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【解説記事】「教科担任制」導入で小学校はどう変わる? 実践例、アンケートから見えるメリット・デメリットも紹介

  • 久保拓

はじめに

2022年度から全国の公立小学校で、教員が特定の教科ごとに授業を受け持つ「教科担任制」が本格的に導入されました。クラスの担任が全ての教科を教える伝統的な「学級担任制」からの移行に伴い、教育現場にどのような変化がもたらされるかを整理します。また、これまでに各地で実施された先行事例や、School Voice Projectによる教員への独自インタビューなどをもとに、現時点で浮かび上がった「教科担任制」のメリット、デメリットと今後の課題をまとめます。

教科担任制とは

今回導入された教科担任制は、小学5、6年生を対象とし、外国語、理科、算数、体育について、学級担任ではなく教科担任がクラスを跨いで教える制度です。

文部科学省の中央教育審議会は2021年1月、小学5、6年生を対象とした教科担任制を2022年度から本格的に導入するよう求める答申をまとめました。

その答申を受けて文科省の検討会議は2021年7月、「各地域・学校の実情に配慮しながら上記4教科を優先的に教科担任制の対象とすべき」とする報告を提出しています。なお、教科担任を受け持つ人材確保策としては、学級担任間で授業を交換したり、地域の中学校教員が小学校と兼務していわゆる乗り入れ授業を行ったり、新たに教員を配置したりする手法が想定されています。

参考「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して ~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」(文科省,2021年4月22日公開,2022年9月13日参照)より
参考「義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方について」(文科省,2021年3月公開,2022年9月13日参照)より

導入の背景

長らく、日本の公立小学校では、学級担任が受け持ちのクラスで多くの科目を教える学級担任制が主流でした。今回の抜本的な制度変更の背景には、子どもが小学校から中学校へ進学する際に学習環境の変化に戸惑う「中1ギャップ」の解消や、1人の教員が多くの指導教科を抱えて疲弊する労働環境を改善するねらいなどがあります。

いわゆる「中1ギャップ」は、学級担任制で慣れた小学生が中学1年生になった時、教科担任制への切り替えや学習内容の高度化など、大きな変化にうまく対応できず不登校などが発生しやすいとされる問題です。2021年7月に文科省の検討委員会が出した報告は、小学5、6年生に教科担任制を導入し、中学校から小学校へ教員を派遣するなどして、①小・中学校間の連携を進めて円滑な進学が図れると指摘しています。また、②専門性を持つ教科担任教員が教材をじっくりと研究し、熟練した指導をすることで授業の質が向上するほか、③児童それぞれに対して学級担任や複数の教科担任が接することで、児童を多面的に理解し、児童の心の安定につなげられるとしています。

他方、教員にとっては、④担当する授業数の軽減や、授業準備の効率化によって負担軽減が可能だというメリットを挙げています。

参考「義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方について」(文科省,2021年3月公開,2022年9月13日参照)より

小学校の授業はどう変わる?

対象学年・科目

それでは、教育現場で実際にどのような変化があるのでしょうか。

導入の背景」でも触れましたが、「中1ギャップ」解消の観点などから、教科担任制の対象は小学5、6年生となっています。文部科学省の中央教育審議会による答申では、「児童生徒の発達の段階を踏まえれば、児童の心身が発達し一般的に抽象的な思考力が高まり,これに対応して各教科等の学習が高度化する小学校高学年」に着目し、系統的な指導によって中学校への円滑な接続を図る、と説明されています。

対象科目は外国語、理科、算数、体育の4教科に絞られています。答申はその理由について、

  1. 新たに小学校において導入された教科で、指導体制の早急な充実が必要(外国語)
  2. ICT の活用やプログラミング的思考など新しい知見も活用しながら、中学校での科学的リテラシーの育成を見据える必要(理科)
  3. プログラミング的思考の重視など道を立てて考える力の育成の重要性(算数)
  4. 学年が上がるにつれて技能差や体力差が広がりやすく、個々の能力に適した指導・支援を安全・安心を確保しながら行う必要(体育)

などの背景を指摘しています。いずれの教科も、中学校での学習を視野に入れた系統的な指導ができる専門性が必要な点が共通しています。

教科担任制導入の先行事例

兵庫県の実施体制

次に、自治体の先行事例から、具体的な変化をみてみましょう。

以前から、音楽や理科など一部の教科で教科担任制を取り入れる動きは全国に広がっていました。例えば兵庫県では2012年から、学級担任間の授業交換による教科担任制と、担任と加配教員による少人数教育を組み合わせた「兵庫型教科担任制」が実施されています。

兵庫県では、小学校5、6年生のいずれかが20人以上の学級を有する学校において、原則として国語、算数、社会、理科から2教科以上を選択し学級担任間の授業交換を行っています。さらに、この4教科で専科指導を行っている場合、他の教科を加えた交換授業も幅広く行っており、例えば2019年の実施状況は、社会95・3%、理科76・0%、家庭25・0%、体育22・3%、国語18・4%などでした。

兵庫県で起きた変化

以前から教科担任制を実施している兵庫県で、児童に起きた変化を見てみましょう。2012年の調査では、「教えてもらう先生が代わって、授業を楽しいと思うことが多くなった」と答えた児童が81・8%に達しています。また、「担任の先生以外の先生に気軽に話ができるようになったと思う」と答えた児童も77・4%に上りました。そして教員が気づいた影響としては、「児童の変化に気づきやすくなり、問題の未然防止・早期対応ができた」「多くの教員が関わることで、児童の良さを認め合う場面が多くなった」などの声が上がっています。

一方で、具体的な課題も浮上しました。兵庫県の調べでは、例えば1学年3クラス、5クラスなど奇数クラスの場合に授業交換が複雑となること、また5、6年生が共に1クラスの場合、5年担任と6年担任との授業交換となるため教員の負担軽減につながりにくいこと、数年に渡り担当しない教科が生じるため特に若手教員の指導の機会が減ること、などが挙げられています。

参考「兵庫型教科担任制について」(兵庫県教育委員会,2020年10月7日付,2022年9月13日参照)

現場の声

事前アンケート調査

School Voice Projectでは、教科担任制が一斉導入される直前(2021年10月〜11月)にアンケート調査を実施し、全国の教職員40人から回答を得ました。

2022年度から導入される小学校高学年における教科担任制についてあなたの意見を教えてください
回答者全体の割合
回答者のうち、小学校教職員(28名)のみの割合

《教員へのアンケート調査とインタビュー結果はこちら》

アンケート結果を見ると、「来年度から導入される、小学校高学年における教科担任制についてあなたの意見を教えてください」という設問に対し、「よいと思う」「どちらかというとよいと思う」が計26人(65%)を占めました。一方で、「心配・懸念が強い」「どちらかというと心配・懸念が強い」も計14人(35%)に達し、諸手を挙げて賛成というわけにはいかない複雑な事情も浮かび上がりました。

具体的には、「質の高い授業を提供できる」と趣旨に賛同する声が多い一方で、「余計に負担が重くなる」「人員の確保が急務では」「時間割を組むのが大変」といった懸念が多く寄せられています。詳細はアンケート結果をご覧ください。

先行する兵庫県からの声

School Voice Projectによる事前アンケートは多くの賛否の声が集まりましたが、実際に制度が動き出した自治体では、具体的にどのような手応えがあったのでしょうか。独自に、教科担任制で先行する兵庫県の小学校教員2人の協力を得て電話インタビューしたところ、教育現場における実感として次のようなコメントが寄せられました。

(子どもが)別の先生が来ることで次の授業に切替ができるようになったり、複数の教員が関わることで関係性が固定せず、逃げ道ができるなど落ち着きにつながった

高学年になってからの実施により、中学に向けて心の準備ができ”お兄さん、お姉さん”になっていく過程を子どもたちが実感しながら過ごせる

教員側も授業の準備に集中できる。教材研究の質が上がり、子どもたちの反応もよく、楽しく授業ができる。例えば、複数のクラスで授業を行うことで、同じタイミングですぐに修正もでき、子どもたちの反応によりクラスごとに授業を変えていくことで、精度の高い授業を子どもたちに提供できるようになる

問題が起こったときの生徒指導や、時間割を組む際に複雑になる点がデメリットだが、やってみたらデメリット以上にメリットは多いと感じた

このように、事前アンケートに比べてポジティブな反応が寄せられました。教科担任制の導入に向けて、文部科学省の中央教育審議会が2021年1月に行った答申で述べた趣旨(①授業の質の向上②中1ギャップの解消③複数の教員による多面的な児童理解を通じた児童の心の安定④教員の負担軽減)通りの効果が全て表れているとは言えませんが、現場で一定の手応えはあるようです。

課題

教育現場で賛否の声が上がる中、2022年4月に小学校で本格導入された教科担任制。現在は4教科に絞られ、今後さらに拡充されるのか、具体的な政策はまだ発表されていません。しかし既に、限られた予算内で人員を確保しなければならないという課題が将来への不安材料として浮上しています。

教科担任制を推進する文部科学省は、2022年度予算の概算要求において、教科担任制の充実のために教職員定数の2000人増員(今後4年間で計8800人増員)を求めました。しかし、財政難を懸念する財務省から削減を求められ、実際に認められたのは950人の増員にとどまりました。文科省は今後、4年間で計3800人の増員を見込んでおり、地域の小学校同士や小中学校の連携、小学校内における授業交換などを積極的に進めることで、教科担任制を充実させようとしています。

School Voice Projectが独自に行った電話取材では、匿名の教員が「私の学校で実施している現状の授業交換のやり方だと人が増えないままなので、同じ時数の教科しか実施できない」と吐露しました。教科担任制が普及しても「予算内でやりくり」する姿勢が本当に質の高い授業提供につながるのか、教員の負担軽減につながるか、不透明な点が残っています。

2021年12月、末松信介文科相は記者会見で、2022年度予算における財務省との折衝について「子供は国の宝であり、教育は国の礎であります。厳しい財政事情の中でありますが、我が国の未来を担う子供たちへ大胆に投資をすることは極めて重要」と述べました。教育現場が令和時代にふさわしい変化を遂げられるかどうか、教科担任制がどのような形で定着していくのか、School Voice Projectはこれからも調査を続けていきます。

《教員へのアンケート調査とインタビュー結果はこちら》

参考「末松信介文部科学大臣記者会見録-予算-(令和3年12月22日)」(文科省,2021年12月22日公開,2022年9月13日参照)

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久保拓

1984年生まれ。2010年に全国紙の新聞社に入社し、地方支局・社会部・文化部などに所属。記者として各事件・事故や民事・刑事訴訟、国政選挙、教科書検定などの取材を経て2022年に退社し、現在はフランスに在住。

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