【解説記事】問題校則(ブラック校則)、なぜなくならない? 廃止・見直しのポイント
髪型や下着の色の指定、スカート丈のチェック、携帯電話の禁止……。
近年、多くの学校で適用される校則の意義が、問い直されています。「ブラック校則」という言葉で、学校側の対応の問題点や裁判への発展事例とともに取り上げられているのを、メディアで目にすることも増えました。一方で、民主的な方法でそれらの校則を見直そうという、前向きな動きも多く生まれています。
とはいえ「校則の見直し」をしたくても、何が具体的に問題なのか、どのような段取りや方法が必要なのか、いまいち分からないという先生も多いのではないでしょうか。
この記事では、ブラック校則とは何を指すのか、そしてなぜいま校則の問題が注目されているのか、その意義や最新の取り組みなどを紹介します。
「問題校則(ブラック校則)」とは?
全国的なムーブメントとなっている問題校則(ブラック校則)の見直しですが、そもそも問題校則(ブラック校則)とは、どのようなものを指すのでしょうか。
文部科学省(文科省)は、現在改訂中の生徒指導の手引である「生徒指導提要」の中で、校則は「児童生徒が健全な学校生活を送り、よりよく成長・発達していくために設けられるもの」であり「教育目標を実現していく過程において、児童生徒の発達段階や学校、地域の状況、時代の変化等」を踏まえて、「社会通念上合理的と認められる範囲において、教育目標の実現という観点から校長が定めるもの」であるとしています。
問題校則(ブラック校則)は、「合理的範囲」を逸脱し、児童生徒が自主的に守るものではなく、守らせることが目的となってしまったような校則全般のことを指していると言えるでしょう。
引用「生徒指導提要(案)」(文科省,2022年10月5日参照)より
【注】本メディアでの「問題校則(ブラック校則)」の呼称について
行き過ぎた校則を「ブラック校則」と呼称することが一般的となっていますが、「ブラック〇〇」という表現が黒色へのネガティブイメージを固定し、人種差別や偏見助長へつながる恐れがあることから、本記事では、以降、基本的に「問題校則」の表記で統一いたします。
問題校則の具体例とその問題点
「合理的範囲を逸脱」とのことですが、具体的にはどんな校則が問題校則と言えるのでしょうか。教育関係者や評論家によって組織された「ブラック校則をなくそう!」プロジェクトでは、下記のような校則をその代表例として挙げています。
- 頭髪に関するもの
- ツーブロックやポニーテールなど、特定の髪型の禁止
- 髪染めやパーマなど、加工の禁止(地毛証明やくせ毛証明の提出)
- 男子は耳にかかったら切る、女子は肩にかかったら結ぶなどの長さに関する規定
- 制服に関するもの
- カーディガンやセーターの禁止
- スカート丈に関する規則(膝が見えたら駄目、など)
- 肌着の色の指定
- 登下校のルール
- 自転車通学の禁止
- ジャージや部下着での登下校の禁止
- カップルで一緒に登下校することの禁止
- 飲食店などへの立ち寄りの制限
- その他
- キャラクターものの文房具やシャープペンの使用禁止
- 眉毛の手入れの禁止
- 授業中の水分補給の禁止
- 給食や清掃の時間での発話の禁止
- 携帯電話の持ち込みや使用に関する規定
問題校則が「問題」となるポイント
問題校則は、人によっては「でもそれって必要だよね?」と思われる場合もあるかもしれません。合理的範囲を逸脱しているとされるポイントは、一体どこにあるのでしょうか。
人それぞれの良し悪しの感覚ではなく、明確に校則に問題があるとみなされる場合には、「傷害」「個人の尊厳」など、いくつかの具体的な観点があります。
- 障害行為の疑いがあるもの
地毛を黒髪に強制的に染髪させる、髪を強制的に切るというような、傷害行為の疑いがあるもの - 個人の尊厳を損なうもの
地毛証明を提出させる、性別によって制服や髪型を指定するなど、個人の尊厳を損なうもの - 生命の危機・健康を損ねること
水飲み禁止、防寒具の禁止など、生命の危機・健康を損ねること - ハラスメント行為
下着の色の指定とそのチェックなど、ハラスメント行為
引用・参考「「ブラック校則とは」(「ブラック校則をなくそう!」プロジェクト,2022年10月5日参照)より
学業成績との関連がなく、社会通念上のマナーとしても一般的でないという以上に、上記のような観点で児童生徒の権利を不当に侵害し、精神的苦痛を与えるような校則が、問題校則になりうると言えます。
裁判に発展したケースとその結果
校則や処分がその適法性を問われ、裁判事例にまで発展したケースもあります。
- 熊本丸刈り訴訟(1985年11月13日判決)
男子生徒の髪型を丸刈りに指定し、長髪を禁止する公立中学校の校則が問題となった事件。
- 商業高校バイク謹慎訴訟(1990年2月19日判決)
原付免許取得に関して「免許試験を受けるには学校の許可を得ることを要する。学校の定める地域外の生徒には受験を許可しない。」との校則がある学校において、当該の地域外の生徒が学校に無断で原付免許を取得したことに対し、無期自宅謹慎処分が課されたことの適法性が争われた事件。
- 大阪カラーリング訴訟(2021年2月16日判決)
公立中学校で染髪をしていた女子生徒が、教師数名に髪を黒く染めなおさせられたことが体罰に当たるなどとして、親が市に対して損害賠償請求した事件。
これらいずれの判例においても、学校側に違法性は認められない結果となりました。
実は校則には、その定め方や妥当性を直接的に根拠づける法律は存在しません。たとえ基本的人権や子どもの権利条約の観点からその妥当性に疑問が持たれても、問題校則が温存されやすい背景には、そのような法環境上の問題があります。
現状として、校則作りのルールを具体的に決める法律はありません。せいぜい、本記事で度々触れる「生徒指導提要」で、運用と見直しに関する強制力のないポリシーが定められる程度です。
裁判所は、学校には広い裁量権があり、運営のトップである校長に「児童生徒を規律する包括的な権能」があると見ている傾向があります。つまり、校則の内容がよほど酷いものでない限り、ひとりの生徒の主張で変えられるものではないと考える傾向が見えるのです。
引用「ブラック校則とは?定義や問題点を事例と共に弁護士が解説」(ベリーベスト弁護士法人,2022年7月10日公開,4日2022年10月5日参照)より
とはいえ、過去には学校側の違法性が認められた判例も存在します。
- 私立高校バイク退学処分訴訟(1992年3月19日判決)
校則に違反してバイクの免許を取得し、乗車していたことが発覚したことを受け、退学処分としたことの適法性が争われた事件。
なお、こちらの判例においても、あくまで「退学」という処分が教育的配慮を欠く、合理的裁量の範囲を超えた違法な行為であるとみなされたのみで、校則によるバイク規制そのものには合理性が認められています。
とはいえ、裁判で違法性が認められないとしても、傷つく生徒がいる限り看過はできません。裁判に発展する前に、学校や教育委員会自らが校則の意義を問い直し、見直しの動きを作っていく姿勢があります。
参考「司法における「ブラック校則」問題と、これからの政治の役割」(SYNODOS,2022年12月13日,2022年10月5日参照)より
全国で広がる現在進行形の「校則見直し」の取り組み
上記のような事情でこれまで留保されることの多かった校則問題ですが、見直しの動きは確実に起きています。NHKの令和3年の報道におけるアンケートによると、全国の都道府県教育員会のうち、4割が校則を「見直した」「見直す予定」と回答しています。
参考「「学校つらい…私がおかしいの?」~不登校の原因は校則でした 」(NHK,2022年9月10日公開,2022年10月5日参照)より
学校単位で校則を見直す動きも、各地で起こっています。ここからは「校則見直し」の意義と、全国で広がる現在進行形の取り組みについて紹介します。
ブラック校則をなくそうプロジェクト
2017年、前述の「大阪カラーリング訴訟」を発端に、NPO法人理事長やLGBTアクティビストが組織する「「ブラック校則をなくそう!」プロジェクト」が発足されました。
評論家でありNPO法人「ストップいじめ!ナビ」代表を務める荻上チキ氏をスーパーバイザーとして、理不尽な校則を見直し、学校と社会が共にこれからの時代にふさわしい校則を全体で考えていくための調査や活動が行われました。
同組織は2019年に、問題校則に関する6万以上の署名を集め、文科省に要望書を提出しています。
文科省の見解
文科省は2021年6月、校則見直しについて「学校を取り巻く社会環境や児童生徒の状況は変化するため,(中略)絶えず積極的に見直さなければなりません。」とその必要性を指摘しました。
また、「校則の見直しは,児童生徒の校則に対する理解を深め,校則を自分たちのものとして守っていこうとする態度を養うことにもつながり,児童生徒の主体性を培う機会にもなります。」と、校則が本来的に持つ教育的な意義についても言及しています。
引用「校則の見直し等に関する取組事例」(文科省,2022年10月5日参照)
2022年、文科省は12年振りに、生徒指導提要の改訂に動きました。試案には、校則の見直しやその公開、児童生徒の権利に関する文言が盛り込まれています。
教育委員会単位での見直し
校則見直しの動きは、教育委員会単位でも広がっています。ここでは、例として岐阜県・熊本市・東京都での動きを紹介します。
岐阜県の例
岐阜県は令和2年の調査において、9割以上の学校に人権などに配慮する必要がある校則があったことから、見直しと廃止の動きに着手しました。制服着用時の下着の色などの制限や、外泊・旅行の届け出や許可を主とした「時代の要請や社会常識の変化に伴い適用が想定されない校則」が、見直しの主な対象となりました。同時に、生徒が主体的に考えられるような校則改定のプロセスについても、各学校に明文化を求める方針が通知されました。
参考「ブラック校則、県立高の9割以上に 岐阜で廃止の動き」(朝日新聞,2019年11月6日,2022年10月5日参照)より
熊本市の例
熊本市では、教育委員会主導で校則見直しの指針となるガイドラインをとりまとめ、市内にある137の市立学校全てにおいて、見直しの取り組みが始まりました。ガイドラインでは、生まれ持った性質や性の多様性を尊重できない校則を必ず改定することや、 取り組みの柱として「児童・生徒がみずから考え、みずから決める仕組み」を各学校で作ることのほか、校則をホームページに公開し、周知を図ることなどが求められています。
遠藤教育長:
「先生の決めたことに対して、守るだけだったり、反抗するだけだったりしたら、大人になってもそういう意識になってしまいますよね。そうではなくて、自分たちのことを自分たちで決めて、そして責任を持って守るということが民主主義です。小学生の頃から校則の見直しを利用して、自分たちの責任で学校をつくるという経験を積み重ねていくことで、大人になった時にもそれが出来るようになり、よりよい社会のあり方につながると思うんです。そして、その中で、少数派の人権をないがしろにするようなルールを作ってはいけないことも含めて覚えていくことですよね。だから髪型や服装をどうこう以上に校則の見直しは、この国のあり方の見直しであって、これからの時代を生きていく子どもたちを育てるための最高の教材なんです」
引用「「校則見直しは最高の教材」 ”異色の教育長”が仕掛ける校則改革|#その校則必要ですか?」(NHK,2021年12月17日公開,2022年10月5日参照)より
参考「校則の見直しについて」(熊本市 学校安全・安心推進課,2022年10月5日参照)より
東京都の例
東京都では2021年4月から12月にかけて校則の自己点検の取り組みが行われ、「生来の髪を一律に黒色に染色」「下着の色の指定に関する指導」など計6項目について改定が行われました。各校では、Googleフォームを用いた生徒の意見集約や、教職員や生徒、保護者同士の意見交換といった取り組みがなされたとのことです。
引用「都立高等学校等における校則等に関する取組状況について」(東京都,2022年10月5日参照)より
ここまで、問題校則のどこが問題であるか、またどのように見直しの気運が広がっているかについて解説しました。
次ページでは、実際に校則を見直したいと思った時に、どのようなプロセスを踏めばよいのかについて、校則見直しの意義や、具体的な取り組み事例に触れながら、解説していきます。
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メガホン編集部