました!またエンタクでもつながりを続けて、学んでいきたいてす。
学校はそもそも多様な子どもたちがいる、という前提となっているだろうか、という問いは、自分が普段から考えている問題意識とマッチしていました。そして、ここに気づくためには、当事者の視点、子どもたちの視点、気づきをシェアできる大人どうしの仲間が必要だと思った。SVPがそうした大人のつながりづくりの場になっていて、それが育っていけばいいなと思いました。
実際にモヤモヤされている学校現場の方々が、それでもなんとか動こうと集まられている、この状況が貴重な場だなぁと思いました。スピーカーの話は馴染み深く、素直に感じられる話でした。話の背景にあるものや状況から見える課題が、私の関心ごとです。どうやったら、多くの教育現場が「いい感じ!」(私が使うウェルビーイング置き換え)になるでしょうかねぇ。考えつづけようと思います。
まとめ
「ウェルビーイング」をテーマとしたイベントでしたが、ゲストの石川さんからは「自分で自信を持てる言葉を使えばいい」というお言葉がありました。近年耳にするようになったウェルビーイングという言葉によって、心身ともにより良い状態であることに意識が向けられるようになった一方で、どこか実感を伴っていない言葉が一人歩きしてしまう側面もあるかもしれません。大切なのは、より良いと感じる状態を一人ひとりが言語化していくことではないでしょうか。
そして、その言語化の過程には、「聞いてくれる人」の存在が不可欠です。森村さんからは「子どもの嬉しさや楽しさ以外の気持ちも、受け止めているでしょうか?」という問いが投げかけられました。ポジティブな言葉だけではなくネガティブな言葉も、そして言葉にならない思いも、そのままを受け止めてくれる人がいることで、子どもも大人も安心していられる場がつくられていくのだと思います。
今回はウェルビーイングをテーマに、会場となったドルトン東京学園 中等部・高等部の先生方にもご協力いただき、誰もが参加できる仕組みづくりを意識して開催しました。NPO法人School Voice Projectでは、今後もオンラインや日本全国で学校現場をよりよくしていくためのイベントを開催していきます。
教職員をはじめとする、学校教育に関心を持った方が集まるコミュニティ「エンタク」のメンバーの方にはお得な割引もあります。ぜひ参加をご検討ください。
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建石尚子