出欠連絡、プリント受取、意識のずれ…どうあればいい? 不登校をめぐる、学校と保護者のコミュニケーション
2021年10月の文科省の発表によれば、不登校の子どもの数は8年連続で増え、19万を超えて過去最多となっています。しかし、不登校の子どもとその家庭と、どのようにコミュニケーションしていけばよいのかという知見やノウハウは、意外と学校現場では共有されていません。子どもや保護者のつらさが学校や教員の側からは想像しづらく、逆に保護者からは学校が抱える事情や対応の限界が見えにくいという課題があります。学校側が無自覚に子どもと家庭を追い詰めてしまうケースや、相互理解の不足によって双方が苦しくなってしまうケースも少なくありません。
そこで今回は、『不登校の子どもを育てる家庭と学校のコミュニケーション』をテーマに、保護者の久保田希さんと小学校教員の加藤陽介さんの対談を企画しました。久保田さんは、子どもが不登校になった際に保護者が学校と相談したい項目をまとめた「学校への依頼文フォーマット」(以下、依頼フォーマット)を作成して、活用を呼びかけています。対談では、この依頼フォーマットを切り口に家庭と学校の関係づくりのヒントを探しました。
今回お話ししてくださったお二人
久保田希さん
埼玉県戸田市在住。不登校の子どもと家庭、居場所運営者を支援する団体「多様な学びプロジェクト」会員。小学校1年生だった子どもが「今日から学校に行かない」と宣言して以来、現在まで3年ほど不登校の問題に向き合う。今回の対談に登場する依頼フォーマットの作成チームリーダーを務めた。
加藤陽介さん
宮城県仙台市在住。公立小学校教員。大学1年生の頃から5年間、フリースクールのスタッフとして不登校の支援に関わる。同時にニートやフリーターなど若者の就労支援にも携わっており、それらの経験を学校現場で生かしている。元気に登校する子どもたちも含めて、さまざまな子どもと対峙する教員の立場から対談に参加した。NPO法人School Voice Project 理事でもある。
「学校への依頼文」フォーマットとは?
不登校の子どもと家庭、居場所運営者を支援する団体「多様な学びプロジェクト」が2022年度初めに公開。会員である久保田さんが、教員が集まる勉強会に参加した際に「不登校の子の家庭が学校とのやりとりで困っていることを、先生方はあまりご存じないんだ..」と気づいたことをきっかけに団体に発案した。
実態把握のために実施した保護者アンケートには、わずか10日間で約630人の回答があり、17項目にわたって詳細な回答が得られた。久保田さんは「困っている保護者の切実な思いが表れている」と感じている。具体的に困っていることを記述してもらうと同時に、改善できた事例も教えてもらった。
2月中旬にスタートし、4月4日には依頼文フォーマットが公開されるスピーディな展開で、School Voice Project の教員らも一部協力。家庭の困りごとランキングでは、「出欠連絡」と「教師との意識のずれ」が最多。「プリントなどの受取」「登校刺激」「給食費などの支払い」が続いた。
また、「子どもの状況をどう説明するか」にも困っていた。そこで依頼フォーマットでは、出欠連絡など10の項目について、選択式で子どもや家庭の希望を伝えられるようにした。学校や行政の関係者からは「積極的に使いたい」という声も届いている。
▼ 困りごとランキング(アンケート結果より)
▼ 学校とのやりとりにおける保護者の困りごと(アンケート結果より一部抜粋)
出欠連絡をめぐるモヤモヤ
ーーアンケートとフォーマットをご覧になって、教員の立場から感じたことはありますか。
アンケートについて、数も集まっているし、家庭の声が分かりやすくていいなと思いました。
項目を見ていて、保護者は出欠連絡と安否確認を分けていると気づきました。教員は安否確認したいから出欠確認しているところが大きいんですね。例えば、「毎朝しなければならない出欠連絡が精神的に苦痛で、しなければ学校から電話がかかってきて地獄でした」というアンケートの回答があります。ここは感じている保護者の生の声なので、教員にも本物を読んでもらいたいと思います。でも、家庭からかかってこないと先生としてはかけなければならないんです。教室の子たちに「本でも読んでいてね」と言い残して、焦って職員室へいって電話しなければならない。
また、安否確認しなかった時の責任についても考えました。何かあった時に、「保護者とやりとりしているので、安否確認していませんでした」と言えるかなと。教育現場への批判が集まった時に教員が弱い立場であることは事実だと思います。そこで、詳しく聞きたいのは、学校からの連絡は本当にいらなくて、安否の確認はしなくてもいいのでしょうか。
不登校に関わっていて思うのは、一つの解はないということです。不登校って原因 が十人十色だと思います。ですので、一つの答えでは解決しないと思います。安否確認をした方がいいのか、そっとしておいた方がいいのか。どちらも良い点と悪い点があると思います。先生が安否を思っているのもよく分かります。
ただ、アンケート結果の数値を客観的事実として捉えていただけたらと思っています。出欠確認については、「朝、電話1本すればいいだけでしょ」と思われるのかもしれませんが、家庭では子どもに「今日どうするの、行くの?行かないの?」と聞かなければなりません。親の出勤時間が迫る中、その時間までに、はっきりさせなければならないんです。迫られる子どもは苦しいし、迫る親もしんどいです。子どもは「学校を休ませて」と言葉に出した段階で、いっぱいいっぱいです。学校に出欠連絡をするために、家庭でこのやりとりを毎日やることが本当に子どものためになっているのか、疑問に思っています。
「出欠ってこういうもんですよね」という従来の当たり前に囚われずに、家庭と学校が話し合うきっかけにしたくて依頼フォーマットを作りました。
このフォーマットがあるから、安否確認や朝の連絡を一律に「やめましょう」という乱暴な話ではなく、これだけの人が困っている事実をもとに、教員や学校が考え直す一つの機会にしていくことが大切ですね。教員もすごくモヤモヤすると思うのですが、対話のきっかけに使ってくれればいいと感じました。
出欠連絡については、頻度を減らしたり、メールの連絡も増えています。朝の電話での出欠連絡は、実は学校側も大変で、ここ2年はコロナ禍の影響もあって不登校が多い学校の場合は、毎朝7時半から8時20分まで電話がパンクするんです。実際に私の担当した生徒も「週1回の登校にあわせて連絡をします」などと 取り決めたこともありました。個別対応で方法は変えられるんですが、「何かあった時にどうするのか」ということは校長も教育委員会も心配しています。そこで密な連絡をすることが一般化されてしまうんだと思います。
保護者が感じる「教員との意識のずれ」とは?
依頼フォーマットを使った場合に、反発されたりして子どもと保護者が傷つく事態を一番恐れました。不登校の当事者同士だと「出欠連絡って大変だよね」という話で通じてしまうんですが、先生はどこまで理解されているのか、私たちには分かりませんでした。いま19万人が不登校になっていて、それだけたくさんの子どもと家庭が困っているんですね。その度合いが深刻で・・・不登校って命の問題だと思うんです。「学校に行けない」という現象だけじゃなくて、子どもたちは「社会に居場所がない」と思っています。「自分に価値がない」と思っています。多くの子どもたちが不登校を経験しても成長していますが、公教育が19万人の不登校を生んでいることはすごく問題だと思っているんです。なんとかしたいです。
そうですね・・・。担任の中にも不登校についての理解や知識・経験がある人とそうでもない人がいます。不登校の子どもは小学校だと100人に1人ほどということもあり、出会わないと実際の対応も分からないんですね。私がこれまで出会った中では、具体的には、いじめがあったケースや、そもそも学校を希望していない子もいました。ただ、背景や理由が多岐に渡っているので、「どうして?」と聞いても「分からない」という子も多いですよね。いろいろな不登校があって、背景を理解する経験が教員の側に少ないので、原因を掘り下げようとしてしまう。けれど分からないんですね。そして、保護者の側も明確な理由などが分からない場合は、先生から詳しく聞かれても、それによって追い詰められてしまうことも・・・。そうやってうまくいかなくなってしまう。「教員との意識のずれ」というのは、どんなことでしょうか。
不登校のことをご存知でないんだろうなと感じることがあります。子どもが不登校になった時は、親もどんなことか知らないんです。でも、我が子のことなので必死で調べます。すると、たくさんの事例や本や文科省の通達とか、知識として得られるものはたくさんあります。知っている情報量にギャップがあるために、不登校のことを知らない先生と話した時に「ずれている」と思うことは多いんじゃないかと思います。私の意見ですが、不登校って学校の中で暮らしていける「普通」の枠が真ん中にあって、その枠に入りづらい子が暮らしにくくなっている状況だと思うんです。「普通」の枠がもっと広がったら、学校で学べる子が増えるのではないかと思います。一方、幅を広げても今の学校システムにいられない子もいると思っています。「学校復帰を目的としない」という通達も出ています。ただ、学校復帰を求めないのであれば、その子たちが社会の中で育ち上がっていくには、どうすればいいか考えないといけないと思っています。例えば、よく「教室以外の部屋に来て過ごそう」という働きかけもありますが、その部屋にいることが学びの保障になっているのかなという、疑問もあります。
教員もその子の将来が不安・・・不登校後の生き方の事例を知る必要性
多様な学びのあり方について、私も話したいです。「そもそも学びってなんだろう」というところから、考えていかなければならない時代になったと思います。学校教育だけが「学び」とされていますが、人は自然と学んでいるんですよね。赤ん坊も学んでいるとすれば、それは学校教育じゃないところで学んでいるんです。ちょうど昨日登壇した多様な学びについて考えるシンポジウムでは、「なぜ、無理に学校教育を“食べさせよう”とするのかな」という話も出ました。それは、社会に出る時に、学校教育の修得具合、すなわちテストで評価されてしまうシステムの問題じゃないのかという話もありました。学校教育を受けずに社会的に自立して、活躍する人もいるのは知っています。けれど、保護者や当事者の方から「最終的に進学できるのでしょうか。就職できるのでしょうか」という相談を受けることもあります。学校教育の修得具合という尺度だけで切り取られる世界に戻ろうとした時に、「実際に大変なんだよ」と伝えようとしている教員がいることも事実だと思います。
まさに昨日、子どもの在籍校の先生方とそんな会話をしていました。「実際に、不登校だった子が社会で幸せに暮らせているのを知っていると、教員側も不安になりすぎなくて済むんですよね」とおっしゃってくださって。不登校の後の生き方は、いっぱい事例があるんですよね。学校も通信制があり、大学にも入れます。選択肢は広がっていて、先生も保護者も実態を知っているかどうかで違ってくると思います。先生は休養する必要性は知っていても、先生自身がその子の将来を不安に思っていたら、「どうせ入試も入社もあるんだから、学校においで」ということになるんだろうなと思います。でも、学校が合わない子にとって、「学校しか学ぶ場所がない」「学校で学ばないと将来困る」という指導を受けることは「あなたはこの社会で生きられない」と言われているのと同じなんです。
先生たちも多くの場合、学校教育以外の学びの場を経験していないでしょうし、学校でしか生きていないんですよね。小中高と学校に通って、大学に行って就職したという自身の経験をもとに、「この道を行けば大丈夫」と話される先生もいると思います。
ーー先生だけでなく保護者も「学校にいけないと、将来生きられないんじゃないか」という不安を抱えることはありますよね。
それはそうです。私も子どもが不登校になった当初、それで苦しかったです。
でも、その不安から無理やり学校のレールに戻そうとすると、明らかに子どもが壊れていくんです。それで「普通」の枠に入れようとするのを諦めました。将来の安心のために、今、子どもが壊れていくのを見ていられませんでした。
この先どうするかを考えるために「学校の限界も教えてほしい」
ーー子どもを真ん中にして、よりよいコミュニケーションができるようになるにはどうすればよいのでしょう。
相手が不登校児童の保護者かどうかに限らず、教員には学校の内情や自分たちの対応の限界などについて、正直に伝えていいのかという葛藤があります。「相手の気持ちを聞こう」という気持ちがある一方で、先生たちには伝えていない本音もあるかなと思います。
保護者も、学校に家庭のことを伝えていかなければいけないなと思います。そして、学校からも「ここまでは出来るけど、これ以上は無理です」というところを聞かせてもらいたいです。「お母さん吐き出してください」と言われ、聞いていただいても何も変わらないということがよくあります。学校の限界をきちんと教えていただいた方が、「じゃあ、その先をどうしよう?」と具体的に考えられます。吐き出し合いではなく、依頼フォーマットを対話の種として使っていただきたいと思っています。実は、依頼フォーマットは使用感のアンケートも取っていて、「在籍校から渡してもらえたら」という声がたくさん上がっています。検討してもらえたら嬉しいです。
確かに、それで楽になる家庭は少なくないですよね。ただ、一方で私は、「学校にこのフォーマットを常備して不登校の子の保護者に渡しましょう」というのが対応のテンプレートみたいになってしまったら、「冷たい」「形式的だ」と感じる家庭もあるのではないかと心配です。
形骸化してしまっては意味がないので、学校から渡すということはケースバイケースで、慎重に考えたいなという気持ちもあります。
そういうこともあるかもしれませんね。ただ、子どもたちは待ったなしで、学校に行けずに苦しんでいる間も成長し続けていることを、考えていただきたいんです。不登校になって、苦しい時間が短かかった子ほど、精神的なダメージは小さくて済みます。親にとっても、どんな選択肢があるかすら知らずに、迷い混乱しながら過ごす時間はつらく、そういった期間は子どもに適切なケアをするのが難しくなるものです。子どもたちがつらい気持ちで大きくならなければならない状況を何とかするために、依頼フォーマットを活用してもらえたらと願わずにいられません。
子どもたちのためにというのは学校も同じ思いです。1つの正解がない中で、この子にとってはどうするのがいいのか、この子のために保護者とはどんなコミュニケーションをとっていけばいいのか、一人ひとりの教員が考えるのが大切だと思うんです。この依頼フォーマットと、そのもとになった保護者アンケートに、不登校の子どもとその家庭に向き合う上でのヒントが詰まっているのは間違いないと思います。多くの先生に見てもらえたらいいなと思っています。
ーー加藤さん、久保田さん、ありがとうございました。
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メガホン編集部