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ふつうに相談ができる職員室になれば、人は変わろうと思えるようになる~「校内研究」「校内研修」の視点から~

  • 藤倉稔

「ふつうの相談」ができる職員室へ

フジテレビ木曜ドラマ「いちばんすきな花」(2023年)は、僕が担任していたHさんとの共通言語でした。このドラマは多部未華子さん、松下洸平さん、今田美桜さん、神尾楓珠さんの4人が主演を務め、日常的で誰しもが考えたことのある永遠のテーマを扱っていたことで注目を集めていました。毎週金曜日にHさんと「今週はどのシーンが良かった?」「あなたは夜々ちゃんみたく考えたことある?」とよく話をしていました。僕は特に第5話が好きで、椿さんの次の台詞がとても印象に残っています。

1人で傷つき苦しみを抱えていた紅葉さんに、椿さんがこんな話をしている。

「うん。よかった。話す人いて。お腹痛いとき、お腹痛いって言っても治んないけど、痛いのは変わんないけど、紅葉くんは今お腹痛いんだってわかってたい人はいて、わかってる人がいると、ちょっとだけマシみたいなことは、あるから。」(フジテレビ「いちばんすきな花」第5話より。文字起こしは筆者)

「ふつうの相談」1が学校でできるかどうかは、仕事を安定して行っていく上で非常に重要です。「ふつうの相談」は東畑開人氏の言葉で、いわゆるカウンセリングのように個室で二人きりでなされるものだけを言うのではなく、廊下での立ち話や、用具庫での片隅でのひそひそ話、詰め所や職員室で交わされる職員同士の愚痴や世間話も含むものです。ふつうに相談することが、そしてふつうに相談に乗ることが、心にとっていかなる治療的意味をもつ、と東畑氏は述べています。

本当は同僚に相談してみたかったけれど、心配や躊躇があってなかなか相談できないことは、僕は一度や二度ではありませんでした。当時の自分を振り返ると、こんな違和感について本当は同僚に相談してみたかったのです。

  • 〈起立→気をつけ→「これから2時間目の授業をはじめます」〉という日直の号令で授業を開始するとき、「気をつけ」の後に教師からの「どうぞ」があるまで号令を続けてはならないという先生ルールがありました。これは本当に必要なのかな。
  • 特別支援学級で生徒1人、教師1人で授業しているのに、1対30人で一斉授業するように生徒と黒板の間に教師が立って授業している人がいました。これだと教師も子どもも授業しにくくないのかな。

「ふつうの相談」ができる職員室であれば、全国で苦しんでいる先生たちの大半の悩みはなくなるのではないでしょうか? そういう職員室を目指し、僕が研究主任という立場で実践してきたことをいくつか紹介します。

1. 職員室ラジオ

職員室ラジオは、公立小学校教諭にょんさんの実践です(カタリストfor eduのホームページに、にょんさんへのインタビュー2がありますので、ぜひご参照ください)。僕は“Spotify「ミチクサRADIO〜とある先生たちの日常〜」#9 3”で、その実践を知りました。にょんさんの「職員室全体での対話の場を作る前に、もっとつぶさに、一人ひとりとの関係性をつくることができないだろうか」という問題意識に共感し、僕も「職員室ラジオ」を始めることにしました。

職員室ラジオは、次の3つのステップでできます。

① 放課後の時間等を活用し、同僚と1対1で対話する。
② その様子をスマホで録音する。
③ 収録データを職員室で共有する。

空き時間に事務作業などの仕事をしながら聞いてもらったり、通勤途中で聞いてもらったりすることを考えて、ラジオ1本分の時間は最大15分を目安にしました。トーク内容は、対話型のカードゲーム「センセイトーク」4を使って決めました。ある同僚にお願いし、その人が聞いてみたいトークテーマのカードを何枚か選んでもらっていました。

「自分にとって一番お気に入りの場所は?」「自分にとってのストレス解消法は?」などライトな質問から「先生になろうと思った理由」「先生以外になろうと思っていた職業の話」「子どもの頃は学校が好きだったか?」など、その人のパーソナルな部分の話や「学校祭はどうしたらもっと楽しくなるのか」など実務的なことも話題になりました。

また、ある同僚はこんなエピソードを語ってくれました。
「実は前任校での苦労や失敗があったからこそ、今は笑顔いっぱいで周囲に元気を与えながら仕事している」
笑顔の裏にはそのような背景があったのかと初めて知り、とても印象的でした。

現代の職員室は「ちょっとお時間もらえませんか?」と同僚に話しかけることすら、躊躇してしまいませんか? 職員室ラジオが「ちょっといいですか?」と気兼ねなく発せられる雰囲気づくりに、少しでも貢献できればと思っています。そして、足湯に浸かると次第に身体が温まっていくような速度で、「考えること」「疑問をもつこと」「誰かの意見を聞こうとすること」を職員室からじわじわと広めていけたら嬉しいです。

2. MM法(みんなでつくるミーティング法)

MM法とはみんなでつくるミーティング法で、ファシリテーターの青木将幸氏が考えた会議手法5です。MM法の特徴は、一人ひとりに持ち時間があって「全員が、ひとつずつ、議題を持ち寄る」という構造にあります。「今、このメンバーで、本当に話し合いたいこと」を持ち寄って話し合いますが、時間を厳密に区切って進行するため、時間内に結論が出ないこともあります。ただ、結論が出なくても、誰かに受け止めてもらえた事実が話し合いの場にはあり、メンバーの表情を見るとみんなすがすがしい顔になる、と青木氏は説明しています。

校内研修では、「困り事相談会」という名称でMM法を実施しました。この時間のねらいは、次の3つでした。

① 「目の前にいる子どもの誰を見て、どんなことを考えているか」について、同僚の声をゆっくり聞く時間をつくること。
② 悩みや困っていることを相談することで、心のエネルギーを回復してもらうこと。そして、MM法を通じて「ふつうの相談」ができる職員室の雰囲気をつくること。
③ 教室の様々な状況を「問い」や「悩み」として持ち寄ることで、教師の子どもを見取る力を高め、教師のアンラーン(学びほぐし)を促進すること。

僕のグループでは、次の4つのテーマについて議論しました。
● 話しやすい事務とは?(こんな事務となら仕事をしやすい、コミュニケーションをとりやすいか)
● ありきたりな授業から脱却するにはどうすればいいですか?
● 生徒達はなぜ失敗をうまく経験値につなげられないのだろうか?
● 多様性を気にするあまり本音を話さず、相手と距離をとって人それぞれだから…と片付けてしまうのはなぜだろう? 個を尊重するとはどういうことだろうか?

MM法を終えて、ある同僚からこんなフィードバックをもらいました。

「職員室で周囲を見ると、みんな忙しそうにしている。話しかけるタイミングを見計らっていたら、今日が終わってしまったこともしばしばありました。また、こんなこと言っても受け止めてくれるだろうかという不安があったので、こうやって悩みを相談できる場があるのは嬉しいです」

実は、僕はこのフィードバックをくれた同僚にとって「ふつうの相談」ができる職員室になることを願って、今回校内研修の時間を使ってMM法を実施しました。だから、このフィードバックをもらえて、素直に嬉しかったです。フィードバックをくれた彼女とよく話していたことは「人が変わろうと思うのは、自分の感情を誰かに拾ってもらえたときだ」ということでした。

「プリントを使って授業すると、毎日授業準備が大変ですよね」
「必死に授業しながら同時に評料し、それを記録していくのは至難の業ですよね」
などと僕が声をかけ、彼女が時折弱音を吐ける場を用意してあげることを日々心がけていました。

うまく受け止めてあげられたときは、元気を取り戻し、少しずつ授業づくりを楽しんでいってくれました。変わろうとする気持ちが湧いてこないのは、心のエネルギーが不足しているからだ、と僕は考えています。

3. 学びカフェ

「学びカフェ」6は、佐藤由佳さんの実践です。校内研究のように公的に位置付けられたフォーマルな場ではなく、まじめに雑談する時間を設け、定期的にみんなで話し合うインフォーマルな学びの場が「学びカフェ」です。その理念をベースにして、僕は特にテーマを設定せずに、2. で紹介したMM法のように「最近考えていること」「悩んでいること」「話を聞いてもらいたいこと」をただ話すだけの会にしました。ただし、それだけでは人は集まらないので、道の駅に売られている美味しそうなお菓子を用意し、それに釣られてやってくる人たちと対話しました。

4. 図書コーナー

勤務校の職員室には収納棚があり、一人ひとつ割り当てられていました。ある日、その収納棚の扉を外して、図書コーナーを設置しました。教室環境を整える際には「教師の学びの過程をオープンソース化」7をしていて、学級経営や教科指導など関連する多くの書籍を教室に置いていました。この図書コーナーは、教室での取り組みを職員室でも同じように行ったものです。 

4月は協同学習に関する本、5月はインクルーシブ教育についての本、8月は合唱指導や行事指導に関する本、9月は探究や教室ファシリテーションについての本、11月はいじめや不登校に関連する本など、仕事のサイクルに応じて本を並べました。

図書コーナーは、足を止めたり視線を向けたりしている人々の興味や関心を知るしかけとして活用していました。また、積読のままの本を同僚と持ち寄って、みんなで平積みする活動はとても楽しく、お互いの理解を深める機会にもつながりました。さらに、クリスマスに関連する絵本や可愛らしい猫が表紙の絵本を置くことで、無機質な職員室が華やかになったことは良い思い出です。

5. 持っている情報量を揃えること

「校内研究」「校内研修」と聞くだけで「ああ…」とため息をついてしまう人はまだまだたくさんいるのに、「私たちはどんな職員室をつくりたいのか」「私たちはどのように学び、成長したいのか」「そのために私たちはどのような研修にしたいのか」について職員室で議論されることは、僕の経験上ほとんどありませんでした。

そこで、年度末に実施した校内研修の時間では、オンライン掲示板アプリ「Padlet」8使って「校内研究」「校内研修」に関する様々な情報を共有し、みんなで見ながら次年度の校内研修について意見交換をしました。

その結果、次年度は“プロジェクト型の校内研修”に挑戦することが決まりました。僕には、自分の声を大切に発信し、他者の声も尊重しながら変化を生み出す職員室に少し近づけた瞬間に感じました。残念ながら僕は4月に異動となりましたが、校内研修を通して「変えていける実感」を教師が取り戻すことにつながり、子どもたちが民主的なコミュニティのつくり手としての感性や力を育んでいける学校に、さらに近づいていってくれることを期待しています。

参考
  1. 東畑開人『ふつうの相談』(2023年,金剛出版) ↩︎
  2. 職員室の土壌づくりー『職員室ラジオ』で、今まで見えていなかった先生たちの思いを知るー」(カタリスト,2022年4月15日公開) ↩︎
  3. にょんさんの「職員室ラジオ」実践についてきいてみた」(Spotify for Podcasters / ミチクサRADIO~とある先生たちの日常~,2022年2月) ↩︎
  4. センセイトーク ~学校関係者の「チームづくり」を促進するカードゲーム~(https://weschool.jp/↩︎
  5. 青木将幸『ミーティング・ファシリテーション入門―市民の会議術』(2012年,ハンズオン!埼玉出版部) ↩︎
  6. 伊藤大介、佐藤由佳、山本由紀、三石初雄『校内研究を育てる―その学校ならではの学びを求めて―』(創風社,2022年) ↩︎
  7. 石川晋『「対話」がクラスにあふれる! 国語授業・言語活動アイデア42』(2012年,明治図書) ↩︎
  8. 藤倉稔「校内研修についての資料箱↩︎

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藤倉稔

北海道上富良野町生まれ。2010年北海道中学校教員として採用。浜頓別町、猿払村、下川町の中学校を歴任。16年間の中学校教員生活を終え、2024年4月から旭川市公立小学校で小学校教員生活がスタートする。初めてのリアリティショックが校内研修・研究だったことをきっかけで、子どもたち・教員・地域を幸せにする校内研修・校内研究を目指し、日々奮闘することがライフワークとなる。NPO法人「授業づくりネットワーク」理事、「SchoolVoiceProject」理事、北海道BRUSH -UPセミナーに所属。

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