意見の違う先生の“見ている景色”まで知ることが「対話」――ルールメイキングの実践例 <学校における“対話と民主主義”を本気で考えよう!後編>
学校の校則・ルールを、生徒・先生・保護者が対話をしながら見直していきたい!
そんな想いからスタートした認定NPO法人カタリバの「みんなのルールメイキング」と、NPO法人School Voice Project( SVP )がオンラインイベント「学校における”対話と民主主義”を本気で考えよう!」を共同開催しました。(当日のプログラム等の詳細は こちら )
後編では「みんなのルールメイキング」事業担当の浜田さんの話と、ルールメイキング教員アンバサダーである3名の実践例から、反対派の先生ともどう対話するか?を探ります。
SVPの武田さんが目指しているビジョン・ミッション、および北欧の学校事例から学ぶ”対話”と”民主主義”のステップが知りたい方は、ぜひ以下の前編をお読みください。
※登壇者のプロフィールもこちらからご覧ください。
「対話っていいよね」だけでは越えられない壁
司会(逸見) 第1部の後半は、認定NPO法人カタリバ『みんなのルールメイキング』浜田さんのお話を伺います。自己紹介からお願いします。
浜田 19歳のときから、マイプロ(マイプロジェクト)として「みんな辛くても我慢しているのに、あの人はずるい!ではなく、みんなが幸せになれるよう、環境を自分達で変えていこう!と思う仲間を増やすこと」を掲げています。
SNS上でよく目にする「あの人だけずるい」「こんな要望はおかしい。みんなで我慢するべき」。そんな攻撃的なコメントを見るたびに、悲しい気持ちになるんです。
でも、そういう攻撃的な発言をする人も、きっと何か辛いものを抱えているはずで。自分も何かを変えたいと思っているけれど、その方法が分からない。だから攻撃や我慢という形でしか表現できない。「本当はこうなってほしい」「ここを変えたい」という思いを、建設的なアクションに変えていけないかと考え、主権者教育に関わる活動を続けています。
ですが、武田さんの話(前編)で、「民主主義の第一段階からつまずいている」という話があったように、大人になってから突然「自分の声を上げよう」といわれても、そのハードルは非常に高い。
例えば、「自分の暮らす街をどうしたいか?」を語り合う場が開かれたとして、そういった場に参加するのは、大学生までのいわゆる「学校」に通っていた時代に、社会について関心を持つ機会があった人や、自分で何か環境を変えた経験がある人が中心だと聞きます。
だとすれば、そういった経験を早い段階で積む機会を多くの人が持てるようにしたい、という思いが今のマイプロに繋がっています。
逸見 学生時代から活動を始めたとのことですが、そのころはどんな活動をしていたんですか?
浜田 小学生を対象とした模擬選挙に関わったのが、始まりでした。
逸見 模擬選挙での経験が、今の活動につながっているんですね。
浜田 はい。ただ、模擬選挙には限界も感じました。例えば給食のメニューを決める模擬選挙なら、自分の好きなものを選んでも誰も傷つきません。でも実際の社会では、自分の意見や「好き」を主張することで、対立が生まれることもある。そういったリアルな体験をすることも大切だと考えていたところ、ルールメイキングに出会いました。
ルールメイキングでは「対立」ではなく「対話」を大切にしています。ここでいう「対話」は、気軽なおしゃべりや情報交換としての「会話」でも、どちらが正しいかを決めるための「議論」でもありません。お互いの背景を深く理解し、本音で意見・視点を交換し合うことで、新しいアイディアや可能性を見出していくプロセスなんです。
それでもプロジェクトの途中段階では、「先生は押し付けてくるだけ」「生徒はわがままを言うだけ」という対立構造が生まれがちです。
また最近は、対立し傷つけあうことを恐れるがゆえに、対話が表面的になってしまうという課題も感じています。例えば、利害関係のない他校の生徒との交流では楽しく話せるのに、自分の学校でルールを決める段階になると、気を使いすぎて感想の共有だけで終わってしまったり、「なぜそう思ったの?」と理由は聞いてはみるものの、「私はこう思います」「はい、分かりました」と、本音の対話を続けられず、一問一答で終わってしまったりすることがあります。
対話が大切だということは、おそらく誰もが理解していると思います。でも「対話っていいよね」だけでは越えられない壁があります。そこで私たちは、対話がうまく行かない状況を、「対話のスキルの問題なのか」、「そもそも挨拶すらできない関係なのか」「目標の共有ができてないのかというように分解して考えるようにしています。
例えば目標の共有ができていない場合は、「いい・悪い」のジャッジの前に、まず「幸せな学校づくり」というテーマで対話を始めます。「幸せってそもそもいつ感じるんだろう?」と問いかけ、今の学校の「残したいところ」と「変えていきたいところ」を出し合う。そうした対話の場を、具体的なルールの良し悪しの話に入る前に意識的に設けています。
良い対話を実現するため、哲学対話や組織開発の手法など、ルールメイキングとは少し違った分野からも学んでいます。まだまだ試行錯誤の段階ですが、現場の先生方と一緒に、よりよい方法を見つけていければと思っています。
現場からはじまる変革 ~3つの学校の挑戦
武田 対立解消や、ファシリテーションのトレーニングは必要だよなと感じています。子どもも大人も。民主主義のスキルですよね。
カタリバさんの活動は、子どもたちだけでなく、教職員たちのコミュニティも作りながら社会を変えようとしているのが素晴らしくて。時にトップダウンの改革が必要なこともありますが、基本的には現場の教職員が学び合いながら変えていくスタンスは、私たちSchool Voice Projectともまさに同じです。
浜田 ありがとうございます。実は教職員自身による小さなルールメイキングが、すでに進んでいる学校もあるんです。「今話しかけないでください」カードを作って集中タイムを設けたり、BGMを工夫したり。私たちは広く事例を知っていますが、現場で生きている教職員たちこそが、実際の状況をよく理解されています。お互いの持ち味を活かして、助け合える仕組みを作っていきたいですね。
逸見 どんなに小さなことでも、職場で新しいことを始めるのは勇気がいりますよね。私自身もそうで。仲間と一緒に考えていけることが心強いです。
司会(逸見) では、ここから『第2部:現場ではどのようなことが起こっている?』に移ります。ルールメイキング教員アンバサダーとして活躍している内田卓先生・小瀧智美先生・辻屋雅明先生より、それぞれの取り組みを紹介いただきます。
内田 つくば市立研究学園小学校では「ちょこルル(ちょこっとルールメイキング)」という取り組みを行っています。ICTを活用して全員の意見を画面に反映させることで時間を短縮し、普段あまり発言しない生徒の声も平等に拾い上げています。学級活動の中で、自分の意見が反映される経験を重ねることで、子どもたちの主体性を育てていきたいです。
小瀧 前任校での実践をいろんなメディアに取り上げていただいて、今も様々な方から声をかけていただいてます。
最近、「世の中には理不尽がたくさんあって、学校は理不尽を学ぶところだよね。今の子どもは我慢できないよね」という先生の声を聞きました。でも、学校は理不尽を我慢する場所じゃなくて、むしろそれを解決する方法を学ぶ場所だと思うんです。
ただ、生徒の声を聞くためには、まず教員側が自分を大切にできる環境が必要で。労働環境も大変だし、教員自身が理不尽さを感じている中では、子どもたちの声に耳を傾ける余裕もないんじゃないか。そこが今、もやもやしているところです。
辻屋 山梨県笛吹市立春日居小学校で、私個人は「高度に自由を行使できる子供の育成」を最終目標に掲げています。自由とは好き勝手にすることではなく、合意形成や他者理解、道徳性や思考力など、様々な力を総合的に発揮するものだと考えています。
具体的な取り組みとしては、「シャープペンシルの禁止」の撤廃や、「学習に関係ないものの持ち込み禁止」を「先生やみんなと相談する」というルールに変更しました。特に良かったのは、校則の変更手続きを校則自体に組み込み、毎年見直す仕組みを作ったことです。
「対話って難しい」と言い合いながら、共に歩む仲間
司会(逸見) ここからは、第2部のクロストークを始めます。事前質問では、反対する教職員への対応について、多くの質問が寄せられていました。
取り組みを続ける中で、モチベーションが折れそうになることもあったと思います。教職員間の多様性をどう認め合い、巻き込んでいったのか、お聞かせいただけますか?
小瀧 やっぱり生徒たちの姿が、一番の原動力になりますね。準備を重ねた生徒たちが、反対される悔しさで涙を流す姿はもう見たくないと思って。あえて反対派の先生のところに個別に話をしに行ったりもしました。個別に話すと、分かってくれる先生も多くて。私自身も辛い瞬間は何度もありましたが、少しずつ理解が広がっていったように思います。
内田 つくば市の場合は、市全体での取り組みだったので、みんなで一緒に始められたのがよかったんです。1年目は「実際どうやったらいいのか」ってみんなで考えるところからはじまって、2年目からは各学校で色んな工夫ができるように。段階的に進めていけたのは大きかったですね。
辻屋 今、まさに悩んでいるところですね(笑)。始めるときは細かく説明して分かってもらえても、新しい先生がどんどん入れ替わってくると、最初の理念が理解されなくなって形骸化してしまう。ここの引継ぎはもっと丁寧にすればよかったなって。
ただ最近、言葉だけで納得してもらうのは難しいかもしれないとも思うようになりました。6年生なので下級生の前でリーダーシップを発揮する場面もあるんですけど、そういう子どもたちの成長する姿を見てもらうことで、「やっぱり効果はあるんだな」って実感してもらえるといいのではないかと。
浜田 このような場に来られる教職員の皆さんは、もともと「こういう取り組みはいいな」って思って来てくださっていると思うんです。でも実際の学校現場では、新しいことを始めることへの不安が大きい。「反対」というよりも、「これをやったらどうなるんだろう」という不安が、最大の障壁になっているように感じます。
だからこそ大切なのは、「校則を変える」という話からではなく、「子どもたちにこういう力をつけていきたい」という、誰もが共感できるストーリーから始めること。そして実際に取り組んで、具体的な変化を見せていく。不安を感じている先生にとっても、納得できる形で示していく。そういう視点も大切かなって思っています。
武田 変えていくときには「あの手この手」でやっていくしかないですよね。本当に様々な苦労があるんだろうなと想像します。
皆さんのお話の中で、二つの気づきがありました。一つは、これって終わりのないプロセスなんだなということ。今年うまくいったなって思っても、来年また元に戻そうという動きが出てくるかもしれない。でも、そういうこともあるものとして歩んでいくこと自体に、価値があるんだなって感じています。
もう一つは、対話の本質についてです。意見の違う人と向き合うとき、単に「なぜそう思うんですか?」って聞くだけでは、水掛け論で対話が深まらない。その人がそういう考えを持つに至った背景にある経験や、見てきた景色を知りたいなって。
私たちが「ルールメイキングが大切だ」と思うようになった背景にも、それぞれのエピソードや出会いがあるように、否定的な意見を持つ先生にも、様々な経験や事情があるはず。踏み込んで理解し合おうとすることはすごくエネルギーがいりますが、そこまで深く対話することにも意味があるのかなと感じました。仲間と一緒に「難しいな」って言いながら、共に歩んでいきたいです。
先生たちからのチャット
ルール作りというよりも、自分の必要を要求できること、というのが大事なんですよね。
ルールメイキングでもありつつ、探究という感じがしますよね。いろんな人と対話して、調査して、やってみるという。まさに探究サイクルな感じがします。
ちょこルル、名前がいいですね!
どんな取り組みに対しても、反対派はいますよね。浜田さんがおっしゃる通り、子ども達がどんな姿になることを目指すのかという共通理解を対話を通してしていく必要がありますよね。武田さんがおっしゃる「背景」もとっても大事。自分の主張も大切にしつつ、相手にも考えがあることも理解して対話することが大切なんだなと思いました。
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岡田 菜子