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「暑い、寒いはもう嫌!」子どもたち自身が手がける教室の断熱プロジェクト

  • 高橋 真樹

(写真:高橋真樹、Hakuba SDGs Labo、白馬高校、横山義彦)

小学生に断熱工事なんてムリでは?

白馬高校の取り組みを受けて、翌2021年冬には、白馬南小学校でも子どもたちが参加する断熱改修が実施されました。提案者は、当時のPTA会長だった柏原周平さんです。旅館業を営む柏原さんは、かつて自宅を兼ねた宿で断熱リフォームを実施し、その暖かさやランニングコストの削減効果を実感していました。柏原さんの宿をリフォームした工務店経営者の横山義彦さんは、白馬高校の断熱改修プロジェクトで高校生たちを指導していました。柏原さんはそのつながりから、「断熱の良さを子どもたちにも体感して欲しい」と考えました。

(白馬南小学校の外観)

その提案に、PTAでは反応が分かれました。賛同する人がいる一方で、全国でも例のない取り組みに、「高校生にできても小学生には無理では?」「怪我するんじゃないか?」「断熱なんて、子どもたちが興味を持たないのでは?」といった疑問の声も出ました。

そこで、6年生の授業で柏原さんが断熱の話をし、20人の子どもたちに直接尋ねてみました。子どもたちはとても興味を持ち、工事を見るだけでなく参加したいと言いました。担任の上野直人先生は言います。「子どもたちは、みんなで話し合って参加を決めました。心配もありましたが、大人にやらされるのではなく、子どもが目的意識を持って決めて実現したことは、大きな財産となりました」。

その背景には、冬の校舎のあまりの寒さがありました。子どもたちの鉛筆を持つ手はかじかんで、文字が書けないほどでした。席替えの際は、教室で一つしかないストーブの近くの席をめぐり、もめることもありました。

(小学校の裏山にあるスキー場。授業でもたびたび使われ、管理は代々PTAが行ってきた)

子どもの限界を大人が決めない

断熱改修ワークショップは、総合学習の時間を1日にまとめ、朝から夕方にかけて行われることになりました。ワークショプの指導は、白馬高校の改修も手がけた横山さんが行いました。今回は予算の都合で、外に面した壁と窓だけを断熱します。横山さんが苦労したのは、高校生と小学生とでは、できることがまるで違うことでした。さらに、高校では3日間かけましたが、今回は1日で終わらせなければならないため、より準備に労力をかけました。

壁に入れる断熱材は、趣旨に賛同した企業が、無償で断熱ボードを提供してくれました。また、総費用37万円のうち30万円分は、長野県の環境団体から助成金が出ることになりました。そして残った費用を、6年生が自らオリジナル商品を開発し、その販売収益をあてました。

(断熱工事の資金集めのため、子どもたちがオリジナルグッズを開発する)

当日は、2班に分かれて作業しました。ひとつは、断熱ボードをノコギリやカッターで切り、外に面した壁にピッタリとはめ込むこと。もうひとつは、大きな木製の建具にアクリル板をネジで取り付け、内窓をつくることでした。子どもたちは、大工さんたちに教わりながら、次第に上手に組み立てられるようになっていきました。

(子どもたちに木製内窓の組み立て方を説明する横山義彦さん)

作業を見ていた上野先生は、「いつもはふざけて授業に集中できない子たちも、目を輝かせて作業していました」と言います。指導した横山さんも、「小学生ならこれくらいしかできないかな」と思っていたところ、「もっと難しいこともやりたい」と言われて驚いたそう。「子どもの能力はこれくらいだろうと、大人が勝手に限界を決めてはいけないと気づかされた」(横山さん)。

(内窓の木枠にアクリル板を取り付ける)
(断熱材を入れた壁に化粧板を打ち付ける作業)

断熱の効果をもっとも感じているのは、日々教室で過ごす先生と子どもたちです。上野先生は、断熱したのは外に面する壁と窓だけなのに、冬の寒さの感じ方が大きく変わったと言います。「それまでは寒いと言っていた窓側の子どもたちが言わなくなるなど、教育環境が向上したと実感しています」。 

さらに教室の断熱改修の流れは、白馬村を越えて広がっていきます。21年12月には、白馬高校のワークショップを参考に、長野県上田市の上田高校で、生徒たちが主体となった断熱改修ワークショップが行われました。その上田高校のワークショップを視察に来た千葉商科大学の学生グループは、大学発のDIY断熱改修を行ないました(22年8月)。同時期に、埼玉市や倉敷市、米子市の小学校などでも、地域グループを中心に同様のワークショップが開催されるなど、小規模ながら全国的な展開を見せています。

(エネルギーまちづくり社の竹内昌義さん)

学校の断熱改修のパイオニアで、今回紹介したほとんどの現場で指導やアドバイスをしてきた建築家の竹内昌義さん(エネルギーまちづくり社)は、学校の断熱改修に子どもたちが参加する意義を、こう語ります。「学校でやっている断熱改修は、予算の都合もあって建物の断熱レベルとしては、高い性能ではありません。それでも元がほぼ無断熱なので、確実に生徒たちが効果を体験することができます。多くの人が訪れる地域の核となる建物にこうした改修を行うことは、断熱って大事なんだと発信し、多くの人に体感・理解してもらうための第一歩となります」。

課題は資金と費用対効果

いま進められている学校の断熱改修には、いくつかの課題もあります。もっとも大きいのは、資金に関係する部分です。

資金の調達は、工事に携わった子どもや大人たちが主体となり、ときにはクラウドファンディングのような形で全国から集めることもありました。費用はどのレベルまで断熱するかによっても変わりますが、ある程度効果を感じられるようにするには、1教室につき数十万円という費用がかかります。また、現在は児童・生徒を指導してくれる建築士や大工さんなどは、ほとんどボランティア的に協力してくれていますが、工事の数を増やすにあたって、その人件費をどうするかも課題となります。

費用対効果がわかりにくい、といった課題も指摘されています。断熱改修にいくらかければ、光熱費がいくら減り、どの程度の期間で元が取れるか、というある程度の参考値を出すことは可能です。ただ、いくつかの学校でデータ測定は行われているものの、学校は夜間や土日は使用せず、長期休暇も多いため、住宅などと違い、光熱費削減分だけで工事費の元を取るのは、簡単ではありません。

一方で、公共施設は投資に見合った収益を出す場所ではないため、他にもメリットがあれば、単純に光熱費削減分だけで判断する必要はないという考え方もできます。児童・生徒の快適性、健康、学習環境の向上といった効果を含め、費用対効果の評価対象とすれば、その評価は大きく変わってくるはずです。なお、学校は災害時には避難所にもなります。教室が断熱されることは、世界的にも劣悪な環境だと指摘されている日本の避難所の環境改善にも役立ちます。

まとめとして

学校の断熱改修は、子どもたちの健康や学習意欲を高めることに加え、省エネによる自治体の財政への貢献や、災害対策にもなるなど、複合的なメリットのある取り組みです。その動きが一過性のもので終わらず、児童、生徒、学生らと大人が知恵を絞りながら継続していることは、教育効果を含めて大きな価値を生んでいます。

(断熱改修を終えた6年生の教室。温度ムラも改善された)

それにしても考え直さなければならないのは、子どもたちが熱中症で倒れたり、寒さで鉛筆も握れなかったりするほどひどい環境を放置し続けてきた事実です。教育環境の改善は、本来は国や自治体、そして学校現場が率先してやるべきことではないでしょうか。2020年夏に、仙台市の予算で公立小学校4教室を実験的に断熱改修したケースはありますが、まだこうした取り組みは一部にとどまっています。状況を動かすためには、学校現場を預かる先生たちが声を上げることは、大きな力となるはずです。


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高橋 真樹

ノンフィクションライター、環境ジャーナリスト。放送大学非常勤講師。国際NGO職員を経て、フリーのジャーナリストに。国内外をめぐり、環境、エネルギー、まちづくり、持続可能性などをテーマに取材、執筆、講演を続けている。著書に『日本のSDGs -それってほんとにサステナブル?』(大月書店)、『こども気候変動アクション30』(かもがわ出版)、『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)、『ぼくの村は壁で囲まれた−パレスチナに生きる子どもたち』(現代書館)、絵本『核兵器をなくすと世界が決めた日』(大月書店)ほか多数。自身も取材を通じて出会った世界レベルの超省エネ住宅に暮らし、ブログ「高橋さんちのKOEDO低燃費生活」で発信中。激動する社会的テーマを、国際的な視点からわかりやすく、かつ深く、自分ごととして理解してもらえるよう伝えることをモットーとしている。公式サイト(https://t-masaki.com/)

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