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子どもの自己選択・自己決定を大事に。小学校1年生の「スタートカリキュラム」で、子どもたちとともにみんなが楽しい学校をつくる

  • 建石尚子

小学校へ入学した子どもが、幼稚園や保育園などの遊びや生活を通した学びと育ちを基礎として、主体的に自己を発揮し、新しい学校生活を創り出していくための「スタートカリキュラム」。沖縄県の八重瀬町立東風平(こちんだ)小学校では、2021年度からスタートカリキュラムの導入に取り組んできました。
当時の学年主任である永山勝幸さんは、どのような実践をされたのでしょうか。具体的な取り組み内容と子どもたちの変化を伺いました。

町全体で取り組んだ「スタートカリキュラム」

ーー 東風平小学校では、どのような経緯でスタートカリキュラムに取り組むことになったのでしょうか?

八重瀬町では「保幼小連携プロジェクト」として、子どもを真ん中に置いた教育のあり方を模索していました。当時の私は教務主任として学校全体のカリキュラムづくりに取り組んでおり、校長から「次年度は小学校1年生の学年主任として、スタートカリキュラムづくりに取り組んでみないか」とお話をいただいたんです。ありがたいことに、教育委員会や管理職からのバックアップもありながら、スタートカリキュラムづくりを任せてもらいました。

「自己選択」と「自己決定」を子どもに委ねる

ーー 具体的に、どのような取り組みをされたのでしょうか?

目標として掲げたのが、安心安全を最優先にすること。そして、子どもたちとともにみんなが楽しい学校をつくることです。そのために、生活科の授業を中核として、「自己選択」と「自己決定」を子どもたちに委ねることにしました。例えば、例年であれば子どもたちの靴箱とロッカーの位置は教員が決めて、事前に名前を書いていました。それを変え、入学してきた子どもたちに自分が使う靴箱とロッカーを選んでもらったんです。さらに、どの机を使い、教室のどこに置くかも子どもたちに選んでもらいました。

机の配置まで自分たちで決めてもらうことにしたので、どうなるかは私たちも予想がつきませんでした。実際、4人の子が黒板に背を向けて机を置いてしまったんです。「いやいや、それは違うでしょ」と言いかけましたが、大事なのは子どもたちの「自己選択」と「自己決定」。考えた末、結局黒板は使わず、私が教室の真ん中に立って授業をすることにしました。

その後、振り返りの時間も設けました。紙に机とロッカーと靴箱のイラストを描いておき、それぞれについて、自分の気持ちに近い表情のイラストに色を塗ってもらいました。ある子は、悲しい表情のイラストに色を塗っていたので、「どうして?」と聞くと、「本当はあの机が良かったけど、取れなかった」と言うんです。まだ机が余分にあったので、そこに行って選び直すことに。再び机を選んだあとは、笑った表情のイラストに色を塗っていました。

失敗はチャンス。そこから学べばいい

給食の準備もできるだけ教員は手を出さず、子どもたちに任せるようにしました。そうすると時間はかかるし、週1回は必ず誰かが給食を床にぶちまけてしまうんですよね。でも、その過程も私は大事にしていました。子どもたちには、「失敗してもいい。そこから学んでいこう」と伝えたかったんです。上手くいかなかったときは改善するチャンスという意味を込めて「ハックチャンスだね。どうしようか?」と声をかけると、子ども同士でフォローし合う姿も見るようになりました。困っている子がいると必ず来てくれる子やお手伝いが上手な子もいたりして、子どもたちのいろんな面が見れたのもよかったと思っています。

学校生活を豊かにすることが、教科の学びにつながる

4月下旬には、生活科の授業で1年生と2年生がペアになって学校探検をしました。それぞれがペアになってカメラを持ち、校庭や校舎内の教室を巡って写真を撮るんです。この体験が、後日別の教科の学びにもつながりました。例えば、校庭に咲いていた花を撮ってきた子がいたので、「何本あるんだろう?」と問いかけると、子どもたちは数を数えようとします。まさに算数で学ぶ内容です。また、校舎を巡ったときに、子どもたちはいろんな掲示物を目にするんですね。「なんて書いてあるんだろう?」という興味から、ひらがなの学習につながりました。

掃除の時間も、最初に教員がルールを決めるのではなく、子どもたちに任せてやってみました。すると、廊下掃除の子がほうきを全部持っていってしまって、足りなくなってしまったんです。そこで、1本のほうきは1人が使うことを確認して、何人がほうきを使えるかをみんなで考えました。掃除の時間の出来事が、算数の「1対1の対応」の学びにつながったんです。

当たり前を見直す「覚悟」を決めた

ーー 永山さんご自身は、なぜスタートカリキュラムに取り組もうと思ったのでしょうか?

教員生活を続ける中で、「学校の当たり前って本当に必要なんだろうか?」と考える場面が増えていったんです。例えば、子どもたちを整列させて体育館に歩いていく。それって、何のためなのでしょう。そんなことを考える中で、やっぱりこれは見直さないといけないと思いました。失敗を積み重ねながら学んでいける教育に変えていくには、1年生の入学時からやっていくのが1番だと考えて、スタートカリキュラムに取り組みました。

ーー 教員全体がチームとなってスタートカリキュラムに取り組めた要因は、どんなところにあったと思いますか?

「幼保小連携プロジェクト」の一環として取り組めたことは大きかったですね。コーディネーターの方や大学の先生からのアドバイスもいただけたので、心強かったです。ここまで子どもたちに委ねようと決めるまでには、1年生を担当する教員チームで何度も対話を繰り返しました。何かしらのトラブルが起こることも想定した上で、覚悟を決めて取り組んだんです。実際は、めちゃくちゃ怖かったんですよ。でも、チームの中には1年生の担任経験が豊富な教員もいたので、相談しながら進めました。他の教員も「大丈夫だよ。やってみよう」と言ってくれたから、思い切って取り組めたんだと思います。

ーー スタートカリキュラムに取り組んだ1年間を振り返てみて、子どもたちにどんな変化がありましたか?

実際にやってみると、私たちが思っている以上に、子どもたちは自分で考えて動く力を持っているんだと気づきました。子どもたちが「こんなのやりたい!」と言っていたら、それに耳を傾け、「じゃあ、どうしたらいい?」と問いかけると、私たち大人が考えもしないことを自分たちでやっていくんです。こちらも楽しかったですよ。途中で何度も心が折れそうになりましたけどね(笑)子どもたち主体で進めていくと、いろんなことがカオスな状態になるので、「自分の指導力不足なんじゃないか」と思うこともありました。とても怖かった。どこまで自由に任せるのか、バランスを取ることの難しさは感じますし、まだまだ課題はあります。だけど、子どもたちを信頼することが何より大切なんだと思います。子どもを真ん中において教育を考えていくと、それが子どもたちの当たり前になる。これを続けていくことで、「自分たちで変えていける」という意識を持ってくれるんじゃないかなと思います。

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建石尚子

1988年生まれ。中高一貫校で5年間の教員生活を経て、株式会社LITALICOに入社。発達支援に携わった後、2021年1月に独立。現在は教育に関わる人や場を中心に取材や執筆をしている。「メガホン」の運営団体であるNPO法人School Voice Project 理事でもある。

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