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【後編】3割決まったら動く。合意形成の壁を突破する、小津中学校の「AARサイクル」

  • メガホン編集部

「ルールメイキング・プロジェクト」を経て生まれた標準服。全校生徒で理想の学校像を語り合う「おづこれ会議」と、そこから紡ぎ出されたビジョン「学校のコンパス」。さらには、生徒の願いをカリキュラム化した探究学習「共創プロジェクト」まで――。

大阪府泉大津市立小津中学校では、生徒が学校の経営方針を語り、自ら学びを設計する。そんな、学校のこれまでの「当たり前」が覆るような光景が広がっています。

しかし、これほどまでに生徒へハンドルを委ねることは、大人たちにとって勇気の要る決断だったはずです。

後編では、「担任制の廃止」や「授業時間の短縮」を決断するに至った背景や、校長や教頭、教員たちの思いを伺います。

「荒れた学校」はどう再生したのか

この変革の中心にいるのが、小津中学校の首席・研究開発学校研究主任を務める大達雄(おおだち ゆう)さん。

泉大津市の小学校教員を10年、市教育委員会で3年を過ごしたのち、6年前にこの学校へ赴任してきました。

「実は、赴任したころの小津中学校は、いわゆる『荒れた状態』でした」

大達さんは、当時をそう振り返ります。かつては、警察が介入するトラブルも少なくなく、地域の方に迷惑をかけることも多かったと言います。校舎の壁や天井に穴が空けられたり、年度末には修繕のための予算が足りなくなるほどだったといいます。

当時の教員たちは、校内で身の危険を感じることも少なくありませんでした。生徒を信じるどころか、大人が身を守ることに必死だった当時。職員会議での発言も一部の教員に偏り、新たな取り組みを進めようとしても、挑戦することへの不安感が強かったそうです。

そんな状態にあった小津中学校が、再生に向けて動き出す一つのきっかけが、2021(令和3)年度からスタートした「小中一貫教育校」としての歩みでした。

※ 小中一貫教育校:小学校と中学校が連携し、子どもたちの9年間を見通した一貫性のある教育を行う学校の仕組みのこと。小津中学校では、校区内の2つの小学校(上條小学校・条東小学校)と連携し、校舎は別々のままで一貫教育を行う「施設分離型」の小中一貫教育校としてスタートした。

中学校の教員だけで解決策を模索するのではなく、小学校の教員と同じ目線で語り合い、9年間の学びを共にデザインする「小中一貫カリキュラム」の作成が始まったのです。

この対話の中で、小中学校の教員たちが共有した一つの思いがありました。それが、「みんなが安心 みんなで創る あなたが輝く学校」というスローガン。「このスローガンを掲げたことで、『みんなで学校づくりを楽しもう』と大きく舵を切ることができました」と大達さんは語ります。

生徒指導が困難な状況であっても管理で押さえつけるのではなく、「生徒が問い続けるサイクル」を大切にする。小学校卒業までの学びのロードマップを小中でつないでいく「『9年間の学び』重点カリキュラム」が策定されました。

このスローガンづくりや、カリキュラム作成・運用に関わる対話のプロセスそのものが、教員たちの意識を少しずつ変えていくこととなります。小中学校の教員が一丸となって授業づくりを交流し、地域とも連携を深めていく。一貫した方向性が決まったことが、対話を重視した探究的な授業への転換を進めるうえでの土台となりました。

計画ばかりの「PPP」から脱却し「AAR」へ

土台が整い始めたことで、小津中学校の改革は進んでいきます。それを支えたのは、大達さんが大切にしている「まずはやってみる」という考え方でした。

「日本の学校は、PDCAサイクルと言いながら、ずっと計画ばかり練っている『PPP(プラン・プラン・プラン)』の状態に陥りがちです。分厚い企画書を作って、反対されそうな先生に根回しをして……そうやって時間をかけている間に、肝心の生徒たちの熱は冷めてしまうんです」

多くの学校が「今のままではいけない」と思いながらも、合意形成の壁に阻まれて動けない。そんな課題を解消するために、小津中学校では意思決定のあり方を変え、OECDが提唱する「AARサイクル」を実践の軸に据えました。

「完璧な計画はいらないんです。見通しが立ったらすぐにやってみて、またすぐに結果を振り返る。AARとは、Anticipation(見通し)・Action(行動)・Reflection(振り返り)の略です。3割決まったら、まずは動く。やってみてダメなら変えればいいし、やめてもいい。判断のスパンを意識的に短くしています」(大達)

どの学校にも当たり前のようにある朝の打ち合わせや職員会議も、小津中学校にはありません。

「校長が『この先生に任せる』と決めたら、その権限は完全に渡されます。細かい決め事はSlackで共有され、『懸念があれば教えてください。なければこれで進めます』と、フランクに意思決定がなされていきます。会議の時間は、企画書を読み合わせるためではなく、先生たちが関係構築をしたり、新たなプロジェクトを生み出すためのワークショップをするための時間に変わりました」(大達)

生徒の発案で年度途中に自治組織を改編

教員たちが「まずはやってみる」というマインドで動き始めたことで、生徒たちもまた、組織のあり方を変えようと動き出しました。

「今の委員会活動って、結局『先生のお手伝い』になっていない?」

そんな生徒たちの気づきから、小津中学校では長年続いてきた体育委員会や図書委員会といった常設の委員会をすべて廃止するという、大胆な決断が下されました。これまでは、教員に呼ばれて掃除を手伝ったり、行事の準備をしたりといった「与えられた仕事」をこなすことが委員会の実態になっていたからです。

「自分たちが本当にやりたい活動を、自分たちでやれる組織にしたい」

その願いを形にするために、生徒たちは自治組織をゼロから作り直しました。新たに導入されたのは、生徒会長に人事権を持たせる仕組みです。

選挙によって選ばれた生徒会長は、自らの公約を実現するために必要なメンバーを指名する組閣を行います。そこには、各学級と生徒会をつなぐ「統括官」、制服の見直しやコンパス検討を進める「ルールメイカーチーフ」、校内外への発信を担う「広報チーフ」、そして、有志プロジェクトをサポートする「企画官」など、実社会の組織さながらの実働的な役職が並びます。

中でも特徴的なのが、「財務官」の存在です。

通常、公立中学校において生徒会費などの予算管理は、教員の仕事と決まっています。しかし小津中学校では、生徒会費の使い道は財務官が決定する権限を持っています。クラブ活動への分配や新企画の予算など、「限られたお金をどう使うか」を自分たちで考え、運用することになったのです。

生徒たちが自分たちでやりたい活動を実現するためには、アイデアだけでなく予算も必要不可欠。財務官は、そんな生徒の主体的なプロジェクトを支える役割を担っていくことになるといいます。

授業1コマを45分に。余白を生み出す「ACTタイム」

一方で、生徒たちの主体的な活動が生まれる中で直面したのが、時間の不足でした。ルールメイキングやプロジェクトの打ち合わせを、放課後のわずかな時間を使って無理に行わざるを得ないという「カリキュラム・オーバーロード(内容過多による負担)」の課題を抱えていたのです。

そこで小津中学校は、時間割にも目を向けました。すべての授業を50分から45分へと短縮し、時間割全体をスリム化したのです。この5分の短縮が、放課後に30分の「ACT(アクト)タイム」と呼ばれるゆとりの時間を生み出しました。

何か新しいことを始めるなら、気合いや根性で時間を捻出するのではなく、まずは何かを削ってシステムとして余白をデザインする。

この決断によって、生徒たちは放課後の時間をたっぷりと使って自分たちの学校づくりに没頭できるようになりました。それと同時に、教員にとっても業務や協働のための時間が確保され、働き方の改善にもつながっています。

管理を手放し、責任を負う。校長の存在

教員や生徒の動きを背後でどっしりと支えているのが、校長の高橋敏也(たかはし としや)さんです。

従来の学校運営では、何をするにも校長の決裁や承認が必要とされるのが一般的です。しかし、小津中学校では違います。

「ミドルリーダーがやりたいと言い出したら、3割くらい決まっていればもう動き出します。ゴールが見えていなくても、全員の同意がなくても構わない。リーダーが言うことは、私が言っているのと同じ。リーダーは学校の教育方針を100%理解し、その考えは『学校のコンパス』の実現に向けたものであるという大前提があるからです。だから、いちいち承認する必要もありません。私が知らないうちに何かが始まっていることもよくありますが、それはもう『承認済み』なんです。リーダーがやろうと言ったら、みんなでやる。それが本校のスタンスです」(高橋)

なぜそこまで、現場にハンドルを委ねられるのでしょうか。

「校長である私の唯一の仕事は、結果についてきちんと責任を取ること。それだけです。権限を預けようが預けなかろうが、知らないところで何かが起ころうが、責任は私が負う。そう明言して『あなたに任せています』と伝えた方が、先生方も意気に感じて、自分の責任を果たそうとやる気が出ると思うんです」(高橋)

かつて自分自身が上からの指示で動かされることに違和感を抱いていたという高橋さん。だからこそ、表舞台はすべて教職員や生徒に譲っています。実際、2学期に全校生徒の前で話したのは、始業式と終業式のわずか2回だけだったといいます。

高橋さんが語るその言葉からは、教職員への信頼も感じました。

「特別なことをしているわけではありません。当たり前の、普通のことをしているだけ。子どもの権利を一番大事にする学校でありたい。ただそれだけなんです」(高橋)

4クラスを7人で。「チーム担任制」の導入

そんな高橋さんですが、「これだけはトップダウンでやろう」と決断したのが、担任制の改革でした。

2025(令和7)年度から、「チーム担任制(学年担任制)」を導入。それまでの「1クラス1担任」という既成概念を捨て、学年という大きな単位を教員チーム全員で支える仕組みへと舵を切りました。

クラス担任制では、どうしても自分の学級が最優先になり、隣のクラスで何が起きているかが見えにくくなる弊害がありました。また、生徒が特定の担任に依存しすぎることで、自立を妨げているのではないかという懸念もあったといいます。

導入された新しい仕組みでは、4クラスある学年を、7人の教員全員が担当します。その日に朝礼を担当する先生や終礼を担当する先生は、毎日のように入れ替わります。

悩みがあるときは学年の中にいる複数の先生の中から、自分が一番話しやすい先生を選んで相談できるようになりました。面談も、生徒自身が「この先生と話したい」と指名する仕組みになっています。

これは、生徒にとっては大きな変化。先生を選べるというのは良さでもありますが、中には「誰に相談していいかわからない」と戸惑う声もありました。

教員にとっては、複数人が多角的な視点で学年全体を見守るため、生徒の小さなSOSをキャッチしやすくなり、以前よりも丁寧に生徒たちに目を配ることができるようになりました。何より、1人の担任がクラスの課題をすべて背負い込むプレッシャーから解放されたことは大きなメリットです。

「新任の先生や講師の方が、1人でクラスを抱え込む不安がなくなりました。7人で仕事をシェアしているので、得意な分野で補い合えるし、急な休みもチームでカバーできる。教員の心理的な負担は劇的に軽くなりました」(高橋)

職員室の「フリーアドレス化」で生まれた変化

2023(令和5)年夏には、職員室の固定席を廃止し、毎日座る席が変わる「フリーアドレス化」を導入。

毎日隣に座る教員が変わるため、これまで関わりの薄かった他学年や他教科の教員とも自然と会話が生まれます。そこから多様な視点やアイデアが交わり、教科横断型の「コラボ型授業」など、教員同士が協働してワクワクする授業を創り上げる動きが活発になりました。

さらに、日常の立ち話レベルで、大達さんが重視する「AARサイクル」が回るようになりました。かしこまって会議を開くのではなく、たまたま近くに座っている教員に「これ、どう思います?」と相談し、「それでいきましょう!」と決断する。素早い意思決定が可能になり、複数のプロジェクトが同時並行で進む環境が整ったと言います。

校内には、生徒たちの手で作られた共有スペース「ヒュッゲ」も。授業や休み時間、放課後に使われている。写真左のテーブルも生徒たちの手で作られたものである。

管理を手放すことで生まれた「余白」

この変化を最も実感しているのが、この春に他校から赴任してきたばかりの教頭・堤真朗(つつみ まさあき)さん。21年間小学校に勤め、小津中学校の取り組みも十分に理解せぬまま着任した堤さんを待っていたのは、4月1日の職員室での驚くような光景でした。

「赴任の挨拶をしようと準備していたら、突然生徒たちが現れて、『学校のコンパス』についてのプレゼンを始めたんです。緊張する様子はありましたが、用意された原稿をただ読むのではなく、自分たちが創り上げたものをそれぞれが自分の言葉で堂々と語っていました。その姿を見て、『これは形式的なものではない』と思いました」(堤)

それまでは「問題が起こらないように、大人が管理しなければならない」と考えていたという堤さん。しかし、生徒たちの主体的な姿を目の当たりにし、学校づくりの土台は、生徒や先生を信頼し、委ねることなのだと考えるようになりました。

その変化は、働き方にも影響していきます。

「以前は時間外勤務がとても多かったのですが、それが今は月あたり4分の1ほど。定時ぴったりに帰れる日もあります。先生方を信頼して権限を任せているからこそ、無駄な会議や抱え込みがなくなり、私自身も心に余白をもつことができるようになり、精神的に追われる場面も少なくなりました」

フリーアドレス化され、真ん中が通路になっているオープンな職員室には、今日も生徒がふらっと通り抜けていきます。「ノックして、『失礼します』と言って待つ」といった風景は、ここにはありません。

特定の教員に用事があるわけでもなくやってきた生徒たちに、堤さんは自ら気さくに声をかけ、話し相手になっています。しばらく他愛のないおしゃべりをして、気が済むと「じゃあね」と満足げに教室へ戻っていく生徒たち。

「生徒を信じる」「生徒に任せる」ということは、決して大人が責任を放棄することではありません。

それは、大人たちが管理という名の鎧を脱ぎ捨て、学校の仕組みを見直して、心と時間に余白を生み出すこと。そして、その余白を使って、生徒と一緒にワクワクしながら未来を創る伴走者になることでした。

「生徒が創る学校」

かつて傷だらけだった小津中学校の校舎には今、「学校のコンパス」という羅針盤を手に、力強く自分たちの学校を創り上げる生徒たちと先生たちの姿がありました。

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