学校をもっとよくするWebメディア

メガホン – School Voice Project

学校をもっとよくするWebメディア

【前編】学校のビジョンを握るのは生徒。対話から生まれた小津中学校の羅針盤

  • メガホン編集部

制服は10万通りの組み合わせから自由に選び、全校会議は生徒自身が設計・運営する。定期テストはなく、生徒の「好き」から探究プロジェクトが生まれていく――。

これが、ある公立中学校の日常だと聞いたら、驚く方も多いのではないでしょうか。

大阪府の南部、海沿いに位置する泉大津市立小津(おづ)中学校。キーコンセプトに「生徒が創る学校」を掲げる同校は、文部科学省の「研究開発学校」や経済産業省の「未来の教室」先進校に指定され、OECD(経済協力開発機構)とも連携して改革を進めるなど、今、全国の教育関係者が注目している学校の一つです。

しかし、最初から今のような学校だったわけではありません。

前編では、小津中学校がいかにして独自のビジョンを生み出し、生徒自身の手で学校の「当たり前」を変えていったのか。その歩みと、生徒たちの取り組みをお届けします。

生徒が設計する「おづこれ会議」

「まず最初に、『学校のコンパス』の3つの姿に当てはめて、自分の1年間を振り返ってください」

2026年2月5日。泉大津市立小津中学校の各教室では、教壇に立つ生徒たちの少し緊張した声が響いていました。生徒たちは3〜4人で「学校のコンパス」が書かれたワークシートを囲み、付箋に書いたそれぞれの振り返りを貼り付けていきます。

「学校のコンパス」とは、小津中学校における最上位の学校運営方針(ビジョン)であり、生徒が卒業時に目指したい姿を言葉にしたもの。

2023(令和5)年度に初めてつくられた「学校のコンパス」は、毎年生徒たちの話し合いによりアップデートされてきました。2025(令和7)年度は、「信頼(余白・対話・言葉の力による)」を中心に、以下の3つの柱から構成されています。

1. 自芯をもつ:「踏み出す」をくりかえして身につけた自信と自分の芯
2. 認め合う:周りを見て考え、人のために行動できる
3. 「やわらかさ」で0から1を創る:遊びを学びに・学びを遊びに

この日、行われていたのは「おづこれ会議」。

おづこれ会議とは、「小津(おづ)のこれから」を考える全校会議のことです。生徒や教員が参加し、理想の学校の姿について話し合うための場として、2022(令和4)年度から始まりました。

2時間の会議は、すべて生徒たちが設計しています。スライドの準備や時間の使い方の検討、問いの設定、ワークシートの作成、当日の進行までも生徒たちが担い、教員は基本的にその様子を見て回り、必要に応じてサポートするのみです。

中には、2年生のクラスの進行役を1年生が担っている教室もありました。事前に準備した台本を片手に、緊張した面持ちで懸命に役目を果たそうとする姿勢が伝わってきます。参加する生徒たちの中には、積極的に意見を出す子もいれば、どう発言していいか戸惑っている子もおり、その主体性や参加度には当然ながら違いが見られます。

より活発な議論ができるよう、進行役の生徒たちは、会議を始める前に自分たちで決めた「認め合う」ための対話のルールを丁寧に伝えていました。

・耳をすまして聞く
・沈黙を歓迎する
・否定したり決めつけたりしない(違いを楽しむ)
・お互いの顔色を伺わない
・考えが変わってもOK
・対話を楽しむ
・個人が特定される形でマイナスなことを言わない
・関係ない「仲間内の変なノリ」に逃げない

このルールを聞くだけで、多様な生徒たちが、自分の意見を安心して言えるための配慮がなされているのが伝わってきます。

3学期に入ったこの日のおづこれ会議で話し合われたのが、「学校のコンパス」の振り返りと「先生のコンパス」の振り返り。そして、「保護者のコンパス」をつくるための意見交換。

※ 「〇〇のコンパス」という言葉は、OECDが提唱する未来の教育枠組み「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)」に由来しています。(参考:https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/about/projects/edu/education-2040/concept-notes/OECD_LEARNING_COMPASS_2030_Concept_note_Japanese.pdf

「先生のコンパス」とは、小津中学校の教員のあり方の指針をまとめたもの。生徒たちの声を踏まえ、「おづこれ会議」での話し合いを重ねてつくられました。学校のコンパスに基づいて、ここでも『信頼(「できる前提」で生徒と関わる)』を軸に、以下の3つの柱から構成されています。

1. 成長の場を与え、任せ、見守り、ともに喜ぶ
2. 「あなた」を認める。先生が「認め合い」の連鎖の起点となる
3. 生徒と先生の壁をなくす。生徒・先生、双方の「好き」と「遊び」を大切に


「保護者のコンパス」は、「先生のコンパス」に続いて作成が進められている保護者のあり方の指針です。この取り組みの特徴は、教員や生徒からではなく、保護者自身の提案がきっかけで始まったところです。

この日は、「保護者のコンパス」をつくるために、生徒たちが「保護者からのどんな関わりが嬉しかったか、あるいは嫌だったか」を出し合います。さらに、「もし自分が保護者だとしたら、子どもにどう関わりたいか」と、立場を逆転して考えるワークも行われました。

組み合わせは10万通り。「自分らしさ」を選ぶ標準服

教室を見渡すと、パーカーの上にブレザーを羽織る生徒やラフなズボンを履いた生徒の姿が目に入ります。

実は、小津中学校の制服(以下、標準服)は、生徒たちが主体となって校則を見直す「ルールメイキング・プロジェクト」によって2022(令和4)年度に生まれたものです。以前は、男女で分けられた学ランやセーラー服でしたが、生徒たちが企業の方と話し合いを重ね、多様性に配慮した新しいブレザータイプの標準服を完成させました。さらに、学校が指定した衣料品店ユニクロの既製品を自由に組み合わせることもできます。

その組み合わせ方は、10万通りを超えます。誰かが決めた「中学生らしさ」や「性別による枠組み」に自分を合わせるのではなく、その日の体調や気分、自分らしさに合わせて服を選ぶことができます。

生徒の声から生まれた羅針盤

生徒が学校の経営方針を語り、自分たちで対話の場を設計する。そんな姿に近づくきっかけとなったのが、2021(令和3)年度に生徒主体で行われた学校行事「新劇の祭典」でした。

感染症の流行により、多くの行事が中止になる中を過ごした生徒たちから、「コロナ禍でも学校全体で行うことができ、みんなが笑顔になる行事を行いたい!」という声が上がったのです。

この提案があったのは、年度途中の5月。通常、学校ではすでに年間スケジュールが決まっている時期です。そのため、予定外の行事を実施することに対しては、教員間で懸念の声も上がっていました。そんな中、校長の後押しもあり、最終的には「やってみよう」「生徒たちに任せてみよう」という雰囲気で行事に向けた準備が進んでいくこととなったのです。

1ヶ月半ほどの間に、企画や台本づくり、当日の運営や音響、照明に至るまで、ほぼすべてを生徒たちが担って当日を迎えました。観覧した地域の人や保護者の中には、嬉しさや感動で涙を流す姿もあったのだそう。

この出来事とほぼ同時に行われていたのが、「ルールメイキング・プロジェクト」による前述の標準服の見直し。どちらも、生徒が主体となって学校を創っていく取り組みです。これを機に、教員たちは「ここまで生徒たちに任せていいんだ」という意識に徐々に変わっていき、学校のいたるところで生徒の意志が尊重される文化が定着していきました。

※ ルールメイキング・プロジェクト:生徒が主体となって校則やルールを見直す活動のこと。小津中学校では、認定NPO法人カタリバのサポートを受けながら進められている。

そして、この2つの出来事は、「学校のコンパス」づくりへと発展していくことになります。

「校長先生やルールメイキング担当の先生が転勤してしまったら、小津中は元の校則や雰囲気に戻ってしまうんじゃないですか?」

ルールメイキング・プロジェクトに関わった生徒から、こんな懸念が出てきたのです。

この文化を一過性のもので終わらせるのではなく、学校の当たり前として根付かせたい。話し合いの末に至った結論は、そのためには、具体的なルール以上に「自分たちがどんな学校を目指し、どんな姿になっていたいか」という最上位の方針、つまり「ビジョン」が必要なのではないか、ということでした。

こうして2022(令和4)年度の冬、全クラスで「おづこれ会議」が開催され、卒業時に目指したい姿についての意見が交わされました。集まった膨大な意見を集約したのは、有志の生徒たち。しかし、意見を3つに絞り込む作業は難航し、生徒たちは行き詰まってしまいます。

そのとき、教員から「今の社会や学校ってどう思う?」という問いかけがありました。

「大人は自己保身に走っていて、何も決められない」

「小津中生も、間違いを恐れてチャレンジできない人が多い」

生徒たちの口から出てきたのは、思考が固まった「かたい社会(学校)」への違和感でした。そこから「このかたさを、自分たちの手でやわらかくしたい」という共通の願いが生まれます。

こうして、「自芯をもつ」「認め合う」「『やわらかさ』で0から1を創る」という3つの柱からなる、小津中学校の羅針盤「学校のコンパス」が完成しました。

学校の枠を越える「共創プロジェクト」

2023(令和5)年度に生まれたのが、小津中学校の核となる探究学習「共創プロジェクト」。

「他学年の人と一緒に学びたい」
「自分が学びたいことを学びたい」
「校外の専門家と一緒に活動したい」

そんな「おづこれ会議」で出された生徒たちの願いを、そのまま授業のカリキュラムに組み込んだのがこの取り組みです。

活動の起点は、生徒自身。やりたいことがある生徒が自ら企画を提案し、リーダーとなってプロジェクトを立ち上げる。そこには学年の壁はなく、同じ興味を持つ仲間が学年を越えて集い、チームで動きます。教員は教える立場ではなく、生徒たちの声に耳を傾け、困ったときには助け、基本的には信じて任せる「伴走者」として見守っています。

実際に活動が始まると、学校の壁を越え、地域や企業、さらには世界とつながる活動が生まれました。

例えば、あるチームは、戦時下のウクライナの人々に手作りカレーを届けようと、フードロス食材を活用した支援を探究。またあるチームは、泉大津市の神社にある仏像を一般公開する企画を立て、全国から600人もの仏像ファンを集めました。さらには、企業と共同でAIキャラクターのデザインを行い、実際に全国の中学生が使う英会話アプリの開発に携わるプロジェクトまで。

中には、「共創プロジェクト」での経験を大阪府内のスピーチコンテストで語り、1位を獲得した生徒もいます。「自分の『好き』や『問い』が、社会の誰かを笑顔にする」という経験が、結果として、学校外の場で評価されることにつながったのです。

それは、決して一部の生徒の変化ではありません。

「自分たちの手で、社会は変えられる」

教員たちは、生徒たちの中にそんな自信が育まれていると言います。同時に、クラスという枠組みでは自分を出し切れなかった生徒にとっても、好きなことでつながれるこのプロジェクトは、学校における大切な居場所にもなっていると言います。

もちろん、最初からすべてが上手くいったわけではありません。活動の枠組みが曖昧だったり、一部の生徒に負担が偏ったりといった課題も浮かび上がりました。

しかし、「1プロジェクトを8人以下の少人数にする」「成果発表会という明確なゴールを設定する」などの改善を重ね、その後も常にアップデートを繰り返しています。

生徒の挑戦を支える評価の仕組み

生徒たちの「共創プロジェクト」の取り組みをより深めている要素の一つが、小津中学校独自の評価のあり方です。同校では2020(令和2)年度から定期テストを段階的に廃止するなどの取組みも行っていますが、特に共創プロジェクトの評価は「自己評価能力育成シート」によって行われています。

このシートが現在の形になるまでには、一つの転換点がありました。「共創プロジェクト」が始まった当初、運営に関わる外部の専門家から、ある指摘を受けたのです。

「プロジェクトを通して『何を学んだのか』についての評価が不十分である」

「生徒が自分自身の成長を捉えるための、自己評価能力の獲得を目指すべきではないか」

指摘を受けた学校側は、すぐに改善に向けて動きました。そこで生まれたのが、教員が一方的に生徒をジャッジするのではなく、生徒自身が自らの現在地を確認するための「自己評価能力育成シート」でした。

特徴的なのは、評価の軸がすべて「学校のコンパス」に直結していること。「自分の考えを持ち、人に伝えたか?」「新しいアイデアを生み出したか?」など、生徒たちはプロジェクトや行事の節目ごとに、学校のコンパスに照らして自分の行動を振り返り、自らの言葉で言語化していきます。現在はさらに進化し、自分だけでなく仲間同士で認め合う「他者評価」の仕組みも取り入れられています。

「評価とは、誰かに×をつけられるものではなく、自分が次の一歩を踏み出すための糧にするもの」

「学校のコンパス」が単なる壁に貼られたスローガンにならず、生徒一人ひとりの指針となっている背景には、このようなマインドが浸透していることもあるようです。

 現在、小津中学校ではさまざまな活動で培った非認知能力をどう評価し、どう生徒や保護者に伝えるかという検討も行われているそうです。

生徒の主体性を支える「学校の仕組み」改革【後編へ続く】

自由な服装、自分たちで設計する会議、そして、社会を動かすプロジェクト。

これほどまでに生徒へハンドルを委ねることは、大人たちにとって勇気の要る決断だったはずです。

後編では、生徒たちの学びを支えるために学校が決断した「担任制の廃止」や「授業時間の短縮」といった仕組みの見直し、そして校長や教頭、教員たちの思いを伺います。

同じカテゴリの記事

実践を知る|授業づくり・学校生活

このカテゴリでは、「民主的でインクルーシブな学校づくり」のために教職員の方々によって現場で行われているさまざまな取り組みのうち、児童生徒向けのもの(授業・学級経営・行事・部活など学校生活全般)を紹介しています。

実践を知る|職場づくり・組織開発

このカテゴリでは、「民主的でインクルーシブな学校づくり」のために教職員の方々によって現場で行われているさまざまな取り組みのうち、教職員同士の関係構築や職場づくりに関わるもの(働き方改革・ビジョン共有など組織開発全般)を紹介しています。

教職員の声に触れる

このカテゴリでは、本メディア「メガホン」を運営しているNPO法人School Voice Projectが、姉妹サイト・WEBアンケートサイト「フキダシ」で実施した教職員向けのアンケートの結果を数多く掲載しています。

現場の教職員のリアリティに多様な切り口から触れられる貴重なデータです。

最新記事やイベント情報が届くメールニュースに登録してみませんか?

Emailアドレス*

メガホン編集部

NPO法人School Voice Project のメンバーが、プロやアマチュアのライターの方の力を借りながら、学校をもっとよくするためのさまざまな情報をお届けしていきます。 目指しているのは、「教職員が共感でき、元気になれるメディア」「学校の外の人が学校を応援したくなるメディア」です。

関連記事・コンテンツ

記事