【解説記事】問題校則(ブラック校則)、どう向き合う? 廃止・見直しのポイント
髪型や下着の色の指定、スカート丈のチェック、携帯電話の禁止……。
近年、多くの学校で適用される校則の意義が、問い直されています。「ブラック校則」という言葉で、学校側の対応の問題点や裁判への発展事例とともに取り上げられているのを、メディアで目にすることも増えました。一方で、民主的な方法でそれらの校則を見直そうという、前向きな動きも多く生まれています。
とはいえ「校則の見直し」をしたくても、何が具体的に問題なのか、どのような段取りや方法が必要なのか、いまいち分からないという先生も多いのではないでしょうか。
この記事では、ブラック校則とは何を指すのか、そしてなぜいま校則の問題が注目されているのか、その意義や最新の取り組みなどを紹介します。
「問題校則(ブラック校則)」とは?
全国的なムーブメントとなっている問題校則(ブラック校則)の見直しですが、そもそも問題校則(ブラック校則)とは、どのようなものを指すのでしょうか。
文部科学省(文科省)は、2022年12月に改訂された生徒指導の手引書「生徒指導提要」の中で、校則は「学校教育において社会規範の遵守について適切な指導を行うことは重要であり、学校の教育目標に照らして定められる校則は、教育的意義を有するもの」と位置づけています。
また、生徒指導提要では校則の内容についても「社会通念上合理的と認められる範囲」と明記しています。その点から考えると、問題校則(ブラック校則)は、この「合理的範囲」を逸脱し、児童生徒が自主的に守るものではなく、守らせることが目的となってしまったような校則全般のことを指していると言えるでしょう。
参考「文部科学省『生徒指導提要』2022年12月(第1.0.1版)」(文部科学省,2022年12月6日公開,2025年8月17日参照)より
【注】本メディアでの「問題校則(ブラック校則)」の呼称について
行き過ぎた校則を「ブラック校則」と呼称することが一般的となっていますが、「ブラック〇〇」という表現が黒色へのネガティブイメージを固定し、人種差別や偏見助長へつながる恐れがあることから、本記事では、以降、基本的に「問題校則」の表記で統一いたします。
問題校則の具体例とその問題点
「合理的範囲を逸脱」とのことですが、具体的にはどんな校則が問題校則と言えるのでしょうか。教育関係者や評論家によって組織された「ブラック校則をなくそう!」プロジェクトでは、下記のような校則をその代表例として挙げています。
- 頭髪に関するもの
- ツーブロックやポニーテールなど、特定の髪型の禁止
- 髪染めやパーマなど、加工の禁止(地毛証明やくせ毛証明の提出)
- 男子は耳にかかったら切る、女子は肩にかかったら結ぶなどの長さに関する規定
- 制服に関するもの
- カーディガンやセーターの禁止
- スカート丈に関する規則(膝が見えたら駄目、など)
- 肌着の色の指定
- 登下校のルール
- 自転車通学の禁止
- ジャージや部下着での登下校の禁止
- カップルで一緒に登下校することの禁止
- 飲食店などへの立ち寄りの制限
- その他
- キャラクターものの文房具やシャープペンの使用禁止
- 眉毛の手入れの禁止
- 授業中の水分補給の禁止
- 給食や清掃の時間での発話の禁止
- 携帯電話の持ち込みや使用に関する規定
問題校則が「問題」となるポイント
問題校則は、人によっては「でもそれって必要だよね?」と思われる場合もあるかもしれません。合理的範囲を逸脱しているとされるポイントは、一体どこにあるのでしょうか。
人それぞれの良し悪しの感覚ではなく、明確に校則に問題があるとみなされる場合には、「傷害」「個人の尊厳」など、いくつかの具体的な観点があります。
- 障害行為の疑いがあるもの
地毛を黒髪に強制的に染髪させる、髪を強制的に切るというような、傷害行為の疑いがあるもの - 個人の尊厳を損なうもの
地毛証明を提出させる、性別によって制服や髪型を指定するなど、個人の尊厳を損なうもの - 生命の危機・健康を損ねること
水飲み禁止、防寒具の禁止など、生命の危機・健康を損ねること - ハラスメント行為
下着の色の指定とそのチェックなど、ハラスメント行為
引用・参考「「ブラック校則とは」(「ブラック校則をなくそう!」プロジェクト,2025年8月17日参照)より
学業成績との関連がなく、社会通念上のマナーとしても一般的でないという以上に、上記のような観点で児童生徒の権利を不当に侵害し、精神的苦痛を与えるような校則が、問題校則になりうると言えます。
生徒指導提要の改訂と校則の新たな位置づけ
校則をめぐる議論の大きな転換点となったのが、2022年12月に行われた文科省の「生徒指導提要」の12年ぶりの改訂です。生徒指導提要は、学校現場における「生徒指導に関する学校・教職員向けの基本書」であり、校則のあり方について基本方針を示す重要な意味を持ちます。
生徒指導提要とは?
生徒指導提要は、小学校から高等学校までの生徒指導の理論や考え方、実際の指導方法などを網羅的にまとめたもので、教職員向けの「基本書」として、教職員間や学校間での共通理解や、組織的・体系的な取組みを進めるために作成されました。法的拘束力はありませんが、全国の学校がこれを参考に生徒指導を行っており、教育現場に大きな影響を与えます。
改訂でどう変わった? 4つの重要ポイント
今回の改訂では、校則に関して、より具体的で踏み込んだ指針が示されました。単に校則を「守らせる」ことだけに固執するのではなく、教職員がその背景や理由を理解した上で、児童生徒が「自分事としてその意味を理解して自主的に校則を守るように指導していくことが重要」であるとされ、指導観そのものの転換が促されています 。
特に重要な指針として、以下の点が挙げられます。
- 教育的意義と合理性の原則
校則は、学校の教育目標に照らして「教育的意義を有する」ものとされる一方で、その内容は社会通念上合理的でなければならないという原則が示されました 。また、制定にあたっては「少数派の意見も尊重しつつ、児童生徒個人の能力や自主性を伸ばすものとなるように配慮することも必要」とされています。 - 絶え間ない見直しの必要性
学校を取り巻く環境や児童生徒の状況の変化を踏まえ、校則は「絶えず積極的に見直しを行っていくことが求められます」と明記されました 。これにより、定期的な点検・見直しが学校の責務として強調されています。 - 児童生徒の参加の重要性
この改訂の背景には、「こども基本法」や「児童の権利に関する条約」の精神があり、児童生徒が自分に関係する事柄について「意見を表明する機会」を確保することが重要視されています。
その上で、提要本文には「校則の見直しの過程に児童生徒自身が参画することは、校則の意義を理解し、自ら校則を守ろうとする意識の醸成につながります」と明記されました 。見直しの具体的な進め方として、「児童会・生徒会や保護者会といった場において、校則について確認したり議論したりする機会を設ける」ことが挙げられています 。さらに、どのような手続きで見直しが行われるのか、「その過程についても示しておくことが望ましい」とされ、プロセスの明確化も求められています。 - 透明性の確保
校則の内容について、普段から学校内外の関係者が参照できるよう「学校のホームページ等に公開しておくこと」が適切であるとされました 。また、児童生徒が主体的に校則を遵守するため、その意義を理解できるよう「制定した背景等についても示しておくことが適切」とされています。
この改訂により、「生徒参加」や「情報公開」といったこれまで「望ましい取り組み」とされてきたことが、国の公式な基本方針として位置づけられました。これにより、校則改革を求める生徒や保護者は、その主張を国の指針で裏付けられるようになり、議論の力学が大きく変化したのです。
参考「文部科学省『生徒指導提要』2022年12月(第1.0.1版)」(文部科学省,2022年12月6日公開,2025年8月17日参照)より
校則に関する裁判・法的議論
校則やそれに基づく指導の妥当性が問われ、裁判に発展するケースは後を絶ちません。かつては学校側の広い裁量権が認められる傾向にありましたが、近年、新たな司法判断の潮流が生まれています。それは、校則の存在そのものではなく、その「運用・指導方法」の妥当性を厳しく問う視点です。
- 商業高校バイク謹慎訴訟(1990年2月19日判決)
原付免許取得に関して「免許試験を受けるには学校の許可を得ることを要する。学校の定める地域外の生徒には受験を許可しない。」との校則がある学校において、当該の地域外の生徒が学校に無断で原付免許を取得したことに対し、無期自宅謹慎処分が課されたことの適法性が争われた事件。
- 大阪カラーリング訴訟(2011年10月18日判決)
公立中学校で染髪をしていた女子生徒が、教師数名に髪を黒く染めなおさせられたことが体罰に当たるなどとして、親が市に対して損害賠償請求した事件。
- 大阪府・頭髪指導不登校事件(2021年10月28日判決)
生まれつき茶色い髪の生徒に黒染めを強要した事件。高裁は、頭髪を規定する校則自体は適法と判断しましたが、指導に従わず不登校になった生徒を進級後の名簿から抹消した行為を「教育的配慮を欠く違法なもの」として損害賠償を命じました。校則の正当性と、それに基づく指導措置の正当性を明確に切り分ける判断が示されました。
- 甲府市・頭髪切断事件(2021年11月30日判決)
教員が生徒の髪を校内で切った事案。裁判所は、たとえ生徒の同意があったとしても、理容師資格のない教員が工作用はさみで切ったことなどを問題視し、違法な行為として慰謝料の支払いを命じました。指導の「目的」が正当でも「手段」が社会通念を逸脱すれば違法と判断されうることが示されました。
- 大阪弁護士会による私立高校への勧告(2023年3月20日公表)
ある私立高校の頭髪規定などについて、規定自体は直ちに違憲・無効と断定できないとしつつ、教員が生徒の髪に触れて検査する行為などを「社会通念上相当な指導の範囲を超えている」と判断し、運用の適正化を勧告しました。
これらの事例は、法的な争点が「校則の是非」から「教員の指導行為の妥当性」へと移行していることを示しています。「校則に書いてあるから」という説明だけでは指導の正当性は担保されず、一つひとつの指導行為が生徒の尊厳を損なわない教育的なものであるか、教員の専門性と人権意識そのものが法的な評価の対象となっているのです。
参考「ブラック校則とは?定義や問題点を事例と共に弁護士が解説」(ベリーベスト弁護士法人,2022年7月10日公開,2022年10月5日参照 ※現在非公開)より
参考「黒染め指導、二審も「適法」 大阪高裁「指導のあり方、常に検証を」」(朝日新聞,2021年10月28日公開,2025年9月1日参照)より
参考「工作用はさみで…教諭に髪切られた中2女子「苦痛」 市に賠償命令」(朝日新聞,2021年12月1日公開,2025年9月1日参照)より
参考「私立高校の校則で定められた頭髪規定及び携帯電話持込禁止規定等並びにこれらに基づく指導が、申立人らの人権を侵害するものであるとして、警告を求めた事案」(大阪弁護士会,2023年3月20日公開, 2025年8月17日参照)より
参考「司法における「ブラック校則」問題と、これからの政治の役割」(SYNODOS,2017年12月13日,2025年9月1日参照)より
全国で広がる現在進行形の「校則見直し」の取り組み
生徒指導提要の改訂などを追い風に、校則見直しの動きは全国の教育委員会や学校単位で活発化しています。ここからは「校則見直し」の意義と、全国で広がる現在進行形の取り組みについて紹介します。
ブラック校則をなくそうプロジェクト
2017年、前述の「大阪府・頭髪指導不登校事件」を発端に、NPO法人理事長やLGBTアクティビストが組織する「「ブラック校則をなくそう!」プロジェクト」が発足されました。
評論家でありNPO法人「ストップいじめ!ナビ」代表を務める荻上チキ氏をスーパーバイザーとして、理不尽な校則を見直し、学校と社会が共にこれからの時代にふさわしい校則を全体で考えていくための調査や活動が行われました。
同組織は2019年に文科省へ要望書を提出して以降も、メディアでの発信や社会の変化に関する分析・報告を通じて、問題の風化を防ぐための地道な活動を継続しています。
教育委員会単位での見直し
校則見直しの動きは、教育委員会単位でも広がっています。ここでは、例として岐阜県・熊本市・東京都での動きを紹介します。
岐阜県の例
岐阜県は令和2年の調査において、9割以上の学校に人権などに配慮する必要がある校則があったことから、見直しと廃止の動きに着手しました。制服着用時の下着の色などの制限や、外泊・旅行の届け出や許可を主とした「時代の要請や社会常識の変化に伴い適用が想定されない校則」が、見直しの主な対象となりました。同時に、生徒が主体的に考えられるような校則改定のプロセスについても、各学校に明文化を求める方針が通知されました。
2023年には、岐阜市立岐山高校が髪染めや化粧に関する校則を試験的に廃止し、その影響を実証的に検証する取り組みを行いました。これは単なる規則の緩和に留まらず、教育的効果を科学的に検証しようとする先進的なアプローチとして注目されています。
参考「ブラック校則、県立高の9割以上に 岐阜で廃止の動き」(朝日新聞,2019年11月6日,2022年10月5日参照)より
参考「毛染めや化粧OKで風紀は乱れたのか…校則を試験的に廃止した県立高校 影響を検証した生徒たちに“考える力”」(FNN,2024年2月15日公開,2025年9月1日参照)より
熊本市の例
熊本市では、国の「生徒指導提要」改訂に先駆け、2021年に教育委員会主導で校則見直しのガイドラインを策定しました。ガイドラインでは、生まれ持った性質や性の多様性を尊重できない校則を必ず改定することや、取り組みの柱として「児童・生徒がみずから考え、みずから決める仕組み」を各学校で作ることのほか、校則をホームページに公開し、周知を図ることなどが求められています。この先進的な取り組みは、後の全国的な動向の先駆けとなりました。
遠藤教育長(当時):
「先生の決めたことに対して、守るだけだったり、反抗するだけだったりしたら、大人になってもそういう意識になってしまいますよね。そうではなくて、自分たちのことを自分たちで決めて、そして責任を持って守るということが民主主義です。小学生の頃から校則の見直しを利用して、自分たちの責任で学校をつくるという経験を積み重ねていくことで、大人になった時にもそれが出来るようになり、よりよい社会のあり方につながると思うんです。そして、その中で、少数派の人権をないがしろにするようなルールを作ってはいけないことも含めて覚えていくことですよね。だから髪型や服装をどうこう以上に校則の見直しは、この国のあり方の見直しであって、これからの時代を生きていく子どもたちを育てるための最高の教材なんです」
引用「「校則見直しは最高の教材」 ”異色の教育長”が仕掛ける校則改革|#その校則必要ですか?」(NHK,2021年12月17日公開,2025年9月1日参照)より
参考「校則・生徒指導のあり方の見直しに関するガイドライン」(熊本市教育委員会,2021年3月公開, 2025年9月1日参照)より
東京都の例
東京都では、トップダウンの改革要請に対し、現場レベルでの実践が多様に進んでいます。第二東京弁護士会が2025年4月に公表した調査によると、都内23区の区立中学校374校のうち199校で校則の変更が確認されました。靴下の色の緩和や、LGBTQ+に配慮した制服規定における男女別の表記の撤廃など、具体的な改善が進んでいます。
一方で、シャツの裾出しを新たに禁止したり、くるぶしが見える丈の短い靴下を禁止したりするなど、新たな規制が加えられる矛盾した動きも見られました。この調査結果は、政策と学校現場の実践との間に存在するギャップを浮き彫りにしています。
参考「子どもの権利に関する委員会:校則の見直し状況の調査の結果報告について」(第二東京弁護士会,2025年4月8日公開,2025年9月1日参照)より
福岡市の例
福岡市では、校則の見直しと公開の取り組みが、現場での実践と制度的な仕組みの両面から進められています。
福岡市教育委員会は2011年から、保護者、弁護士、LGBTQ団体らによる校則検討協議会を設置し、市内69校それぞれに生徒や教員、保護者も参加する「校内校則検討委員会」を設け、見直しを進めてきました。その結果として、2023年度には「ツーブロック禁止」「ポニーテール禁止」「男女別記載」「下着の単色指定」といった合理性の説明できない校則がすべて廃止されました。そのうえで、一部の学校で残る「眉毛の処理禁止」や「靴下の長さ指定」といった校則についても、福岡県弁護士会が改めて市教委に意見書を提出するなど、さらなる見直しが求められている状況です。
こうした見直しと並行し、市教委は校則の公開に関しても積極的に対応しています。2023年3月までに市内すべての中学校が校則をホームページで公開する方針を打ち出しました。さらに西日本新聞社との連携により、69校すべての校則を全文で検索・比較でき、過去年度版も参照可能な「福岡市立中学校校則データベース(2023年度版)」も公開しています。
参考「ツーブロック禁止の中学、新年度ゼロへ 福岡市教委が校則見直し公表」(朝日新聞,2023年2月2日公開,2025年9月1日参照)より
参考「「ブラック校則」の見直し“眉毛処理を禁止”“靴下の長さ指定”は理不尽として弁護士会が意見書」(毎日放送,2023年6月7日公開,2025年9月1日参照)より
参考「福岡市立中学校 校則データベース」(西日本新聞社, 2025年9月1日参照)より
ここまで、問題校則のどこが問題であるか、またどのように見直しの気運が広がっているかについて解説しました。
次ページでは、実際に校則を見直したいと思った時に、どのようなプロセスを踏めばよいのかについて、校則見直しの意義や、具体的な取り組み事例に触れながら、解説していきます。

最新記事やイベント情報が届くメールニュースに登録してみませんか?
-
メガホン編集部