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【解説記事】論文・データでわかった宿題の必要性とメリット・デメリット。「宿題のない学校」の実践例も紹介します

  • メガホン編集部

宿題って必要? 現場の教員はどう思ってる?

はじめに 

「宿題って本当に必要なの?」と尋ねられたとき、あなたはどう答えていますか? その質問に対し「いいからやりなさい!」と言ってしまうのは簡単ですが、実は「宿題は必要か」や「宿題はどうあるべきか」という問いは、教育の研究や実践現場で広く議論されてきた話題でもあります。この記事では、アンケート調査で分かった宿題の実態や、宿題についての各種研究、そして学校や国全体で“宿題廃止”を行っている事例について解説します。

納得する前に「いいからやりなさい!」と言われるのは大人も子どももツラいもの。この記事を通して「宿題って本当に必要なの?」をもう一度考えてみませんか?

この記事での「宿題」について

一口に「宿題」と言っても、様々な種類のものがありますよね。「毎日計算や漢字の練習を◯ページ」というものや「自分で調べたことをレポートにまとめる」というもの、さらには”夏休みの宿題”のような長期間を使って取り組むものまであり、それぞれに目的や役割も異なります。

そのなかで、この記事では主に「定期的に出され、1日で終わる分量の宿題」を取り上げます。上に挙げた例で言えば毎日出される計算や漢字練習などがそれに該当しますが、もちろん、その他の種類の宿題にも応用可能です。

現役の教職員は「宿題」をどう思っている? 

現場の教員は、子どもたちに出している”宿題”について、実際にどう感じているのでしょうか。School Voice Projectは、2022年春に「小学生の毎日の宿題について」という教員向けのアンケートを行いました。この結果から、各学校でどんな宿題が出されているのか、また現場の教員が“宿題”について、どのように考えているのかを見ていきましょう。

《教員へのアンケート調査とインタビュー結果はこちら》

アンケートの結果によると、回答者の約8割が宿題を「ほぼ毎日出している」と答えています。内容については、「漢字の書き取り」「音読」がそれぞれ7割ずつ、「プリント」「計算ドリル」が6割ずつ、「自主学習ノート」が5割弱でした。一方、「出していない」と答えた教員は少数でした。

また、「あなたは”宿題”は必要だと思いますか」という質問に対しては、回答者の約2割が「はい」、5割が「いいえ」、3割が「どちらともいえない」と答えるなど、意見が割れる結果となりました。それぞれの代表的な意見を見ていきましょう。

まず、「必要」という意見には大きく3つの理由が挙げられていました。

  1. 「単純な反復練習」が必要だから
  2. 自分で学ぶ習慣を身につける必要があるから
  3. 児童・家庭による家庭学習の差を埋めるため

特に1.については、以下のような意見が寄せられていました。

家庭学習の習慣づけのためと、反復学習をしないと覚えることのできない漢字などは定着をさせる時間が必要と考えて出してきました。
授業の中でとれるものならとりますが、学習内容が多すぎて終わらせるだけで精一杯です。指導要領に乗っ取った指導をする以上、それをしっかりやろうとすれば、反復練習の時間は授業の中でほとんどとれないはずです。

宿題が「必要ない」「どちらともいえない」という理由についても、同様に大きく3つの理由が挙げられています。

  1. 一律の課題を受け身でこなすものになっているから
  2. 宿題で育まれる「学力観」に疑問があるから
  3. 教職員・児童の負担になっているから

2.については、具体的には以下のような意見が挙げられています。

宿題があることで、学ぶことが楽しくないと思ってしまう子がいるのではないか?とずっと思っています。宿題をやらないと、学力つかない?その求めている学力って何?本当の学力って覚えることや反復学習をクリアすることや点数を取ることではないと思っています。

また、このような意見もありました。

出さなくてもいいなら出したくありません。こちらも丸付けるのが手間ですし、宿題を見る時間がなければ休み時間もっと子ども達を見られるのにと思います。しかし、保護者や学校から要望があり仕方なく出しています。

アンケート結果からは、多くの教員が宿題を「ほぼ毎日出している」一方、宿題の必要性や望ましいあり方については現場の中にも様々な考えがあり、悩んでいる教員も多くいることが分かります。

宿題のメリット・デメリットって? 学術研究の結論は?

では、上で紹介したような「現場の悩み」に対して、学問の世界ではどのような研究がなされているのでしょうか。次はそちらを見ていきましょう。

宿題についての学術研究

「宿題には意味があるのか」「宿題を出すのであればどのような形式が良いのか」。その問いに対しては、宿題の始まった100年前以降、現在までに様々な研究がされてきました。

まず、「宿題には意味があるのか」の問いですが、多くの調査結果では「宿題や家庭学習は学力向上に一定の効果をあげている」とされています。実際、アメリカのデューク大学では、過去の様々な宿題の研究をまとめた上で「多すぎない宿題は効果的」「年齢が上がるほど宿題は効果的」という結果を明らかにしています。

参考 「小学校における宿題に対する教師と保護者の意識に関する考察:フォーカス・グループ・インタビューの分析を通して」(宮崎麻世,学校改善研究紀要,2022年)より

宿題のメリット・デメリット

「一定の効果がある」とされている宿題ですが、もちろんメリット・デメリットはあります。ここでは、宿題のメリット・デメリットについて、東京大学大学院で教育心理学の視点から調査した研究を見ていきましょう。

この研究で指摘されているメリット・デメリットは以下の通りです。

宿題のメリット

  • 短期的なもの
    • 学習の機会が増えることで短期的に学力が向上する。
    • 全ての児童へ、授業以外での学習の機会が保障される。
  • 長期的なもの
    • 自立して学習や仕事に取り組める態度・習慣・スキルなどの自己学習力が育つ機会となり得る。

宿題のデメリット

  • 短期的なもの
    • 余暇やコミュニティ活動等の時間の減少になり得る。
    • 丸写しなどの欺き行為を助長する可能性がある。
  • 長期的なもの
    • 成績上位層と下位層の格差を助長する可能性がある。
    • 学習への動機付けや興味を阻害する可能性がある。

さらにこの研究によると、宿題は「目的や内容が多様であることから、そのものの意味や役割を理解し適切な形で取り入れられるべきもの」とされています。

参考「学習における宿題の役割に関する心理学的検討」(太田絵梨子,教育実践学研究,2019年)より

宿題を出すときのポイントは?

では、宿題の「適切な形」とはどのようなものでなのでしょうか。こちらも学術研究から見ていきましょう。
東京大学大学院の研究によると、宿題にはそもそも4種類のものがあるとされています。

具体的には

  • 【準備】 授業の予習や、事前の下調べなどを行う
  • 【練習】 授業で行った内容の定着率を向上させる
  • 【拡張】 授業で行った内容を他の状況で応用する
  • 【創造】 授業で行った内容に限らず、様々なスキルや概念を統合して新しく何かを作り出す

の4種類で、宿題を設定するにあたって「目的や状況に応じてどの方法が適切か判断することが重要」とあります。

この視点に立てば、「漢字の宿題」一つをとっても、「次の単元に出てくる漢字を調べておく(準備)」「授業で習った漢字を練習する(練習)」「授業で習った以外の熟語や例文を考える(拡張)」「漢字を使ったクイズを作る(創造)」のように、目的に応じた様々な宿題が考えられます。

「宿題は出したいが現状の宿題の出し方には疑問がある」という悩みを抱える教員には、この4種類の考え方が参考になるかもしれませんね。

また、この研究では宿題の中身についてだけでなく、宿題の出し方についてのポイントも整理されています。

具体的には、以下の5点が挙げられています。

①“どのくらい”ではなく“どのように”を重視する

宿題を行うにあたって、より重要なのは「どのくらいやったか」ではなく「どのようにやったか」であり、取り組み方を向上させるために、宿題のやり方のモデルなどを提示すると良いとされています。

②適切なフィードバックを行う

宿題を通して“どれだけ習得できたか”、“どうすればもっとよくなるか”にフォーカスするため、適切なフィードバックを行うとよいとされています。フィードバックは、点数やABCなどの段階別評価よりも先生からのコメントなどの方が効果的だと言われています。

③予習として行う宿題は5分で完了する量にする

予習の目的は、授業の概要をつかみ子どもがが疑問点を把握することなので、教科書の一読程度、「生わかり」でもよいとされています。子どもの発達段階に応じ「疑問に思ったことを挙げる」という課題を追加するのも効果的とのことです。

④復習の宿題は「自分の言葉でまとめる」課題にする

復習として行う宿題では、授業の内容の難しかった点やそれをどう理解したかなどを振り返り、まとめることが理解の定着につながるとされています。同様に、授業で説明された内容を自分なりの言葉でまとめ直す、といった課題も効果的なようです。

⑤宿題と授業に一貫性を持たせる

最後に、宿題で行う内容と授業行う指導に一貫性を持たせることが大切です。たとえば「新しい英単語の意味を予想しよう」という予習課題の場合、授業中に英単語の意味を教えるだけでなく「予想するときのポイント」なども紹介するとより効果的だと紹介されています。

以上、学術的な見地からの「宿題のメリット・デメリット」「宿題の内容」「宿題の出し方」を紹介しました。これらを総合して「宿題を出すか出さないか」「宿題を出すのであればどのようにするか」を考えていくのがよいでしょう。

最後に、ここまで読んで「あれ、前に海外の研究で”宿題は禁止に値する”っていう研究結果が出たって見たんだけど…」と思われた方もいるかもしれません。実際、過去にSNSでそのような研究を取り上げた投稿が拡散されたのですが、実はその投稿は、研究内容を正しく反映していなかったことが分かっています。実際の研究に関する記事や動画では、冒頭から“宿題は生徒の学校での成功に役立つ”と肯定的です。しかし同時に“長時間の宿題は逆効果の可能性がある”とも書かれており、SNSではこの部分が誇張されて拡散されてしまったようです。

参考「学習における宿題の役割に関する心理学的検討」(太田絵梨子,教育実践学研究,2019年)より
参考「Does Homework Improve Academic Achievement? A Synthesis of Research, 1987–2003」(Cooper, H et all.,Review of Educational Research, 2006年)より
参考「子どもに宿題をさせると悪影響しかないことが明らかに」(Gigazine,2016年3月9日公開,2022年9月14日参照)より
参考「え、クーパーは「宿題は禁止に値する」なんて言ってない、よね…?(7/19追記)」(あすこまっ!,2020年7月16日公開,2022年9月14日参照)より

目的別・宿題の出し方4選!

続いて、<どんな宿題を出せばいい? 目的別・宿題の出し方4選!!>の記事から、実際に採用されている宿題の例を見ていきましょう。

①自学ノート

課題を自分で見つける学習法です。自由度の高い宿題だからこそ、目的の認識と、着眼点や継続性などそれぞれの長所や成長に対する適切なフィードバックが重要です。

②けテぶれ

目標に向けて学習計画を立てる「計画」、実力を測る「テスト」、実力を上げるためにどうすればいいかを考える「分析」、学習を積み重ねる「練習」のサイクルを回す学習法です。

③成長ノート

​​学級の段階に応じてタイムリーに設定されたテーマについて作文をします。子どもが自己の内面や学級でのふるまい方について考え、表現することを助ける学習法です。  

④反転授業

授業を知識伝達ではなく活発な教え合い・学び合いの場にするための学習法です。予習の宿題として講義動画を視聴し、授業はアウトプットをする場となります。

詳細はこちらの記事をお読みください。

《宿題を出すときの考え方、おすすめの宿題の出し方を解説した記事はこちら》

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メガホン編集部

NPO法人School Voice Project のメンバーが、プロやアマチュアのライターの方の力を借りながら、学校をもっとよくするためのさまざまな情報をお届けしていきます。 目指しているのは、「教職員が共感でき、元気になれるメディア」「学校の外の人が学校を応援したくなるメディア」です。

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