#新年度準備期間を十分に【オンライン記者会見レポート】
NPO法人School Voice Project(以下SVP)では、2023年4月6日(木)、新年度準備期間の短さと期間延長の必要性をPRする記者会見をオンラインで開催しました。この日は全国平均で最も多くの自治体で始業式が実施されている日です。それ以外の市町村でも、まさに始業式前後のドタバタ期で、学校現場は余裕のない中で業務に追われている最中。この時期にタイムリーな発信をすることで、この問題を多くの教職員や保護者・市民の皆さんに知ってもらい、問題意識を持ってもらえたら。そんな思いで実施に至りました。
本記事では主に、記者会見でSVPからメディアの皆さんに提供したデータ(プレゼンテーション)の内容と、多忙の中参加していただいた現職教員・教育委員会事務局職員の方の声をお伝えします。
「#新年度準備を十分に!キャンペーン」とは?
実は、4月に学校の新学期が始まる日程は自治体によって違います。ほとんどの自治体では、教職員の人事異動の発表と新採用の辞令がおりるのが4月1日。なので、重要な決定事項を決める会議は4月に入ってからでないと難しく、新年度のための準備は「4月1日から始業式の前日までの日数」でやる必要があります。 新年度準備期間が十分に確保できないと「授業準備が不十分」「教科や学級、校務分掌の準備が不十分に」「児童生徒の情報共有や引継ぎが不十分に」「初任者や異動者への支援が不十分に」「組織としてのビジョン共有や方針立案が不十分に」「教職員のチームビルディングが不十分に」…など様々な問題が発生します。
SVPでは、新年度準備のための日数を十分にとり、よりよい状態で子どもたちを迎えられるよう、この問題を「見える化」し、各自治体に対する働きかけ・キャンペーンを行っています。
はじめに
記者会見の冒頭では、進行役を務めたSVP理事の武田から、このキャンペーンの背景と趣旨が語られました。
武田:私たちSVPは、アンケートや様々なオンラインの対話の場などを通して学校現場の教職員の声を集めています。その中で、”新年度準備期間の短さ”という課題が見えてきました。教職員自身も、他自治体の状況を知らないことが多いので、自分の勤務自治体の状況が「当たり前」だと思っている、という状況もあります。実際、「え、◯◯県はそんなにゆっくり始まるの?!」「知らなかった!」といった声がたくさん聞かれたんです。新年度がドタバタで始まると、大事な引き継ぎ事項が漏れたり、授業準備ができなかったり、学校のビジョンを擦り合わせたりする時間が取れなかったり・・・といったことが起こります。これは教職員の働き方の観点から問題であるのはもちろんのこと、子どもたちにも弊害が出ている=教育・支援の質に関わる問題であると考え、このキャンペーンを立ち上げました。
始業式の後ろ倒しは、教職員の多くが求めている改善であり、かつ変更が比較的容易で、予算もほとんどかかりません。変更コストに対して、変えた際のプラスの影響・効果の大きいことが想定されるトピックだと考えています。最近では始業式の後ろ倒しを実現した自治体も少しずつ増えています。ぜひ全国に広まってほしいです。
続いて、同じくSVP理事の小林から、実施した2つの調査についての報告がありました。
全国始業式日程調査の結果
1つ目は、全国の学校管理規則を洗い出し、「始業式」の日程を調査したものです。
調査概要
- 調査実施時期:2022年7月〜8月上旬
- 調査主体:NPO法人School Voice Project
- 調査対象:1756自治体(都道府県47+市区町村1741 – 不明32 )
- 調査方法:①各都道府県に問い合わせ
②「学校管理規則」をインターネット上で検索
(一般財団法人地方自治研究機構の全国例規集を主に参照)
※今回の調査では、①各都道府県に問い合わせた2022年度の春季休業終了日、②学校管理規則上の春季休業終了日を集計しました。前者のみでは全自治体の情報を網羅することが難しい一方で、後者は年度・学校ごとの弾力的な運用により実際の日程と異なる恐れがあるため、①②の情報で相互に補完することを目指しています。
基本情報
- 春休みの期間=始業式日程は、学校設置者の定める「学校管理規則」において決められています。
- 「学校管理規則」は教育委員会会議の決議で変更することが可能です。(議会での決議は基本的には不要)
- 規則の書き方には幅があり、明確に日程を記載しているもののほか、学校長の判断で変更が可能になっているもの等があります。
- 「学校管理規則」は市町村教育委員会が定めるものですが、都道府県ごとに一定の傾向が見て取れます。
2022年度と2023年度は年度当初に土日があったため、多くの自治体では通常よりも新年度準備期間が短くなってしまっていました。都道府県に問い合わせた2022年度実態では73%、学校管理規則上では56%の自治体で、2022年度、2023年度の新年度準備期間は4日以下であったことが分かりました。
実質準備日数を表にしたものがこちらです。準備期間が4日以下が976自治体、3日以下が671自治体、2日以下が87自治体でした。最も多かったのは準備期間が3日の自治体でした。一方で8日や10日の準備期間がある自治体もあることが分かりました。
こちらは都道府県ごとに新年度準備にかけられる日数の平均値を算出して色分けしたものです。始業式日程は各市町村で決められるものではありますが、都道府県ごとに大まかな傾向があるため、参考になると考え、MAPを公表しました。
教職員向けWEBアンケートの結果
また、教職員WEBアンケートサイト「フキダシ」にて実施した新年度準備期間についてのアンケートの結果もお伝えしました。
調査概要
- 調査対象 :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う 一条校に勤務する教職員
- 実施期間:2023年1月20日(金)〜2023年3月13日(月)
- 実施方法:インターネット調査(Googleフォームを活用、WEBアンケートサイト「フキダシ」にも掲載)
- 回答数 :179件
- 調査主体:NPO法人School Voice Project
新年度準備期間が不十分なことで起こってきた現象を尋ねたところ、ほぼすべての項目において教職員の9割以上が悪影響を感じていることが分かりました。
また、求める新年度準備の日数を尋ねたところ、「”万全の状態”でスタートするために」という聞き方では、「9日〜10日」という方が最も多く41%、続いて「7〜8日」が36%でした。「最低限必要な」という聞き方では、「5〜6日」という方が最も多く40%、続いて「7〜8日」が36%という結果になりました。いずれの聞き方でも、9割以上の方が「最低5日はほしい」と考えていることが分かりました。
また、教職員から寄せられた生の声も紹介。こちらは以下の別記事から詳しくお読みいただけます。
学校現場からの声
会見には、新年度の忙しい時期にも関わらず、現職教員の方が2名、教育委員会事務局の方が1名参加してくださいました。
富山県の公立小学校に勤めるベテラン教育である能澤英樹さんからはこんなふうに話してくれました。
「例えば、学校ではアレルギー対応給食といって、個々のアレルギー食材を取り除いたり、代替の給食が配付されますが、それを管理するのは教員なので、4月の当初に誰がどんなアレルギーがあるかの全職員の共通理解が行われます。子どもの命に関わることなのでかなり慎重に行う必要があります。これはほんの一例で、それ以外にもスムーズかつ安全に年度初めの学校生活をスタートさせるための業務が、昔よりも量的にも質的にも増えている。しかし、そのための人員は増えず、時間は逆に削られています。」
「三日間の準備期間では、子どもを迎えるための最低限の環境整備しかできず、後回しにしてよい書類などはすべて始業式後になります。それでもできなかった業務は子どもたちが帰ってからすることになる。最も圧迫されるのが授業準備の時間です。十分な授業準備ができないことで、分かりやすく授業できない、興味をひきつけることができない。特に勉強の苦手な子に十分に手が届かない無念さを私もいつも味わってきました。最悪の場合、子どもたちが落ち着かない状態になり、学級崩壊したり、いじめが起こったりして問題対応でさらに時間が取られることがあります。そうなるとさらに授業準備の時間が削られて”負の連鎖”です。」
東京都の公立小学校に勤める若手教員であり、一般社団法人まなびぱれっと代表理事として初任者や若手教員の支援にもあたっている小泉志信さんは、
「前年度引き継ぎや、校務分掌の相談等をしていると、年度当初は2日間ぐらいはずうっと打ち合わせになります。合わせて初任者にはこのタイミングで研修が入ることが多い。そうすると学校でクラスの準備をする時間はほぼ取れなくなります。東京は今日(4/6)から登校が始まっているところが多いですが、実際教室に入れたのは昨日、というような初任者も当たり前にいます。これはかなり苦しいです。」
「初任者は、”何が分からないかも分からない”という状態を抱えている。そういう時に先輩に頼りたいけれど、先輩たちですら今の状況ではギリギリでやっているんです。心理的に安全ではない状況で、初任者は聞きにもいけず、周りを頼れない。そもそも親しくもなれすらいない、学校の方向性・ビジョンも共有できていない、という課題があるのかなと思います。今若手の病休の割合も増加している中で、安定した準備ができることが、安心して働けて、その結果子どもにいい授業、いい教育を届けることにつながると思います。」
と話してくれました。
後ろ倒しに取り組んだ教育委員会の立場から
Sさんからは、昨年、某市教育委員会で新年度準備期間の課題について改善を試みた経緯について、共有されました。
「本市では学校運営管理規則上の春季休業が4月5日からと記載されているので、去年・今年は準備期間が3日間。実際今年とある学校の教頭の退勤時間を聞くと、22:30に退勤したという報告も上がってきています。昨年度この状況が見えていたので、なんとか規則を改訂して準備期間を1 日でも長くしようと試みましたが、結果的には今年度は持ち越し、次年度以降再検討ということになりました。」
「昨年の夏から秋にかけて市内全部の学校の管理職にヒアリングをしました。ほとんどの学校でバタバタしていて準備期間が足りていないという声があがりました。それを受けて、市内600名の教職員にアンケートをとりました。約430名から回答があり、準備ができてゆとりを持って迎えられた人は0%、十分な準備が問題なくできていたと答えたのは1.8%でした。また、土日に出勤も持ち帰り仕事もせずしっかり休めていた先生はわずか17.5%でした。こういう状況を受けて春季休業を4月7日までに変更してはどうかという起案を上げました。」
「解決しないといけないハードルとして、授業時数があります。本市の場合は小学校では低学年はゆとりを持ってやれており、高学年が少しギリギリ、中学校では特に3年生で足りていない学校もあり、これを理由に今年度は見送りになりました。結論としては、今年度教育課程を見直して、小学校にモジュールですとか、中学校では授業時間に読めるような活動を積極的に読み込んでいくことで授業時数の確保をし、今後改訂していこうとしています。」
さいごに / まとめ
この問題は、まだまだ学校現場においても、各教育委員会においても、課題として認識されていない、という状況にあります。全国的にまだあまり議論されておらず、大きな論点として設定されていないという現状です。だからこそ、この問題に気づいた教育委員会事務局の方が起案したり、もしくは教職員組合や校長会が要望を挙げ、議論さえ始まってしまえば、変えていける可能性も大きいのです。
SVPとしては、今後も多くの方に発信することで問題意識を共有していきたいと考えています。また、教育委員会等に対する資料提供や働きかけも行なっていき、この機運を盛り上げていきたいと考えています。ぜひ今後もご注目いただければ幸いです。
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メガホン編集部