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「暑い、寒いはもう嫌!」子どもたち自身が手がける教室の断熱プロジェクト

  • 高橋 真樹

(写真:高橋真樹、Hakuba SDGs Labo、白馬高校、横山義彦)

環境ジャーナリストの高橋真樹です。今回は、公立学校で子どもや先生たちを取りまく温熱環境を変えようとするプロジェクトを紹介します。ご存知のように、学校の校舎は、夏は暑く冬は寒いのが当たり前でした。このような過酷な環境が放置されてきたことで、子どもたちの学習意欲や健康、さらには自治体の財政にまで悪影響を及ぼしています。

背景にあるのは、学校の建物がほとんど断熱されていないという事実です。状況を変えるために声をあげたのは、子どもたち自身でした。子どもたちと地域の大人が協力して、教室をDIYで断熱改修するという前代未聞のプロジェクトが、各地で動き始めています。その現状と課題をお伝えし、教育環境のあり方を、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

教室は暑くて寒いのが当たり前?

そもそも日本の学校には、温度規定があってないようなものでした。文科省が定める教室の温度基準(学校環境衛生基準)では、「10度以上、30度以下が望ましい」と定められていました(2018年まで)。しかも努力目標にすぎないので、守っていなくても問題にはなりません。そのことが、夏は熱中症、冬は風邪やインフルエンザなどの流行が起こりやすく、また子どもたちが学習に集中できない要因ともなってきました。

なお、大人が働くオフィスの温度規定である事務所衛生基準規則(厚労省)では、約50年前の1972年の時点で、「17度以上、28度以下になるように努めなければならない」と定められています(2022年に下限を18度以上に改正)。子どもは、大人に比べ心身の発達が成長途上であるにもかかわらず、環境は過酷なまま放置されてきたのです。

変化が起きたのは、2018年です。その年の夏に記録的な猛暑となり、児童・生徒の熱中症が相次ぎました。政府は教室へのエアコン設置を急がせて、公立の小中学校(普通教室)のエアコン設置率は、2018年の約60%から2022年の約96%に上昇しました。また、同じ2018年に学校環境衛生基準もようやく「17度以上、28度以下が望ましい」と改定されます。さらに、今年(22年)の4月には、下限室温が17度から18度に変更されました。なお下限の変更については、2018年にWHO(世界保健機関)が、「冬の室温として18度以上」を強く勧告したことが影響しています。

エアコン設置で解決するか

ただ、室温基準が改められたとは言え、拘束力のない努力目標にすぎないことはこれまでと変わりません。本メディアを運営するNPO法人School voice project が実施した先生方へのアンケート(回答者109名)では、この規定を「すでに知っていた」と回答したのは23%(「だいたい知っていた」と合わせると64%)、さらにこの基準を「しっかり守れている」と回答した人の割合は、東日本では約30%、西日本では約10%と低いレベルにとどまります。

アンケートでは「基準を守れない理由」として、エアコンの故障や能力不足により、稼働しても適温にならないという機械的な問題や、管理職しか操作できないという仕組みの問題も指摘されています。教室の各場所に温度計を設けるなどして、適切なルールの下で空調を動かしている学校はごく一部です。

また、エアコンの普及も現場に新たな課題を突きつけました。出力の大きいエアコンは、ランニングコストの増大にもつながっています。断熱されていない大空間で空調を動かすと、温度ムラが起こりやすく、かつエネルギーの大部分は建物の隙間から抜けていきます。結果として、コストばかりが上昇し、教室は快適にならないという悪循環が起こっています。

実際、予算がかかりすぎるために規定の時間や温度に達するまでは、エアコンを使ってはならないなどと、厳しい規則を課す学校や自治体も多くあります。22年9月には、沖縄の県立高校の生徒がこの稼働基準を変えるよう声をあげ、県の教育庁が基準を変更したこともニュースとなりました。(ニュース記事はこちら

室温を適切に保ちながらランニングコストを増加させないためには、エアコンの導入とセットで教室の断熱を考える必要があります。しかし断熱の意義は、社会的にまだ周知されているとは言えません。そんな中、高校生たちの積極的な行動が事態を切り開いていきます。

高校生による断熱改修プロジェクト

断熱改修プロジェクトが立ち上がったのは、スノーリゾートで知られる長野県白馬村の白馬高校です。冬の教室では石油ストーブが使われますが、ストーブの近くの席は暑すぎて、逆に窓際は寒すぎるという温度ムラの激しい状態でした。高校で環境問題に取り組んでいた手塚慧介さん(当時3年生)ら3人の高校生は、教室を断熱改修すれば暖かくなるだけでなく、省エネも実現できることを知り、2020年初めに学校に断熱改修の提案を行います。

(名峰に囲まれた長野県白馬村の景色)

公共施設の改修となると、学校の判断だけでなく、教育委員会の許可も必要です。しかも生徒が主体になるという話など、聞いたことがありません。担任の浅井勝巳先生は、「当初は、良いことだけどハードルが高すぎるので、生徒たちを傷つけずにどうやって納得してもらうか考えていました」と苦笑します。しかし、生徒たちが粘り強く「どうしたら実現できるか」と模索を続けていく中で、学校側も「なんとかして子どもたちの熱意に応えたい」という姿勢に変化していきます。生徒たちへのアンケートでも、ほとんどの生徒が「教室が寒い」、「手がかじかんで授業が受けづらい」と感じており、断熱改修が求められていました。

最終的に、学校や教育委員会の許可を得た手塚さんたち3人は、断熱改修の専門家に直接交渉して、ワークショップを指導してもらう協力を取り付けました。さらに、地元のホテルやスキー場、環境グループなどに呼びかけて、教室ひとつ分の改修に必要な60万円以上の資金を集めます。

(白馬高校断熱プロジェクトの最終日に参加したメンバー)

体験を通じた学習効果も

3日間にわたる断熱DIYワークショップが行われたのは、2020年9月。主催した3人の高校生の同級生や後輩たちが、入れ替わりでおよそ50名ほどが参加しました。また、地元の工務店や、環境活動に取り組む大人たちも協力しました。

(ワークショップ終了後に行われる振り返りの会)

作業は、高校生と大人が混ざり、いくつかのグループに分かれて進められました。具体的には、窓側の壁、廊下側の壁、天井裏にそれぞれ断熱材をカットして設置することと、廊下側の窓を断熱性の高いものに入れ替えることでした。断熱材を入れた後の壁は、木の板で覆ってきれいに塗装します。また、外側に面する窓には、内窓となる木製サッシを設置しました。

(廊下側の壁に断熱材を入れ、その上に貼った木材を塗装する)
(天井に断熱材を入れる作業)
(断熱材を測ってカットする)

プロが危険のないように指導してくれたおかげで、高校生たちは「自分たちでもできる」という手応えを感じたと言います。浅井先生が言います。「同じことを授業の一環でやったら、こんなに大勢の生徒が自主的に参加することはなかったはずです。生徒自身が呼びかけたからこそ、これだけ広がったのでしょうね。何よりの学びになったと思います」。

断熱改修から2度の冬を越えて、その効果を伺いました。冬が近づくと、ストーブを着けていなくとも、他の教室より2~3度暖かくなりました。また、ストーブを着けた後では、改修した教室はストーブを着けるとすぐに暖かくなり、また極端な温度ムラも解消されました。浅井先生は、「夕方も教室が寒くないので、生徒たちの学習意欲も持続していました」と語ります。

温度以上に生徒たちが喜んだのは、教室の見た目の変化です。木製の壁やサッシに囲まれ、「雰囲気が良くなって嬉しい」という声があがりました。主催した手塚さんは、こう総括します。「本当に良かったと思います。断熱改修は楽しいし、暖かいし、見た目もいいと、みんなが実感してくれました。省エネにもなるので環境にもいいから、他の学校にも広がればいいですね」。

(教室に木製の内窓が設置された)

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メガホンの記事は、教職員の方からの声をもとに制作しています。
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高橋 真樹

ノンフィクションライター、環境ジャーナリスト。放送大学非常勤講師。国際NGO職員を経て、フリーのジャーナリストに。国内外をめぐり、環境、エネルギー、まちづくり、持続可能性などをテーマに取材、執筆、講演を続けている。著書に『日本のSDGs -それってほんとにサステナブル?』(大月書店)、『こども気候変動アクション30』(かもがわ出版)、『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)、『ぼくの村は壁で囲まれた−パレスチナに生きる子どもたち』(現代書館)、絵本『核兵器をなくすと世界が決めた日』(大月書店)ほか多数。自身も取材を通じて出会った世界レベルの超省エネ住宅に暮らし、ブログ「高橋さんちのKOEDO低燃費生活」で発信中。激動する社会的テーマを、国際的な視点からわかりやすく、かつ深く、自分ごととして理解してもらえるよう伝えることをモットーとしている。公式サイト(https://t-masaki.com/)

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