自己主張は「わがまま」じゃない、小さな声が学校と社会を変える <学校における“対話と民主主義”を本気で考えよう!前編>
学校の校則・ルールを、生徒・先生・保護者が対話をしながら見直していきたい!
そんな想いからスタートした認定NPO法人カタリバの「みんなのルールメイキング」と、NPO法人School Voice Project( SVP )がオンラインイベント「学校における”対話と民主主義”を本気で考えよう!」を共同開催しました。(当日のプログラム等の詳細は こちら )
このイベントには、全国から約40名の教職員や教育関係者が参加。現場で奮闘する教職員たちの生の声から、学校における対話の重要性や、子どもたち・教職員ともに作る民主的な学校づくりについて活発な意見交換がされました。
前編では、SVPの武田緑さんが海外の学校の事例を用いてテーマを掘り下げていきます。
参加者とプロジェクト概要
登壇者(前編)
武田 緑(たけだ みどり)
NPO法人School Voice Project理事兼事務局長。全国の学校や教育委員会で【DE&I(多様性・公正・包摂)】をテーマにした研修・講演・執筆、ワークショップやイベントの企画運営、学校現場や教職員への伴走サポートを提供している。
「多様なバックグラウンドや個性を持った全ての子どもや先生たちが、しんどい思いをせずに、心地よくたのしく過ごせる学校をつくっていきたい」という思いで活動中。
School Voice Projectとは?
設立3年目。「学校現場の声を見える化し、対話の文化をつくる」をミッションに、100名を越える現職・元教職員メンバーの参画によってスタート。一人ひとりの教職員が日々働きながら感じ考えていること=「学校現場の声」を見える化し、課題解決へとつなげるための組みとして、WEBアンケートサイト「フキダシ」・WEBメディア「メガホン」・教職員のオンラインコミュニティ「エンタク」の運営、さらに政策提言・ロビイング活動に取り組んでいます。 https://school-voice-pj.org
浜田 未貴(はまだ みき)
認定NPO法人カタリバ『みんなのルールメイキング』職員。相談窓口や自治体連携などを担当している。マイプロは「みんな辛くても我慢しているのに、あの人はずるい!ではなく、みんなが幸せになれるよう、環境を自分達で変えていこう!と思う仲間を増やすこと」。
『みんなのルールメイキングプロジェクト』とは?
2019年より活動している、生徒が中心となり先生や関係者と対話しながら校則・ルールを見直していく取り組みです。「校則」を題材に「目指したい学校づくり」のきっかけをつくっていくことを目的に、「対話を通して納得解をつくるプロセス」を学校へ届けるサポートを行っています。
現在、全国で約400校ほどパートナー登録があり、School Voice Projectがカタリバと共同でサポートを担当している関東エリアからも、100校ほどの学校が参加しています。 https://rulemaking.jp/about/
逸見 峻介(へんみ しゅんすけ)
本イベントの司会担当。埼玉県公立高校教員。2022年度には生徒指導部主任として、民主的で対話的な組織を目指して改革を行い、「生徒支援部」へと改称する。ワークショップデザイナー・NPO法人School Voice Project理事・みんなのルールメイキングプロジェクト教員アンバサダー。「人間っていいな!面白いな!」と思える人を増やすため、日々必死に生きている。対話の場 Open Education などを主催。
北欧の学校から学ぶ、子どものWell-beingとDemocracy
司会(逸見) 本日のイベントは「学校における”対話と民主主義”を本気で考えよう!」をテーマに、安心安全の場で話ができればと思っております。まずはSchool Voice Projectの武田さん、海外の学校の例もたくさん見てこられたとのことで、事例を交えてお話しいただけますか。
武田 今回のテーマは、School Voice Projectとしても私個人としても大事にしたいと思っていることで、とてもいいテーマをカタリバさんからいただきました。
私が惹かれる学校に共通しているのは、個人の能力発達や人との競争などの「あるべき」よりも、「イマ・ココと将来がしあわせであること」などを大切にするようなWell-beingと、「子どもの参画があたりまえ」であるようなDemocracy(民主主義)が真ん中にあるという点です。
10代の頃から、ユニークな取り組みをしている国内外の様々な教育現場を訪問してきたのですが、「学校における”対話と民主主義”」という点では、特に北欧の学校から多くのことを学びました。
例えば、デンマークの「森のようちえん」。園舎がなく、雨の日も雪の日も一日中森で過ごす幼児教育の場です。禁止や制約がほとんどなく、自分が何をしたいか、どうしたいかという内から湧き出る気持ちやニーズを、まっすぐ自己表現し続けることができる環境の中で、子どもたちはとても自信に満ちていて、「私は・僕はやれるんだ」という感覚を強く持っていました。
同じくデンマークの小学校では、多様性を尊重する姿勢が、教室のレイアウトにも表れています。全員が同じ方向を向いて座るのではなく、壁向きの席もあれば、グループ席もある。グループで過ごすのが好きな子、一人で集中したい子など、それぞれの学び方に合わせて席が配置されている。
スウェーデンの小学校では、子どもたちが学校生活について意見を言える仕組みが整備されていました。要望がたくさん挙がってくるんです。「遠足が木曜に設定されたけど、木曜は体育も図工もあって楽しい日だから木曜日以外に変えてほしい」とか、給食委員会では「ジャガイモが固いから柔らかく茹でてほしい」「魚料理が多すぎるから肉料理を増やしてほしい」とか。素朴な声ですよね。
浜田 ルールメイキングの活動でも、「次回研修日程がクリスマスで嫌だ……」という子どもの声から、実施日が変わった事例がありました。素朴な声って大事ですよね。
日本だと、そういった素朴な声を出すこと自体が「わがまま」と捉えられることもあるように思います。
武田 自己主張=わがまま、みたいな認識になってるんですが、そうではないと思うんです。主張してみてからじゃないと、周りに迷惑かけるかどうかも分からないはずで。自己主張のみで、他者の主張を聞かないのが「わがまま」なのだと思います。
先ほどのスウェーデンの例では、子どもたちの素朴な要望に対して、先生たちも真摯に応えるんですよ。遠足の日程は変わったし、ジャガイモは柔らかくなった。
だけど全ての要望を聞くわけではなくて、ダメな場合は「なぜそうしているのか」を丁寧に説明します。「魚料理を多くしているのは環境への配慮や、栄養バランスを考えてのことだよ」と説明されれば、子どもたちも理解して納得します。
小さな声は、「聴いてもらえる」環境だから出てくる
武田 デンマークのある中学校では、生徒たちが「メンタルヘルスの問題を抱える生徒が増えているが、カウンセリングを受けられるのは経済的に恵まれた家庭の子どもたちだけ」という問題に気づき、生徒会が動いて、専門のケアスタッフを学校に常駐させるべきだと提案し、役所と交渉しているそうです。
Democracyは、一段目として「自分が何をしたいか」「何が嫌で何を望んでいるか」を理解することから始まります。
二段目に、隣の子も同じように大切なニーズを持っていること、でもそれが自分とは違うかもしれないことに気づきます。
すると三段目の「じゃあ、どうする?」という対話が生まれるんです。
四段目以降は、対話がさらに発展することで、クラスの問題、学校全体の問題、そして最終的には社会の問題へと広がっていきます。
デンマークの教育を見ていて感じたのは、「私はこうしたい」という段階から、他者と対話してコミュニティを自治していくこと、そして「選挙に行って自分の意見を社会に反映させる」という段階までがちゃんと地続きで、直結しているということ。だからこそ、投票率も高いのではないでしょうか。
浜田 ルールメイキングの活動の中で、子どもたちに「学校に伝えてみたいことある?」と聞いても、「え、分かんない。今のまんまで十分だと思う」と返ってくることがあります。例えば先生が「制服を自由にしたいと考えてみてもいいんだよ」と投げかけても、「そんな~」と言われることがあるそうです。民主主義の一段目でつまずいていますよね。
武田 民主主義とは、一人ひとりの声を尊重することだと思っています。そして気づかれにくい小さな声は、「聴いてもらえるな」という信頼があって初めて出てきます。
なので、まず「聴いてもらえる環境をどう作るか」が、非常に大事なのではないでしょうか。
みんな違うから、思いは重ならない。それでも声を聞き合いながら、出し合いながら、対話して、共通解を探し続けるプロセス。これこそが民主主義なんだと思います。
このプロセスを続けていくと、学校の包摂性が高まり、苦しい思いをする子が減っていくのではないでしょうか。そして、「自分には変える力があるんだ、自分のアクションには意味があるんだ」という自己効力感が高まっていく。その結果、授業に参加したくなる、クラスに参加したくなる、そして社会に参加したくなるのではないかなぁと思います。
浜田 日本の学校の中でもやもやしたことがあっても、子どもたちはまさかそこが変えられるとは全く思っていないことがほとんどではないでしょうか。「自分の身近な環境すら変えられないのに、社会が変えられるとは到底思えない」感覚が、根底にあるように思います。
武田 この問題は子どもたちだけでなく、大人にも当てはまりますよね。民主的な教育を実践していく当事者であるはずの先生たちは、果たして一人ひとり尊重されていて、自分のアクションから学校や社会を変えていける実感を持てているのでしょうか。教職員だって、尊重されたいし、包摂されたいし、声を聞かれたいし、対話の場が欲しい。
だからこそ、私たちSchool Voice Projectは教職員の声を大切にし、対話の場を作り、支え合えるコミュニティを作ることから始めています。教室に、職員室に、学校教育に、そして教育行政に、民主主義と対話を増やしていきたい。それが私たちのミッションです。
司会(逸見) ありがとうございます。北欧の例から、コミュニティを作った背景までお話いただきました。次回は、浜田さんよりルールメイキングプロジェクトの取り組みと、現場で実践する先生たちの体験談をお伺いします。
先生たちからのチャット
(北欧の学校の)おかずや行事の調整、家でのやりとりみたいですね〜
ルール作りというよりも、自分の必要を要求できること、というのが大事なんですよね。
インドのことわざで、「自分は誰かに迷惑をかけて生きてるんだから、自分も誰かの迷惑を許しなさい」というのがあるそうです。このことわざ好きです!
では、学校における“対話”や“民主主義”は、実際の現場でどのように実践されているのでしょうか。後編では、浜田さんが語るカタリバの『ルールメイキング』の取り組みと、ルールメイキング教員アンバサダーの3つの事例から、「反対派」との対話のあり方を探ります。(後日公開)
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岡田 菜子