教職員×議員 学校の現実を本音で語る会in大阪【イベントレポート】
「教職員×議員 学校の現実を本音で語る会」をたかつガーデン(大阪府教育会館)で、2023年1月29日、2月19日の2日間にわたり開催しました。NPO法人School Voice Projectと大阪大学人間科学研究科佐藤功研究室が共同で主催。延べ87人の教職員と議員(立候補予定者含む)が参加し、大阪の教育について意見を交わしました。当日の様子は、産経新聞、朝日新聞、大阪日日新聞、関西テレビで報道されました。
大阪の議員に学校の実情を届ける会はこれまでにもオンラインで開催してきましたが、今回は久しぶりに参加者が1つの会場に集まって開催することができました。
2回に分けて実施された本イベントには、主催者の呼びかけや説得に応えるかたちで、府議会議員・市町村議会議員・立候補予定者の方が延べ10人参加。与野党の垣根を越えて、ほぼ全会派の方にお越しいただいたことに大きな意味があったと思います。
本記事では、イベントの様子とともに参加した教職員や議員の声を中心にお伝えします。大人たちが立場を超えて語り合い、よりよい教育を模索していくことの価値を感じていただけると嬉しいです。
1月29日、キックオフ会。参加者が対等な関係で語り合う
大阪府内の公立学校における教育の基本的な方針を定めた「教育基本条例」。2012年に制定されてから、約10年が経ちました。
初日である1月29日は、「教育基本条約」の制定を機に学校現場がどう変わったのかを振り返り、参加者とともに今後の大阪の教育を考えていきました。
第1部はパネルトークとして、大阪府の教育基本条例の草案をつくった立場でもある大阪維新の会の紀田馨議員、大阪市の松井市長に提言書を送ったことでも知られる元大阪市立小学校校長の久保敬さん、府内の現職の中学校教員の川上典子さん、高校教員の榎原佳江さんが登壇。ディスカッションをしました。コーディネーターを務めたのは、大阪大学教授の佐藤功さんとNPO法人School Voice Project理事の武田緑です。第2部ではパネルトークを踏まえ、グループに分かれて教職員と議員で意見を交わしました。
イベント冒頭には司会者から以下のようなアナウンスがあり、参加者全員が対等な関係として対話の場をつくっていくことの大切さを強調しました。
「本会は、今の子どもたちと未来の子どもたちのために、教職員と議員が立場を超えて本音で語り合う会です。さまざまな考えを持ち寄り、対話によってよりよい大阪の教育をつくっていくことを目指しています。『さまざまな考えをもつ方が集まって、みんなでよりよい大阪の教育をつくっていくこと』を趣旨とする会です。特定の政党の良し悪しを判断することや相手を攻撃するような発言はお控えください」
議員、元校長、現役教職員を交えてのパネルトーク
第1部では、それぞれの立場から、大阪の教育への課題意識や、「こうしていきたい」というビジョンが語られました。議論が空中戦・水掛け論にならないように、一人が話した後に、他の登壇者が、その人の語ったことについて、深堀する質問をするというスタイルで全員が話し、その後フリーディスカッションという流れで進行しました。
紀田さんからは、学校統廃合について、今後の少子化を見越して必要だという判断をしたこと、どの学校を廃校にしても反対は出るので「市民、納税者から選ばれているかどうか」という点を判断基準にしたこと、また、納税者の意向を教育に反映させるルートが必要だと考えていること、などが語られました。他の登壇者からは、「いわゆる偏差値が低い学校から廃校になっていて進学先を選べない生徒がいる」という実感や、「通える範囲に行ける公立学校がない」というケースをどう考えるか、という質問が出されました。紀田さんは「通える範囲に公立校2校は残すということにはなっている」「ここまで、偏差値の低い学校から廃校になっていくとは思っておらず、今後検討は必要」との考えを返されました。
久保さんからは、37年間大阪市の小学校で勤務する中で、2000年代以降、教育の結果・成果を問われ、PDCAサイクルで改善が求められ、現場が息苦しくなってきているという実感が語られました。学力など、数値的な結果が求められることでむしろ大事なものが失われているのではないか。一番しんどい子どもが取り残され、しわ寄せがいっている。(上位は)相対評価の教員評価もやる気を削ぎ、分断を生んでいる…といった思いが語られました。
川上さんからは、不登校傾向の生徒や別室登校の生徒もいる中で、個別対応が必要だが、人が足りていないこと。部活動でも家庭の事情等で実質動ける人が少なく、替えがいないギリギリの状況でまわしていること。そんな多忙でゆとりのない状況の中で、教職員のつながりの希薄化していることなどが語られました。
榎原さんは、職員会議のあり方について話されました。自分が入職した頃は、職員会議で挙手をして意見表明をするということが当たり前に行われ、「自分の意見を言いなさい」というふうに育てられたけれど、教育基本条例ができ、職員会議のあり方が大きく変化したという実感があること。職員室でも意見が言いづらくなり、教職員が考えないようになっている。職場の民主主義が崩壊しつつあるという危機感を語られました。
「教員にゆとりがない」学校の現状を伝える。聞く。
パネルトークの後は、参加者を交えて6、7人のグループに分かれ、意見を交わしました。
テーマはフリーですが、机の上には、次回の本番でのディスカッションテーマになる「部活動」「特別支援」「校則」「統廃合」「評価」「大阪の教育(全般)」の6つのトピックを書いたカードと「聞いてほしいこと」「困っていること」「変えたいこと」と書かれたカードが9枚並べられました。何を話せばいいのか迷子にならなくて済むようにするための工夫です。皆さんカードを手に取りながら、お話をされていました。
多くのグループで話題になっていたのは、教員のゆとりについて。業務量が多いことで教員が疲弊している事実や、その状態が児童生徒にも影響を与えていることへの懸念を訴える声がありました。
- 若い先生が疲弊するのはもったいない。若い先生が頑張れるような環境づくりが必要。(中学校教員)
- 部活動など負担になることを減らさないと、教員になろうとする人は増えない。(中学校教員)
- 講師の登録者数を増やさないと、現場は疲弊してしまう。(中学校教員)
- 1学級に在籍する児童生徒の人数や大阪府で独自に行われているチャレンジテスト、校則やルールについての意見も交わされました。
- 35人で授業を受けるように設計された教室に、40人の生徒を詰め込んでいる。空間的な余裕があれば、一人ひとりに声を掛けられる。(中学校教員)
- 支援学級に在籍している生徒を、通常学級の人数に数えないのはおかしい。(中学校教員)
- 「チャレンジテスト」で競争させることで、教員や子どもは疲弊している。(中学校教員)
- 髪色が茶色い生徒は、地毛登録をしなければいけない。保護者にも確認が必要。生徒の人権にも関わる問題ではないか?(高校教員)
- 学校の統廃合については、教員や生徒の意見はなかなか聞き入れてもらえず、決定事項が通達されるような現実があるようです。
- 高校で定員割れが続いて、教育庁の判断によって統廃合することが決まった。決定までに議論の場はなく、納得できなくても覆ることはない。(元高校教員)
- 入学者数が減って、今後統廃合につながるかもしれない。保護者のニーズに合わせる学校となり、「勉強(進学)・部活・しつけ」だけになっているように感じる。息苦しいのは公立も私立も同じ。(私立高校教員)
- 統廃合を止めるために、地域代表になって行政とやり取りした。1番子どものことを思っている当事者なのに、統廃合に関して先生の意見は聞いてもらえない。統廃合によって子どもが不登校になっても、先生はヘルプを出すことができない。(元高校教員)
参加した議員らは、丁寧に教職員からの意見に耳を傾け「日頃からもっと学校の先生と話す機会がほしい」という声も聞かれました。また、「先生に余裕がなく、ゆとりがないことで子どもからのSOSに気づかないことがある。先生の給料を増やし、人数も増やして負担を減らすことが大切」「日本は世界的に見ても教育予算が低すぎる。地域によって、各家庭が子どもにかけられる教育費は違うのに、その中で学力を比べるのはおかしい。しんどい地域の子どもが不利になる制度だと思う」などと教職員からの声に応えました。
「キックオフ会」の感想
3時間かけて意見を交わした本イベントでは、他校の現状を聞いて驚く教職員の姿や、教職員の声に丁寧に耳を傾ける議員の姿が印象的でした。教職員からは、校種の違う人の意見を聞けたことや、政策の意図を知ることができたことへの価値を感じたという感想が寄せられました。
参加者からの感想
- 「議員の方のお話が聞ける!直接現状を伝えられる!」というのが、今回の参加理由でした。実際、お話を聞いて、統廃合やチャレンジテストについての意図がわかったり、その意図と現状が少しずれていることも分かりました。教職員と議員の方の解決したい課題が一緒だと思うと、少し元気が出ます。(中学校・教職員)
- 違う校種や職種の方々といろんな意見を言い合えて良かったです。少子化、子育て支援が叫ばれる中、教育にもっと予算がつくようがんばらないとあきません。(高校・教職員)
- かねてから教育現場の教員は、どのように大阪の教育について考えているのかを直接、お聞きしたかったのでいい機会を得ました。今後の大阪の教育行政の立て直しに向けての取り組みに尽力します。(議員候補者)
- とても心地よい時間を過ごすことができました。議員が先生の生の声、そしてやる気を目の当たりに出来る素晴らしい企画です。(現職議員)
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メガホン編集部